第5章
研究2
「はたらきかけの追いによる表出の特徴」
第1節 目的
研究1において、「重症児の表出カテゴリー表」を用いることで、表出を量的 にとらえることができた。しかし、「単なる刺激への反応としての微笑ではなく、
対人的な微笑であった」というような、表出の質的側面をとらえることはでき
なかった。
そこで研究2では、かかわり手と対象児とのやりとりを分析することで、対 象児の意思や感情を推察する。また、表出を促しやすいはたらきかけについて
考察する。
第2節 方法
1.対象
X特別支援学校に在籍する重症児2名および担任を含むかかわり手。
プロフィールは表2−3と同様。ただし、A児は小学部3年生に、B児は中学部 3年生になっている。
2.手続き
研究1と同じVTR記録から、「明らかに対人的」「明らかに自発的」あるい は「明らかに応答的」と見られる表出と、その前後に見られるかかわり手のは たらきかけにっいて記述記録を行った。そのうち、かかわり手のはたらきかけ
と重症児の表出との間に関連が見られる場面を分析対象とした。
分析対象とした場面を含む12授業を表5−1に示す。
表5−1 対象授業
N0. 対象授業 対象児 活動の概要 時間(分)
A−1 朝の会 A児 絵本の読み聞かせやお話遊び 30 A−2 音楽・絵本 A児 音楽を聴くことや絵本の読み聞かせ 25 A−4 音楽・絵本 A児 オカリナや絵本の読み聞かせを聞く
15
A−7 感覚遊ぴ A児 マッサージ等と水遊ぴ 25 A−8 プール見学 A児 プiルサイトでの見学 12A−9 休憩 A児 教師による語りかけ
4
A−10 休憩 A児 音の出る玩具での遊び 16
B−1 絵本 B児 絵本の読み聞かぜや語りかけ 40 B−2 休憩 8児 休憩と養護教諭の語りかけ 15 B−3 食後1絵本 B児 食後の休憩と絵本の読み聞かせ 43 B−5 食後・絵本 B児 食後の休憩と絵本の読み聞かせ 69 B−7 絵本 B児 絵本の読み聞かせと触刺激 14
記録にはトランスクリプトを応用した。インリアルアフロ。一チ(竹田・里美 1994、坂口2006b)で用いられることの多いトランスクリプトには、やりとりに おける伝達意図の有無や反応の有無の記述のために矢印の形を変えるという一 定の規則がある。しかし、本研究は伝達意図を言及するものではないため、か かわり手のはたらきかけと対象児の表出とを時系列順に整理する記録法として
トランスクリプトを用いた。そのため矢印の表記は表5−2に示す通りとした。
表5−2 矢印の記述について はたらきかけと表出との聞に直接的な関係(表 出を促進したと思われる関係)が見られる場合 上記以外
3.結果の分析方法
トランスクリプトによる記述記録から、①やりとりの結果から推察される対 象児の意思・感情、②表出を促進していると思われるかかわり手のはたらきか けの2点に関して考察を加えた。
トランスクリプト記録の中で、考察の根拠となる部分を二重下線とr*」で 示し、表出やはたらきかけにっいての考察を追記した。さらに場面を通しての 考察を各項の最後に述べた。
第3節 結果と考察
以下の各項において、トランスクリプト記録を表5−3から表5−23に示す。
表にはVTR上の時間を【 】内に示す。また表の「対人等」の欄には、そ の場面を抽出する根拠となった表出の質的評価(「明らかに対人的」「明らかに 自発的」「明らかに応答的」)を示す。
トランスクリプト記録から①対象児の意思や感情、②対象児の表出を促した と思われるかかわり手のはたらきかけについて考察する。
第1項 A−1 朝の会
ゲンデン太鼓を受け取る場面
表5−3 トランスクリプト①
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
主指導教員 絵本 バギーでの座位 他児 手遊ぴ やりどリ前
丁からのはたらきかけなし 指吸い
【16 05 〜】
指吸いを止めさせる ゲンデン太鼓の音鳴らす ゲンデン太鼓を視線方向に提示
視線を音の方へ向ける
太鼓を注視、左手でリーチング、。 ・自発的
(手を伸ばすと届く位置)、1 星2‡。
Aの左手から太鼓を少し遠ざける、3
室2一、。
持ったまま放さない、。
放す
(注視、左手リーチング)
籔ヰ3、注視、左手リーチング
注視、ゲンデン太鼓の柄を握五。2 注視、握ったまま引っ張る、。
握ったまま振る
自発的
A児の「リーチング」「引っ張る」は自発的な表出だと考える。
*1:r視線方向に提示する」ことでr注視」が、r手を伸ばすと届く位置に提 示」することで「リ]テング」が促されている。これは分かりやすい提示 の仕方による促進だと言える。
*2:r待つ」ことで、より遠くまでrリーチング」することやr握る」ことを 促している。待つことや間をとることにより、表出がより確実に促されて いると考えられる。
*3:「遠ざける」ことで、「追視」が促されている。担任のちょっとしたいた すら・意地悪のように見えるが、このような変化を加えることで、より高 次の表出が促されると考えられる。
*4:「放さない」ことで、「引っ張る」ことを促している。*3と同様に変化 を加えることで、より高次の表出が促されている。
以上より、①分かりやすい提示の仕方、②待つこと・間をとること、③変化
(一見、いたずらや意地悪に見えるものを含む)を加えることの3点が、表出 の促すと考えられる。
第2項 A−2 音楽・絵本
CDの歌rもみじ」を聞き終える場面
表5−4 トランスクリプト②
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
CD『もみじ」が流れている クッションチェア座位 曲に合わせ、Aの背中を (集中して聞いている様子)
やりとり前
トントン叩いている 日は宙を見たまま
上体を少し前後ヘユラユラ
【14 00 〜】
(「もみじ」が伴奏だけ1こなった)
トントン止める 目は由、上体ユラユラ
顔を見て、待つ 目は宙、上体ユラユラ
CD終わる チラリと視線変化端。
顔をAに近づける 見ない
