初等教育教員としての児童の造形活動を支援するために求められる能力に関する考察(5) : 卒業制作における実技力について
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(2) 課題意識. では、どのような目的意識をもって卒業制作に臨んで. .専門化した趣味の対象 . 自己の生き方について .教職への意識 等. いるのだろうか。問い5 「何故、あなたは卒業制作に取 り組んでいるのですか(複数回答化)」の結果は次のよ′. 達ニー..ち毒l(. (自己表現) 内面の 対象化. r-csirotor->cmo. うである。 ①自分の制作意欲、興味・関心を満たすため。 ②文化的な教養を高めるため ③教師になったときに役に立つと思われる。. 教育実践力 Ttt^違1弓. ④単位を取得するため。 ⑤学生時代の思い出を作るため. 実技力 ・/")ぷ;ph. ⑥卒業後の制作活動の基礎を作るため (診その他. また、問い3 「あなたのゼミ選択の観点を教えて下さ い(複数回答化)」の回答は次のようである。 ①自分のやりたいことが決まっていた。 7. 自己探究・世界観の再編 造形芸術の価値の自覚. 図1能力の習得過程 以上を踏まえ、本学卒業制作における現状や課題につ. ②教官の説明を聞いて興味を持った。 ③ゼミ教官の作品にひかれた。 ④ゼミ教官の人柄にひかれた。. 3. ⑤ゼミ教官の指導性にひかれた。 ⑥学生間の人間関係を考えた。. 2. (》ゼミの雰囲気にひかれた。 ⑧先輩からの情報で興味を持った。 (勤授業を通して判断した.. いて考察していくことにする。 2.卒業制作の現状と課毘 1999年10月29日、本学美術コース4年16名. ⑬なんとなく決めた。. 2 9. 1. 4 I. 6 1. ⑪その他(人数の関係で希望通りに行かなかった) 2. を対象に「卒業制作及び制作ゼミについてのアンケート」 を実施した(無記名)。質問は、次の6項目にわたって設 定した。 ①取り組み状況、 ②ゼミ分けの時期、 ③ゼミ選 択の観点、 ④卒業制作の必要性、 ⑤卒業制作の目的、 ㊨. 卒業後も制作活動を続けようと思っている学生は2 名。また、ゼミ選択に際し、ゼミ教官の作品を判断基準 にした学生は2名である(1名は双方を選択)。大半の学 生は、ゼミ教官の人柄や、授業で接したときの感触をも とにゼミを選択し、自らの制作意欲や興味・関心を満た. 卒業制作についての課題意識、である。尚、有効な回答 者数は1 3名であったが、学生の主体性を尊重し、再提 出等の措置はとっていない。未提出及び不正確な回答が 3ということ自体の意味も考察の対象となろう。 以下、アンケートの結果に基づき、卒業制作の現状や. すため、また学生時代の思い出を作るために卒業制作に 取り組んでいるということになる。. 課題について検討する。 2 - 1卒業制作に対する必要感と目的意識. 美術(制作)との関わりの深度という点で、芸術大学と の違いが最も鮮明に現れているところであろう。本学学. 問い4 「卒業制作についての考えを開かせて下さい」 では、 「必要である」が7、 「必要でない」が1、 「どち. 生にとって卒業制作は、他の何かとの代替えが可能な卒 業要件の一つといえるのかもしれない。. らともいえない」が5であった。 「必要でない」と応え た学生は1名であったが、 「どちらともいえない」の5. とはいえ、このことが初等教員養成大学における卒業 制作の独自性を象徴しているとも考えられる。本来全教. と合わせると約半数が卒業制作にさほど必要感を感じて いないことが分かる。. 科を担当する初等教員にとって、高度な専門性は要求さ れない。実技の授業などを通して教官との関係性を広げ. 問い2 「ゼミ分けの時期について考えを開かせて下さ い」では、 「遅すぎる」 6、 「早すぎる」 1、 「ちょうど. ていきながら自分のやりたいことを見出し、 -一時的にで はあれ、集中的に取り組むこと。つまり、課題の発見・. 良い」 2、 「あまり考えたことがない」 4となっている。 「あまり考えたことがない」の4を見ても分かるように、. 計画・追求・達成という一つのプロジェクトの遂行を経 験することが今後の(教員)生活にとって重要になってく るのである。 問い5で「教師になったときに役に立つと思われる」が. 学生にとってゼミ選択・卒業制作は、あくまでも大学が 用意した必須課葛の一つという位置づけを越えるもので はない。. 3、 「文化的な教養を高めるため」と応えた学生は2名で. -20-.
