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高等学校の学校教育相談における発達障害生徒への支援に関する研究

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論文

高等学校の学校教育相談における

発達障害生徒への支援に関する研究

Ⅰ 問題の所在と目的

1 はじめに 近年の急激な社会変動の中、家庭や地域における教育力、教育機能が低 下していると言われ、高等学校に在籍する生徒一人一人の抱える問題が多 様化、深刻化する傾向がみられる。  具体的には、いじめ、不登校、暴力行為、薬物乱用、高等学校中退等、 いわゆる学校不適応とされる様々な問題も含め、学校教育における生徒指 導上の諸問題は、極めて多岐に渡るものとなっている(田代ら、2009)。 このような状況の中、基本的な生活習慣の定着や規範意識の醸成など日 常の生徒指導上に関する課題とともに、心や命にかかわる問題に対しても、 引き続き適切な対応が求められている。

Personal Injury Trust in the United Kingdom

SHIMIZU Hiroshi

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児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(文 部科学省、以下「文科省」、2018)では、2018年度の高等学校中退者数が 48,594人で、年度当初の在籍者数の1.4%に当たると報告されている。また、 中退事由としては、進路変更が35.3%、学校生活・学業不適応が34.2%と 高くなっている。さらに、この中の学校生活・学業不適応の内訳では、も ともと高校生活に熱意がないが12.0%、人間関係がうまく保てないが7.2% とそれぞれ高くなっている。これに対しては、社会環境の変化により、家 庭生活における核家族の増加、兄弟姉妹の数の減少、共働き、個室・孤食 化が進んでいることや、地域住民との交流が減少したことにより、生徒の 人間関係や社会性が十分に育っていないことなどが原因として挙げられて いる。 なお、ここで挙げられた学校生活・学業不適応に関する問題等に対して は、問題行動に対する個人指導、集団指導などの成果を踏まえた様々な取 り組みがみられるが、学校生活に困難さを感じる生徒の中には、発達障害 を含めた様々なニーズを持った生徒たちが在籍しており、生徒一人一人の 特性に配慮した適切な支援が求められている。 このような中、高等学校に進学する発達障害等困難のある生徒の高等学 校進学者全体に対する割合は増加傾向にあり、なかでも全日制課程(1.8%) に比べ、定時制(14.1%)や通信制(15.7%)の課程に多く在籍している(文 科省、2009)。この状況への対応として、特別支援教育コーディネーター の指名や校内委員会の設置などを中心に、支援を必要とする生徒の共通理 解に努めることや、実態把握に基づいた通常の授業における個に対する配 慮等、具体的な支援の取り組みが少しずつ浸透してきている。 また、各課程を修了するための単位修得に向けた各教科・科目の指導を どのように充実させていくか、さらに、多様化する卒業後の進路に対応し た進路指導をどのように進めていくかといった課題等が挙げられている。 これらに対しては、支援を必要とする生徒に対する指導形態や指導内容の 工夫等を含めた校内体制における取り組みが手探りであることなどから、

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生徒の多様な教育的ニーズに対応していくことが難しい状況にある。この ようなことから、発達障害生徒が十分な教育を受けられるようにするため に、適切な支援の在り方や実効性のある校内体制の構築等が求められてい る(青木、2016)。 一方、学校における様々な課題に対応する機能の一つとして多くの有効 性が報告されている学校教育相談は、「一人一人の生徒の自己実現を目指 し、本人又はその保護者などに、その望ましい在り方を助言することを目 的とし、すべての教員が生徒に対するあらゆる教育活動の実践の中に生か して、教育相談的な配慮をすること(文部省、1999)。」と位置付けられて いる。また、発達障害生徒一人一人の特性理解と適切な支援に対する教育 相談の重要性(生徒指導提要、2010)も併せて求められている。 今回の研究では、高等学校への進学率が98%程度となっている現状の中、 高等学校においても、支援を必要とする生徒が多く在籍していることが推 測されることを踏まえ、高等学校の学校教育相談における発達障害生徒へ の支援の在り方について検討することを目的とする。 2 高等学校における特別支援教育関係の法令等 2007年に特殊教育から発展的に転換された特別支援教育は、今年で14年 目を迎える。 現在までの間に、高等学校を含む各学校は、特別支援教育の推進に向け て様々な特別支援教育の体制整備を進めてきた。 具体的には、校内委員会の設置、実態把握の実施、特別支援教育コーディ ネーターの指名、特別支援教育支援員の配置、個別の教育支援計画や個別 の指導計画の作成・活用、教職員研修など教員の専門性向上のための取り 組みなどとなっている。  ここでは、高等学校における特別支援教育関係の法令等を概観する。

