要 約
本研究は、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究のレ ビューである。心理学を中心とした実験室で行われる研究とは異なり、フィールドにおける 目標の困難度と業績の関係については一貫した結果が得られていないと近年の会計学研究で は批判されているが、目標の困難度と業績の関係に着目した先行研究の研究目的、仮説及び 変数の測定方法については十分な検討が行われていなかった。研究目的によって関心の対象 は異なり、設定された仮説や変数の測定方法についても先行研究の間で何らかの違いが見ら れる可能性がある。そこで本研究は、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係に着目 した会計学研究の研究目的、仮説設定のロジック、目標の困難度と業績の測定方法を整理し、
先行研究の分析結果について再検討を行うことによって、会計学研究が今後検討すべき 3 つ の研究課題を明らかにした。
1.はじめに
目標の困難度と業績の関係に着目した研究は、心理学や経営学、会計学など様々な領域で 行われてきた。心理学研究では、目標は 4 つのメカニズム(選択と方向づけ、努力、持続性、
戦略)を通して業績に影響を与え、具体的で困難な目標の設定によって業績が高まることが 示されている(Locke and Latham, 2002)。しかし、心理学を中心とした実験室で行われる 研究とは異なり、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係については一貫した結果が 得られておらず、企業で用いられる様々なコントロール・システム(1)の重要な要素である目 標設定が業績に与える影響について十分な知見が提供されていないと近年の会計学研究では 批判されている(Arnold and Artz, 2015; Kelly et al., 2015; Ioannou et al., 2016)。例えば、
ビジネスユニットで設定される目標の困難度と企業業績の関係を分析した Arnold and Artz
(2015)と非財務目標の困難度と目標達成度の関係を分析した Ioannou et al.(2016)は、目
目標の困難度と業績の関係に着目した 会計学研究の現状と課題
荻原 啓佑
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(1) 例えば、予算や BSC、MBO などが挙げられる。
標の困難度と業績の間に正の関係があることを示す研究、統計的に有意な関係が見られない ことを示す研究、目標の困難度が業績に負の影響を与えることを示す研究を取り上げ、先行 研究の分析結果は一貫していないと指摘している。また、事後的な目標の調整と目標の困難 度の交互作用が個人業績に与える影響を分析した Kelly et al.(2015)も同様に、目標の困 難度と業績の間に正の関係、統計的に有意な関係が見られないことを示す研究を取り上げ、
特にサーベイやアーカイバルデータを用いた研究の分析結果は一貫していないと指摘してい る。これら 3 つの研究は、新たな要因を組み込んだ分析を行うことで、目標の困難度と業績 の関係に関する新たな知見を提供することに成功していたが、一貫した結果が得られていな いと指摘していた先行研究の研究目的、仮説及び変数の測定方法については、どの研究も十 分な検討を行っていなかった。研究目的によって関心の対象(例えば、個人に焦点を当てる のか、組織に焦点を当てるのか)は異なり、設定された仮説や変数の測定方法についても、
先行研究の間で何らかの違いが見られる可能性がある。したがって、会計学研究は、なぜ目 標の困難度と業績の関係に着目してきたのか、目標の困難度と業績の関係についてどのよう な関係を想定してきたのか、どのように目標の困難度と業績を測定してきたのかを整理する ことによって、一貫した結果が示されていなかった原因や新たな研究課題が見えてくる可能 性がある。
このような理由から、本研究は、一貫した結果が得られていないと批判されていた、フィー ルドにおける目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究(2)の研究目的、仮説設定のロ ジック、目標の困難度と業績の測定方法について、まず整理を行う。その上で、先行研究の 分析結果について改めて考察を行い、今後の研究課題を明らかにすることを目的とする。論 文の構成は以下のとおりである。次節ではレビュー対象となる文献の選定方法について述べ る。続く 3 節では、目標の困難度と業績の関係について分析を行った先行研究の現状を文献 レビューから明らかにし、4 節では、目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究の今 後の課題について検討を行う。5 節では、結論および本研究の限界を述べる。
2.文献選定方法
まず初めに、目標の困難度と業績の関係を分析した研究として Arnold and Artz(2015)、
Kelly et al.(2015)、Ioannou et al.(2016)で取り上げられていた文献の確認を行った。
Arnold and Artz(2015)では、正の関係が見られた研究として Hofstede(1968)、Simons
(1988)、Webb et al.(2010)、統計的に有意な関係が見られなかった研究として Hansen and
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(2) 本研究のレビュー対象は、Smith(2011)によって A*、A、B ランクに位置づけられている会計学術誌 及び日本の会計学術誌(會計、会計プログレス、管理会計学、企業会計、原価計算研究、産業経理)に 掲載されている文献とする。
Van der Stede(2004)、Hirst and Lowy(1990)、負の影響(negative impact)が見られた 研究として Kenis(1979)、Webb et al.(2013)の研究が取り上げられ(p. 62)、Ioannou et al.(2016)でも同様の研究が取り上げられている(p. 1470)。一方、Kelly et al.(2015)で は、正の関係が見られた研究として Simons(1988)、Presslee et al.(2013)、統計的に有 意な関係が見られなかった研究として Hirst and Lowy(1990)、Hansen and Van der Stede,
(2004)が取り上げられている(p. 3)。重複しているものを除くと、3 つの研究では 8 本の 文献が引用されていることになるが、Hofstede(1968)は会計学術誌に掲載された文献では なく、Webb et al.(2013)はフィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析した研 究ではなかったため、レビュー対象からは除外した。そして、Arnold and Artz(2015)、
Ioannou et al.(2016)はフィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析した研究で あるため、レビュー対象に含めた。
続いて、文献の網羅性を高めるために、Web of Science の被引用文献検索機能を利用し、
