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【研究論文】JSL 児童の算数的思考力と日本語能力を統合的に伸長させる指導法—パターンブロックを使用した実践研究—

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JSL児童の算数的思考力と日本語能力を. 統合的に伸長させる指導法. ―パターンブロックを使用した実践研究―. 大 竹 文 美. 1.はじめに. 1990 年の「出入国管理及び難民認定法」の改正により、急激な在留外国人の増加に. 伴い、その家族である在留外国人児童(以下 JSL1児童とする)が、学校教育の中で学. 習困難という傾向にある2。子どもたちの多くが来日後半年から 1 年のうちに生活言語. を話せるようになる(佐藤他, 2005)。それゆえ、学習困難の問題が起こる原因は、単. に日本語会話力の問題ではなく、日本語指導と教科指導が切り離されて行われている. ことに問題があると考えられる。さらに、指導された日本語ではなく、児童自らが話. したいと思う日本語を習得することで、日本語能力の伸長も図れるのではないかと筆. 者は考えた。文部科学省も JSL カリキュラム3で指導法を模索していると述べている。. そこで、筆者は自身の長年にわたる幼児教育の経験とそこから得られた知見から、. 日本語が未熟な日本語を母語とする幼児と同じように、日本語が未熟な JSL 児童にも. 具体物を使って算数的活動4が行えるのではないか、また児童自らが心の表出を言葉に. しようとすることで、日本語能力を伸ばすことができるのではないかと考えた。. 筆者は、ハンズオン・マス5教材の 1 つであるパターンブロック6(以下 PB とする). を幼児教育の講師時代に使用していた。PB が算数的活動に有効であることは、著書(高. 1 JSL は、children learning Japanese as a second language の略である。 2 2019 年文部科学省の発表によると外国籍児童の 76.9%が教科の補習を受けている。 3 JSL カリキュラムは、文部科学省が平成 13 年度より JSL 児童が学校での学習や生活に円. 滑に適応できるようにするため、日本語指導の初期学習から教科学習につながる段階ま. でをカバーするものとして作成した。 4 算数的活動とは、学習指導要領の目標の中で言及される「算数的活動」を意味する。 5 本稿 2.3 節参照 6 パターンブロック(Pattern Blocks)は、ハンズオン・マス教材の代表的な 1 つであり、. 算数の授業の導入などで使われる具体物である。. 『言語習得と日本語教育』第 1 号(2021) 〔研究論文〕. 36. 橋・柳瀬, 1997 など)や論文(上田, 2002 など)でも明白である。さらに、筆者は PB. を使って幼児に自由制作をさせた際に、幼児が楽しく取り組み、「創造力・表現力・. 言語能力」などが伸長することを実感した。筆者は幼児教室の講師に向けて、自由制. 作を取り入れた指導書を作成した経緯があり、PB の有効性を熟知している。本研究の. 目的は、PB を JSL 児童の学習教材として使用することで、JSL 児童の算数的思考力と. 日本語能力を統合的に伸ばせるのではないかという推測に基づき実践を行い、JSL 児. 童への効果を明らかにする。さらには、JSL 児童が本来持っている思考力に焦点を当. てた新しい教育方法が、学習困難解決の一路になればと考える。. 2.先行研究. 2.1 思考力. 思考とは、国語辞典によると「直感・経験・知識などをもとに、あれこれとおもい. めぐらすこと」と書かれている。今井(2010: 7)では、「心理学では、思考は、人が. 心の中で行う認知活動すべてを指す」「人が無意識に行っている認識行為も含める。. この捉え方をすると、ことばを話し始める前の乳児も思考することになる」とある。. 本稿 1 節で触れたが、言葉が未熟な幼児でも言葉を用いずに図形や数の算数的活動を. 行うことができ、能力の伸長が図れたという筆者の具体の経験もある。ヴィゴツキー. (2001: 136)では、「言語的思考は、思考のあらゆる形態、ことばのあらゆる形態を. おおうものではない。言語的思考と直接の関係は持たないような思考の大きな領域が. ある」としている。また、「思考とことばの発生的根源ならびに発達路線は、一定の. 時点まで別々である」(ヴィゴツキー, 2001: 144). 肥田(1982)によると、思考には 3 つの領域「概念・図形・記号」があるとされる。. 概念・・・言葉の意味で憶えたり、考えたりする能力. 図形・・・ものの形、位置、方角などで憶えたり、考えたりする能力 . 記号・・・数、音、色などで憶えたり、考えたりする能力. この 3 つの思考の領域のバランスを三角形を使用して表してみると、図1のようにな. る。図中の三角 A のように 3 つの領域がバランスよく発達した正三角形を理想とする. が、例えば、図中三角 B のように概念は得意だが図形を不得意とする子ども、図中三. 角 C のように概念は不得意だが図形や記号を得意とする子どもなど、個人差が出るこ. とは想像される。JSL 児童の中には、図中三角 C のように概念が不得意でも図形や記. 号が得意な児童がいると考えられる。この場合の得意とは、他の児童と比較するので. はなく、あくまでも個人の思考の 3 つの領域のバランスを見るものである。本研究で. は、概念の領域を日本語能力とし、図形と記号の領域を算数的思考力として捉える。 . 37. C. 概念. 言葉の意味で憶えた り、考えたりする。. 形、位置などで憶えた り、考えたりする。. 数、音、色などで憶えた り、考えたりする。. 記号 図形. A B. 図1 思考の三領域のバランス. 2.2 頭脳適正に合った教育. 