スポーツチームのファンクラブを活用した「リスクセキュリティネット」の構築－スポーツチームの地域に根差した機能拡大へ－

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(1)スポーツ産業学研究，Vol.31，No.２（2021），231 ～ 234．. 231. スポーツチームのファンクラブを活用した「リスクセキュリティネット」の構築－スポーツチームの地域に根差した機能拡大へ－† 木暮誉貴＊川上祐司＊. Provide a “Risk Security Net” Utilizing the Fan Club of Sports Teams† Yoshiki KOGURE＊ and Yuji KAWAKAMI＊. 1．はじめに. 処理する自治体にも大きな負担がかかりオンライン申請を中止する自治体が続出し，ほとんど. 新型コロナウイルスの感染拡大により，私た. の自治体で給付が遅れるなど決して迅速な支援. ちの生活は大きく変化した．世界中で起きた大. とはいえない結果となった．同年5月21日時点. 混乱は我が国にも押し寄せ，多くの人々が命を. で給付を開始していた自治体は約5割のみに止. 落とした．経済活動のほとんどが制限され，職. まり多くの人々が苦しい思いをした３）という．. を失う人も続出する中，政府は4月7日に緊急事態宣言を発令し，それに続いて特別定額給付. 2．リスクセキュリティネットの構築. 金の経済対策を取ることも2020年4月20日に閣. この度のこの状況から，様々なリスクに対し. 議決定された．. て自治体を助け，また市民も助けるプラット. 特別定額給付金とは，感染拡大に最大限留意. フォームが必要だと感じた．そしてその中核を. しつつ簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への. 担う組織はプロスポーツチームが適していると. 支援を行うことを目的とし，同年4月27日時点. 考えた．その理由は2点ある．1点目は，プ. で住民基本台帳に記録されている者1人につき. ロスポーツチームが保有するファンクラブは，. 10万円を給付する１）というものである．給付. 人々が比較的気軽に入れる最も身近で大きなコ. 実施は市区町村が主体となって行われ，実施に. ミュニティネットワークの一つであることだ．. 要する経費は国が全額負担という．この給付金. NPB 球団の中でも非常に人気のある福岡ソフ. は，基本的には準備体制が整った市区町村から. トバンクホークスでは，2018年時点でファンク. 随時開始というような形がとられた．申請方法. ラブ会員数は14万3,000人を超えており，年会. は郵送とオンラインの2つがあり，どちらか都. 費もスタンダードプランで4,015円と入会しや. 合の良い方を選んで申請することになる．しか. すい金額設定になっている４）．2点目は，プロ. し，オンラインでの申請はマイナンバーカード. スポーツチームがリスク時に復興の希望となっ. を持っている人に限られたため，マイナンバー. た事例がいくつかあるからである．例えば，東. カードが約16％しか普及していないわが国で. 日本大震災においての東北楽天ゴールデンイー. は，多くの人々が時間と手間のかかる郵送での. グルスは震災の数日後から支援を重ね，震災後. 申請をすることとなった２）．. 2年間での支援金総額は約1億7,000万円にも. また，それらの全ての個人情報や申請状況を. 上った５）．また，2013年には球団初の日本一に. †. 原稿受付 2020年11月23日原稿受諾 2020年12月14日帝京大学経済学部〒192-0395 東京都八王子市大塚359 ＊ Faculty of Economics, Teikyo University, 359, Otsuka, Hachioji, Tokyo, Japan (192-0395) ＊.

