電気理論のワンポイント実験の開発
櫻井 勇良
*The development of one point experiment of the electrical theory
Yuryo SAKURAI
Abstract:
In this study, the following were carried out : Following one point experiment and contrivance of the approach. 1) It is verified that the area of the voltage waveform of induced electromotive force by the motion of the magnet does not change, even if the magnetic speed changes, 2) Clip motor is improved, 3) The levitation coil is made, 4) Diamagnetism characteristic of the core of the shampoo pencil is confirmed, 5) The eddy current is measured indirectly, 6) The relationship between thickness of dry cell and initial value of short circuit current is examined, 7) The compatibility of the Flemming's law is confirmed, 8) Way of memory of the rotational operator is considered, 9) The simple model of the P-N junction is made. As a result of trial and error, it was possible to develop experiment and approach for achieving limited purpose.
KEY WORDS: Induced electromotive force, Voltage waveform, Area of voltage waveform
要旨: 本研究では以下のワンポイント実験や考え方の工夫を行った.1)磁石の運動による誘導起電力の電圧波形の面積は, 磁石の速度が変化しても変わらないことを実証する,2)クリップモータの工夫を考える,3)浮揚コイルを作る,4) シャンプーペンシルの芯の反磁性特性を確かめる,5)渦電流を間接測定する,6)乾電池の太さと短絡電流の初期値 の関係を調べる,7)フレミングの法則の共存性を確かめる,8)回転演算子の覚え方を考える,9)P-N 接合の模型を 作る.試行錯誤の結果,限定した目的を達成させるための実験や考え方を開発することができた. キーワード:静電気,磁気,半導体分野,ミニ実験
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. はじめに
実験は,系統的に行う場合と特定の目的のために 行う実験とに大別できる.筆者は,担当している授 業科目(電磁気関係)の関係で多くの実験教材を開 発してきた.もちろん,その中には,学生実験のよ うに,複数のパラメータによる変化を系統的に検証 できる教材もあれば,ある目的のために行った事件, すなわちミニ実験(ワンポイント実験)の教材もあ る.本稿では,後者の視点で開発したものの中から いくつか報告する.2. 実験例
2.1 誘導起電力波形の面積と磁石の運動速度
の関係
2.1.1 緒言 コイルの中空を磁石が移動した場合,磁石の移動速 度が増すと,誘導起電力の最高電圧値が高くなると共 に,周期が短くなることは,数式および実験から容易 に理解できる.また,同じ磁石を用い,その移動速度 のみを変えた場合,電圧の波形と時間の積,すなわち 電圧波形の面積は,磁石の移動速度に関係なく一定に なることも理解できる. そこで,この関係に関する報告例の有無について, 文献調査を行った結果,見当たらなかったので,検証 *湘南工科大学 工学部 電気電子工学科 准教授することにした.装置などを開発し,試行錯誤した結 果,後述する仮説を裏付ける結果が得られた.以下で は,その概要について述べる. 2.1.2 仮説 電磁誘導によって回路に(コイル)に誘起される 起電力は,(1)式 1)で表わされる.その回路と鎖交す る磁束の時間時間に対する変化の割合に比例する. 負の符号は,誘導起電力の向きが磁束の変化を常に 妨げようとする向きに発生する意味である. e=‐ΔΦ/Δt (v) (1) 以前,コイルの中空を磁石が移動した場合,磁石 の移動速度を増すと,誘導起電力の最高電圧値が高 くなり,周期が短くなったのは,(2)式から容易に理 解できる.つまり,移動速度の増加に伴い,(1)式 の分母Δt が小さくなるために最高電圧値が高くなっ たのである. ところで,(1)式を見ると,確かめようとしている 電圧波形の面積は,Δt と e の積で表わされれる.使 用している磁石は同じものなので分子の ΔΦ は一定 とみなせる.そうすると,Δt と e の積,すなわち電 圧波形の面積は,Δt の変化に依存せず,一定になる. つまり,磁石の移動速度を変えても,電圧波形の面 積は,変化しないといえる.このことを検証するの が目的である. 2.1.3 検証方法 図1に実験装置を示す2).この実験器のポイントは, ミシンのカムを使って磁石を上下(運動幅約35 mm) に運動を自動化させることおよびその動きを電気信 号で記録できることである. 試料としは,コイルを用いる.ホルダーは,後述 する電圧センサやリード線を挟むためのものである. 磁石は,カムに取り付けたアルミ管の先端に取り付 ける.磁石の装着を容易にするためにブラインドナ ット(アルミ製,M6)を磁石に接着することを考え, アルミ管の先端をダイスで約 1 cm 加工を施した(図 1(c)参照). 次に,磁石の上下運動を電気信号で記録すること について述べる.アルミ管の下端とポテンショメー タ(摺動抵抗器,100 mm,10 kΩ,リニア,以下では PM と略す)のすり接触部分の T 形の金属版を接続し, PM の本体を固定すれば,アルミ管が動くと同時に PM のすり接触部分も動くようになる.したがって, 予め PM に電流を流しておけば,アルミ管の動きが PM の抵抗値の変化,すなわち電圧の変化として検出 (f) (d)のアルミ管の下端をさらに拡大した図 図1 実験装置の外観2)