Aの顔を見つめ、約4秒待つ、2 Tの方(左)へ顔を向け、見る,2 対人曲
*1 rチラリと視線変化」からは、rあれ、終わった?」というような意思・
感情が推察できる。CDの音楽が終わったという外界の変化に対しての表 出だと考えられる。
*2 r待つ」ことでrTの方へ顔を向け、見る」が促された。この表出から は、明らかに対人的な意思・感情(例えばrもう終わったの?」と伝える、
あるいはrもう少し聞きたい」と要求する)が推察できる。
これらのことから、外界の変化や表出を待つことによって、表出が促された
と言える。
第3項 A−4 音楽・絵本 オカリナを聞く場面
表5−5 トランスクリプト③
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
やりとり前
クッションチェア座位 右手でチェアを叩いている【1 50 〜4 10 】
Aの左前でオカリナを吹く 見ない
チェアを叩く間隔が長くなる オカリナを吹いている 見ない
叩く間隔より長くなる オカリナを吹いている
筆線盤盈‡・
対人的オカリナを吹いている 注視、チェア印く
オカリナを吹いている 注視、手を止め、逸茎。。
オカリナを吹いている (中略) 見ない・注視 手を振る・止める 足を振る・止める
オカりナを吹いている 足を振っている、指吸い、見ない オカリナ終わり
足止まる。。
顔を近づけ、Aを見つめる。。 指吸い、見ない
『終わった〜」と曙く。5 微笑、。、指吸い 対人的
顔を見て待つ 微笑やむ、指吸い
「終わったで」と畷き、
約11秒待つ、。 指吸い
*1 目だけでなく、顔を動かして注視していることから、明らかに対人的だ と言える。「チェアを叩く」が徐々になくなっていることから、オカリナ の音に徐々に興味を向けていることが推察できる。
*2 「微笑」から、オカリナの音を快く感じていることが推察できる。
*3 オカリナが終わったという外界の変化に対しての表出である。
*4 表出(要求)を期待して行われたTのはたらきかけである。
*5 r微笑」は、オカリナの余韻を楽しんでから、担任の囁きに応えている ように感じられる。
チェアを明かなくなることや、担任を見たこと、微笑などから、徐々にオカ リナの音に興味を示し、集中して聞いていることが分かる。このことから、一 つの刺激(遊び)に時間をかけて興味を促していくことが、表出の促進につな がっていると考えられる。
また、*4、*5のように、一つの活動が終わった後にしばらくA児を見つ めて待つ間が大切だと考えられる。
第4項 A−4 音楽1絵本
絵本を見る場面
表5−6 トランスクリプト④
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
やりとり前
クッションチェア座位 足をブラブラ振っている【6 10 〜8 20 】
rほら」と視野に絵本提示。1 視線の変化、主週‡。
「きれいな色だね」
注視している「あかあか…」と読む
読む
視線それる、足を振る見ている 足振る
rどんなのかな」とへ一ジめくる、2 視線変化、注視、足止める、。 日舳
「あかいね…」と読む 注視
ぺ一ジめくる 注視
「〈ろ…」と読む 注視、足振る
「次は」とへ一ジめくり、2、「しろ 」
注視、足止める、。読む
注視、足振るぺ一ジをめくりかける。。 注視、足止める、3
『くるくる…」と読む 注視、足振る 次のぺ一ジに手をかける、3 注視、足止める,3
ぺ一ジをめくり、読む 注視、足振る 次のぺ一ジをめくり始める、。 注視、足止める。3
ぺ一ジをめくり、読む 注視、足振る 次のぺ一ジをめくり始める、3 注視、足止める、3
*1:「視野に提示」したことで「注視」が促された。
*2 ぺ一ジをめくった後に足の振りを止めている。以降、新しいぺ一ジにな る度に、足の振りを止めていることから、新しいぺ一ジベの興味・注意集 中によると考えられる。そのため、注視が続く中でも、新しいぺ一ジベの 注視はより強いものであると考えられる。
*3 ぺ一ジをめくり終えるまでに足の振りを止めている。これは、「新しいぺ 一ジが現れる」という予期・予測ができていることを示唆している。
分かりやすい提示の仕方や、「ぺ一ジをめくる」といった変化が表出を促して いると言える。
第5項 A−7 感覚遊ぴ ふれあい体操をする場面
表5−7 トランスクリプト⑤
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
側臥位や仰臥位
やりとり前
Aの背中や頭をうちわで扇ぐ うちわで扇がれ微笑
【8 00 〜8 20 】 仰臥位
Aの右手をマッサージ 左手を振っている
右手をマッサージしている 左手振る、ネガティブな表情変化、 自舳
「アー」「アー」と発声、1
右手を放す、。
両手を振り、ネガティブな表情と塁亘鐘⊥‡。
右手をとりマッサージ、1 左手を振り、表情と発声続く、1
右手放し、「暑くなってきた?」
とうちわに手を伸ばす,1 うちわの方ヘチラリと視線
(Aの顔の前を手が横切る) 左手振り、表情と発声おさまる、2
うちわで扇ぐ 由を見て、左手振り
*1 自発的な表出である。発声と表情で、何らかの意思・感情を発信してい る。この間、Tは試行錯誤をする中で、r暑い、不快」というA児の意思・
感情を推察し、うちわを手にしている。その後、発声と表情はない。やり とり前にはうちわで扇がれ微笑を見せていることから、A児は快・不快を 区別し表出していると言える。
*2 発声・表清がおさまったのは、うちわをチラリと見て扇いてもらうこと を理解しだからなのか、顔の前を手が通ったことで驚いたからなのかは判 断できなかった。
不快を訴える表出をとらえ、その減少を手がかりに快状態を探っていくこと が必要だと考えられる。
第6項 A−7
水遊び場面
感覚遊ぴ
表5−8
トランスクリプト⑥かかわり手(T) 経過 A児 対人等
Aの背後から座位を支持(1I1)
やりとり前
椅子座位シャワーで注水(T2) 足でタライの温水を蹴る
【18 50 〜19 00 】 パチャパチャと蹴り続けている
