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統合保証の実態と統合報告書への適用に向けた課題

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統合保証の実態と統合報告書への適用に向けた課題

岡 野 泰 樹

[抄録]  本稿は,ヨハネスブルグ証券取引所(Johannesburg・Stock・Exchange:JSE)の上場企業を対 象に,統合保証(Combined・Assurance)の利用実態を調査し,統合報告書への適用に向けた課 題を検討するものである。統合保証は,保証のコスト効果を高めることを意図して行われる様々 な保証の統合・連携であり,統合報告書の信頼性を確保するための一つのあり方としても注目さ れているものである。検討の結果,現在の統合保証は,主に組織内部での利用が想定されて実施 されていることに加え,各保証主体の役割・関係性の不明確さ,保証内容の不明確さ,結論の欠 如等,統合報告書の信頼性を確保するために必要と考えられる要素が十分に開示されていないこ とが確認される。これは,多くの組織の統合保証が,保証の十分な統合・連携に至る前の段階に あることを示唆するものである。 [キーワード] 統合報告,統合報告書,統合保証,監査,保証

Ⅰ はじめに

 組織がどのように短,中長期に及ぶ価値を創 造するのかに関する説明を提供するコミュニケ ーションとして統合報告書が普及するにつれて, その信頼性を確保する保証のあり方にも注目が 集まっている。しかしながら,職業会計士によ る保証業務の統合報告書への適用には,保証主 体の専門性や,適合する評価規準,コストの問 題等,多くの課題が存在することが指摘されて いる⑴。また,統合報告の主要な推進団体であ る 国 際 統 合 報 告 評 議 会(International・Inte-grated・Reporting・Council:IIRC)は,統合報 告書の信頼性は,多様な保証メカニズムによっ て改善されるという見解をとっている⑵。結果 として,統合報告書に対する保証は,職業会計 士から内部監査によるものまで,様々なあり方 が提案・実施されている状況にある。保証のコ スト効果を高めることを意図して様々な保証を 統合・連携する統合保証(Combined・Assur-ance)は,かかる状況の中で検討されている 保証のあり方の一つである。統合保証の考えは, 2009年に南アフリカのキング・コ-ド(キング Ⅲ)で示されたが,そこでの考えは概略的なも のに留まっており,いかなる統合保証が実際に 行われているのかについては明らかになってい ない。  本稿はかかる認識のもと,統合保証の利用状 況を調査し,その実態を明らかにするとともに, 統合報告書への適用に向けた課題を検討するも のである。統合保証は世界中の企業で実施され

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ているが,統合報告書への適用という本稿の関 心に照らして,ヨハネスブルグ証券取引所(Jo-hannesburg・Stock・Exchange:JSE)の上場企 業に焦点を当てることが最も適切であると考え た。上述した通り,統合保証の考えが,キング Ⅲで示されたことに加え,南アフリカは統合報 告を制度化した最初の国として知られているた めである。  本節に続く第Ⅱ節では,統合保証の概要と統 合報告書との関係を確認し,第Ⅲ節では,統合 保証の実態を示すとともに,統合報告書への適 用に向けた課題を検討する。第Ⅳ節ではこれら の検討を通した結論を述べる。

