博 士( 獣 医 学)
ミ ーナ ・サリ カプティ
学 位 論 文 題 名Biochemical and molecular aspects of bovine C‑reactive protein
(ウシC 一反応性タンパク質の生化学的および分子生物学的性状)
学位論文内容の要旨
C―反応 性夕ンパク質(CRP)はヒトで は古くから急性相タンパク 質の1っとして知られて おり,炎症及び組織の損傷により血清中の濃度は数百倍に増加する。CRPは他の多くの動物で も存在が 明らかにされ,その分子性状や特定のりンガンド,例えばホスホリルコリン(PC)基 への結合性はよく知られている。しかし,CRPの生体内における真の役割は解明されておらず,
おそらく侵入した微生物の多糖体や崩壊した組織のク口マチンにPC基を介して結合し,抗体,
補体,マク口ファージの助けを得て,これらを速やかに排泄する役割を持っであろうと想像され て いる 。し か し, ウシCRPはPC結合 能が 弱 く,他 の役割をはたしている可能性 がある。
本論文 の目的は,先ずウシのCRPを より効率よく精製する方法を考案し血清中CRP濃度を 敏速かっ簡便に測定できる免疫測定法を確立し,臨床応用を可能にすることである。ウシCRP の分子性状をより明らかにする手段として単クロ―ン抗体を作出し,更に各種のCRPに認めら れるPC結 合部位をコードする遺伝子配 列が,ウシでどのように変異しているか調べ,ウシ CRPに認められたPC結合能の低下の原因を探ることを目的とした。
本論文は以下の4章よりなり,各章の要旨は次の如くである。
1) CRPと 血清 アミ ロイ ドP夕ンパク質(SAP)をウ シ血清より,高純度に精製し ,各々の タンパク質のサブュニットに,1っの分子内S―、S結合が存在することを明らかにした。ここで 使 われた精製法は新しい方法で ,CRP及びSAPの回収率は各 々15%及び26%であった。この 方 法は先ず血清の45−75%の硫安塩析画分をHEアガロースカラムにかけ,ガラクトースに対 す る 親 知 性 を 利 用 し てCRPとSAPを 分 離 し , こ の 両 者 をDEAE←5PWカ ラ ム を 用 い た HPLCにて分離する方法である。
2)血清中のCRP濃度を野外でも 敏速かっ正確に測定するため,簡便なラテックス粒子凝集反
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応 法 を 開 発し た 。 本 法 では 精製 した抗 体を径 がO. 489〃mの ラテッ クス粒 子1mg当たり20〃gの 割 合 でコー トし,1% の濃度 に懸 濁して 用いた 。これ を検 体と等 容ガラ ス板上 で攪拌 し,45分間 密 閉容器 内に放 置し, 凝集 の度合 で判定 した。 本法 により 得られ た値は 過去に確立した単純放射 免 疫拡散 法によ り得ら れた 値と極 めてよ く相関 した 。
3) ウ シCRPに 対 す る3っ の 異 な る 単 ク 口 ー ン 抗 体 をBALB/cマ ウ ス を 免 疫 す るこ と に よ っ て 樹 立 し た 。 こ の す べ て の 抗 体 はK軽 鎖 を 持 つIgM型 の 抗 体 で ,2っ は ヒ ト ,ヤ ギ , ネ コ の CRPと 交 差 反 応 し た が , 残 り の1っ は ウ シCRPと の み 反 応 し た 。 過 去 に 作 出 し た ヒ トCRP に 対 す る5っの 単 ク ロ ー ン 抗体 ( す べ てIgG型 ) にっ い て も 交 差 反応 性 を 調 べ たが ,1っ が ウ シ , ヤ ギ , ネ コ のCRPと 交 差 反 応 し , 他 の1っ が ネ コCRPと の み 交 差 反 応 し , 残 り の3っ は ヒ トCRPとのみ 反応し た。
4一)ウ シCRPの 分 子 構 造 を 明 ら か に す る た め ,2.2Kbよ り な るcDNAを ウ シ 肝cDNAラ イ ブ ラ リ ー よ り 分 離 し た 。 こ のcDNAはEcoRI,Hind皿 ,PstI,SacI,XbaIの 制 限 酵 素 で 切 断 さ れる 箇 所 を 各 々1っ ず つ 持 っこ と が 判 っ た。 こ のcDNAの 塩 基 配 列の 一 部 を 決 定 し た ところ ,19の アミノ 酸より なるシ グナ ルペプ チドを 持ち,N末 端はグ ルタ ミンか ら始ま り,
合 計87のア ミノ 酸配列 まで明 らかに された。この部分でのアミノ酸配列をヒト,ウサギ,マウス,
