原
著
聖マリアンナ医科大学雑誌Vol. 48, pp. 197–210, 2021 1 聖マリアンナ医科大学 内科学 (循環器内科) 2 聖マリアンナ医科大学 医学教育文化部門 (医学教育研 究) 3 聖マリアンナ医科大学 内科学 (脳神経内科) 4 聖マリアンナ医科大学 臨床検査医学医学部卒前教育における
ICT
を利用した実践型
Problem-Based
Learning
の
開発と導入
黄
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い佐
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もち月
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み幸
ゆき2明石
あ か し嘉
よし浩
ひろ1信
のぶ岡
おか祐
さち彦
ひこ2,4 (受付:令和2年11月20日) 抄 録 医学部における卒前の臨床実習で求められる医療面接技能,プレゼンテーション技能,臨床 推論能力の養成のため,ICT(InformationandCommunicationTechnology) を利用した実践型 Problem-BasedLearning(ePBL;electronicPBL) を2019年に導入した。ePBLでは,グループ内の学生全員が各自のデバイスから同時に課題スライドに記入し,症 例に関するプロダクトの共同作成を行った。患者情報の一部 (医療面接・神経所見・心雑音な ど) を動画・音声で提示することで,視覚・聴覚情報から,分析・言語化する課題を設けた。 また医療面接で聴取すべき項目や行うべき身体診察を列挙するだけでなく,実際の医療面接・ 診察手技のロールプレイの撮影を課題とした。ICTを利用することで,実践的なPBLを最小限 の教員配置で実現可能となった。2020年の新型コロナウィルス感染症の流行 (以下,コロナ禍) により,全員が自宅からの遠隔グループワークとなったため,模擬診察など一部のロールプレ イや動画撮影が困難であったが,ePBL形式やICTを活用した動画視聴課題やチューターレス 運用に関して学生から高い評価が得られた。本邦における医学教育の課題を解決しうる新たな 教育手法として,導入の経過から今後の課題に関して検討した。 索引用語 PBL,ICT,オンライン,経験学習 緒 言 1) 聖マリアンナ医科大学におけるPBL 聖マリアンナ医科大学 (以下,本学) では診療参加 型臨床実習の前段階として系統医学の知識の統合・ 臨床推論能力の養成を目的とした専門教育科目「症 候と病態」を設置し,その中でPBL(Problem-Based Learning) を導入している。PBLは学習者に対する 知識の教授から始まる系統講義と異なり,まず事例 や問題を提示することで学習者の問題解決能力や主 体性を涵養する経験手技的な学習方略である1)。特に ①グループ内での協調学習,②事前知識と新たな知 識を関連付けながら学ぶ構成主義的学習,③模擬症 例の診断治療を通じた状況学習を通じて,④自己主 導型学習を促進することが期待される2)。 2018年までは午前にPBL,午後は症候・病態に 関する解説講義形式で行われてきた。PBLでは8か
図 1 従来の PBL の実際
8–9名の学生を班として各 Small Group Learning 室 (SGL) が割り当てられる。各 SGL に 1 名 のチューター教員が配置され,課題作成者が作成したチューターガイドと追加課題シート (患 者情報) をもとに,司会を担当する学生とともに議論をファシリテートする。 学生はあらかじめ与えられた課題シートに従い予習を行ない,関連する資料や教科書,学習 ノートを持参する。 議論の内容は書記を担当する学生がホワイトボードに記載し,プリントアウトされ共有され る。 ら9名の学生と1名のチューターとなる教員がSmall GroupLearning room (SGL教室) で模擬症例の診 断・治療に関して議論を行い,書記が代表してホワ イトボードに板書しプリントアウトしたものを班の 最終プロダクトとした。チューターはPBL課題の作 成者が用意したチューターガイドに応じて,追加患 者情報 (A4用紙)と質問が書かれた「課題シート」 を配布し,追加質問や討議のファシリテーション, 学生の出席確認・評価を担っていた。(図1) 注釈①構成主義的学習: 構成主義とは,「学習者が 個人の経験に基づいて主体的に知識を構築すること で意味のある学習がなされるという教育観」であ る1)。 PBLでは模擬症例の課題解決を通じて,自身が持 つ知識や経験を再構築し,その状況に応じて新たな 知識を能動的に獲得する学習を指す。 注釈②自己主導型学習: 「学習者自身が事前知識を メタ認知することにより,目標に向けた学習を促進 する態度」を指す1)。PBLでは課題全体を通じて, 実際の診療にあたり不足している知識・能力を自覚 し,自らが目標を立てて行う学習を指す。 2) 診療参加型臨床実習におけるPBLの効果と課題 臨床実習において,学生の情報収集力 (医療面接・ 身体診察),臨床推論力,プレゼンテーション能力の 欠如が著しく,PBLに期待した効果が十分に得られ ていなかった。その一方で教員の負担も大きく2018 年度は13症例 (1症例につき2回のPBL) に対して 14名/回,延べ364名のチューターを要した。 PBLに対する学生アンケートでは,チューターが 診療のためチューターガイドを学生に預け退席して