Ⅱ 統合保証と統合報告書

1.統合保証の考え  ある対象に対する信頼を向上させるために行 われる独立的な評価,といった広い意味での保 証は,現代社会の至る所で行われている。しか し,多様な保証が,個々の保証主体によって 別々に行われる状況は,同一対象への類似の保 証の提供や,必要な対象に保証が提供されない, あるいは,過剰な保証によるコストの増加や, 現場の疲弊といった事態を招く可能性がある。  こうした事態を避けるために必要になってき たのが,統合保証という考えである。以下で見 るように,含まれる保証主体の分類や,その利 用目的については近年変化が見られるが,統合 保証は端的に「保証のコスト効果を高めること を意図して行われる様々な保証の統合・連携」 と定義できる。  統合保証の考えを最初に明示したキング・コ -ド(キングⅢ)では,統合保証を「企業のリ スク選好を考慮した上で,リスクとガバナンス の監督,統制の効率性を最大化し,監査委員会 やリスク委員会への全体的な保証の提供を最適 化するために,企業における複数の保証プロセ スを統合・連携すること」⑶としている。その後, キングⅢを改定したキングⅣでは,統合保証の 考えを推進すべく,統合保証モデルとして展開 し,「効果的な統制環境を可能にし,経営陣・ 統治機関・委員会による内的意思決定に利用さ れる情報の誠実性を支援し,組織が行う外部報 告の誠実性を支援するために,全体として,全 ての保証サービスと機能を組込み,最適化す る」⑷ものと定義している。  キングⅣで示された統合保証の考えは,キン グⅢで示された統合保証に含まれる保証主体の 分類を細分化するとともに,統合保証の利用目 的を拡大したものである。キングⅢでは,統合 保証に含まれる保証主体を,部門管理者,内部 保証主体,外部保証主体の3つに分類していた が⑸,キングⅣは,内部保証主体を,リスク管 理等を専門に行う間接管理部門(以下,間接管 理部門)と,内部監査に分けるとともに,外部 保証主体を,外部監査人(財務諸表監査)のよ うな独立した外部保証主体,CSR保証等を行 うその他の外部保証主体,規制当局と,より細 かく分類している⑹。利用目的という点では, キングⅢでは,統合保証を組織内部の経営管理 に利用することが想定されていたが,キングⅣ では,外部報告の誠実性の支援という,組織外 部からの利用も想定した目的が示されている。 ここでの外部報告は,主に統合報告が想定され ており,キングⅢでは想定されていなかった, 統合保証による統合報告書の信頼性確保を目的 の一つとして強調していることに注意が必要で ある⑺  統合報告書は,組織が短,中長期に及ぶ価値 を創造する方法に関する説明を提供するために, 重要な財務情報と非財務情報を関連付けて開示

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する簡潔なコミュニケーションであり,そこに は,量的・過去的情報のみならず,質的・将来 指向的な情報が含まれることとなる⑻。かかる 統合報告書の信頼性確保に職業会計士の保証業 務を利用することを巡っては,質的・将来指向 的な情報に評価規準を設定することの難しさや, 多様な専門性を備えた保証主体の確保にかかる コストといった問題が指摘されている⑼。統合 保証は,組織内部の保証も含めた多様な保証を 統合・連携することで,これらの問題に対応す ることが期待できる。ただし,統合保証自体は 「様々な保証の統合・連携」であって「統合報 告書の保証」を意味しているのではないことに は注意が必要である。 2.統合保証の統合報告書への適用  統合報告書の信頼性確保に統合保証を適用し ようとする考えは,キングⅣで初めて示された ことから,その実践に焦点を当てた先行研究は 極めて少ない。しかし,統合報告書の作成者と 監査人へのインタビュー調査を通して,統合報 告 書 に 対 す る 保 証 の 概 念 モ デ ル を 示 し た Maroun[2017]は,統合保証が統合報告書に 対する一つの有力なあり方であることを示唆し ている。  Maroun[2017]の調査の中で,何人かのイ ンタビュイー達は,統合報告書に含まれる,伝 統的な保証業務の適用が困難な質的情報に対 し,組織内部の保証主体から得られる保証を利 用することを提案し,統合保証の統合報告書へ の適用を支持している⑽。そこでは,統合保証 の目的は「監査委員会が,統合報告書に含まれ る情報の信頼性を確保するために,どのように 様々な保証の源を総合的に利用したのかを説明 すること」⑾とされ,統合保証に関する開示では, 組織内外の保証主体から提供された保証がどの ように用いられたかが,その利用の理由も含め て示されることになる⑿  また,Richard[2017]は,⑴統合保証を構 成するディフェンスライン(以下,ライン)と そこに含まれる保証主体,⑵統合保証の有効性 についての監査委員会による結論,を統合報告 書の信頼性を確保する上で開示すべき統合保証 の要素とした上で,JSE上場企業の時価総額上 位20社の統合保証の利用状況を検討し,それら の要素の開示が不十分であることを明らかにし ている⒀  現在のところ,統合保証の説明としていかな る要素を開示することが統合報告書の信頼性を 確保するために有用なのか,その規準は確立さ れていない。しかし,保証の信頼性が保証主体 の専門性・独立性の影響を受けることと,それ らの程度に相違のある多様な保証主体が利用さ れる統合保証の特徴を鑑みると,どのような保 証主体(あるいはそれらをまとめたライン)を, どのように統合・連携したのかが理解できるよ う,それぞれの役割や関係性を示す必要がある。  また,様々な保証が利用されることを巡って は,その保証範囲や性質の相違を,利用者が正 確に理解できるか否かが懸念されていることか ら⒁,保証内容が明確に示される必要がある。 具体的には,保証対象(情報,プロセス,行為 等)のみならず,その対象のいかなる属性(適 正性,正確性等)が,どのような評価規準で保 証されたのかが示されるべきであろう。加えて, 統合保証には,保証対象の適正性や正確性を検 証するものや,それらが検証済みであるという 前提で評価や助言をするものといった,異なる 性質をもつ幅広い行為が保証として含まれるこ とから,対象に適した効果的な保証が提供され ているか否かが理解できるよう,保証の性質の 異同と当該保証を利用した理由が示されるべき