ハ ム ス タ ーのCRPと 比較 す る と , 各々82% ,89% ,81% ,81%の 相同性 がみ られ, これが ウシ CRPのcDNAで あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 一 方 こ の ア ミ ノ 酸 配 列 中 にPC基 に 対 す る 結 合 部 位 (52番 の ア ミ ノ 酸 か ら66番 の ア ミノ 酸 ま で ) が含 ま れ る が ,ウ シCRPがPC基 に 対し 親 和 性 が 極 めて弱 い理由 は,48番の塩 基性の アルギ ニン が中性 のグル タミン に置 換しているためと解釈さ れ た。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 教授
斉藤 佐藤 藤永
昌之 文昭 徹
副 査 国 立 予 防 衛 生 研 究 所 部長内 貴正治
血清夕ンパク質のーつであ るC一反応性タンパク質(CRP)にっいては,ヒトでは古くから 研究されており,炎症や組織の損傷により血清濃度が著しく増加することから,代表的な急性相 タンパク質として知られている。ヒト以外の多くの動物種でもCRPの存在が確認されており,
その分子性状や血中動態に関する知見も集積されつっある。特に,ウシのCRPにっいては,代 表的なりガンドであるホスホリルコリン(PC)基への結合が弱く,しかも炎症時でも血中濃度 があまり変化しないことが知られている。ミーナ・サリカプティ氏は,このようなウシCRPの 特 質を分子レベルで解明し併せて臨床応用への手掛りを得ることを目的として,まず,ウシ CRPの効率よい精製法を考案し,これに対する単クローン抗体を作出すると共に血清濃度の迅 速かっ簡便な定量法を確立した。更に,アミノ酸配列を決定し分子特性の理解を深めた。これら の成績をまとめた本論文は,英文68頁からなり,以下の4章で構成されている。各章の要旨は以 下の通りである。
1)CRPと血清ア ミ口イドP夕ンパク質(SAP)をウシ血清より,高純度に精製するために,゜
血清の45―75% の硫安塩析画分をHEアガ口ースカラムにかけ,ガラクトースに対する親知性 を 利 用 し てCRPとSAPを 分 離 し , こ の 両 者 をDEAE―5PWカ ラ ム を 用 い たHPLCに て 分離するという 新しい方法を考案した。CRP及びSAPの回収率は各々15%及び26%であった。
2)血清中のCRP濃度を野外でも迅速かつ正確tこ測定するため,簡便なラテックス粒子凝集反 応法を開発した 。即ち,精製した抗CRP抗体を径がO.489〃mのラテックス粒子lmg当たり20 肛gの割合でコートし,1%の濃度に懸濁して用いた。等容の検体とガラス板上で攪拌した。45 分間密閉容器内に放置し,凝集の度合で判定した。本法により得られた値は過去に確立した単純 放射免疫拡散法により得られた値と極めてよく相関した。
3)ウ シCRPに 対 す る3種 の 単 ク 口 ー ン 抗体 をBALB/cマ ウス を免 疫す るこ と によ って 樹
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立 した 。こ のす べ ての 抗体はK軽鎖を持つIgM型の抗体で,2っはヒト ,ヤギ,ネコのCRP と交差反応し たが,残りの1っはウシCRPと のみ反応した。ヒトCRPに対する5種の単クロー ン抗体(すべ てIgG型)にっいても交差反 応性を調べたが,1っがウシ,ヤギ,ネコのCRPと 交差反応し, 他の1っがネコCRPとのみ交差 反応し,残りの3っはヒトCRPとのみ反応した。
4) ウ シCRPの 分 子 構 造 を 明 ら か に す るた め,2.2Kbより なるcDNAを ウシ 肝cDNAラ イ ブ ラ リ ー よ り 分 離 し た 。 こ のcDNAはEcoRI,Hind皿 ,PstI,SacI,Xba1の 制 限 酵素で切断さ れる箇所を各々1っずつ持っ ことが判った。このcDNAの塩基配列の一部を決定 し,19個のアミノ酸よりなるシグナルペプチドと,グルタミンから始まるN末端から87個のアミ ノ酸配列を明らかにした。これをヒト,ウサギ,マウス,ハムスターのCRPと比較すると,各々 82%,89%,81%,81%の相同性がみられ ,これがウシCRPのcDNAであ ることが確認され た。一方このアミノ酸配列中にPC基に対する結合部位(52番のアミノ酸から66番のアミノ酸ま で)が含まれ るが,ウシCRPがPC基に対し 親和性が極めて低い理由は,48番の塩基性のアル ギニンが中性のグルタミンに置換しているためと解釈された。
以上のように,本論文はウシCRPに関する多くの新知見を提示しており,今後の基礎的並び に臨床的研究の推進に貢献するところが大きい。よって審査員一同は,ミーナ・サリカプティ氏 が博士(獣医学)の学位を受ける資格を有するものと認める。
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