T2が冷水を足にかける、1 足を屈曲し、水(シャワー)を注視、1 庄答的 シャワーを止める 足をタライに毛どす
*1:Tのいたずら(冷水)に驚いて「足を屈曲」「注視」している。
水遊び後の場面
表5−9
トランスクリプト⑦かかわり手(T) 経過 A児 対人等
足をタオルで拭く
やりとり前 水遊びの後、側臥位
【23 30 〜24 30 】 足の方(タオル)を見ている
「またしような」など声がけ 怒ったような表情変化、1コを開1ナ、 自発的
しながら足を拭く
足でタオルを蹴るような動き、2「わ一、わかった。今度1ま大きい
表情戻るプールで…」と声か1寸しながら拭く
指を噛んでいるよう(指吸いではない)
拭く 整⊥塁亜変』幽盟主‡。 自発的
「毛う終わるのが嫌なん?」、。 指を噛みながら、足振る 自発的 怒り表情続く、。
「もっとしたかったな」,皇
「ごめんな」など声がけ
*2 これは自発的であり対人的な表出であると思われる。Tの言葉にあるよ うに「もう終わるのが嫌」「もっと(水遊び)したかった」というのが、
この時のA児の感情だと推察できる。つまりこの表出はA児の要求だとと らえることができる。
水温などに変化(いたずらも含む)を加えることにより表出は促されている。
また、表出から要求を推察することと、要求に応えていくことが求められる
と言える。
第7項 A−8 プール見学 担任からの語りかけ場面1
表5■0 トランスクリプト⑧
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
やりとり前
プールサイドで車いすに座位 宙(遠く)に視線、首ゆらゆら【0 40 〜1 00 】
接近し、Aの右側から顔を寄せる 首をゆらゆらさせている
rプール入ろうな、明1ヨ」と声がけ、1 微笑業1、視線は宙 対人的 rフフフ」と笑い、視野から離れる 表情戻る、首揺れ始める
再び顔を寄せ「明日入ろうな」 視線右(Tの方)へ、視線止まる 対人的
と声がけ、。
首揺れ止まる、。
声がけ『今日は…、明日は入るで」ヰ3 埜笠、。 対人的
笑い、離れる 視線変化
*1 Tの声がけにr微笑」で応えている。自発的かつ応答的である。
*2 視線が止まり、首の揺れが止まったことから、声がけへの注意集中が推 察できる。
*3 声がけを集中して聞いている様子(*2)の後でr微笑」を見せている。
担任からの語りかけ場面2
表5−11 トランスクリプト⑨
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
やりとり前
プールサイドで車いすに座位 頭を下げている【6 00 〜6 10 】
声がけしながら、Aの右隣にしゃがむ 頭を上げ、Tの顔を注視,。 対人的
(視野に入る)、。
顔を見て語りかける、5 Tの願を注視業。 対人的
顔を見て語りかけている、。
顔を注視、。
対人的Aの足に触れる 視線それる
*4 「視野に入る」ことで「注視」を促している。頭を上げてTの顔を見よう としたことから、明らかに対人的だと言える。
*5:Tの顔を「注視」していることから、明らかに対人的である。
A児はかかわり手の語りかけを集中して聞いていると思われる。
視野に入ることで興味を引きつつ、語りかけて表出を促すことができると考え
られる。
第8項 A−9 休憩
担任からの語りかけ場面
表5−12 トランスクリプト⑩
かかわり手(T) 経過 A児 琵人等
車いすに座位でお茶を注入 Aに正対し語りかけている やりとり前 Tを見ている
【0 10 〜0 30 】
正面から語りかけている、1 Tの顔を注視、1 対人約
語りかけている。。 注視、微笑、。; 対人的
笑い、語りかけ 注視
語りかけ 頭が右へ倒れる、注視
語りかけ、頭をAと同じ方1司に倒す、2 注視したまま、頭を起こす、2 対人的
語りかけ、頭起こす、1 微笑、注視、1 舳的
笑い、頭が右→左→右へ揺れる Tの顔を左→右→左と追視、3 対人的
(Aから見て左→右→左)、3 注視
語りかけ、Aの手を握る 宙へ視線それる
*1:Tが正面から顔を見せ語りかけることで、r注視」やr微笑」が促されて
いる。
*2:Aに合わせて、Tも頭を倒すことで、r注視」が促されたと考えられる。
注視しようとしたことでさらにr頭を起こす」ことが引き起こされたと考 えられる。
*3:r頭が揺れる」という変化によって、より高次なr追視」が促されている。
語りかけるTを注視し、微笑を見せていることから、これら一連の表出は明 らかに対人的だと言える。
また、Tの顔のどこを見ているかまでは分からないが、Tのわずかな頭の動 きを追視していることから、Tの顔全体をぼんやりと見ているのではなく、T の目(あるいはTの口)を良く見ていると考えられる。
以上のことから、正対する形で顔を見せ語りかけることや、注視から追視で きる範囲でのわずかな動きという変化が表出を促したと言える。
第9項 A−9 休憩 腕振り場面
表5−13 トランスクリプト⑪
かかわり手(T) 経過 A児 対人等
【0 50 〜】
やりとり前 車いすに座位.
Aの左手をとり、左腕を振る
【1 08 〜1 30 】
左腕を振る、1「イチ=、イチニ」 微笑ヰ。
振っている 表情戻る
「はあ」と左腕を止め、降ろす
闘(約3秒)、。
圭且坐、。
自発曲「もう1回?もう1回する?」
とたずね、腕を振る、1「イチニ」 少し微笑卓。
腕を止め、降ろす 微笑、わずかに肘の動き、2 自発的
「もう1回?もう1回する?」 微笑から表情なくなる 腕を振る業1 微笑、。9
*1 r腕を振る」ことによってr微笑」が促されている。身体への直接的な刺 激は伝わりやすく理解しやすいと考えられる。
*2 「左肘を上げる」ことによって、A児は「腕を振る」ことの要求を伝えて いる。振られていた腕が止まった・という変化と刺激のない間が、要求とし ての肘の動きを促していると考えられる。
腕を振られることに微笑を見せているが、対人的な注視などがないことから、
刺激に対しての微笑だと推察できる。