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である。  さらに,キングⅣでは,統合保証の最終的な 責任者を監査委員会としていることから⒂,責 任の所在の明確化という点から,統合保証の適 切性⒃に関する監査委員会の結論が開示される べきである。  以上のことから,本稿では, ⑴ 保証主体に関する論点として,①誰が保証 主体に含まれているのか,②各保証主体(ラ イン)の役割は示されているか,③各保証主 体(ライン)間の関係性は示されているか, ⑵ 保証内容に関する論点として,①何が保証 対象とされているのか,②保証対象の属性と 評価規準は示されているか,③保証の性質の 異同とそれらを利用した理由が説明されてい るか, ⑶ 統合保証の適切性に関する監査委員会の結 論は示されているか, を検討のための暫定的な規準として,統合保証 の実態と課題を検討していくこととする。

Ⅲ 統合報告書に対する統合保証の

実態と課題

1.概要  本稿における統合保証の実態調査は,JSE上 場企業の統合報告書を対象に行われた⒄。調査 時点(2018年12月)でのJSE上場企業(Equity・ Issuer)の数は,357社であり,各企業の統合 報告書から何らかの形で統合保証が実施されて いることが確認された企業の数は212社であった。 この212社の統合保証で記載されていた事項の 概要は,次の9つに分類される(表1)。 表1 統合保証の概要 A 統合保証を実施したという記述のみ 32 B ・利用目的・保証主体・結論のいずれか のみ記載 40 C 利用目的+保証主体 40 D 利用目的+結論 10 E 利用目的+保証主体+結論 43 F 利用目的+保証主体+保証内容 18 G 利用目的+保証主体+保証内容+結論 20 H 保証主体+保証内容 4 I 保証主体+結論 5  Aに分類される事例では,「経営陣は,当グ ループの改善されたリスク枠組みと共に統合保 証モデルを展開・履行した」⒅といった記述が あるのみで,何らかの形で統合保証が実施され たこと以外,その内容を知ることはできない。 B,C,D,E,Iについても,具体的な保証内 容についてはわからず,組織外部からの利用を 想定した場合,有用な保証を提供しているとは 言い難い。  具体的な保証内容が示されている事例が少な い原因としては,組織が統合保証の組織外部か らの利用を想定していないということが考えら れる。そこで以下では,統合保証に含まれる保 証主体や保証内容を見る前に,組織がいかなる 目的のために統合保証を利用しているのかを見 ることとする。 2.利用目的  212社の統合保証の利用目的の内訳は次の通 りであった(表2)。

