ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムにおけるシミュレーションを応用した長期運用に関する研究
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(2) 葛・中村・長野:. 期的な運用が可能であることを実証することにより、ハイブリッド GSHP システムの長期的な運用方法を確立した。本論文ではまず、 シミュレーションを用いたハイブリッド GSHP システムの長期運 用方法について説明する。そして実際の建物に導入されたハイブリ ッド GSHP システムの運用を、本方法を用いて行ったので、長期の 計測結果も含めてその結果を示す。. 記. 号 a : 負荷実測値の月毎の時刻別平均値. [kW]. b : 負荷予測値の月毎の時刻別平均値. [kW]. CCOP : ヒートポンプ COP の補正値. [-]. COP : ヒートポンプ COP. [-]. ho : 時刻. [-]. mo : 月. [-]. Q : 熱負荷 T : 温度 t : 時間 λ: 熱伝導率. 添. 図-1 冷却塔を併用したハイブリッド GSHP システムの概念図. [kWh] [℃] [h [W/(m・K)]. 字 avem : 実測の平均値 avec : 計算の平均値 CT : 冷却塔 CTset : 冷却塔運転の設定値 GSHPc : 冷房時の地中熱ヒートポンプ GSHPh : 暖房時の地中熱ヒートポンプ. 図-2 ハイブリッド GSHP システムにおける冷却塔の運転方法. hpp : ヒートポンプの予測値 hppnew : ヒートポンプの予測値更新後. 転)を行う制御を導入する。. Pc : 冷房時の循環ポンプ. この制御パラメータである設定温度 TCTset を、GSHP システム設. Ph : 暖房時の循環ポンプ. 計・性能予測ツールを用いたシミュレーションの結果をもとに決定. pout : 地中熱交換器出口. する。しかしながら、実際の GSHP システムの運用時においては、. poutc : 地中熱交換器出口計算値. 設計時に与えた熱負荷、ヒートポンプの性能(COP)、地盤条件(特に. poutm : 地中熱交換器出口実測値. 見かけ上の有効熱伝導率)などが設計時と異なることも有り得る。. s : 地盤. これらの条件については、GSHP システムの性能予測シミュレーシ. system : システム全体. ョンに与える影響が大きいため、実測データをもとに計算条件を修. 1in : ヒートポンプ一次側入口. 正した上で、制御パラメータを決定するシミュレーションを行うこ. 1out : ヒートポンプ一次側出口. ととした。図-3 に制御パラメータの決定フローとそれに用いられ る GSHP システム設計・性能予測ツールのフローを示す。以下に制. 1.シミュレーションを応用したハイブリッド地中熱 ヒートポンプシステムの長期運用方法. 御パラメータの決定フロー内の各項目の詳細について説明する。 1.2 見かけ上の有効熱伝導率推定. 1.1 長期運用方法概要. 図-4 に見かけ上の有効熱伝導率計算フローを示す。地中熱交換. 冷却塔を併用したハイブリッド GSHP システムの概念図を図-1. 器の仕様を計算条件として与えた上で、見かけ上有効熱伝導率を仮. に示す。冷却塔の接続については、既報 1)で冷却塔を GHE の前に. 定し、時々刻々の採放熱量の実測データを与え、地中熱交換器出口. 直列に接続するのが最も効率が良いことが示されたため、原則冷却. 温度 Tpout を計算し、実測値と比較する。下式によって得られる実測. 塔は GHE の前に直列に接続するものとする。冷却塔の運転につい. の出口温度と計算値との二乗平均平方根誤差(RMSE 値)が最も小さ. ては、図-2 に示すように GHE の出口温度 Tpout が冷却塔運転の設定 温度 Tctset を上回る場合に冷却塔の運転(冷却水の循環とファンの運. 2.