これら 8 本の文献を引用した上で、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係について 分析を行っている会計学研究の探索を行った。その結果、Shields et al.(2000)、Bento and White(2006)、Chong and Johnson(2007)の 3 つの研究を抽出することができた。最後に、
これらの方法では抽出されなかった会計学研究を探すため、Web of Science のトピック検 索機能を利用し、目標の困難度を意味する“goal difficulty”、“goal level”、“goal tight- ness”、“standard tightness”、“target difficulty”、“target level”というキーワードを入れ、
分野を“business finance”にすることで絞込検索を行った。その結果、Cheng et al.(2007)
が抽出された。
以上のプロセスで抽出された文献は全て英語文献であったため、日本語文献を抽出するた めに CiNii Articles の論文検索機能を用いて「目標(の)厳格度」、「目標(の)困難度」、「目 標(の)水準」、「目標(の)タイトネス」、「目標(の)難易度」というキーワードで検索を 行ったが、該当する文献は 0 本だった。そこで、全文検索機能を利用し、先ほどのキーワー ドに「業績」あるいは「パフォーマンス」というキーワードを付け加えた検索を行うことで、
フィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析した会計学研究の探索を試みた。その 結果、「目標水準」と「業績」というキーワードを用いたときに吉田・妹尾(2009)、「目標 のタイトネス」と「パフォーマンス」というキーワードを用いたときに吉田(2001)を抽 出することができた。そして、この 2 つの文献が引用している研究の中で、神戸大学管理会 計研究会(1993)がフィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析していることが 確認できたため、レビュー対象に追加した。したがって、最終的には英語文献 12 本、日本 語文献 3 本の計 15 本の会計学研究が本研究におけるレビュー対象となった。
3.目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究の現状
本節では、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究の現状を 明らかにする。
3.1. 先行研究における研究目的
目標の困難度と業績の関係についての分析は、会計学研究だけではなく心理学や経営学領 域でも数多く行われてきた。ここでは、レビュー対象となった会計学研究は、なぜフィール ドにおける目標の困難度と業績の関係に着目してきたのかについて、3 つの研究群に分け明 らかにする。
目標の困難度と個人業績の関係に関心を持つ研究
第 1 の研究群は、目標の困難度と個人業績の関係に着目したものである。Kenis(1979)は、
予算がマネジャーの態度、行動、業績に与える影響は、シニアマネジメントの予算管理スタ イルによるものであることを先行研究のレビューに基づき指摘している。そして、予算管理 スタイルとしての予算目標の特徴と職務に関連する態度、予算に関連する態度および個人業 績(予算業績、職務業績)の関係を明らかにすることを目的に分析を行っているが、予算目 標の特徴の 1 つに目標の困難度(予算目標の困難度)が含まれている。Hirst and Lowy
(1990)は、困難だが達成可能な予算目標の困難度の影響について分析を行う管理会計研究 は多いが、フィードバックの影響について分析を行うことは稀であり、予算目標の困難度と フィードバックの交互作用を分析した研究はほとんど行われていないと指摘し、交互作用を 検討する前段階として目標の困難度(予算目標の困難度)と個人業績(予算業績、職務業績)
の関係について分析を行っている。しかし、従業員を対象に行なわれた近年の研究(Webb et al., 2010; Presslee et al., 2013)では、目標の困難度に影響を与える要因に関心が向けら れており、目標の困難度と個人業績の関係について分析は行っているものの、それ自体を目 的として強調しない傾向にある。
ここまでに取り上げてきた 4 つの研究は、いわば目標の困難度と個人業績の直接的な関係 のみに着目しているが、目標の困難度と個人業績の間接的な関係にも関心を持つ研究がいく つか行われている。Shields et al.(2000)は、多くの会計学研究が 1 つ以上のコントロール システムの構成要素が業績あるいは他の変数に与える影響を調査してきたが、コントロー ル・システムの構成要素が与える間接的な影響について分析を行う研究はほとんど行われて いないと指摘している。そして、コントロール・システムの構成要素が個人業績(職務業績)
に直接影響を与えるモデルと、間接的な影響を与えるモデルを比較することを目的に分析を
行っているが、その構成要素の 1 つに目標の困難度(標準の厳格度)が含まれている。
Bento and White(2006)も Shields et al.(2000)と同様の問題意識を持ち、目標の困難度 と個人業績の直接的な関係と間接的な関係の両方について分析を行った研究である。Bento and White(2006)は、典型的な管理会計研究は 2 つか 3 つの予算管理実践を選択し、それ らが職務満足やストレス、個人あるいは組織の業績に与える影響を分析してきたが、予算管 理変数と非予算管理変数の交互作用を検討する研究群によってコンフリクトを起こす結果が 示されてきたと指摘し、介在変数(intervening variable)モデルの有用性を示している。
Bento and White(2006)は、介在変数を検討することによって 6 つのステップ(⑴先行変数、
⑵予算管理変数、⑶業績評価変数、⑷報酬変数、⑸結果変数、⑹業績変数(職務業績))か らなる包括的な業績管理モデルを提示し各変数間の関係を分析しているが、予算管理変数の 中に目標の困難度(予算の厳格度)が含まれている。Chong and Johnson(2007)は、先行 研究において、予算参加が個人業績(職務業績)につながるまでのメカニズムが明確ではな かったことを指摘し、予算参加の先行変数と結果変数をモデルに組み込んでいるが、結果変 数の 1 つに目標の困難度(予算目標の水準)が含まれ、個人業績(職務業績)との間接的な 関係が分析されている。Cheng et al.(2007)は、現代の業績評価システムは、複数の業績 尺度すなわち複数の業績目標を設定しているが、人々が異なる業績目標間でコンフリクトを 起こしていると感じることになったときの職務関連行動への影響について、会計学研究はほ とんど焦点を当ててこなかったと指摘し、目標の困難度(知覚される全体的な目標の困難度)
と個人業績(職務業績)の直接的な関係と間接的な関係の両方について分析を行っている。
目標の困難度と組織業績の関係に関心を持つ研究
第 2 の研究群は、目標の困難度と組織業績の関係に着目したものである。目標の困難度と 個人業績の関係について分析を行った研究として先ほど取り上げた Kenis(1979)は、目標 の困難度(予算目標の困難度)と組織業績(部門のコスト効率)の関係についても同時に分 析を行っているが、それ以外の研究は基本的に組織業績に焦点を絞っている。Simons(1988)
