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室温で導電体から絶縁体へ急変する「スレーター絶縁体」を開発

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配布) 科学記者会(資料配布) 1

室温で導電体から絶縁体へ急変する「スレーター絶縁体」を開発

~テラヘルツ受信素子や新熱電変換材料の新素材への応用展開へ期待~

成24年6月13日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝、以下 NIMS)超伝導物性ユニット強相関 物質探索グループの山浦 一成主幹研究員は、オークリッジ国立研究所の研究グループと共同で、 室温で機能するスレーター絶縁体1)の開発に成功した。 2.スレーター絶縁体は、特徴的な性質をもつ絶縁体として、半世紀以上昔から研究されてきた。十分 な高温では金属的な性質を示すが、物質固有のある温度(転移温度)以下まで冷却すると絶縁体 になる。従来、この転移温度は室温よりもはるかに低温であったため、学術的な研究だけで、応 用展開を目指す研究はほとんどなかった。 3.今回、NIMS が 2009 年に初めて合成した新物質(ペロブスカイト型オスミウム酸化物)2)が、こ れまでで最も高い転移温度をもつスレーター絶縁体であることが明らかになった。これはオーク リッジ国立研究所の研究グループと共同で中性子回折法3)による実験に取り組んだ結果、判明し たものである。 4.この新物質は冷却を必要とせず、室温でスレーター絶縁体としての特性を示すため、学術的に興味 深いだけでなく、さらに新素材として応用展開できる可能性がある。この新物質を起点とする研 究がさらに進展すれば、これまでにない機能を有するデバイス素子や新材料を開発できる可能性 がある。具体的には、テラヘルツ領域の信号を検出する固体素子や新熱電変換材料などへの適用 が考えられる。今後、さらに材料化を目指した研究を推進する。 5.今回の成果は、独立行政法人科学技術振興機構先端的低炭素化技術開発(ALCA)「スレーター材 料のエネルギー変換機能の研究」(代表:山浦 一成)の一環で得られた。本成果は、米国物理学 会の速報誌Physical Review Letters(電子版)で公表される。

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2 研究の背景 新材料や新素材の開発は、多くの研究分野で重要な課題であり、様々な物質系を対象にした研究 が進展している。特にエネルギー問題や環境問題に関連が深い分野では、より優れた材料を得るこ とを目指した喫緊の課題となっている。このような状況の中で、我々はセラミックスを主な対象と して、高温超伝導や強相関電子物性の研究を進めてきた。その過程で、2009 年に、新素材(ペロブ スカイト型オスミウム酸化物)の合成に成功した。この新素材は非常に大きな特徴をもち、十分高 温では金属的な性質を示すが、140℃以下の温度では絶縁体になる。この導電性の消失に関するメカ ニズムについて、その後の継続的な研究でも明確な結論が得られていなかった。 成果の内容 NIMS で合成されたペロブスカイト型オスミウム酸化物(図1)は、磁性と導電性を有するセラ ミックスである。十分な高温では金属的な性質を示すが、140℃を境に急激に導電性を消失して、室 温付近では絶縁体になる。この導電性の急峻な変化に関するメカニズムを明らかにするために、実 験室で独自の研究を進めてきたが、明確な結論は得られなかった。しかしながら、導電性の変化と、 このセラミックスの固有の磁性との間に強い相関があることが示唆された。これまでの実験結果を 総合的に考察すると、この導電性の変化は、これまでに限られた物質で観測されてきたスレーター 機構と同じメカニズムで引き起こされている可能性が高いと思われた。この可能性を検証するため、 オークリッジ国立研究所の研究グループと共同で主に中性子線回折法によって試料の結晶構造や磁 性、それらと導電性の消失との関連を詳細に調べた。 図1:ペロブスカイト型オスミウム酸化物の結晶写真(左図)とその結晶構造 の模式図(右図)。白丸はナトリウムイオン、赤丸は酸素イオン、八面体の中心 部分にオスミウムイオンがある。 実験の結果、この電導性の消失と磁気秩序の発達には確かに強い相関があること、この相関は結 晶構造の変化を伴わないこと、磁気秩序の周期性がスレーター機構から予測される周期性と一致す ることなど、スレーター機構を強く示唆する結果が得られた。今回の実験から推定されるペロブス カイト型オスミウム酸化物の電導性の消失に関するメカニズム(スレーター機構)を模式的に図2 に示す。

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3 図2:スレーター機構の模式図。(左図)電子スピン(緑色の矢印)の秩序化に よって結晶の最小周期が2 倍になった様子を模式的に示している。(右図)左図 の結晶の周期性の変化に対応する電子バンド構造4)の変化の模式図。周期性の 変化によってエネルギーギャップが開き、金属的なバンド構造が絶縁体的に変 化する様子を示している。 波及効果と今後の展開 これまで、電導性の消失に関するメカニズムとして、伝導電子間の強いクーロン相互作用によっ て引き起こされる機構や格子欠陥や不純物などによって引き起こされる機構など幾つか知られてい るが、スレーター機構の研究例は限られていた。おそらく、研究に適したモデル物質が尐なかった ためと思われる。今回の研究によって、スレーター機構の研究に最適なモデル物質が開発されただ けでなく、新素材として応用展開できる可能性が新たに出てきた。今後さらに関連物質の探索や特 性向上を目指す研究が進めば、スレーター機構の理解が深まるとともに、これまでにない特性を示 す新材料シーズを開発できる可能性がある。具体的には、テラヘルツ領域の信号を検出する固体素 子や新熱電変換材料の開発が期待でき、さらに研究を進めている。 用語解説 1) スレーター絶縁体:金属的な性質を示す結晶の電子エネルギーバンドが、電子スピンの秩序化 による磁気構造の周期性に影響され、電子エネルギーバンド構造にギャップが生じ、絶縁体と なる物質。 2) ペロブスカイト型オスミウム酸化物:ペロブスカイト(灰チタン石)と類似の結晶構造を持つ 酸化物で化学組成NaOsO3を持つ。 3) 中性子回折法:物質の結晶構造や磁気構造による中性子線の回折現象を利用する実験手法。特 に磁性の研究に有用である。 4) 電子バンド構造:結晶などの固体の中で、波として振舞う電子が結晶格子の周期性などによっ て変調を受け、電子のとり得るエネルギー領域がいくつかのバンド状に限られている様のこと。

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4 本件に関するお問い合わせ先 (研究内容に関すること) 独立行政法人 物質・材料研究機構 超伝導物性ユニット 主幹研究員 山浦 一成(やまうら かずなり) TEL:029-860-4658、FAX:029-860-4674 E-mail:YAMAURA.Kazunari@nims.go.jp (報道担当) 独立行政法人 物質・材料研究機構 企画部門広報室 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 TEL:029-859-2026、FAX:029-859-2017

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