図 2 従来の PBL 課題の問題点 予習のために学生に配布される実際の課題シート。 年齢,性別,短い臨床経過と事前課題 (学習ノートの作成や英訳) のみ記されている。学習者の立場が明確でなく, 事前学習の目的が不明瞭。 患者情報が文字や静止画であり,情報を得て,解釈し,概念化・言語化する余地が乏しい。 しまうなど,一部でPBLが形骸化していることが明 らかになった。 「症候と病態」のカリキュラムを担う症候病態委員 会では,診療参加型臨床実習を見据えた実践的な PBLの開発と教員負担軽減の両立を目指し,2019年 よりペーパーレス・チューターレスな実践型PBL(以 下,ePBL) の導入に至った。2019年度に8課題, 2020年度はコロナ禍のため,学生が自宅待機のまま 完全遠隔で10課題を実施した。本学におけるICT を活用した医学教育事例として,その概要とコロナ 禍における変化,今後の課題に関して検討した。 方 法 症候病態委員会で従来のPBLにおける問題点を抽 出し,その改善とICT(InformationandCommuni‐ cationTechnology) を用いた解決策を模索した。ICT は以前より本学で使用されてきたLearningManage‐ mentSystem(LMS) であるWebClassに加え,学生 ならびに教員が無償利用可能なGsuiteforEducation (2020年にGoogleWorkspaceに改称) から,Google Drive(ファイル共有),GoogleSlide(スライド作成), GoogleForm(アンケート),GoogleMeet(ビデオ通 話)を用いた。ePBLに対する学生からのフィード バックは毎授業後と全課題終了後に記名式で行った。 1) 従来型PBL課題の問題点 委員会ならびにチューターより,PBLでの学生間 の議論がまばらで,教科書的な記載を列挙するに留 まることが指摘された。また提示された患者“情 報”に関する表面的な議論 (採血結果の正常異常・画 像での異常所見) や疾患に関する知識の羅列 (ネフ ローゼの定義,胸痛の鑑別) に終始し,模擬患者の 存在が希薄であることも挙げられた。 その要因として学生に提示する課題における問題 点を以下のように挙げた。 ①学習者の立場や,模擬患者に対してどのような責 務 (タスク) を負っているか明確でない ②患者情報が文字や静止画で一方的に与えられ,「学 習者が患者から情報を得て,解釈し,概念化・言語 化する余地」が乏しい ③医療面接・身体診察,プレゼンテーション能力が 課題で求められていない (図2) 2) 課題の見直し ①アンカードインストラクション ePBLでは学習者をシナリオに登場させ,模擬症 例に対する学習者の立場を明確にすることで,診断 治療の責務 (タスク) があることを明示した。例えば ePBLの前半の課題では「あなたは医学部4年生で
図 3 意識レベル判定の課題における従来の PBL と ePBL の相違
患者の意識レベル (Japan Coma Scale, Glasgow Coma Scale) にあたり,従来 PBL では所見が テキストで提示され,評価基準に当てはめることで容易に回答可能だが,ePBL では動画を通 じて開眼の有無や応答の不明瞭さ,指示動作への反応などの所見を自ら解釈する必要がある。 す。今日は叔父さんから相談がありました」のよう な受け入れやすい設定とし,後半の課題では「あな たは救命救急センターの研修医です。救急搬送の依 頼がありました」といった設定を用いた。また模擬 症例に対して名前を設定することで,学習者との関 係性の強化を図った。 これらをアンカードインストラクション (anchored instruction) とよび,読み手を物語の中に錨で結びつ けるような導入であり,学習した知識を現実世界と 結びつける効果がある3)。 ②動画・画像・音声による情報提示 学習者が患者から情報を得て,解釈し,概念化・ 言語化する能力を高めるため,文章ではなく動画・ 画像や音声による情報提示を用いた。(図3)CT画像 など,病変を含む単一断面の静止画だけでなく連続 動画とし,心雑音や呼吸音の異常も音声で提示した。 