は、予算管理研究において、厳しい予算目標が望ましく、より高い業績につながるという考 えが暗黙の前提になっていることを踏まえ、目標の困難度(予算目標の厳格度)が実際に組 織業績(企業業績)と関係しているのかについて分析を行っている。神戸大学管理会計研究 会(1993)は、目標原価の達成率は何によって規定されるのかという問いを設定し、原価 企画の目的、意思決定環境、経営戦略および原価企画の運用方法と組織業績(目標原価の達 成率)の関係について分析を行っているが、原価企画の運用方法の 1 つに目標の困難度(目 標原価の厳格度)が含まれている(3)。吉田・妹尾(2009)は、日本では郵送質問票調査によ
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(3) 神戸大学管理会計研究会(1993)では、企業における目標原価達成率として質問が行われているため、
組織業績を意味すると本研究では解釈している。
る実態調査や実証研究が増えてきたが、管理会計手法と組織業績の関係についての情報が不 足していることを踏まえ、業績・予算管理の利用と組織業績の関係について分析を行ってい るが、業績管理の利用の変数の 1 つに目標の困難度(挑戦的業績目標)が含まれている。
Ioannou et al.(2016)は、マネジメント・コントロールツールである目標設定が、財務的 な目標とは異なる性質を持つ環境業績目標(environmental performance objective)の達成 へと行動を動機づけるための企業の能力に影響を与えているかどうかについて十分な知見が 蓄積されていないことを指摘し、目標の困難度(非財務業績目標の困難度)と組織業績(長 期の非財務業績目標の達成度)の関係について分析を行っている。
一方、目標の困難度と個人業績の関係に着目する研究とは異なり、目標の困難度と組織業 績の間接的な関係を分析する研究はほとんど行われていない。目標の困難度と組織業績の間 接的な関係について唯一分析を行っている Arnold and Artz(2015)は、実験研究は困難な 目標設定が業績を高めることを示してきたが、フィールド研究の経験的な知見は一貫してお らず、曖昧であったことを問題点と指摘している。そして、この曖昧さを説明するために、
目標の柔軟性、すなわち年度内で目標が調整される程度をモデルに組み込み、ビジネスユ ニットの目標の困難度と組織業績(企業業績)の直接的な関係と間接的な関係の両方につい て分析を行っている。
目標の困難度と会計実践の業績の関係に関心を持つ研究
第 3 の研究群は、目標の困難度と会計実践の業績の関係に着目したものである。会計実践 の業績とは、一般的に測定される個人や組織の業績ではなく、研究者が想定する特定の会計 実践の業績を意味する。吉田(2001)は、ケース研究や実態調査によって原価企画活動を 支える要件が明らかになってきたが、そこで明らかにされた要件と業績の関係についての実 証研究は乏しいと指摘している。そして、原価企画活動を支援する組織能力と原価企画の 4 つの業績(⑴製品コンセプトの実現、⑵製品品質・機能性、⑶開発リードタイム、⑷製品コ スト)の関係について分析を行っているが、原価企画活動を支援する組織能力の 1 つに目標 の困難度(原価目標の厳格度)が含まれている。Hansen and Van der Stede(2004)は、予 算管理に関する先行研究は、予算管理の利用目的のうち業績評価目的に焦点を当てるか、あ るいは単一の目的だけに焦点を当ててきたと指摘し、複数の目的を視野に入れた研究の必要 性を主張している。そして、予算管理の特徴と予算管理の 4 つの利用目的の業績(業務計画 の業績、業績評価の業績、目標のコミュニケーションの業績、戦略策定の業績)の関係につ いて分析を行っているが、予算管理の特徴の 1 つに目標の困難度(予算目標の困難度)が含 まれている。さらに、Hansen and Van der Stede(2004)は、これら予算管理の 4 つの目的 の業績と組織業績(組織ユニットの業績)も分析しているため、間接的な関係についても分 析を行った研究と捉えることが出来る。
3.2. 先行研究における仮説設定のロジック
次に、各研究の理論的背景をより詳細に理解するために、目標の困難度と業績の直接的な 関係について分析を行った先行研究の仮説を整理する。レビュー対象となった研究の多くは 仮説検証型の研究であり、目標の困難度と業績の直接的な関係について仮説を明示していな い研究は 4 本(神戸大学管理会計研究会, 1993;吉田, 2001; Hansen and Van der Stede, 2004; Chong and Johnson, 2007)のみであった(4)。これらを除いた 11 本の研究はどのよう なロジックで目標の困難度と業績の関係に関する仮説を設定してきたのかを 4 つの研究群に 分け明らかにする(5)。
正の関係を想定する研究
目標の困難度と業績の間に正の関係が成り立つという仮説を提示した研究には、Simons
(1988)、Shields et al.(2000)、Bento and White(2006)、吉田・妹尾(2009)、Webb et al.(2010)、Presslee et al.(2013)、Arnold and Artz(2015)、Ioannou et al.(2016)がある。
Simons(1988)は、先行研究において、厳格な予算と人々の業績の間には正の関係が成 り立っていたことから、この関係は組織レベルでも成り立つと予想し、予算目標の厳格度と 企業業績の間には正の関係があるという仮説を提示している(p. 269)。Webb et al.(2010)
は、目標設定研究におけるもっとも頑健な発見の 1 つは目標の困難度と業績の間に正の関係 が成り立つことであると述べ、目標の困難度の効果を目標設定理論(Locke and Latham, 1990)に基づき説明している。そして、調査対象企業のタスクでは、目標が戦略や戦術を 重視する、あるいはより多くの努力を引き出すように従業員達を動機づけることによって業 績が高まる可能性があり、目標を達成した場合の報奨も設定されているため、従業員によっ て選択された目標の困難度と従業員の業績の間には正の関係が成り立つという仮説を提示し ている(p. 215)。Presslee et al.(2013)も同様に、目標設定理論(Locke and Latham, 1990; 2002)に基づき、目標の困難度は業績に正の影響を与えることを指摘している。そし て、調査対象の企業では目標達成の報奨がないため、自分で設定した目標そのものが従業員 の努力を決定する要因になると推測し、従業員の自己選択した目標の困難度と業績の間には 正の関係が成り立つという仮説を提示している(pp. 1811-1812)。
目標の困難度と業績の間に一貫した結果が先行研究では示されていないことを指摘した Arnold and Artz(2015)であったが、仮説構築の部分ではその点については触れていなかっ た。Arnold らの仮説設定のロジックは、以下のとおりである。まず初めに、会計学および
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(4) Chong and Johnson(2007)は仮説検証型の研究であるが、目標の困難度と業績の直接的な関係につい て仮説を設定していなかった。
(5) ここで参照しているのは、基本的に各研究の仮説構築(hypothesis development)部分における目標の 困難度と業績の直接的な関係に関する記述のみである。