教育を脳科学の観点から考える研究がある。脳の成長の仕組みを知って、教育に活. かすことが、教育効果を上げるとされている。林(2015: 8)では、「脳は「統一・一. 貫性の本能7」に従って、よくわからないものに対しては、自分を守るために、それを. 嫌いになり、興味を示さなくなる。嫌いになったものは、理解できないし、おぼえら. れない」とある。また、肥田(1982)においても、同じように自分の頭脳適性に合わ. ない勉強などが、勉強を嫌いにさせ、勉強に興味も持てず、学力を上げることができ. ないと述べられている。JSL 児童も日本語指導が優先される中で、本来持っている得. 意な能力を伸ばすことができず、勉強に興味が持てないことで、学習困難になってい. る児童が少なくないと推察される。. 2.3 ハンズオン・マスの有効性. ハンズオン・マスとは「体験的な活動を通した算数」ということである。ハンズオ. ン・マスの授業の実現は「体験的な活動」「身体知の活動」「算数的活動」「創造的. な活動」(坪田, 2004: 50)であり、ハンズオン・マスの代表的な教材である PB に関. しても「児童が学習に対して大変意欲的に取り組み、自由に考え、自然な雰囲気の中. で多様な考えや解決が顕著に見られる」(高橋, 1997: 134)とある。筆者が幼児教育の. 講師時代に得た知見と合わせ、有効性を次のようにまとめることができる。. ① 頭で考えても思いつかなかったことに気付くことができる。. ② 具体的に手を動かし体験したことは身につきやすい。. ③ 言語を使用しなくても自分の気付きや算数的思考を表現できる。 . 7 統一・一貫性の本能とは、人間の本能は無意識に頭が良くなりたいと願い、スジの通っ. た、正しいと思われることを好むということである(林, 2015: 3)。. 38. ④ 創造力が身につく。. ⑤ 楽しく取り組め、算数的活動に興味や関心が持てる。. また、ジャン・ピアジェは 1930 年代から 1970 年まで続いた教育的論考で、「子ど. もの活動」、「教師の役割」、「教材の重要性」を述べてきた。その中で、子どもの. 活動は手で扱ったり、経験したりするときに働き、思考による構成の活動となること. から、経験の必要性を述べた。そのためにも教師は適切な教材をクラスで利用しなけ. ればならないということである(ジャン・ピアジェ, 2005)。経験する算数教材という. ことで、ハンズオン・マス教材の有効性は、ジャン・ピアジェの教育論からも推し量. れる。. 3.本実践研究の課題. 本研究では、筆者の経験をいかしながら、ハンズオン・マス教材の 1 つである PB. を使用し実践を行う。JSL 児童も図 1 で示した三角形の得意な思考の領域を伸ばすこ. とで自信をもち、特恵効果8が起きるのではないかと考えた。日本語指導を優先させる. のではなく、具体物を使い自由制作や算数的活動を行うことで、今までにない新しい. アプローチの実践を行う。本実践研究の課題を次の 2 つとする。. 課題Ⅰ JSL 児童は、PB を利用した自由制作の活動を通して、心を表出するための. 日本語を使おうとするのか。. 課題Ⅱ JSL 児童は、日本語能力が未熟でも、PB を利用した算数的活動に取り組む. ことができ、算数的思考力を伸長させることができるのか。. 4.実践研究方法. 4.1 実践対象者. 本実践対象者は、母国語で育ち、日本語がほぼゼロベースで小学校に入学し、日本. 語を第二言語として習得過程にある JSL 児童とする。さらに算数が苦手で、取り出し. 授業9を受けている児童 A10を実践対象者とする。児童 A のプロフィールや小学校入学. 前後の様子および日本語使用について、表 1 に記載する。. 尚、表 1 に記載した取り出し授業時や国際学級の宿題教室での児童 A の様子は、筆. 者自らが観察したものであり、本教室での様子は、担任教師へのインタビューによる. ものである。さらに、入学準備の内容については、児童 A が入学前に通った NPO 法. 人 AJ の指導報告書への記載から得た内容である。. 8 特恵効果とは、教育心理学用語で、得意な面を活かして学習するということである。 9 取り出し授業とは、児童の本クラスから離れ、他教室で数名が一緒に分かりやすい日本. 語で学習支援を受けることである。 10 実践は 2 名の児童について行ったが、本稿では、1 名のみの実践例を紹介する。. 39. 表1 JSL 児童Aのプロフィール. 4.2 データ収集方法. 筆者は、U 小学校に週 1 回、国際学級の宿題教室で支援を行った。宿題指導が終わ. った後の時間を利用して、児童 A を別室に取り出し、1 対 1 で PB を使用した実践を. 行った11。宿題が終了してからの時間ということで、学校側の都合により毎回取り出. せる時間に差があり、15 分から 30 分という差があったため、実践タスクの内容は時. 間に合わせて調整した。. 11 実践は学校及び保護者の承諾を得て行われた。. 性別/学年 女児/1 年生 9 月~2 年生 7 月. 母国/母語 ブラジル/ポルトガル語. 家族構成. 家庭内言語. 両親と 7 歳上の兄. 両親とはポルトガル語、兄とはポルトガル語と日本語で話す。. 小学校入学までの経. 緯と入学準備. 母国で幼稚園に通い、日本の小学校入学の前年夏に来日する。入. 学前 NPO 法人 AJ にて、1 回 2 時間 2014 年 1 月 7 日から 3 月 11. 日まで 12 回、母語で指導を受ける。指導記録には、「ひらがな. が読めるようになり、簡単な挨拶、単語をいくつか日本語で言え. るようになった。」と記載されている。. 入学時の日本語能力 「水・先生・トイレ」のみしか言えず、当時は日本語が分からず. 毎日泣きそうになっていた。. 取り出し授業での様. 子. 毎日 2 時間国語と算数の取り出し授業を受けている。. 