特に身体診察は,診察開始から所見を得るまでを動 画で示し,所見の解釈・概念化・言語化を促す動画 視聴課題を設けた。 (例; 動画のような歩行をなんというか。解: 鶏歩) ③実技・ロールプレイ課題 医療面接・身体診察,プレゼンテーションの能力 は臨床実習前の客観的臨床技能試験 (以下,(Pre-CC OSCE))と臨床実習を通じて涵養されるものだが, 前段階としてePBLではこれらの能力を問う実技・ ロールプレイ課題を導入した。学生同士,あるいは 単独で模擬的な医療面接・診察を実践し,各自のス マートフォンやタブレットで撮影した動画を提出さ せる動画撮影課題とした。(図4) 3) ICTを用いた教員負担の軽減 ①GoogleSlide による課題配信とモニタリング GoogleSlideでは複数人による同時編集が可能な ため,各自のデバイスから分担して課題に取り組む ことができる。患者シナリオに加え,教員が口頭で 行っていた追加質問を穴埋め式や選択式,記述式で 提示した。(図5) 患者シナリオと質問を1つのセッションとして, 課題を4–6セッションに分け進捗状況に合わせて次 のセッションを学生がダウンロードする方式とした。 2019年はWebClass,2020年はGoogleClassroom を併用してダウンロードシステムを構築した。 段階的に情報,質問が追加されるため,課題シー トの配布や口頭での追加質問,討議のファシリテー ションが不要になった。またGoogleSlideにより全 ての班の進捗状況が遠隔モニタリング可能となった ため,各班のチューターは廃止とした。 ②GoogleMeetによる質問対応 質問やICTのトラブル対応として,1名の教員が GoogleMeet上で待機し,随時学生が参加する方式 を採った。2020年は全体向けGoogleMeetに加え, あらかじめ各班のグループワーク用のGoogleMeet Code(会議番号) を指定し,必要時には教員が各班の オンライン討議に参加可能な状況とした。 ③GoogleFormによる態度評価 出席確認は,各班のスライドの表紙に添付された
図 4 学生同士によるロールプレイの動画 上段: 頭痛を訴える患者の診察 下段: 患者と家族への造影 CT の説明と同意書取得 2019年度実施分 いずれも医学生 診断に必要な診察手技を想起するだけでなく,実際に模擬患者に対して行う。模擬患者役の 学生は,想定される所見を再現する。 医療面接や同意書取得のロールプレイでは,知識だけでなく患者が理解できる表現や用語が 選択できるかを問う。 集合写真で代用した。また討議への参加態度などの 評価に関しては学生同士の貢献度評価であるピアレ ビューを導入した。ピアレビューはGoogleFormを 用いて8–9名の班員の中から自分を除く3名を選ぶ 方式で行い,加点式で評価に用いた4)。 4) カリキュラム評価のための学生アンケート ePBLの各課題に対する学生からのフィードバッ クは毎授業後にGoogleFormを用いて行った。出席 確認のため,また重複回答を避けるためメールアド レスを自動収集したため,回答者個人が特定可能で あり,記名式に相当する。 全課題終了後のePBL全体に対するフィードバッ ク (総括アンケート)も同様の方式で行った。アン ケート項目のうち,2019年度,2020年度で共通し た質問項目を表に示す。(表1–1,1–2) 本研究では回答義務のある毎授業後のアンケート や,個人を特定しうる自由記載項目は解析に含めな かった。また総括アンケートの提出は出席や成績評 価には用いず,回答後の解析に当たっては連結表を 用いて匿名化を行った。 5) 統計解析 2019年と2020年にePBLを受講した学生からの フィードバック結果を統計解析した。2019年と2020 年の2群間の平均値の比較はMann-WhitneyUtest, 独立性の検定にはカイ二乗検定を用い,p<0.05を有 意とした。統計解析ソフトにはSPSSVer.23(IBM, USA) を用いた。 6) 倫理審査 本研究は聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の 承認を得た (第5065号)。 結 果 1) ePBLの実施概要 2019年度に8課題,2020年度は10課題を実施し た。2020年4月段階でコロナ禍のため,学生は WebClassを使用し自宅からのオンデマンドWeb講 義が主体であったが,ePBLでは協調学習としてグ