(3) あったが、このような視点から卒業制作の目的を対象化 していくことも必要であると思われる,. 2 - 3卒業制作に向かう姿勢と美術に対する好感度 卒業制作についての必要感や目的意識、課題意識など を見てきた訳だが、当然、それぞれの学生によって卒業. 2 - 2卒業制作についての課題意識. 制作に向かう姿勢は異なっている。 問い1 「現在の卒業制作の取り組み状況を教えて下さ い」で、 「ある程度制作を進めている」と応えた学生は. 問い6「卒業制作を進めていく上で重要だと思われる 要素について応えて下さい(複数回答化)。また、自分に とって不足していると思われるものの番号を記入してF. 4名であった4名に共通する回答を挙げると次のよう である。まず、ゼミ選択については全員が「自分のやり たいことが決まっていた」と応えている。卒業制作の目. さい(複数回答化)」では、次のような回答を得た。 重要/不足. ①学生自身の問題意識・課題意識 (診学生自身の興味・関心・向上心 (彰美術に関する情報、知識 (彰教師のアドバイス. 8. 的は2名が「文化的な教養を高めるため」、残る2名が 「教師になったときに役に立つと思われる」を挙げてお. 6. 122 3. り、 「卒業後の制作活動の基礎を作るため」についても 2名が選択しているo重要な要素としては3名が「学生 自身の問題意識・課題意識」と「学生自身の興味・関. 5. 8. ⑤学生同士の相互批評、励まし合い (む実技授業との関連性 ⑦卒業制作までの実技トレーニング (釦提出日、単位取得などの拘束性. 2. ⑨教官との人間的な触れ合い ⑬時間の確保 ⑪制作場所の確保. 1. 1. 1. 3. 3. 1. 心・向上心」をともに挙げている。 一方、問い1で「まだ取り掛かっていない」と応えた 学生は2名であった。彼らに共通する回答は、ゼミ分け の観点が「教官の人柄に引かれた」、卒業制作の目的が 「単位を取得するため」、重要な要素及び不足している要 素が「学生自身の問題意識・課題意識」 「学生自身の興. 9 2. 味・関心・向ヒ心」となっている。 ある程度進めている学生も、まだ取り掛かっていない 学生も、ともに卒業制作と自分との関わりをよく捉えて. ⑫材料、画ネオの確保(金銭的なことも含めて) 7 2 ⑬その他. はいるが、両者の違いは大きい。前者は目的意識をもち 主体的に関わろうとしているが、後者は、あくまでも受. 学生が重要であると捉える要素の中で、学生自身のモ チベーションや意欲に関する項目(①、 ②)は20であ る。また、これらが自分には不足しているとする回答数. け身であり、単位取得の為に仕方なくこなそうとする様 子が伺える,Jこのように卒業制作に向かう学生の姿勢に はばらつきが見られるが、先にも触れたように、それぞ. は8であった。不足しているとは言わないまでも、重要 であると応えた学生の意識のなかにも、自分自身への反. れの学生の、美術との関わり方の度合いが問題になって. 省や自戒の念が込められていると見るべきであろう,i, 一方、時間の確保や材料、画材の確保などの環境面. くると思われる,J そこで、 1 2月15日、初田が担当する4年生の授業 において、美術(図工)に対する好感度の変化及びその. (⑲、⑪、⑫)は合わせると18となるが、これらも、 学生自身の意欲と関わっている。卒業制作の提出日が迫 ってきてもアルバイトを優先する、画材にお金を使うこ. 理由をグラフに書き表すという調査を行った(1 5名)。 幼稚園から現在までを振り返り、好感度の推移を大まか な折れ線グラフに表し、変化の大きい個所にその理由を. とを厭うなど、美術(制作)の優先順位が上がらない学 生の姿が目に付く。つまるところ、卒業制作を進めてい. 書きこむものである。,図2にそれぞれのラインを示す。 概ね小・中学生の間は美術・図工に対する好感度は高. く上で最も重要な点は、学生自身がいかにモチベーショ ンを高め、意欲的に取り組めるかということに帰結しよ う。. く、そのことが美術コースを選択した動機の一つとなっ ていると思われる.しかし、大学の4年間を見てみると、. では、何故、学生のモチベーションや意欲が高まりに くいのだろうか。. 常に好感度を高く維持している学生と、かなりマイナス なイメージを持ち続けていた学生との差異が大きくなっ. 「教師のアドバイス」、 「美術に関する情報・知識」、. てくる.大学1年の早い時機に美術と意義ある出会い方 をした学生は好感度が高いが、美術に馴染めず課題意識. 「実技トレーニング」など美術に関する知識や実技力の 重要性については1 2、不足していると自覚している回 答数が8となっている。実技力-の自信の無さや、美術. を高められなかったり、美術以外に打ち込めるものを見 出した学生は美術への好感度を高めることができないま まゼミ選択・卒業制作を迎えているようである。次に、. に関する知識量の乏しさなど、 「美術」との日常的な関 わりの希薄さが学生を制作から遠ざけているのではない だろうか。. 大学での上昇及び下降の原因をまとめた(学生の記述よ り1_. -21-.