検出できるようになる. そこで,すり接触部分の金属板とアルミ管を接合 させるために,アルミ管の下端にノコギリですり接 触部分の金属の厚さ(約1 mm)と同程度の切り込み を作り,そこにすり接触部分のT 形になっている金 属板の横の部分を差し込み,接着剤で固定した(図 1(f)参照).その後,厚さ 5 mm の透明な板を加工し, PM を接着剤で固定した.さらに,その板をミシンの 本体にネジ留めした. 最後に,1)磁石を試料(コイル)に接触させないよ うにする,2)磁石の上下運動に伴う左右のぶれを軽 減させる,3)磁石とコイルの位置を調整する時に磁 石が見えるようにする,などのためにアクリル管(直 径Φ=13 mm,内径=11 mm,長さ=260 mm)をカバ ーとして取り付け,その中を磁石が動くようにした (図 1(b)参照). 2.1.4 誘導起電力波形の周期幅と電圧値の面積 に関する実験 図1(c)のように,ブラインドナットに取り付けた磁 石(ネオジム,Φ:10 mm,高さ:5 mm,磁束密度 B: 320 mT)をアルミ管の先端に固定する.直径が 1 mm のエナメル線を用いたコイル(巻き N:1)を用意し, 磁石の運動距離(約 35 mm)の中間にコイル長の中心 をそろえて取り付ける.磁石の運動速度は,電源電 圧は100 V まで変化させて調整する.専用のプログ ラムを起動させ,測定開始のタイミングを見て電源 を ON 状態にする.そして,測定が終了後,電源を OFF にする.信号を取り込む条件(サンプル間隔時 間(100 μs~)やサンプル数(1000~))は任意とする. 図2 に誘導電圧波形の測定例を示す(サンプル間隔 時間:100 μs,サンプル数:2000)).V1 は,磁石の上 下運動を電気信号に変えた PM における電圧降下の 値である.上下運動を時間軸で表示してあるので正 弦波状になっている.電圧値が増えている間は,磁 石が上昇運動していることを意味し,逆に電圧値が 減少している間は,磁石が下降運動をしていること を意味する. 電圧V0 は,電圧センサで測定したコイルに誘導さ れた起電力である.コイルの長さ(コイル長)の中心と 磁石の往復運動の中心をそろえたため,V0 の生成が 磁石の上昇および下降の移動距離(各 35 mm)の中間 位置で零電位になり,その前後で対象的な波形にな っているのがわかる. V1 の波形は,正負の対称性から磁石の上下運動 の速度の均一性が判断できる.この図を見ると,ピ ークの間隔が若干異なるのがわかる.そこで,V1 と V0 について繰り返し測定を行い,それらのばらつき 図2 1 層 1 回巻きコイルにおける 誘導電圧波形の測定例 (V1 と V0 の時間変化) 図3 誘導起電力波形における周期幅と 電圧値の面積の磁石移動速度依存性 の程度を調べた結果,時間的なばらつきは数ms程度, 電圧のばらつきは,数mV 程度であるのがわかった. コイルの巻き数が 1 巻きであるため,波形の信号 対雑音比が悪かったので,スムージング(N:15)を 施すことを考えた.これにより,雑音の影響が軽減 0 2 4 6 8 10 -15 -10 -5 0 5 10 15 0 20 40 60 80 100 120 時間(ms) 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0 200 400 600 800 1000 1200 磁石の移動速度v(mm/sec)
され,読みやすい波形になった.波形を縦軸および 横軸のグリッドを表示させた用紙に印刷して,マス 目の数を読み取ることによって面積を求めた(単位 は無名). 図 3 に各波形から読み取った時間(周期幅)と電 圧値(V0)から求めた面積と v の関係を示す.縦軸 の面積は,時間と電圧の積で表わしてある.これを 見ると,磁石の移動速度に関係なく,周期幅と電圧 値から求めた面積の値がほぼ一定となり,予想通り の結果が得られた. 2.1.5 結言 以上のように,試作した実験器を用い,(1)式の Δt と e の積と磁石の移動速度の関係を検証した結果, 予想通り磁石の移動速度に依存せず,ほぼ一定とな ることが確認できた.
2.2 クリップモータの工夫例について
2.2.1 緒言 電磁気学においてフレミングの右手・左手の法則は 良く知られる法則の一つである.動作原理との対応で 右手・発電機(ジエネレータ),左手・電動機(モー タ),というように覚えさせられた記憶がある. 磁界中に置かれた導体に電流を流すと,フレミング の左手の法則に則り,通電導体に力が作用する.この 現象は,静磁気学において基本的なものの一つである. この現象を用いた実験教材の例としては「クリップモ ータ」,「電気ブランコ」,「リニアモータ」,「電 磁力実験器」などの名称のものがある.筆者は,その ような実験器を再現させながら,部分的に工夫を施し たものあるいはオリジナルなものを試作している. 本稿では,フレミングの左手の法則やモータの動作 原理を説明する際に構造が簡単で説明しやすい,とい う理由で良く用いられるクリップモータを題材とし ている.このモータは,電極,磁石,コイル状の回転 子などの部品で構成されている.