下窪 拓也
1)オリンピック競技大会招致開催の経験が
ナショナルプライドに与える長期的影響
―社会調査データの二次分析による世代効果の検証を通じた一考察―
1)東北大学大学院文学研究科博士課程後期 〒 980-8576 宮城県仙台市青葉区川内 27 番 1 号 E-mail: [email protected] 抄 録 本研究は、メガスポーツイベントの招致開催がもたらす長期的な無形の影響の解明を目的とし、 オリンピック競技大会の招致開催が、人々のナショナルプライドに与える影響を検証する。メガス ポーツイベントの開催と開催国の人々が持つナショナルプライドとの関連はこれまでにも議論され てきたが、先行研究では、開催時期の時代背景による影響は等閑視されてきた。 時代的背景から、1964 年東京オリンピックと 1972 年札幌オリンピックの開催は、戦後の復興と 国際社会への復帰という意味合いを強く持つため、日本人のナショナルプライドに強い影響を与え たことが想定される。本研究では、この東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の 世代効果に着目して、大会の開催がナショナルプライドに与える長期的な影響を分析する。分析で は、社会調査の二次データを用いて、東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の世 代効果が、スポーツに関するナショナルプライド(スポーツプライド)と一般的なナショナルプラ イド(ジェネラルプライド)に与える影響を検証した。 分析の結果は、仮説とは反して、世代効果はスポーツプライドには統計的に有意な負の影響を示 し、ジェネラルプライドに対しては統計的に有意な関連を示さないことを明らかにした。オリンピ ック競技大会の商業主義化に伴いナショナルな表象が薄れたことで、かつての国威発揚の意味合い を強く持つ東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代は、昨今のスポーツに対してもは や国への誇りを重ねなくなったのだと考えらえる。あるいは、先行研究では、1990 年代以降の日本 社会の不安の蔓延に伴い、若者のスポーツプライドが高まっていることが示唆されていることから、 相対的に東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代のスポーツプライドが低く観測され ている可能性も考えられる。最後に、本研究の限界を議論した。 キーワード: ナショナルプライド、1964 年東京オリンピック、1972 年札幌オリンピック、 世代効果■原著論文
Impact of Hosting Olympic Games on National Pride:
A Cohort Analysis
SHIMOKUBO Takuya
1)Abstract
The purpose of this research is to examine the long-term impact of hosting a mega-sport event on national pride. Although previous research has discussed the impact of hosting a mega-sport event on national pride, none have empirically examined their long-term effects.
It is expected that the Japanese who experienced hosting the Olympic Games in Tokyo 1964, and Sapporo 1972, have stronger national pride because these Games implied Japanese reconstruction after World War Ⅱ and a return to the international community.
This study examined the group effect of national pride using a quantitative analysis of social survey data. However, results showed that the cohort who experienced the Olympic Games in Tokyo 1964 or Sapporo 1972, showed a lower score of sport-related national pride, as well as statistically insignificant effects on general na-tional pride.
The nationalistic symbols in the Olympic Games have faded due to their gradual commercialization. Thus, those who experienced the Olympic Games in Tokyo 1964 and Sapporo 1972, with strong implications for the rise of national prestige, may not feel national pride in sports today. Alternatively, researchers imply that the younger generation has increased sport-related national pride due to the prevalence of anxiety in Japanese society since the 1990s. Thus, it is observed that the older generation who experienced the Tokyo and Sapporo Games may have relatively weaker national pride. The results of this research indicate that further investigation of the cohort effect on sport-related national pride is needed.