図 5 Google Slide による課題の実際 上段: 全ての班の進行状況を Google Slide でモニタリング可能 実際に学生が開いているスライドにアイコンが表示される 下段: 複数の学生が同時にスライドに回答記入や病変部位の図示が可能 表 1–1 総括アンケートの質問項目 (2019 年度,2020 年度で共通) 質問項目 評価方法 1の選択肢の定義 5の選択肢の定義 PBL方式について 5段階評価 通常の講義形式の方が学習効果が高いと感じる PBL形式の方が学習効果が高いと感じる ペーパーレスについて 5段階評価 紙での課題シート提示、プロダクト提出が良い Google Slideを用いた課題シート提示、プロダクト提出が良い Google Slideにてついて 5段階評価 Google Formについて 5段階評価 Google Meetについて 5段階評価 動画撮影課題について 5段階評価 動画視聴課題について 5段階評価 穴埋め式の課題について 5段階評価 ほとんど意味が無い(学習効果が無い)と感じる 学習効果があった(発見や学びがあった) 不便・煩雑であった(最後まで思い通り操作できなかった) 便利・快適であった 各項目に関し, 1 から 5 の選択肢を定義し 5 段階尺度で評価。 表 1–2 総括アンケートの質問項目 (2019 年度,2020 年度で共通) 質問項目 評価方法 Peer Reviewを全員分つけたい
Peer Reviewがあることをプラスに感じる Peer Reviewがあることをマイナスに感じる 集合写真による出席確認を好ましく思う 集合写真による出席確認を不快に思う 課題提出による出席確認が良いと思う
グループワークのチューターに関して 複数選択可 チューターが参加すべき(配置)と思う チューターが巡回すべきだと思う 複数選択可
Google FormでのPeer Reviewに関して
複数選択可 グループワークの出席に関して
選択肢
図 6–1 PBL 形式について 1. 通常の講義形式の方が学習効果が高いと感じ る 5. PBL 形式の方が学習効果が高いと感じる 図 6–2 次年度の ePBL について 1. PBL 学習そのものをやめるべきだ 5. ePBL を継続するべきだ 図 6–3 楽しんで学ぶことができたか 1. ほぼ全ての課題で教育的効果を感じなかった 5. ほぼ全ての課題を楽しんで学ぶことができた 図 6–1 図 6–2 図 6–3
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ループワークが不可欠であったため,班ごとのGoo‐ gleMeetを併用し,リアルタイム遠隔グループワー クとして実施した。複数のLMSへのログインによ る混乱を避けるため,課題の配信にはWebClassで はなく,Gsuiteに含まれるGoogleClassroomを用 いた。 2) コロナ禍によるePBL課題の変化 完全遠隔化により学生同士が模擬患者役と医師役 に別れるロールプレイや,模擬診察が困難であった。 模擬診察では学生が一人で実施できる内容 (下腿浮 腫の診察や徒手筋力テストの実演など) に限られた が,病状説明や同意書の取得といった口頭でのロー ルプレイはGoogleMeet上で実施可能であった。 ロールプレイの動画撮影はスマートフォンなどのデ バイスを用いる方法の他,GoogleMeetの録画機能 を用いて実施された。GoogleSlideでの穴埋めなど による記入課題は同様に実施可能であった。 3) 総括アンケート 総括アンケートの結果を以下に示す。(有効回答数 2019年度114件・2020年度105件) ① ePBLの教育効果 通常講義と比較したPBL形式の教育効果に対する 学生の評価 (中央値3 最小値1 最大値5vs中央値 4 最小値1 最大値5,p<0.01)(図6–1) は有意に上昇 した。次年度のePBL継続の推奨 (中央値4 最小値 1 最大値5vs 中央値4 最小値1 最大値5,p=0.028) (図6–2) とePBLを“楽しんで学ぶことができた”か (中央値4 最小値2 最大値5vs 中央値4 最小値2 最大値5,p=0.116)(図6–3)は中央値がいずれも4 と高い評価であった。 個別のコンテンツの有効性は,動画視聴課題 (中 央値4 最小値1 最大値5vs 中央値4 最小値1 最大 値5,p=0.63) と,穴埋め式課題 (中央値4 最小値1 最大値5vs 中央値4 最小値2 最大値5,p=0.002) の教育効果は中央値4と高く評価された。一方で動 画撮影課題の有効性は2019年,2020年ともに中央 値3(中央値3 最小値1 最大値5vs 中央値3 最小値 1 最大値5,p=0.16) と低値であった。(図7–1,2,3) ② ePBLによるICTへの習熟度図 7–1 動画撮影課題 図 7–2 動画視聴課題 図 7–3 穴埋め式の課題 1. ほとんど意味がない(学習効果が無い)と感 じる 5. 学習効果があった(発見や学びがあった) 図 7–1 図 7–3 図 7–2