(3) ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムにおけるシミュレーションを応用した長期運用に関する研究. Input 入力 ・Thermal load ・熱負荷(ヒートポンプ負荷) ・Specification of heat pump unit ・ヒートポンプ仕様 ・Thermal property of ground ・地盤条件 ・Specification of GHE ・地中熱交換器仕様. START 実測データの取り込み Input measured data 見かけ上有効 Determine effective thermal conductivity of ground 熱伝導率の計算. START 計算条件の読み込み Input calculation conditions. Apply. 熱負荷の読み込み Input thermal load GHE calculation module. Modify hourly thermal load 負荷補正率の計算 Determine modifed coefficient of COP補正値の計算 heat pump COP. Simulation tool for GSHP system. Calculation of heat pump unit HPの計算. Apply. Calculation of 補助熱源(冷却塔 等)の計算 cooling tower. t = t+Δt Heat pump calculation module. Determine運転最適化計算 Tctset by using simulation tool. 地中熱交換器の計算 Calculation of GHE. END. t = tend Output 出力 ・HP一次側入口最低温度 ・Minimum value of Tpout ・HP一次側出口最高温度 ・Maximum value of Tpout ・期間システムCOP等 ・System COP and SPF. Apply. END. 図-3 ハイブリッド GSHP システムの制御パラメータ決定のフロー くなる有効熱伝導率の値を、見かけ上有効熱伝導率として採用する。. RMSE =. 1 n. ∑nt=1 Tpoutm. Tpoutc. START Input GHE specification. ……(1). Assume effective thermal conductivity of ground λs. ここで、n は実測のデータ数である。なお、地盤の熱物性値につ Input heat extraction/injection rate. いては有効熱伝導率の他に比熱や密度も挙げられるが、これらの値 の変動は見かけ上有効熱伝導率の変動程、地中温度の変化に影響を. Calculate Tpin. 与えないこと、変数が増えるとそれぞれの推定に時間を費やすこと. Calculate Tpout. t = t + Δt. Calculate ground temperature of borehole surface. などから、ここでは固定値とする。 1.3 地中熱ヒートポンプの負荷補正. N. t = tend. Y. 1 年以上の負荷の実測値が得られている場合には、実測値を使用. Revise λs. N. RMSE < ε Y. することも可能であるが、得られている実測値が 1 年未満となって. Determine λs. いる場合の負荷補正の計算には予測平均更新方式を採用する。時刻. END. 別負荷の予測値、時刻別負荷の実測値それぞれに対して、月毎に時. 図-4 地盤の見かけ上有効熱伝導率推定フロー. 刻別平均値を算出し、以下の式によって負荷補正値の計算を行う。 Qhppnew (t) =Qhpp (t) ×. a(mo,ho) b(mo,ho). エネルギー消費量が最も小さい運転条件とすることにより行う。. ……(2). ……(4). min ETsystem. 今回の制御の対象となる、図-1 に示されるハイブリッド GSHP. ここで、Qhpp(t)はある時刻におけるもとの負荷の予測値 [kW]、. システムの場合、エネルギー消費量は以下の式により計算される。. a(mo, ho)は負荷実測値の月毎の時刻別平均値、b(mo, ho)は負荷予測. ETsystem. 値の月毎の時刻別平均値である。 (2)式によって得られる時刻別負荷. ETGSHPh ETPh. Qhppnew(t) [kW]を新しい予測値として採用する。これを時刻毎に繰り. ETPc. ETGSHPc ETCT. ……(5). なお、ETGSHPh、ETGSHPc はそれぞれヒートポンプの暖房時、冷房. 返し実施する。 1.4 ヒートポンプ COP 補正. 時のエネルギー消費量、ETPh、ETPh はそれぞれ循環ポンプの暖房時、. ここでは、ヒートポンプの COP が設計時と実測時で異なること. 冷房時のエネルギー消費量、 ETCT は冷却塔のエネルギー消費量であ る。. により、シミュレーションを行う際に計算される消費電力量や、地 中熱交換器の採放熱量に、差異が生じることを抑えるためのヒート. 2.実建物に導入されたハイブリッド地中熱ヒート ポンプシステムの運用方法の検討. ポンプ COP の補正を実施する。ヒートポンプ COP 補正値について は、 実測によって得られるヒートポンプCOP の平均値COPavem と、 元のシミュレーションに組み込まれているヒートポンプ COP の計. 2.1 対象建物及び地中熱ヒートポンプシステム概要. 算式に実測と同じ負荷条件・熱源温度条件を与え計算したヒートポ. 対象建物は 2010 年 12 月に北九州市で竣工し、総面積はおよそ 10,000 m2 である。建物には多くの省エネ技術(複合型換気システ. ンプ COP の平均値 COPavec を比較することにより得られる。. CCOP = COPavem / COPavec. ム、太陽光発電システム、高効率照明、エネルギーマネージメント. ……(3). 1.5 最適制御パラメータの決定手法. システムなど)が設置されており、また冷却塔を併用したハイブリ. 運転制御パラメータの決定は、シミュレーションによりシステム. ッド GSHP システムによって対象建物の暖房・冷房を行う 13)。. 3.