「左肘を上げる」ことは、「もう1回したい」とかかわり手に推察させ、腕を 振る活動に導いた点で、自発的であり対人的な表出であったと言える。一方、
これはかかわり手の表出を待つ間が促した結果だとも言える。
第10項 A−10休憩
音の出る玩具での遊び場面
表5−14 トランスクリプト⑫
かかわり手(T) 経過 A兜 封入等
やりとり前 車いすに座位 指吸い
【9 00 〜】
玩具を視線方向に提示。1 見ない、左手指吸い
音を鳴らす、1 視線変化、塗盈竈い指吸い Aの右手をどり、玩具に触れさせる 見ない、指吸い
(繰り返し)
・一
盾P二玩具を押さえ音を鳴らす
・時々語りかけながら・チラチラ ・指を睦え、時々吸うような動き
?猪マ今薯亨薯喬暴藷鵠らす 1暴鯉体や脚の動き
音を鳴らす(以下継続) 【10 16 】口や上体、脚の動き止 圭亙,。
【10 51 】約5秒の間
10 21 〜】動きなし、2、員五中空一点を見つ雨ない、3
【11 10 】音の長さ1;変化
(長い音、短い音)
lll1111騰血‡・
自発的13 14 】微笑(破顔)、。
【13 18 】視線それ、上体揺する
虫目由 止まる、2、目は一点見つめる,3
トTr42 、。【13 46リ薇夏
【13 50 】微笑
避難訓練のベル 変化なし
旦虫 U4y14 3157 】微笑、。】薇要=
*1 r音を鳴らす」ことを加えてより分かりやすい提示をし、r注視」を促している。
*2 動きが止まったことから、玩具の音に興味を向け始めていることが推察できる。
*3:「目が中空一点を見つめて動かない」ごとや、口から指を出したことから、音に より注意集中を向けていることが推察できる。
*4 「微笑」「破顔」が見られたことから、音を楽しく感じていると推察できる。
A児が徐々に玩具の音に注意を向け、楽しむ過程が表れている。かかわり手 は常にA児の表情を見ながらはたらきかけ、微笑から表情が変化するまでの1 秒程度の間をとっている。また、玩具に触れさせ、触覚にもはたらきかけてい る。さらに音の長さや間に変化を加えて遊びを持続している。以上のことから、
①粘り強くじっくりと遊ぶことで興味や理解を促したこと、②常に表情を見る ことと、表出の変化を見るための間をとること、③音の間隔など分かりやすい 変化を加えること、④複数の感覚にはたらきかけることの4点が表出を促した
と考えられる。
第11項 B−1
呼名場面
休憩・絵本
表5−15
トランスクリプト⑱かかわり手(T) 経過 8児 対人等
クッションチェア座位
やりとり前
瞼を閉じている
【8 40 〜】
芦かけ『名前呼びます」、1 瞼を閉じている
「B君、いくよ」,1
瞼を開く、。
船酌「OiO・O一(8の姓)…」 閉じる、。
「O−O−O一(Bの名)くん」 開き、すぐ閉じる、2 rBくん!」 閉じている
⊥処し。
「はあ〜」で開き、「い」の後閉じる、。
「はあ〜い」、。 「はあ〜」で開き、視線変化
『い」の後閉じる、2
rはあ〜い」 閉じている
臥。 開き、視線変化、3 自舳
*1 「瞼を開く」は応答的だと思われる。ただし「B君、いくよ」に対してか、
その前の「名前呼びます」に対してかは分からない。
*2 応答的に瞼を開いているが、続く声がけで閉瞼している。*3の間で探 索的なr視線変化」を見せているように、開瞼し外界を探ろうとするのだ が、間もなくTからの声がけが続くため、瞼を閉じていると考えられる。
*3:閻をとることでr瞼を開き、視線変化」が促されていると言える。
担任は別の表出を応答として期待していたため、「瞼を開く」を応答だと意味 づけていない。そのため応答的と思われるB児の表出の最中に声がけが重なり、
表出そのものが消えている。「瞼を開く」をB児の応答だと意味づけることで、
その表出そのものを待つことができ、また、表出に対して「返事(応答)でき たね」と評価もできると考える。
以上のことから、表出を待つ間が必要だと言える。
第12項 B−1 休憩・絵本 絵本の読み聞かせ場面
表5−16 トランスクリプト⑭
かかわり手(T) 経過 B兜 対人等
「かさこ地蔵」の読み聞かせ クッションチェア座位
やりとり前
瞼を閉じている、時々開く
【21 46 〜21 55 】
読む「じょいやさ〜、じょいやさ」 瞼を閉じている
間(約1秒)、。
瞼を開ける、。
応答的自発的
rじょいやさ二、じょいやさ」 rじょ」で閉じ、rいやさ〜、じ よいやさ」も閉じている
間(約1秒)、。 開ける、1
rじょいやさ〜…」 閉じる
*1 「じょいやさ」の声(音)で目を閉じ、次の「じょいやさ」までの間に瞼 を開けている。音声が続いた後の間は無音の時間であり、その変化を感じ、
外界を探索するために瞼を開いていると考えられる。つまりTの声への応 答的な表出でもあり、外界への自発的な表出でもあると考えられる。
以上のことから、間をとることで表出が促されていると言える。
第13項 B−1 休憩・絵本 友たちからの呼びかけ場面
表5−17 トランスクリプト⑮
かかわり手(T) 経過 B児 対人等
そばに誰もいない クッションチェア座位
やりとり前
かかわりなし 薄く瞼を開けている
【30 01 〜】
友だち接近 薄く瞼を開けている
「B〈ん」と呼名しながら
Bの左腕をトントン、1 大きく瞼を開く、1 応答的
立ち去る 瞼を薄く開き、左(呼びかけのあ 応答的 った方)へ視線業。 白莞的
*1 呼名と身体へのはたらきかけによって、応答的に瞼を開いている。
*2 「左への視線」は*1のはたらきかけに対する応答的な表出であり、
かつTが誰か探るような自発的な表出でもあると考えられる。あるい は、呼びかけに続くはたらきかけを予期する目の動きにも見える。
呼名と身体へのはたらきかけのように複数の刺激が行われたことと、Tが立 ち去ったことで間がてきたことが表出を促したと考えられる。
第14項 B−2 休憩
養護教諭からの語りかけ場面
表5−18 トランスクりブト⑯
かかわり手(T) 経過 B児 対人等
そばに誰もいない 右下側臥位
やりとり前
かかわりなし 視線の変化
【11 32 〜11 52 】