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表2 統合保証の利用目的 経営管理目的(組織内部での利用を想定) 101 利害関係者保護目的(組織外部からの利 用を想定) 11 経営管理目的+利害関係者保護目的 39 記載なし 61  統制環境の有効性の確保やリスク管理,取締 役会での意思決定に利用される情報の信頼性確 保といった,組織内部での利用を前提に統合保 証を実施している企業が大半である。これは, 統合保証が組織内部での利用を念頭に生まれて きた考えであることによるものと考えられる。  一方,統合報告書(外部報告)の信頼性確保 や,利害関係者の意思決定に利用される情報の 信頼性確保といった,組織外部からの利用を意 識して統合保証を実施している企業も少数なが ら存在する⒆  また,組織内外,双方での利用を想定し,統 合保証を実施している企業も一定数存在する。 これには,キングⅣで示された,効果的な統制 環境の実現,組織内部の意思決定で利用される 情報の信頼性の支援,外部報告の信頼性の支 援,という3つの目的を記載している企業や⒇ 組織内外のあらゆる利害関係者の意思決定に利 用される情報の信頼性を確保することを意図し て統合保証に取組んでいるとする企業が含ま れる。 3.保証主体  212社が統合保証に含んでいた保証主体を個 別に見ると次の通りである(表3)。 表3 統合保証に含まれる保証主体 部門・ライン管理者 107 間接管理部門 63 内部監査人 97 外部監査人(財務諸表監査) 102 外部コンサルタント・外部認証機関 58 政府・規制当局 21 統治機関(取締役会・監査委員会) 31 組織内外の保証主体等,概括的な記載 18 記載なし 68  部門・ライン管理者と内部監査人,外部監査 人(財務諸表監査)が,統合保証を構成する保 証主体として一般的に利用されている。間接管 理部門や,外部コンサルタント・外部認証機関 は,組織によって設置・利用の度合いに差があ った。政府・規制当局や統治機関を保証主体に 含んでいる組織は少数であり,キング・コード を参考にしつつも,組織がそれぞれの目的に合 わせて統合保証に含める保証主体を柔軟に決定 しているように思われる。  また,部門管理者と「内外の保証主体」,部 門管理者と「内部保証主体」と外部監査人,部 門管理者と内部監査人と「外部保証主体」とい った,概括的な記載をするのみで,どのような 保証主体を含んでいるのか判然としない事例も 一定数存在した。さらに,保証主体を示して いる事例であっても,保証主体,あるいはライ ンごとの役割が記載されている事例は25社と少 ない。同じ名称の保証主体であっても,その役 割は組織によって異なる可能性があるため,保 証主体ごと,あるいはラインごとの役割を示す ことが,組織外部からの統合保証の利用を想定 する場合重要である  各ライン間の関係性についても,明示されて いる事例は7社と少ないが,そこでは,より高

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位のラインで行われる保証が,①必ずしもそれ より低位のラインでの保証を前提にしないもの と,②低位のラインでの保証を前提に行われる もの,という2つの関係性が確認できた。  ①の関係性をとっている事例としては, Wilson・Bayly・Holmesの統合保証があげられる。 Wilson・Bayly・Holmesは,保証を,ライン管理 者と内部統制(第1ライン),リスクマネジメ ントとコンプライアンス機能(第2ライン), 独立・客観的な内外の保証主体(第3ライン) の3つに分け,どのライン(レベル)の保証 が提供されたのかを次のように示している(表 4)

表4 Wilson Bayly Holmesの統合保証

内容・機能 保証主体 保証のレベル 成果 財務諸表 BDO レベル3 無限定適正意見 B-BBEE Empower・ Logic レベル3 レベル1の証明 環境マネジ メント BSI レベル2と3 ISO14001の証明 労働衛生・ 安全管理 BSI レベル2と3 OHSAS18001の証明 品質マネジ メント TUV レベル2と3 ISO9001の証明 内部統制 環境 マネジメント レベル1 内部統制への信頼 内部監査 Deloitte レベル3 内部統制への 信頼 出所:Wilson・Bayly・Holmes[2018]p.43.  財務諸表に対する保証のように,第3ライン によるレベル3の保証が単独で行われているも のもあれば,環境マネジメントに対する保証の ように,第2ラインの保証(レベル2)と第3 ラインの保証(レベル3)が併用されているも のもある。  一方,②の関係性をとっている事例としては, Life・Healthcareの統合保証があげられる。Life・ Healthcareは,保証を,現場の従業員から構成 される第1ライン,リスク・コンプライアンス 機能からなる第2ライン,内外の保証主体と取 締役会から構成される第3ラインの3つに分け, 第2ラインは第1ラインを監視し,第3ライン は,第1,第2ラインを定期的にレビューする ものとした上で,自社の事業に重要な影響を 及ぼす11の主要なリスクを識別し,それぞれの リスクに対して,第1ラインから第3ライン, どこまでの保証が提供されたのかをチェックマ ークを付す形で示している。ここでは,主要な リスクの一つである「医師不足」への統合保証 を例として示す(表5)。  11の主要なリスクへの統合保証は,いずれも 前のラインで行われた保証を前提に,より高位 のラインの保証が行われており,Wilson・Bayly・ Holmesの事例に見られたような,第3ライン のみの保証や,第2ラインと第3ラインの保証, といった保証の仕方は見られない。  このように,同じ第3ラインの保証が行われ ているといっても,各保証主体・ラインの間の 関係性が組織ごとに異なっているため,保証の 効果は異なることとなる。さらに,前のライン で行われた保証を前提に,より高位のラインの 保証が行われる場合,高位のラインの保証は, 前のラインの保証結果の妥当性を確認する形で 行われているのか,前のラインで行われた保証 とは異なる視点で行われたのかによっても,そ の効果は異なってくるだろう。保証の外部利用 を前提にした場合,なぜそのような形の保証を 行ったのかを明確にする必要がある。