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(1)特別支援教育を推進するための制度のあり方について(答申) 高等学校における特別支援教育は、2005年の中央教育審議会答申で初め て文科省において言及された。 表1に特別支援教育に関する記述を示す。  表1 特別支援教育を推進するための制度のあり方について(答申) 第6章 関連する諸課題について 四.就学前及び後期中等教育等における特別支援教育の在り方について (省略)今後、高等学校に在籍している LD・ADHD・高機能自閉症 等の生徒に対する指導及び支援の在り方、養護学校(特別支援学校(仮 称))高等部の充実方策や、障害のある児童生徒に係わる前期中等教育 と後期中等教育との接続の在り方など、後期中等教育における特別支 援教育の推進に係わる諸課題について、早急な検討が必要である。 (2)学校教育法 2007年の改正において、高等学校においても特別支援教育を行うことが 明記された。 表2に特別支援教育に関する記述を示す。 表2 学校教育法 【第 81 条第1項】 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学 校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒そ の他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、文部 科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難 を克服するための教育を行うものとする。

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(3)高等学校学習指導要領 高等学校学習指導要領総則(2009)に、初めて障害のある生徒の指導に 関する記述が独立した項目として明示されている。 表3に特別支援教育に関する記述を示す。 表3 高等学校学習指導要領 【総則第5款「教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」の5の(8)】 障害のある生徒などについては、各教科・科目等の選択、その内容 の取扱いなどについて必要な配慮を行うとともに、特別支援学校等の 助言又は援助を活用しつつ、例えば指導についての計画又は家庭や医 療、福祉、労働等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画 を個別に作成することなどにより、個々の生徒の障害の状態等に応じ た指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと。 (4)高等学校における特別支援教育の推進について(報告) 2009年に、特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議に置かれた 高等学校ワーキング・グループが、高等学校における特別支援教育の推進 体制整備及び高等学校における発達障害のある生徒への教育支援(入学試 験の配慮の在り方、生徒への指導、進路指導等)の課題について検討し、 取りまとめた。 (5)高等学校における発達障害支援モデル事業 この事業では、モデル校において、ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training:社会生活技能訓練、 以下「SST」)に関する指導、授業・ 教育課程の工夫、教職員の理解・啓発、就労支援等を研究実践し、支援の 在り方等を全国に発信することをねらいとしている。 モデル校研究に関するキーワードを集約してみると、①生徒の実態把握 や校内組織体制の在り方、②支援のための関係機関ネットワーク作り、小・

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中・高の継続的指導・支援の在り方、③生徒、教職員、保護者そして地域 住民の理解啓発、研修、④効果的指導法・支援方法、シラバスの改善、⑤ 個別の指導計画、個別の教育支援計画、⑥キャリア教育、SST、⑦保護者 支援、保護者同士の支え合い等、多岐に渡っている。 以上のような流れから、高等学校における特別支援教育体制が少しずつ 構築されてきたが、今後のさらなる特別支援教育推進の加速化が期待され るところである。