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GoogleSlideを用いた課題シート提示やプロダク トなどのペーパーレス方式に関して,5段階のうち, 4,5を選択した割合が52.7%->77.1%まで上昇し た (中央値4 最小値1 最大値5vs 中央値5 最小値 1 最大値5,p<0.01)。(図8–1) またGoogleSlideの 利便性 (中央値3 最小値1 最大値5vs 中央値4 最 小値1 最大値5p=0.004)(図8–2) とGoogleFormを 用いたアンケートの利便性 (中央値3 最小値1 最大 値5vs 中央値4 最小値1 最大値5,p<0.001)(図8– 3) に対する評価も有意に上昇した。 ePBLを通じたGSuiteの習熟度 (今後も他人との 協働作業で使えそうか) は,GoogleMeetが18.4%か ら72.4%と有意に上昇した (p<0.001)。GoogleDrive(64.9% vs78.1%,p=0.03),Google Slide(69.3%vs73.3%,p=0.51) はいずれも7割近い 習熟度が得られていた。GoogleFormは有意な上昇 はあるものの,習熟度は2019年度で27.2%,2020 年度でも41.0%に留まった (p=0.032)。(図9) ③ 評価方法・チューターレスに関して ピアレビューに関して2020年は前年と比較し肯 定的に捉える割合が増え (22.8%vs36.2%,p=0.013), 「ピアレビューを全員分評価したい」とする割合も 8.8%->25.7%と増加した (p=0.001) が,いずれも過 半数を超えるものではなかった。「集合写真による出 席評価」に関して2019年,2020年のいずれも過半 数が肯定的に評価し (68.4%vs57.1%,p=0.085) 有意 な変化は無かったが,「班の課題提出をもって出席と みなす方式」を望む割合が増加した。(25.4% vs 46.7%,p=0.001) 一方で,チューターの配置や巡回 (オンラインで の巡回を含む) に関しては1割以下に留まった。(度 数5以下の回答を含むため統計解析は施行せず)(図 10) 考 察 1) 本邦の医学教育におけるPBL 1990年に本邦で最初に医学教育にPBLを導入し たのは東京女子医科大学で,PBLは医学知識だけで なく問題解決能力を涵養する教育手法として期待さ れた5)。その後,本学も含めPBLが本邦で広く普及 し,2015年の調査では71校で導入されていたが, 2017年のアンケート時点では53校にまで減少して いる6,7)。その要因のひとつとして,PBLで得られる 問題解決能力と国家試験や進級判定に関わる学内の
図8–1 ペーパーレス化について 1. 紙での課題シート提示,プロダクト提出が良い 5. Google Slideを用いた課題シート提示,プロ ダクト提出が良い 図8–2 Google Slideの使用に関して 1. 不便・煩雑であった (最後まで思い通り操作できなかった) 5. 便利・快適であった (最終的に思い通り操作できるようなった) 図8–3 Google Formの使用に関して 1. 不便・煩雑であった 5. 便利・快適であった 図8–1 図8–3 図8–2 1. 2. 3. 4. 5. 図 9 Google アプリの習熟度 他人との協同作業に今後も使えそうだと答えた割合 グラフは 2019 年度と 2020 年度でそれぞれ選択した割合 (%)
Google Drive,Google Slide,Google Form,Google Meet のいずれのアプリに対して も 2019 年に比して 2020 年の方が受容度が高く Google Meet で顕著であった。 筆記試験で問われる能力が乖離していることが挙げ られている1)。 また本邦の医学部の教員数は欧米など先進国と比 較しても極めて少なく,かつ研究や診療にも従事し, 医学教育は評価されづらい状態が続いている8)。加え てグローバルスタンダードに基づく医学教育分野別 評価受審を契機に,多くの医学部が臨床実習期間の 延長と診療参加型への移行のためカリキュラムを大 幅に見直す中で,ますます臨床系教員の教育負担が 増えている。医学教育学会が提言する教員の増加は