(4) 葛・中村・長野:. 図-5 にハイブリッド GSHP システムの系統図と主な計測点、表1 にハイブリッド GSHP システムの仕様を示す。ハイブリッド GSHP システムはボアホール GHE80 m×50 本と水冷ビル用マルチ エアコン、冷却塔で構成されている。水冷ビル用マルチエアコンの 室内機の定格暖房出力、冷房出力の合計値はそれぞれ 320kW、 287kW である。GSHP システムの 1 次側は循環ポンプの電力消費 を最小にするために変流量制御を導入している。先述の通り、冷却 塔(冷却水の循環とファンの運転)は GHE の出口温度 Tpout が冷却塔 運転の設定温度TCTsetを上回る場合に運転する制御を導入している。 図-6 に対象建物の基準階平面図および GSHP システムの空調対 象領域を示す。北側のオフィススペースの東側半分が GSHP シス テムによって暖冷房が行われ、該当面積は 2,271 m2(対象建物総面積 図-5 ハイブリッド GSHP システムの系統図と主な計測点. の 21.7%)である。また GHE の配置と地質柱状図を図-7 に示す。 GHE は図-7 に示すように 5 m の間隔を設けて設置している。地質. 表-1 ハイブリッド GSHP システムにおける各機器の仕様. については、地下水位が浅く、地盤は礫岩が大部分を占めている。 また、図-7 に示される A-5、A-6、A-7、A-13、B-10 の地中熱交換 器 5 本を用いて、熱応答試験を各 1 回(合計 5 回)行った。結果とし. GSHP unit (Water source variable refrigerant flow). て推定された地盤の見かけ上有効熱伝導率は 1.87~31.1 W/(m・K) であり 13) 礫岩に亀裂が生じており、地下水流動が生じている可能 性があることが伺えた。. Cooling tower. 2.2 ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムのシミュレーシ. Circulation pump (VWV). ョンモデル 図-8 にハイブリッド GSHP システムのシミュレーションモデル. GHE Borehole double U-tube. を示す。 シミュレーションモデルは、 主に地中温度計算モデル、 GHE. Air-conditioning 2271 m2 area Compressor 102 Horse power Rated cooling 280 kW output Rated heating 320 kW output Rated cooling 352 kW output Fan electric power 7.5 kW Rated flow rate 1056 L/min Rated electric 11 kW power Inside diameter. 150 mm. Grout Length × Number. Pebble 80 m×50. モデル、ビル用マルチエアコンヒートポンプモデル、循環ポンプモ デルと冷却塔モデルから構成される。シミュレーションモデルにお いて、暖房・冷房負荷、外気温と湿度を入力条件とし、システムの エネルギー消費量、熱媒温度、地中熱交換器周囲地中温度が計算さ れる。なお、計算の詳細については、既報 1)、7)、8)、9)、10)、11)、12)を参照 されたい。 2.3 地盤の見かけ上の有効熱伝導率推定 1.2 で紹介した推定方法により、地盤の見かけ上の有効熱伝導率 を推定した。時々刻々の採放熱量の実測データを与え、地中熱交換. 図-6 対象建物の基準階平面図および GSHP システムの 空調対象領域. 器出口温度 Tpout を計算し、実測値と比較した。表-2 に計算条件を 示す。地盤の熱容量は一般的な値である 3,000 kJ/(m3・K)を与え、熱 応答試験 13)より不易層温度は 18.8°C とした。 図-9 に地中熱交換器出口温度の実測値と計算値の比較を示す。 熱応答試験. 13)により得られた地盤の有効熱伝導率の最小値である. λs = 1.87 W/(m・K)を与えた Tpout の計算値の変化は、実測値の変化よ り大きいことが分かる。一方、RMSE 値が最小となる λs = 4.5 W/(m・ K)を与えた Tpout の計算値の変化は、実測値と概ね一致している。こ れより、地盤の見かけの有効熱伝導率は 4.5 W/(m・K)と推定した。 この結果からも地下水流動が生じている可能性が示唆された。 2.4 地中熱ヒートポンプの負荷補正. (a) GHE の配置 (b) 地質柱状図 図-7 GHE の配置(a)と地質柱状図(b). 図-10 に 2011 年の地中熱ヒートポンプ出力の実測値と設計時計 算値の時刻別変動を示す。 実測での最大冷房負荷は 132 kW であり、. 4.