心理学における困難だが達成可能な目標が業績を高めるという命題を取りあげた上で、目標 設定理論(Locke and Latham, 1990; 2002)に基づき、目標の心理的な効果について説明し ている。そして、目標は報奨と結びつきが強く、目標と報奨の両方が互いを補完する動機づ けの効果を持つことから、目標の柔軟性をコントロールした場合、目標の困難度と企業業績 の間には正の関係が成り立つという仮説を提示している(p. 64)(6)。
一方、先行研究では一貫した結果が得られていないことを認識したうえで、目標の困難度 と業績の間には正の関係が成り立つと予想した研究も存在する。Shields et al.(2000)は、
組織心理学研究および会計学研究では、標準の厳格度と個人や企業業績の間には正の関係が あることが報告されていたが、Kenis(1979)では厳格度(7)と業績の関係は曖昧であったと 指摘している。詳細は後で述べるが、Kenis(1979)の研究では、厳格度は動機づけと正の 関係にあったが、業績とは負の関係が見られた。このような結果が示された理由として、
Kenis(1979)の研究では、知覚された厳格度が測定されていたことを問題として挙げてい る(8)。しかし、全体的に見れば多くの先行研究が標準の厳格度と業績の間に正の関係が成り 立っていたことを示していたため、標準の厳しさと職務業績の間には正の関係があるという 仮説を提示している(pp. 190-191)。
ここまでは先行研究に基づき仮説を提示している先行研究をレビューしてきたが、先行研 究に依拠せず目標の困難度と業績の関係に正の関係が成り立つと仮説を立てる研究もいくつ か見られた。Bento and White(2006)は、挑戦的な水準に目標を設定することによって、
予算の厳格度が業績の向上につながる可能性があると述べ、予算の厳格度と職務業績の間に 正の関係が成り立つという仮説を提示している(pp. 64-65)。また、吉田・妹尾(2009)は、
先進的・積極的な業績管理の利用が組織業績向上に貢献すると想定し、挑戦的業績目標が組 織業績に正の影響を与えるという仮説を提示している(p. 37)。Ioaanou et al.(2016)は、
仮説構築部分を設けていないが、リサーチデザイン部分で目標の困難度が目標達成度に正の 影響を与えている可能性があることを示唆している(p. 1475)。
負の関係を想定する研究
目標の困難度と業績の間に負の関係が成り立つという仮説を提示した研究には、Kenis
(1979)がある。フィールドにおける目標の困難度と業績の関係についてもっとも早く注目
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(6) 目標の柔軟性をコントロールした理由は、目標が柔軟に運用されると当初の目標達成への動機づけが低
下するためであり、目標の柔軟性をコントロールしない場合には、目標の困難度と業績の直接的な関係 は弱かったと述べられている(Arnold and Artz, 2015, p. 73)。
(7) Kenis の研究では goal difficulty と定義されている。
(8) Shields et al.(2000)では、「標準がちょうど良い(about right)ものよりも厳しいと感じられる時、
業績は低下する」(p. 190)と述べられている。
し、その後の会計学研究に大きな影響を与えたのが Kenis(1979)の研究であるが、予算目 標の困難度と予算業績、コスト効率、職務業績の間に負の関係があるという仮説を提示して いる(p. 710)。なぜ正ではなく負の関係にあるという仮説を提示したのかについての根拠 は明確にはされていないが、目標の困難度と業績の間に正の関係を示す研究や簡単な目標を 与えられた場合に比べ、難しい目標を与えられた方が業績が高かったことを示す研究がある 一方で、目標の困難度が持つ正の効果が支持されなかった研究も存在していることから、目 標の困難度の正の効果に疑問を投げかけていたと推測される。
影響を与えないことを想定する研究
Arnold and Artz(2015)、Kelly et al.(2015)、Ioaanou et al.(2016)では、統計的に有 意な結果が得られなかった研究の存在が指摘されていたが、仮説の段階から目標の困難度の 効果を疑問視していた研究に、Hirst and Lowy(1990)がある。Hirst and Lowy(1990)は、
心理学研究の知見に基づき、業績の向上(performance improvement)のためには、目標と フィードバックの両方が必要不可欠であると指摘し、目標のみあるいはフィードバックのみ では業績は向上しないと推測し、予算目標の困難度と予算フィードバックは独立して、業績 の間には影響を与えないという仮説を提示している(p. 427)(9)。
何らかの関係があることを想定する研究
目標の困難度と業績の間には、何らかの関係があることを仮説として設定した研究に Cheng et al.(2007)がある。Cheng et al.(2007)は、目標設定研究では、目標コミットメ ントが存在する限り、目標の困難度は職務業績と正の関係にあるとされていたが、これらの 研究は単一目標に関する客観的な目標の困難度に焦点を当てていたと指摘している。そのた め、複数の目標があり、目標間でコンフリクトが生じる状況において、知覚される目標の困 難度と職務業績の間に正の関係が成り立つかどうかは明確ではなく、また、目標コンフリク トと職務業績の間には負の関係があると予測されることから、知覚される目標の困難度と職 務業績の間に負の関係が成り立つ可能性もある。それ故、正か負かの方向性を示すことはで きないが、知覚される目標の困難度と職務業績の間には、何らかの関係があるという仮説を 提示している(pp. 227-228)。
3.3. 先行研究における目標の困難度と業績の測定方法
続いて、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析した会計学研究は、どのよ うに目標の困難度と業績を測定してきたのかについて整理を行う。レビュー対象となった研
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(9) もう 1 つの仮説として、Hirst and Lowy(1990)は、予算目標の困難度と予算フィードバックの交互 作用が業績に影響を与えることを挙げている。
究が用いてきた目標の困難度と業績の測定方法は、それぞれ 2 つの方法に分けられる。客観 的な目標の困難度を測定する方法と主観的な目標の困難度を測定する方法、自己評価の業績 を測定する方法と実際の業績を測定する方法である。
客観的な目標の困難度の測定
客観的な目標の困難度を測定した研究には、Webb et al.(2010)、Presslee et al.(2013)、
Ioannou et al.(2016)がある。Webb et al.(2010)は、従業員の選択できる 3 つの困難度 の目標(ユニット目標の 105%、110%、125%)を目標の困難度として測定し(p. 218)、
Presslee et al.(2013)も全く同じ方法で測定している(p. 1815)。Ioannou et al.(2016)は、
企業が設定し報告している割合目標を目標の困難度として測定している(p. 1478)。どちら も調査対象の主観に頼らずに目標の困難度を測定できているが、このような測定が可能な研 究方法はフィールド実験やアーカイバルデータを用いた研究に限定されると考えられる。
主観的な目標の困難度の測定
