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巨大スラブ内地震の震源特性に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 森 川 信 之

学 位 論 文 題 名

巨大スラブ内地震の震源特性に関する研究 学位論文内容の要旨

  これま で、プレート沈み込み地域で発生するマグニチュードが8クラスの巨大地震は、

そのほ とんどが プレート 間地震 であると 考えら れていた 。しか し、1993年釧 路沖地 震 (MJMA=7.8:気象庁マグニチュード)、1994年北海道東方沖地震(MJMA:ニニ8.1)と、北海道 東部一千島列島南部地域で相次いで発生した巨大地震は、ともにスラブ自身の破壊による

「スラ ブ内地震 」であっ た。こ れら2つのスラブ内地震において、震源から100km以上も 離れた地域でも強い地震動による大きな被害が生じた。一方、広帯域強震動観測網の展開 によって震源に近い観測点での強震動記録が得られるようになると、地震の震源過程の研 究にお いて、1Hz付近の「やや高周波数地震波」に関する解析が行われるようになってき た。この周波数帯の地震波放出過程を知ることは、震源における詳細な破壊過程を理解す るためだけではなく、建築物にもっとも大きな影響を与えることから、地震動災害軽減の ための強震動予測を行う上で重要な要素となっているからである。しかしながら、これま で高周波数地震波の研究を行うことができる地震動記録は、内陸地殻内地震のみでしか得 られていなかったため、他のカテゴリー地震に関しては行われていなかった。そのような 中、1993年釧路沖地震、1994年北海道東方沖地震では、比較的震源に近い複数の観測点に おいて広帯域強震動記録が得られている。本研究は、これらの記録を解析することによっ て、巨 大スラブ 内地震の 震源特 性、特にO.lHzか ら10Hzのや や高周波数地震波の放出特 性を 定 量 的に 評 価 し 、そ の 特 徴お よ ぴ 要因 を 明 らか に するこ とを目的 としてい る。

  はじめに、震度分布および最大地動加速度分布を調査し、巨大スラブ内地震において、

同じマグニチュードのプレート間地震よりも、有感域、震度、最大地動加速度が大きくな ってい ることか ら、これ らの観 測値に大 きな影 響を与え る1Hzから10Hzの高周波数地震 波が強く励起されていたことを指摘した。

  続いて、1993年釧路沖地震、1994年北海道東方沖地震の近地広帯域強震動記録の周波数 領域における解析を行った。強震動観測記録から震源特性(震源スペクトル)を評価する ためには、伝播経路特性および観測点近傍のサイト特性を取り除く必要がある。本研究で は、比較的伝播経路が単純な1993年釧路沖地震については、サイト特性が単純である岩盤 上の観測点の記録を用いて理論的に評価した。一方、伝播経路特性が複雑な1994年北海道 東方沖地震については、同一観測点におぃて、同じ震源域内で発生した1969年北海道東方 沖地震(MJMA:ニ7.8)の記録との比をとることによって震源スペクトルを相対的に評価する ことを提案し、その有効性を示した。震源スベクトルモデルとしてこれまでに多くの地震 に対して適用されているW.2モデルを基準として比較を行った結果、観測スペクトルの振幅

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が、1Hz以 下の低周 波数地 震波の解析から求められた震源パラメーターによって、O.lHz 以下の低周波数領域についてはこのモデルで説明できるものの、1Hz以上の高周波数領域 で は 、 観 測 値 の ほ う が 約10倍 大 き く 、 説 明 で き な い こ と を 明 ら か に し た 。   次に、この高周波数地震波の特異な励起を説明するための震源モデルの推定を行った。