(5) ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムにおけるシミュレーションを応用した長期運用に関する研究. Flow of heat carrier fluid. Flow of input or output parameter. Flow of control parameter Heat pump model. Temperature difference. Heating or cooling load. VWV control. Pump model. Heat transfer. Ground model. T1in ≦T1inctset. GHE model. Energy consumption. Cooling tower model Outside air temperature and humidity. 図-8 ハイブリッド GSHP システムのシミュレーションモデル. 図-10 地中熱ヒートポンプ出力の実測値と設計時計算値. 表-2 地盤の見かけ上有効熱伝導率推定時における計算条件. Calculated Calculated. Borehole double U-tube 150 mm Pebble (Effective thermal Grout conductivity : 1.8 W/(m・K)) GHE HDPE25A U-tube specification (Outside diameter 32 mm, thickness 3 mm) Length × number 80 m × 50 Boreholes Average ground 18.8oC Soil thermal temperature property Thermal capacity 3,000 kJ/(m3・K). COP [-]. Specification Borehole diameter. Measured Measured. 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0. 50. 100 150 Cooling load [kW]. 200. (a) 冷房時 Calculated Calculated. Measured Measured. 8 7. COP [-]. 6 5 4 3 2 1 0 0. 図-9 地中熱交換器出口温度の実測値と計算値の比較. 20. 40 60 Heating load [kW]. 80. 100. (b) 暖房時 図-11 ヒートポンプ熱負荷(出力)に対する COP. 設計時の最大冷房負荷は 253 kW と比較すると、およそ半分となっ た。これは、室内の照明・AV 機器による発熱が少なかったことが. (≒GHE の出口温度 Tpout)は 20~26oC、冬季暖房時のヒートポンプ. 大きな要因である。しかし、実測での全冷房負荷は、シミュレーシ. 一次側入口温度は 14~20 oC で推移しており、熱源として良好であ. ョンによる予測総冷房負荷 137 MWh とほぼ同じであった。これは、. ることから、計算値は図-11 に示されるような高い COP が期待さ. オフィスビルの活動時間が設計時に想定した時間よりも長いため. れていた。しかしながら実測では計算程の高い COP とはならなか. と考えられる。また、冷房負荷と暖房負荷の実測値を比較すると冷. った。これは既報 13)でも述べたように、室内機型式による性能差で. 房負荷は暖房負荷の約 2.5 倍となった。. 約 20%、冷房負荷率が低いことで約 10%の性能低下となる等が要. 本論文においては 1 年間の実測値が得られていることから、1 年. 因であった。またこの結果より、運転最適化を行うためのシミュレ. 目の実測値を用いて運転最適化の検討を行うこととした。. ーションで用いる CCOP の値について、冷房時 0.49 は、暖房時は. 2.5 ヒートポンプ COP 補正. 0.92 を得ることができた。. 図-11 に冷房時・暖房時それぞれのヒートポンプ熱負荷(出力)に. 2.6 最適制御パラメータの決定のシミュレーション. 対する COP を示す。なお、計算値については、既報 12)で紹介した. ハイブリッド GSHP システムのシミュレーションモデルを用い. 計算モデルを用いて計算を行った。今回の GSHP システムについ. て最適制御パラメータ決定のシミュレーションを行った。5 年間の. て、詳細は後述するが、夏季冷房時のヒートポンプ一次側入口温度. ハイブリッド GSHP システムの運転シミュレーションを行い、先. 5.
