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学位論文題名Modeling of Ecosystem and Biogeochemical Cycles in the Western North Pacific

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Academic year: 2021

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(1)

博士(地球環境科学)   橋岡豪人

     学位論文題名

Modeling of Ecosystem and Biogeochemical Cycles     in the Western North Pacific

(西部北太平洋の生態系と物質循環に関するモデリング)

学位論文内容の要旨

  こ れ ま で に 、 海 洋 生 態 系 や 物 質 循 環 の理 解 を目 的 に、 三 次元 の海 洋 生態 系 モデ ル を用 い た研 究が 行 われ て い る 。 しか し 、組 み 込ま れ てい た生 態 系モ デ ルは 、 計算 資源 の 問題 や 生態 系 の複 雑 さか ら、 生 物の グ ルー プ 構成を 表 現 でき ない モデルが主で あった。本研 究では、PICES (North Pacific Marine Science Organization)で開発 された 生 態 系モ デ ルNEMURO (North Pacific Ecosystem Model Used for Regional Oceanography)を基 に、プランク トンの 機 能 グ ル ー プ と そ れ に 伴 う 窒 素 や ケ イ 素、 炭 素の 循 環の 違 いを 明示 的 に表 現 した 三 次元 海 洋生 態系 モ デル を 開 発 し 北 太 平 洋 西 部 亜 寒 帯 域 に 適 用 し た 。 こ の モ デ ル を 用 い て 以 下 の3つ の 事 柄 に つ い て 考 察 を 行 っ た 。

  (1)物 理 環境 と生 態 系の 関 係に 注 目し 、植 物 プラ ン クト ン の優 占 グル ープ が 季節 的 ・海 域 的に 変化 す る要 因 を 考 察 した 。 特に 、 優占 グ ループ決定にお ける、ボトム アップコント ロール(栄養 塩、光、温度な ど環境要因が 生態系 を コントロール するという概 念)とトップダウンコントロール(動物プランクトンの捕食など高次生物が生態系をコントロ ー ル す る と いう 概 念) の 両者 の 果た す 役割 を考 察 した 。(2)生態 系 と物 質循 環 の関 係 に注 目 し、 海洋 の 二酸 化 炭 素 の 取 り 込 み を 考 え る 上 で 重 要 な 量 で あ るRain比 (100m深 で のCaC03の 輸 出 生 産 に 対 す るPOCの 輸 出 生 産 の 比 で 定義 ) の海 域 的な 違 いが 生じ る メカ ニ ズム を 考察 した 。 特に 、Rain比の決 定に対して、沈 降粒子の生成 過程と 輸 出 過 程 が 果 た す 役 割 を 明 示 的 に 分 解 し 考 察 し た 。(3)モ デル で 地球 温暖 化 実験 を 行い 、 温暖 化に 対 する 海 洋 生 態 系 お よ び 物 質 循 環 の 応 答 を 予 測 し た 。 モ デ ル は 現 在 の 西 部 北 太 平 洋 に おけ る 生態 系 の季 節変 化 や水 平 的 な 分 布 を 良 く 再 現 し 、 解 析 に よ り そ れ ぞ れ 以 下 の3つ の 基 礎 的 知 見 を 得 る こ と が で き た 。

(1)植 物 プ ラ ン ク ト ン の 優 占 グ ル ー プ の 季 節 的 ・ 海 域 的 変 化 に つ い て

  モ デ ル で 、 年 平 均 の ケ イ 藻 類 の 優 占 率 ( 植 物 プ ラ ン ク ト ン 全 体 に 占 め る ケ イ 藻 類 の 割 合 で 定 義 ) は 、 亜 寒 帯 域 で50〜 60% 、 亜 熱 帯 で30% 以 下 で あ り 、 こ れ ら は 本 海 域 で 知 ら れ て い る 優 占 グ ル ー プ の特 徴を 再 現 し て い た 。