本研究では、10Hzまでの高周波数地震波を含めた観測記録を説明できる理論地震動記録の 合成に成功している、経験的グリーン関数法を用いた。この方法は、対象とする大地震の 震源域内で発生した小地震の観測記録が、大地震の伝播経路特性およびサイト特性を含ん でいるとぃうことから、これをグリーン関数として用いて理論地震動記録を合成するとぃ うものである。Forward Fittingによる震源モデルの推定を行った結果、1993年釧路沖地 震、1994年北海道東方沖地震のいずれも、一様なすべりを仮定した均質な破壊過程による モデルでは観測記録を満足に説明することができないことを示し、両地震の破壊過程が不 均質なものであったことを明らかにした。また、不均質な破壊のバラメーターとして、局 所的 に400MPaにも およぶ きわめて 大きな応 力降下 量を伴う、10m以上の大きなすべりを 生じていた領域(アスペリテイ)があり、そこから放出された地震波が強震動観測記録に お け る高 周 波 数、 特 に1Hz以 上 の領 域 の 振幅 を 支 配し て い るこ と を 明ら か に した。

  本研究におぃて推定された巨大スラブ内地震の震源モデルと1Hz以下の低周波数地震波 の解析によってこれまでに示されている震源モデルとの比較を行った結果、アスペリテイ の位置は両者でほぼ一致していることが確認された。しかしながら、アスベリテイにおけ るすべり量や応力降下量はこれまでの震源モデルでは過小評価されており、そのために観 測スペクトルの高周波数領域における大振幅をこれまでの震源モデルでは説明できなかっ たことを明らかにした。

  さらに、本研究で求められた震源パラメーターと内陸地殻内地震およびプレート間地震 の震源パラメーターとの比較を行い、スラブ内地震における破壊領域やアスペリテイ領域 の面積が他の地震の1/4以下ときわめて小さいこと、また、アスペリテイにおけるすべり量 が3倍以上大きいことを明らかにした。このことは、スラブ内地震において、狭い領域か ら短時間のうちにきわめて多くの地震波エネルギーが放出されることを表すものであり、

結果として震度や最大地動加速度が同規模のプレート間地震よりも大きくなる要因となっ ている。

  最後に、北海道東部から千島列島南部にかけてのプレーと沈み込み地域において過去に 発生 した巨 大地震の 震度分 布の再調 査を行っ た。そ の結果、1958年エト ロフ島沖地震 (MJMA:ニ8.1)の震度分布が1994年北海道東方沖地震によるものと類似していることが分 かった。これまで、この地震はプレート間地震であったと考えられていたが、地震モーメ ントに対して余震域が狭く、グローバルな応力降下量が通常のプレート間地震よりも大き いこ とが示 されてお り(Fukao and Furumoto,1979)、本研究によって明らかにされたス ラブ内地震の特徴に当てはまることから、この地震が巨大スラブ内地震であった可能性が 高いことを指摘した。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    西 田泰典 副査    教授    小 山順二 副査    教授    笠 原    稔 副査    教授    蓬 田    清 副査   助教授   笹谷   努

学 位 論 文 題 名

巨大スラブ内地震の震源特性に関する研究

    プレ ート 沈み 込み 地域 では 、 海洋 側プ レー 卜と 陸側プレートとの境界にそって、マグニ チュ ード8クラ スの 巨大 地震がしばしば発生 する。これらの巨大地震は、「プレー卜問地震」

と 呼 ば れ て い る。 と ころ が、 千島 列島 南部 から 北海 道に かけ て発 生し た1993年釧 路沖 地震

(M〓7.8)と1994年北 海道 東方 沖地 震(M〓8.1) は、これらとは異なり、沈み込んだ海洋 プレ ー卜 (こ れを スラ ブと 言う ) の内 部で 発生 した 「スラブ内地震」である。本研究は、広 帯 域 強 震 動 記 録 の 解 析 か ら 、 こ れ ら の 巨 大 ス ラ ブ 内 地 震 の 震 源 特 性 を 広 い 周 波 数 範 囲 (0.1〜 10Hz)に わ た っ て 検 討 し 、 そ の 特 徴 を 明 ら か に し た も の で あ る 。     申請 者は 、ま ず、 これ らの 地 震に よる 震度 分布 および最大加速度と震源距離との関係を 調べ た。 そし て、 スラ ブ内 地震 に よる 有感 域、 最大 加速度が、プレート間地震によるそれら に比 べて 、は るか に大 きい こと を 指摘 した 。こ れは 、これらの観測値に大きな影響を与える 高 周 波 数(1Hzか ら10Hz)地 震 波 の 励 起 特 性 が 、 プ レ ー 卜 間 地 震 と ス ラ ブ 内 地 震 と で 異 な って いる こと を定 性的 に表 わし て いる 。

