博 士 ( 理 学 ) 尾 形 雄 一 郎
学位論文題名
Langmuir‑Blodgett Films of Nonamphiphilic IVIolecules:
Fabrication and Structural Analysis
(非両親媒性分子で形成されたラングミヱア・プロジェット膜:
作製と構造解析)
学位論文内容の要旨
ラングミュア・ブ口ジェット(LB)膜は、気‐水界面上に形成された単分子膜を一定の表面圧のも とで圧縮し固体基板上に移し取り作製され る。これまで安定な単分子膜やLB膜を作製する際に は、膜を形成する分子として親水性部位と疎水性部位とを合わせもった両親媒性分子が広く用い られてきた。両親媒性分子において、親水性部位は水面側に疎水性部位は気相方向に配向するの で分子の向きが自発的に一方向に揃った膜 が作製できる。この特徴のためにLB法は分子レベル で分子の配向とパッキングを制御できる有効な手法のーつとして、特に制御された分子配列を要 求する機能性有機超薄膜を作製する場合に有効である。これに対して、非両親媒性分子を用いて 単分子膜やLB膜を形成させる研究例は、大 環状のフ夕口シアニンやポルフィリン誘導体などの 長 鎖 ア ル キ ル 基 を 有 さ な い 非 両 親 媒 性 分 子 を 除 き ほ と ん ど 報 告 さ れ て い な い 。 最近、両親媒性分子の単分子膜を気.水界面上で無機層状化合物と複合化することで、熱力学的、
あるいは機械的により安定なLB膜を得るた めの研究が行われている。たとえば、スメクタイト 系粘土鉱物の縣濁液を下層水に用いての複 合LB膜の作製はその一例である。粘土は水中で剥離 して電荷を持った板状粒子として存在している。この粘土表面の電荷を利用してイオン性の両親 媒性分子と粘土との複合薄膜が作製されてきた。
私は、このような粘土の縣濁液を下層水に用いると、イオン陸分子でかつ水に溶けない分子で あれば、粘土層の表面に分子が吸着して粘土イオン性分子複合膜を形成する事ができる可能性に 着目した。もしこれが正しければ、分子が 必ずしも長鎖アルキル基を有さなくても高品位のLB 膜が形成されることが期待される。以上のような観点から、本研究では長鎖アルキル基を有さな い非両親媒性分子と無機層状化合物のーつ である粘土による新規なLB膜を作製することを目的 とした。具体的には、スヌクタイト系粘土鉱物の縣濁液を下層水に用い、種々の長鎖アルキル基 を有さない分子によるLB膜作製を試み、そ の作成条件の最適化と構造解析を試みた。長鎖アル キル基を有さない分子が利用できれば合成の繁雑さが軽減され、LB膜の研究に用いることができ る分子の幅を広げることができる。また、長鎖アルキル基を有さない分子を用いることで膜中の 単位体積中の分子の密度を高めることもできる。さらに、このような複合膜を機能薄膜として用 一258―
い る 場合 、 長 鎖 アル キ ル 基 が無 い ほ う が、 膜 に よ る機 能 発 現 (分 子 識 別 等) がよ り顕著 になる こ と も 期待 さ れ る 。製 膜 条 件 と得 ら れ た 膜の 特 徴 と の関 係 を 調 べる こ と に より 、こ のよう な系に お けるLB膜作製に関するメカニズムを解明することを目指した。
本 研 究 で は 、 以下 に 述 べ るよ う3種 の 長 鎖 アル キ ル 基 を有 さ な い 非両 親 媒 性 のイ オ ン 性 また は 極 性 分子 を 取 り 上げ た 。 す なわ ち 、 膜 を形 成 す る 分子 と し て は、 ま ず 始 めに 分子 形状が 球状の イ オン陸のルテニウム4,7‑ジフェニル‐1,10‑フェナン卜ロリン化合物([Ru(dpphen)3l(CI04)2冫を用いた。
作 製 条 件 と し て 、 下 層 水 の 粘 土 濃 度を 様 々 に 変化 さ せ 、 数百 枚 の 複 合LB膜 を 作製 し た 。 その 際 の表 面圧→分子占有面積(兀−A)等温曲線の観察及び得られた膜の吸収スペクトルから、ゲス卜分子の 粘土 への吸 着は膜 の圧縮 後では なく、気−液界面への[Ru(dpphen)3l(CI04)2の展開後すく゛に起こり、
観 察 され る7r‑A曲 線 は 粘土 粒 子 間 の反 発 カ に 起因 す る こ とが 明 ら か とな っ た 。この 事実と関 連し て 、 膜中 の 分 子 密度 が 大 き い膜 を 得 る ため に は 、 下層 の 粘 土 懸濁 液 の 濃 度を 薄く した方 が良い こ と が わか っ た 。 一方 、 下 層 の粘 土 懸 濁 液の 濃 度 を 薄く す る と 、粘 土 粒 子 に付 着す る前の 下層へ の