Key words: National Pride, Tokyo 1964, Sapporo 1972, Cohort Analysis
■ Japan Journal of Sport Sociology 29-1(2021)
1. はじめに メガスポーツイベントの開催は、開催国に多 大な影響を残すことが議論されてきた。大会の 開催に伴う施設の建築や公共交通機関を含めた インフラの整備、そして観光客の増加による経 済的な利益などの有形な影響、さらには、国際 的なスポーツ大会の開催は、自国への誇りなど の肯定的な意識であるナショナルプライドの高 まりといった無形1)な影響が期待されており、 国内外において学術的、そして、政治的な関心 が寄せられてきた。 これまで、オリンピック競技大会(以降、オ リンピック)などのメガスポーツイベントの開 催がナショナルプライドに与える影響の検証が 行われてきたが、従来の研究が対象とするのは 大会前後の短期間での意識の変容の観測にとど まる。例えば、社会調査データの二次分析を通 じて、日本人のスポーツ参加頻度の世代効果 を検証した Aizawa et al.[2018]は、1964 年東 京オリンピックの開催を経験した世代は、他の 世代と比べてスポーツへの参加頻度が高いこと を報告しており、メガスポーツイベントの開催 が、開催国の人々の意識や行動に与える影響は 長期に及ぶことが考えられる。しかしながら、 大会の開催が国家への意識に与える長期的な影 響の分析は等閑視されてきた。メガスポーツイ ベントが開催国に残す社会的影響を理解するに は、大会の開催が大会後の長期にかけて人々に 与える影響についても議論することが望まれ る。 メガスポーツイベントの開催は、特に冷戦期 には体制の優越性を示すために利用されたこと から、ナショナルな表象との結びつきが強かっ た。そのため、冷戦期にスポーツイベントを経 験した世代は、スポーツに関連したナショナル プライドを強く抱いていると議論されている [Meier and Mutz, 2016, 2018]。また、第二次世 界大戦の敗戦国である日本では、1964 年東京 オリンピックや 1972 年札幌オリンピックの開 催は、国際社会への復帰や敗戦からの復興とい う意味合いを持ち合わせており、国威発揚と密 接な関連があった[黒田,2003;武重,1990]。 この冷戦と戦後期という、特にスポーツとナシ ョナルな意識の関連が強い時期にオリンピック の開催を経験した世代は、スポーツに関連した ナショナルプライドを強く抱いていることが予 想されるが、こうした世代効果の実証的な検証 は行われていない。そこで本稿は、オリンピッ クの招致開催が開催国に及ぼす影響に関する新 たな知見の提供を目指し、1964 年東京オリン ピック、1972 年札幌オリンピックそして 1998 年長野オリンピックの開催を経験した人々が抱 く、スポーツに関するナショナルプライドの検 証を試みる。 世代あるいは時代に応じた変化を詳細に検討 するための有効な手段の一つとして、蓄積され た社会調査データの二次分析を行うことが挙げ られている[太郎丸,2016]。そこで、本研究 では、反復横断調査データを用いた世代効果分 析を通じて、上記の課題に着手する。 本稿の構成は以下の通りである。まず次節で は、先行研究を概観する。本研究では社会調査 データを通じた計量的検証を主な分析方法とし て用いることから、次節ではまず、計量的検証 を行った国外の先行研究を中心に検討する。そ して、1964 年東京オリンピックと 1972 年札幌 オリンピックを経験した世代のもつナショナル プライドに関する議論を概観する。次に、社会 調査データの二次分析を通じて、世代ごとのス ポーツに関連したナショナルプライドおよび一 般的なナショナルプライドの差異を検証してい く。 2. 先行研究の概観 2.1 メガスポーツイベントの招致開催と国への 意識 ナショナルプライドとは、自身が所属すると
認識する国家に対して抱く肯定的な感情や認識 を意味し[Smith and Jarkko, 1998]、国民を国家 に統合し、他国との関係性を形成する凝集力で あるナショナルアイデンティティの構成要素の 一つとして議論されている[Smith and Jarkko, 1998;田辺,2010]。国際的なスポーツイベン トという象徴的なイベントは、人々にネイショ ンの存在を認識させ、ナショナルアイデンティ ティの構築に貢献する[Houlihan, 1997]。そし て、メガスポーツイベントの招致開催は、国 内外に向けて国家の威信を示し、ナショナル プライドを刺激するものであると議論されて きた[Kavetsos, 2012; Lau et al., 2012; Leng et al., 2014]。