Ⅱ 方法

1 学校教育相談部会報告書の分析 A県では、高等学校・特別支援学校教育研究会の中に、学校教育相談部 会を位置付け、実態調査や課題研究等を中心とした取り組みを行っている。 A県高等学校・特別支援学校教育研究会学校教育相談部会運営規則によ ると、この部会は、A県高等学校・特別支援学校における教育相談の研究 推進と充実を図ることを目的として設置された。また、A県高等学校・特 別支援学校教育相談担当関係職員で組織され、部会を、北部地区、中部地 区、南部地区の3カ所に置き、①中央研究大会(総会、研究大会)、②地 区研究会(北部、中部、南部)、③調査研究、資料の刊行、等を主な事業 内容として、1997年より開始されている。 報告書を概観すると、近年は、発達障害等を取り扱った事例報告が増加 傾向にあり、高等学校に在籍する発達障害生徒への適切な対応が求められ ている。 具体的な検討内容を以下に示す。 (1)対象資料 A県高等学校・特別支援学校教育研究会学校教育相談部会報告書第3号 (1999)~第22号(2018)。

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(2)方法 ①北部地区、中部地区、南部地区の3カ所の事例報告内容をテーマ毎に 整理し、その中から、発達障害に関する内容を分析する。 ② 事例報告で挙げられた発達障害生徒に対する支援内容の現状を分析する。

Ⅲ 結果

1 学校教育相談部会報告書の分析  A県高等学校・特別支援学校教育研究会学校教育相談部会報告書の事例 報告内容をテーマ毎に分析した。 (1)不登校 不登校の内容に関しては、22回の報告があり、報告全体の22.5%となっ ている。  表4に不登校に関する内容を示す。 表4 不登校の主な内容 ・不本意入学から生じたとみられる不登校の事例 ・登校意欲をなくしてしまった生徒の事例 ・不登校、別室登校生徒への適応体制作り ・小中学校「不登校」から、高校3年間皆勤で管理栄養士に ・いじめによる不登校から再登校への歩み ・不登校生徒の理解と支援について 内容として、不登校生徒の理解と支援の在り方の検討等について多く挙 げられた。また、保健室の活用や将来の進路など、進路指導と併せた支援 もみられた。

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(2)別室登校 別室登校の内容に関しては、9回の報告があり、報告全体の8.8%となっ ている。  表5に別室登校に関する内容を示す。 表5 別室登校の主な内容 ・別室登校生徒への取り組みから ・人間関係作りの苦手な生徒−別室登校の試み ・教室に入れない生徒への対応 ・教室外登校の運用規定について 別室登校として、一人の生徒への取り組みを中心とした内容が多く挙げ られた。また、教育相談担当者として、別室登校の生徒へ対応する中で、 併せて学校における登校規定を見直すなどの取り組みもみられた。 (3)教育相談の現状と課題 教育相談の現状と課題の内容に関しては、2回の報告があり、報告全体 の1.9%となっている。 表6に教育相談の現状と課題に関する内容を示す。 表6 教育相談の現状と課題の主な内容 ・本校における教育相談の現状と課題 ・生徒と関わりから、本校の教育相談の在り方を考える 教育相談担当者として、所属校における教育相談体制の在り方を見直す 取り組みが挙げられた。

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(4)セルフエスティーム セルフエスティームの内容に関しては、1回の報告があり、報告全体の 1.0%となっている。 表7にセルフエスティームに関する内容を示す。 表7 セルフエスティームの主な内容 ・高校生のセルフエスティームについての一考察 生徒のセルフエスティームを取り扱った取り組みが挙げられた。 (5)友人関係(人間関係) 友人関係の内容に関しては、3回の報告があり、報告全体の2.9%となっ ている。  表8に友人関係(人間関係)に関する内容を示す。 表8 友人関係(人間関係)の主な内容 ・友人関係が悪化し、教室にいるのがつらい生徒の事例 ・人間関係作りの苦手な生徒への取り組み ・クラスの中で浮いてしまう生徒 友人関係が適切に構築できない内容について挙げられた。

