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森 篤嗣編(2018) 『コーパスで学ぶ日本語学 日本語教育への応用』朝倉書店

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計量国語学 32 巻 4 号(2020 年 3 月) pp.224-227. 224 © 2020 計量国語学会 書評

森 篤嗣編(

2018)

『コーパスで学ぶ日本語学 日本語教育への応用』朝倉書店

三谷 彩華(早稲田大学) 1.はじめに 本書の「まえがき」にもあるように,日本語においては,2000 年代に入ってから急速に コーパスが整備され,2010 年以降,コーパスの活用に向けて,さまざまな取り組みがなさ れるようになり,近年では,砂川編(2016)や李・石川・砂川(2018)など,日本語教育 のためのコーパスに関する書籍が出版されている. 本書は,「日本語教育に関わる人々がコーパスに触れ、その効果を実感してもらうことを 目的としている」(p.ⅰ)とあるように,全 8 種のコーパス1の説明に加え,日本語教育に おいてどのようなことがコーパスで出来るかを,「導入」「例題」の各セクションで手順か らわかりやすく解説しているところが特徴である.読者が実際に分析する「演習」のセク ションでは,「web」という記載があるものに関しては,朝倉書店のホームページで分析手 順を確認することができるようになっており,読者自身も「例題」や「演習」を通してコ ーパスの日本語教育への応用が実感できる.また,「解説」では,例題の分析を通して,コ ーパスを用いた分析をする意義や限界について記述している.各章の分析対象の文型や語 は,日本語教育の現場で実際に教師が教えている身近な語を取り上げており,従来のコー パスの書籍と比べ,より日本語教育現場に寄り添っていると言えよう. 各章末の「コラム」には,章内に出てくる専門用語の解説や分析の補足説明が設けられ ており,さらに,本書の最後には「付録」として「コーパス利用の基礎」があるため,ま だコーパスを使用したことのない日本語教育関係者にとっても,これから日本語教育の研 究をおこなおうとする者にとっても有用な入門書である. 2.本書の構成と概要 本書は,「まえがき」の他に,以下の6 章と付録で構成されている. 第1 章「総説」(森 篤嗣) 第2 章「日本語教材の分析」(田中祐輔) 1取り上げられているコーパスは, 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ),『名大会話コ ーパス』,『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS),『KY コーパス』,『日本語学習者会話 データベース』,『日中Skype 会話コーパス』,YNU 書き言葉コーパス』『北京大学中国語コーパス』 である.

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計量国語学 32 巻 4 号 三谷 pp.224-227. 225 第3 章「文型とコロケーション」(森 篤嗣) 4 章「学習者話し言葉コーパス分析」(中俣尚己) 第5 章「学習者書き言葉コーパス分析」(奥野由紀子) 第6 章「対照言語学的分析」(建石 始) 付録「コーパス利用の基礎」(岩田一成) 第 1 章では,「総説」として,コーパスがなぜ日本語教育に貢献するかが述べられてい る.日本語教育で取り扱う,「実際に外国人が話す・聞く・書く・読むという言語活動で『使 える』日本語」(p.1)の内容は,これまで「主観」により選定されてきた.その「主観」 をサポートし,日本語教育に貢献する可能性を持っているものとして,コーパスを取り上 げている.そして,各章で取り上げられるコーパスがどのように活用されているかを,筆 者の視点から述べている. 母語話者,非母語話者を問わず,日本語教育関係者には様々なバックグラウンドがあり, また,当然ながらそれぞれが普段使用している日本語も異なる.そのため,コーパスを利 用し「傾向」を明らかにすることは,現実場面で使用されている日本語を確認するという 点でも有効である.一方で,コーパスの言語データの時代やジャンルによって,明らかと なる「傾向」は異なる.そのため,最終的にはコーパスを使う教材作成者や教師が決定す る必要があるという指摘は,まさにコーパスを利用する日本語教育関係者が常に意識しな ければならないことである. 第2 章では,日本語教育の実践力と研究力を養う上での日本語教科書の分析の意義を述 べ,日本語教育において利用者の多い複数の日本語の総合教科書をデータ化し,日本語教 科書の内容と特徴を明らかにする方法を解説している.「導入」では,初級総合教科書を対 象に,分析する上で必要となる定義づけの方法からコーパスデータの検索方法まで,実際 のパソコン画面を図として載せながら詳細に解説している.「例題1」では,個々の初級総 合教科書をデータ化し,教科書の語彙の出現頻度を分析している.これにより,現在の日 本語教科書のシラバスについて,語彙の提出順序に十分な配慮が行き届いていないこと, また,シラバス構築の際に重要視されてきた教師の勘そのものが「不安定かつ曖昧な面が あることが指摘できる」(p.27)と述べ,「例題」の分析を通して,日本語教科書の分析の 有効性を示している.コラムには,教科書をデータ化する際のポイントについて記述があ り,これから教科書を対象とした分析をする者にとって必読すべき章である. 第3 章では,初級日本語教科書として広く普及している『みんなの日本語』の文型を取 り上げ,実質語と文型の組み合わせの妥当性をコーパスで分析している.『現代日本語書き 言葉均衡コーパス』(BCCWJ)の使用の手順はもちろん,調べた結果の取り扱いについて も丁寧に記述している.特に初めて分析する者は,コーパスで調べ,明らかになった「傾 向」を妥当と考えてしまう可能性があるように思うが,本章ではその危険性を以下のよう に解説し,コーパスを用いた分析で注意すべきことを記述している. コーパスで調査した結果は、あくまで客観的証拠の一つに過ぎず、日本語教育にとっ て本当に意味がある結果かどうかは、自分自身で分析して検証する必要がある。 (p.40)