クリップの名が付い たのは,電極の部分に事務用品として使われるゼムク リップを用いているからである.回転子としてコイル を用い,土台には紙コップ,木材,発泡スチロール, 消しゴム,などいろいろなものが用いられる.別名, 裸のモータ3)と呼ばれ,その一体化4)や配置の工夫5) などが図られている. 以下では,これまで報告されているクリップモータ の工夫を踏まえ,独自に工夫したものについて述べる. 2.2.2 自由度のある電極を用いた場合 文献4 において,一体化されたものが存在するのを 知る前に筆者は,独自に全ての構成部品を一体化させ ることを試みていた.その過程で電極の部分に着目し た.通常は,金属製の板あるいは太い導線などが用い られる.これを自由度のある導線にした場合,どのよ うになるだろうかと考え,実施した. 図4 に試作器 1 を示す.動作させると,回転子の回 転運動が伝わった電極の導線(φ:0.5 mm 以下)が揺 れ,回転子の回転運動と導線のゆれ運動とが合体し, 複雑な運動をしながら回転子が回る,というダイナミ ックな動きをするものが得られた(図5 参照). 2008 年の「第7回湘南発大学技術市場・湘南から 未来を発信」における湘南工科大学によるものづくり 教室「変幻自在なモータをつくろう!!」を筆者が担 当し,このモ-タを80 名の小学生に試作させたとこ ろ,予想通りいろいろな動きをするものができた.雰 囲気的にも盛況であったので工夫した甲斐があった と感じた. 図4 試作器 1 の外観 図5 回転の様子2.2.3 回転しながら前進する運動を取り入れた場合 (リニアモータの実験器と合体) ここでは,リニアモータの実験器を試作していた過 程で考え付いたクリップモータについて述べる. 工夫した点は,リニアモータの実験器で用いる回転 する導体の部分である.通常は,円柱状のものが用い られるが,ここにクリップモータで用いる回転子を置 いたらどのようになるだろうかと考え,実施した. コイルの大きさに合わせて実験器を作り直した.図 6 に試作器 2 の概観を示す.磁石をはさむように両側 にL型に曲げたアルミニューム板(厚さ:1 mm)を 配置する.回転子の直径は,電極の高さと磁石(フェ ライト,φ:29.5 mm,高さ:5 mm,B:~60 mT) からの距離を考慮して調整した.回転子(φ:0.3 mm のエナメル線,巻き数:10 以下,開口面の大きさ: 磁石の直径と同等)の電極に接触する部分は,クリッ プモータの場合と同じく,片方の直線部分の絶縁膜は すべてはぎ取り,もう片方の直線部分の絶縁膜は半周 程度はぎ取るようにする. 図6 試作器 2 の概観 両方とも全部の絶縁膜をはぎ取った場合,一方向に コイルが傾くだけで回転運動が起きなくなる.片方の 直線部分の絶縁膜を半周ほど残すのは,コイルの回転 運動を継続させるためである.絶縁膜をはがした部分 が電極に接触し,回転体に通電するとフレミングの左 手の法則に則り回転体に力が作用し,回転運動を始め る.回転体がある角度回転すると絶縁膜が残っている 部分が電極と接触するようになる.この場合は,回転 体は通電状態でなくなるので磁界との作用による力 は,働かない.しかし,通電時に得た力の影響が惰性 として残っているので,回転運動が続いている.そし て,回転が進み,再度,通電状態になり磁界との作用 により力が働き,回転運動が加速する.これが繰り返 され,コイル状の回転体は,電極の端から末端まで回 転しながら進んでいく. 回転体が円柱導体の場合,その回転速度が速いため に回転状態を肉眼で観察するのは,困難であった.し たがって,回転方向は,回転導体の移動方向から想像 していた.しかし,図8 の装置では,回転体をコイル 状にしたため,円柱導体の場合と比べて,磁石との間 に生成する磁力が弱くなる.そして,磁力が弱くなっ たために,コイル状の回転体の回転運動速度が遅くな る.そのために回転の様子を観察できるようになった. 2.2.4 回転子をメガネのようなコイルにした場合 通常,10 回程度巻いたコイルを回転子として用い る.これをメガネのようなコイルにした場合,どのよ うになるだろうかと考え,実施した. 図7 試作器 3 の外観 メガネのようなコイルは,まず,直径0.5 mm のエ ナメル線を用い,磁石の直径の約2 倍程度の開口を有 するコイルを作る(巻き数10 回程度).次に,コイ ルの左右対称の淵を両手で持ち,互いに逆方向に180 度回転させる.その後,修正を加えて対象な形に整え る.開口部分は,丸い円というより横長の形にする. 横長にすると,丸い円にしたときに比べてコイルに近 接する部分が長くなり,それに伴い,磁界の影響を強 く受ける,すなわち作用する力が大きくなるので強い 回転が実現できる. 図7 に試作器 3 の概観を示す.回転子のコイルがメ
ガネ状になっている,すなわち開口数が二つあるので 磁石(フェライト,φ:29.5 mm,高さ:5 mm,B:~ 60 mT)も二組(二枚重ね)用いる.開口部分の磁界 の向きは,互いに逆向きなので磁極の向きも逆向きに して並べる.指で軽く回してやればメガネコイルは勢 いよく回転する. 2.2.5 結言 構造が簡単なクリップモータについて工夫を施 したものを紹介した.これ以外にも工夫の余地はあ るので興味ある方は試していただきたい.また,工 夫することを児童・生徒に課題として与えられるこ とをすすめたい.基本的なことを満たせば,どこを どのように変えるのも自由である.児童・生徒がど のような反応を示すかはお楽しみである.
2.3 浮揚コイル実験器について