Bの背中側から養護教諭が接近 目を大きく開け、視線は左へ。1
Bの左腕に手をのせ、
顔をのぞきこむ、2
視線は右へ、。
置坦‡。 む。 対人的
語りか1ナている、3 む。 対人菌
*1:背後からの接近だが、B児が寝ている畳台の軋みにより接近に気づい た可能性はある。
*2:左腕と顔の近くに刺激があり、*1と合わせて誰が来たのかを探るよ うな目の動きだと考えられる。
*3:視線が左を向き、Tの語りかけを聞いていると思われることから、対 人的だと言える。
B児の「何の音だろう」「(近づいてきたのは)誰だろう」と外界を探るよう な目の動きが見られた。探索による心構えができた後、語りかけられたことで、
かかわり手の方に視線を向けるといった対人的な表出が促されたと考える。
第15項 B−3 絵本 絵本終了時の拍手場面
表5−19
トランスクりブト⑪かかわり手(T) 経過 B児 封入等
左下側臥位
やりとり前
絵本の読み聞かせ 視線の変化
【15 07 〜】
読む「おしまい」 変化なし
Bの右手をとり、拍手のまね
「パチパチパチ」、1 視線が左→右→左→ 、。 応答的
手を放し、離れる
・→右→左→右端。
*1 探索的な目の動きだと考えられる。自分の手の動きや「パチパチ」の 声に戸惑い、外界に何が起こったのかを探るために、目を動かしている と思われる。
*2 手が離れたことによるものではなく、*1の探索的な目の動きが続い ていると思われる。
突然の変化(自分の手の動きやrパチパチ」の声)に戸惑い、外界に何が起 こったのかを探るために、目を動かしていると思われる。
第16項 B−5 休憩
教師の接近場面
表5−20 トランスクリプト⑱
かかわり手(T) 経過 B児 対人等
そばに誰もいない クッションチェア座位
やりとり前
かかわりなし 薄く瞼開き、視線変化
【6 16 〜6 32 】
Bの左側へ丁接近 変化なし
Bの左から顔を近づける 変化なし
待つ(約2秒)。。 やや大きく瞼開く、視線左へ、。
待つ(約3秒) 視線正面→右、。
童坦。。
盟監生二、。
対人的*1:Tの顔が近づき、Tの息がかかることやTの影がかかることで、「何 だろう」と探索するために視線の変化が表れたと考えられる。
*2:探索の後に声がけがされたため、対人的かつ応答的に、視線を向ける ことができたと考える。
探索による心構えができた後、声をかけられたことで、かかわり手の方に視 線を向けるといった対人的な表出が促されたと考える。つまり、探索を保障す
る間が大切だと考えられる。
第17項 8−7 絵本 絵本での触刺激場面1
表5−21
トランスクリプト⑲かかわり手(T) 経過 B児 対人等
絵本の読み聞かせ 右下側臥位 やりとり前
(触刺激の素材が貼られた絵本) 視線の変化
【7 40 〜7 45 】
Bの左手をとる 特になし
絵本に触れさせるヰ。 視線を大きく左へ、。、口の動き 自発的
『どう?』と聞き、触れさせている 視線正面→左、1
*1 触刺激のなかった状態からある状態への、突然の変化への驚きと外界を 把握するための目の動きだと思われる。
絵本での触刺激場面2
表5−22
トランスクリプト⑳かかわり手(T) 経過 B児 対人等
絵本の読み聞かせ
やりとり
右下側臥位 触刺激はなし 前 視線の変化【8 57 〜9 15 】
『羽をパタパタ…」と読みながら 視線が左右へ良く動く、。(左→右 自発的 絵本に付いた蝶の羽を動かす、2 →左→右→左→正面→左→右→正面
→左→正面→左→右→左→右→左)
読む 視線右、目の動き少なくなる
*2 絵本に付いた蝶の羽が「バタバタ」と動いているのを、「何が起こってい るのか.」と驚きつつ外界を探っている様子が推察できる。
絵本での触刺激場面3
表5−23 トランスクリプト⑳
かかわり手(T) 経過 B児 対人等
絵本1こ触れさせている 右下側臥位、左手の爪にガリガり
やりどリ前
(触刺激の素材が貼られた絵本) 視線の変化
【10 11 〜】
「ガリガリガリ…」と言いながら
Bの左手の爪で掻くような触刺激、3
日よく動く、。
続ける (繰り返し) 日よく動く
【11 05 】
触刺激終わり、左手放す、。 視線大きく左→右→左,。 自発的
*3:目の動きは*1や*2と同様に、変化への驚きと外界の探索の表れだと
考えられる。
*4 長く続いた触刺激が終わり、「あれ、終わったのかな?」と探るような目 の動きである。
目の動きは、起こっている変化を感じ取ろうとしているようである。突然の はたらきかけや触刺激に対する驚きと探索が含まれていると思われる。つまり 感覚刺激などの変化によって表出が促されると考えられる。
第4節 総合音嚢
各項における考察をコード化し、①対象児の意思・感情、②表出を促したと 思われるかかわり手のはたらきかけのそれぞれについて次のようにまとめた。
1 A児の表出の理解と促進
(1)意思や感情の推察
かかわり手のはたらきかけと表出との関係を見ることで、推察された意思・
感情を、次の6点にまとめた。
①快:うちわで扇いでもらうことでの微笑やオカリナ演奏での微笑、かかわり 手の語りがけに対する微笑、玩具遊びでの微笑など
②不快:「暑い」と伝えるような発声と表情、水遊びを終えた後にrもう終わ るのが嫌」と言うかのような怒りの表情
③変化への戸惑い・驚き:音楽などが終わった時にrあれ、終わった?」rも う終わったの?」と言うかのようなチラリとした視線の変化、冷水に驚いて いるような脚の屈曲と注視
④要求:終わった音楽をrもう少し聞きたい」と言うかのようなかかわり手へ の注視や、rもっと(水遊び)したかった」と言うかのような怒りの表情と 足の動き、rもう1回腕振りがしたい」と伝えるような肘の動き
⑤期待:ぺ一ジをめくる前に注視をする様子(「新しいぺ一ジが現れる」とい
う予期)
⑥興味:オカリナや玩具の音に、徐々に身体の動きや視線の動きも止まる様子。
またかかわり手の声がけに対して動きが止まる様子。
(2)表出を促進するためのはたらきかけ方
A児の表出を促進するはたらきかけ方として、以下の4点にまとめた。.