  ポ ト ム ア ッ プ コ ン ト 口 ー ル の 視 点 か ら 、 光 合 成 の ど の 制 限 要 因 ( 栄 養 塩 濃 度 、 温 度 、 光 )が 年平 均 のPIB 比 ( 比 光 合 成 速 度 ) お よ び 優 占 グ ル ー プ を 決 定 し て い る の か 解 析 を 行 っ た 。 亜 熱 帯 の よ う な 貧 栄 養 海 域 で は 、 栄 養 塩 濃 度 が グ ル ー プ 問 のP/B比 の 違 い を 通 し て 優 占 グ ル ー プ を 決 定 し て い た 。 一 方 、 栄 養 塩 濃 度 の 高 い 亜 寒 帯 域 で は グ ル ー プ 間 のP/B比 に 大 き な 違 い は な く 、 優 占 グ ル ー プ の 決 定 に 栄 養 塩 濃 度 だ け で な く ト ッ プ ダ ウ ン コ ン ト 口 ー ル の 役 割 が 重 要 で あ る こ と を 示 唆 し て い た 。

(2)

   優 占グル ープ決 定に おける トップ ダウン とポ トムア ップコ ントロールの両者の役割を理解するため、代 表 的な3 点( 黒潮続 流域、 亜寒帯 域、 亜熱帯 域)を 取りだ し、優 占率 および 比光合 成速度・比捕食速度の 季 節変動 を調べ た。黒 潮続 流域と 亜寒帯 域では 冬季か ら春 季プルームの始まりにかけて、ケイ藻類の優占 率 は70 %以 上に急 激に 増加した。これは、ケイ藻類が冬季、動物プランクトンによる捕食圧が低い状態で、

高 い成長 速度を 持つこ とが要因あった。春季プルームの終わりから夏季にかけて、ケイ藻類の優占率は 30 % ま で減少 してい たが、 これ はケイ 藻類を 好んで 捕食す るカ イアシ類が深層から表層へ鉛直的に移動してき た こと及 び、同 時期に 珪酸 塩濃度 の減少 がケイ 藻類の 光合 成を制限しためであった。以上より、黒潮続流 域 と亜寒 帯域で は、優 占率 の季節 変動に 、栄養 塩濃度 だけ でなく動物プランクトンの補食嗜好性が重要な 役 割を果 たして いた。 一方 、亜熱 帯域の ような 貧栄養 海域 では優占率は年間を通じて主に栄養塩濃度によ り 決定さ れてい た。

(2) Rain 比 の決定 要因に ついて

  Rain 比 の 決 定 に お いて 、 表 層 で のCaC03 と POC の生 産過程 と生成 から 輸出の 過程( 分解過 程)の 、そ れぞれ が果た す役 割を調 べた。 年平均 のRain 比 は亜寒 帯域 のO .05 から亜熱帯域の0 .15 まで増加し、この 増加は 以下の 2 つ の要因 が同 程度寄 与して 引き起 こさ れてい た。1 っは 、亜寒 帯域か ら亜熱 帯へ の優占 グ ループ の遷移 (ケ イ藻類 から円 石藻を 含む小型の植物プランクトングループヘ)に伴い、海域によりCaC03 とPOC の生産 の割 合が異なる効果であった。これは(1 )で述べられたように、主に栄養塩環境の変化により 引 き起 こ さ れ て いた 。 2 番目の 要因は 、海 域によ りCaC03 とPOC の輸 出の割 合が異 なる効 果であ った 。こ れは、 分解過 程が 強い温 度依存 性を持 つこ と及び 、輸出 の過程 でCaC03 より もPOC の方が 遙かに 多く 分解 さ れる た め 、 Ca く ニ 03 とPOC の分解 の温度 依存 性に違 いが無 くとも 、温暖 な海 域ほど CaC03 よ りもPOC の 輸出生 産が減 少す るため であっ た。こ のこ とは、 生産の 割合が 変化し なく とも温 度の変化によりRam 比が 変わり うるこ とを 示して いる。 っまり 、地 球温暖 化など のより温暖な気候条件下では、有機物の分解が促 進され Rain 比は 上がり 温暖 化に対 して正 のフイ ードパ ック として働くことを意味している。一方で、氷期 のよう な寒冷 な気 候下で は負の フイー ドパ ックと して働 くと考 えられ る。