(4) ・㌔∴事.寸.,>戸さサ* '<yす.J了 図2. I-サ・';ホ<サ蝣>・中^了・ナチ・;i.. 好感度の変化. 上昇の原因 ・入学説明会で美術に興味をもった。. 3.卒業制作を通した学生の意識変化. ・自分の価値観が広がった. か、岩下の指導学生0の事例を挙げて考察する。 0はコ ース選択の時点より一貫して美術に対してネガティブな. 卒業制作を通してどのように学生の意識が変容するの. ・いろんな分野のことが体験できて楽しくなる(3)。 ・西宮市展で絵が人選した。. 関わりを示してきている。彼が卒業制作を通してどのよ うに美術との関係を取り結んでいくのか、第1回目のゼ. ・表現する面白さ、鑑賞する面白さに目覚めた。 ・実地教育で美術の授業を行ってから意欲が湧いた。 ・油絵を描くことが楽しい。 ・美学、美術史という学問にであう。. ミ指導(1 0月29日)の発話分析をもとに考察する. 3- 1初luJゼミにおける意識の変容 学生0の美術に対する好感度の変化は下のようである. ・卒業制作で嫌でも取り組み、結構楽しい。 下降の原因. (図3)′,. ・他のコースを希望していたのに、美術になってしまっ た。 ・美術に期待したが、だまされたような気がする。 ・才能とやる気の無さに気づく。 ・自分に創造力が無くなってきているように思う。 ・だんだん専門的になってきて、苦手な分野が嫌になっ てきた。 ・クラブの方がおもしろい。. 大学における好感度の上昇は、ゼミでの指導や卒業制 作への取り組みが契機となっている場合が多いことか ら、少なくとも本学での卒業制作(指導)は、学生を美. 図3学生0の好感度ライン. 術と関わらせていくという点での意義は大きい′また、 「実地教育で美術の授業を行ってから制作意欲が沸いて. 0は小学l年生で既に図工が嫌いになっている_、理由は 担任の先生の指導が本人の意欲をひどく損ねるものであ. きた」とあるように、教育的視座と制作が連動すること によって学生の美術観が高まっていくというケースは、. ったためであるノ「先生に、図工の時間、たたかれる」 と記述している以来、中学1年で美術教師に好意を感. 先に述べた実技センター美術分野で捉える「能力の習得 過程」を裏付けるものである′′. じたため一・時的に上昇したことを除いて、あまり好まし いイメージを持っておらず、特に大学に入ってからは最 低の好感度を示している′ノ小学校・中学校での美術教育、. -22-.
