原 著
出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性の心的傾向
山崎由美子1) 要 旨 目的:出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性の語りを通して、その心的傾向を理解し、 求められるケアの示唆を得ることであるO 方法:研究参加者は、出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性8名であるO 半構造化面 接を実施し、質的記述的研究の手法を用いて分析したり 結果と考察:6つのカテゴリーが抽出された。[医療過誤がもたらした喪失体験]では、肯定的な 出産体験を喪失し、自己の価値を見失っていた。[医療過誤の存在と責任の探究]では、医療過誤 の存在を確信した女性たちは、その真相を究明し、誠意ある謝罪を強く求めた。[次子出産への希 望と恐怖]では、悲しい出産のまま終わらせたくないという気持ちを抱く一方で、同じことが繰 り返されるのではないかという恐怖心に苛まれていた。喪失した児への思いは、[次子に喪失した 児への思いを重ねる!という体験をもたらせた。[喪失した児とともに生きる]では、喪失した児 といつまでも繋がっていたいという思いを抱きつづけていたが、その思いは時間の経過とともに、 周囲の人々との聞に距離を生じさせた。[自己の価値を取り戻す]では、苦悩から救われた思いを したことで、自己の存在価値を実感し、これからの自分のあり方を転換させていた。女性たちの 苦悩をケア提供者が気づき、支える必要があるO キーワード:出産、医療過誤、喪失、心的傾向1.緒言
多くの女性が、周産期における児の喪失を体験し ている。先行研究によれば、児の喪失は抑うつなど の心理的な反応を引き起こし、次の妊娠をすべき か否かという意思決定にも影響を及ぼす1)ことや、 児の喪失を体験した女性が次の妊娠・出産を選択し た場合は、喪失体験のない女性と比較して不安のレ ベルが高く、児に対する心理的な愛着から遠ざかる ような感覚を抱く 2)ことが報告されているO また、 今ある自分を支援してほしいという女性のニーズが 明らかにされる一方で、児の喪失を契機に医療者と の信頼関係が破綻し、次の妊娠・出産では医療者を 支援者として選ばなかったおという報告もある。 しかし、周産期における児の喪失を体験した女性 の心理には、年齢や妊娠・分娩歴、児の死固などが 影響していると考えられるが、これらを検討してい る研究は少ない。特に、児を喪失した原因が医療過 1)川崎市立看護短期大学 誤によるものである場合、女性の心理はより複雑で、 あることが推測されるが、これについての研究も見 当たらない。近年、周産期医療過誤訴訟が増加して いることからも、出産にかかわる医療過誤により児 を喪失した女性がどのような思いを抱き、何を望ん でいるのかを理解することは、適切な支援を行うた めに重要と思われる。また、このような体験をした 女性が次の妊娠・出産を選択した場合は、医療者へ の不信感を募らせ、適切な支援を求めることもでき ず、不安を抱えながら出産に臨むケースも多いと推 測され、早急な対応が求められていると考える。 したがって、本研究では、出産にかかわる医療過 誤により児を喪失した女性(医療過誤により被った 障害を原因として児を喪失した場合を含む)の語り を通して、その心的傾向を理解し、求められるケア の示唆を得ることを目的とする。1
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用語の操作的定義
医療過誤:本研究において医療過誤とは、リスク応じては面接を中断し、思いを傾聴するなどの配慮 を行った。 データの収集期間は、平成 22 年 8 月~1O月であっ た。 4.データ分析方法 分析過程では、データ収集と分析を同時に行った。 データを文章に起こし、全体の感覚をつかみながら データを注意深く読み、意味のまとまりに沿って区 切り、コードを抽出した。コードを分類し、整理、 統合して、サブカテゴリ一、カテゴリーを作成した。 データ分析の際には、データの信頼性と妥当性を 高めるために、質的研究の方法論に精通した専門家 により助言を受けた。
5
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研究参加者への倫理的配慮 面接を始める前に再度研究の目的を説明し、匿名 性が保たれること、発言内容が研究以外の目的で使 用されることのないこと、本研究への協力は自由意 思基づくものであり、いずれの時点においても拒否 による不利益は生じないことなどについて確認し、 同意書にサインをもらい調査を実施した。 マネージメントマニュアル作成指針4)の「医療事 故の一類型であって、医療従事者が、医療の遂行に おいて、医療的準則に違反して患者に被害を発生さ せた行為」とし、裁判や鑑定等により医療過誤が認 定または推定されているものとした。皿.研究方法
