博 士 ( 農 学 ) 趙 誠 培
学 位 論 文 題 名
公共事業におけるコンフリクト・アセスメントに関する 実証研究
ー韓国のハンタン江ダム建設を事例として一
学位論文内容の要旨
公共 事業 の代 表例 であ るダ ムは 、 広範 な土 地を 水没させるなど、当該 地域の経済、
社 会な どに 極め て大 きな 影響 を及 ぼ す。 この ため 、ダム建設を推進する 政府、ダム建 設 に反 対す る団 体、 ダム 建設 に賛 成 する 団体 など との間で、解決が困難 となるコンフ リクト(紛争)を 引き起こすことが少なくない。
本研 究の 課題 は、 公共 事業 にお け るコ ンフ リク トの態様を、実証的に 明らかにする こ とで ある 。分 析対 象と する 公共 事 業は 、第 三者 と紛争当事者が協議し て合意形成を 目 指す 「社 会的 合意 形成 プロ グラ ム 」が 、韓 国に おいて初めて実施され たハンタン江 ダム建設とした。
第2章 で は 、 コ ン フ リ ク ト と 合 意 形 成 に 関 す る 研 究 動 向 を 整 理 し た 。 公共 事業 の計 画実 施に おい て、 コ ンフ リク トが 発生する可能性がある 場合、あるい は 発生 した 場合 には 、紛 争当 事者 間 の合 意形 成を 促進して行くことが重 要である。コ ン フリ クト ・ア セス メン トは 、合 意 形成 手法 にお ける分析手順中のーっ として、イン タ ビュ ー調 査で 得ら れた 情報 など を 整理 し、 コン フリクトの態様を解明 することであ る 。コ ンフ リク トの 態様 を、 より 客 観的 ・視 覚的 に解明するためには、 紛争当事者な ど への イン タビ ュー 結果 を記 述的 に 整理 ・要 約す るだけの定性的分析だ けではなく、
分 析対 象事 例に 関連 した 新聞 記事 情 報や 地理 情報 などを活用した定量的 分析が必要で あ る。 しか しな がら 、こ れま で実 施 され てき たコ ンフリクト・アセスメ ントにおいて は 、 こ の よ う な 定 量 的 分 析 を 適 用 し た 例 が 少 な い 点 を 指 摘 し た 。 第3章 では 、本 研究 の分 析事 例で ある 韓国 のハ ンタ ン江 ダム 建 設を めぐ るコ ンフリ ク トの 背景 や経 緯を 、年 表作 成な ど によ って 整理 した。また、本ダム建 設に関連する 新聞記事情報を利 用し、記事度数の基準化指標であるRDI (Relative Deviation Index) を記事内容ごとに 計測して、本ダム建設をめぐるコンフリクトの推移を時 期区分した。
第1期は「ダムの立地決定と住民反発の段階」(2001‑2003)である。ハンタン江ダムは、
2001年 に、 首都 圏の 水不 足解 消や 洪 水調 整な どを 目的とした多目的ダム として計画さ れ た。2003年に は、 反対 運動 を展 開 する ダム 建設 地周辺地域の住民団体 が、本ダム建 設 にっ いて 国民 監査 請求 を行 った が 、同 年に 棄却 されるなど、政府と反 対派との対立 が深まった。
第2期は「住民反発に対する事業推進者の対応段階」(2004‑2005)である。2004年には、
「 社会 的合 意形 成プ ログ ラム 」が 実 施さ れた 。本 プログラムは、公共事 業をめぐるコ
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ンフリクトにおいて、第三者、賛成・反対両派の団体などの関係者が参加し協議を重 ね、合意形成を目指した韓国最初の試みであった。本プログラムの参加者は、協議の 結果、既存の多目的ダム案を廃棄して、新たな代案とすることで合意した。しかし、
監査院が第三者の中立性に問題があると指摘している点、法的拘束カがなかった点、
短期間で結論を得ようとした点などの課題も存在し、反対派は、後に提示された代案 に、また反発した。.