(2) スポーツチームの「リスクセキュリティネット」構築. 232. 輝き，経済的支援だけでなく東北地方の精神的. 3．リスクセキュリティネットのサービス詳細. な支えになっていることは明らかである．このようにプロスポーツチームは，リスク時に人の. ３．１リスク時支援寄付金とリスク時支援金. 助けになれる可能性を大いに秘めていると考え. まず，会員は基本的な会費とは別にリスク時. る．. 支援寄付金をファンクラブに支払う．会員が支. そこで本論では，プロスポーツチームのファ. 払った会費とその寄付金をもとに，ファンクラ. ンクラブを活用した，プロスポーツチームのリ. ブはリスク時に被災会員へリスク時支援金を即. スク時における新たな社会的機能の拡大を可能. 座に支払う．迅速な対応を可能とするためファ. にする「リスクセキュリティネット」を提案す. ンクラブは寄付金を支援金基金として貯蓄して. る．図1にそのモデルを示した．. おく．支援金の金額は，これまでに支払った会. このリスクセキュリティネットは，ファンク. 費総額の10％と総寄付金額の80％を足し合わせ. ラブ会員（以下：会員）がファンクラブに会費. た金額と目安を設定したが，チームによって変. および寄付を行い，リスクが起き会員が被災し. 更可とする．支払方法は，被災の確認が取れ次. た際にこれらの基金を元に支援対象会員に支援. 第会員の口座へ振り込む形となる．会員がどれ. 金を支払い，支援するという仕組みである．支. だけ寄付金をファンクラブに支払うかは任意で. 援対象会員は，一度でもファンクラブに寄付を. あるが，支払った分だけ支援は手厚いものとな. 行ったことのある会員とする．ファンクラブは. る．. 今回の特別定額給付金のように国からの給付金. また，今回の特別定額給付金のような国から. があった場合などはその先払いも行い，自治体. の公的な支援金があった場合は，会員に対して. には会員の情報を提供する．この仕組みによっ. その先払いも行う．その場合，ファンクラブは. て会員，自治体ともに負担を減らし，より迅速. 会員の情報も同時に自治体に提供する．資金は. な対応を可能にするものである．以下より，本. 一時的にチームが立て替え，後日立て替えた金. 提案の詳細とそれぞれのメリットを説明してい. 額とお礼金を自治体はファンクラブに支払う．. く．. お礼金とは自治体の情報処理負担が減ることへの対価である．今回のような全国民に配布される給付金はごく稀ではあるお金. ⑥申請必要なし. 会員（被災）. 権利・情報. が，再びリスクが起こる可能性は十分にあるのではないだろう. 自治体. か．実際，今回の給付が遅れた事実がある以上，次に備えて対. ②リスク時支援金補助金先払い ③会員情報会費 ①リスク時支援寄付金. 優遇利用明け渡しサービス提供. 策しなければいけないと考え. ⑤立て替え金額お礼金. る．. ④会員情報提供. ３．２会員個人情報登録と自ファンクラブ（プロチーム）所有. クラブハウス. 治体への提供リスク時避難場所などとして有効活用より密接な関係. 図１ファンクラブ活用による「リスクセキュリティネット」. 会員が被災した際に迅速に対応できるよう，会員はあらかじめ氏名，住所，電話番号，口座番号などの個人情報をファンクラブに登録する．今回の経済対.

(3) スポーツ産業学研究，Vol.31，No.２（2021），231 ～ 234．. 233. 策のような自治体が市民の個人情報を把握する. あれば，今後数年間起こらない可能性もある．. 必要がある場合などは，ファンクラブが自治体. だからこそ恐ろしく，対策も難しい．本提案で. に会員の個人情報を提供する．そのため，第3. は，このようなリスクに備えてファンクラブは. 者に個人情報を提供する場合がある旨を規約に. 会員からの寄付金を貯蓄していく訳であるが，. 記載し，サービス開始時に全会員に同意を得て. 月日が経つにつれてその基金に余裕が生まれる. おくことが必要になる．チームは全会員の個人. ことが想定される．それは，前述したようにリ. 情報を保有することになるため，ネットワーク. スクが毎年起こるとは現実的に考えにくいとい. のセキュリティ強化に向けた費用を要すること. うことと，リスクが起きたとしてもそのリスク. になる．しかし，今後 ICT 社会が発展してい. によって全会員が被災することは少ないと考え. くことを考慮するとネットワークの強化は不可. られるからだ．. 欠なものであるため，本サービスのみの投資に. このように支援基金に余裕が生まれた際に，. 留まるものではないと考える．. 会員に対して寄付金を一部還元するというサービスが寄付金のその他活用である．基本的には. ３．３リスクと被災の定義. 支援金基金は支援対象会員の総支援金額を常に. 本提案での「リスク」というものは，首相官. 貯蓄している状態にする．基金に余裕が生まれ. 邸 HP 「防災気象情報と警戒レベル」を参考にし，. た際は，総支援金額分は確保したうえで，会員. 自然災害（豪雨，豪雪，高潮，地震，津波，そ. サービスの拡大や社会貢献活動などに充て会員. の他異常な自然現象）や緊急事態と定義した．. に還元する．基本的には寄付金という位置付け. リスクに対して政府が避難勧告などを出してい. であるため何に充てるかはチーム次第という形. ない場合でも，影響を受ける人は一定数いると. とするが，必ず活用内容を開示することを義務. 考えたため，規模の大小は問わないものとする．. 付ける．これにより，会員はリスクが起こらな. また「被災」とは，このリスクによる直接的. かった場合は損するのではないかという不安を. な要因によって住宅損壊や怪我，その他要因で. 取り除き積極的な寄付を促進することにつなが. 今まで通りの生活を送るのが困難になることと. る．また，チームに対する信頼感を強める効果. 定義した．しかし，これらは判断が難しいとこ. も期待できる．. ６）. ろであるためリスクの状況，当該者への調査などを総合的に踏まえ，最終的にはチームが判断. ３．５自治体の詳細とメリット. するものとする．そのため，チームはリスクが. 本提案により，自治体はいくつかの恩恵を受. 発生した際に会員の情報収集を自治体と協力し. ける．まず一つはファンクラブからの会員個人. ていち早く行い，被災状況の確認を行う．また，. 情報提供により，自治体の作業負担が軽減され，. 今回定義した被災は，その度合いにも注目する. リスク時における様々な対応を迅速に行うこと. 必要があると考える．例えば，リスクにより足. ができる．会員はチームが対応するため自治体. を骨折した場合と家が崩壊した場合とでは，同. の対応する人的負荷が減り，結果的に会員では. じ被災でもその状況は大きく異なる．そこで，. ない市民の対応も間接的に早くなることが見込. 被災の度合いによって支援金額を変動させると. まれる．二つ目は，チーム所有のクラブハウス. いうような仕組みも取り入れる必要があると考. を活用することである．今回のコロナ禍では，. える．. ベッドや隔離場所の不足が大きな問題となった．自然災害などの場合もクラブハウスを避難. ３．４リスク時支援寄付金のその他活用. 場所や対策本部として活用できるようにするこ. 今回のテーマであるリスクというものは常に. とで早期復興につながると考える．三つ目は，. いつ起きるかわからない．明日起こる可能性も. 既存の公的な支援金の活用抑制につながること.