(6) 葛・中村・長野:. 述の通りシステムのエネルギー消費量(消費電力量)を最小にする冷. EThpc ETGSHPc. 却塔の設定温度 TCTset を決定した。なお、制約条件として、GSHP 入 T1in. 30oC、T1in. 10oC. ETsystem [MWh]. 口温度 T1in(熱源水温度)に関する以下の制約を与えた。. ……(6). 図-12 に TCTset に対する、運転 2 年目のシステム全体の消費電力 量の計算値を、図-13 に TCTset =30oC に設定した場合の、GSHP 入口 温度 T1in の変化を示す。TCTset を 25 oC 以上に設定すると、冷却塔の 消費電力量はほぼ 0 となり、TCTset = 28℃で完全に 0 となる。これは 下となるためである。また、冷却塔の運転のない 28 oC~30 oC の消. ETct ETCT. EThph ET GSHPh. ETph ETPh. 80 70 60 50 40 30 20 10 0 30. 図-13 に示すように、冷却塔を運転しない条件でも T1in が 28 oC 以. ETpc ETPc. 28. 25 TCTset [oC]. 23. 21. 図-12 TCTset に対する、運転 2 年目のシステム全体の消費電力量 の計算値. 費電力量が最も小さくなり、これより、本システムにおいては冷却 塔の運転を行わない運転が最適運転であるという結論を得た。なお、 既報で紹介した設計時のシミュレーションではTCTset を25oC とする のが最適運転であったが、設計時と異なる結果となったのは、地盤 の見かけ上有効熱伝導率の推定値が設計時よりも大きかったこと、 最大冷房負荷が小さかったことなどが挙げられる。この結果より 2 年目以降は TCTset=30oC に設定して、冷却塔を稼働しない運転を実 施した。これにより設計時と比較して、冷房期間において 1.3 MWh の冷却塔の消費電力量が削減されることとなった。最後に、冷却塔 の運転のない 28oC~30 oC の条件における 1 年目の採熱量の計算値. 図-13 TCTset =30oC における GSHP 入口温度 T1in 計算値. は 32.5 MWh、放熱量の計算値は 163.5 MWh となり、後述する 1 年 目の採放熱量の実測値と比較して採熱量は 9%、放熱量は 2%の誤. および設計時の計算値も示す。まず、地中熱交換器採放熱量につい. 差となった。このことから、上述する負荷補正、COP 補正により採. て、平均値より放熱量は採熱量の約 5 倍となった。通常の数十本の. 熱量、放熱量も実測に近い値を得ることができた。ただし、図-11. GHE を用いた GSHP システムにおいて、このように放熱が過多と. に示すように暖房出力に対する COP の傾向については、実測と計. なると熱源水温度は長期的に大きく上昇するが、本システムにおい. 算で異なる結果となっており、時刻毎の COP や採熱量に誤差が生. ては冷却塔を全く運転しない状況にも関わらず、熱源水温度の上昇. じていると考えられる。 COPの計算の精度向上の方法については、. はシミュレーションの予測と同様に、1.6℃程度に抑えられる結果. 出力毎に補正値を変更することが挙げられる。これについては今後. となった。以上より、実測データをもとに地盤の見かけ上有効熱伝. の課題とする。. 導率、GSHP システムの暖冷房負荷、ヒートポンプ COP の 3 つの 計算条件を修正することにより、シミュレーションによる予測が実. 3.ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムの長期 計測結果. 測を精度よく再現できること、シミュレーションを用いて長期的な 熱源水温度を予測した上で、ハイブリッド GSHP システムの最適. ハイブリッド GSHP システムの計測を 2010 年 11 月の運用開始. な運転方法を決定する運用手法が、特に採放熱量がアンバランスな. から 2019 年 1 月まで 8 年 2 か月実施した。図-14 に時刻毎の地中. GSHP システムに対して有効であることが確認できた。なお、各年. 熱交換器採放熱量を、図-15 にヒートポンプ一次側出入口温度を示. 度の循環ポンプ・冷却塔の消費電力量の実績値は予測値と比較して、. す。採放熱量積算値の詳細は表-3 で述べるが、図-14 に示されるよ. 2.6 節で得られた最適運転シミュレーションのような1.3 MWh 削減. うにGHE放熱量(負の値)はGHE採熱量(正の値)よりも大きいため、. とはならなかった。これは、GSHP システムの運転時間の増大に伴. 長期的なヒートポンプ一次側出入口温度は上昇する傾向にあるこ. う循環ポンプ消費電力量の増大が原因である。一方、ヒートポンプ. とが伺える。しかしながら、図-13 と同様にヒートポンプ一次側入. の COP(特に冷房 COP)は 3 年目以降に大幅に改善されている。こ. 口温度は 30℃を下回っているため、冷却塔の運転は一度も行われ. の理由として冷媒の蒸発温度を上げたこと、空調制御を行う温度セ. なかった。. ンサーの設置位置を変更し過剰な運転が抑えられたことなどが挙. 表-3 に 1 年目から 8 年目までの年度毎のヒートポンプ暖冷房出. げられる。そして、暖房出力積算値と冷房出力積算値は平均外気温. 力積算値、GHE 採放熱量、ヒートポンプ消費電力量、循環ポンプ・. 度と相関があることが分かった。平均外気温度はやや上昇傾向にあ. 冷却塔の消費電力量、COP、SCOP(=ヒートポンプ暖冷房出力 / (ヒ. るため、暖房出力積算値は減少傾向に、冷房出力積算値は上昇傾向. ートポンプ消費電力量 + 循環ポンプ・冷却塔の消費電力量))、平均. となっており、これより将来的には冷却塔が稼働する可能性がある. 外気温度をまとめたものを示す。また、表-3 には 8 年間の平均値. 6.