国外では、メガスポーツイベントの招致開催 とナショナルプライドの関連について、実証的 な検証が行われてきた。社会調査データを用い た疑似自然実験的な研究手法によって、2000 年 Union of European Football Associations チ ャ ンピオンズリーグの開催とナショナルプライド の関連を分析した Kavetsos[2012]は、大会の 招致国と優勝国において、大会を通じてナショ ナルプライドの上昇が観測されたことを報告し た。 アジア諸国においても同様に、国際的なスポ ーツ大会の開催がナショナルアイデンティティ やナショナルプライドに与える影響が報告され ている。例えば、2008 年に北京で開催された オリンピックは、大会期間中、台湾と香港に住 む人々のナショナルアイデンティティを上昇さ せたことが報告されている[Lau et al., 2012]。 また、シンガポールで行われた 2010 年ユース オリンピックの開催も、現地住民のナショナル プライドを高めたことが報告されている。特 に、大会開催の影響は男性に顕著にみられた が、これは男性は女性よりもスポーツへの関心 が強いためであると考察されている[Leng et al., 2014]。 しかし、最近の報告では、大会の開催とナシ ョナルプライドとの関連について否定的な見
解が示されている。Storm and Jakobsen[2019] は、1981 年から 2014 年までの間に世界各国で 行われた社会調査の二次データを用いて、オリ ン ピ ッ ク や Fédération Internationale de Football Association(以下、FIFA)ワールドカップとい ったメガスポーツイベントの開催が、人々のナ ショナルプライドに与える影響を分析した。そ の結果、大会の開催はナショナルプライドと正 の関連を持っていたが、統計的に有意ではな いことを報告している。しかし、この研究は 約 30 年にわたる期間で収集された調査データ を分析したにもかかわらず、時代に応じて大会 の開催とナショナルプライドとの関連が変化し た可能性には言及していない。冷戦下では、国 際的なスポーツ大会開催の成功が体制の優越性 の主張および国家の威信につながるため、特に ナショナルな意識との関連が高かったことが議 論されており、冷戦下での大会を経験した世代 は、スポーツに関連したナショナルプライドが 高いことが想定される[Meier and Mutz, 2016, 2018]。 以上のように、大会の開催がナショナルアイ デンティティおよびナショナルプライドに与え る影響は、一貫しない結論が主張されてきた。 しかしこれらの研究は、開催時期の前後を分析 の対象に限定している。そして開催を経験した 時代的背景による影響、つまり世代効果は等閑 視されており、メガスポーツイベントがもたら す長期的な影響の議論は行われていない。次節 では、3 度にわたるオリンピック開催を経験し た日本人の意識の変容について先行研究を振り 返りながら議論していく。 2.2 オリンピックの国内開催 日本人の国への意識とオリンピックの関連、 特に、1964 年東京オリンピックと 1972 年札幌 オリンピックの開催の影響を議論するには、当 時の時代的背景を考慮することが重要である。 例えば、これらの大会は冷戦時に開催されたも のであるが、冷戦時代は体制の優越性を示すた
めに、政府はスポーツを通じて国家の威信を示 すことに積極的であった。そのため、冷戦時代 を経験した世代にとって、国際的なスポーツ大 会とナショナリズムはより密接に結びついて いると考えられている[Meier and Mutz, 2016, 2018]。 日本においても、冷戦下でのスポーツと国へ の意識の結びつきは強かったことが議論されて いる。武重が「1952 年のヘルシンキ大会でソ 連がはじめてオリンピックに参加して以来、冷 戦下でのオリンピックは体制間のメダル数を 巡る「平和の戦争」の様相を呈した」[武重, 1990:114]と説明するように、冷戦時代のオ リンピックでは、国威発揚を促すナショナルな 表象が積極的になされていた。 また、オリンピックは、大会内の競技だけで なく、大会の招致レースにおいても国威発揚を 促すものであった。山川[1988]は、フィンラ ンドのヘルシンキに日本の東京が勝利し決定し た 1940 年オリンピックの招致が、日本の国際 的地位の向上を示し、平和の戦争の勝利として 国威発揚を導いたと説明している。1964 年の オリンピックの招致決定も、冷戦下における国 際的な情勢に加えて、特に日本では、オリンピ ックの招致開催は、敗戦からの復興と国際社会 への復帰の象徴としても捉えられており[黒 田,2003]、大会が担う国威発揚の役割は大き かったことが想定される。 しかし、オリンピックの国威発揚としての機 能は次第に弱められていくこととなる。1980 年代以降オリンピックは商業化の道をたどる [小川,2012]。商業化とともにメディアによる 大会の表象は、依然としてナショナルな意味合 いを含んでいるものの[Sasada, 2006]、かつて のオリンピックほど国威発揚に重点を置かれな くなっていった[黒田,2003;西山,2015]。 国への意識は、経験した時代に応じて世代 ごとに異なることが明かにされており[永吉, 2016a]、このことはスポーツに関連した国への 意識においても同様に議論されてきた。例えば 第一次、第二次世界大戦のように国威発揚が積 極的に行われた時代を経験した世代は、スポー ツに関するナショナルアイデンティティやナシ ョナルプライドを強く認識する傾向にあると言 われている[Dóczi, 2014; Smith and Kim, 2006]。 しかし、スポーツに関連した国への意識に対す る世代の効果を議論した既存の研究は、一時点 のデータを用いているため、厳密には世代効果 の検証を行えていない。 冷戦を経験した世代のナショナルプライドが 強いことを示唆する国外の研究がある一方で、 国内では、昨今の若者世代のナショナリズムや ナショナルプライドの高まりを議論する論者も 少なくない。