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4.保証内容  表1で示した保証内容を示している事例42社 が,保証対象として開示していた事項を個別に 見ると次の通りであった(表6)。 表6 統合保証の保証対象 財務諸表・財務報告 37 非財務情報 28 B-BBEE 23 内部統制・リスクマネジメント・ガバナ ンス 21 ISO14001等,環境・労働・品質に関する マネジメントシステム 10 会社法等の法令 8 その他(特定の組織活動それ自体等) 3  非財務情報については,職業会計士による保 証業務の適用が困難とされる質的・将来指向的 情報(戦略情報等)の信頼性を内部監査によっ て確保している事例も確認され,統合報告書 の信頼性確保に組織内部の保証主体による保証 を利用しようとする意識が見られる。  しかし,保証内容の開示は,保証対象のみを 示している事例が24社と多く,保証対象の属性 まで示している事例は18社に留まっている。こ の18社についても,一部の保証のみ保証対象と その属性を示しているにすぎず,利用した全て の保証の保証対象とその属性を示している事例 は発見できなかった。また,どのような規準に 照らして保証したのか,その評価規準について も7社が一部の保証について示しているに過ぎ ない。さらに,保証の性質の異同についての説 明や,その保証を利用した理由を明示している 事例は確認できず,保証内容が開示されている といっても,何がどのように保証されているの か,組織外部の利用者が正確にその内容を理解 できる開示となっているとは言い難い。  これらの問題点について,Clover・Industries の統合保証の事例を参考に見てみたい。Clover・ Industriesの統合保証では,保証を部門管理者 表5 Life Healthcareの統合保証 主要なリスク リスク軽減策の要旨 医師不足 南アフリカの医療市場は,全 体的に専門的な医師不足の状 況にある。この状況は,当グ ループの成長見込みに影響を 与える可能性がある。以下の 分野の医師不足が特に深刻で ある。 ・神経外科 ・心臓外科 ・産婦人科 ・神経内科 ポーランドの医療市場もま た,同様の医師不足の問題を 抱えている。 我々のリスク軽減策には以下のようなものがあ る。 ・・奨学金や後援プログラムの提供,専門知識習 得のための継続的な能力開発研修の促進 ・・医師との協働モデルと支援方針の提示 ・・カンファレンスや能力開発研修の最終年に行 われる医師の見学等,多様なメディアプラッ トフォームを通じた医師との交流 ・・医師との関係性の深化と,品質改善イニシア チブの履行を目的とした,地域の臨床管理者 の任命 ・・施設の設備と機器の改良 ・・患者への安全性を高め,医療ミスへのクレー ムを軽減する,臨床評価を通した賠償責任保 険の軽減の実現 関連する重要事項 ・専門的スキルの不足 統合保証プロセス 第1ライン ✓ 第2ライン ✓ 第3ライン 出所:Life・Healthcare[2018]p.46.