図 10 ピアレビューと出席・チューターについて ピアレビューと出席・チューターについて自分の考えに近いものを選択させた (複数選択可) グラフは 2019 年 度と 2020 年度でそれぞれ選択した割合 (%) ピアレビューによる出席評価を「プラスに感じる」,「マイナスに感じる」割合はいずれの年も 50%未満であっ た。「全員分評価したい」を選択した割合は 2020 年度は増加した。 「集合写真による出席確認」を肯定的に思う学生の割合は減少し,「班の課題提出で出席確認」を肯定的に思う 学生が増加した。 チューターの「配置」を望む割合はともに 3%未満であったが,「巡回」をすべきと思う割合は 2020 年は 10% 未満であったが増加が見られた。 容易ではなく,医学教育の中でも人的負担が大きい PBLが減少していく傾向は避けられない状況にあ る9)。 2) ePBLの導入とコロナ禍の影響 2020年のコロナ禍に先んじて,ICTを活用した新 たな教育法として2019年よりePBLを導入し,筆 記試験でも本学で初めて動画視聴課題を設け,眼振 や振戦などの身体所見や,聴診手技,神経学的診察 手技を提示した。これによりePBLで涵養した問題 解決能力の一端を筆記試験で評価することを狙った。 教員負担の軽減効果が著しく,学生アンケートでの ePBL継続に関する肯定的な意見が半数を上回り, チューター配置に対する要望が低かったため,引き 続く臨床実習での教育効果判定を行う前に2020年 度は8課題から10課題への拡大となった。 2020年度はコロナ禍では全員が自宅からの参加で あったため,個々人のICT技術のサポートが困難で はあったが,オンデマンド講義視聴などでICT利用 の環境がすでに整っており,一回のオンラインオリ エンテーションのみで,予定した10課題を完遂す ることができた。特にビデオ会議ツールであるGoo‐ gleMeetは,チューターへの質問のための補完的な ツールから,グループ内・外とのコミュニケーショ ンのための不可欠なツールとなり,習熟度が向上し たと考えられる。今後はコロナ禍におけるICT経験 のある学生が増加することから,ePBL継続にあた りICTサポートの負担は軽減していくことが期待さ れる。また低学年のリベラルアーツ科目 (アカデミッ クスキルズ) でWordやPowerPointに加え,GSuite のトレーニングを導入することも習熟度の向上に有 効と考えられる。 コロナ禍によるePBLへの最も大きな影響は,動 画撮影課題の困難さであったと推測する。2019年に は,複数の学生が医師役,患者役,撮影役に分かれ てロールプレイを行ったのに対し,2020年は個々人 が自宅から参加するため,模擬診察や手技を単独で 行う必要があり,またePBLに参加するための電子 デバイスと,撮影を行うためのデバイスの複数を使 用する必要があった。 3) ePBLの導入による改善と新たな課題 ① ePBL導入効果の比較 2019年と比較し,2020年では5段階評価項目の
うち,「PBL形式」,「ペーパーレス方式」,「Google Slideによるプロダクト作成の利便性」,「Google Formによるフィードバックアンケートの利便性」, 「穴埋め式課題の学習効果」において有意な上昇を認 めた。 オンライン授業と親和性の高いペーパーレス方式 やGoogleSlide,GoogleFormの使用だけでなく, 本来オンラインでの実施が困難なPBL方式の受容度 が高まっている。自宅からの個別参加を余儀なくさ れていた学生にとって,ePBLを通じてグループ内 で議論や協働作業を行うことが,擬似的なスクーリ ング (学校という場で学ぶこと) となり,学生の受容 度を高めたものと推定される。また穴埋め式課題の 学習効果の改善が得られているが,同一の用語が入 る欄は同色で示すといったスライドの工夫に加え, 全10課題を通して,臨床推論に関する知識を段階 的に学べるよう配慮した点も影響したものと考えら れる。(医療面接で問診すべきOPQRST,鑑別診断 のVINDICATE-Pなど) ② 現行ePBLの限界と課題 ePBLへの変革により,知識だけでなく,患者か ら情報を得て,解釈し,概念化・言語化する能力の 向上と,教員負担の軽減が得られたが,新たな課題 もある。ひとつはPre-CCOSCEの講義前であるた め,「臨床実習で求められるレベル」が理解できてお らず,結果として動画撮影課題で期待した学びが得 られていない点である。 身体診察のロールプレイでは,教科書やYouTube 動画を参考に再現するものが多かったが,手技によっ てはほぼ全班が不適切な手技を行う場合があった。 (視野検査で検者と被検者が離れすぎており,適切な 検査になっていない,など) また患者への説明 (造影剤使用の同意書取得など) や医療面接を行う動画撮影課題では,医学用語がそ のまま使用された場合でも,特に疑問なく進行して しまう動画が多く見られた。(「既往はあります か?」や「胸痛について教えてください」「アナフィ ラキシーショックが起きるリスクがあります」など) 医学生を対象とした医学用語の認知率や理解率に関 する研究では,臨床医学を学ぶ4年生の段階では, 1–3年生と比較し,臨床医学的な用語 (うっ血・既往 歴・せん妄・ADLなど) に関し高い認知率と理解率 があると示されており10),模擬患者役が同様に医学 生であるため言い換えなどの必要性を認識できてい ない可能性がある。 