レビュー対象の研究で目標の困難度を測定するために数多く用いられてきたのが、主観的 な目標の困難度を測定する方法である。主観的な目標の困難度を測定した研究には、Kenis
(1979)、Simons(1988)、Hirst and Lowy(1990)、神戸大学管理会計研究会(1993)、
Shields et al.(2000)、吉田(2001)、Hansen and Van der Stede(2004)、Bento and White
(2006)、Cheng et al.(2007)、Chong and Johnson(2007)、吉田・妹尾(2009)、Arnold and Artz(2015)がある。
最も単純な目標の困難度の測定方法は、目標の困難度の高さについて単一の質問で測定す る方法であり、神戸大学管理会計研究会(1993)、吉田(2001)、Hansen and Van der Stede
(2004)、Cheng et al.(2007)、吉田・妹尾(2009)で採用されている。神戸大学管理会計 研究会(1993)は、「目標原価の厳格度」について 7 点リッカート(既存の技術水準で達成 可能な水準(1)─努力すれば達成可能な水準(4)─相当な発想転換が必要な水準(7))
で測定している(10)。吉田(2001)も同様に、「製造原価目標の厳格度」について 5 点リッカー ト(既存の技術水準で達成可能な水準(1)─努力すれば達成可能な水準(3)─相当の発 想転換が必要な水準(5))で測定している(11)。Hansen and Van der Stede(2004)は、「ユニッ トの今期の予算目標の達成がどの程度難しいか」について 5 点リッカート(とても簡単(1)
─達成するのはとても難しい(5))で測定している(p. 424)。Cheng et al.(2007)は、従 業員の持つ 5 つの業績目標それぞれについて感じる困難度について、7 点リッカート(きわ めて簡単(1)─きわめて難しい(7))で測定している(p. 230)。吉田・妹尾(2009)は、
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(10) 調査時の質問項目は神戸大学管理会計研究会(1992)に掲載されている(p. 78)。
(11) 調査時の質問項目は吉田(2000)に掲載されている(付録 p. 5)。
「業績目標は容易には達成できない挑戦的な水準である」という単一の質問を行い、7 点リッ カート(全くそうではない(1)─(7)全くその通り)で測定している(12)。
一方、複数の質問を行い、より正確に目標の困難度を測定しようとする研究もいくつか見 られる。Kenis(1979)は、経営学研究である Steers(1976)を参照し、マネジャーによっ て知覚されている予算目標達成の難しさについて 5 つの質問⑴「私は自身の予算目標を達成 することはそれほど困難ではない。予算目標はかなり簡単である」、⑵「私の予算目標は達 成することが非常に困難である」、⑶「私の予算目標は、目標を達成するために非常に多く の努力を要求する」、⑷「私の予算目標を完全に達成するためには、高い水準のスキルとノ ウハウが必要になる」、⑸「一般的に、あなたのユニットの予算目標はどのように特徴づけ られますか─緩すぎるーかなり緩い─ちょうど良い─厳しいが達成可能─厳しすぎる」を行 い、5 点リッカートで測定している(pp. 719-720)。そして、この尺度は Hirst and Lowy
(1990)(ただし、⑷を除いた 4 つの質問項目で 7 点リッカートに変更)、Chong and John- son(2007)などで利用され、そのほかの研究でも質問項目作成時に参照されている影響力 のあるものとなっている。例えば、Arnold and Artz(2015)は、 Kenis(1979)、Hirst and Lowy(1990)、Indjejikian and Mate
ˇjka(2006)の研究を参照し、目標の困難度(target dif-
ficulty)を 3 つの質問⑴「ビジネスユニットの目標水準は最大限の努力がともなって初めて 達成可能となる」⑵「目標水準の困難度は非常に高いと考えられる」⑶「ビジネスユニット の目標水準を達成するには広範囲なスキルが要求される」を行い、5 点リッカート(全く反 対(1)─全く賛成(5))で測定している(pp. 74-75)。他にも、Simons(1988)は、予算目標の厳格度について 4 つの質問⑴「予算目標がマネ ジャーに与える影響の厳しさ─とても緩い─とても厳しい」、⑵「予算業績標準について─
極めて適切である─全く適切ではない」、⑶「予算目標を達成することの重要性」、⑷「業務 効率を達成することの重要性」を行い、7 点リッカートで測定していたり(p. 272)、Bento and White(2006)は、Chow et al.(1999)が Kenis(1979)、Simons(1988)、Merchant and Manzoni(1989)をベースに作成した 3 つの質問⑴「一般的に、あなたのユニットの予 算が承認されたとき、それが少なくとも達成されるだろうと信じる程度」、⑵「あなたのユ ニットの予算を達成するのに一般的に必要とされる努力量」、⑶「一般的なあなたのユニッ トの予算目標の厳格度」(p. 458)を行い、7 点リッカート(きわめて低い(1)─きわめて 高い(7))で測定している(p. 66)。
一方、これまで整理を行ってきた測定方法とは異なるアプローチを取った研究に、
Shields et al.(2000)がある。Shields et al.(2000)は、目標達成に必要な 4 つの資源(時 間、設計技術、他の従業員からのサポート、外部資源(例えば、コンサルタント、サプライ
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(12) 調査時の質問項目、慶應義塾大学管理会計研究会(2009)に掲載されている(pp. 131-132)。
ヤー、顧客)からのサポート)に関する得点(各 7 点)から利用可能な資源に関する得点(各 7 点)を引いたものの合計得点を標準の厳格度(standard tightness)として測定している
(p. 199)。この方法は、目標の困難度について直接質問することを避けることにより、でき る限り客観的な目標の困難度の測定を試みていると推測されるが、この尺度を用いた研究は 他に見られなかった。
実際の業績の測定
実際の業績を測定した研究には、Simons(1988)、Cheng et al.(2007)、吉田・妹尾(2009)、
Webb et al.(2010)、Presslee et al.(2013)、Arnold and Artz(2015)、Ioannou et al.(2016)がある。Simons(1988)、吉田・妹尾(2009)、Arnold and Artz(2015)、Ioan- nou et al.(2016)の研究は公表データを利用し組織業績を測定しているが、各研究で利用 される指標は若干異なっている。Simons(1988)は、企業業績を ROI で測定しているが
(p. 273)、吉田・妹尾(2009)は、ROA、ROS、売上高成長率(p. 42)、Arnold and Artz(2015)
は、ROA で測定している(p. 67)。Ioannou et al.(2016)は、企業の設定した環境業績に 関する目標が目標設定期間の終了時点に達成されている割合で組織業績を測定している
(p. 1475)。
一方、目標の困難度と個人業績の関係を分析した Cheng et al.(2007)、Webb et al.
