〈抄録〉
当社では 2017 年よりイタリアの Scuzzo 先生によって開発された,デジタルセットアップ (elinesystem)の使用を開始して 2 年になる. 一方,従来のアナログセットアップの作製も並行して行っている. 現在ではオーラルスキャナーを使用される先生も徐々に増え,セットアップのオーダー方法も デジタルセットアップでは, ・デジタル印象からデジタルセットアップ作製 ・シリコン印象からデジタルセットアップ作製 アナログセットアップでは ・デジタル印象からアナログセットアップ作製 ・シリコン印象からアナログセットアップ作製 など組み合わせも従来より増えてきた. またそれぞれの特徴としてデジタルセットアップでは ・石膏模型の作製が不要 ・ワックスによる変形の影響を受けない 等 アナログセットアップの特徴としては ・リボンディングの際の再セットアップおよび再製作が短時間で行うことができる ・実際に歯列(模型)を触って確認できる 等の特徴がある. そこで,デジタルセットアップとアナログセットアップそれぞれの特徴,デジタル技術は矯正技工 に良い影響をもたらすのか,あくまで歯科技工士の視点から述べる.< Abstract >
We have been using "elinesystem" for 2 years which is created by Dr. Scuzzo in 2017. As we have been producing conventional analogue set-up model on the other hand.
有限会社ティエムオーソ tm-ortho
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キーワード : デジタルセットアップ,アナログセットアップ,舌側矯正,技工
望月 貴博 Takahiro Mochizuki
"Now" and "Future" in Lingual Orthodontic Technicians
緒 言 近年,全国の歯科技工士学校入学者数は,2017 年 927 人・2018 年 991 人と 1000 人を切る状態が 続いている.またこれに伴い歯科技工士国家試験 の合格者数も 2017 年 902 人・2018 年 798 人とい ずれも減少傾向にある.だが依然として離職率は 80%前後と非常に高い状態が続いている.次に就 業者数を 10 年ごとにまとめた数字(表 1)を見 てみると,総数は減少しているもの大きな変化は ないが,中心年齢帯が高齢化し若年層の人数が著 しく減少していることがわかる.2018 年には日 本経済新聞で取り上げられるほど深刻化してい る.現在では総数のほぼ半分が 50 歳以上となっ ており,このままいくと 10 年後には歯科技工士 の就業者数が急激に減少していくことが予想され る.解決策として「若い歯科技工士の育成」と「作 業の機械化(Digital 化)」の 2 つが挙げられる. 当社では従来のアナログセットアップの作製も行 なっている一方で,2017 年よりデジタルセット アップ(elinesystem)を取り扱っている.現在 数社から様々なデジタルセットアップシステム が提供されているが,今回は当社で扱っている elinesystem に基づいた「作業の機械化(Digital 化)」について述べ,デジタルセットアップとア ナログセットアップそれぞれの特徴について紹介 する.
A lot of doctors adopt oral scanner currently and combinations to order for set-up model is also increasing compare to before such as
(Digital system)
• Making digital set-up model from digital impression • Making digital set-up model from silicon impression (Analog system)
• Making analog set-up model from digital impression • Making analog set-up model from silicon impression
In addition, there are some characteristics of both methods such as (Digital system)
• Plaster model is not required • Unaffected by wax to deformed (Analog system)
• To be able to remake and re-setup quicker when re-bonding • To be able to touch set-up models directly
Then I describe about characteristics of digital/analog setup and whether digital technology brings positive impact on orthodontics as a dental technician's view.
