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著者 中島 健介

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Academic year: 2022

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海洋性珪藻におけるCO?濃縮及びCO?感知機構の解析

著者 中島 健介

URL http://hdl.handle.net/10236/11584

(2)

− 184 −

学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員 (主査)

(副査)

中 島 健 介

海洋性珪藻におけるCO2濃縮及びCO2感知機構の解析 博 士(理 学)

乙理第58号(文部科学省への報告番号乙第352号)

学位規則第4条第2項該当 2013年3月4日

今 岡   進 西 脇 清 二 藤 原 伸 介 松 田 祐 介

教 授 教 授 教 授 教 授

 海洋性珪藻類とは、繊毛虫類と考えられる真核宿主細胞と真核藻類が約2億5千万年前に二次共生するこ とにより葉緑体を獲得し、成立した生物である。この特殊な共生進化を遂げた独立栄養生物群はクロミスタ 属と呼ばれる巨大な真核生物群を形成し、一般的な独立栄養生物である高等植物、或いは緑藻や紅藻とは進 化系統学上かなり離れた位置にある。クロミスタに属する独立栄養生物は海洋を中心とする水圏に繁栄して いる重要なものが多く、食物連鎖の根幹を形成して人類の経済活動とも密接にかかわるが、その細胞生理 の分子レベルでの詳細はほとんど調べられていない。海洋性珪藻類はクロミスタの中で最も繁栄する生物 群であり、その一次生産量は地球全体の約20% と見積もられている。またこの生物はクロミスタ属の中で 初めて全ゲノムの解析が行われた重要なモデル生物となっている。珪藻類の一次生産は溶存 CO2濃度が限ら れている海水中で行われるため、効率の高い光合成には無機炭素を積極的に取り込む機構が必要と考えられ る。また存在する CO2量に反応してこの機能は精密に制御されていることが考えられる。本研究は海洋性珪

Phaeodactylum tricornutumの無機炭素獲得系および CO2応答系の分子機構を明らかにすることを目的に行

われた。

論 文 内 容 の 要 旨

 本論文は4章から成る。

 第1章では緒論として海洋性珪藻類の進化および細胞構造の特殊性、加えてこれまでに他の生物種で得ら れている無機炭素輸送体と CO2感知機構の情報が珪藻類の生理学的な知見との比較を交えて概観され、未解 明の問題点の提起が行われている。

 第2章ではP. tricornutumにおける HCO3- 輸送体の同定とその機能解析について述べられている。これま でに、海洋性珪藻類が、CO2だけでなく HCO3- を取り込む能力を有していることは、様々な生理学的なデー タから多くの知見が得られている。しかしながら、海洋の主要一次生産者における無機炭素獲得機構の詳 細は解明されていない。本章では海洋性羽状目珪藻P. tricornutumの HCO3- 輸送体の同定とその機能解析を 行っている。まず、淡水性藍藻、緑藻及び哺乳類において、すでに無機炭素輸送体として同定されている遺 伝子のホモログを、P. tricornutumゲノム上で探索した。その結果、哺乳類において無機炭素輸送体とされ ている solute carrier protein(SLC)4及び26ファミリーに属すると考えられる10遺伝子が見出され、これ らのうち7遺伝子をptSLC4と名付けた。このうち、サブタイプであるptSLC4-1ptSLC4-2ptSLC4-4の発

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現が CO2制限環境下で顕著に誘導されることが明らかにされた。ptSLC4-2の遺伝子産物 PtSLC4-2は、GFP 標識による解析の結果、細胞膜に局在していることが判明した。野生型P. tricornutumを高 CO2環境下で培 養すると、CCM が大幅に抑制されることが分かっている。すなわち高 CO2細胞の光合成効率は低い。これ に対して、PtSLC4-2を定常的なプロモーターの制御下で高発現した変異体細胞は、高 CO2培養においても PtSLC4-2を高発現し続ける。この変異体の高 CO2生育細胞の光合成パラメーターを決定した結果、同条件 の野生型細胞よりも無機炭素に対する親和性が有意に高くなっていた。また細胞内の無機炭素蓄積量も有意 に上昇していることがわかった。

 PtSLC4-2高発現株における無機炭素取り込み能を直接評価するため、ガスクロマトグラフィーを用いた 新規測定法を確立し解析した結果、PtSLC4-2高発現株において、無機炭素の取り込み能の大幅な上昇が認 められた。また、SLC4 阻害剤である4,4ʼ-diisothiocyanostilbene- 2,2ʼ-disulfonic acid(DIDS)で細胞を処理 すると取り込みが阻害された。細胞膜の無機炭素フラックス数理モデルを構築し、実測値を代入した結果、