(7) ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムにおけるシミュレーションを応用した長期運用に関する研究. 図-14 時刻毎の地中熱交換器採放熱量実測値. 図-15 表-3. 時刻毎の GSHP 出入口温度実測値. 年度毎のヒートポンプ暖冷房出力積算値、GHE 採放熱量、ヒートポンプ消費電力量、循環ポンプ・冷却塔の消費電力量、 COP、SCOP、外気温度平均値. Period. 1st 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 8th Average Predicted value. Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling Heating Cooling. Heating / Cooling Heat extraction / output from GSHP injection rate. Nov. 18, 2010 - Apr. 25, 2011 Apr. 26, 2011 - Nov. 12, 2011 Nov. 13, 2011 - Apr. 12, 2012 Apr. 12, 2012 - Nov. 11, 2012 Nov. 11, 2012 - Apr. 16, 2013 Apr. 17, 2013 - Nov. 28, 2013 Nov. 29, 2013 - Feb. 23, 2014. MWh 45.9 125.4 40.0 117.0 44.7 143.0 26.6. Dec. 6, 2014 - May. 21, 2015 May. 22, 2015 - Nov. 24, 2015. 52.5 116.9. May. 14, 2016 - Nov. 30, 2016 Dec. 1, 2016 - Apr. 23, 2017 Apr. 24, 2017 - Nov. 14, 2017 Nov. 15, 2017 - Apr. 9, 2018 Apr. 10, 2018 - Nov. 19, 2018 -. 143.9 21.0 133.0 53.6 145.8 40.6 132.1 77.0 136.0. MWh 35.7 165.8 30.4 155.7 35.2 184.2 20.9 Data missing 42.4 148.1 Data missing 174.5 14.7 162.3 40.3 176.1 31.4 166.7 59.9 156.9. Electric energy of GSHP MWh 13.1 35.7 12.2 33.4 12.1 34.5 7.3. Electric energy of circulation pump and cooling tower MWh 1.3 2.7 1.6 2.8 2.0 3.5 1.4. 13.1 25.6 31.6 6.3 30.4 13.3 31.1 11.0 31.8 17.1 20.9. COP. SCOP. 3.5 3.5 3.3 3.5 3.7 4.1 3.7. 3.2 3.3 2.9 3.2 3.2 3.8 3.1. 3.1 3.4. 4.0 4.6. 3.2 4.0. 2.7 1.7 3.8 2.6 4.5 2.0 3.3 1.2 3.8. 4.6 3.3 4.4 4.0 4.7 3.7 4.2 4.5 6.5. 4.2 2.6 3.9 3.4 4.1 3.1 3.8 4.2 5.5. Average ambient temperature o C 8.18 22.31 8.66 21.71 8.86 22.49 9.22 21.53 9.24 21.54 10.00 22.67 9.84 22.20 8.86 22.31 9.0 22.0 -. ションにより長期的な熱源水温度を予測し、ハイブリッド. ことが示唆された。. GSHP の最適な運転方法を決定する方法について示した。. まとめ. 2) 実建物に導入された冷却塔を併用したハイブリッド GSHP シ. 以下に、本論文のまとめを示す。. ステムを対象に、実測データをもとに地盤の見かけ上有効熱. 1) 実測データをもとに見かけ上有効熱伝導率、GSHP システム. 伝導率の推定、GSHP システムの負荷の評価、ヒートポンプ. の負荷、ヒートポンプの COP の 3 つの計算条件を修正した上. COP の評価を実施した。結果より地盤の見かけ上有効熱伝導. で、GSHP システム設計・性能予測ツールを用いたシミュレー. 率は 4.5 W/(m・K)と推定された。また、地中熱ヒートポンプの. 7.