基本的に作業工程に関して,「印象採得」→「作 業模型の製作」→「セットアップ模型の作製」→ 「リンガルコアの作製」と作業の流れはデジタル・ アナログ共に差異はない.(図 1) <印象採得> 従来はシリコン印象またはアルジネート印象が 用いられてきた.現在ではオーラルスキャナーを 導入する歯科医院も増え始め 「デジタル印象からデジタルセットアップ作製」 「シリコン印象からデジタルセットアップ作製」 「デジタル印象からアナログセットアップ作製」 「シリコン印象からアナログセットアップ作製」 とオーダー方法も多岐にわたっている.(図 2) 当社ではモデルスキャナーを導入することで, 従来のシリコン印象や石膏模型からでもデジタル セットアップが利用できるように対応している. オーラルスキャナーでは ・画像を確認しながらの印象採得が可能 ・石膏,トリマー等の特別な機材を使用する必要 がない ・印象データのやり取りが簡単(輸送のコストが 不要)かつ模型の破折の心配がない ・初診時の印象データをそのままリンガルコアの 作製に使用が可能,これにより印象採得が 1 度 で済む 注意点としては ・カリエス治療などで初診時とブラケット装着時 で歯冠形態が変わるとコアが合わなくなるので 注意が必要 ・使用機材(オーラルスキャナー・3D プリンター) による影響を受けやすい(図 3) といった特徴がある. また従来のシリコン印象・アルジネート印象では ・印象状態での気泡等,印象不良の発見が難しい (図 4) ・模型や印象の輸送する際の手間やコストがかか る ・模型の破損の可能性がある ・初診時とコア作製時で印象採得を 2 度行う必要 がある 一方で ・下顎前歯部のクラウディングが多いケースでは, より精密な印象採得が可能 ・模型の加工が容易 図 1 図 2 図 3
・3D プリンターや PC ソフトなどの高価な機材 が不要 などの特徴が挙げられる. また,デジタル・アナログ共に印象採得前に ・顕著な結節は印象前に削っておく ・歯軸や歯冠形態が著しく変わってしまっている 補綴物は印象前に修正しておく ・精密な技工物製作のためには,気泡など印象不 良の少ない精密な印象が必要である といった注意点が挙げられる.(図 5) <セットアップ(模型製作)> アナログセットアップでは 「印象に石膏を注ぐ」→「模型のトリミング」→「台 付」→「咬合器装着」→「歯軸の記入」→「模型 (歯)の分割」 と行っており,セットアップ作製においての半分 以上の時間がセットアップ前の模型製作に費やさ れている.一方デジタルセットアップでは PC に 取り込んだ印象データ(STL データ)を PC 上で 歯頸線に沿って分割するのみで,アナログセット アップよりも少ない工程で模型製作が完了する. (図 6) 上記のように,デジタルセットアップでは ・PC 上のみで作業が可能であり,PC 環境が整っ ていれば作業場所を選ばない ・トリマーやバキュームなどの特殊な機材が不要 ・石膏を使用しないため硬化待ちの時間も不要と なり大幅な作業時間の短縮 と模型製作の段階ではアナログセットアップと比 べ利点が多いことがわかる. <セットアップ(排列)> 当社ではアナログセットアップ作製時は 「上顎から咬合平面板を基準に 1 歯 1 歯並べる」 →「上顎に合わせて下顎を並べる」→「咬合や辺 縁隆線の高さなど隣在歯との細かい調整を行う」 →「ワックスで歯肉部分を仕上げ完成」 としている.一方デジタルセットアップではアー チフォーム・トルク・アンギュレーションなどは ある程度自動で排列し,その後細かい調整を各歯 ごとに行っていく.(図 7) デジタルセットアップでは,模型製作時と同様に, ・PC 上のみで作業が可能であり,PC 環境が整っ ていれば作業場所を選ばない 図 6 図 4 図 5
・左右の対称性など製作者の癖を受けにくい ・Wax 作業が不要なため,Wax の収縮による歯 の移動・変形の心配が無い ・Dr. とのセットアップ画面の共有が可能なため, セットアップのチェックが容易 といった特徴が挙げられる. 特にセットアップチェックの段階においては, 実際にセットアップ模型を担当医へ送り,電話で 質問や指示を受けた際,技工士側にはセットアッ プ模型が存在しないため,記憶や想像が頼りで あったが,お互いに同じ画面を見ながらの作業が 可能となった. 