(3) 地 球温暖 化に 対する 生態系 と物質 循環の 応答

   観測 された 気候値 とIPCC の IS92a シ ナリ オ(中 程度の 温暖化 シナリ オ) に従っ た地球温暖化実験の結果 (CCSRINIES の 大気海 洋結合 モデ ルによ り行わ れた実 験結果 )を 生態系 モデル の境界 条件 として 用い、気 候値実 験と地 球温 暖化実 験を行 い両者 の結 果を比 較した 。

     地球 温暖化 実験の 結果 、温暖 化に伴 う海水 温の上 昇に より、鉛直的な成層は強化され、海洋表層への 栄養塩 の供給 は減 少した 。その 結果、 21 世紀 末に植 物プラ ンクトンの生物量が減少し、ケイ藻類から小型 の植物 プラン クト ンヘグ ループ が遷移 する ことが 予測さ れた。これらの結果は地球温暖化の一般的仮説を 支持す るもの であ ったが 、興味 深い点 とし ては、 栄養塩 環境が 悪くな るに もかかわらず、P/B 比が温暖化 により 増加し たこ とであ る。こ れは、 成層 の強化 により 新生産と輸出生産は減少する一方、温度上昇によ り光合 成にと って より好 適な温 度環境 とな るため である 。また、表層での再循環の増加も、表層での栄養 塩の供 給を通 して 生産の 増加に 寄与し てい た。

     温暖 化に伴 う生物量や優占グループの季節変化は亜熱帯−亜寒帯の移行域で最も大きかった。特徴とし

ては、 ケイ藻 類の春季プルームが、成層の強化により現在よりも半月ほど早く起こると予測された。また、

(3)

ブ ル ー ム 時 の 生 物 量 の 最 大 値 も 栄 養 塩 濃 度 の 減 少 に 伴 い 最 大 で30%程 度 減 少 す る こと が 予 測 さ れ た 。 対照 的 に 、 ケ イ 藻 ブ ル ー ム の 後 の 小 型 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン グ ル ー プ の 最 大生 物 量 は 現 在 と ほぽ 同 じ で あ っ た 。 そ の 結 果 、 温 暖 化 に 伴 う 優 占 グ ル ー プ の 遷 移 は 、 プ ル ー ム 後 期 に 最 も顕 著 に 現 れ た 。 夏季 か ら 冬 季 は 、 現 在 も 栄 養 塩 濃 度 ・ プ ラ ン ク ト ン の 生 物 量 と も 春 季 に 比 べ 低 い た め 、 こ の 時 期 の 変 化 は 小 さ か っ た 。

―1658―

(4)

学位論文審査の要旨 主査   助教授    山中康裕 副査   教授   池田元美 副査   教授   岸    道郎

聶 0 査   Assistant Prof ・ eSSOr      松本克美(ミネソ夕大学地質学・

     地球物理学部)

     学位論文題名

Modeling of Ecosystem and Biogeochemical Cycles     in the Western North Pacific  

( 西部 北太 平洋 の生 態系と物質循環に関するモデリング)

本研究 の成 果は 、海 洋生 態系 の季 節変 動や 海域 によ る違 い、そ して生態系と物質循 環のっ ながりについて、数値モデルにより物理的側面と生物地球化学的側面の両面か ら統合的に理解したことである。これまでに、海洋生態系や物質循環の理解を目的に、