香山は、2002 年日韓ワールドカ ップの際、日の丸を掲げた若者たちを「無邪気 なぷちナショナリスト」[香山,2002:8]と称 し、若者たちの屈託のないナショナリズムの高 まりの背景には日本社会への不安や不満が存在 していると考察した。ネット世代のナショナリ ズムの高まりを分析した高原[2006]も、脱工 業化によって雇用の流動化や失業率の上昇など が生じ、もはや安定した将来を思い描けなくな った若者が、趣味としてのナショナリズムに没 頭しているのだと述べた。また、社会調査デー タの二次分析を通じて、国への意識の世代効果 を分析した永吉[2016a]は、1974 年以降に生 まれた就職氷河期世代が、それ以前に生まれた 世代と比較して、国への自信を強く持っている ことを明らかにした。ただし、永吉は、経済的 不安の高まりが国への自信を高めているわけで はないという見解を示しており、なぜ 1974 年 以降に生まれた世代は、国への自信が強いのか は解明できていない。また、日本の将来に対す る不安感や日々の生活に対する不満も、一概に ナショナルプライドを高めているわけではない という見解も示されている[斎藤,2019]。 以上から、冷戦期におけるオリンピックの招 致開催を経験した世代と、その後の若い世代の ナショナルプライドに関して多様な議論が行わ れてきた。本稿では、特にスポーツに関連し
たナショナルプライド(以降、スポーツプラ イド)に焦点を当てて、冷戦下の大会である 1964 年東京オリンピック、そして 1972 年札幌 オリンピックを経験した世代と、冷戦後の大会 である 1998 年長野オリンピックのみ経験して いる世代の持つスポーツプライドを分析する。 それに加えて、上記の世代効果は、スポーツプ ライドにのみ独自の影響を与えているのか、あ るいは、いわゆる一般的なナショナルプライド (以降、ジェネラルプライド)にも同様に影響 を与えているのかについても確認していく。 3. 方法 3.1 データ ナショナルプライドの世代間での差異を検 証するするためには、反復横断調査の累積デ ータを用いて、年齢効果と時代効果を統制し て世代効果の分析を行う必要がある[太郎丸, 2016]。本分析では日本で行われた International Social Survey Program(以下、ISSP)の 1995 年 度、2003 年度、そして 2013 年度調査 National Identity の デ ー タ[ISSP Research Group, 1998, 2005, 2015]の二次分析を行う。データの使用 に当たり、ISSP のウェブサイト(https://www. gesis.org/en/issp/home)より二次データの提供 を受けた。ISSP は、人々の意識の観測を目的 としている国際的社会調査であり、国内での 調査は NHK 放送文化研究所が主体となって行 われた。1995 年と 2003 年には「国への帰属意 識についての国際比較調査」、2013 年には「国 際化と社会に関する国際比較調査」という名称 で実施された。対象母集団は日本全国に居住す る 16 歳以上の男女としている[ISSP Research Group, 1998, 2005, 2015]2)。3 時点での回収標 本数の合計は 3,592 名(1995 年 1,256 名、2003 年 1,102 年、2013 年 1,234 名)であったが、分 析には、必要な質問すべてに回答した 2,831 名 (1995 年 895 名、2003 年 892 名、2013 年 1,044 名)を用いる。 3.2 変数 従属変数には、スポーツプライドとジェネラ ルプライドを用いる。スポーツプライドの指標 は、Meier and Mutz[2018]を参考に、「次のよ うなことについてあなたはどの程度誇りに思い ますか」という質問の、「スポーツの分野で日 本人が成し遂げたこと」という項目に対して、 1.とても誇りに思う、2.まあ誇りに思う、3. あまり誇りに思わない、4.まったく誇りに思 わない、の 4 尺度による回答を用いる。なお分 析では、数値が高いほどスポーツプライドが高 くなるよう得点化している。 次に、ISSP データを用いてナショナルプラ イドの分析を行った Smith[Smith and Jarkko, 1998; Smith and Kim, 2006]は、ジェネラルプ ライドを、自国への愛情と献身的な忠誠心で ある愛国心と国への肯定的な意識を含意する ものと定義し、「他のどんな国の国民であるよ り、日本国民でありたい」、「今の日本を恥ず かしく思うことがいくつかある」(逆転項目)、 「他の国の人たちが日本人のようになれば世界 はもっとよくなるだろう」、「一般的にいって、 他の国より日本は良い国だ」、「たとえ自分の国 が間違っている場合でも、国民は自分の国を支 持するべきだ」という 5 つの項目に対して、そ れぞれ、1.そう思う、2.どちらかといえばそ う思う、3.どちらともいえない、4.どちらか といえばそう思わない、5.そう思わない、の 5 尺度による回答を用いて操作化を行った。本 稿でも、これらの項目をジェネラルプライドの 指標として採用する。分析では、数値が高いほ どジェネラルプライドが高くなるよう得点化し ている。上記の変数に、ポリコリック相関係数 と重みづけ最小二乗法を用いた探索的カテゴリ カル因子分析を行い、潜在因子の抽出を行っ た。一般的に因子負荷量が 0.4 以上の場合、そ の観測変数が因子から影響を受けていると考え られている[永吉,2016b;中村,2007]。その ため因子負荷量が 0.4 以上の項目に限定したと ころ、「他のどんな国の国民であるより、日本
