日 鼻 誌 60(1):93 ∼ 94,2021
パネルディスカッション2
― 93 ― 1.重粒子線治療 重粒子線治療は重粒子(炭素イオン)を加速器で光速 の70%程度まで加速し,病巣に照射する放射線治療の一 種である。日本が世界をリードする数少ない治療法の一 つであり,国内では2020年12月現在6施設(QST病院, 兵庫県立粒子線医療センター,群馬大学,九州国際重粒 子線がん治療センター,神奈川県立がんセンター,大阪 重粒子線センター)が稼動中である。また2021年には山 形大学でも治療が開始される予定である。世界的にはド イツ,イタリア,オーストリア,中国で行われており, また韓国,台湾で治療施設を建設中,アメリカ,インド で導入への動きがある。重粒子線治療の一番の特徴は体 への入射エネルギーを調節することで任意の深さでビー ムを止めることができ,そして放出エネルギーを止まる 部位に集中できることにある。この特性によりX線と比 較して線量集中性に優れる。また重粒子線治療は重い粒 子を腫瘍に照射するため,殺細胞効果がX線治療と比較 して高いため,一般的に放射線抵抗性といわれる疾患に 対しても効果が期待される。 2.重粒子線治療の治療対象(先進医療時代) 2015年その当時重粒子線治療を行っていた全4施設が 参加し頭頸部がんに対する重粒子線治療の多施設後向き 観察研究が行われた1)。根治的な重粒子線治療が行われ た頭頸部腫瘍患者908例が登録され,鼻副鼻腔腫瘍が458 例と全体の50%を占めた。鼻副鼻腔腫瘍の組織型は悪性 黒色腫が48%,腺様嚢胞癌が27%と放射線抵抗性といわ れる腫瘍が大半で,本パネルディスカッションの対象で ある 平上皮癌は7%であった。もっとも鼻副鼻腔 平 上皮癌症例31例の2年全生存率,2年局所制御率はそれ ぞれ70%,81%とまずまずの成績であった2)。しかし鼻 副鼻腔 平上皮癌はRADPLATに代表される化学放射線 治療に対する感受性が良好なため重粒子線治療の役割は 限定的である。 3.重粒子線治療の保険適用 2018年4月より重粒子線治療は頭頸部悪性腫瘍の一部 に保険適用となった。上記の様に放射線抵抗性腫瘍に期 待される治療法であるため,放射線,化学療法の感受性 が比較的良好な口腔・咽喉頭の 平上皮癌は除外された。 しかし線量集中性による機能温存のメリットが大きいと 判断された鼻副鼻腔腫瘍( 平上皮癌を含む)は保険適 用となった。よって本パネルディスカッションのテーマ である鼻副鼻腔 平上皮癌に対して現在重粒子線治療は 保険適用される。 4.保険適用後の当院の状況 図1は当院での鼻副鼻腔 平上皮癌症例の年毎の推移 を見たグラフである。保険適用前は年0‒2例程度であっ たが,保険収載された2018年以降増加傾向で2020年はコ ロナ禍にも関わらず8名となっている。保険適用後に重粒 子線治療を受けた18例の重粒子線治療に到った理由をま とめると主治医勧め9例,化学療法併用不可6例,患者希 望3例であった。重粒子線治療は通常化学療法の併用は 行わず単独で行われる。主治医勧めの9例についてみると 鼻腔4例,篩骨洞3例,蝶形骨洞1例,上顎洞1例であった。重粒子線治療は鼻副鼻腔 平上皮癌治療に必要か?
小藤 昌志
量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所重粒子線治療研究部 保険適用 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 年 治療人数 図 1 当院における鼻副鼻腔 平上皮癌の重粒子線治療症例 数の推移日 鼻 誌 60(1),2021 ― 94 ― 5.鼻副鼻腔扁平上皮癌治療における 重粒子線治療の位置づけ 鼻副鼻腔 平上皮癌は化学療法の併用が可能であれば 通常の放射線治療で良好な治療成績が期待できるが,高 齢や腎不全などで化学療法の併用が困難な場合,放射線 治療だけでの治療効果は十分ではない。化学療法併用の 難しい症例に対して重粒子線治療は有効な選択肢の一つ と思われる。化学療法併用可能な症例については通常の X線治療と比較して重粒子線治療の有意性は明らかでは ないが,鼻腔,篩骨洞原発の腫瘍については改めて評価 が必要と思われる。図2に私案であるが鼻副鼻腔 平上 皮癌に対する放射線治療戦略をまとめた。 参考文献 1) 小藤昌志,出水祐介,齋藤淳一,他:肉腫を除く頭 頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療の多施設共同後 向き観察研究(J-CROS 1402 HN).頭頸部癌 2017; 43: 362‒366.
2) Koto M, Demizu Y, Saitoh JI, et al: Definitive carbon- ion radiation therapy for locally advanced sinonasal malignant tumors: Subgroup analysis of a multicenter study by the Japan Carbon-Ion Radiation Oncology Study Group (J-CROS). Int J Radiat Oncol Biol Phys 2018; 102: 353‒361.