次に「フリーライド」の問題である。「フリーライ ド」とは社会学,経済学的に「対価を支払わずに公 的なサービスの恩恵を受けること」であり,ePBL では「グループの議論や作業に参加しない,あるい は出席評価としての集合写真のみ撮って帰宅するに も関わらず,評価はグループが作成したプロダクト によって行われること」を指す。 チューターの常駐を望む学生の割合は3%未満, 巡回を望む割合は9.5%に留まっており,ePBLの進 行そのものにチューターは不可欠ではないと考えら れるが,貢献度の高い学生3名でなく,全員の評価 をしたいとする学生の割合が8.8%から25.7%まで増 加しており,フリーライドに対する対応を学生自身 が求めていると考えられる。 4) 2021年度以降のePBL改善案 現行のチューターレス方式でePBLを継続する上 では,教育効果が高い「動画視聴課題」や「穴埋め 式課題」の拡充と,「動画撮影課題」の見直しが必要 である。 現在は動画撮影課題で提出された動画は,午後の 全体講義で一部供覧されるが全ての班の動画に対す るフィードバックは実施できていない。シミュレー ション教育におけるビデオフィードバックは,学習 者が自己の行動を客観的な視点で捉え,自発的な問 題点の抽出する機会となり,ロールプレイの再実施 によりコミュニケーション能力や信頼関係の確立に 有効と期待される11)。ePBLの課題毎の提出動画数を 減らし,全体講義でフィードバックの機会を増やす ことが動画撮影課題の教育効果の向上に寄与するも のと考えられる。 またePBL導入のメリットの一つである教員負担 の軽減とは逆行するものの,TripleJumpExamina‐ tion(TJE) によるプロダクト以外の学習者評価も考 慮される12)。PBLにおけるTJEは,以下のStepを 経て問題解決能力を評価する手法である。 [Step1] 模擬患者との医療面接や症例の提示後,学 習者が問題抽出と症例に関する仮説を立て,学習項 目を列挙しチューターにプレゼンを行う。 [Step2] 問題解決のための自己学習を行う。 [Step3] 抽出した問題に対する回答,仮説に対する 考察をまとめ,教員にプレゼンを行い,フィードバッ クを受ける。
ePBLにおいてはStep1とStep3のプレゼンを GoogleMeetで少数名のチューターに対して行う方 法で実現可能である。 結 語 臨床をイメージしやすい動画・画像情報を用いて 系統講義と臨床実習とのギャップを埋め参加型臨床 実習を促進することがePBLの主目的であった。そ の導入のためにICTを用いた結果,ペーパーレスな 課題提示・プロダクト作成が可能となり,副次的に チューターが廃止され,PBL実施における教員の負 担減が得られた。しかしチューターレスがゴールで はなく,少人数でもチューターを配置することで, より臨床的な視点から議論を深め,模擬医療面接や 診察をOSCE同様,よりインタラクティブなレベル にすることも期待される。(質問に応じて回答が変わ る。) またチューター負担の大幅な軽減はあったものの, ePBLの症例課題を作成する教員は,模擬診察の動 画の撮影や,実在の患者の身体所見,画像所見を個 人情報に配慮した形で用意する必要があり,作題の 負担軽減のためには,あらかじめ身体所見や画像検 査の画像・動画の集積が望ましい。また,今後ePBL 化に必要なICT技術を伝えるFacultyDevelopment やマニュアル化も不可欠である13)。本教育法の教育 効果は短期的には臨床実習における学生のパフォー マンスの向上やPost-CCOSCEで評価されるが,引 き続く初期臨床研修まで影響を来しうると考える。 昨今見直しや削減されているPBL学習をより有意義 なものとし,本学における臓器別コースと臨床実習 を繋ぐ有効な教育法になると期待する。 謝 辞 ePBLの実施に当たり多大なるご尽力を頂きまし た症候病態委員会各位 (三村秀文 委員長・仁木久照 前・委員長,教育課担当 岩下 淳一郎殿) ならびに 本カリキュラムに主体的に参加頂き,忌憚のない フィードバックを頂きました聖マリアンナ医科大学 医学部の学生の皆様に篤く御礼申し上げます。 利益相反 開示すべき利益相反はない。 引用文献 1) 清水郁夫.Problem-basedLearning美しい理論 がなぜ実践で破綻したのか? 錦織宏,三好沙 耶佳 編,指導医のための医学教育学 実践と科 学の往復.京都大学学術出版会2020:105–114. 2) Dolmans DH, De Grave W, Wolfhagen IH, et al. Problem-based learning: future challenges for educational practice and research. Med Educ2005;39:732–741.