(5) とりわけ教師の指導がいかに大きな影響を持つものであ. といった岩下の芸術解釈に、学生は関心を示す。 「では、 芸術の価値って何ですか」などと学生が質問を始める。. るか、改めて考えさせられるが、大学4年の後半によう やく上昇し始めるのであるC,上昇の契機となるのは卒業 制作である。 ゼミの決定は昨年の6月であったが、以来、初回のゼ. 「芸術はいかに人をだますかということです」、 「芸術は 技術でもないし、それに費やした時間でもない」といっ た岩下の見解に対して「自分たちにも、今からできます. ミ(10月20B)がもたれるまで、積極的なゼミ活動は行わ れていない。岩下としては、学生の自主性・主体性を尊. か」と、期待感を持って質問する.,学生がある程度の可 能性を実感できた後に「僕と君たちとは何の接点も無い. 重し、活動の場や資料を提供すること、求めに応じた示 唆を提示することを基本的な方針としているためであ る。また、岩下は造形作家としての立場から、主に対話. しコミュニケーションの可能性すらない′しかし、理解 し得ないということから出発するしかない」と実質的に ゼミのスタートを宣言する_!学生も「よろしくお願いし ます」と納得する,J. や自らの制作態度を通して、学生に美術(制作)の意義を 伝えていくといった姿勢で指導に臨んでいる,J 初回ゼミは次のように行われた。尚、ゼミには初田が. <0の発言> なんとか自分にもやれそうな気がしてきた。芸術って 難しいものだと考えていたけれど、いろんな方法がある. 立ち会い、岩下の指導の途中、学生の意識を探るため、 適宜学生に意見を求めた。. のだなと言うことが分かってきた。 ③展開. (彰反発 これまでに授業で制作した学生の作品を挟んで対話を 始める。作品数点に目を通し、 「君はやる気がないな」 「正直に言いなさい」と言う岩下の言葉に、 0は「はい」. 学生が持参した彫塑作品を用いてプレゼンテーション の方法、意表を突く提示の仕方、インスタレーションの 考え方などについて説明する。また、 「何を表したいの かではなく、表されたものから意味や言葉を引き出すこ と」、 「技術が無ければ発注芸術と言う方法もあること」、. と応える。 0の作品は、作品としての視点や問いが立ち 上がっておらず、単に指示通りに素材を加工しただけで 終わっていること、卒業制作では、造形的な技術や思考 を、一つの作品として世に問うレベルにまで高める必要. 「何を作るかというより、遊ぶこと」、 「発想を変え、も のとの関わりを広げること」等の重要性について話す。 さらに、写真やビデオの可能性、場所や状況を変換する. があることなどを話す。また、これまでに(前任校で)描 導してきた学生の事例を挙げ、制作に向かう心構えや卒 業制作で何を学ぶのかといった点を述べながら、岩下自. 方法などについて示唆する。研究室や制作場所の使用方 法、材料の調達方法、次回ゼミの日程などを話し合って 初回ゼミは終fする,.,. 身の制作姿勢、学生への指導観などを明確にして行く。, 尚、発話のトーンはあくまでも厳格であり、学生の退路 を絶つ方向で進められている。 学生は沈黙のまま、 2 0分が経過する。. <0の発言> かなりやる気がでてきたO芸術についての考え方が変 わったように思う。、自分にもできそうなテーマや方法を 考えてみたい. 初田が学生に発言を求める。 <0の発言>今まで自分がいい加減にしてきたことが見 透かされた。第5志望で美術コースに編入され、意欲が. 3-2考察 0は自分が美術に対して無関心であったこと、卒業制 作への意欲も沸かないでいることを最初に述べている。. 無いままに、最低単位数を確保するためだけに授業を受 けてきた。ガイダンスでは美術は上手い下手ではないと. しかし、初回ゼミの後半にはある程度の展望を持つに至 っている。. いわれていたが、実際の評価は作品の出来栄えが問題に なる。自分は人と比べて下手であることが引け目になっ. 0の美術に対する関心の低さは、美術が第5志望であ ったことや技術面で自信がもてないことが原因となって. て充実感や喜びを感じたことはほとんど無い,工芸の作 品を放課後一人で制作したときは楽しかったが、単位を. いる。意欲の出ないまま、その場しのぎで実技課題をこ なしてきた結果、表現の喜びや手応えなども感じたこと が無く、卒業制作において何をどう表現したら良いのか. 取得してしまうと忘れてしまうO,卒業制作で人に見ても らうのは恥ずかしい。岩下先生の話しを聞いて止めてし まおうかと思った。実際に何を作りたいというものも無 いし、作り出す方法もまったく分からないn. 手がかりすらもてない状態であった、 彼が特に関心を示した岩下の言葉掛けは、まず、美術. ②接近/同調 学生の発言を受けて、岩下は芸術についての基本的な. の価値は技術の高低で決まらないこと、制作に費やした 時間は問題でないことなどであるこ-実技面での自信の無. 考え方を話し始める。 「再現的に作るだけが芸術ではない,こ上手く作れなく ても一向に構わないし、器用不器用なども問題ではない」. さ、限られた制作時間などの現実的な問題に、解決の糸 口を見出したものと思われる′うまた、 「再現的に作るだ けが芸術ではない」、 「何を作るかというより遊んでみる」. -23-.