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(第1ライン),内部統制やリスクマネジメント・ 法務機能等(第2ライン),内部監査・外部監 査・その他の外部保証主体(第3ライン),取 締役会・各委員会(第4ライン)の4つに分け た上で,第3ラインが提供している保証を, 統合報告を構成する6つの資本に対応させる形 で示している(表7)  提供された個々の保証は個々の保証主体と対 応させる形で示されているが,保証対象のみが 示され,その属性が示されていないものが多い。 例えば,人的資本の項目に含まれている,内部 監査の給与計算についてのレビューは,給与計 算のどのような属性(正確性なのか,適正性な のか等)についてレビューが行われたのかが明 確でない。また,保証で用いられた評価規準に ついては,製造資本の項目に含まれている HACCPのように示されているものと,示され ていないものとが混在している。さらに,財務 表7 Clover Industriesの統合保証 資本 内部監査とその他の独立した保証主体 人的 資本 ・・当社は,EmpowerLogicによって実行されたB-BBEEの評価において,レベル4の評価を受けている。・・内部監査は,給与計算についてレビュ-を行っている。 自然 資本 ・・Deloitteは,ISAE3000に従って,選択された指標に限定的な保証を提供している。また,二酸化炭素削減イニシアチブにかかる税金について助言を提供している。 ・・外部の安全,健康,環境に関するコンプライアンス監査が,SGSによって生産拠点といくつかの配送拠 点を対象に実施されている。これらの監査は3年ごとに行われている。 製造 資本 ・・内部安全監査が,当社のすべての配送拠点を対象に,人事部によって実施されている。・・内部監査は,生産部品表について独立したレビュ-を実施している。 ・・外部監査が各資産に対して実施されている。 ・・当社は食品安全と品質のマネジメントシステムの基準であるFSSC22000を採用している。全ての工場が ISO22000からFSSC22000への移行過程にある。これらはSGSによって年一度,認証されている。 ・・当社は,Woolworths,Kraft,Nestle,Unileverのような顧客によって実施される,独立した第三者に よる監査に参加している。当該監査は,国際食品規格に照らして行われている。 ・・当社は,選択された工場について,適時顧客からSEDEX監査を受けている。 ・・Marshは,当社の全ての重要な資材拠点における火災リスクを3年ごとに調査している。 ・・南アフリカにおける当社の全ての工場は,HACCP基準に関してSGSによる年一度の認証を受けている。 ・・SABSは,ボツワナ政府を代表して,ボツワナに輸出している全ての工場へボツワナ輸入検査規則 (Standard・Import・Inspections・Regulations:・SIIR)の証明を行なっている。 ・・資産価値の査定がProperty・Partnershipによって3年ごとに実施されている。これらの査定から明らか となった各資産の再調達価格は,資産保全のために適切に利用されている。 知的 資本 ・・Deloitte・Legalは,個人情報保護法(Protection・of・Personal・Information:POPI)遵守に向けて,関連するプロセスと方針について助言・レビュ-を提供している。 ・・当社のブランドは,信頼と実績あるブランドとして多くの賞賛を得ている。 ・・当社の商標と特許は,Adams・and・Adamsの弁護士によって管理されている。 ・・Herbert・Smith・Freehillsは,引き続き当社の競争法アドバイザ-を務めている。 社会 関係 資本 ・・当社のMama・Africaプログラムは,名誉ある数々の賞を受賞していることからも明らかなように,持続 可能で効果的な,企業の社会的投資(Corporate・Social・Investment:・CSI)プロジェクトとして位置付け られている。 ・・当社の2017年度の社会経済開発に関する活動は,EmpowerLogicから最高の評価を得ている。 ・・当社は,Reputation・Instituteによって,南アフリカにおける最も評判の良い企業に選出されている。 財務 資本 ・・当社は外部監査人から無限定適正意見を受け取っている。・・外部監査は重要な財務事項に関する内部統制についての経営者の言明を評価している。 出所:Clover・Industries[2018]p.83.

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資本の項目に含まれている,外部監査人からの 無限定適正意見のような典型的な保証から,知 的資本の項目に含まれている,自社ブランドが 多くの賞賛を得ているという評価のように,そ の性質が異なる保証を一括りに保証として示し ている。これらの異同についての説明や,その 利用の理由については説明がなされていない。  結果として,Clover・Industriesの統合保証は, どのように多様な保証を統合・連携し,統合報 告書の信頼性確保に利用したのかを示したもの というよりも,獲得した様々な保証を羅列した だけのものに留まっていると言える。 5.結論の表明  212社のうち,監査委員会,あるいは取締役 会によって統合保証の結論が表明されていた事 例は84社であった。また,これら84社の事例を 結論の表明形式ごとに見ると,積極的表明形 式によって行われていた事例が82社,消極的 表明形式で行われていた事例が2社であった (表8)。 表8 統合保証の結論 積極的表明形式での結論 82 消極的表明形式での結論 2 記載なし 128  結論の欠如は,多様な保証が統合・連携され た結果,統合保証の目的が達成されたのかどう か,そして統合保証の最終的な責任の所在を曖 昧にするものであり,記載なしの事例が大半を 占めていることは,利用者の観点から見て問題 である。  また,結論の表明形式に関係して,保証水準 とその伝達の問題が検討されねばならない。本 調査では,積極的表明形式による結論の表明と, 消極的表明形式による結論の表明が見られたが, 職業会計士による保証業務とは異なるため,単 純に積極的表明形式が合理的保証を表し,消極 的表明形式が限定的保証を表すという関係には ないだろう。統合保証の保証水準については, 各ライン(保証主体)間の関係性が考慮されね ばならない。既に見たように,同じ第3ライン の保証が行われていると言っても,第3ライン 単独の保証が行われている場合と,第1,第2 ラインの保証を経て,第3ラインの保証が行わ れている場合とでは,保証水準は異なってくる はずであり,これらの差を効果的に伝達する方 法が検討されるべきである。