2.3.1 緒言 コイルに通電させると電磁石となる.したがって, コイルの下部に磁石を配置すれば,磁力が発生する. ここでは,反発の磁力を扱い,磁石の上方でコイル が浮揚する様子を再現する.この実験の目的は,通 電したコイルと磁石間に磁力が発生する様子を面白 く見せる実験器を開発することである. 2.3.2 実験器の概要 永久磁石によって鉄玉が浮遊する現象は,新聞報 道 6)により知られるようになった.筆者はこの現象 に興味を持ち,種々の教材を試作している7-11).また, 鉄玉以外のものを用いた浮揚実験器の試作も行って いる.本稿では,その過程で得られたコイルを使っ た実験器を紹介する.これは,スピーカーの原理を 使った実験器の試作過程で思いついたものである. 磁石の上にコイルを乗せ,コイルに例えばラジオの 音声信号を入力するとコイルは,リズミカルに振動 する.これを見たとき,50 Hz の交流信号をコイルに 入力した場合,コイルはどのように動くかを確かめ たくなった. そこで,ネオジム磁石(外径:70 mm,内径:32 mm, 厚さ:15 mm,B:450 mT)と直径 0.3 mm のエナメ ル線を使ったコイルを用いて実験を行なった.磁石 の端面に置いたコイルに電圧調整器と電流計を接続 し,コイルの状態を見ながら徐々に電流を増やした 結果,コイルが小さく振動しながら磁石の上方で浮 揚する場合があることを確かめた(図8 参照). その後,コイルの巻数や大きさを変えながら同じ ような観察を行なった結果,コイルの大きさは35~ 40 mm,巻数は 50~120,交流電流は 0.3~0.7 A であ れば浮揚することがわかった.浮揚させるためのポ イントは,コイルの形状を調整して左右への移動を 少なくすることである.コイルの上に紙細工のもの たとえばじゅうたんとか人形を乗せて遊ぶことも可 能である.この試作器の場合,コイルを含めて5g ま でなら浮揚させることが可能である. 図8 浮揚するコイルの観察例 小さな動きをしながら,比較的安定に浮揚状態を 保てた理由の一つに,使用した磁石の形状がある. 図8 に示すように,使用した磁石は,リング状にな っている.この場合,淵の部分と中央とで磁極が逆 になる.そにため,通電しているコイルと磁石の間 に引力・斥力の磁力が同時に作用する.主要な力は 斥力であるがこの力が安定に作用するには,引力の 磁力も必要になる.斥力のみでは,反発するだけな ので,その力の作用がアンバランスになるとコイル は磁石と対面する位置からずれてしまう.そのずれ を防ぐのが,引力の磁力である. コイルには交流を供給しているので,例えば磁石 (N 極)と対面している部分が N 極になった時,コ イルには,磁石の淵との斥力,中央部分との引力が 同時に作用する.この場合斥力が支配的なので浮揚 状態になり,その状態を安定に保つためには中央部 との引力が重要になる. 2.3.3 結言 以上のように,コイルの働く磁力のバランスを活 用したものをつくることができた.この場合のポイ ントは,磁石の形状である.リング状の磁石を用い たのがポイントである.棒状,円板,円筒軽の磁石 ではこのようにうまくいかなかった.このことも含 めて,体験させれば,何故うまくいく時といかない 場合があるのか,この事象では磁力のバランスが重 要であること,などに対して多くの気づきを体験す ることができることは容易に想像できる.2.4 シャープペンシルの芯の反磁性を使
った実験の開発
2.4.1 緒言 文献12~14 においてシャープペンシルの芯(以下 では芯と略す)の反磁性特性を使った論文が掲載さ れているのを知った.その文献を読んでいる過程で, 反磁性が芯に含まれるカーボンに起因するならば, 芯の硬度と反磁性効果が関連するかもしれないと考 えた.その理由は,芯の硬度がカーボンの含有量に 依存していると考えられるからである.これを検証 するのがこの実験の目的である. 2.4.2 開発した実験器の概要 木製の机の上に方眼紙を 1 枚敷き,磁石の磁極面 の中央付近に芯(φ:0.5 mm,長さ:60 mm,重量: 20~26 mg:F(三菱),2H(ぺんてる),H(ぺんて る,三菱),HB(ぺんてる,三菱,パイロット),B (パイロット,三菱),2B(ペンてる,三菱),3B(ぺ んてる),4B(ぺんてる))を配置するために,2 本の アクリルパイプ(φ:15 mm,内径:11 mm,長さ: 300 mm)を約 15 mm 離して平行に配置し,その間に は磁石(円筒形,ネオジム,φ:35 mm,高さ:15 mm, B:500 mT)を配置する(図 9 参照). 図9 実験の様子 次に,指で芯を軽く押さえて磁石の磁極面に一旦 接触させ,指を芯からすばやく離す.そうすると, 芯は,磁石との斥力によってパイプの上を転がり, あるところで止まる.転がった距離R(mm)を方眼 紙の目盛りから読み取る.17 種類の資料について 10 回測定を行い,平均値を求め,芯の硬度との関係を 調べた(図 10 参照).実験を開始するときは,芯の 硬度に比例するだろうと予想していたがそうはなら なかった. 図10 を概観すると,H か HB より硬度が増すと転 がりも大きくなる傾向がみられる.しかし,この傾 向に当てはまらない事象がいくつか確認できた.一 つは,同じHB でも磁石に吸着するものも(三菱)あ れば約15 mm 程度転がるもの(パイロット,ぺんて る)があった(硬度 B(パイロット,三菱)でも見ら れた).二つ目は,製作会社が同じ硬度の芯(ぺんて る2B,三菱 H)でも転がり距離が明らかに異なる場 合もあるのがわかった.これらの理由は,今回の実 験からは明らかにすることができなかったが,文献 16 でも指摘されているように,カーボンの含有量に よる影響以外に結晶構造や鉄分を含めた不純物の影 響が混在していたことは容易に考えられる.また, 硬度とカ-ボンの含有量の関係がどのようになってい るのかなどの基本的な結果を踏まえないと結論する のは困難である.これらについては,今後の課題と したい. 図10 硬度の種類と転がり距離の関係 2.4.3 結言 以上のように,カーボンの反磁性について,シャ ープペンシルの芯を用いて調べた結果,カーボンの 含有量以外の要因によって影響が異なることが確認 できた.2.5 アルミ板での渦電流の間接的観察に
ついて