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(6)学校不適応 学校不適応の内容に関しては、12回の報告があり、報告全体の11.8%と なっている。  表9に学校不適応に関する内容を示す。 表9 学校不適応の主な内容 ・学校不適応を訴える(リストカットを伴う)生徒への理解と対応 ・グループ内での人間関係構築における不適応への対応について ・学校不適応生徒への支援と関わり方について ・家庭環境から体調不良を訴える生徒の支援について ・家庭環境により、進路決定に悩む生徒の支援について ・神経症の生徒に対する進路(受験)支援 ・精神疾患を発症した生徒に対する登校支援 ・統合失調症のある生徒への対応 ・適応障害を発症した生徒への対応と支援 ・U − Q における要支援群生徒への教育的アプローチ 学校生活の様々な場面で不適応を起こす内容について挙げられた。具体 的には、人間関係、進路決定、精神疾患等が挙げられた。 (7)学級経営 学級経営の内容に関しては、7回の報告があり、報告全体の6.9%となっ ている。  表10に学級経営に関する内容を示す。

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表10 学級経営の主な内容 ・ミラクルカンパニー A 方式による事例研究 ・U − Q を生かした学級経営 ・グループエンカウンターを用いた LHR ・U − Q を用いた事例検討会 ・U − Q を用いた学級集団の理解 U−Q等様々なアセスメント等を活用した取り組みが挙げられた。 (8)学校体制 学級体制の内容に関しては、26回の報告があり、報告全体の25.5%となっ ている。  表11に学校体制に関する内容を示す。 表11 学校体制の主な内容 ・スクールカウンセラー活用事業について ・学校カウンセラー活用と不適応生徒への援助体制作り ・教育相談室利用生徒への支援について ・学級通信を学級経営に生かす取り組み ・スクールカウンセラーと学級担任との連携について ・ 本校における生徒支援体制−欠席状況調査・生徒の実態把握調査を 継続して− ・情報共有化とチーム支援について ・特別支援教育、校内体制の実績についての報告 ・コーディネーターを中心とした体制作り ・ 周囲を巻き込む生徒への指導と対応−医療との連携と校内協力体制 作り− ・教育相談の在り方について−キャリアカウンセラーとの連携−

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スクールカウンセラーを活用して支援に当たる取り組みが挙げられた。 また、学校における教育相談体制の在り方について検討する内容もみられた。 (9)問題行動 問題行動の内容に関しては、8回の報告があり、報告全体の7.8%となっ ている。  表12に問題行動に関する内容を示す。 表12 問題行動の主な内容 ・自傷行為を繰り返す生徒への対応 ・怠学傾向にある生徒との関わり ・自殺念慮を抱える生徒への関わり ・精神疾患と思われる症状を訴える生徒の対応について ・リストカットを繰り返す生徒への対応 ・生徒の薬物乱用に関する意識調査について ・進路変更希望の生徒への対応について 問題行動として、自傷行為、怠学、自殺念慮、精神疾患等への取り組み が多く挙げられた。 (10)発達障害 発達障害の内容に関しては、11回の報告があり、報告全体の10.8%となっ ている。  表13に発達障害に関する内容を示す。

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表13 発達障害の主な内容 ・発達障害を持つ生徒の指導について ・コミュニケーション能力欠如の生徒の教育的アプローチについて ・ADHD 傾向にある生徒への対応 ・ 集団におけるコミュニケーションを取ることが苦手な生徒への支援 について ・本校の発達障害の現状とスクールカウンセラー支援体制 ・アスペルガー症候群の生徒に対する支援について ・発達障害生徒における成長過程 発達障害生徒への支援の在り方を中心とした取り組みが多く挙げられた。 (11)内容種別毎の割合 表14に内容種別毎の割合を示す。 表14 内容種別毎の割合    内容          回数           割合 1 学級体制         26 回         25.5%  2 不登校      22 回         22.5% 3 学校不適応        12 回         11.8%  4 発達障害         11 回         10.8%  5 別室登校          9回          8.8% 6 問題行動          8回          7.8%  7 学級経営         7回          6.9%  8 友人関係          3回         2.9% 9 教育相談の現状と課題    2回         1.9% 10 セルフエスティーム     1回         1.0%