三次元 の海洋生態系モデルを用いた研究が行われている。しかし、組み込まれていた 生態系 モデルは、計算資源の問題や生態系の複雑さから、プランクトンのグループ構 成を表 現できないモデルが主であった。本研究では、プランクトンの機能グループと それに 伴う物質循環の違いを明示的に表現した三次元海洋生態系モデルを開発し、西 部北太 平洋に適用した。そして、このモデルを用いた気候値実験および地球温暖化実 験を通して、以下の3 つの問題に取り組んだ。

  (1) 物 理 環 境 と生 態系の 関係 に注 目し 、植 物プ ラン クト ンの 優占 グル ープ が季節

的 ・海域 的に変化する要因を考察した。特に、優占グループ決定における、ポトムア

ッ プコン トロール(栄養塩、光、温度など環境要因が生態系をコント口ールするとい

う 概念) とトップダウンコントロール(動物プランクトンの捕食など高次生物が生態

系 をコン ト口 ール する とい う概 念) の両者の果たす役割を考察した。(2) 生態系と物

質 循環の 関係 に注 目し 、海 洋の 二酸 化炭 素の 取り 込み を考 える上 で重要な量である

Rain 比 ( 100m 深 で の CaC03 の 輸 出 生産 に 対 す る POC の 輸 出 生 産 の比 で 定 義 ) の 海

域 的な違 いが 生じ るメ カニ ズム を考 察した。(3) モデルで地球温暖化実験を行い、温

暖 化 に 対 す る 海 洋 生 態 系 お よ び 物 質 循 環 の 応 答 を 予 測 し た 。

(5)

   モデルは現在の西部北太平洋における生態系の季節変動や水平的分布を良く再現 し、解析により以下のことが明らかになった。(1) 両コン卜口ールの役割を明らかに するため、比光合成速度および比捕食速度の季節変動を調べた。その結果、亜熱帯域 のような貧栄養海域では、優占率は年間を通じて栄養塩濃度により決定されボトムア ップ的な関係にあった。一方、亜寒帯域では、優占率の季節変動に栄養塩濃度だけで なく、動物プランクトンの補食嗜好性によるトップダウンコントロールも重要な役割 を果たしていた。 (2) 年平均のRain 比は亜寒帯域の0.05 から亜熱帯域の0.15 まで増 加し、この増加は以下の 2 つの要因が同程度寄与して引き起こされていた。 1 っは、

亜寒帯域から亜熱帯への優占グループの遷移に伴い、海域により CaC03 とPOC の生 産の割 合が異なる 効果、もう 1 つの要因は、海域により CaC03 と POC の輸出の割合 が異なる効果であった。このことは、生産の割合が変化しなくとも温度の変化により Rain 比が変わりうることを示しており、氷期のような寒冷な気候条件下では、有機物 の分解が抑えられ Rain 比は下がり、寒冷化を促進する正のフイードバックとして働 くことを示唆していた。

  (3) 以上の気候値実験で得た知見を基に、IPCC のIS92a 温暖化シナリオに従った実 験を行い、海洋生態系の温暖化に対する応答を予測した。温暖化実験の結果、温暖化 に伴う海水温の上昇により、鉛直的な成層は強化され、海洋表層への栄養塩の供給は 減少した。その結果、21 世紀末に植物プランクトンの生物量が減少し、ケイ藻類から 小型の植物プランクトンヘグループが遷移することが予測された。これらの結果は地 球温暖化の一般的仮説を支持するものであったが、本研究で得られた興味深い知見の ーっは、温暖化による影響が季節的・海域的に一様に起こるわけではなく、季節的に は春季、植物プランクトンが大増殖するブルームの時期に、海域的には亜寒帯域―亜 熱帯域の移行域で特に大きいことであった。

   審査員一同は以上の研究成果を高く評価し、また研究者として研鑚を重ねており、

その研究に対する態度も誠実かつ熱心であること、取得単位を満たしたことをあわせ、

申請者が博士(地球環境科学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと判定した。

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