2.5.1 緒言 導体板と鎖交する磁束が変化すると電磁誘導現象 により,導体板に誘導起電力が発生し,うず状の誘 導電流が発生するのは一般的に良く知られる.この 0 5 10 15 20状況はイラストなどでもよく見かける.しかし,実 際にその様子を観測した結果が掲載されたのを筆者 は見たことがなかった.それに関する情報を得るた めに調査を行ったが,イラストばかりであった.そ のイラストが実験事実に基づいていると思うが,そ の証拠を得る必要があると判断し,実験を行った. 2.5.2 実験の概要 検 流 計 ( ナ リ カ ,GM-6000 , 2.5×10-6A/DIV , 1.6×10-4V/DIV,×1,×1000)1台,アルミ板(φ:150 mm,厚さ:2 mm)1枚,ネオジム磁石(外径:70 mm, 内径:32 mm,高さ:15 mm,B:450 mT)1個,先 端がワニ口クリップおよびバナナチップのリード線 2 本(長さ 300 mm)などを用いて観察した.アルミ 板の淵にワニ口クリップを接続し,もう片方を検流 計に接続する.そして,指で磁石をつまみ,アルミ 板と磁極を平行に保ちながらアルミ板に磁石を近づ ける(アルミ板には接触させない)およびアルミ板 に接触させた状態から磁石を離すという動作を行い, その瞬間において検流計の指針が正・負のどちらに 動いたかを調べた.つまり,検流計を含めた一つの 回路を形成し,そこに流れた電流の様子からアルミ 板に誘導された電流の様子を間接的に調べることを 行った.磁石は,位置を少しずつ変えて行い,アル ミ板の全面について観測した. その結果,ある規則的な変化が見られるのがわか った.測定例とし,N 磁極をアルミ板に接触させた状 態から上方へ垂直に持ち上げた時の結果を図 11 に示 す.この場合,レンツの法則に則り,アルミ板内に は,S 極の磁界が発生するように電流が誘導される. つまり,時計まわりに誘導電流が発生する(同図(b) 参照). 検流計に接続した導線の位置を変えながら,指針 の触れ方を調べた結果,同図(a)に示すように検流計 の指針の振れ方に場所依存性が見られた. この事象を理解するために同図(b)に示すような 回路を考えた.回路に流れる電流の向きを分かりや すくするために下部にあった検流計の位置を上部に 仮想的に移動させた状態を表わした.矢印で示すよ うに誘導電流1・2 が発生したとすれば,検流計の振 れ方が(a)で示したようになるのが容易に理解できた. 誘導電流1・2 は,方向が異なるように見えるが,検 流計,アルミ板により構成された回路において,共 にS 極が形成されるように電流が誘導されている. この電流の向きは,同図(b)の右側に示したベクト ル図からもわかるように,フレミングの右手の法則 からも求められる.これらの結果は,コイルの場合 と同じであるのがわかった. 図11 測定例の要図(N 磁極をアルミ板に接触させた 状態から上方へ垂直に持ち上げた時) 2.5.3 結言 以上のように,渦電流の生成について簡単な実験 を行った結果,レンツの法則およびフレミングの右 手の法則に則って生成していることが確認できた.
2.6 乾電池の太さの違いの意味
2.6.1 緒言 筆者は,以前,文献15 において「乾電池を切断し たら起電力はどうなるか?」について報告した.そ の後,乾電池に関する小学校の教材開発を継続した 過程で「太い電池と細い電池とで何が違うのでしょ うか」という発問を考えた.その答えになる容量(電 流値)の違いが得られたので報告する.2.6.2 実験の概要 小学校第 4 学年で「乾電池の数とつなぎ方」,「光 電池の働き」の単元を通して電気の働きについて学 ぶ.通称,単一から単四までの乾電池は,長さが同 じだが,太さが異なる.太さの違いは,電流容量の 違いを意味するので,それぞれの乾電池について測 定してみた. 電流は,テスタによって接触させた瞬間の電流値 を読み取った.その結果を表1 に示す(電圧は 1.52 ~1.57 V).比較のために,マンガン電池とアルカリ 電池について測定した. 表 1 の結果を見ると,どちらの電池においても, 単 1 から数字が大きくなるにつれて電流値が小さく なった.これは,数字が大きくなるにつれて,容量 が小さくなるといわれているかが気になるとことで ある.ことを裏付けている.また,マンガン電池と アルカリ電池を比べると,アルカリ電池の電流値が 大きかった.これも一般的に言われていることを裏 付けている. 「太い電池と細い電池とで何が違うのでしょうか」 という発問に対する児童・生徒の回答としては,小 学校 3 年生を踏まえると「太い乾電池は,太ってい るので力が強い.細い乾電池は,やせているので力 が弱い」,「太い乾電池は太っているので電気を流せ る時間が長い.細い乾電池は,やせているので電気 を流せる時間が短い」,「太い電池は,息切れがする のですぐに切れてしまう.細い電池の方が長く持つ」 などの回答が予測できる.太さを何かに例えて理解 し,その違いを説明しようとすることは容易に想像 できる.発問後の解説をどこまで行うか,すなわち 電流値の結果報告にとどめるのかあるいは内部構造 の違いを述べるかなどの判断は,現場の先生方にお 任せするが,この発問によって,乾電池の太さが違 い意味について関心が高まれば幸いである. 2.6.3 結言 以上のように,乾電池の太さに関する発問実験を 試行した結果,概ね良好な結果が得られた.乾電池 の太さに関する素朴概念,すなわち乾電池の太さと 力強さの印象を活用した発問実験を思いつき,試行 錯誤した結果,乾電池の太さと初期電流値に相関関 係があったことを確認できた. 電気製品によって使用する乾電池の種類が異なる のは,その製品の消費電力の大きさと関係がある. 消費電力が比較的大きい場合は単一の太い電池を使 うようになっており,消費電力の大きさに応じて, 単二,単三と数字が大きくなる.このことも併せて 理解させることによって乾電池に対する知見を広げ ることができる.