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内容種別毎の割合をみると、第1位が学校体制(25.5%)、第2位が不 登校(22.5%)、第3位が学校不適応(11.8%)、第4位が発達障害(10.8%) となっている。また、発達障害の内容は、報告内容全体の約1割を占めた。 2 発達障害に関連する事例分析 報告書の中で、発達障害に関する内容が含まれている報告を選択し、具 体的な支援及び課題等について、整理、分析した。 (1)事例1   ① 概要  高等学校普通科3年生、Aさん、男子、アスペルガー症候群。  Aさんは、対人関係がうまくいかずトラブルを起こしてしまうことがみ られた。その後、進路への目標を見出し、進級後も引き続き進路に向けて 努力をすることによって、人間関係面では、自分なりに自覚を持って、改 善に向けた言動がみられるようになった。  ② 経過  保護者会にて、Aさんの障害名及び中学校からの引き継ぎの確認があり、 学校側の実態に関する把握状況について共通理解を図った。  クラスでのからかいやトラブルがみられたので、適切かつ迅速に対応し たが、このことにより、Aさんと担任教員との信頼関係が構築できた。  具体的には、担任と本人との信頼関係を築きつつ、保護者と情報を共有 しながら継続的に指導を行うことで、生徒自身が自己理解を深めながら自 らの持つ力を伸ばすことや、困った時に支援を申し出る力を育むことにつ ながったと思われる。また、このような教員の対応が一つのモデルとなり、 結果として、本人への周囲の理解が深まり、環境が整えられていったと考 えられる。  課題としては、卒業後の自立に向けて自分で乗り越える力をどのように 身に付けていくかということが挙げられる。

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 ③ 項目毎の内容  表15にAさんへの支援の状況等を示す。 表15 Aさんへの支援の状況 No 項目 内容 1 障害等 ・ アスペルガー症候群。 2 状況 ・ A さんの障害名や特性等に関する中学校からの引き 継ぎがなかった。 ・ クラスの中で、適切な人間関係が作れずに、特定の 生徒からのからかいや、嫌がらせ行為等があった。 ・ 卒業後の自立に向けて自分で乗り越える力を身に付 けることが求められる。 3 具体的 な支援 ・ A さんからの友達との関わりや、進路希望等に関す る聞き取りを実施した。また、それに基づき進路に 向けての勉強の仕方をアドバイスした。 ・ クラス編成を検討し、A さんが落ち着いて授業等に 参加できる環境作りを行った。 ・ 周り生徒に対して、A さんの特性等についての説明 等を行い、理解を深めさせた。 4 成果 ・ 対応のスピード(早期からの支援)。 ・ 学級担任との信頼関係の構築。 ・ 保護者との情報の共有。 ・ 生徒への周囲の理解。環境の調整ができたこと。 ・ 進路の明確化(本人の適性や希望を把握した進路指 導)。 ・ 学校生活で求められる力を身に付ける。 5 課題 ・ 自立する力の育成。 ・ 生徒自身が自己理解を深めながら自らの持つ力を伸 ばすこと。 ・ 困った時に支援を申し出る力を育む。

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(2)事例2   ① 概要  高等学校普通科1年生、Bさん、女子、ADHD。  気持ちが不安的になり、教室にいられなくなると、保健室や職員室に移 るなどの行動を取ることが多い。  行動面では、人目が気になり、特に周囲の者が陰口を言っているという 被害妄想がみられることがある。  医療機関にて、ADHDの診断を受け、現在はコンサータを服薬している。  ② 経過  ADHD との診断を受けた当初は、その診断結果を受け入れることがで きずにいたが、徐々に自分と向き合えるようになり、受け入れることがで きるようになってきた。また、スクールカウンセラーとのカウンセリング において、自分のことを話すことで、気持ちの整理ができる。  コンサータを服用することで、落ち着いて生活できることが増えてきた。 しかし、薬の効果が切れると、音に敏感になる等の症状がみられることが あった。  ③ 項目毎の内容  スクールカウンセラーとのカウンセリングを必要とする場面が多くみら れる。  担任・教員相談係・スクールカウンセラーとの連携を図り、生徒の現状 把握に努め、学校全体として支援にあたる必要性がある。  表16にBさんへの支援の状況等を示す。