(8) 葛・中村・長野:. 参 考 文 献. 冷房負荷について、全負荷の実測値は予測値と同程度であっ 1). たが、最大冷房負荷は半分程度であった。ヒートポンプの COP. 葛隆生, 長野克則, 中村靖 : 冷却塔を併用したハイブリッド地中熱ヒ ートポンプシステムの設計・性能予測ツールの開発とその応用, 日本. については特に冷房 COP が計算値よりも低い結果となった。. 冷凍空調学会論文集, Vol.32, No.3,pp.119-128 (2015). 3) ハイブリッド GSHP システムについて、3 つの計算条件を修 2). 正した上で、GSHP システム設計・性能予測ツールを用いたシ. Heating and Cooling System, Renewable Energy 122, pp.429–442 (2018). ミュレーションを応用して冷却塔運転の設定温度を決定した。 3). 結果より、冷却塔の運転を行わない設定温度 30℃の運転が最. S. S. Naicker and S. J. Rees.: Performance Analysis of a Large Geothermal. J. D. Spitler, and S. E. A. Gehlin: Measured performance of a mixed-use. 適運転であるという結論を得たため、この結果より 2 年目以. commercial-building ground source heat pump system in Sweden, Energies 12. 降は設定温度を 30℃にして、冷却塔を稼働しない運転を実施. (2019) 4). した。これにより設計時と比較して、冷房期間において 1.3. S. Kindaichi and D. Nishina:Simple index for onsite operation management of ground source heat pump systems in cooling-dominant regions, Renewable. MWh の冷却塔の消費電力量が削減することができた。. Energy 127, pp. 182-194 (2018). 4) ハイブリッド GSHP システムの計測を 2010 年 11 月の運用開 5). 始から 2019 年 1 月まで実施した。結果より地中熱交換器採放. 宮田征門, 吉田治典, 安岡稔弘, 竹川忠克, 小林陽一, 金政秀, 天野雄. 熱量について、放熱量の各年度の平均値は採熱量の各年度の. 一郎:季節蓄熱機能を有する空調システムのシミュレーションを利用. 平均値の約 5 倍であるにも関わらず、シミュレーションの予. したコミッショニング(第 2 報)運用開始後 3 年間に亘る運転最適化プ. 測と同様に、ヒートポンプ一次側入口温度の長期的な上昇は 1. ロセス, 空気調和・衛生工学会論文集, No.218, pp.19-30 (2015) 6). ~2℃の範囲に収まり 30℃を下回ったため、冷却塔の運転は一. 住吉大輔, 赤司泰義他:蓄熱方式を複合した空調システムの効率的運. 度も行われなかったことが確認できた。以上より、実測データ. 用に関する研究(第 4 報)シミュレーションによる適切な運転方法の検. をもとに 3 つの計算条件を修正することで、シミュレーショ. 討, 空気調和・衛生工学会平成 25 年度大会学術講演会論文集, pp.65-68 (2013). ンによる予測が実測を精度よく再現できること、シミュレー 7). ションを用いて長期的な熱源水温度を予測した上で、ハイブ. 長野克則, 葛隆生 :土壌熱源ヒートポンプシステム設計・性能予測ツ. リッド GSHP システムの最適な運転方法を決定する運用手法. ールに関する研究 (第 1 報) 単独垂直型地中熱交換器の設計・性能予. が有効であることが確認できた。. 測ツールの開発, 空気調和・衛生工学会論文集, No.101, pp.11-20, (2005) 8). 謝. 葛隆生, 長野克則, 武田清香:土壌熱源ヒートポンプシステム設計・性 能予測ツールに関する研究 (第 2 報) 複数埋設管への設計・性能予測. 辞. ツールの拡張, 空気調和・衛生工学会論文集, No.111, pp.48-56 (2006). 本事業の一部は NEDO「次世代省エネルギーなど建築システム実 9). 証事業」(平成 22 年度~24 年度、新日鉄住金エンジニアリング株式. 葛隆生, 長野克則, 金田一清香, 中村靖:土壌熱源ヒートポンプシステ. 会社(現日鉄エンジニアリング株式会社))および NEDO「再生可能エ. ム設計・性能予測ツールに関する研究 (第 3 報) 地中熱交換器の配管. ネルギー熱利用技術開発事業」(平成 26 年度~30 年度、研究代表. 仕様に応じた温度計算手法とその応用, 空気調和・衛生工学会論文集, No.134, pp.1-10 (2008). 者:長野克則(北海道大学))によったことを付記します。また、本研 10). 究を行うにあたって、北九州市立大学の卒論生、修論生をはじめと. T. Katsura, K. Nagano: Simulation Tool for Ground Source Heat Pump System. する多くの方々からご協力を頂きました。ここに記して謝意を表し. with Multiple Ground Heat Exchangers, ASHRAE Transactions, Vol. 124, Part. ます。. 2 (2018) 11). 注. T. Katsura, K. Nagano, Y. Sakata, H. Wakayama: A design and simulation tool for ground source heat pump system using energy piles with large diameter,. 釈. International Journal of Energy Research, 43, pp.1505-1520 (2019). 