(2010)、Presslee et al.(2013)は、実際の企業から提供される内部データを利用することで、
実際の業績を測定している。Webb et al.(2010)は、実績値を目標値で割った数字を職務 業績として測定し(p. 218)、Presslee et al.(2013)も同様の方法を取っている(p. 1815)。
Cheng et al.(2007)は、職務業績を 5 つの業績目標(財務指標も非財務指標も含む)の実 績で測定している(p. 232)。ただし、実際の個人業績のデータを企業から提供してもらう ことは非常に難しく、あまり行われていない傾向にある。
自己評価の業績の測定
自己評価の業績を測定した研究には、Kenis(1978)、Hirst and Lowy(1990)、神戸大学 管理会計研究会(1993)、Shields et al.(2000)、Hansen and Van der Stede(2004)、Bento and White(2006)、Chong and Johnson(2007)があるが、これらの研究の多くは個人業績 を測定している研究である。Kenis(1978)は、予算業績(budgetary performance)につい て単一の質問「どのくらいの頻度で予算目標が達成されるのか」を行い、7 点リッカート(決 して達成されない(1)─いつも達成される(7))で測定し、職務全体の業績については、
5 点リッカート(とても悪い(1)─とても良い(5))で測定している(p. 713)。この予算 業績の尺度と職務業績の尺度については、Hirst and Lowy(1990)でも利用されている(13)。 Bento and White(2006)は、職務業績を Mahoney et al.(1963)によって作成された 9 つ
の質問を利用し、9 点リッカート(平均以下(1)─平均以上(9))で測定し(p. 68)、
Chong and Johnson(2007)は、Mahoney et al.(1963; 1965)によって作成された 9 つの質 問のうちの 1 つ(職務全体の業績について)を取り出し、7 点リッカートで測定している
(pp. 10-13)(14)。Shields et al.(2000)は、Mahoney et al.(1965)の尺度がコントロール・
システム研究では一般的に用いられているが、調査対象である設計エンジニアの業績測定の 方法としては適切ではないことを指摘し(p. 194)、職務業績を測定するために、新たに 3 つの質問⑴「標準と比べた自身の測定される業績水準」、⑵「他者の業績と比べた自身の測 定される業績水準」、⑶「自身の測定される業績水準」を行い、7 点リッカート(きわめて 低い(1)─きわめて高い(7))で測定している(p. 200)。
組織業績を自己評価により測定した Kenis(1979)は部門のコスト効率を 5 点リッカート
(とても悪い(1)─とても良い(5))で測定しているが(p. 713)、神戸大学管理会計研究 会(1993)は、企業における目標原価の達成度を(~%達成)(15)と質問することによって、
より客観的な形で測定している。一方、Hansen and Van der Stede(2004)は、組織ユニッ トの業績について 3 つの質問⑴「過去の予算期間におけるあなたのユニットの経済的業績と して最も相応しいのはどれか(競合他社よりも儲けが少ない(1)─競合他社よりも儲けが 多い(5))」、⑵「理想的な業績を 100%として考えると、最近の予算期間におけるあなたの ユニットの業績にどれくらいの割合に該当するのか(0-20%(1)─ 80-100%(5))」、⑶「市 場業績(例えば、売上高、成長、マーケットシェア)の面で、あなたのユニットはどれくら い良い業績を出しているか(競合他社と比較して平均より低い(1)─競合他社と比較して 平均より高い⑸)」、「内部運営(費用対効果、品質)の面で、あなたのユニットはどれくら い良い業績を出しているか(競合他社と比較して平均より低い(1)─競合他社と比較して 平均より高い⑸)」を行い、5 点リッカートで測定している(p. 425)。
会計実践の業績は、基本的に複数の業績について質問が行われ、それぞれが業績と捉えら れている。吉田(2001)は、原価企画の業績として、⑴「製品コンセプトの実現」、⑵「品質・
機能性」、⑶「開発リードタイム」、⑷「製品コスト」の 4 つについて、5 点リッカート(か なり不満である(1)─どちらともいえない(3)─非常に満足している(5))で測定し(16)、 Hansen and Van der Stede(2004)は、予算管理を行う 4 つの目的⑴「業務計画」、⑵「業 績評価」、⑶「目標のコミュニケーション」、⑷「戦略策定」の業績について 5 点リッカート
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(13) ただし、回答項目はかろうじて満足できる(1)─きわめて良い(7)に変更されている(p. 428)。
(14) Chong and Johnson(2007)では、回答項目は明示されていない。
(15) 質問票調査では、70%位達成する企業が 12.1%、80%位達成する企業が 26.2%、90%位達成する企業
が 50.5%、ほぼ 100%が 11.2%であり、70%位達成(1)─ 80%位達成(2)─ 90%位達成(3)─ほ ぼ 100%達成(4)に変換した上で分析を行っている(神戸大学管理会計研究会, 1993, p. 84)。
(16) 質問票については、吉田(2000)を参照(付録 p. 10)。
(平均を十分に下回る(1)─平均を十分に上回る(5))で測定している(p. 423)。
3.4. 先行研究における分析結果
最後に、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究の分析結果 について、3 節 1 項から 3 項までに整理してきた内容を踏まえ、再検討を行う。
目標の困難度と個人業績の関係に関心を持つ研究
表 1 が示すように、目標の困難度と個人業績の間に正の関係が見られた研究が 3 本、負 の関係が見られた研究が 1 本、統計的に有意な関係が見られなかった研究が 5 本であった(17)。 測定されている目標の困難度は予算目標が多く、そのほかは従業員が持つ何らかの業績目標 であり、測定される業績は予算業績と職務業績の 2 つに限られていた。また、測定方法別に 見ると、主観的な目標の困難度を測定した研究では、負の関係が見られた研究も一部存在し たが、統計的に有意な関係が見られないという結果が多く示されており、客観的な目標の困 難度を測定した場合には、正の関係、すなわち目標の困難度が高くなるほど業績も高まると いう関係が成り立っていた。したがって、測定方法が分析結果に影響を与えている可能性が あり、会計学研究は今後目標の困難度の測定方法について十分な検討を行っていく必要があ ると言える。