3) 根本淳子,朴恵一,北村隆始,他.問題解決型 学習デザインの研究動向 :GBSとSCCを中心 に.日本教育工学会研究報告集2010; 2010: 151–158.
4) TaiJH,CannyBJ,HainesTP, etal.The roleof peer-assisted learning in building evaluative judgement:opportunitiesin clinicalmedicaled‐ ucation. Adv Health Sci Educ Theory Pract 2016;21:659–676. 5) 医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力 者会議.21世紀における医学・歯学教育の21 世紀における医学・歯学教育の改善方策につい て2001. 6) 奈良信雄,伊藤宏,伊藤雅章,他.全国医学部 における医学教育カリキュラムの現状—2015 年 度調査を考察して—.医学教育2016;47:363– 366. 7) 瀬尾宏美.TBLの現状と課題.日本医学教育学 会.医学教育白書2018年版,篠原出版2018: 177–183. 8) 赤池雅史.2.医学部における教育評価の特殊 性—臨床医学の面から—.医学教育2016;47: 63–68. 9) 日本医学教育学会「医学教育のあり方特別委員 会」.医学部定員増に対する提言.医学教育 2010;41:132–136. 10) 菅原亜紀子,諸井陽子,小林元,他.医学生の 医学用語に対する認知と理解の習熟過程.医学 教育2019;50:536–567. 11) 森川和政,永松浩,佐伯桂,他.小児歯科シミュ レーション課題作成とビデオ撮影を取り入れた ロールプレイの評価.小児歯科学雑誌2015;53: 478–486.
assessment tool in the problem-based medical curriculum at the University of Hawaii. Acad Med1993;68:366–372.
13) 黄世捷.Googleアプリを利用したPaper/Tutor
Less PBLの開発と導入.磯部真倫編,事例か ら学ぶ! 医療者のためのWeb会議システム活 用メソッド,中外医学社2021:214–220.
1 Division of Cardiology, Department of Internal Medicine, St. Marianna University School of Medicine 2 Research Institute for Medical Education, St. Marianna University School of Medicine
3 Division of Neurology, Department of Internal Medicine, St. Marianna University School of Medicine 4 Department of Laboratory Medicine, St. Marianna University School of Medicine
Abstract
Development
and
Introduction
of
Practical
Problem-Based
Learning
Using
ICT
in
Undergraduate
Medical
Education
Seisyou
Kou
1,2,
Kenji
Isahaya
3,
Atsushi
Mochizuki
2,
Miyuki
Ino
2,
Yoshihiro
J.
Akashi
1,
and
Sachihiko
Nobuoka
2,4In2019,totrainmedicalinterviewskills,presentationskills,andclinicalreasoningskillsrequiredforbed‐ sidelearning(BSL)inmedicalschools,wedevelopedpracticalProblem-BasedLearning(PBL)usingICT(In‐ formationandCommunication Technology).Inour ICT-basedPBL (ePBL),all studentsdivided into groups simultaneouslyusedtheirowndevicestoeditGoogleslidesandsolveataskregardingafictionalclinicalcase.
Inadditiontofill-in-the-blankquestionsaboutmedicalinterviewsandphysicalexaminations,thestudents werealsotaskedwithfilmingarole-playofanactualmedicalinterviewandexaminationtechnique.Somepa‐ tientinformation(medicalinterview,neurological findings,heartmurmurs,etc.) werepresentedin videoand audioformattoencouragestudentstoanalyzeandverbalizetheinformation.
In2020,duetotheCOVID-19pandemic,allstudentswererequiredtojoinePBLcoursesfromhomeusing GoogleMeetforgroupcommunications.Thesituationmaderole-playingandvideorecordingtasksmorediffi‐ cult,buttheePBLstyleoflearning,includingvideoviewingtasksusingICTandtutorlessoperations,received higherevaluationsbystudentsin2020thanthatin2019.TheePBLeducationalmethodmaythereforebeableto solvesomemedicaleducationproblemsinJapan.