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法的判断に影響を及ぼす要因の心理学的研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 山 崎 優 子

学 位 論 文 題 名

市民による公判内容の理解および

法的判断に影響を及ぼす要因の心理学的研究 学位論文内容の要旨

本研 究は , 市民 が行 なう 法的 判 断の 性質 を心 理学 的 に検 討し たも の であ る。 すな わち ,(1) どの よう な 要因が裁 判員の法的判断に影響を及 ぽし得るかについて,実験心 理学的な手法を用 いて 検討 を 行な い,(2)得ら れた 知見 にもとづ き,市民の法的判断に及ぽす 諸要因の関係性を 体 系 的 に 検 討 し た 。 本 論 文 は6章 か ら 成 る 。 以 下 , 各 章 の 概 要 を 述 べ る 。

  第1章で は, 陪審 員 裁判 に関 する 心理 学 的研 究(陪審 研究)を概観した。まず,先 行研究に お いて 指摘 さ れて きた ,法的 理解や判断に影響を及ぼす 要因を同定した。次に,陪審 裁判にお ける市民 の認知過程モうつレについて概観した。最後に,本研究で用しゝる実験バラダイム,すな わ ち模 擬裁 判 を提 示し ,その 過程または/および事後に 証拠の理解や有罪無罪判断を 質問紙に より尋ね る,という方法につしゝて 述べた。

  第2章〜 第5章で は, 上に 示 した 要因 が模 擬裁 判 員の 有罪 無罪 判断 や 検察側および 弁護側証 人 の尋 問内 容 ,被 告人 質問に 対する評価に及ぽす影響に ついて検討した。以下,検討 した各要 因につい て概説し,その上で結果に ついて述べる。

  (1)冒 頭陳 述の 影 響: 冒頭 陳述 は先 行 オー ガナイザ ー(後の学習内容を促進させ る抽象的 な 概念 ・知 識 )と して ,市民 の公判理解を促進すること が期待されている。実際にそ うである か を, 冒頭 陳 述の 理解 の深さ と証拠の理解の関係,冒頭 陳述の有無が有罪無罪判断に 及ぼす影 響を検討 することにより調べた。

  (2)被 告人 が有 罪 であ るこ とを 示唆 す る証 拠以外の 情報(事件に関するヌディア 報道,被 告人の前 科等):こうした 庸報の存在が,有罪判断にパイアスを生じさせることは,Kassin and Sommers(1997)をはじめとする 先行研究で示されてきた。 ここでは,パイアスを生じさ せるメカ ニ ズム が蓋 然 陸モ デル (各証 拠から被告人の罪の「蓋然 性」を推定し,それを自分自 身の,あ る いは 一般 的 な有 罪基 準と比 較する)やストーリーモデ ル(証拠の一部分に基づき, 被告人に 関 する 一貫 性 のあ るス トーリ ーを構成し,これに基づき 判断する)によって説明可能 であるか どうかを 検討した。

  (3)刑 事裁 判に 関 わる 法学 的知 識と 心 理学 的知識: 適切な証拠評価や有罪無罪判 断を行う に は刑 事裁 判 に関 わる 法学 的 ,心 理学 的知 識カ 泌 要だ と考 えら れる 。 例えぼ法学的 知識とし ては,「 検察の立証責任」や「推定無罪原則」,「有罪無罪判断は証拠のみにもとづいて行なわれ     ー115ー

(2)

なければならない」といった原則,さらには一般には馴染みのない特殊な法知識などカ泌要か もしれない。また,目撃証言研究についての心理学的知識も必要であるだろう。市民に対する 調査によれば市民は,自分が法学的知識を欠いていると感じている。また,法学的知識,心 理学的知識を有していたとしても,それらは必ずしも正確でないことが示されている。そこで,

法学的知識や心理学的知識に関する事前の説明が,証拠§平価や有罪無罪判断に及ぼす効果を検 討した。

  以下,実験結果について述べる。実験1(第2章)では冒頭陳述の理解,実験2〜5(第3章)

では証拠ピ|外の情報,続く実験6へ7(第4章)では法学およひ心理学に関する知識が,市民の 司法判断に及ぽす影響について検討した。

  実験1の結果は,冒頭陳述によって証拠内容の記憶が高まり,冒頭陳述の理解度が高まると 証拠内容の理解度も高まる,というものであった。

  実験2〜5の結果は,証拠以外の情報は,参加者の法的判断に無条件に影響を及ぼすわけでは ないことを示すものであった。参加者が「参照する価値のある情報である」と判断した場合に 限り,証拠以外の情報は参加者の法的判断に影響を及ぼすと考えられる。実験2〜5の結果は,