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計量国語学 32 巻 4 号 三谷 pp.224-227. 226 また,「例題2」では「てください」の分析から,頻度にとらわれない観点やコーパスの レジスターについて考える重要さについて,例を挙げて解説しており,コーパスがあくま でも「主観」をサポートするものであるという主張が伝わってくる. 第4 章では,『日中 Skype 会話コーパス』を用いた分析について解説している.本章で は,「例題」で,母語話者と学習者の否定の返答の仕方についてコーパスで分析し,自分の 「内省は信用できない」(p.61)こと,疑問に思ったことをコーパスで調べる行動力の大切 さを述べている.また,前述のコーパス分析の結果を裏付けるため,『名大会話コーパス』, 『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS)を用いた分析についての記述もある. 筆者の経験談もあり,親しみやすく,本章を読むことで,コーパスを活用する意欲が掻き 立てられる読者も多いであろう.ただし,「例題2」の「解説」にある「テシマウ」の「完 了」の例文を,「母語話者も使わず、学習者も使わない」(p.71)と指摘していることにつ いては,「主観」をサポートするというコーパスを生かした根拠の記述がもう少しされても いいように思われる. 第5 章では,『YNU 書き言葉コーパス』(YNU コーパス)を用いた分析について記述し ている.「導入」では,YNU コーパスの中のタスク 3「デジタルカメラの販売台数につい てのグラフの説明」を例として取り上げ,日本語母語話者,韓国語母語話者,中国語母語 話者の作文を比較している.この際に,自分自身が立てた予測が合っているかどうかにつ いて確認できること,作文タスクを達成するために必要な学習項目をコーパスから予測で きることを,コーパスならではの利点として挙げている.「例題1」では,YNU コーパス の中のタスク8 を用い,伝聞表現の使用が母語やレベルでどのような違いがあるのかを考 察し,量的検討と質的検討の両方を取り入れることの重要さを述べている.また,コラム では,「正しい日本語の使用について日本語母語話者を基準として考えるのは慎重になっ たほうがよいかもしれない」(p.102)と指摘している.本章を読むと,コーパスで明らか になった数値をどのように見ていくかについて,改めて考えさせられる. 第6 章では,日本語のコーパスだけではなく,中国語のコーパス(『北京大学中国語コー パス』)も用いた対照言語学的分析について述べている.日本語とは異なる言語的特徴を持 った中国語コーパスの分析での着目点を,わかりやすく解説している.従来の中国語と日 本語の対照研究を有効な分析であるとしつつ,コーパスを用いた客観的なデータを示しな がらコロケーションに注目した分析の新たな研究の可能性を指摘している点が非常に興味 深い.また,日本語教育分野の研究で行われてきたコロケーション研究を中国語教育へ生 かす可能性も示唆しており,中国語コーパスの今後の可能性が感じられる章となっている. 付録「コーパス利用の基礎」では,初学者の読者を想定し,コーパスを使った分析に関 するツールを紹介している.具体的には,本書で取り上げられているコーパスの概要や種 類,文字列検索のためのツール,形態素解析のツール,エクセルの機能などについての可 能性と限界を述べている.分析に使用するツールの使い方について,他の章と同様にわか りやすく図解がされているので,コーパスを使ったことのない読者には,付録から読むこ とを勧めたい. 3.本書の意義 本稿の「1.はじめに」にも述べたように,コーパスの使用手順や日本語教育へ応用す

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計量国語学 32 巻 4 号 三谷 pp.224-227. 227 るための方法が初学者にとってわかりやすく書かれていると言う点が本書の魅力であるが, その意義は,①日本語教育において,「何を」教えるかを検討する際に「内省」のみに頼ら ず,コーパスを用い,傾向を分析することの重要さを記述していること,②コーパスは「主 観」のサポートに用いるものであり,分析した「傾向」を正解と決めつけずに,最終的に は教材作成者や教師が検討する必要性とその理由を,各章で,具体的に例を挙げて主張し ていることにある. ただし,コーパスそのものについて学習したい者にとっては,多少物足りなさを感じる. 「付録」の「日本語教育視点のコーパス研究に向けて」では,分野の展望として,自作コ ーパスを用いた関連研究を紹介しているが,本書で主として解説されているコーパスの「日 本語教育への応用」の方法は,既存のコーパスを用いた分析が主である.第2 章にデータ 化についてのポイントの記載はあるものの,ポイントのみにとどまっており,砂川編(2016) や李・石川・砂川(2018)のようなコーパス構築の方法については記述が足りない.これ には,初学者の読者を想定していることが理由として考えられるが,「付録」の展望で紹介 されている研究のような自作コーパスをこれから作成しようとする者も本書の読者として 視野に入れているのならば,コーパス構築の方法についての解説があってもいいように思 われる. しかし,コーパスの使用手順やコーパス分析をする際の考え方を,日本語教育関係者に とって身近な題材を用いて,コーパス使用のメリットとデメリットを挙げながら丁寧に解 説している点は,コーパス初学者にとって,非常に有難い. 是非,本書を読みながら実際にコーパスの使用を試みることで,コーパスの意義や有効 性を実感して欲しい. 参考文献 砂川有里子編(2016)『講座日本語コーパス 5.コーパスと日本語教育』朝倉書店. 李在鎬・石川慎一郎・砂川有里子(2018)『新・日本語教育のためのコーパス調査入門』く ろしお出版. (2019 年 11 月 30 日受付)

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