第3期は「反発の拡散・組織化の段階」(2006‑2007)である。2006年に、韓国政府は当 初の多目的ダムから洪水調節用の単一目的ダムに計画変更することを発表した。2007 年にはダム建設が着工された。反対派は、2007年にダム建設の取り消しを求めた行政 訴訟をおこした。また、当初は、賛成派だった水没予定地域の住民団体が、反対派に 転 じ る と 共 に 、 当 初 か ら の 反 対 派 と 連 携 す る 動 き も み ら れ た 。 第4章では、水没などのダム建設による顕著な影響が見込まれるダム建設予定地の 周辺地域に焦点を絞り、当該地域における反対運動の実態をインタビュー調査で定性 的に明らかにした。また、住民のダム建設に対する懸念のーっである「上水源保護区 域」の指定という新たな土地規制の範囲をGIS (Geographic Information System)で定 量 的 に 明 ら か に し た う え で 、 今 後 の 反 対運 動 の 見通 し に つい て 考察 し た 。 調査対象となったダム建設予定地の周辺地域は、北朝鮮との国境地帯に位置するた め、法令によって国防上の土地利用が最優先され、営農目的以外の土地利用に強い規 制がある。このため、当該地域は、農業以外の産業が立地し難く、韓国の他地域と比 べて、経済開発が遅れていた。
紛争当事者へのインタビュー調査から、注目された結果は、ダム建設地や水没予定 地である地域よりも、ダム建設地でも水没予定地でもない地域の方で、より積極的な 反対運動がみられた点である。ダム建設地でも水没予定地でもない地域の住民は、次 の事態を懸念していた。水不足深刻化などにより、将来、ダムの利用目的が、洪水調 節用の単一目的ダムから多目的ダムヘ、また変更される可能性がある。そうなると、
当該地域が水源の確保と水質の保全を目的とする「上水源保護区域」に指定される恐 れがある。っまり、従来から国防上の理由により厳しかった土地利用の規制が、「上 水源保護区域」の指定によって更に厳しくなり、当該地域の開発も、いっそう遅延す るという懸念である。
そこで、インタビュー調査で得られたこの定性的情報を、定量的にも分析して確認 するために、多目的ダムに変更された場合の「上水源保護区域」をGIS分析で予測し た。分析の結果、ダム建設地でも水没予定地でもない地域の都市部が、予測された
「上水源保護区域」の一部に含まれる点が明らかとなった。この結果は、当該地域住 民のダム建設に対する懸念を裏付けるものであり、当該地域では、今後も引き続き、
反対運動が継続して行くものと推察された。
以上のように、本研究は、韓国のハンタン江ダム建設を事例として、公共事業にお けるコンフリクトの態様を、実証的に分析したものである。韓国では、本研究で分析 事例としたハンタン江ダム建設などを契機として、公共政策の立案過程において、コ ンフリクトの態様を明らかにするコンフリクト・アセスメントを実施することが、法 令により定められた。本研究の成果は、今後、公共事業におけるコンフリクト・アセ ス メ ン ト を 実 施 し て い く 上 で の 基 礎 的 知 見 と し て 、 有 用 だ と 考 え る 。
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学位論文審査の要旨
主査 准教 授 山本康貴 副査 教授 坂下明彦
副 査 教 授 吉 田 邦 彦 ( 法 学 研 究 科 ) 副査 名誉 教授 出村克 彦(北海道 大学)
学 位 論 文 題 名
公共事業におけるコンフリクト・アセスメントに関する 実証研究
―韓国のハンタン江ダム建設を事例として―
本論文は5章からなり、図34、表26、文献116を含む頁数122の和文論文であ り、別に参考論文4編が付されている。
公共事業の代表例であるダムは、広範な土地を水没させるなど、当該地域 の経済、社会などに極めて大きな影響を及ばす。このため、ダム建設を推進 する政府、ダム建設に反対する団体、ダム建設に賛成する団体などとの間で、
解 決 が 困 難 と な る コ ン フ リ ク 卜 を 引 き 起 こ す こ と が 少 な く な い 。 本研究の課題は、公共事業におけるコンフリク卜の態様を、実証的に明ら かにすることである。分析対象とする公共事業は、第三者と紛争当事者が協 議して合意形成を目指す「社会的合意形成プログラム」が、韓国において初 めて実施されたハンタン江ダム建設とした。