Ⅳ 結語

 組織外部の保証主体に加え,組織内部の保証 主体を活用する統合保証は,統合報告書に対す る保証の一つのあり方として注目に値するもの である。しかしながら,本稿での調査から明ら かなように,現在のところ,統合保証は,主に 組織内部での利用が想定されて実施されている ことに加え,各保証主体の役割・関係性の不明 確さ,保証内容の不明確さ,結論の欠如等,統 合報告書の信頼性を確保するために必要と考え られる要素が十分に開示されているとは言い難 い。これは,多くの組織の統合保証が,保証の 十分な統合・連携に至る前の段階にあること, 換言すれば,統合・連携の程度が未だ低い状態 にあることを示唆するものである。  本稿は,統合報告書への統合保証の利用実態 についての研究が不足している中で,JSE上場 企業を対象とした包括的な調査を実施すること で,その実態と課題を明らかにした最初の研究 として位置づけられる。これは,統合報告書の 信頼性保証に関する研究に新たな知見を加える

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とともに,統合保証の実施を検討する組織に対 し,その実例を示す実践的な貢献をなすもので ある。  しかしながら,本稿には次のような限界が存 在する。第一に,調査対象企業が,JSE上場企 業に限定されており,調査結果を直ちに一般化 することはできない。第二に,調査結果は,各 企業が公表している統合保証の記述から導かれ ており,そこから読み取ることができない情報 については,検討対象とされていない。これら の限界は,統合保証の実態と統合報告書への利 用について,調査対象の更なる拡大と,インタ ビュー調査等を通した,より深い分析の必要性 を示唆する。本稿は,かかる調査研究に取組む 際の基盤を提供するものである。 [注] ⑴ Maroun・and・Atkins[2015]pp.8-9. ⑵ IIRC[2013]p.21. ⑶ IoD[2009]p.117. ⑷ IoD[2016b]p.10.・キングⅣの統合保証モデルの 定義には,保証の統合・連携という,キングⅢの 統合保証の定義で見られた記述はないが,後述す るように,キングⅢとキングⅣの統合保証の相違は, 統合保証に含まれる保証主体の分類の細分化と, 統合保証の利用目的の拡大にあること(Deloitte [2016]p.14,・Richard[2017]pp.176-177),統合保 証モデルの定義である「全ての保証サービスと機 能を組込み,最適化する」という過程の中に,保 証の統合・連携が含まれているものと考えられる ことから,キングⅣの統合保証においても保証の 統合・連携という要素はそのまま引き継がれてい るものと考えられる。 ⑸ IoD[2009]p.62. ⑹ IoD[2016b]p.68.・なお,キングⅣの草案段階では, 統合保証に含まれる保証主体をラインとの関係で 捉え,第1ラインとしての部門管理者,第2ライ ンとしての間接管理部門,第3ラインとしての内 部監査,第4ラインとしての外部監査,第5ライ ンとしての統治機関,という分類が提案されてい た(IoD[2016a]p.58)。 ⑺ Deloitte[2016]p.14. ⑻ IIRC[2013].キングⅣは統合報告書の定義とし てIIRC[2013]による定義を採用している(IoD [2016b]p.13)。 ⑼ Maroun・and・Atkins[2015]pp.8-9. ⑽ Maroun[2017]pp.339-341. ⑾ Maroun[2017]p.339.・Maroun[2017]は,イン タビュイー達が主張した統合保証を,キング・コ ードの統合保証よりも目的が広いもの(統合報告 書の信頼性確保を含むもの)としているが(Maroun [2017]p.339),ここでのキング・コードとはキン グⅢのことをさしている。その後,キングⅣが公 表され,統合報告書の信頼性確保も統合保証の目 的の一つに含まれたことから,Maroun[2017]で 示された統合保証はキングⅣの統合保証に相当す るものと考えられる。 ⑿ Maroun[2017]p.341. ⒀ Richard[2017]pp.183-185. ⒁ Maroun・and・Atkins[2015]p.11. ⒂ IoD[2016b]p.56. ⒃ 統合保証の「適切性」の意味は明確に定義され ていないが,IoD[2016a]では,保証の「深さと 広さ」の適切性とされていることから(IoD[2016a] p.21),リスク選好に応じて,その範囲と程度に過 不足の無い保証が提供されるよう,保証が統合・ 連携されていることをさすものと考えられる。例 えば,リスクの小さい対象(組織にとって重要で はない対象)に,高い能力と豊富な経験を有する コストの高い外部保証主体を利用していたり,い くつもの保証を重ねている状態は適切性があると は言えない。 ⒄ https://www.jse.co.za/current - companies/ companies-and-financial-instruments ⒅ PPC[2018]p.83. ⒆ 例えば,African・Oxygenは,統合報告書に含ま れる情報の信頼性と妥当性確保のために,統合保