1 .研究デザイン 出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性 の心的傾向を、女性の語りを通して帰納的に探索す るため、質的記述的研究の手法を用いた。町.結果
本研究結果から、[医療過誤がもたらした喪失体 験] [医療過誤の存在と責任の探究] [次子出産への 希望と恐怖] [次子に喪失した児への思いを重ねる] [喪失した児とともに生きる] [自己の価値を取り戻 す]という 6つのカテゴリーが抽出された。以下に 各カテゴリーについての結果を示す。なお、本文中 のカテゴリーは[ ]、サブカテゴリーは< >、記 述内のI
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の部分は研究参加者の口述の語りを引 用した箇所であり、( )内は研究者が語りを補っ た箇所であるO 研究参加者の属性は、表1
に示す。 2.研究参加者 研究参加者は、出産にかかわる医療過誤により児 を喪失した女性8名である(この中には裁判係争中 や裁判外紛争処理検討中の女性を含むが、調査時に おいて鑑定等で医療過誤と推定されているため、研 究参加者に該当すると判断した)0 医療過誤被害者 が組織する団体の承諾を得て、その団体が開設する メーリングリストを活用して研究参加者を募集し、 協力の意思を示した女性に対し研究者が文書で依頼 した。研究参加の同意を得た後、後日あらためて研 究者が口頭と文書にて参加協力の承諾を得た。3
.
データ収集方法 研究参加者の希望する場所および時間帯に、一人 当たり平均90分間の半構造化面接を実施した。イ ンタピューガイドを用い、「あなたが医療過誤を体 験してから現在に至るまでの気持ちゃ印象に残る出 来事をお話しください」と投げかけ面接を開始し、 研究参加者の立場が脅かされぬようベースに沿って 面接を進めた。会話は研究参加者の了解を得てI
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レコーダーに録音した。 研究参加者は面接をすることで医療過誤被害を想 起し、心理的負担も大きいと思われるため、状況に 出産状況 前 期 破 水 陣 痛 促 進 剤 投 与 過 強 陣 痛 吸 引 分 娩 胎 児 機 能 不 全 生 後 数 日 で 死 亡 前 期 破 水 陣 痛 促 進 剤 投 与 常 位 新 盤 早 期 剥 離 帝 王 切 開 胎児機能不全脳に障害が残り 2歳で死亡 前 期 破 水 陣 痛 促 進 剤 投 与 過 強 陣 晴 帝 王 切 開 胎 児 機 能 不 全 生 後 数 時 間 で 死 亡 子 宮 破 裂 帝 王 切 開 生 後 数 日 で 死 亡 前 期 破 水 陣 痛 促 進 剤 投 与 帝 王 切 開 胎児機能不全脳に障害が残り 8ヶ月で死亡 前 期 破 水 常 位 胎 盤 早 期 剥 離 帝 王 切 開 死 産 陣 痛 促 進 剤 投 与 子 宮 破 裂 帝 王 切 開 胎児機能不全脳に嘩害が残り l歳で死亡 前 期 破 水 陣 痛 促 進 剤 投 与 帝 王 切 開 胎児機能不全脳に障害が残り 2歳で死亡 表1研究参加者の概要 裁判j等 有(和解) 出産場所 個人産院 妊娠・分娩暦 経 産 婦 ( 第2子) 時期 5年前 年 齢 30歳前半 事例 A ADR (裁判外紛争処理)検討中 有(勝訴) 無(示談) 無(示談) 有(和解) 有(勝訴) 大学病院 総合病院 個人産院 個人産院 個人産院 大学病院 初 産 婦 初 産 婦 釜童昼i筆3子) 初 産 婦 量産注品丘i
経 産 婦 ( 第3子) 5年前 10年前 11年 前 6年前 9年前 18年前 30歳後半 40歳前半 盟藍並主 30歳後半 40歳後半 50歳前半 B C一
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G 有(裁判係争中) 総合病院 経 産 婦 ( 第2子) 5年前 30歳後半 H1.[医療過誤がもたらした喪失体験] このカテゴリーは<肯定的な出産体験の喪失>、 く自己の価値の喪失>という 2つのサブカテゴリー から構成された。 1)(肯定的な出産体験の喪失〉 医療過誤により、喜びゃ満足感に満ちあふれた肯 定的な出産体験を喪失し、深い悲しみを感じていた。 これは、肯定的な出産体験をしたと思われる健康な 母子を遠ざける行為としても表れ、すべての女性が その思いを語っていた。
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[医療過誤の存在と責任の探究] このカテゴリーはく医療過誤の存在を確信する>、 <真相究明を求める>、く誠意ある謝罪を求める> という3