2.7 フレミングの右手・左手の法則の
共存性に関する簡単な実験の開発
2.7.1 緒言 フレミングの右手の法則および左手の法則(以下, 右手の法則および左手の法則と呼ぶ)は,発電機お よび電動機の原理として知られる.電動機と発電機 の構造は,原理的に類似しており,磁界を共通の環 境として起きる事象である.磁界中では,エネルギ ーの保存の法則により,右手の法則と左手の法則は 共存する.共存するが,発電機として使う場合には, 右手の法則が優位になるように,電動機として使う 場合は,左手の法則が優位になるようにしてある. したがって,どちらを先に学ぶかは別にして,右手 の法則と左手の法則は,一対のものとして扱うのが 適切であるといえる.このようにまとめて記憶する ことをチャンク化と呼び,記憶の長期記憶の構築に 有効であると言われている 16).そこで,その視点で 実践できる簡単な実験の開発を行い,実験を通して, 右手の法則と左手の法則が共存性を確認できた. 以下では,その概要を述べる. 2.7.2 確認実験 2.7.2.1 電動機が発電機になる 左手の法則が原理である電動機が右手を原理とす る発電機になることを通して,左手と右手の関連性 を確認する.マブチモータの入力端子にテスタ(電 圧測定状態)を接続し,回転軸を指でつまみ,回転 させることで確認ができる.回転軸を回すと,テス タの表示が変わる(mV オーダ),すなわち,発電し ているのが確認できる.この方法を使った発電機は, 市販されている(ナリカ,B10-2632).指で回す部分 に駆動用としてもう 1 台のマブチモータを取り付け て回せば,指で回した時に比べて,大きな発電が得 られる(~2 V). 表1 各種乾電池の初期電流値 初期電流値(A) 乾電池の名称(通称) マンガン電池 アルカリ電池 単一 4.36 10.73 単二 3.16 8.35 単三 2.98 6.9 単四 1.91 5.82.7.2.2 ベクトル外積を使った説明 左手の法則はF=I×B および右手の法則は E=v×B で表される(図12 参照). (a) 左手の法則 (b)右手の法則 図12 両手の指を使った表現 これらのベクトルを表示するとき,B 同士および I とE の向きを一致させるとFと v が逆向きになる. また,B 同士および F と v の向きを一致させると I とE が逆向きになる.これを実験で確かめる.前者 の場合,2 台の手回し発電機(ナリカ,B10-2632)で 確かめられる.この場合も,片方は発電機用(右手 の法則),もう1 台は電動機用(左手の法則)とする. 発電機用の出力端子と電動機用の出力端子を逆極に 接続する(E と I を一致させる).この違いは,前者 が負荷としてもう 1 台の発電機が接続されていたの で,通電が起きた.通電が起きれば,E と同じ方向に I が発生するので I と B によってvと逆向きの F が 発生する.このためにハンドルが重くなった.した がって,このF が発生しない後者では,ハンドルの 回転が軽くなった.なお,発電機用の出力端子と電 動機用の出力端子を同極に接続すると,発電機用の ハンドルの回転方向と電動機用のハンドルの回転方 向が同じになる,すなわち,E と I が逆向きになるの でv と F の向きが逆になる.そして,発電機用のハ ンドルを左右どちらかに回すと電動機用のハンドル は,それとは逆の方向に回るのが確認できる.つま り,右手の法則における v と左手の法則における F の方向が逆になるのが確認できる. この関係は,ハンドルの回転方向以外に,ハンドル の回転力の違いでも確認できる.2 台の発電機をつな いだ状態(極性は無視)で1台の発電機のハンドル を回し続ける.そして,つないだもう 1 台の発電機 を外すと,回していたハンドルの回転が軽くなる. 次に,右手の法則における v と左手の法則におけ るF の方向が逆になるのは,導線と磁石を使った実 験でも確認できる.ネオジウム磁石(B:500 mT)1 個,2 本の導線,乾電池 1 個,検流計 1 台を用いる. 2 本の導線のうち 1 本は,検流計の両端に接続する. もう1 本には乾電池により通電する.磁曲面を上に して机の上に置く.その後,2 本の導線を磁極の中央 付近に置くが,その際,接着剤やテープなどを用い, 磁極に乗せる部分だけを一体にする.そして,通電 用の導線に乾電池を瞬間的に接続する.そうすると 磁極面に乗せた導線は,左右のいずれかに動く.そ の瞬間,検流計の指針が振れる(発電確認).指針の 振れをもとに誘導された電流の向きを調べると,そ の向きが,乾電池を接続した導線の電流の向きと逆 になるのがわかる.つまり,左手の法則のI と右手の 法則のE の方向が逆になるのが確認できる(図 13(a), (b)参照). 図13 実験の概観図とベクトル図 2.7.3 結言 以上のように,フレミングの右手・左手の法則 の関連付けおよびそれらの共存性などを理解するた めの実験開発を行った結果,2 台の手回し発電機や導 線を使った実験が得られた.また,通常,片方ずつ 学ぶ場合が多いフレミングの右手・左手の法則を一 つにまとめて学習することの妥当性が実証できた.
2.8 回転演算子 rot のイメ
ージ構築
の試み
2.8.1 緒言 筆者は,大学の低年次対象の電磁気学を担当して いる.電磁気学は,電気系の学習において重要な科 目の一つであるが,様々な理由により難解な科目の 一つでもある.最近,難解な印象を和らげるために 図を多用する図書が出版されるようになってきた 17-20).筆者も学生への対応へのヒントを得るために,これらの図書を参考にしている.図を用いれば,確 かに興味・関心を誘発する可能性が高くなるだろう ということは,経験則として理解できるが,実際に, 理解が深化するかどうかは別であるといえる. 読者の理解は,遭遇した知識とそれ以前の知識と の再構成によって深化する.理解の有無は,知識の 再構成が起きたかどうかに依存し,知識が再構成し た時に,読者は理解したあるいは分かったという認 識をもつ.文章,図,数式などは,読者の頭の中に イメージを構築する役割があり,再構成を促進させ るための材料になる.別の表現をすれば,図書の記 述,図,数式は,読者によって一旦,読者の有する 理解表現に翻訳される.翻訳と同時にイメージの構 築が始まり,それらが完了するまで続けられる.し たがって,読者がこの一連の作業をできる限り早く 終えられるように支援するのが執筆者の使命となる. 筆者は,講義内容に関するイメージをできる限り 早く学習者に構築させる方法の一つとして,見せら れるものは出来る限り演示する,すなわち静止画, 動画,実験など見せることを心がけて,授業を行っ ており,その過程で,回転演算子rot の数式の意味を 直感的に解釈させるためのイラストを構築すること を考えた.ベクトルに関する三種の重要な微分演算 21)として,勾配,発散,回転があるが,回転に関し てのイメージ構築が困難であるという印象を持った ので回転演算子rot を取り上げた.本稿では,一例と して,電界E(rot E)について述べる. 2.8.2 数式の解釈の概要
rot E の x 成分((rot E)x),y 成分((rot E)y),z 成