(6) といった、現代美術の思考ついての岩下の見解が、 0の 意欲の喚起に繋がったと見るべきであろうノ0がこれま. 「デビルマン」 (4)のフィギュアを持参する24cmのフ. でに形成してきた美術観では、あくまでも再現的な絵や 彫刻を、客観的な美の基準のもとに制作したり鑑賞した りすること以外の美術のあり方には認識が及んでいなか. る. ったものと推察できるo形式にとらわれず、あらゆる方 法で自由に制作することが可能であるという美術の地平 が、 0の意識のなかで拓かれはじめた、別言すると、美 術を通した世界観の再編に向かい始めたといえるのでは. ィギュアを10倍に拡大した塑像を製作することに決定す. 岩下のアドバイスにより、まず、 240cmの画面に拡大 したデビルマンの平面図を画くことになり、画面には格 子をとり、フィギュアの実測、拡大、描写という作業に 入る、 11月未に彩色して仕上げる。. ないだろうか。 岩下の指導は教育的な配慮のもとで行われたものとは 考えられない。先にも述べたように、岩下は教育者であ るよりむしろ作家としての関わりを基軸にゼミ指導を行 っている。下に、初回ゼミの展開を簡略に示す′、. 岩下学生○ 追求 立場の表明 美術観の開示. -1?-_ -. 反感/不安. 接近. 関心/期待. 同調. 示唆. 展開. 図5学生Oの作品 塑像に取り組むには時間的にも技術的にも限界がある. 発見/意欲. と判断したため、レリーフで制作することに進路を変更 する。,. 園4初回ゼミの流れ 初回ゼミの流れを概観して注目すべきは、教官とゼミ 生との出会いが、予め設えられた教育的な枠組みをはず れ、互いに自分の立場や思いを提出し、反発し合うこと から始められている点である。人と人との不合理な出会. 平面図が完成した時点で、 0は自作のスケールの大き さ、実測による正確さなどに満足感を覚えており、制作 への意欲や手応えを語っている。 レリーフの制作を行っているとき、彫塑専攻の大学院. いから、徐々に接近し、同調するという、通常一定の期 間を経て達成するコミュニケーションの経路が1回のゼ. 坐(日展彫刻部に出品)が好意でデビルマンの顔を修正す るということがあったのだが、 0は修正された顔が気に 入らず再度作り替えているーt制作への自信が無く、作品. ミの中に凝縮されているように思われる。何故自分は美 術に関心が向かないのかということについての振り返り. のイメージをもつこともできなかった0に、明確な制作 意識が芽生えたことを物語っている!、. や、これまでに捉えていた美術観の刷新などが、教官と の出会い、コミュニケーションを通して行われているの である。. レリーフ作品が完成した後に0は以下のように語って いる′, 「自分にここまでできるとは当初考えられなかっ た途中からは制作が楽しくなってきたし、努力もした-ノ 出来上がった作品については最高に満足している」。 また、卒業制作の審査会では、スポットライトによる. 青年期の学生を美術と関わらせていく上で、自己を振 り返る場の提供、美術の多様性の提示、教官自身の制作. 照明効果や音響などを取り入れ、作品のプレゼンテーシ ョンにも気を配っている. 姿勢や美術観の開示、学生とのコミュニケーション(討 議・対話)などを、重要な観点として取り出すことがで きるだろう。. 4.初等教員養成大学における卒業制作の意義 2-3で取り上げた「好感度の変化」は1 2月15日、. 3-3以後の展開 2回目のゼミは1週間後、ある程度やってみたいこと. ほぼ全員が卒業制作と向き合っている時期に調査したも のである。グラフの最後、つまりは現在の状態であるが、. を考えてくるという課題が与えられている。 0は好きな マンガのキャラクターをテーマに制作したいと述べ、. 全員が(1名を除く)上向きのラインを描いている。これ. -24-.