国民でありたい」、「他の国の人たちが日本人の ようになれば世界はもっとよくなるだろう」そ して「一般的にいって、他の国より日本は良い 国だ」、の 3 つの項目からなる 1 因子が抽出さ れた。信頼性を確認するため、一般的に 0.60 以上の値を示せば十分な内的整合性を意味す る Cronbach’α 係数[永吉,2016b]を算出した ところ α 係数は 0.63 を示した。なお分析では、 この因子の因子得点を用いる3)。 独立変数には回答者の世代を用いる。世代の 定義は、1963 年以前に生まれた場合を、東京 オリンピック経験世代、1964 年から 1971 年の 間に生まれた場合を、札幌オリンピック経験世 代、1972 年以降に生まれた世代を、長野オリ ンピック経験世代と定義する。したがって、東 京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経 験世代が、冷戦下でのオリンピック招致開催を 経験している世代となる。なお、1995 年度の 調査で 1972 年以降に生まれた人は、オリンピ ックの自国開催を経験していないことになる が、このようなケースは数が少ないためデー タから除外している。世代ごとのケース数は、 東京オリンピック経験世代が 1,926 名(全体 の約 68%)、札幌オリンピック経験世代が 361 名(全体の約 13%)、そして、長野オリンピッ ク経験世代が 544 名(全体の約 19%)であり、 東京オリンピック経験世代のサンプルサイズが 比較的大きい。 本稿では、東京オリンピック経験世代を参照 カテゴリにしたモデルと札幌オリンピック経験 世代を参照カテゴリにしたモデルの分析を行 う。上記に加えて、国への意識を量的に検証し てきたこれまでの研究[Dóczi, 2014; Kavetsos, 2012; Lau et al., 2012; Leng et al., 2014; Meier and Mutz, 2016, 2018]で議論されてきた、年齢、 性別(女性ダミー)、教育年数、就労状況を加 える。就労状況では、学生、家事従事者と定年 退職者に非就労ダミー、求職中の場合に失業ダ ミーを与え、参照カテゴリは就労者として分析 に加えている。そして、時代効果を統制するた め、1995 年を参照カテゴリとして、2003 年ダ ミーと 2013 年ダミーを分析に加える。複数時 点で行われた調査データを扱う場合、同社会調 査年度内の誤差の相関が標準誤差を過小に推定 させ、推定の精度を低下させるため、分析では 調査年度をクラスタとしたクラスタロバスト標 準誤差を用いる。 4. 結果 詳細な分析に入る前に、ナショナルプライド と世代効果の基礎的な関係を確認する。まず、 表 1 は各変数の基礎統計量を表示している。従 属変数の基礎統計量を確認するとスポーツプ ライドの平均値は 3.23、標準偏差は 0.71 であ り、スポーツプライドが強い人が多いことが伺 える。また、ジェネラルプライドの平均値は 3.95、標準偏差は 0.78 であった。その他の変数 の統計量も、表 1 が示す通りである。次に、各 調査年における各世代の、各ナショナルプライ ドを示しているのが、表 2 である。この表が示 すように、スポーツプライドは、長野オリンピ ック経験世代がもっとも高い数値を示し、2003 年までは札幌オリンピック経験世代が最も低 い数値を示したものの、2013 年には東京オリ ンピック経験世代の数値を札幌オリンピック経 験世代が上回っている。ジェネラルプライドで は、東京オリンピック経験世代が一貫して最も 高い数値を示しており、次に札幌オリンピック 経験世代、そして長野オリンピック経験世代の 順で続く形となっている。以上から、両ナショ ナルプライドとも世代間での数値のばらつきが 確認されたが、スポーツプライドとジェネラル プライドは、異なる世代効果を受けている可能 性が示された。しかし、上記の表 2 が示す結果 は、世代効果と時代効果を分離させただけであ り、年齢の効果やそのほかの変数の影響を統制 できていない。次に、それらの変数も含めた詳 細な分析を行っていく。スポーツプライドの分 析には、分布に偏りが見られたため、順序ロジ
表 2 経験世代ごとのナショナルプライドの推移 サンプルサイズ スポーツプライド ジェネラルプライド 1995 年 2003 年 2013 年 1995 年 2003 年 2013 年 1995 年 2003 年 2013 年 東京オリンピック 772 605 549 3.065 3.236 3.353 3.996 3.932 4.212 札幌オリンピック 123 97 141 2.894 3.196 3.390 3.802 3.517 3.958 長野オリンピック 190 354 3.332 3.418 3.421 3.888 スポーツプライドとジェネラルプライドは,各年の各経験世代での平均点を示している. スティック回帰分析を行い、ジェネラルプライ ドの分析には最小二乗法回帰分析を行う。 スポーツプライドの分析結果を示すのが、表 3 である。まず統制変数の結果を確認する。女 性は男性よりもスポーツプライドが高く、教育 年数が長い人ほどスポーツプライドが低いこと が明かになった。年齢は世代効果を統制するこ とで、1%水準で有意な正の効果を示した。年 齢と教育年数の効果は、諸外国の研究結果と一 貫するが、性別の効果は一貫しない結果が示さ れた。国外の先行研究では、男性は女性よりも スポーツへの関心が高いため、スポーツプラ イドが強いと考えられているが[Dóczi, 2012; Meier and Mutz, 2016]、日本ではむしろ女性の 方がスポーツプライドが高い。こうした結果が 得られた背景には、女性人気の高いスポーツで の、日本人選手の国際的な活躍が関係している のではないだろうか。例えば 2018 年に笹川ス ポーツ財団が行った調査では、好きなスポーツ 選手にフィギュアスケートの羽生結弦や浅田真 央を揚げる女性が多いことが報告されており [笹川スポーツ財団,2019]、フィギュアスケー トの女性人気が高いことがうかがえる。