分((rotE)z)は,以下のように表される22). (rot E)x= (1) (rot E)y= (2) (rot E)z= (3) (1)式は,rot E の x 成分は,Eの z 成分 Ez を y で 偏微分し,E の y 成分 Ey を z で偏微分したものを引 くことを表している.ほかの式の解釈も同じである. 上式の右辺は,右に回転することを意味している. 文献23 では,このことを理解させるために,水車を 用いた説明が行われている.しかし,水車を見ただ けでは,数式の形と右に回転するイメージが一致し ない印象を受ける.また,速度の違う水流の存在に より,水車が回るということを使って説明が行われ るが,数式の形と右に回転するイメージを得るには, 少し時間がかかることが予想される. そこで,数式の形と右に回転するイメージを短時 間で獲得できる方法を探索することにした.その結 果,あくまでも筆者の判断ではあるが,満足すると 思われるイラストが得られたので,その概要を以下 に述べる. 2.8.3 イラスト作成の概要 2.8.3.1 数式の右辺のイメージ構築 試作のポイントは,イラストを見た瞬間に,数式 の形の意味することと右方向へ回転することが容易 に想像できるようなものを得ることである.しかし, このような印象を万人に与えるのは不可能であるの で,少なくとも筆者自身がそう感じることができる ようなものを試行することにした. 図14 説明のためのイメージ図((rot E)x の場合)
図14 にイメージ図を示す((rot E)x の場合).同図 (a)は,E の各成分の符号の付け方を示す.符号の付 け方は,(1)式を踏まえ,同図(b)および(c)のようなベ クトルの配置の方向を正とし,この方向と逆方向を 負とした.ベクトルの配置は,右ねじを回す方向お よび右ねじを回転させたときに進む方向を用いる. 右ねじを回転させたときに進む方向がrot E の x 成分 (⊗)にあたる.よって,上方に E の y 成分 Ey,そ の右側にEのz 成分Ez が配置される.このようにし て,数式の右辺の形が表現できた. 2.8.3.2 右方向に回転するイメージの構築 次は,x-y 面が右に回ることを考える.この面が 右方向に回るには,Ez 成分および-Ey が関与する. まず,Ez 成分について見るとこの成分と y 軸方向の 距離の増加の関係は, になっているので, y軸方向の距離の増加と共にEz 成分が大きくなるこ とを意味する.すなわち,y軸方向の距離の増加と 共にトルクが大きくなることを意味する. 一方,z 軸についても,同じ視点で見る.その前に, 上記において距離が増加すると成分も増加するとい う 表 記 な の で ,(1)式の右辺の表記を少し変え, とする((4)式参照).したがって,この 式の意味は,-Ey 成分は,z 軸から見ると下向きとな り,z 軸方向の距離の増加と共に大きくなることを意 味する. このように,y軸およびz軸における成分の変化 によりトルクが大きくなれば,両軸が同じ方向(右 方向)に回るのは容易に理解できる(大きさは➡の 高さで表わす). (rot E)x = = (4) 他の成分でも図1(b),(c)を使えば同じようになる. 以上のように,rot E について数式の形および右方 向に回転するイメージを直観的に構築できるように するためのイメージ図を検討した結果,おおむね良 好なものができたといえる. 2.8.4 結言 以上のように,回転演算子rot における,数式の形 とその意味,すなわち右方向に回ることが短時間で イメージできる方法を検討した結果,見た瞬間にイ メージできるイラストを得ることができた.
2.9 p-n 接合のエネルギ
ー状態を説明する
ための装置の試作
2.9.1 緒言 半導体におけるp-n 接合部のエネルギー状態を説 明する時には伝導帯下端(Wcp),ドナー準位(WD), フェルミ準位(WF),アクセプタ準位(WA),充満 帯(価電子帯)(Wvp)などが用いられる(図 15 参照). 筆者は,この図を見たとき,各準位の変化をいち いち黒板に書いては消すという作業をせずに,一連 の動きとして演示できるものがあれば便利だろう と思った.そこで,試行錯誤した結果,概ね良好な ものを得たので,以下にその概要を述べる. 2.9.2 開発した実験器の概要 黒板などに図を書いた場合は,動画のように連続 的に示すことは困難であり,ある瞬間の状態を示す ことになる.学習者は その瞬間的な状態を示す図 を見ながらキャリアの移動を想像する.空乏層を形 成している部分とそれ以外の部分とでは,WF から Wvp および Wcp までの距離に違いがあるので,こ れをどのように表現するかが課題となる.これらの 違いをうまく表現できれば空乏層の形成もうまく 演示できるようになる.ここがポイントである. これ以外に軽量で構造が簡単で操作が手軽であ る,などを満たすことを念頭におきながら,身近に あるもので試作した結果,カードケース(A4,ハー ドタイプ)2 枚,ネオジム磁石(直径:10 mm,高 さ:5 mm),アクリル板(厚さ:2 mm,幅:20 mm, 長さ:200 mm,300 mm),両面テープ:適宜),帯 状のゴム(幅:5 mm,長さ:適宜)などを用いて作 ることができた(図15 参照).作業の概略と使用に おけるポイントについて述べる. (1)カードケース内にN型,p 型半導体の標準的な エネルギー状態を示す印刷したものを入れる. (2)カードケース(Wcp,WF,Wvp の所)に切り 込みをいれ,端をまめ結びにしたゴムバンドをはさ みこむ(Wcp と Wvp を示すゴムバンドは黒マジッ クで塗りつぶす,WFを示すゴムバンドは波線状に 黒く塗りつぶす). (3)アクリル板に穴を開け,磁石を 2,3 個固定し, それを空乏層付近および伝導帯の上部付近の背面に 両面テープで固定する. 透明な材料を用いた理由は,この上に書き込みを 行い黒板代わりに使うためである.接合面をゴムで つないだのは,ゴムの弾力を利用し,接合する前と 後における各準位が変化して空乏層を形成する様子 を連続的に見せるためである.また,黒板に吸着さ せた状態で演示できるようにするために磁石を取り付けた.ゴムを用いたため WF を一致させた場合の 状態をすばやく再現することができた.接合する前 の状態を演示する場合は,Wcp および Wvp を揃える. 接合後の状態を演示する場合は,その状態から p 型 の部分のみを上に移動させるあるいは n 型の部分の みを下に移動させてWFを揃える.このように,本 装置を用いれば,黒板に書いては消すという作業を 省きながら説明ができるようになった. 図15 試作した装置を使った表示例 本装置は,単に図15 以外の p-n 接合の整流作用, p-n 接合の降伏現象を説明するときにも用いること ができる.また,ゴムのつなぐ場所を変えることに より,金属と半導帯の接触におけるエネルギー帯の 変化を再現および整流特性の説明にも使える.さら には,3 枚を用いて接合トランジスタ(p-n-p,n-p-n) のエネルギー帯の再現およびトランジスタ作用の説 明時にも用いることできる. なお,本装置を用いる時にp 型および n 型の部分 を動かしているが,これは,あくまでも本装置を使 う場合の動作の一つであり,エネルギー準位の生成 とは無関係である. 2.9.3 結言 以上のように,試行錯誤した結果,思いとおりの ものをつくることができた.ゴムの弾力を用いた模 型を使うことにより,黒板上で書いたり,消したり する作業をせずに,簡単にバンドモデルを示すこと が可能になった.