一方アナログセットアップでは ・左右の対称性や幅径を分度器やノギスなどを使 用して確認をするが,製作者の癖を受けやすい ・Wax 作業を必要とするため,それに伴う作業 時間がかかる上に,Wax による収縮の可能性 もある しかしアナログセットアップでは,模型を実際 に見て触れることで,歯列・歯の形状を把握する ことが容易なため「実際に模型を触って確認がで きる」ことは大きな利点となる.一方,デジタル セットアップでは実際に模型を触って確認するこ とができないため「デジタルセットアップを見る」 という目を養わなければならない.(図 8) また,セットアップや矯正技工に関する知識は, デジタルセットアップ・アナログセットアップど ちらにも必要となる. またアナログセットアップの際,セットアップ 後半にハイトやアンギュレーション,咬合などの 調整を行っていくと,辺縁隆線や補綴物などによ り早期接触することがある.この場合当社では, セットアップ上で咬合調整を行うと,のちに作製 するリンガルコアが合わなくなるため,咬合調整 は行わず咬合器の切歯ピンを挙上した状態でセッ トアップを作製する. 一方デジタルセットアップでは「衝突」という 概念がないため歯同士が接触した場合,歯がどこ まででも突き抜けていってしまう「突き抜け」(ペ ネトレーション)が起きるが,この「ペネトレー ション」を利用することにより,セットアップ上 での早期接触部位や要咬合調整部位の把握が可能 となる.(図 9) 図 8 図 9 図 7
【ブラケットのポジショニング・コアの作製】 アナログセットアップとデジタルセットアップで はブラケットのポジショニング→コアの作製の過 程で大きく違いがある. アナログセットアップでは, 「セットアップ模型に合わせてワイヤー(アイディ アルアーチ)ベンド」→「ワイヤーに合わせてブ ラケットのポジショニング」→「確定したブラケッ トポジションでコアの作製」 といった流れとなる. 一方デジタルセットアップでは 「PC 上でセットアップと共にブラケットのポジ ショニング」→「PC上で行ったブラケットポジショ ンに基づいて PC 上で『トランスファージグ』の データ作製」→「『トランスファージグ』を 3D プ リンターでプリント」→「トランスファージグを 使用しリンガルコアの作製」となる.(図 10・11) 当社では,アナログ・デジタルどちらもリ ン ガ ル コ ア は コ モ ン ベ ー ス を 使 用 し て い る. elinesystem ではよく「トランスファージグのま ま口腔内にボンディングすることは出来ないので すか?」といった質問を受けることがあるが,ク ラウディングの多いケースでは隣在歯にジグやブ ラケットが接触してしまい良い位置にブラケット 装着が出来ないケースがある.これをコモンベー スに置き換えることにより薄く作製することが可 能となり,コア自体が隣在歯に接触するといった リスクも減らすことができる.(図 12) しかしアナログ・デジタルに共に,日本人は舌 側歯冠長が短いケースが多いためブラケットベー スを削る等の調整が必要となる.(図 13・14)そ して,最終的に「デジタルで決めたブラケットポ ジションが正しいのか」「模型上の正しい位置に 戻っているか」確認するためには従来の矯正技工 の知識が必要となる. 図 12 図 10
<リボンディング> 治療中にリボンディングが必要になった際,ア ナログセットアップでは「3D ジグ」デジタルセッ トアップでは「トランスファージグ」を用いるこ とにより,リンガルコアの再製作が可能となって いる.治療中に 1 歯だけトルクやアンギュレー ションの修正,または抜歯部位の変更,歯の形態 が変更などによる歯の植え替えが必要になった 際,アナログセットアップでは該当歯のセット アップを修正の後,短時間でコアの再製が可能と なっている.一方デジタルセットアップでは PC 上でのセットアップの修正や 3D プリントに時間 を要する. 以上のように,技工のデジタル化によって様々 なメリットがある一方,「顕著な結節等は印象前 に調整する必要がある」「印象の精度が技工物の 精度を左右する」「ブラケットベースの調整が必 要」「技工・矯正の知識が必要」といった点はア ナログ・デジタルのどちらも必要である.しかし ながらデジタル技術の進歩は早く,CT データと 組み合わせて「骨の中に歯冠と歯根を組み合わせ て排列する」といった技術も将来的に可能になり 得る.冒頭にも記した通り,全国的に歯科技工士 不足が深刻化している現在,より進化していくデ ジタル技術とアナログで培った技術と知識を組み 合わせていくことにより,今まで以上に高度な技 工物が安定して提供できることになると考える. 図 14