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表16 Bさんへの支援の状況 No 項目 内容 1 障害等 ・ADHD。 2 状況 ・ 人目が気になり、周囲の者が陰口を言っているとい う被害妄想がみられた。 ・ 気分に波があり、リストカットやレッグカットの傾 向がみられる。 3 具体的 な支援 ・医療機関との連携。服薬の開始。 ・スクールカウンセラーによるカウンセリングの実施。 4 成果 ・ 徐々に自分と向き合えるようになり、受け入れるこ とができるようになってきた。このことにより、自 己理解に深まりがみられるようになった。 5 課題 ・ 中学校と高等学校間の連携を密にして早期からの対 応が求められる。 ・ 担任、教員相談係、スクールカウンセラー等との連 携を図り、B さんの現状把握に努め、学校全体とし て支援にあたる必要性がある。 (3)事例3  ① 概要  高等学校普通科2年生、Cさん、男子、高機能自閉症。  小学校1年生時に、医療機関にて高機能自閉症と診断された。  ② 経過  高等学校1年生時は、不安障害により学校行事や部活動などでパニック に陥ることがあった。また、2年生時は、友人トラブルがあり、学校生活 を送ることが辛い時期もあったが、最近は、話せる特定の友人が数名でて きており、情緒的にも落ち着いている。  過去に受けたいじめ体験が原因と考えられる被害妄想があり、自分が否 定されたと思い込むと、その相手や周囲の人間に対して強い不信感を抱く

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ことがある。また、感情的になると冷静さを失い、厳しい態度をとること もある。しかし、相手の前で暴言を吐かないように行動や気持ちを調整す る意識はあり、話をできる教員に対して、思いを吐き出すことで、自分な りの対応をすることができている。  学習面に関しては、意欲的に取り組むことができる一方で、授業や行事 における課題探求型のグループ活動が非常に苦手である。  ③ 項目毎の内容  自分の特性の理解や、自分に合った進路をみつけるための支援や、遅刻、 欠席、早退への支援等が課題となっている。  表17にCさんへの支援の状況等を示す。 表17 Cさんへの支援の状況 No 項目 内容 1 障害等 ・高機能自閉症。 2 状況 ・いじめ体験のため被害妄想がみられる。 ・ 不安障害により、学校行事や部活動等でパニックが みられた。 ・ 友人トラブルが多くみられ、グループ活動が苦手で ある。 3 具体的 な支援 ・ 話せる特定の友人が数名できつつあり、情緒的にも 落ち着いてきている。 ・引き続き、友人関係作りへの支援が求められる。 4 成果 ・ 話をできる教員に対して思いを伝えることで、自分 なりの対応をすることができている。 5 課題 ・特性理解と適切な進路指導。 ・遅刻、欠席、早退への支援。

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(4)事例4  ① 概要  高等学校普通科2年生、Dさん、男子、ADHD。  生活面では、重要な書類を母親にみせることを忘れてしまうことがある。 また、母親が過剰に反応し、Dさんを叱責したり、殴ったりすることもある。  ② 経過  落ち着きがない面がみられ、忘れ物やなくし物も多い。重要な書類など も自分のロッカーに入れたままにして持ち帰らないこともある。それに対 して母親が激高し、怒ったり叱責したり、殴ったりすることもある。  ③ 項目毎の内容  自立を促すためには、どのようなことに気を付けていけばよいか、また、 母親をどのように支援していけばよいかが課題となっている。  支援の在り方としては、本人がどこまで困っているかを検討し、具体的 には、できることを一つ一つ確認し、連絡袋などを持たせ、母親とも密に 連絡を取り合うことを行っている。  また、担任が一人で抱えず、スクールカウンセラーにもお願いをしたり、 組織で対応したりすることも大切である。さらに、児童相談所とも連絡を 取り合うことも必要である。  表18にDさんへの支援の状況等を示す。