また、表 1 には詳細を示していないが、目標の困難度と業績の間接的な関係に着目した 4 つの研究(Shields et al., 2000; Bento and White, 2006; Cheng et al., 2007; Chong and John- son, 2007)は、目標の困難度が業績に与える影響について重要な知見を提供している。
Bento and White(2006)は、予算の厳格度と相対的な業績評価の関係、相対的な業績評価 と予算に基づく報酬の関係、予算に基づく報酬とボーナスの関係、ボーナスと職務業績の間 にそれぞれ正の関係があることをパス解析によって示し、Chong and Johnson(2007)は、
予算目標の困難度と予算目標の受容、予算目標へのコミットメントの間に正の関係があるこ と、予算目標の受容と予算目標へのコミットメントの間に正の関係があること、予算目標へ のコミットメントと職務業績の間に正の関係があることを構造方程式モデリングによって示 している。これらの研究からは、目標の困難度がどのように個人業績を高めているかを読み 取ることが出来るだろう。一方、Shields et al.(2000)は、標準の厳格度は職務関連のスト レスと正の関係にあり、職務関連のストレスは職務業績と負の関係にあることを構造方程式 モデリングによって示し、Cheng et al.(2007)は、全体的な目標の困難度は全体的な目標 コンフリクトと負の関係にあり、全体的な目標コンフリクトは職務業績と負の関係にあるこ
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(17) 例えば、Kenis(1979)のように負と統計的に有意な関係が見られないという複数の結果が出ている場
合には、負の関係を示した研究および統計的に有意な関係が見られなかった研究でそれぞれ一度ずつカ ウントしている。
とを部分的最小二乗回帰モデルによって示している。これらの研究からは、ストレスや目標 コンフリクトが生じている状況では、困難度の高い目標設定は有効ではない可能性があるこ とが読み取れる。
目標の困難度と組織業績の関係に関心を持つ研究
表 2 が示すように、目標の困難度と組織業績の間に正の関係があることを示した研究が 4 本、統計的に有意な関係が見られなかった研究が 2 本であった(20)。目標の困難度と個人業 績の関係を分析した研究に比べると、統計的に有意な関係が示されなかった研究が少なく、
負の関係も見られなかった。測定される目標と業績は様々であり、研究間における共通性を 見出すことは難しいが、目標の困難度は主観的に測定される場合が多く、業績については実 際の業績が測定される場合が比較的多いと言えるだろう。また、日本企業を調査対象とした 吉田・妹尾(2007)では、目標の困難度と組織業績(ROA)の間に統計的に有意な関係が 見られなかったが、Arnold and Artz(2015)の分析モデルを用いた追試を今後行うことに よって、Arnold らと同様の結果が得られる可能性がある。
また、表 2 には詳細を示していないが、目標の困難度と個人業績の関係を分析した研究と は異なり、目標の困難度と業績の間接的な関係を分析した研究は少なく、Arnold and Artz
(2015)のみであった。Arnold and Artz(2015)は、目標の困難度と目標の柔軟性の間に 正の関係があること、目標の柔軟性と企業業績の間に負の関係があることを最小二乗回帰分 析によって示している。したがって、目標の困難度が高まると、目標が柔軟に運用されるよ
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(18) 統計的に有意な結果が得らなかったことを意味する。
(19) (+)は相関分析の結果を意味する。
(20) 個人レベルにおける分析結果の整理と同様の方法を取っている。
表 1 目標の困難度と個人業績の関係に関心を持つ研究
著者(出版年) 目標の困難度 測定方法 業績 測定方法 仮説 結果
Kenis(1979) 予算目標の困難度 主観的 予算業績 自己評価 - -
職務業績 自己評価 - n.s.(18)
Hirst and Lowy(1990) 予算目標の困難度 主観的
予算業績 自己評価 影響を
与えない n.s.
職務業績 自己評価 影響を
与えない n.s.
Shields et al.(2000) 標準の厳格度 主観的 職務業績 自己評価 + n.s.
Bento and White(2006) 予算の厳格度 主観的 職務業績 自己評価 + n.s.
Cheng et al.(2007) 全体的な目標の困難度 主観的 職務業績 実際の業績 + or - n.s.
Chong and Johnson(2007) 予算目標の水準 主観的 職務業績 自己評価 なし (+)(19)
Webb et al.(2010) 目標の困難度 客観的 職務業績 実際の業績 + +
Presslee et al.(2013) 目標の困難度 客観的 職務業績 実際の業績 + +
筆者作成
うになり、その結果、企業業績が低下する可能性がある。
目標の困難度と会計実践の業績の関係に関心を持つ研究
表 3 に示すように、目標の困難度と会計実践の業績の関係について分析を行った研究は 2 本のみであり、どちらも主観的な目標の困難度と自己評価による業績を測定している。分析 結果を見ると、統計的に有意ではないか、負の関係にあることが示されている。つまり、目 標の困難度が高まると、会計実践は上手く機能しなくなる可能性があることをこの 2 つの研 究は示唆しているのである。
また、表 3 には詳細を示していないが、Hansen and Van der Stede(2004)は、この 4 つ の業績と組織ユニットの業績の関係について探索的な分析を行っている。分析の結果明らか になったのは、業務計画の業績、業績評価の業績、戦略策定の業績は組織ユニットの業績と 正の関係にあるということである。したがって、目標の困難度が高まると、戦略策定の業績 が低下し、組織ユニットの業績が下がる可能性がある。
表 3 目標の困難度と会計実践の業績の関係に関心を持つ研究
著者(出版年) 目標の困難度 測定方法 業績 測定方法 仮説 結果
吉田(2001) 製造原価目標の
厳格度 主観的
製品コンセプトの実現 自己評価 なし (-)
品質・機能性 自己評価 なし (-)
開発リードタイム 自己評価 なし (-)
製品コスト 自己評価 なし (-)
Hansen and Van der Stede
(2004)
予算目標の困難度 主観的
業務計画の業績 自己評価 なし n.s.
業績評価の業績 自己評価 なし n.s.
目標のコミュニケーションの業績 自己評価 なし -
戦略策定の業績 自己評価 なし -
筆者作成
表 2 目標の困難度と組織業績の関係に関心を持つ研究
著者(出版年) 目標の困難度 測定方法 業績 測定方法 仮説 結果
Kenis(1979) 予算目標の困難度 主観的 コスト効率 自己評価 - n.s.
Simons(1988) 予算目標の厳格度 主観的 ROI 実際の業績 (+)(+)
神戸大学管理会計研究会
(1993) 目標原価の厳格度 主観的 目標原価の達成度 自己評価 なし (+)
吉田・妹尾(2009) 挑戦的業績目標 主観的
ROA 実際の業績 + n.s.