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<真相究明を求める> 医療過誤の存在を確信したすべての女性は、その 真相を究明するために医療従事者との話し合いを求 め、行動を開始した。しかし、納得のいく説明が 得られないことから、7
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[次子出産への希望と恐怖] このカテゴリーは〈悲しい出産のまま終わらせた くない気持ち〉、〈次子出産への恐怖心〉という2
つ のサプカテゴリーから構成された。 1)(悲しい出産のまま終わらせたくない気持ち〉 喪失した児をもう一度産みたいという思いや、本 来の自己の価値を取り戻したいという思いから次の 妊娠を希望する女性が5
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[次子に喪失した児への思いを重ねる] 健康な次子を授かったという大きな喜びの体験 は、喪失した児への思いを一層強くする作用をもた らし、次子に喪失した児への思いを重ねていたこと に気づく女性が3
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[喪失した児とともに生きる] このカテゴリーは〈喪失した児との繋がりを求め る〉、〈周囲の人々との距離〉という2
つのサプカテ ゴリーから構成された。 1)(喪失した児との繋がりを求める〉 すべての女性は、喪失した児といつまでも繋がっ ていたいという思いを抱きつづけていた。また、こ の思いは死生観までを変化させた。 行去を押の止めのtiE:摺解金人子ど6の必の;jfE!分 のヂi
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[自己の価値を取り戻す] このカテゴリーは〈苦悩から救われた思い〉、〈こ れからの自分のあり方の転換〉という 2つのサプカ テゴリーから構成された。 1)(苦悩から救われた思い〉 すべての女性は、ある人との出会いによって苦悩 から救われた思いを体験していた。また、裁判等、 被害を公の場で認められたことを通して、自責の念 を開放させた女性もいた。f
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2) (これからの自分のあり方の転換〉 すべての女性は、児の喪失体験から培った自己の 存在価値を実感し、これからの自分のあり方を転換 させていた。それは、同じ過ちを繰り返さないでほ しいという願いや、自己の体験を社会へ発信したい という思いで表された。 f!JEf#離合 ζ!: ;,少 L 泣いて宗すね。厚 C超ち ~i安 fJ;g ~Jd: いでは LVlJ 傍若星雲'fJU#Bノ刀
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考察
以上の結果から、出産にかかわる医療過誤により 児を喪失した女性の心的傾向は、従来研究されてき た児を喪失した女性に共通するものと、医療過誤に より児を喪失した女性に特有のものが存在すること がわかった。以下、これらに分けて考察する。 1.児を喪失した女性に共通する心的傾向 1)[次子出産への希望と恐怖] 喪失した児をもう一度産みたいという思いや、本 来の自己の価値を取り戻したいという思いから次の 妊娠を希望したものの、次子出産に至る過程で強い 恐怖心を抱くという心的傾向は、児を喪失した女性 に共通する 5)6)ことがわかった。児を喪失した女性 は、妊娠と出産の安全な経過を求めるという母性課 題の遂行から挫折し、自己と家族の健全性と無傷性 を奪われたと感じる7)。本研究で明らかとなった〈悲 しい出産のまま終わらせたくない気持ち〉は、まさ にその空虚感を埋めるための行動と理解することが できる。 また、女性は、過去の児の喪失を体験した時点ま で強い不安を有する 8)ことが報告されており、本 研究においても、〈次子出産への恐怖心〉は、出産 が近づくにつれ強まっていくことがわかった。また 同じことが繰り返されるのではないかという恐怖心の裏には、二度と同じ体験を繰り返したくないとい う切実な思いが存在している。しかし、医療者への 不信感をぬぐいさることのできない女性は、医療者 による適切な支援を求めることができず、恐怖心に 苛まれながら次の出産に臨んでおり、これについて は医療過誤により児を喪失した女性により強く表れ ていることがわかった。医療従事者は、医療過誤被 害者がその事実を自分から伝えることの難しさを理 解することが必要と思われる。 死産を含む周産期死亡を経験した女性の
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割以上 が次の妊娠を考える 9)という報告がある。本研究で は、5