真面目に先生の話を聞いて、手をあげることもあるが、発問とは. 違う答えをしてしまうこともある。. 本教室内での様子 入学してからの前期は、全く日本語が理解できなかったためか、. 自信を無くし、クラスでも無口になっていた。しかし、小学 1. 年後半では、他の児童とコミュニケーションが取れており、休み. 時間も一緒に遊んだり、放課後も友だちと遊ぶようになる。授業. も真面目に参加し、手を上げて発言することもある。. 国際学級宿題教室で. の様子. 真面目に取り組むが、1 年生の冬までは読めない平仮名があり、. 周囲の児童が上手に読んでいると、自信をなくし、読みたがらな. かった。算数も取り出しで習った内容を習得していないことが多. かった。. 40. <期 間> ・2014 年 9 月 10 日~2015 年 7 月 8 日 22 回. <データ収集> ・IC レコーダに会話を録音し文字に起こす。. ・PB のタスクと自由制作作品を写真に収める。. ・フィールドノートに観察記録を記す。. 4.3 実践内容. 実践では、PB を使用し、自由制作と算数的活動のタスク1217 回を行った。自由制作. は時間を十分に使った。理由は、実践対象者が自由な発想を楽しみ、創造力と表現力. を伸長させると共に、実践者とのコミュニケーションツールとしての役割を果たすと. 考えられたためである。さらに、三森(2013: 77)は、「子どもが積極的に取り組むた. めには、自分で考え、それを表現する機会を与えることが重要である」と指摘してい. る。自由制作では児童が楽しく取り組み、自らが表現したものを説明することで、能. 動的に日本語を使用し、継続的に日本語能力を伸ばしていけるのではないかと考えた。. 自由に好きなものを制作するだけではなく、与えられた課題を制作することもあった。. 算数的活動は、筆者が設定した各タスクにおいて、幼児教育の講師時代の経験から「基. 礎・気づき・高めたい算数的思考」を念頭に段階的に進めた。. 4.4 実践分析方法. 自由制作と算数的活動をそれぞれ分けて分析し、本実践を取り組む過程で必要な思. 考をハンズオン・マス教材の有効性と筆者の知見から「算数的思考力、創造力、表現. 力、日本語能力」の 4 つと考え、それぞれの視点から分析を行う。尚、表現力は、算. 数的思考力と日本語能力の発達に共通して作用するものであると捉え分析する。具体. 的な分析の観点は、以下の通りである。. (1)算数的思考力. 3 つの算数的思考「規則性を見出し帰納的に考える」、「きまりを導き出し. 類推的に考える」、「個別の事実を統合して考える」(金本, 2008)の観点に. 基づき、各算数的課題における「迷い、気づき、達成のためのアドバイス」. なども合わせて分析を行う。. (2)創造力. ヴィゴツキー(2002: 15-16)と筆者の知見から「過去の体験、構想、心の表. 出」の 3 つとし、会話データや作品から分析を行う。. 12 PB のタスクについては、坪田他(1998)を参考に筆者の知見とも合わせ、小学校低学. 年が取り組める範囲を考慮し設定した。各タスクの内容は、本稿 5.3 節の表 2 に記載。. 41. (3)表現力. 「会話・表情・説明」を会話データや作品の説明などから分析を行う。 . (4)日本語能力. 実践過程での児童と筆者との会話から、以下の 5 つの点に着目し、児童 A 自. らが積極的に使用する日本語を分析する。 . ① 身振り手振りや簡単な語彙を使用した補償ストラテジー。. ② 児童のエラーやミステイクを筆者が正しく繰り返す。. (児童の発話意欲を妨げない範囲で行う). ③ 筆者の質問に答える。. ④ 自らの体験を話す。説明する。物語を作って、創作話をする。. ⑤ 自らの心の表出により発せられる「つぶやき、フィラー、オノマトペ」等。. 5.児童Aへの実践結果. 5.1 自由制作例. 自由制作① 2014 年 10 月 22 日. (実践を行った日付を各実践において同様に記述する). 【活動の観察結果】. 講師はテーマなど与えず、児童 A が PB の入った. 箱の中から自由に PB を取り出し作り始める。正方. 形を並べて、階段に見立てたすべり台を作り、台形. を囲むように並べて公園とする。六角形の上に台形. を 2 個乗せお寿司のマグロとご飯に見立て、自然に. 図形の合成を行っている。青いひし形で海を、三角形で魚を表現する。色と形に着目. している。. 【会話の実例】. *実践者 T と児童 A の会話(以下児童 A への各実践内で同様に記述する). T 1: 今日は何作る?. A 1: お水しってる?(青を並べる). T 2: 水? 海かな? 海。. A 2: 海。さかなやるとき、青全部使おう。おつりの時、これがおつり。. T 3: 釣りね。釣りやってるのね。誰がやるの?. A 3: まだわからない、考えだし。. T 4: 考えてるの?・・・・ 何の魚かなあ?. A 4: これがちっちゃい魚、知ってる?. ちっちゃい魚、おっきい魚つくろ。はい、大きいし。. 42. おひさま. 月. 子ども. 海 と 魚カニ. T 5: マグロかなあ?. A 5: お寿司のマグロ!(得意そうに弾んで発話). お寿司のマグロ作ったことあるよ。こうやってお魚、ごはん。ハイ、できた。. フフフ、お寿司をおうちに帰って、明日も国際あればいいのに。. 【活動の観察結果と発話に基づく分析】. 児童 A は A1 下線で「海」のことを「お水」と発話し、「海」という語彙を知らな. かったが、母語で知っていた海の概念を PB で表すことで、日本語の「海」とマッチ. ングさせた。普段の買い物などの時の A2 下線「おつり」と魚釣りの「釣り」を音と. して覚えており、「釣り」を「おつり」と表現してしまったのではないかと推察され. る。自らは魚の名前は出てこなかったが、T5 下線「マグロかなあ」で、自分が知って. いる「マグロ」が出てきたことの喜びと自分の作品への達成感で、家を作り、お寿司. を作って完成させた。