第2章では、コンフリク卜と合意形成に関する研究動向を整理した。コンフ リクト・アセスメントは、合意形成手法における分析手順中のーっとして、
インタビュー調査で得られた情報などを整理し、コンフリクトの態様を解明 することである点、コンフリクトの態様を、より客観的・視覚的に解明する ためには、分析対象事例に関連した地理情報などを活用した定量的分析が必 要である点などを指摘した。
第3章では、本研究の分析事例である韓国のハンタン江ダム建設をめぐるコ ンフリク卜の背景や経緯を、年表作成などによって整理した。また、本ダム 建設に関 連する新聞 記事情報を 利用し、記 事度数の基準化指標であるRDI
(Relative Deviation Index)を記事内容ごとに計測して、本ダム建設をめぐる コンフリク卜の推移を時期区分した。本ダム建設をめぐるコンフリクトの推 移は、第1期が「ダムの立地決定と住民反発の段階」(2001‑2003年)、第2期 が「住民反発に対する事業推進者の対応段階」(2004‑2005年)、第3期が「反 ―246―
発 の拡 散・ 組織 化の段 階」 (2006‑2007年)と時期区分される点、また2004年 に 韓国 にお いて 初めて 実施 され た「 社会 的合 意形 成プ ログ ラム」の問題点を 明らかにした。
第4章 では 、水 没な どの ダム 建設による顕著な影響が見込まれるダム建設予 定 地の 周辺 地域 に焦点 を絞 り、 当該 地域 に茄 ける 反対 運動 の実態をインタビ ユ ー調 査で 定性 的に分 析し た。 また 、住 民の ダム 建設 に対 する懸念のーっで ある「上水源保護区域」の指定という新たな土地規制の範囲をGIS(Geographic Information System)で定量的に分析した。紛争当事者ーのインタビュー調査 か ら、 注目 され た結果 は、 ダム 建設 地や 水没 予定 地で ある 地域よりも、ダム 建 設地 でも 水没 予定地 でも ない 地域 の方 で、 より 積極 的な 反対運動がみられ た 点で ある 。ダ ム建設 地で も水 没予 定地 でも ない 地域 の住 民は、次の事態を 懸 念し てい た。 水不足 深刻 化な どに より 、将 来、 ダム の利 用目的が、洪水調 節 用の 単一 目的 ダムか ら多 目的 ダム ー、 変更 され る可 能性 がある。そうなる と 、当 該地 域が 水源の 確保 と水 質の 保全 を目 的と する 「上 水源保護区域」に 指 定さ れる 恐れ がある 。っ まり 、従 来か ら国 防上 の理 由に より厳しかった当 該 地域 にお ける 土地利 用の 規制 が、 「上 水源 保護 区域 」の 指定によって更に 厳 しくなり、当該地域の開発・も、いっそう遅延するという懸念である。そこ で 、イ ンタ ビュ ー調査 で得 られ たこ の定 性的 情報 を、 定量 的にも分析して確 認 す る た め に 、多 目的 ダム に変 更さ れた 場合 の「 上水 源保 護区域 」をGIS分 析 で予 測し た。 分析の 結果 、ダ ム建 設地 でも 水没 予定 地で もない地域の都市 部が、.予測された「上水源保護区域」の一部に含まれる点が明らかとなった。
こ の結 果は 、当 該地域 住民 のダ ム建 設に 対す る懸 念を 裏付 けるものであり、
当 該地域では、今後も引き続き、反対運動が継続して行くものと推察された。
以上 のよ うに 、本研 究は 、韓 国の ハン タン 江ダ ム建 設を 事例として、公共 事 業に おけ るコ ンフリ ク卜 の態 様を 、実 証的 に分 析し たも のである。本研究 は 、イ ンタ ビュ ー調査 に留 まっ てい たコ ンフ リク ト・ アセ スメン卜の分析枠 組 みの中に、定量的分析手法を導入し、その有効性を明らかにしている点で、
高 く評 価で きる 。また 、本 研究 の成 果は 、今 後、 公共 事業 におけるコンフリ ク 卜・ アセ スメ ン卜を 実施 して いく 上で の基 礎的 知見 とし て、有用である。
よっ て、 審査 員一同 は、 趙誠 培が 博士 (農 学) の学 位を 受けるのに十分な 資格を有するものと認めた。
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