(7) はそれぞれなりに卒業制作を通して美術と自分との関わ りが深まったということを示していると判断できるま. また、卒業制作は、課題の発見・計画・追求・達成と いった、一つの課題解決のプロセスでもある。卒業制作. た、 「卒業制作及び制作ゼミについてのアンケート」を行. を通して、美術との関わり(好感度)が変化したというこ とは、課題解決に伴う達成感や充実感を実感したからと もいえる。この経験は、今後直面するであろう問題解決. った1 0月2 9日の時点では不明瞭であった卒業制作の 意義が対象化されてきたともいえる。初田のゼミ生は 「アンケート記入時では卒業後に製作を続けるという気. の場面で、とりわけ教師としては教材(単元)の開発や、 年間教育計画の立案、行事の計画などに活かされるもの と思われるノ. 持ちはなかったが、今はできれば続けていきたい」と語 っている。卒業制作が、美術専攻としての4年間の総括 的な意味を持つことは確かである。 では、卒業制作を通して学生はどのように意識を変容 させていくのか、またそれを支える要件とはどのような. 一方、-卒業制作の目的として、 「教師になったときに 役に立つと思われる」と回答した学生は3名である。 「好感度の変化」で上昇の原因を「実地教育で美術の授業 を行ってから制作意欲が湧いてきた」と記述していた学 生もあった(このように、美術を教えることと学ぶこと、. ものか、これまでの考察を踏まえ次に述べる。 0の場合は特に顕著であったが、アンケートの結果か らも分かるように、本学の美術専攻学生の多くは、表現. 自ら制作することとが互いに関連し合うところが、教員 養成大学における卒業制作の独自性を考える上で重要で. 技術や美術の知識が不足していることを自覚しており、 このことが卒業制作に取り組む際の妨げになっている傾. ある。また、 「好感度の変化」が上昇した原因として、 「大学でいろんな分野のことが体験できて楽しくなった」. 向がある。そこで、制作-の抵抗感を和らげ、自己表現 の可能性や展望を持たせる必要がある。 0の場合は、技 術の高低や制作時間などが美術の価値を決定するもので. (3名)、 「自分の価値観が広がった」などが挙げられてい るが、-諸領域の授業を万遍なく履修するという、教員養 成大学の特質を積極的に活かしていくという観点からも. はないことや、再現的な表現に捕われず、素材と遊ぶつ もりで自由に取り組むようにという言葉掛けを契機に、. 検討すべきであろう{-. 制作への展望を持つことができた。これまでの美術と自 分との関わりを振り返らせ、新たな知識や考え方を示す などし、美術表現の多様性、柔軟性に気づかせる必要が. あわりに 本稿では、アンケート及び学生0の意識変化の調査を. あるといえる。 また、卒業制作は定められた時間枠で一定の教育計画. もとに考察してきたが、それぞれの教官が卒業制作指導 を通して把握してきた学生の実態や卒業制作の意義付け を、おそらくは凌ぐものではないだろう。,. に従って行われるのではなく、学生の自学が中心となっ て進められるものである。いわば、ゼミ教官とのコミュ ニケーションを通した、潜在的なカリキュラムの影響を. しかし、このようにささやかな記録と考察を記述して おくことの積み上げが、将来的には学生に対する眼差し. 強く受けるものともいえる。 0が岩下の作家としての自 我の強さに当惑しつつも納得し得たのは、岩下の人間性. の共有化へと繋がっていくのではないかと考える。また それが、実技センター美術分野の職務の一環であると捉 えている,i. を通して、その背後にある美術の世界と触れることがで きたからではないだろうか。卒業制作の指導にあたって は、現在行われているような、教官の制作姿勢や美術観、. 注記 (1)初田岩下「初等教育教員として児童の造形活動を支 援するために求められる能力に関する考察(4)一実技 センター美術分野における教育活動の改善試案∼」、 実技教育研究、第13号、 1999年・. 人間性などを通して学生の自覚を促すというあり方に価 値があると考えられる。 先にも延べたが、大学4年での「美術に対する好感度 の変化」 (図2)は、概ね上向いている。, 0の場合は特に、 これまでのように与えられた課題をこなすのではなく、 自分でやりたいことを発見し、自由に制作することで、. (2)大勝恵-郎「青年期の特質と造形発達」、 「造形美術教 育体系7高等学校教員養成編」、美術出版1983年、. 今までとは異なる自分を見出している(I 「好感度の変化」 を基に、美術教育で最も重要だと思われる点を指摘する、 という課題では、 「本人の楽しさを否定するな本人が. 34貞一39真. (3)同書、 22紅葉田豊和「教員養成大学における美術 教育」_-. 楽しければそれで良し」と記述していることからも、 0 は制作を通して自己表現の重要性を改めて認識したもの. (4)永井豪原作のマンガ_ 1972年より「週刊少年マガジン」 に連載、その後テレビアニメとして放映される。現在 の学生の世代では、アニメの再放送で親しんでいたと 児われる. と推察できる。主体的な表現活動によって、新たな世界 を開く、自己変容の手応えを得るということが卒業制作 のねらいであるともいえる。. -25-.
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