ROS 実際の業績 + n.s.
売上高成長率 実際の業績 + n.s.
Arnold and Artz(2015) 目標の困難度 主観的 ROA 実際の業績 + +
Ioannou et al.(2016) 非財務目標の困難度 客観的 目標達成の程度 実際の業績 + + 筆者作成
4.今後の研究課題
ここでは、3 節で行ったレビュー結果を踏まえ、フィールドにおける目標の困難度と業績 の関係について分析を行う会計学研究の今後の課題を示す。
4.1. 目標の困難度と会計実践の業績の間に負の関係があることを説明する理論の検討 前節のレビューで明らかになったように、目標の困難度と個人業績、組織業績の関係に着 目した多くの研究は、目標設定理論に基づき、正の関係を想定した仮説検証を行ってきた。
一方、目標の困難度と会計実践の業績の関係に着目した研究は探索的な分析となっており、
なぜそのような結果が得られたのかについて明確な根拠を示すことが出来ていなかった。目 標の困難度と会計実践の業績の間には、負の関係があることが 2 つの研究では明らかにされ ている。今後の会計学研究では、目標の困難度が高くなると会計実践の業績が下がるのはな ぜかを明らかにするための理論を他領域から援用する、あるいは独自の理論として作り上げ ていくことが必要になるだろう。
4.2. フィールドにおける目標の困難度の測定方法の検討
会計学研究において今後検討すべき最も重要な問題は、フィールドにおいて、目標の困難 度を如何に測定するかという問題である。実験やアーカイバルデータを用いた研究であれ ば、客観的な目標の困難度を容易に測定することが可能であるが、サーベイを用いた場合に は回答者による主観的な目標の困難度を測定せざるを得ない。しかし、本研究のレビューか らも明らかになったように、主観的な目標の困難度を測定した場合には、統計的に有意な結 果が得られないことが多かった。実際、心理学研究では目標の困難度の操作化の方法が、目 標の困難度と業績の関係を調整していることが Wright(1990)のメタ分析によって明らか にされている。具体的には、与えられた水準(assigned level)、自己設定の水準(self-set level)、業績改善(performance improvement)、知覚される困難度(perception difficulty)
の 4 つの操作化の方法の中で、与えられた水準の効果量が最も大きく、知覚される困難度の 効果量が最も小さかったのである。この結果を受けて、その後の心理学研究では、目標の困 難度の概念定義や尺度設計などに注目が集められている(例えば、Lee and Bobko(1992))。
したがって、会計学研究は、心理学研究などの知見を参照し、フィールドにおいて如何に目 標の困難度を測定するべきかという問題について今後検討していく必要があると言える。
4.3. 交互作用の検討
前節では詳細なレビューを行わなかったが、Shields et al.(2000)や Bento and White
(2006)で批判されていた交互作用の検討が近年の研究では再び行われ始めている。Arnold and Artz(2015)は、目標の困難度と企業業績の関係を調整する変数として、目標の利用目 的を取り上げている。Arnold and Artz(2015)は、コスト差異における非対称性(asymmetry in variance costs)(21)があるため、企業が目標を意思決定目的(計画、調整など)で利用する 場合には、目標の困難度と業績の関係が弱まると予想し分析を行った結果、実際にそのよう な関係が見られたことが示されている。Ioaanou et al.(2016)は、先行研究では金銭的報 酬の提供が目標の困難度と目標達成の程度の関係を調整することが指摘されているが、どの ような効果を持つか明確にはされていないと指摘し、探索的な分析を行っている。分析の結 果、金銭的報酬の提供が行われる場合、非財務目標の困難度と目標達成の程度の間に負の関 係があることが明らかになった。つまり、目標の困難度が目標達成の程度に与えていた正の 影響が、金銭的報酬の提供によって負の影響へと変化したことを意味している。
この 2 つの研究は目標の困難度が業績に与える影響を弱めるあるいは、影響の向きを変え る変数を明らかにしたものの、目標の困難度が業績に与える影響を強める変数についてはこ れまで十分に明らかにされていない。Shields et al.(2000)や Bento and White(2006)の 指摘するように、交互作用の検討は矛盾した結果を生み出す恐れもあるが、どのような状況 で目標の困難度が業績に与える影響がより強まるのかを明らかにすることは、理論的にも実 務的にも大きな貢献を果たすと考えられる。
5.おわりに
本研究の目的は、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係に着目した会計学研究の 研究目的、仮説設定のロジック、目標の困難度と業績の測定方法を整理した上で、先行研究 の分析結果について再検討を行うことによって、今後の研究課題を明らかにすることであっ た。レビュー対象の文献を整理した結果、会計学研究の関心は、目標の困難度と個人業績の 関係、目標の困難度と組織業績の関係、目標の困難度と会計実践の業績の 3 つの研究群に分 かれ、直接的な関係だけでなく間接的な関係についても分析が行われていること、仮説設定 の段階では目標の困難度と業績の関係について必ずしも正の関係が想定されている訳ではな く、負の関係や目標の困難度は業績に影響を与えないことを想定する研究も存在すること、
目標の困難度と業績の測定方法にはそれぞれ 2 つの方法があることが明らかになった。そし て、分析結果の再検討を行うことによって、今後の研究課題として、目標の困難度と会計実 践の業績の間に負の関係があることを説明する理論を検討すること、フィールドにおいて、
目標の困難度をどのように測定するべきかについて検討すること、交互作用を検討すること
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(21) 不利差異が生じた場合、その原因の解明にコストがかけられるが、有利差異が生じた場合には、原因の
解明にそれほどコストはかけられないことを意味する(Arnold and Artz, 2015, p. 66)。
を示した。以上のような課題に取り組んで行くことで、会計学研究はフィールドで設定され る目標の困難度と業績の関係について、より一層理解を深めることができるだろう。
本研究の限界として、フィールドにおける目標の困難度と業績の関係を分析した会計学研 究に限定して文献の調査を行っている点があげられる。フィールドにおける目標の困難度と 業績の関係に関する研究は、目標設定理論の発展と共に心理学、経営学研究でも行われてき たが、それらの知見と会計学研究の知見の統合はいずれ必要になるだろう。この点について は今後の研究で補っていきたい。
謝辞
本論文はメルコ学術振興財団研究助成(2017012 号(研究助成 B))を受けた研究成果の 一部であり、ここに感謝の意を表します。
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