この変異体では無機炭素取り込み総量のうち、約50% が PtSLC4-2によるものであることが示された。一 方、測定時の培地の pH を9.5、8.2、7.5と3段階に分け、無機炭素取り込み能を評価した結果、pH が8.2で は高 CO2野生型細胞が無機炭素をほとんど取り込まないのに対し、高 CO2環境下で生育させた PtSLC4-2高 発現株においては、最大の取り込み能を示した。pH8.2においては、CO2がほとんど存在せず、9割以上が HCO3- の形態で存在することから、PtSLC4-2は、HCO3- 輸送体であることが証明され、現在の海洋表層の 一般的な pH である8.2で、PtSLC4-2は、最も機能を発揮することがわかった。

 哺乳類の SLC4ファミリーには、Na+/HCO3- 共輸送、Na+駆動型 HCO3-/Cl- 交換輸送、および HCO3-/Cl- 交換輸送の3タイプの輸送モードがあるとされる。PtSLC4-2の HCO3- 輸送におけるエフェクターイオンに ついても検討した結果、Na+を添加した際にのみ、顕著な HCO3- の取り込み能と光合成効率の上昇が認め られた。このことから、PtSLC4-2は、Na+/HCO3- 共輸送体あるいは Na+駆動型 HCO3-/Cl- 交換輸送体であ ることが示された。

 第3章では環境 CO2濃度センサーの探索を行っている。珪藻の無機炭素獲得機構は濃縮機構と呼ばれ CO2

濃度が高い環境では抑制される仕組みであることが知られている。しかしこの CO2感知にかかわる分子機構 は謎である。これまでの知見からP. tricornutumにおける CO2感知機構にはセカンドメッセンジャーである サイクリック AMP(cAMP)が関与していることが明らかにされており、哺乳類などにおいては、cAMP 合成酵素であるアデニル酸シクラーゼ(adenylyl cyclase : AC)が CO2/HCO3- によって直接的に活性化さ れることが示されている。P. tricornutumの細胞破砕液中の AC 活性を測定した結果、細胞破砕液の可溶画 分と沈殿画分それぞれに HCO3- 添加によって活性化される cAMP 合成酵素の存在が確認された。さらに、

P. tricornutumのゲノム及び expressed sequence tag (EST)情報を用いて、CO2/HCO3- によって直接的に活 性化される可能性がある AC 候補を探索した結果、1つの可溶型 AC 及び2つの膜型 AC が候補として挙がっ た。現在、これら環境 CO2センサー候補タンパク質の機能解析には至っていないが、今回の成果とこれまで の研究結果とを総合的に判断して、3つの候補因子が CO2センサーとして機能している可能性が強く示唆さ れた。

 第4章ではこれらの結果を総合的に考察し、今後の課題及びそれに対する方策を示している。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 本学位論文は、哺乳類の SLC4ファミリーに属する PtSLC4-2が、細胞膜上で Na+をエフェクターとして 海水から直接 HCO3- を取り込んでいることを明らかにしている。今回の成果は、海洋の主要な一次生産者 において、HCO3- 輸送体を同定した初めての例であり、CO2欠乏環境である海洋における主要生産者の無機

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炭素獲得機構を知る重要な分子知見と考える。また、CO2制限下で顕著に誘導される2つの無機炭素輸送体 候補因子も発見しており、これは、今後海洋性珪藻類における無機炭素獲得機構の包括的な解明に重要な情 報をもたらすものである。同時に、哺乳類などの体内で pH およびイオンのホメオスタシスを維持する為に 働いている溶質輸送タンパク質と、起源を同一にするタンパク質が海洋における炭素循環のバランス維持に かかわっていることが明らかにされており、生物進化のダイナミズムを示す興味深い結果と言える。これら の結果は、海洋性珪藻類の一次生産とその環境応答に関わる新たな知見として意義のあるものであると判断 した。本論文の内容はすでに国際光合成学会誌Photosynthesis Researchおよびアメリカ科学アカデミー紀要

(PNAS. USA)の2報の主要論文と4報の関連論文に掲載されている。また、2010年水生生物による無機炭 素利用に関する国際シンポジウムと2011年ゴードン会議の2度の国際学会で自らポスター発表をしている。

審査委員は本論文の内容を中心に面接と公開の論文発表会を行い、著者が、論文内容と用いた技法について 充分な理解とともに、関連する分野についても学識を有し、また将来の研究遂行に対しても十分な能力を持 つことを確認した。以上のことより、審査委員会は本論文の著者が博士(理学)の学位を授与されるに足る 十分な資格を有するものと判定する。

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