A5 下線のように聞き手の知らないことに注意を向けさせる終助. 詞13の「よ」が使用できている。A5 二重下線「明日も国際あればいいのに」は、国際. 学級でのこの実践への満足感の表れと考えられる。. . 自由制作② 2014 年 11 月 5 日. 【活動の観察結果】. 「海で遊んだ思い出」が表現されている。. 青いひし形で空と海を描き、雲と砂は黄色. い六角形で描き、台形を立てて子どもに見. 立てる。おひさまと月が写真では、同時に. 出ているように見えるが、交互に上下に動かし、. 海から出てくる様子を表す。児童 A は太陽と. 月の関係を知っている。六角形に三角形を 6 個つけて、太陽を表現する。魚やカニ、. 子どものように形からのイマジネーションと空と海などの色からのイマジネーション. を混用し、表現している。. 【会話の実例】. A 1: 空と雲、私ね、今日の夢はねえ、空で雲いっぱいあって、水、水、海で、. お母さんとみなさんで私と遊んで嬉しかったの。子どもたち海に入って、こ. れ子どもたち、キャハハ(笑い)なんだっけ、ちょっと、海の時ね、出るの時. にあれ?す、す、何だっけ?. 13 文法に関する記述は、庵他(2000)、庵他(2001)を参考にした。. 43. T 1: す・・水泳?. A2: 水泳じゃない。出るのときに、しゃがむのときに何だっけ?きいろいこえんあ. るもの。. T 2 : すべり台?・・ああ、すな?すなのあるところ?砂浜?. A 3: すな。. T 3: 砂浜って言うのよ。これは何?(赤い台形). A 4: 子どもたち、あと、カニさんきてになりました。フフフフフ、私カニさんち. ょっと嫌いなんだけど 1。うん、食べるの時きらい。食べたらねえ、ちょっと. ねえここ(ほほを指差して)丸くなっちゃうの。エビも・・・ここに魚つくろ。. あと、海の中でカニさんあります。雲、そして 2、きれいな(お日様の形を作. って)何だっけ?かみさま 3?. T 4: おひさま?. A 5: おひさま、きれいなおほさま . T 5: おひさまね。太陽ね。. A 6: あとねえ、どんどん黒くなってきた。(太陽を下に動かして、海に沈むイメージ). T 6: だんだん暗くなってきたの?. A 7: どんどん子どもたち帰ってきました。次に朝になりました。(太陽を上に上げ. て日が昇るイメージ)ちょっとだけ、どんどん、ちょっとだけねえ出てくる。そ. してねえ、どんどん海に出てくる(次に太陽を下げて、日が沈むように動かす)そ. したらね、おつきが出てくる。 . T 7: わー楽しそうだなあ、上手にできたねー。. A 8: フフフフ、フフフ・・・(嬉しそうに笑った). 【活動の観察結果と発話に基づく分析】. 児童 A は PB で作品を作るときに、初期にはよく海が出てきた。T は夏休みの思い. 出を描いていると解釈していたが、児童 A の会話から後になってわかったことだが、. ブラジルでは海の近くに住んでいたらしく、児童Aは、日常の中で海や、海から昇る. 太陽や月の様子を見ていた。思い出される風景を懐かしく思う心の表出に、楽しくて. 仕方がない様子は、A 8 下線「フフフ・・」という笑い声からも感じられる。A 4 下線. 3「かみさま」は「おひさま」と「かみさま」の共通の「さま」からエラーが起こって. いるが、前回の自由制作で太陽を作った時に、「おひさま」という語彙をTが発話し. ていたので、その記憶を呼び起こそうとした上でのエラーである。日本語習得過程と. しては、語彙が増えた結果であると考えられる。自由制作①では、1 度に話す内容が. 少なかったが、自由制作②では、A 1、A 4、A 7、のように言葉が途切れることなく伝. えたいことを存分に伝えている。また、A 1 の発話では下線の終助詞 13「ね」「ねえ」. 44. (①-2). TS1 (①-1). 「の」を使い分け、女児らしい発話となっている。助詞や活用のエラーがあるものの、. 聞き手が理解できるレベルである。A 4 下線 1「なんだけど」のように「のだ文 13」や. A4 下線 2 接続詞「そして」、A6 下線「どんどん」のような副詞も「だんだん」と混. 同しているものの使用している。. 5.2 算数的活動例. タスク① TS141 を使用。2014 年 9 月 17 日 . ◆タスクの目的. (①-1) ・PB の特徴を捉える。. ・色の名前と形の名前を確認。. (角の数が名前になる). ・TS1 に同じ形を置く。. (①-2) ・六角形、台形、ひし形を他の PB で置き換える。. ・角と辺をピッタリ合わせる。. ・正方形は PB の正三角形では作れないことを確認。. 【活動の観察結果】. 児童 A は初めて PB に触れ、色の名前は全て知っていた。形の名前はどれも知らな. かったが、①-1 のように形にピッタリの PB を置くことができ、①-2 のように六角. 形、台形、ひし形を他の形を合成させて作り、今回のタスクを達成させた。図形の性. 質やきまりがわかり、形の名前に規則性を見出すこともできた。. 【会話の実例】. T 1: これは角が 1,2,3 だから、さんかくっていう形。これは角がいくつある? . A 1: いち、に、さん、よん、よんかく。. T 2: いち、に、さん、しでしかくっていう形。じゃあ、これは?(六角形を渡す). A 2: いち、に、さん、し、ご、ろく、ろくかく。. T 3: そうね。ろっこだから、ろっかっけいって言うのよ。ろっかっけい。. じゃあ、これは?(台形を渡す). A 3: いち、に、さん、し、しかく。(弾むように答える). T 4: そうね、いち、に、さん、し、しかくね。でも、これ(真四角)と形が違うで. しょう。プリンみたいな形、跳び箱みたいでしょう。これは、特別な名前があ. 14 TS は、タスクシートのことで TS と表記する。