【Ru(dpphen)3](CI04)2の溶 解が問題 となる ことが わかっ た。そ こで、 下層中 にこの 錯体の対 イオン を含 む塩を 共存さ せて、 【Ru(dpphen)3](Cl04)2.の溶解 度を落 とレた 条件下 での膜作製も試みた。得 ら れ た 結 果 か ら 、 過 塩 素 酸 の イ オ ン 濃 度 が5x i0…mouiか つ 下 層 水 の 粘 土 濃 度 がi.oX10‑2酬 のと き、[Ru(dpphen)3](CI04)2が高 密度か つ溶解 せずに 粘土表 面に配 列させ られることを見出した。
加 え て 、 下 層 水 の 粘 土 濃 度 が2.5Xl0‑2び の と きは 下 層 水 に過 塩 素 酸 イオ ン を 共 存し な く て も、
過 塩 素 酸 の イ オ ン 濃 度 が5X 10…moI/lか つ 下 層 水 の 粘 土 濃 度 が1.0x10‑2び の 条 件 で 得 られ た 膜と同等に高密度に分子が配列した膜が得られることがわかった。
次に 形状が 棒状の インド リンと7,7,8,8−テト ラシア ノキノ ジメタ ン誘導 体とで形成されるツビ ツ 夕 一イ オ ン 性 の化 合 物(ind‑TCNQ)を用 い た 。 棒状 の 両 親 媒性 分 子 を 用い 、 粘土と ゲスト 分子と の 間 の静 電 的 な 相互 作 用 が 膜厚 方 向 に どの 程 度 の 距離 ま で 及 ぶか を 調 べ た。 その 結果、 静電的 な 相 互 作 用 は 粘 土 層 に 直 接 接 し て い るゲ ス ト 分 子の 層 に の み有 効 で あ るこ と が 明 らか と な っ た。
最 後 に 、 本 研 究 で 創 案 し た 粘 土と の 複 合 化に よ るLB膜 作 製 手法 が イ オ ン性 分 子 の みな ら ず 極 性 分 子 へも 応 用 で きる か を 、2,5‐ ピ スp‐ ジメ チ ル ア ミノ シ ン ナ ミリ デ ン ) シク 口 ペ ン タノ ン (DMACCP)を 用 い て 調 べ た 。 そ の 結 果、 極 性 分 子を 用 い て も再 現 性 よ く膜 を 作 製 でき た の み なら ず 、 少 な く と も15層 ま で 膜 が 同 一 の 移 行 比 で 均 一 に 積 層 す る こ と を 見 出 し た 。 以上 示 し た よう に 、 長 鎖ア ル キ ル 基を 有 さ な い非 両 親 媒 性の イ オ ン 性ま た は極性 分子を 粘土と 組 み 合 わ せ る こ と で 、 分 子 が 配 向 したLB膜 を作 製 で き るこ と を 見 出し た 。 多 くのLB膜を 系 統 的 に 調 ぺる こ と で 製膜 の メ カ ニズム を明ら かにし た。そ の結果、 製膜条 件を最 適化す ること により 、 分子が高密度かつ高度に配向したLB膜が作製可能となることを示した。
本研究の成果はこれまでに7報の原著論文として専門誌に掲載した。
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学位論 文審査の要旨
主 査 教 授 川 端 和 重 副 査 教 授 中 田 允 夫
副 査 教 授 山 岸 晧 彦 ( 東 京 大 学 大 学 院 理 学 系 研 究 科)
副 査 助 教 授 川 俣 純 ( 山 口 大 学 理 学 部 )
学位論文題名
Langmuir‑Blodgett Films of Nonamphiphilic htIolecules:
Fabrication and Structural Analysis
( 非 両 親 媒 性 分 子 で 形 成 さ れ た ラ ン グ ミ ュ ア ・ プ ロ ジ ェ ッ ト 膜 : 作 製 と 構 造 解 析 )
近年 、分子を1個の 機能素 子として 固体基 板上に集積し、それによって低エネルギー作動の微 細化 デバイス を実現す る試み が盛んで ある。 このような目的のためには、分子を2次元規則的に 配列 した固体 面を実現 することが不可欠である。これを実現するための代表的な方法としてラン グミ ュア・ブ ロジェッ ト(LB)法がある。LB法では、気‐水界面上に形成された単分子膜を一定の 表面 圧のもと で圧縮し 固体基 板上に移 し取り 作製され る。こ れまで、 安定な単分子膜やLB膜を 作製 する物質 としては 、自発的膜形成のために親水性部位と疎水性部位とを合わせもった両親媒 性分 子が用い られてき た。こ れに対し て、非 両親媒性 分子を 用いて単 分子膜やLB膜を形成させ る研 究例は、 大環状の フタロシアニンやポルフィリン誘導体などの長鎖アルキル基を有さない非 両親 媒性分子 を除きほ とんど報告されていない。しかし一般には、分子本来の機能が上に述べた 両親 性とは相 容れない ことが多く見られる。例えば、長鎖アルキル基部分は膜による分子認識や 物質 透過性に 障害とな る。このために、非両親媒性有機分子の薄膜化は機能性材料開発の大きな 挑戦課題のひとっである。