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表18 Dさんへの支援の状況  No 項目 内容 1 障害等 ・ADHD。 2 状況 ・忘れ物が多くみられる。 ・ 保護者(母親)の本生徒への関わり方について、特 性理解と支援が求められる。 3 具体的 な支援 ・ 大学やクリニック等のカウンセリングに定期的に通 院している。 4 成果 ・ 本人がどこまで困っているか、できることを一つ一つ 担任は確認するなど、適切な実態把握を行っている。 ・ 忘れないための環境設定として、連絡袋を活用して いる。 ・ 保護者への連絡に関しては、互いに共通理解を図る ことを目標としている。 ・カウンセラーの活用及び連携に心掛けている。 5 課題 ・関係機関との連携の方法等。 (5)事例5  ① 概要  高等学校普通科2年生、Eさん、男子、アスペルガー症候群。  ② 経過  中学校からの引き継ぎ事項はなかったため、アスペルガー症候群である ことに気付かず、他の生徒と同様な対応を行っていた。また、教職員間で Eさんの障害特性に関する十分な情報交換を行うことができなかった。  家庭からアスペルガー症候群の診断を受けていることに関する情報提供 があった後、生活指導委員会の開催と、発達障害生徒への対応をまとめた 資料の作成等を行った。  また、教職員の理解を深めるために、特別支援教育コーディネーター及 びスクールカウンセラーによる研修会を実施した。さらに、合理的配慮の

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観点から教育的指導を行っていくため、個別の指導計画の作成を始めた。  年度末の引継ぎでは、作成した資料の発達障害の生徒への対応の活用や 個別の指導計画の作成、活用することで、適切に行うことができた。  その他として、周囲の生徒への理解を目的に、スクールカウンセラーに よる講演会を実施した。  表19にEさんへの支援の状況等を示す。 表19 Eさんへの支援の状況 No 項目 内容 1 障害等 ・アスペルガー症候群。 2 状況 ・実態把握が困難である。 ・ 中学校からの引き継ぎが明確でなく、保護者との連 携の必要性がある。 3 具体的 な支援 ・ 生徒の実態把握のため、実態把握のための教員に対 するアンケートを実施した。。 4 成果 ・教職員の理解のための研修会の実施。 ・個別の指導計画を作成した。 ・ 年度末の引き継ぎの重要性を確認し、E 生徒の理解 と支援についてまとめた資料と個別の指導計画を活 用した。 ・ 周囲の生徒への配慮を考慮し、発達障害への理解に 関する講習会を実施した。 5 課題 ・教職員の理解の必要性。 ・中学校との連携の必要性。 ・周囲の生徒への理解。

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Ⅳ 考察

1 学校教育相談部会報告書の分析 報告書の内容種別毎の割合をみると、第1位が学校体制、第2位が不登 校、第3位が学校不適応、第4位が発達障害であった。また、2011年度よ り発達障害関係のテーマが多くみられることから、発達障害の理解と具体 的な支援の在り方に関する専門性が求められていると考えられる。 2 発達障害に関連する事例分析 5つの事例では、対象生徒の障害として、高機能自閉症、アスペルガー 症候群、ADHD 等が取り挙げられた。事例の中には、医療機関等におけ る発達障害等の診断を受けている生徒もみられ、障害特性に関する理解や 情報共有等の必要性が求められる。その中でも特に、中学校及び保護者等 からの支援の現状に関する引き継ぎの体制作りが必要である。  また、事例5では、個別の指導計画を作成し、実態把握や個別の目標設 定、支援の手立て等を立てた支援の取り組みが報告されたが、年度末の評 価や次年度への引き継ぎ等にも活用し、個別の指導計画の有効性について 把握することができていた。 個別の指導計画は、生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標 や指導内容・方法を盛り込んだ指導計画であり、単元や学期、学年等ごと に作成され、それに基づいた指導が行われるものとなっていることから、 個別の指導計画に策定に関する専門性の向上が、高等学校教員一人一人に 求められると考える。 さらに、課題として、①自立と社会参加ができる力の育成、②中学校と 高等学校間の連携、③スクールカウンセラーを活用した校内の支援体制作り、 ④発達障害の理解、⑤関係機関との連携、の五点が挙げられていたが、こ れらへの対応として、学校における各校務分掌担当者が学級担任と連携を 密にしながら、それぞれの分野での専門性を生かし、連携・協力し、学校 組織として取り組んでいくことが必要である(丹羽、2019)ことから、学