注 1) 熱源水温度は地中温度(地中熱交換器表面の地中温度の平均値)に、地中 12). 熱交換器の内部熱抵抗や出入口温度差の影響による温度変化を加えること. 葛隆生, 中村靖, 長野克則, 阪田義隆, 少水量対応地中熱ヒートポンプ. で計算できる。そのため地中温度が上昇・下降するとそれにつれて熱源水温. ビルマルチシステム設計・性能予測ツールの開発とその応用, 日本冷. 度も上昇・下降することになる。. 凍空調学会論文集 35(4), pp.313‐324 (2018) 13). 注 2) 本論文における図中の GSHP システム性能予測ツールの英訳について. 中村靖、葛隆生、長野克則:技術センターにおける少水量対応地中熱. は、本来であればPerformance prediction tool for GSHP system であるが、最近. ヒートポンプの導入と性能検証, 日本建築学会技術報告集 第 21 巻. の論文では Simulation tool という語句が一般的に用いられるようになってお. 第 49 号 pp.1139-1142 (2015) (令和 2. 1. 10 原稿受付). り、既報 10)、11)においても Simulation tool for GSHP system を用いていることか ら、Simulation tool for GSHP system とした。. 8.
(9) ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステムにおけるシミュレーションを応用した長期運用に関する研究. Validation of Long-term Operation for Hybrid Ground Source Heat Pump Systems through Simulation by. Takao KATSURA*1, Yasushi NAKAMURA *2 and Katsunori NAGANO *1. Key Words: Hybrid Ground Source Heat Pump System, Simulation Tool, Long-term Operation, Long-term Monitoring. Synopsis: A long-term operation methodology is proposed for. operation without the cooling tower operation was optimal. This. hybrid ground source heat pump (GSHP) systems combined. was because the estimated apparent effective thermal. with cooling towers. In this methodology, the calculation. conductivity of 4.5 W/(m ・K) was large and the maximum. conditions, which are the apparent effective thermal conductivity. cooling load was smaller than that predicted in the design phase.. of the ground, cooling/heating load of the GSHP system, and the. The result of monitoring for 8 years showed that although the. heat pump COP, are modified by using measurement data. Then,. total heat injection rate of GHEs was approximately five times. the long-term temperature variation in the ground surrounding. the total heat extraction rate, the long-term increase in the inlet. the ground heat exchangers (GHEs) is predicted through a. temperature of the primary side of the heat pump was 1-2oC and. simulation, and the optimum control parameter (Set temperature. the inlet temperature was less than 30oC. In addition, the long-. of the cooling tower operation) is determined. The proposed. term variation in the measured inlet temperature was similar to. methodology was applied to a hybrid GSHP system installed in. that of the inlet temperature calculated by the simulation.. an office building. From the results, it was concluded that the. Therefore, it was confirmed that the proposed methodology was. *1. effective.. Faculty of Engineering, Hokkaido University, Member. *2 Nippon. Steel Engineering, Member. (Received January 10, 2020). 9.
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