本研究では、このような課題を解決するためのひとっとして、有機物質を気−水界面上で無機層 状化 合物と複 合化する ことで、熱力学的・機械的に安定な分子性薄膜を得る可能性に着目した。
今までにこのような方法として、たとえばスメクタイト系粘土鉱物の縣濁液を下層水に用いその 上に 有機両親 媒性物 質を展開して複合LB膜の作製が行われてきた。粘土は水中で剥離して電荷 を持った板状粒子として存在している。この粘土表面の電荷を利用してイオン性の両親媒性分子
・と粘土との複合薄膜作製が可能となる。
そこで本研究では、粘土の縣濁液を下層水に用いるとイオン性分子でかつ水に難溶性分子であ る限り粘土層の表面に分子が吸着して粘土‐イオン性分子複合膜を形成する事ができる可能性に ―260―
着目した。もしこれが正しければ、分子が必ずしも長鎖 アルキル基を有さなくても高品位のLB 膜が形成されることが期待されるのである。このような観点から、本研究では長鎖アルキル基を 有さなぃ非両親媒性分子と無機層状化合物のーっである 粘土による新規なLB膜を作製すること を目的とした。粘土鉱物との複合化物質としては、高度の分子認識能の期待される金属錯体、分 子内の電荷移動によって大きな双極子を有する有機分子、あるいは折れ曲がった兀電子系を有する 異方性電子分極を有する有機分子などが選ばれた。これらはいずれも単独では、分子性薄膜の製 作が困難な物質である。これらの物質と粘土鉱物との複 合LB膜製作を試み、その作成条件の最 適化と構造解析を試みた。膜の解析には、分子配向の乱 れを敏感に反映する第二次高調波発生 (SHG)を用いた。以下にこれらの物質を用いた結果について述べる。
まず始めに分子形状が球状に近く、しかも大きな疎水性ポケットをもっために選択的にほかの 分子 を取 り込 む可 能性 のあ るル テニ ウム4,7―ジフェニル―1,10‑フェナン トロリン化合物 ([Ru(dpphen)3](Cl04)2)について調べた。製膜条件として下層水の粘土濃度を様々に変化させ、数百 枚の複合LB膜を作製した。その際の表面圧‐分子占有面積(n‑A)等温曲線及び得られた膜の吸収ス ペクトルから、この金属錯体と粘土粒子との結合は膜の圧縮後ではなく、気‐液界面への展開後直 ちに起こることが明らかにされた。これより観察された膜の表面圧の由来は粘土粒子間の反発カ に起因することが明らかとなった。この事実と関連して、膜中の分子密度が大きい膜を得るため には下層の粘土懸濁液の濃度を低くすることが有利であることが導かれた。しかし下層の粘土懸 濁液の濃度が低くなりすぎれば、粘土粒子との複合化前に下層への溶解が起こってしまう。この 問題を解決するために、本研究では下層中にこの錯体の対イオンを含む塩を共存させることが発 案された。詳細な検討の結果、最適な過塩素酸イオン濃度、粘土濃度、展開する金属錯体量が決 められた。その結果、機能性素子としての[Ru(dpphen)3]2゛イオンが高密度かつ溶解せずに粘土表面 に規則配列することが見出された。
次に分子内電荷移動を有する棒状分子であるインドリンと7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン とが結合した対イオン性化合物(ind‑TCNQ)について調べた。この分子を用いて粘土と有機分子イ オンとの間の静電的相互作用が膜厚方向にどの程度の距離まで及ぶかを明らかにしようとした。
膜の電子スペクトル、SHG測 定の結果から、静電的な相互作用は粘土層に直接接している有機分 子の1分子層にのみ有効であることが明らかとなった。
最後に、本研究で創案した粘土との複合化によるLB膜 作製手法がイオン性分子のみならず極 性分子へも応用できるかを、折れ曲がった大きな冗―電子系を有する2,5‐ビス(p‑ジメチルアミノシ ンナミリデン)シクロペンタノン(DMACCP)を用いて調べた。その結果、極性分子を用いても再現 性よく膜を作製できたのみならず、少なくとも15層まで 膜が均一に積層することを見出した。
以上の結果は7報の原著論 文にまとめられている。ここで得られた薄膜はいづれも今後機能性 薄膜として期待されるものである。よって、審査員一同はこれらの成果を評価し、著者は北海道 大学博士(理学)の学位を授与されるし資格があるものと認める。
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