14 人 工 知 能 30 巻 1 号(2015 年 1 月) 「編集委員会企画─社会と AI の羅針盤 2015 ─」 最近,人工知能に基づく計算機の知的能力の向上が社 会的に認知されてきたことに伴って,一般の人から期待 とともに不安や恐れを感じていることを聞かされる機会 が増えた.ここでは,人工知能システムが人間に受け入 れられるための条件について,筆者自身が一人の AI 研究 者として日頃,素朴に感じていることを述べてみたい. まず,議論の前提として,人間の行っている高度で 専門的な知的活動における意思決定(例えば工学設計や 医療診断など)を,人工知能が,人間の関与なしで自動 的判断を行うのではなく,人間に案を提示しインタラク ションすることで協調的に意思決定を支援する,という 状況を想定する.これはいわゆる Intelligence Amplifier (IA)であり,AI ではないという主張も承知しているが, 筆者としては高度な意思決定への計算機の関与には,以 下のような条件を満たすIAが重要であると考えている*1. 満たすべき条件を一言でいうと「人間が人工知能の考 えに納得できる」ことである.人間が「データに基づく客 観的な自動的判断を疑義をはさむことなく採用する」傾 向の広がりには Weizenbaum も警鐘を鳴らしている [西 田 14].人間が,人工知能の提示した案に盲目的に従う のではなく,それを自己の思考で吟味・検証して根拠・ 思考過程・結論に納得したうえで,自分の意見を人工知 能に伝え,知的な相互作用に基づいて意思決定を行える ことが重要である.そのためには,人工知能が自己の思 考を説明し人間を納得させられる能力をもつことが必要 である.これはメタ認知能力 [溝口 13] であり,[堀 13] でも「自らが自らを語れるように新しい知能の世界を構 成すべし」ことが人工知能の規範として述べられている. そのような「納得を得る」ためには,例えば,以下の ような項目を人間に説明できることが重要であろう. ● 判断の根拠となった情報のソースと範囲 ● モデルや理論の仮定や前提と能力の限界 ● 入力から出力を生成する思考の過程 ● ユーザとのインタラクションにおける反応の理由 始めの 2 項目は,人工知能システムが工学的人工物で あり,特定の観点・仮定・前提に基づいた現実世界の「概 念化」であるモデルに基づく以上,必然的に内在する仮 定や前提条件と能力の限界について,人間が,信頼性と リスクを評価でき,個人的かつ社会的に理解され受け入 れるために重要なことである. 後の 2 項目は,人工知能システムの思考の筋道の確 からしさを検証し,思考の内容に人間が(相互的に)影 響を与えることができる(という感覚を人間がもつ)た めに重要なことである.思考過程がブラックボックスに なっていて,例えば,機械学習を用いた場合に「学習の 結果,このような解が出ました」という説明でユーザが その解を納得して受け入れられるであろうか? このような納得の仕方は,人間の思考の「明示的理解」 [元田 99] に基づくものであり,必ずしも「客観的理解」 ではないことに注意が必要である.例えば,人間の物理 的事象の理解は因果性に基づくことが多いが,数学的に は定義されない平衡状態式内の変数間にも因果関係を見 いだすことがある [元田 99].AI 応用の現場では,客観 的相関性では納得されず,因果的説明が求められる [山 口 14].このように,人間は主観的で概念的な自分自身 の理解の仕方に寄り添った説明を求めているのであり, 人間の対象の捉え方を表す概念体系 [溝口 13] に基づい て捉え方の多様性に対応できることが求められる. これは人間の自己認識の問題であり,人間の自然知能 の方法と同じとは限らないし,人工知能の実現機構とも 違っていてもよいが,人間の納得性のためには,人間が 自己で認識しているやり方に合わせて説明できる必要が ある.その一方で,計算機が人間とは違う思考特性をも つことは工学的に有用である.例えば,人間の意思決定 は仮説空間の絞り込みが素早い傾向があるが,逆に前例・ 先入観・思い込み・分野にとらわれた見落としが起こる 可能性がある.仮説空間を管理し網羅性をもつ計算機の 特性に基づいた協調的な知のインタラクションによっ て,そのような見落としを防げる可能性がある. 人工知能がこのような条件を満たすことで人間の「納 得」を得ることが,人工知能と人間の知的な協調による, 単独で行うよりも「より良い意思決定」の実現と,実社 会への普及と貢献に重要であると思う.
納得性(<特集>編集委員会企画-社会とAIの羅針盤2015-)
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