①分かりやすい提示の仕方
・視線方向に提示する(視野に入る・入れる、正対して語りかける)
・複数の刺激にはたらきかける(見せるだけでなく音を鳴らす、玩具に触れ させる)
②見つめて待つこと・間をとること
・表出を待つ(刺激が継続した後の刺激のない間、要求を待つ)
・表出を見つめる(表情を見る、快・不快の訴えをとらえる)
③変化を加えること
・より高次な表出を期待するもの(遠ざける、放さない、追視できる範囲で のわずかな動き)
・刺激の変化(音楽など活動の始まり・終わり、ぺ一ジをめくる、気温、水 温、音の長さや間隔)
④一つの活動にじっくりと時間をかけること
・興味や理解を促す(担任によるオカリナ演奏、音の鳴る玩具遊び)
2.B児の表出の理解と促進
(1)意思や感情の推察
かかわり手のはたらきかけと表出との関係を見ることで、次のようなB児の 意思・感情を推察することができた。
①変化への戸惑い・驚き 読み聞かせ「じょいやさ〜」の合間の無音時間での 開瞼、手をとられ拍手の動きをされた時の左右への目の動き、触刺激が始ま った時の驚いたような大きな視線変化と終わった時の「あれ、終わったのか な?」と言うかのような左右への目の動き
②探索:かかわり手の接近と声がけに対するr何の音だろう」r誰だろう」と 言うような左右への視線変化、絵本の蝶の羽がバタバタと音を立てている時 の左右への視線変化、触刺激が始まった時や終わった時の視線変化
③興味:声がけを聞いていると思われる、かかわり手の方へ向けた視線
(2)表出を促進するためのはたらきかけ方
B児の表出を促進するはたらきかけ方として、以下の3点にまとめた。
①身体への直接的な刺激
・他の刺激と合わせてはたらきかける(呼名に合わせて肩を叩く、呼名に合 わせて手に触れる、絵本の読み聞かぜに合わせて触刺激を取り入れる)
②見つめて待つこと・間をとること
・表出を待つ(呼名の後の視線変化を待つ、触刺激が継続した後の刺激のな い間、音楽が続いた後の無音の時間、読み聞かせの間)
・表出を見つめる(表情を見る、快・不快の訴えをとらえる)
・探索による心の準備を保障する間(変化を感じた目の動きを待ってから声 をかける)
③変化を加えること
・刺激の変化(音楽や活動などの始まり・終わり、読み聞かせの間)
第6章
全体考察
第1節 研究の帰要≡
多くの先行研究によると、重症児とコミュニケーションを図るためには、か かわり手が彼らの表出を理解することと、さらに表出を促進するためのはたら きかけを行うことの重要性が指摘されている。そのため本研究では、重症児の 表出から意思や感情を推察することと、表出を促すためのはたらきかけ方につ いて検討することを試みた。
予備研究1では、表出をとらえるための指標として、先行研究をもとに「重 症児の表出カテゴリー表」の作成を試みた。カテゴリー表は重症児の微細な表 出をとらえる視点を与えうることが示唆された。
予備研究2では、微細な表出からはとらえきれない対象児の定位反応を判断 する指標として、心拍変動が有効であるかについて検討した。定位反応と思わ れる心拍の減少と表出との関連が見られた。
研究1では、r重症児の表出カテゴリー表」を用いて、対象児の表出を量的に 分析した。VTR上に見られた対象児の表出をカテゴリー分類し、どのような 授業内容や授業場面で表出が多く見られるのかを検討した。また表出の量から 対象児の意思や感情を推察することを試みた。その結果、対象児は授業内容や 授業場面に応じて意思や感情を表出していることが示唆された。また、表出を 促進するために有効だと思われる取り組みを例示することができた。
研究2では、かかわり手のはたらきかけと対象児の表出との関係について、
質的に分析した。「重症児の表出カテゴリー表」に分類した中から、「明らかに 対人的」「明らかに自発的」「明らかに応答的」だと思われる表出と、その前後 に行われたはたらきかけとの場面を抽出した。はたらきかけと表出との関係か
ら、対象児の意思や感情を推察することと、表出を促進するはたらきかけ方に ついて検討することを試みた。その結果、快や不快、要求、興味などの対象児 の意思・感情が推察された。また、はたらきかけと表出との関係を詳細にとら えることができ、表出を促すためのはたらきかけ方を例示することができた。
第2節 全休考察
本研究では、「快」「不快」「戸惑い・驚き」「要求」「期待」「興味」「探索」な どの重症児の意思・感情を推察した。また、「分かりやすい提示j「身体への直 接的な刺激」「見つめて待つこと」「変化を加えること」「一つの活動にじっくり と時間をかけること」などのはたらきかけ方が表出を促進すると考えた。この ように重症児の表出を理解することと促進することについて、先行研究の知見 を踏まえながら考察を行う。
1 表出の理解(重症児の意思や感情の推察)
本研究から推察した重症児の意思・感情について、次の5つの観点にまとめ
考察を行う。
(1)定位・探索の過程
細渕(2003)は「一般に、人と外界との関係を見る際、人に対する関係(対 人関係)と物に対する関係(対物関係)に区分できる。対人関係の行動はも っぱら情動的共有・共感を基盤とするコミュニケーション行動として、また、
対物関係の行動は感覚運動的活動を基盤とする定位・探索活動として観察で きる」と述べている。また、コミュニケーション行動と定位・探索行動が関 達しながら発達していくとした上で、多くの事例研究から、重症児のコミュ ニケーション行動が高次化するためには、重症児の定位・探索行動が高次化 する必要があることも指摘している。
細渕(2003)は、定位・探索行動とはr外界の刺激情報を収集、処理し、
外界へ能動的にはたらきかける一連の行動」としている。これを本研究にお ける重症児の意思・感情の動きとして置き換えると、外界の変化に「戸惑い・
驚き」、「探索」をし、「興味」を示す過程が定位・探索の過程だと言える。
B児において、授業B−3で突然手をとられた時の左右への目の動きや、
B−7で絵本に触れた時の左右への目の動きなどは「戸惑い・驚き」だと推 察できる。また、これらの表出が続くところにr探索」が読み取れる。さら にB−5の休憩場面では少なかった「視線の変化」が、絵本場面では増加し たように、外界への「興味」に至った過程が推察できる。B児の場合は視覚 で事物をとらえるのが難しいと思われることから、聴覚や触覚を優位に活用 し、外界を探っていると考えられる。つまり、音声や触刺激に対し「戸惑い・
驚き」を見せ、聴覚で「探索」する際に「視線の変化」が多く表出したので
はないかと考えられる。
A児においても同様に、A−4でのオカリナ演奏やA一.10で玩具遊びに興 味を向ける様子から「戸惑い・驚き」「探索」「興味」の過程があると推察さ れた。
(2)興味・注意集中
「興味」の申でも、「注視集中」と言えるような、音や語りかけを「良く 聞いている」と推察される場面があった。その場面では、対象児の目がr中 空の一点を見つめたまま」という様子が見られた。授業A−8の担任からの 語りかけ場面や、A−10の玩具遊び場面などである。またB−4の記述記録 にも「集中して聞いているように見える(歌を聞き、目が止まっている)」
と記している。
宮田(1998)は「視覚に限らず、他の感覚からの入力を処理している期間 は瞬目率が少ない」と報告している。つまり、音や語りがけに注意を向けて いる間は瞬きが少なくなることを示唆している。本研究.で瞬目率の検討は行 っていないが、瞬きが減少していることをかかわり手や筆者が感じ、r良く 聞いている」と推察したと考えられる。
(3)常同行動
本研究において、授業A−6では終始、指吸いが生起し続けるなど、A児 の授業場面で指吸いが多く見られた。これは自己刺激的な常同行動だと考え られ、退屈な状態の表れとして推察した。
A児の指吸いのように、重症児には常同行動と呼ばれる様々な反復性の行 動が見られることがある。細渕(2003)はr外界の人や事物への能動的な定 位・探索反応と常同行動との間には相補的な関係が認められている。人や事 物への反応性や能動性が増加すると、常同行動が減少する」と指摘している。
また細渕(2003)は、常同行動を活かした指導により定位・探索行動の形成 を試みたところ、結果的に常同行動は減少したと報告している。
本研究においても同様に、指吸いが減少する過程が見られた。終始指吸い が生起した授業A−6と比べ、授業A−5の活動中は生起しなかった。A−5.