フィギ ュアスケートの人気と日本人フィギュアスケー ト選手の国際大会での活躍が重なり、日本で は、男性よりも女性が強いスポーツプライドを 抱いているのだと考えられる。 次に時代効果と世代効果の結果を確認する。 Model 1 は統制変数と時代効果の分析結果であ り、時代効果は統計的に有意な値を示している ことから、2003 年と 2013 年のスポーツプライ ドは 1995 年時点よりも高いことが明かになっ 表1 基礎統計量 変数 カテゴリ 平均 標準偏差 最小値 最大値 スポーツプライド 3.233 0.713 1 4 ジェネラルプライド 3.945 0.775 0.995 4.976 性別 男性 0.492 0 1 女性 0.508 0 1 年齢 49.498 17.018 16 95 教育年数 12.465 2.618 5 24 就労状況 就労 0.637 0 1 無職 0.016 0 1 非就労 0.348 0 1 経験世代 東京オリンピック 0.680 0 1 札幌オリンピック 0.128 0 1 長野オリンピック 0.192 0 1 年 1995 年 0.316 0 1 2003 年 0.315 0 1 2013 年 0.369 0 1
た。この結果は近年のナショナルプライドの高 まりを指摘した香山[2002]と一貫する。次 に、世代効果を検証していく。Model 2 は、東 京オリンピック経験世代を参照カテゴリとした 分析結果である。この結果が示すように、長野 オリンピック経験世代は東京オリンピック経験 世代よりも、統計的に有意に高いスポーツプラ イドの値を示していることが明かになった。最 後に、札幌オリンピック経験世代を参照カテゴ リにした Model 3 の結果では、長野オリンピッ ク経験世代は、札幌オリンピック経験世代より も統計的に有意に高い数値を示す傾向にあるこ とが示された。以上の結果から、想定とは反し て、冷戦時にオリンピックの招致開催を経験し た世代は、その後の世代よりもスポーツプライ ドが低いことが明らかになった。 この世代間の傾向はスポーツに関連したナシ ョナルプライド独自の結果であるのか、あるい は、ジェネラルプライドにおいても同様の結果 が生じているのかを確認するため、ジェネラル プライドを従属変数とし、同様の説明変数で分 析を行った。その結果を示すのが表 4 である。 Model 4 は統制変数のみを分析に加えた結果を 示しており、教育年数が 5%水準で統計的に有 表 3 スポーツプライド分析結果1 従属変数:スポーツプライド
Model 1 Model 2 Model 3 Robust Robust Robust
B SE B SE B SE 女性 0.473 ** 0.057 0.489 ** 0.054 0.489 ** 0.054 年齢 -0.003 0.004 0.007 ** 0.002 0.007 ** 0.002 教育年数 -0.140 ** 0.024 -0.131 ** 0.020 -0.131 ** 0.020 就労状況(就労) 非就労 -0.095 0.199 -0.146 0.194 -0.146 0.194 失業 -0.298 0.244 -0.291 0.252 -0.291 0.252 コーホート (ref. 東京オリンピック経験世代) 札幌オリンピック 0.172 0.111 長野オリンピック 0.572 ** 0.085 コーホート (ref. 札幌オリンピック経験世代) 東京オリンピック -0.172 0.111 長野オリンピック 0.400 * 0.158 年(ref. 1995 年) 2003 年 0.630 ** 0.010 0.513 ** 0.015 0.513 ** 0.015 2013 年 1.096 ** 0.011 0.880 ** 0.019 0.880 ** 0.019 切片1 -5.348 0.312 -4.737 0.367 -4.909 0.263 切片2 -3.117 0.146 -2.503 0.201 -2.675 0.094 切片3 -0.559 0.187 0.065 0.261 -0.107 0.150 N=2,831 McFadden R2 乗値 0.043 0.046 0.046 情報量基準 AIC 5604.015 5591.827 5591.827 BIC 5615.912 5603.723 5603.723 * p < .05, ** p< .01
B:非標準化回帰係数 , SE:標準誤差 , AIC:Akaike information criterion,
意な負の効果を示した。世代効果を分析に加え た Model 5, 6 では、いずれの世代も統計的に有 意な効果を示さなかった。このことから、世代 効果は、スポーツプライドに対してのみ統計的 に有意な影響を示していることが確認された 4)。 5. 考察と結論 本研究は、冷戦期に国内でのオリンピックの 開催を経験した世代が持つスポーツプライドを 検証するため、社会調査データの二次分析を行 った。分析の結果、東京オリンピック経験世代 と札幌オリンピック経験世代は、長野オリンピ ック経験世代よりも低いスポーツプライドの値 を示していたことが明かになった。一方で、ジ ェネラルプライドに対しては、統計的に有意な 世代効果は確認されなかった。しかし、世代効 果がジェネラルプライドに与える影響の係数 は 0 であるという帰無仮説を 5%以下の水準で 棄却する結果ではなかったものの、国への誇り という点でスポーツプライドと類似した感覚で あり、近年の若者のナショナルプライドの高揚 論が議論されていることから[香山,2002;高 原,2006]、世代とスポーツプライドの関連に は、ジェネラルプライドが介在している可能性 表 4 ジェネラルプライド分析結果 従属変数:ジェネラルプライド