    次 に 、 近 地 広 帯 域 強 震 動 記 録 の 周 波 数 領 域 に お け る 解 析 か ら 、1993年 釧路 沖地 震と 1994年北 海道 東方 沖地 震の 震源 ス ベク 卜ル を評 価し た。スラブ内地震の震源スペク卜ルは、

既 存 の 震 源 モ デ ル に 基 づ く 理 論 震 源 ス ベ ク卜 ル に比 べて 、1Hz以 上の 高周 波 数領 域で 約10 倍大きいことを示し、上記の特徴の要因が震 源特性にあることを観測記録から明らかにした。

震源 スペ クト ルを 評価 する 際に は 、観 測ス ペク 卜ル から伝播経路特性と観測点近傍のサイ卜 特性 を取 り除 く必 要が ある 。申 請 者は 、ほ ぽ同 一震 源域 を有 する2つの 地震 による同一観測 点 で の 記 録 の ス ベ ク 卜 ル 比 を と る こ と で 、 こ れ ら の 特 性 を 取 り 除 く 工夫 も 行っ てい る。

    続 い て 、 広 い 周 波 数 範 囲(0.ト10Hz)に わ た る 観 測 記 録 を 説 明 す る、 巨 大ス ラブ 内地 震の 震源 モデ ルを 推定 した 。こ こ で、 申請 者は 、小 地震による観測記録をグリーン関数とし て大 地震 によ る強 震動 を合 成す る 、い わゆ る経 験的 グリーン関数法を採用した。この方法で は、 まず 大地 震の 断層 面を 小地 震 に相 当す る小 断層 に分割する。そして、ある観測点におけ

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る断層面全体からの強震動は、破壊の伝播に応じて時間をずらしながら各小断層からの小地 震記録を足し合わせることで得られる。ただし、ここで足し合わされる小地震記録は、大地 震と小地震の震源時間関数の違いを考慮して修正されている。各小断層の断層パラヌータは、

合成記録が観測記録に合うようにForward fittingによって決定された。申請者は、推定さ れた巨大スラブ内地震の震源モデルが次の特徴を有することを明らかにした。震源モデルは、

大きなすべりを有する領域(アスベリティ)が断層面上に複数存在する不均質断層モデルで あり、このアスベリティから強い高周波数地震波が励起されている。また、アスペリティの 面積は余震域よりもはるかに小さい。そして、スラブ内地震の震源モデルを同じ大きさ(地 震モーメント)の内陸地殻内地震およびプレー卜間地震の震源モデルと比較すると、スラブ 内地震のアスペリティ面積が他の地震に比べてきわめて小さく、逆にすべり量がはるかに大 きいことを明らかにした。っまり、巨大スラブ内地震は、他の地震と比べて、狭い領域から 短時間のうちに大きな地震波エネルギーを放出する特性を有している。これが、最初に述べ た、巨大スラブ内地震による震度や最大加速度が同規模のプレート間地震よりもはるかに大 き く な る 主 要 な 要 因 と 考 え ら れ 、 申 請 者 に よ る 重 要 な 発 見 で あ る 。     最後に、千島列島南部から北海道にかけてのプレート沈み込み地域において過去に発生 した巨大地震について、そのスラブ内地震の可能陸について検討した。過去の巨大地震に関 しては、強震動記録が存在しないので、ここでは、それぞれの地震による震度分布の再調査 を行った。その結果、1958年エト口フ島沖地震(M=8.1)の震度分布が1994年北海道東 方沖地震によるものと類似していることから、この地震が巨大スラブ内地震であった可能性 を指摘した。

    この成果は、プレー卜沈み込み地域での巨大スラブ内地震の震源特性を明らかにしたも の で 、 地 球 惑 星 科 学 分 野 に 大 き な 貢 献 を し た も の と 高 く 評 価 で き る 。     よって、著者は北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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