の授業開始時と終わりに指吸いは見られたが、揺れ刺激を受ける活動場面で はほとんど見られなかった。反対に活動中は「視線の変化」や「微笑」が見 られた。また授業A−10の玩具遊び場面では、始めは指吸いが見られたが、
徐々に唾えた指を吸う様子がなくなり、その後口から指を出すという過程が 見られた。これは一方では、音に興味を示さない様子から、音に対する視線
の変化が見られ、徐々に聞いていると思われる様子が続いた後、唾えた指を 出し、最後に微笑を見せるという過程をたどった。これらは、「自己刺激性 を外界への能動性へ転化していったもの」(細渕2003)だと言える。まだこ のことは、「視線の変化」など探索的な表出を、外界への能動性の表れとし てとらえることの重要性を示唆している。
(4)要求・不快
授業A−2でのr(終わった音楽を)もう少し聞きたい」と言うかのような かかわり手への注視や、A−7の水遊び後の「もっと(水遊び)したかった」
と言うかのような怒りの表情と足の動き、またA−9の腕振り場面での「も う1回腕振りがしたい」と伝えるような肘の動きなどは要求だと推察した。
磯貝ら(1995)は、要求だとかかわり手が判断する手がかりとして、r視 線」「発声」を手がかりとする事例が多いと報告している。また、要求だと 容易に判断できる条件としては①手がかりになる表出行動が同一場面にお いて複数存在すること、②対人指向性、方向定位性の高い手がかりであるこ とが必要だとも指摘している。
A−2においては対人指向性のある注視であったこと、A−7においては表 出が複数であること、A−9においては方向指向性のある動きであったこと から、これらは要求だと考えられる。
さらに同様に考えると、A−7での「暑い」と訴えるような発声と表情や、
B−3などの呼吸のしんどさを訴えるような発声と表情も、不快の状態の訴 えである上に、要求としても機能していると言える。また、A−4での新し いぺ一ジをめくる時に足を止めて注視する様子も、期待の表れだと推察する 一方で、その自発的な表出を待つことで要求として機能するのではないかと 考えられる。
(5)快・微笑
本研究において見られたr微笑」からは、快の状態を推察した。
郷間・伊丹(2005)は微笑行動を「①身体分野の微笑」と「②認識分野の 微笑」、「③人とのかかわり分野の微笑」の3つに区別している。①は身体刺 激に対するもので、刺激の直後に見られるとしている。②は玩具など物への 興味関心や、繰り返されることを待っている予期や期待などによるもので、
身体分野の微笑に比べ、やや時間をおいてから生起する穏やかな微笑である としている。③はかかわりや呼びかけに対する無差別的微笑、親しい人を他 者から識別する微笑、自分の関心を観察者と共有しようとした主体的微笑な
どとしている。
本研究において見られた「微笑」を、上記の区別に沿って分類してみると 以下のようになる。授業A−5での揺れ刺激による微笑やA−7でのうちわで 扇がれることによる微笑はr①身体分野の微笑」だと考えられる。A−10 での玩具遊びによる微笑は「②認識分野の微笑」だと考えられる。A−8や A−9でのかかわり手による語りがけに対する微笑は「③人とのかかわり分 野の微笑」であり、その申でもr親しい人を他者から識別する微笑」だと考 えられる。また、A−4でのオカリナを聞き終わった後の声がけに対する微 笑は②と③どちらにも含まれると考えられる。
このことから、多く見られたA児の「微笑」であるが、それぞれの意味は 違っており、r微笑」の量だけではなく、その意味を推察することが重要だ
と言える。
2.表出の促進(表出を促す授業内容やはたらきかけ)
本研究の結果から、重症児の表出を促す取り組みの視点として、次の5つに まとめ考察を行う。
(1)姿勢の保持・変換
B児における心拍変動の分析結果から、心拍と姿勢との明らかな関連が見 られた。座位に比べ、側臥位の方が平均心拍は低く、より安楽な姿勢だと言 える。授業B−5においては、座位に比べ、左下側臥位の方が平均心拍は低 く、かつ左下側臥位の方が「視線の変化」は安定して多く生起している。こ のことから、安楽な姿勢により表出が促進されると考えられた。
重症児の外界とのかかわりと姿勢の保持・変換との関連を指摘する事例研 究が多数報告されている(川間2002)。細渕(2003)はr姿勢づくりは重症 児の健康上の課題であると同時に、彼らの外界とのかかわりの基盤をつくる 課題でもある」と述べ、r姿勢の保持は、外界の刺激を適切に処理、調整す る認知の高まりも重要な役割を果たしている」と指摘している。また、安野 (1995)はr側臥位の姿勢は床面が視野に入ることにより、床面に並ぶ様々 な事物配置により奥行の知覚が可能となる。側臥位の姿勢は従重力姿勢であ るにもかかわらず、座位に近い視空間の形成を可能にするものであり、抗重 力姿勢をめざす第1段階として重要」だとしている。さらに進(1995)は、
側臥位は運動が自発しやすい姿勢であると述べ、側臥位姿勢をつくることの 意義を強調している。
これらの知見からも、B児は側臥位により表出が促進されたと考えられる。
つまり、適切な姿勢保持が外界への定位・探索反応を高まらせ、さらには表 出を促すと言える。
(2)感覚の活用
授業A−5のような揺れ刺激や、A−7の水遊び、B−7の絵本場面での触 刺激などは身体への直接的な刺激であり、重症児には伝わりやすい刺激であ ると思われる。反対に、A−2での音楽やB−3での絵本の読み聞かぜは視覚 や聴覚にはたらきかけるが、身体との距離がある間接的な刺激であるため、
その刺激に注意を向けないと伝わりにくいと思われる。そのため、重症児に おいては、直接的な刺激が表出の促進に有効だと考えられる。
また、かかわり手が複数の刺激によってはたらきかける場面が多く見られ た。A−7では玩具を対象児にも触れさせ音を鳴らすことで、音だけでなく 玩具の手触りや音による振動を手の平で感じさせていたと考えられる。B−
1では呼名に合わせて対象児の腕をトントンと叩くはたらきかけが見られ
た。