算数的活動 17 回のうち、TS を使用した. ものは TS1 から TS8 までの 8 回である。. 45. って、台形って言うのよ。でも、角が 4 つで、いち、に、さん、し、だから四. 角の仲間。じゃあ、これは?(ひし形を渡す). A 4: いち、に、さん、し、しかく。(弾むように答える). T 5: そう、しかく! 四角の仲間。でも、特別な名前があって、ひし形って言うの. よ。トランプのダイヤみたいでしょう。じゃあ、これは?(細いひし形を見せる。). 何の仲間?. A 5: いち、に、さん、し、しかく 四角の仲間。. 【活動の観察結果と発話に基づく分析】. 児童 A は四角の角の数を数え、4 個ということで帰納的に考え A1 下線のように「よ. んかく」と答えた。児童 A は助数詞を付けずに物を数える時に A1 下線「いち、に、. さん、よん」と発音する。これは日本語母語話者の幼児や日本語学習者が日本語習得. 過程で、助数詞をつけた時に「よん」で覚えておいた方が、助数詞をつけても「4 本、. 4 個」のように発音しやすいという理由から、「いち、に、さん、し」と数えなくな. っている傾向がある。「四角(しかく)」「四月(しがつ)」を例外的に習得するよ. うだが、児童の場合は、2 年生で九九を習うため、「いち、に、さん、し」という数. え方も習得する必要がある。児童 A はすぐに「いち、に、さん、し」という言い方を. 習得し、A3、A4 下線のように基本的な形が言えている。また、今回のタスクでは、. 「仲間15」という概念を学習した。「仲間」とは「一緒に何かをする人々」だけに使. うのではなく、共通点をもつカテゴリーを表す意味もあることを知り、A5 下線のよう. に図形の共通点を見つけ、帰納的に考え「仲間」とすることができた。. タスク⑫ TS4 を使用。2015 年 6 月 3 日 TS4. ◆タスクの目的. ・TS4 の正三角形を作る。. ・台紙なしでも作れるか。. ・PB をいくつ使って作ったか。. ・指定した PB の数で作る。. ・基準にする正三角形の PB の数から、PB の数を加減するための工夫ができるか。. 【活動の観察結果】. TS4 の台紙の上で正三角形を作る。最初に 3 つの角に PB の三角形を置き、次に六. 15 仲間とは、幼児の思考の領域である概念を育てる方法として、「魚の仲間」「鳥の仲間」. など、分類させることを取り入れる方法がある。私立小学校などの入学試験でも「こ. の絵と同じ仲間に丸をつけましょう。」と発問されることがある。. 10 個 9 個 8 個 7 個. 46. 角形を置き、残りの空間を埋め、PB 7 個で完成させた。もう 1 つ作るように指示する. と、今度は、PB 9 個で完成させた。しかし、台紙を使わずに正三角形を作ることはで. きなかった。次に 7 個と 9 個の間の 8 個で作ることを指定した。すると、無計画に作. り始めたが、途中で PB を数えると 4 個だったので、その後は、空間に PB を置きなが. ら 5,6,7,8 となるように、PB を選びながら置き、完成させた。PB 1 個分以上の広さの. 空間を見て、何で埋めるかを考えることができるようになった。次に 10 個で埋めるこ. とを指定すると、類推的に考え、数を増やすためには小さい PB を使うことに気がつ. き、PB の中の 1 番小さい三角形だけで作り始め、途中で 10 個になってしまうことに. 気がつき、調整することもできた。空間図形の認知能力が伸びてきたと推察される。 . 【会話の実例】. T 1: 7 個、8 個、9 個の三角ができたから、こんどは 10 個でできる三角形作って。. A 1: むりむりむり、あーわかった、だってねえ、7 は大きいやつ 1 をもっと 2 入れた. の。それで、9 個は小さいやつをもっと入れたの。それで、8 個は大きいやつ、. 小さいやつを半分こ 3 して入れたの。10 はもっとちっちゃいやつを入れるだけ。. T 2: そうだね。よく気がついたね。ただ滅茶苦茶に入れるんじゃなくて、考えてい. れるといいよね。. A 2: えーと何だっけ?真剣に 1 やらないと全然できないよ。えーと何だっけ、めん. どくさくやると 2…(三角形を沢山使いすぎて、試行錯誤している。). あっわかった、これを置いたら、そんなに 3 多くならないから…1,2,3,4,5,6・7・. 8・9・10!(6 個目から考え始め、台形などを置く)できた!(大きな声). フー(安堵したようにため息を吐く). 【活動の観察結果と発話に基づく分析】. 今回の実践は、実践開始から 9 ヶ月経っており、日本語の習得がかなり進んでいた. が、A1 下線 2「もっと」の使用にエラーが出ている。日本語の「もっと」は基準にな. るものがあり、「それよりも」という意味を持たせるが、児童 A の場合「たくさん」. という意味で「もっと」を使用している。また、A2 下線 2「めんどくさくやると」は. 「めんどくさいと思ってやると」または、「いい加減にやると」の意味で使用されて. いると推察される。また、A1 下線 3「半分こ」のように日本語母語話者の子どもが使. うような語彙や A2 下線 1,2,3「真剣に」「めんどくさく」「そんなに」のように、日. 本語学校の学習テキストでは、中級に出てくる語彙も使えるようになっている。また、. 本来は準体助詞 13 の「の」を使って「大きいの」と表すべきところを A1 下線 1「大き. いやつ」のように「やつ」が頻繁に使用されている。これは日本語学習テキストには. 出てこないが、周囲の日本語発話者の影響を受けていると思われる。. 47. 5.3 実践の結果と考察. 4.4 節の実践分析方法に基づき、「算数的思考力」「創造力」「表現力」「日本語能. 力」の 4 つの観点で考察し、総合的考察へ進む。. (1)算数的思考力. 