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人の女 性は次子出産を諦めるという選択をしていた。次子 出産への恐怖心は、次の妊娠をすべきか否かという 意思決定にも影響を及ぼしていることがわかった。 2) [次子に喪失した児への思いを重ねる] 死産後の悲嘆から回復していない状況のままに次 子の妊娠に移行した場合、死産体験が影響して、次 子との新たな母子関係の形成過程に一時的な停滞が 起こったり、死産児と次子の区別ができずに次子を 受け入れにくい5)との報告がある。本研究におい ても、次子を出産し、喜びに満ちあふれた思いを感 じる一方で、喪失した児に対しやりきれない思いを 抱き、葛藤や罪の意識に苛まれ、次子と喪失した児 を区別できずにいる女性の心的傾向を読み取ること ができた。このような感情の混乱は、女性を苦しめ るだけでなく、次子の人格形成においても問題を生 じさせることにつながる可能性もある。 3) [喪失した児とともに生きる] 喪失した児のことを語ることを通し、児の存在を 現実のものとしてとどめておきたいと考えているに もかかわらず、その語りを受け容れてくれる相手の 少ないこと10)が報告されている。本研究においても、 〈喪失した児との繋がりを求める〉女性の存在が明 らかとなった。これは、ゃまだ11)が述べているよ うに、「死者と共に生きる」決心をすることによっ て、生きる力を生成したと考えられ、女性のこれか らの人生に大きな影響を与えるものと考える。しか し、この思いは、時間の経過とともにく周囲の人々 との距離〉を生じさせ、女性を孤立させるという心 理的負担へと繋がっていくことも理解できた。女性 が喪失した児のことを語りたいと,思った時に、いつ でも語れる場の存在が必要であると思われる。2
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出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女 性に特有の心的傾向 1)[医療過誤がもたらした喪失体験】 女性は、医療過誤により〈肯定的な出産体験の喪 失) (自己の価値の喪失〉という2
つの喪失を体験 していた。出産体験を肯定的に受け止めるか、否定 的に受け止めるかによって、自分自身の価値を高め たり低めたりする 12)ことから、喜びゃ満足感に満 ちあふれた肯定的な出産体験の喪失は、女性の自己 の価値を喪失させたと考えられる。また、肯定的な 出産体験を喪失した原因が出産場所を選択した自分 にあると考え、児を守ることが出来なかった自分に 罪の意識を感じていることは、出産にかかわる医療 過誤により児を喪失した女性に特有の心的傾向であ り、女性の苦悩はより深いものであることがわかっ た。 2) [医療過誤の存在と責任の探究] 医療事故市民オンプズマンメデイオの調査13)に よれば、医療事故被害に遭い、その後どのような対 処をとったかについて、「医療事故について本で調 べた」が69.8%、「医療事故についてインターネッ トで調べた」が4
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と、ほとんどの人が情報収集 を行っていた。本研究においても、女性は児を失う という危機的な状況のなか、直感的にく医療過誤 の存在を確信する>という体験をしており、情報 収集を行っていた。それにより一層、医療過誤の存 在を確信したのである。 く真相究明を求める〉ために女性は行動を開始し たが、医療従事者から納得のいく説明を得られない ことから、ほとんどの女性は訴訟という法的な手段 や医療側が過失を認めた上での示談を選択した。我 妻14)は、不幸にして起きた結果に関して本人や家 族が医師に説明を求めても、医師が自ら誠意を示し て十分な説明をせず、逃げの姿勢を示しつづけるこ とがあるが、それによって患者や家族の不信感がま すます増大して訴訟に至ることが多いと述べている ことからも、医療従事者の対応には大きな問題があ り、それによって女性の不信感が強まっていったと 推測できる。 また、女性は、医療過誤にかかわった医療従事者 からの誠意ある謝罪を強く求めていた。和田ら15)は、 謝罪を患者やその家族の事故の受容を可能にする最 大の要素でもあると述べており、被害にあった女性 にとって、特別の意味が存在することがわかる。謝 罪は、医療従事者が女性と被害の重さを共感的に共有することの表明であり、お互いの関係を修復させ る手がかりにもなることを女性の語りから読み取る ことができた。 3) [自己の価値を取り戻す] すべての女性は、ある人との出会いによってく苦 悩から救われた思い〉を体験していた。出会いは女 性によって様々であったが、女性の思いに寄り添う 姿勢を示した人の存在は非常に重要な支援であった と思われる。