Model 4 Model 5 Model 6 Robust Robust Robust
B SE B SE B SE 女性 -0.035 0.024 -0.036 0.025 -0.036 0.025 年齢 0.009 0.002 0.009 0.003 0.009 0.003 教育年数 -0.042 * 0.009 -0.043 * 0.009 -0.043 * 0.009 就労状況(就労) 非就労 0.013 0.082 0.016 0.079 -0.067 0.073 失業 -0.067 0.073 -0.067 0.073 0.016 0.079 コーホート (ref. 東京オリンピック経験世代) 札幌オリンピック -0.020 0.064 長野オリンピック -0.037 0.022 コーホート (ref. 札幌オリンピック経験世代) 東京オリンピック 0.020 0.064 長野オリンピック -0.017 0.048 年(ref. 1995 年) 2003 年 -0.193 ** 0.009 -0.186 ** 0.006 -0.186 ** 0.006 2013 年 0.103 ** 0.011 0.118 ** 0.009 0.118 ** 0.009 切片 4.052 ** 0.145 4.095 ** 0.132 4.076 ** 0.169 N=2,831 R2 乗値 0.1081 0.1083 0.1083 情報量基準 AIC 6269.891 6269.548 6269.548 BIC 6281.788 6281.445 6281.445 * p < .05, ** p< .01
B:非標準化回帰係数 , SE:標準誤差 , AIC:Akaike information criterion,
表 5 スポーツプライド分析結果2 従属変数:スポーツプライド Model 7 Model 8 Robust Robust B SE B SE 女性 0.526 ** 0.069 0.526 ** 0.069 年齢 0.002 0.002 0.002 0.002 教育年数 -0.109 ** 0.015 -0.109 ** 0.015 就労状況(就労) 非就労 -0.160 0.185 -0.258 0.273 失業 -0.258 0.273 -0.160 0.185 ジェネラルナショナルプライド 0.567 ** 0.136 0.567 ** 0.136 コーホート (ref. 東京オリンピック経験世代) 札幌オリンピック 0.192 0.127 長野オリンピック 0.604 ** 0.079 コーホート (ref. 札幌オリンピック経験世代) 東京オリンピック -0.192 0.127 長野オリンピック 0.412 * 0.192 年(ref. 1995 年) 2003 年 0.641 ** 0.043 0.641 ** 0.043 2013 年 0.835 ** 0.017 0.835 ** 0.017 切片1 -2.507 0.516 -2.698 0.520 切片2 -0.228 0.516 -0.420 0.565 切片3 2.424 0.491 2.232 0.534 N=2,972 McFadden R2 乗値 0.066 0.066 情報量基準 AIC 5218.728 5218.728 BIC 5230.531 5230.531 * p < .05, ** p< .01
B:非標準化回帰係数 ,SE:標準誤差 , AIC:Akaike information criterion,
BIC:Beysian information criterion.分析には調査年をクラスタとしたクラスタ頑健標準誤差を用いて いる. が考えられる。そこで、再度、スポーツプライ ドを従属変数とし、独立変数にジェネラルプラ イドを加えたモデルの分析を行った。その結 果、表 5 が示すように、ジェネラルプライドは スポーツプライドに対して統計的に有意な正の 影響を示しているものの、Model 2, 3 と比較し て、世代効果の係数に大きな変化は見られな い。以上から、スポーツプライドに対する世代 効果は、ジェネラルプライドからある程度独立 したものであることが確認された。 以上のような結果が得られた理由について、 いくつかの仮説が考えられる。まず、オリン ピックにおけるナショナルな表象が時代とと もに変化したことによる影響である。1964 年 東京オリンピックや 1972 年札幌オリンピック は、戦後の復興や日本人の努力、国家の優越性 の主張のためナショナルな表象が強く行われて いた。一方で、1980 年代以降は、オリンピッ クの商業化の進行により、それ以前の大会とは 明らかにメディアによる大会の描写が変化した
[黒田,2003]。つまり、かつてのナショナルプ ライドを強く刺激するスポーツ大会を経験した 世代だからこそ、相対的にナショナルな表象が 弱くなった昨今のスポーツに対して、もはや国 への誇りを重ねなくなったのではないだろう か。 次に考えられる要因は、日本の経済低迷に伴 う若者のナショナリズムやナショナルプライド の高まりである。本研究の結果では、一般的な ナショナルプライドでは世代効果が確認されな かったが、香山[2002]が日韓ワールドカップ での若者の行動に着目し、高原[2006]が、若 者は趣味としてのナショナリズムに没頭してい ると指摘したように、日本社会に不安が蔓延す る中で育った世代は、趣味とのつながりが強い スポーツと関連するナショナルプライドに、特 別な反応を示しているのではないだろうか。た だし、社会的不安がナショナルプライドを強め るという仮説には否定的な見解を示す研究もあ り[永吉,2016a;斎藤,2019]、スポーツプラ イドと社会的不安との関連については、今後慎 重な議論が求められる。 