細渕(2007)が、定位・探索反応の促進において「単一感覚刺激では信号 的意味に乏しい」と指摘している通り、複数の感覚刺激を提示することによ って、重症児の外界への興味や理解がより促進されると考えられる。
多くの乳児研究(鎌田1984、橘2009)が示すように、子どもはガラガラ を振ることやなめることなど、感覚刺激を通じてその対象を知覚する。細渕 (2003)は重症児においても同様であるとし、r注視・追視の発現にあたっ ては、玩具等を単に視覚的に提示するだけでなく、手で触れさせたり、顔や 口唇に触れさせたりする援助が必要だ」と指摘している。これらのことから、
間接的な刺激と直接的な刺激を組み合わせて、重症児の複数の感覚にはたら きかけることが必要だと言える。
(3)はたらきかけの手がかりを得るための試行錯誤
本研究において、A児は快・不快を表すr微笑」r表情(微笑以外)」を手 がかりとして、B児はr視線の変化」を手がかりとして、彼らの意思・感情 を推察し、はたらきかけることが有効だと考えられた。
松田(2001)は、子どもの意思の読み取りと確かめについて「大切なこと は、かかわり手が子どもの意思を推測し続けることではなく、仮の読み取り に沿ってまずは子どもにかかわってみて、読み取りの適否を冷静に探るとい う姿勢を意識的に保つことである」としている。
本研究において、授業A−7ではかかわり手が重症児の意思・感情を推察 しはたらきかける際の試行錯誤がわずかに見られた。A−7でA児が発声と ネガティブな表情で暑さを訴えた際、かかわり手はマッサージをしていたA 児の手を放したり、再びマッサージをした後にうちわを手にしている。実際 のかかわり場面においてはこのように一瞬で重症児の意思・感情の推察とは たらきかけの判断をすることが求められる。本研究は、筆者が観察者という 立場で重症児の意思・感情を推察し、また有効なはたらきかけ方について検 試したが、より実際の場面に近い「かかわり手がどのように推察したから、
どのようなはたらきかけをした」といったサイクルの検討が必要だと考えら
れる。
(4)待つこと(見つめて待つこと・間をとること)
授業B−1の絵本場面においては読む声と次の読.む声との間で瞼を開くと いう表出が見られた。また、A−1ではゲンデン太鼓にA児がリーチングし てくるのを待ったり、A−4では音楽の終わった後にA児の表出を待ったり と、かかわり手が意図的に「待つこと」が見られた。そして結果としてこれ らのr待つこと」やr間」が表出を促すことになったと言える。
元田ら(2002)は重症児施設においての興味深い介助者の行動特徴として、
「利用者(重症児)の始発や応答を『待つ』場面が見られたこと」を挙げて いる。またrこのような介助者が利用者の始発(表出)を『待つ』様子が観 察されるコミュニケーションでは、介助者の始発行動は減少する」ことから、
重症児の自発的な表出を促す効果を示唆している。さらに「コミュニケージ ヨン場面において『待つ』ということは消極的に受け取られがちであるが、
重度・重複障害児とかかわる際には 積極的な営為 として重要」だと指摘 している。
また、松田(2010)は、かかわり手と重症児のかかわり合いの過程にっい て、「(重症児の側から考えると)自分が置かれている場所やそこでの出来事、
さらには周囲の人について、一わずかであっても使える視覚・聴覚・触覚など の感覚運動系の活動を通して探索し、少しでも『分かる事柄』や『できるこ と』を懸命に探っていく過程である」「そして、とりわけかかわり手の出方 を探る過程である」と述べている。つまりかかわり手に必要なのと同様に、
重症児側にも探索のための「間」が必要であることを示唆している。つまり 「待つこと」は、重症児が変化を感じてから心の準備をするまでの「間」を 保障することでもあると言える。
これらのことから、意図的かっ積極的に「待つ」ことが、重症児の表出を とらえ理解するためにも、表出を促進するためにも、有効だと考えられる。
また、今後の研究においては重症児とかかわり手とのコミュニケーション成 立過程の特徴の一つとして、「待つ」ことがその後のコミュニケーションに どのような影響を及ぼすのかを検討する必要があると思われる。
(5)じっくりと遊びこむこと
猪狩(2011)は、授業づくりの柱となる視点として、①子どもを待つこと、
②子どもの「もっと」「もう1回」を引き出すこと、③じっくり遊びこむこ となどを挙げている。①②は前述の通りである。ここでは③のrじっくり遊 びこむこと」について考察する。
徳永(2001)は、自発的な表出が少なく、注意をどこに向けているか分か らない重度・重複障害児に対し、音声や身体接触ではたらきかけるため、太 鼓を活用した音遊びに繰り返し取り組んだ。すると、まず太鼓に注意を向け るようになり、次に自発的な動きが見られるようになり、さらに指導者と共 同で活動ができるようになり、微笑を見せ楽しむことができるようになった と報告している。
本研究においても、A−4のオカリナ演奏やA−10の玩具遊びに、徐々に 興味を向ける様子や聞き入る様子が見られ、最後に微笑を見せるという、徳 永(2001)と同様の過程が見られた。これは、複数の感覚にはたらきかける ごとや変化を加えることを交えながらではあるが、何よりじっくりと時間を かけて遊びこんだことこそがA児の興味と理解を促し、楽しむことを可能に したのだと考える。
徳永(2001)は、「子どもと大人が相互交渉を成立させるためには、一つ の事物や話題に注意を向け、お互いの関心を共有し、そこに心的接触が生じ ることが必要」であると述べている。上記の2場面においては、一つの遊び に注意を向けられるようじっくりと時間をかけた結果、遊びが共有され、r微 笑」という形で心的接触が生じたと解釈できる。
実際のかかわり場面で、じっくりと遊びこむ時間を保障することは難しい と思われる。しかし、「待つこと」にせよ「じっくり遊びこむこと」にせよ、
重症児の表出を促すためには、「ゆとり」が必要だと言える。猪狩(2011)
が、rゆったりとした時間と関係の申でこそ見えてくる子どもの真実」と表 現するように、かかわり手は、時間的なゆとりと精神的なゆとりを持っては たらきかけることが大切だと考えられる。