また、裁判等、被害を公の場で認めら れたことを通して、自責の念を開放させた女性もい たことから、真相を究明することも重要であること が示唆された。 苦悩から救われた思いをした女性は、自己の存在 価値を実感し、これからの自分のあり方を転換させ ていた。同じ過ちを繰り返さないでほしいという願 いや、自己の体験を通し培ってきたものを社会に発 信したいという思いはすべての女性の中に存在し、 この体験を意義あるものとして受容し、自分のあり 方を転換してくれたものと意味付けていることがわ かった。また、これに至るには、長い年月を要する こともわかった。 3.求められるケアの示唆 医療過誤の被害者であるにもかかわらず女性は、 出産場所を選択した自分に過ちがあると考え、子ど もを守ることが出来なかった自分に罪の意識を感 じ、自己の価値を見失っていた。また、喪失した児 や、本来の自己の価値を取り戻したいという思いか ら次の妊娠を希望した女性は、医療者による適切な 支援を求めることもできず、恐怖心に苛まれながら 次の出産に臨んでいた。さらに、次子に喪失した児 への思いを重ねる体験は、女性を苦しめるだけでな く、次子の人格形成においても問題を生じさせる可 能性がある。これらのことから、児の喪失後から次 子の妊娠・出産・その後においても継続的な支援が 得られるような体制を整える必要がある。特に次子 の妊娠においては、悲嘆からの回復が重要であるこ とを女性に伝え、回復への支援を行うことが必要で ある。 女性の思いに寄り添う姿勢を示した人の存在は、 自己の価値を取り戻す過程において重要な役割を 担っていることがわかった。また、喪失した児とと もに生きる女性にとっても、このような人々の存在 は重要であり、時の経過とともに孤立する女性の心 理的負担を和らげる作用をもたらすのではないかと 考える。医療従事者は、このような支援を求めてい る女性の存在を理解し、それぞれの立場でかかわり を持ち続けることが必要である。 研究参加者の多くは、訴訟という法的な手段や医 療側が過失を認めた上での示談を選択した。裁判等、 被害を公の場で認められたことを通して、自責の念 を開放させた女性もいたことから、これらにより真 相を究明することは重要であることが示唆される一 方、裁判等により二次的な被害を受け、自己の価値 の喪失へとつながっていくことも考えられる。これ らのことから、医療過誤被害者の望む解決方法を尊 重しながら、医療従事者として早期から適切に対応 することが必要である。 出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性 の心的傾向は、児を喪失した女性に共通するものと、 出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性に 特有のものが存在するが、共通するものであっても、 医療過誤により児を喪失した女性により強く表れる ものもあり、特別の配慮が必要である。
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研究の限界 本研究参加者は、出産にかかわる医療過誤に遭遇 した時期や、児を喪失した経緯が異なっている。ま た、8
名という少数例の調査であり、妊娠・分娩歴 等の背景にもばらつきがあるという限界がある。し かし、その一方で、今までほとんど語られていなかっ た出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性 の思いを聞くことができたことは、これからの医療 施設における看護のあり方を見直すうえで大変意義 のあることだと考える。V
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結 語
出産にかかわる医療過誤により児を喪失した女性 の心的傾向は、[医療過誤がもたらした喪失体験][医 療過誤の存在と責任の探究1
[自己の価値を取り戻 す]という特有なものと、[次子出産への希望と恐怖] [次子に喪失した児への思いを重ねる1
[喪失した児 とともに生きる]という児を喪失した女性に共通す るものがあった。女性たちの苦悩をケア提供者が気 づき、支える必要がある。謝辞
本研究に参加し、深い心の体験を語ってくださっ た皆様に、心より感謝申し上げます。引用文献
1) Armstrong DS. Impact of prior perinatalloss on subsequent pregnancies.JOGNN. Vo.3l3, 6, 2004, p.765-773. 2) Denise Cote-Arsenault. The infiuebnce of perinatallosson anxiety in multigravidas.JOGNN. Vol.32, nO.5,
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