算数的思考力は算数的活動を行うときに働く思考力であるが、タスク①において、. 初めて PB のタスクに取り組んだにも拘わらず、その前に行った自由制作の過程で図. 形の合成ができていたことから、類推的に考え、正六角形の PB を台形や三角形で作. ることができた。さらに、タスク⑫で、1 つの図形に使われる PB の数を増減させるた. めには、大きい PB を使用して作れば数が減り、小さい PB を使用して作れば数が増え. ることを説明できていることから、それまでのタスクの経験から習得できたものを統. 合的に考えることができたと言える。児童Aは、表 2 に示したタスク 17 回の内容のう. ち 13 課題でタスクの目的を達成することができた。また、表 2 より思考の 3 つの領域. 16の中で、図形の領域を得意とすることが考えられる。日本語能力が未熟な段階でも、. 十分に算数的活動が行え、空間を見極め、図形の特徴や性質を見抜く能力もあると推. 察される。 . 表2 算数的活動タスクの達成. (○:達成 △:助言で達成 ×:達成できなかった). (2)創造力. 自由制作全般を通して、PB の形や色から発想し、絵を描くように創造することがで. きた。空想の世界を描くのではなく、本稿で取り上げていない作品も含め、ほとんど. が実体験(思い出、経験、聞いた話など)に基づく作品であった。児童 A の担任教師. に児童 A の作品の写真を見せた時、教師は非常に驚き、「図工の時間に描く絵は、単. 色で、画用紙に少ししか描かず、絵を描く事が苦手だと思っていた。」と述べていた。. 児童Aは絵を描くことに自信が無かったと思われるが、自信の無さの要因は、秦他. 16 本稿 2.1 節を参照。. タ ス ク. ① 図形の 認識. ② 数の差. ③ 図形の 合成. ④ 系列. ⑤ 図形の 合成. ⑥ 角度の 認識. ⑦ 相似. ⑧ 高く積 む工夫. ⑨ 陣取り 予測. 達 成 ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ○. タ ス ク. ⑩ 空間 操作. ⑪ 図形の 分割. ⑫ 合成 分割. ⑬ 合同. ⑭ 線対称. ⑮ 広さ比 べ面積. ⑯ 順序数 集合数. ⑰ 高く積 む工夫. 達 成 △ ○ ○ ○ ○ △ ○ ○. 48. (2011: 2)によると「上手かどうか」、「技能面での不安」、「意図が明確でない」、. 「自分の絵に満足できない」である。しかし、児童 A は PB の決められた形や色から. イメージし、技能面での不安要因も払拭され、児童 A 本来の創造力が PB を通して心. の表出と共に開花したと推察される。児童 A は、創造の喜びを知り、心を表出する手. 段として、PB の自由制作を楽しみながら創造力も伸長させていった。. (3)表現力. 自由制作や算数的活動タスクを通じ、PB を媒体として、言葉に頼らずとも、心や得. 意な能力を表出できた。また、日本語能力は未熟でも、説明したいという気持ちから、. 言葉で伝える努力もしていた。言葉での自己表現のために、日本語能力を著しく上達. させた。佐藤(2009: 7)では「ある成功場面などの特定の状況で自己高揚を感じる場. 合は「自己評価17」となる」とあるように、児童 A は会話の中でよく笑い、嬉しさを. 感嘆詞や体で表現して小躍りする様子から、自尊心を形成させたと考えられる。終助. 詞を使用し、会話に微妙な文脈を添えることで、表現力が豊かになった。学習言語能. 力とは、学習に必要な語彙を増やすだけではなく、発表力も含まれる(ジム・カミン. ズ, 2011)ため、児童 A は自分の活動の内容を述べたり、説明したりするために、着. 実に学習言語能力を伸長させたと推察される。. (4)日本語能力. 本実践を通して、児童 A 自らが表現したい日本語を身につけていった。補償ストラ. テジーで語彙を増やし、自由制作①では、終助詞「よ」しか使用が見られなかったが、. 自由制作②では、終助詞「ね」「ねえ」「の」など使い分けるようになった。本稿で. は紹介できなかった 11 月 19 日の自由制作の会話の中では、聞き手の知識を活性化す. る「動物わかんないでしょう」と疑問形の「これなんでしょう」の「でしょう 13」の. イントネーションによる意味の使い分けもできていた。また、「のだ文」も文脈に添. って使用し、日本語母語話者らしい表現が自然にできるレベルまで上達している。小. 学校入学前に入学準備教室に 12 回通ったにも拘わらず、入学時は「水・先生・トイレ」. しか話せなかったことを鑑みても、本実践での会話の中に表れた日本語能力の伸長は、. 齋藤(2011)にあるようにまる暗記ではなく、「関心・興味」を持ち、児童 A が PB. で表現した自由制作の内容や算数的活動の気づきを積極的に説明したいという気持ち. から日本語能力を能動的に伸ばしていったと考えられる。実践の回を重ねる毎に、自. 由制作や算数的活動の中で児童 A が発話した日本語能力の具体的な伸長を表 3 に記す。. 17 自己評価とは、佐藤(2009)では自尊心のことである。. 49. 表3 日本語能力の伸長. <総合的考察>. 児童 A は教科としての算数に学習困難が生じているということで、毎日取り出し. 授業を受けていた。確かに計算や文章題が解けず、自信が無く、日本語のリテラシー. にもかなり遅れがあった。日本語能力の未熟さも児童 A の自尊心を低くさせていた。. しかし、今回の実践のような教科から離れた内容重視のアプローチ18により、児童 A. が本来持っている図形に対し優位な思考力や自由制作で創造力を発揮することができ. た。橋本(2004: 54)でも「自己表出」、「他者からの承認」、「役割行動」、「積極. 的な活動」が言語少数派の児童には必要であると述べられており、また、「生活言語. から学習言語への発達は、抽象概念が子ども自身の具体的な知識や体験で裏打ちされ. る過程の中で発達が促される」(滑川, 2015: 49)とされるように、本実践の中で、児. 