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校における発達障害生徒への支援を考える際に、教育相談担当者のみならず、 特別支援教育コーディネーターと連携していくことが重要であると考える。

Ⅴ まとめと今後の課題

今回、高等学校の学校教育相談における発達障害生徒への支援に関する 現状と課題を概観し、学校教育相談の視点から、発達障害生徒に対する支 援の在り方を検討した。 学校教育相談部会報告書の分析からは、各高等学校が、教育相談担当教 員を中心に発達障害生徒の理解に努めながら、利用可能な学校リソースを 活用し、適切な支援につなげていることが理解できた。また、特別支援教 育コーディネーターや医療機関等、各関係機関との連携を充実させて、学 校における支援体制の構築を図っていることも理解することができた。 さらに、相談支援のみならず、実態把握、個別の指導計画の作成、医療 機関との連携、次の学年への引き継ぎ等、特別支援教育のツール等を有効 に活用し支援の効果を挙げている学校もみられた。 このようなことから、特別支援教育のツール等を活用しての取り組みが、 発達障害生徒への有効な支援と学校教育相談体制の充実につながることが 理解できた。 その際、具体的な支援として、生徒のわずかな変化や抱える悩み等を見 過ごしたりすることなく、できるだけ早期に捉え、悩みが深刻化しないよ うにアドバイスや言葉かけを行うことが重要である。 一方、中学校との引き継ぎがなされていないという課題に対しては、切 れ目のない相談体制を作るため、中学校と高等学校の学校段階を越えて情 報交換を行うなど、教育相談の橋渡しをしていくことも重要である。例え ば、連携推進地域連絡会といった機会を作り、各学校間での相互の授業参 観や教員の合同研修、生徒の合同の活動などを通じて、教育相談といった 観点から情報交換を行うことが考えられる。

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Ⅵ 引用文献

1) 青木隆一(2016)高等学校における特別支援教育に関する現状 . 特別支援教 育 .No.63. 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 .4-7. 2) 学校教育法(2007) 3) 文部省(1999)中学校学習指導要領解説(特別活動編). 4) 文部科学省(2005)特別支援教育を推進するための制度のあり方について(答申). 5) 文部科学省(2009)発達障害等困難のある生徒の中学校卒業後における進路に関 する分析 . 6) 文部科学省(2009)高等学校学習指導要領総則 . 7) 文部科学省(2009)高等学校における特別支援教育の推進について(報告). 8) 文部科学省(2010)生徒指導提要 . 9) 文部科学省(2018)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する 調査 . 10) 丹羽登(2019)生徒指導と特別支援教育 . 月刊生徒指導 . 第 49 巻第7号 .14-19. 11) 田代高章、八重樫一矢(2009)高校生徒指導の現状と課題 . 岩手大学教育学部附 属教育実践総合センター研究紀要 (8).17-36. 12) 栃木県高等学校教育研究会学校教育相談部会(1999 ~ 2018)学校教育相談部会 会報 . 第3号~ 22 号 . (山形県立米沢女子短期大学教授) 今後は、高等学校における特別支援教育推進の加速化に向けて、学校長 のリーダーシップのもと、各校に在籍する障害により学習や生活で困難を 抱えている生徒に今後とも目を向け、当該生徒が十分な教育を受けられる ようにするために実効性のある校内体制や指導の在り方等を検討し、実践 していく必要がある。 その際、スクールカウンセラーのような臨床心理の専門家、児童精神科 医や小児科医のような生徒に主として関係する医療関係の専門家、福祉機 関等の福祉に関する専門家、法律問題に対応するための司法関係の専門家 等のバックアップと日頃からの連携が望まれる。

参照

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3 学位の授与に関する事項 4 教育及び研究に関する事項 5 学部学科課程に関する事項 6 学生の入学及び卒業に関する事項 7