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証を利用している(African・Oxygen[2018]p.4)。 ⒇ 例えばAnglo・Gold・Ashanti[2018]p.158を参照。  Primeserv・Group[2018]p.27.  例えばAnglo・American・Platinum[2018]p.95を 参照。  内部監査を他の保証主体の保証活動との連携の ために利用している組織もあれば(FirstRand[2018] p.72,・p.74),業務の特定の側面を保証するために利 用している組織もある(African・Oxygen[2018] p.80)。  Wilson・Bayly・Holmes[2018]p.43.  B-BBEE(Broad-Based・Black・Economic・Empow-erment)は,黒人の経済的地位の回復を目的とし た南アフリカの黒人優遇政策である。企業のB-BBEE への取組みは複数の観点から点数化され,その合 計点の多寡に応じて,レベル1からレベル8,不 遵守の9つのレベル(レベル1が最高評価,不遵守 が最低評価)に格付けされる。詳細は民野[2017] を 参 照 さ れ た い。 ま た,OHSAS(Occupational・ Health・and・Safety・Assessment・Series)18001は, イギリス規格協会が発行した,労働者の安全衛生 に関するリスクを管理するためのマネジメントシ ステムである。詳細は吉澤[2008]を参照されたい。  Life・Healthcare[2018]p.1.  Telcom[2018]p.5.  Clover・Industries[2018]p.83.  製造資本の項目に含まれている,HACCP(Hazard・ Analysis・and・Critical・Control・Point),ISO(Inter-national・ Organization・ for・ Standardization) 22000,FSSC(Food・Safety・System・Certification) 22000は,いずれも食品安全確保のために利用され るマネジメントシステムであるが,その適用範囲 や順守すべき事項の厳格さに違いがある。詳細は 戸部[2019]を参照されたい。また,同じく製造 資本の項目に含まれているSEDEX(Supplier・Ethi-cal・Data・Exchange)は,サプライチェーンにおけ る持続可能なビジネス慣行の推進を目的に,企業 の環境・社会,労働等への取組みに関する情報を 共有し,管理・評価する基盤を提供する英国の非 営利団体である。その利用には,自社の労働基準, 健康と安全,環境,ビジネス倫理の取組みに関す る情報を登録する必要がある。詳細はSEDEXのホ ームページ(https://www.sedexglobal.com)を参 照されたい。  積極的形式での結論は次のような表現をとって いた。「監査委員会は…統合保証の枠組みを通して 提供された保証のレベルをレビューし,それらが 識別された事業リスクとその影響に対し,適切な ものであると結論付けた」(Anglo・American・Plati-num[2018]p.95)。  消極的形式での結論は次のような表現をとって いた。「…統合保証モデルの観点から,…内部統制 システムが有効ではない,そして財務事項に関す る内部統制が信頼できる財務諸表の作成に健全な 基盤を提供していない,と我々に信じされるよう な注意を引く事項は何もなかった」(enX・Group [2018]p.103,・eXtract・Group[2018]p.61)。 [参考文献]

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参照

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