童の知識、体験を表現するために使用した日本語は、学習言語の習得に繋がったと考. えられる。児童 A は母国での生活や思い出を表現する喜び、算数的活動においても自. 分の考えを人に伝える喜びから、自尊心を取り戻し、積極的に日本語の習得を進め、. 概念を伸長させた。算数的思考力の中ではタスクの達成結果から特に図形を伸長させ. 18 内容重視のアプローチは、言葉を使って何をするかに重点を置いた言語教育方法論. Brinton,Snow,Wesche(1989: 7-8 ). 実践初期 実践後期. 生活言語の語彙が少ない。 生活言語を習得し、語彙が増えた。. 助詞や文法の間違いが多い。 助詞や文法の間違いが少なくなった。. 「のだ文」の使用は無い。 「のだ文」を効果的に使用する。. 単語のみ、または、単文での会話。 複文で話すようになった。. 接続詞は使用されない。 接続詞を使用し、使い分ける。. 終助詞の使用がほとんどない。. 副詞、オノマトペの使用が無い。. 各種終助詞を使い分ける。. 副詞、オノマトペを使用する。. フィラー、つぶやきが日本語で表れない。 フィラー、つぶやきが日本語で表れる。. 会話に消極的。 積極的に会話を楽しみ、説明もできる。. 50. たと推察される。図 1 に当てはめ、児童 A の実践初期 a1 が実践後期には a2 のような. 三角形に変化したことを図 2 に表した。. 図 2 児童Aへの実践により変化した思考の三領域のバランス. 6.本実践研究結果. 本実践研究は、JSL 児童への日本語教育と算数的活動の統合を目指す教育方法の 1. つになるのではないかと考え、課題を 2 つ立てて JSL 児童に対する有効性を探った。. 結果は次のとおりであった。. 結果Ⅰ JSL 児童は、自由制作の作品を通して心を表出するため、日本語能力を伸. 長させることができた。. 結果Ⅱ JSL 児童は、日本語が未熟でも、PB を利用した算数的活動に取り組むこと. ができ、算数的思考力を伸長させることができた。. さらに今回の実践で明らかになったのは、JSL 児童の得意とする思考力を引き出し、. 自信を持たせることで、心の表出を表現する手段としての日本語を受身ではなく、自. らが能動的に習得していくということであった。これまでの JSL 児童への教育は、日. 本語を習得しなければ、算数的活動もできないと思われ、日本語指導が優先されてき. た。しかし、筆者の知見であるハンズオン・マスの効果を利用し、PB という具体物を. 使用したことで、体験的活動が気づきや算数的思考を高め、算数が苦手とされていた. 児童 A にも算数への興味・関心が生まれたことを示した。また、自由制作での創造力. の伸長に伴い、児童 A 自らが作品の説明をしたいという思いから、積極的に日本語で. のコミュニケーション能力を身につけていったと推察される。. 児童 A が、算数的思考と自由制作の段階的伸長に挟まれ、日本語能力を広げていっ. た過程に焦点を当てたものを図 3 で表す。図の色付き部分の面積は、日本語能力の伸. 長の大きさを表した。各段階の線の外側に活動における主な変化を記し、その変化に. 対応して伸長した日本語能力の内容を色付き部分内の< >の中に記述した。「*」. では、具体的に習得した能力を示した。. 概念 概念. 記号 図形. a2 a1. 【実践初期】 【実践後期】. 図形 記号. 51. 日 本 語 能 力 の 伸 長. 算数的気づきを説明. . . . 思い出・体験を表現. . 7.まとめ. 子どもにとって、言語能力の発達は、思考形成に非常に大きな役割を果たす(今井 , . 2010)と言われているが、JSL 児童への教育が日本語指導を優先させ、算数の学習困. 難は、未熟な日本語能力によるものとする従来の考え方に筆者は疑問を抱き、本実践. 研究を行った。「思考とことばの発生的根源ならびに発達路線は、一定の時点までは. 別々である」(ヴィゴツキー, 2001: 144)とあるように、算数的思考には言語を必要と. しない活動領域もある。本実践の結果を整理すると、次のことが言える。まず JSL 児. 童が、日本語能力が十分な状態ではなくても、本来持っている算数的思考力を生かし、. 伸長が図れることを明らかにした。さらに JSL 児童の興味関心に焦点を当てた活動を. 行わせることで、JSL 児童が心の表出のために日本語を受身ではなく、能動的に使お. うとして日本語能力を伸長させることを示した。加えて、このような実践結果が得ら. れたことで、算数指導と日本語指導を統合的に行うことの有効性を指摘できる。JSL. 児童に対する新しい指導案として提案したい。. また、自尊感情を取り戻すのに必要なことは、「子どもたちに達成機会を多く与え. ること。学習課題の成功によって子どもたち自身に能力のあることを気づかせ、彼ら. の経験を肯定的に解釈させるようにしてやること」(遠藤他, 1992: 203)である。自ら. が気づき、達成できた喜びから、自尊感情も取り戻せたことが表情や言動から推察で. 算数的思考. 算数的活動に自信. <試行錯誤を言語で表現>. <指示を理解>. *語彙が増加. <作品を伝える>. *助詞や文法の間違いが極端に減少. *複文で接続詞を使用. *のだ文や終助詞で文脈を意識. *フィラー、つぶやき、オノマトペ. <作品にある物語を伝える>. 日本語能力. 自由制作. 写実的に表現. 図3 児童Aの日本語能力の伸長過程. 52. きた。「人間の脳は、気持ちと一体で機能している。という脳機能の基本を踏まえた. 教育」(林, 2015: 3)からも、本実践研究の結果が JSL 児童への学習困難解決の一路. になるのではないかと考える。さらに、JSL 児童の育成に必要な「自尊感情の形成」、. 