3.おわりに
以上,筆者が担当している電磁気関係の授業を通 して感じたこと踏まえて開発したワンポイント実験 例を報告した.開発において重要だったのは,実験 を観察した人にわかりやすいと感じさせることであ る.わかりやすいという認知は,誰しもが抱くがそ の中身は千差万別である. 一つの事象を観察した際,見ている事象は同じで も,観察者がそこから得ている情報およびその処理 過程には個人差がある.もちろん,理解の認知の内 容にも個人差がある(内容を厳密に比較することは 困難である).ある者は,良くわかったと認識しても, 別の者にとってはよくわからないと認識する場合が ある.この違いは何に依存するか,それは,その事 象を観察する以前に観察者が有していた理解・知識 の違いである.人の有する理解・知識は,当然のご とく個人差があり,その差は,認識の違いを生むこ とになる.これらの差は,経験や学習歴の違いから 生まれる. 筆者は,観察者の認識を想像しながら,これまで に数多くの実験教材を開発してきて感じたことは,1) 所詮は限られた人の理解を助けるにすぎず,多くの 人に役立つとは限らない,2)万人に役立つものは作 れないので同じ事象を複数のモデルで具現化する必 要がある,3)他人が実験教材を作るのではなく,本 人が自分の理解の内容を踏まえ,試行錯誤しながら 開発する過程を体験することで最も効果的な実験教 材になる,ということである. 以上の開発を通して,理解を深化させたのは,筆 者の試作した実験を観察した者ではなく,筆者自身 であったことを強く感じた.所詮自分自身で悩み・ 考えて作り上げることが,最も効果的な学習になる ことを改めて実感した. 一般的に,“ものつくり”が効果的な学習の一部と して取り上げられる.この場合の“もの”とは,有 形無形問わず,その人が“わかった”という認知を構築 するために必要とする理解の状態である.つまり, “ものつくりとは”,“理解作りである”といえる. 紙面の関係ですべてを紹介することができなかっ たが,筆者がこのような実験を行うようになったのは,文献24 との出会いがきっかけである.思いつい たことや気になったことは,できる限り実験してみ る,という思考に強い共感を覚えた.筆者は,元々 そのような性格であったが,文献24 との出会いによ り,それが加速したようである. 実験は,万能ではなく,理解のすべてを供給して くれるわけではない.肝心なところは目には見えな い.そのような場合は,思考実験による想像で補っ た.そのような理解活動を通して,理解がゆっくり 構築されることを,この一連の実験を通して改めて 感じた.もちろん,完成した理解が得られたわけで はなく,あくまでもその途中であることは,認識し ている. 当初は,筆者が担当している授業等で用いる実験 教材の開発を行っていたが,長年続けている間に, いろいろな思考・判断が加わり,もっと大きな課題 に遭遇するようになった.その課題とは,「理解(分 かる)とは何か」である.気が付かないうちに,い わゆる学習科学の分野に足を踏み入れていたことに 気づいた. 学習で重要なことは,理解の構築である.理解, すなわち物事の理由を解ることである.始めは,だ れしも分からない状態である.その状態は,学びに よって理解の状態に変化する.理解の状態には,経 験や学習歴に依存した個人差がある(この差を文言 で表すあるいは数値化することは困難である).筆者 は,本研究によりこれらのことを実感した.この実 感は,文言によって他者に伝えることはできない. 筆者の経験として筆者のみが感じられることである. 一般に技(わざ),コツ,腕の順に他者に伝え難く なるといわれる.これを当てはめると,筆者がこの 一連の研究で感じ取ったものは,コツに相当する気 がする.理解を深化させるコツを感じ取ったといえ る.コツ自身を伝えることは困難であるが,コツを 得る方の一つとして実験教材の試行錯誤を通した開 発を体験することを提示することは,可能であると いえる. 仮に,このような体験を児童・生徒に施せること ができれば,児童・生徒が理科離れとか理科嫌いと いう印象を持つ可能性が低くなることが考えられる. しかし,実際に行うには,スタッフ,場所,予算な どにおける多くの課題を解決しなければならない. 筆者は,運よく上記のような体験を積みながら思 考・判断を深化させることができたが,他者が同じ ことを体験しようとした場合,様々な事情により容 易に実践できないのが実情のような気もする.現実 には,筆者が担当する授業などにおいて,口頭や演 示によって,学生に伝えることくらいしかできない のかもしれないと思う.
参考文献
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