以上のように、本分析で示されたスポーツプ ライドへの世代効果を解釈するいくつかの可能 性が考えられるが、これらは全て推測の域を出 ず、本研究の結果からは、なぜ冷戦期のオリン ピック開催を経験した世代のスポーツプライド が低いのか、その明確な原因を断言することは 出来ない。この問題を解決するには今後さらに 詳細な検討が求められる。また、国威発揚を積 極的に経験した世代ほど、スポーツプライド を強く持つと主張した国外の先行研究[Dóczi, 2014; Smith and Kim, 2006]と反する結果が本 研究では示された。これは従来の研究が一時点 でのデータのみを扱っていたことに対し、本研 究は反復横断調査データを分析したことが原因 であると考えられる。年齢の係数は、国外の研 究と同様に、スポーツプライドに対して正の値 を示していたため、先行研究で示された結果 も、世代ではなく年齢の効果が反映したもので あると言えるだろう。今後は、国外のデータで も、反復横断調査データの分析を行い、本研究 と同様の結果が得られるのか検証していく必要 がある。 最後に、本研究の限界を述べる。まず、本研 究ではデータの限界から、先行研究においてス ポーツプライドの規定要因であることが報告さ れてきたいくつかの変数(例えば、スポーツ への関心やメディア接触)[Billings et al., 2015; Brown et al., 2016]が分析に含まれていない。 このことの影響は、本分析で用いたスポーツプ ライドのモデルの疑似決定係数が 0.07 と非常 に低い数値であることから見て取れる。今後 は、さらに説明力の強いモデルでの推定が望ま れる。また、変数に関して、本研究では教育年 数を回答者の教育の指標として用いたが、教育 年数に付随する影響は、たとえば教育制度や大 学進学率などの時代的背景や社会的背景によっ て異なる。本分析では、教育年数はスポーツプ ライドとジェネラルプライドに対して負の効果 を示した。しかし、たとえば文化的グローバル 化が進んでいる社会ほど、教育がスポーツプラ イドを抑制する効果は強まることが報告されて おり[Seippel, 2017]、異なる時代的、社会的背 景で行われた調査結果からは異なる結果が生じ る可能性もあるため、本分析が示した結果の解 釈には注意が必要である。 次に、本稿では、計量分析を用いてスポーツ プライドと世代の関連を検証したが、ナショナ ルな感覚は質的に異なる多様な側面を併せ持つ ため、量的検証ではスポーツに関連したナショ ナルプライドの解明に限界があるだろう。今後 は、質的検討も合わせてさらなる研究を行って いく必要がある。最後に、本研究では、冷戦期 でのオリンピックの招致開催を経験した世代と 冷戦終結後のオリンピック招致開催のみを経験 した世代とを比較して、冷戦期におけるオリン ピックの招致開催による影響を検証した。しか し、データの限界から、オリンピック招致開催 自体が人々に与えた影響については検証できて
いない。本研究はあくまで冷戦終結以前のオリ ンピックの招致開催経験の影響の分析にとどま るため、招致開催による純粋な影響の検証も今 後行っていく必要がある。加えて、本研究では オリンピックにのみ議論の焦点を置いたが、デ ータの限界から FIFA ワールドカップの開催に よる影響など、オリンピック以外のメガスポー ツイベントの影響は議論できていない。今後 は、オリンピック以外のメガスポーツイベント がナショナルプライドに与える影響も議論して いく必要がある。 以上のような限界や今後の発展可能性を多く 残す研究ではあるが、本研究は、メガスポーツ イベントの招致開催がもたらす長期的な無形の 影響の解明のため、冷戦期のオリンピック招致 開催を経験した世代が持つナショナルプライド の検証を行ったことは、先駆的な試みである。 本研究の結果が、スポーツイベントの開催がも たらす社会的影響の解明の一助となることを期 待する。 【注】 1) 本稿では有形、無形の定義を、オリンピック レガシーについて議論した荒牧[2013]を参 考に、前者を経済効果や観光への影響、イン フラの整備など物質的な影響、後者を大会開 催の体験がもたらす心理的な影響と定義して いる。 2) 調査対象者の選定方法は以下の通りである。 対象母集団は日本全国に居住する 16 歳以上の 男女であり、サンプルの抽出には層化 2 段無 作為抽出法が用いられた。まず、日本全国を 都市部と非都市部に分け、その後地域的特徴 や産業構造が近いグループに層化する。その 後街区と村落区をグループ化し、150 の調査地 点が無作為に選出された。その地点の住民基 本台帳を基に 12 人の間隔抽出によって無作為 に調査対象者が選択された。なお調査方法に は 1995 年度と 2003 年度には面接法が、2013 年度では配布回収法が用いられている[ISSP Research Group, 1998; 2005; 2015]。 3) 本研究が用いる項目に異なる定義付けをする 論者もいる。例えば、ISSP データを用いてナ ショナルアイデンティティの構造概念の計量 的検証を行った田辺[2010]は、この質問に 排外的な含意を持つ変数を加えて、自国中心 主義と定義している。しかし田辺も自国中心 主義をナショナルプライドと関連のある概念 であると述べたうえで用いている。 4) すべてのモデルで多重共線性の診断をした。 一般的に Variance Inflation Factor(以下、VIF) が 5 以上の値を示すとき注意が必要だと言わ れている[永吉,2016b]が、本分析ではいず れの変数も VIF が 4.0 未満の数値を示していた ため、多重共線性の影響は小さいと判断した。 【文献】
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