「発達段階に応じた思考力と想像力」、「教科学習の基礎となる思考力」、「言語に. よる自己表現」、「他者の思考を言語を媒介として受け止める力」(清田, 2001: 76-77). を、本実践の対象者は習得することができたと推察される。. 算数的活動においては、単位換算、九九、公式など暗記をしなければならない課題. が残るが、認知言語学の視点からも年少者教育への示唆の中で「子どもが楽しみなが. ら産出したくなるような活動」「具体物を操作できるような教材が有効」(橋本, 2018:. 176)とあることから、JSL 児童への算数指導には、PB に限らず、他のハンズオン・. マス教材の使用も提案する。. 〈謝辞〉. 本稿は 2016 年度横浜国立大学大学院教育学研究科日本語教育修了に際し、提出した修士論. 文の一部を投稿規定に合わせ加筆修正したものです。修論執筆にあたり、ご指導いただきまし. た横浜国立大学教授橋本ゆかり先生、および実践研究にご協力いただいた方々、今回の投稿に. 適切なコメントをくださった査読者の方々に、心より感謝申し上げます。. 〈参考文献〉. 庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(2000)松岡弘(監)『初級を教える人のための日. 本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク. 庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(2001)白川博之(監)『中上級を教える人のため. の日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク. 今井むつみ(2010)『ことばと思考』岩波新書. ヴィゴツキー(2001)柴田義松(訳)『新訳版 思考と言語』新読書社. ヴィゴツキー(2002)広瀬信雄(訳)福井研介注『新訳版 子どもの想像力と創造』新読書社. 上田雅也(2002)「活動を重視した学習指導法の改善-パターンブロックを活用した面積指導. の改善-」『日本数学教育学会誌』, 84, 4, 2-9.. 遠藤辰雄・井上祥治・蘭千壽(1992)『セルフ・エスティームの心理学 自己価値の探求』ナ. カニシヤ出版. 金本良通(2008)「算数科における表現力の位置付けに関して」『日本数学教育学会誌』, 90,. 6, 18-28.. 53. 北原保雄(2010)『明鏡国語辞典第二版』大修館書店. 清田淳子(2001)「教科としての『国語』と日本語教育を統合した内容重視のアプローチの試. み」『日本語教育』, 111, 76-85.. 齋藤ひろみ (2011)「日本語教室における教師・子ども間の相互作用-内容重視型の日本語の. 授業における会話の分析を通して-」『国際教育評論』, 8, 1-10.. 佐藤郡衛・齋藤ひろみ・高木光太郎(2005)『小学校 JSL カリキュラム「解説」(外国人児童. の「教科と日本語」シリーズ)』スリーエーネットワーク. 佐藤淑子(2009)『日本の子どもと自尊心』央公論新社. 三森ゆりか(2013)「効果的にほめる-やる気をひき出すアプローチ」『児童心理』, 67, 1,. 76-80. ジム・カミンズ(2011)中島和子(訳著)『言語マイノリティを支える教育』慶応義塾大学出. 版会. ジャン・ピアジェ(2005)芳賀純・熊田信彦(監訳)『ピアジェの教育学-子どもの活動と教. 師の役割-』三和書籍. 高橋昭彦(1997)「パターンブロックによる操作活動を取り入れた図形指導の研究-小学校低. 学年における実践を中心に-」『日本教材学会年報』, 8, 132-134. 高橋昭彦・柳瀬泰(1997)『パターンブロックで創る楽しい算数授業』東洋館出版社. 坪田耕三(2004)『坪田式 算数授業シリーズ 2 算数楽しくハンズオン・マス』教育出版. 坪田耕三・高橋昭彦・柳瀬泰(1998)『パターンブロックで創る楽しい算数授業 Part2』東洋. 館出版社. 滑川恵理子(2015)「言語少数派の子どもの生活体験に裏打ちされた概念学習-身近な大人と. の母語と日本語のやり取りから-」『日本語教育』, 160, 49-63.. 橋本ゆかり(2004)「言語少数派の外国人児童のアイデンティティ形成にて必要とされる環境. 要因へのプラス作用-母語に焦点を当てた活動-」『多言語多文化社会を切り開く日本語. 教育と社員養成に関する研究』平成 16 年度科学研究費補助金研究 基礎研究 B(2)課題. 番号 14380117 研究 代表者岡崎眸 研究成果中間報告書(研究論文編), 54- 65.. 橋本ゆかり(2018)『用法基盤モデルから辿る第一・第二言語の習得段階-スロット付きスキ. ーマ合成仮説が示す日本語の文法』風間書房. 秦千暁・山口亮大・河手想志(2011)「自らの絵画表現に自信をもつ児童を育む指導の在り方」. 『研究紀要』, 873, 1-34. 林成之(2015)『素質と思考の「脳科学」で子どもは伸びる』教育開発研究所. 肥田正次郎(1982)『頭脳適正』日本工業新聞社. 54. Brinton,D., Snow,A. and Wesche,M.(1989) Content-Based Second Language Instruction, Newbury . House Publishers.. 文部科学省 HP「外国人児童生徒等教育の現状と課題」. <https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile . /2019/08/23/1420501_004.pdf> (2020 年 10 月 20 日 閲覧). おおたけあやみ(横浜国立大学大学院修士課程 修了生). 55

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