(4) スポーツチームの「リスクセキュリティネット」構築. 234. である．今回のコロナ禍では特別定額給付金以. るため，現状のスポーツチームの組織では本提. 外にも様々な給付金が利用されることとなっ. 案の実現は難しく，実現するにはファンクラブ. た．それらは誰でも利用できるものではなく対. 担当の部署を拡大する必要があると考えてい. 象者のみの給付がほとんどであるが，利用すれ. る．しかし，我が国プロスポーツのファンサー. ばするだけ国の負担額は増える．そこで本提案. ビスは海外に比べまだまだ未発達だということ. のような，チームと会員（市民）の間で完結す. を考えると，ファンクラブ担当の部署と機能を. る支援金制度が構築されれば，公的な支援金の. 拡大することはプロスポーツチームにとって今. 活用を抑制することができ，国の支出を減らす. 後取り組むべき重要課題だと考えられよう．そ. ことができると考える．. れぞれのチームのファンクラブ事業が拡大する. 上記で国が負担すると記したが，実際これは. ことで，本提案実現の可能性は高まっていくと. 一時的なものであり，結局はのちに国民から税. 考える．. 金などで徴収し補填するものである．今回の特. プロスポーツチームが主体となり構築するこ. 別定額給付金もいずれそのような動きが見られ. の「セキュリティネット」は，リスク時に市民. るであろう．このようなことを考えれば，自分. と自治体を経済面，精神面で支えるものであ. の好きなチームに寄付をして，もしリスクに遭. る．それは，今までのプロスポーツチームには. 遇した際でもチームから支援をしてもらうとい. 無い社会的機能であり最大のマーケティングで. う特別なことに投資をした方がよいと思うファ. ある．また，この社会的機能はプロスポーツ. ンは多くいるのではないだろうか．これによっ. チームが地域にとって不可欠なものになると共. て，市民も国もチームも win-win な関係を構. に，チームの価値をこれまで以上に上げるもの. 築することができると考える．. である．このように，市民が誇りに思える街を. 4．本提案のまとめ本提案は，プロスポーツチームが自治体と会員を包括する「リスクセキュリティネット」を構築することで，リスク時に市民を助け，自治体も助けることを目指すものである．本提案により会員にチームとの共存意識や帰属意識が芽生えることで，コアファンの醸成にもつながる．今後さらに多様化するスポーツ業界においてコアファンを増やすことはチームにとって非常に重要なことである．そして自治体は地元プロスポーツチームに期待感を抱き，お互いにより良い関係になることができる．プロスポーツチームと自治体が協力してスポーツ振興をすることで，スポーツ競技人口の減少にも歯止めがかけられるのではないか．プロスポーツチームは，本提案により個人情報の取り扱いや，寄付金の管理，支援金の振り込みなどいくつかの負担や責任を負うことにな. プロスポーツチームが自治体を巻き込み，中心となってつくる機能はプロスポーツチームにしかできないことだと考える．参考文献 1）総務省ホームページ；https://www.soumu. go.jp（2020年5月参照）． 2）SankeiBiz（サンケイビズ）；www.sankeibiz. jp（2020年5月参照）． 3）再掲1）． 4）シナジーマーケティング, 福岡ソフトバンクホークスを事例に；https://www.synergymarketing.co.jp/showcase/softbankhawks/ （2020年11月参照）． 5）東北楽天ゴールデンイーグルスオフィシャルサイト；https://www.rakuteneagles.jp（2020 年5月参照）． 6）首相官邸ホームページ防災気象情報と警戒レベル；https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ bousai/keihou.html（2020年5月参照）．.

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