ストーリーモデルよりも蓋然性モデルを支持するものであった。

  実験6 ‑‑‑7の結果は,裁判員に法学的知識,心理学的知識をレクチャーとして与えた場合,知 識の理解度は増すが,その知識にもとづいて判断を行なうことは困難である,ということを示 すものであった。また,特殊な法概念について説明した場合,参加者の主観的な理解度は高ま っても,実際の理解度は高まらないこと,法概念を提示されたことが認知的負荷となり,採用 証拠の理解を妨げる可能性も示された。裁判に関連する法学的知識,心理学的知識を市民に説 明 す る 場 合 は , 説 明 の 時 期 , 説 明 の 仕 方 に つ い て も 十 分 配 慮 す る 必 要 が あ る 。   以上,市民の裁判理解,判断に影響を及ぼす要因,市民が裁判参加において示す傾向性の様 態が明らかになった。また,情報の内容や提示方法にきめ細やかな配慮を行う必要があること も示された。しかし,本研究での知見は,海外で行われた研究成果とは必ずしも一致しない。

今後は,相違をもたらす条件等を明らかにするとともに,これらの成果をいかにして実務や教 育に活かしていくか,その検討も必要である。

116 ‑

(3)

学位論文審査の要旨 主査   教授   仲   真紀子 副査    教授    瀧 川哲夫 副査   准教授   結城雅樹

学 位 論 文 題 名

市民による公判内容の理解および

法的判断に影響を及ぼす要因の心理学的研究

  ま ず , 当 該 研 究領 域に おけ る 本論 文の 研究 成果 に つい て, 本審 査委 員 会の 評価 を述 ベ , そ の 上 で 審 査 結 果 を 述 べ る 。

1.本 論文の研究成果

  本研 究 の成 果と して ,以 下の三点を挙 げることができる。第一は, 「証拠以外の情報」が法 的 判断 に 及ぼ す効 果を 明ら かにし,陪審 員の判断モデルにもとづいて 検討したことである。先 行 研究 に よれ ば, 被告 人に とって不利な 可能性のある「証拠以外の情 報」は,陪審員の判断に バ イア ス をか ける とさ れる 。しかし,本 研究の結果は,これらの要因 が裁判員の判断に無条件 に 影響 を 及ば すも ので はな いことを示す ものであった。っまり,市民 はこのような情報があっ て も,比較的 合理的な判断を行っていた。 また,このような判断,特 に実験2,3,4の結果は,

蓋然性 判断モデルを支持するもの であった。

  第二 に ,司 法修 習生 と学 生,市民と学 生など,参加者による結果の 違いを示したことが挙げ ら れる 。 裁判 官の 司法 判断 傾 向に つい ての 研 究は 極めて少ないが, 実験7では将来職業裁判官 に なる 可 能性 のあ る司 法修 習生と大学生 を比較し,法概念の理解や司 法判断傾向に違いが見ら れ るこ と を示 した 。こ の結 果は,司法関 係者とは異なる市民の判断傾 向を明らかにしたもので あ り , 市 民 が 司 法 裁 判 に 加 わ る こ と の 意 義 を 改 め て 明 確 に し た も の だ と い え る 。   第三 に ,裁 判員 への 説明 のあり方につ いて,有用な資料を得た点が 挙げられる。裁判員裁判 で は, 裁 判官 が裁 判員 に, 必 要な 法知 識を そ の都 度説明することと なっている。実験6では,

事 前の 説 明が 法知 識の 理解 度を促進する こと,法知識の事前説明を受 けた参加者の方が,証拠 評価に おいて慎重であることが示 された。しかし一方で,市民 にとって馴染みのない法概念(例 えば「 未必の故意」)を事前に説明すると,証拠の主観的理解度が低下することも見いだされた。

ま た, 主 観的 理解 度は 高ま っても実際の 理解度はむしろ低くなる場合 があることも示された。

これら の結果は,法知識や法概念 の説明は,単に行えばよいと いうものではなく,説明の時期,

説明法 についての吟味が必要であ ることを示している。

    ー117 ‑

(4)

  2.審査の要旨

本研究は,2009年より開始される「裁判員制度」(市民による司法参加)に焦点を当て,裁 判員の法的判断に影響を及ぽすとされる様々な要因にっいて,その効果を検討したものである。

冒頭陳述,ヌディア報道,違法収集証拠等の影響,説示,法学・心理学知識付与の効果等につ いて検討し,基礎的なデータを得たこと,市民が全体として,比較的合理的,理性的に法的判 断が行えることを示したことは新しく,今後の裁判員制度研究の起点となるだろう。また,模 擬裁判を実施し資料を収集するという,実務に即した研究バラダイムを定式化し発展させた意 義も大きい。制約としては,主たる参加者が大学生や裁判員制度に関心をもつ市民であったこ と,そのため市民の一般的特I生や,文化や個人差の問題までは十分に扱えなかったことが挙げ られる。しかし,これらの問題は今後の研究により乗り越えられるものと推察される。本研究 の成果の一部はすでに学会誌等に掲載されており,招待論文や特別報告の依頼といったかたち での評価も得ている。

以上のことを総合的に評価し,本委員会は,本論文の著者山崎優子氏に博士(文学)の学位 を授与することが妥当であるとの結論に達した。

参照

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