Thomas Piketty『 21世紀の資本』に関するノート
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(2) . fig. 1. y=f (k). ①. したがって,効率労働者1人当たりの産出量yは. 明するためのグラフである. そこには,横軸に効率労働 1 人当りの資本量kを,. 効率労働者 1 人当たりの資本量kだけの関数である. 縦軸に効率労働者 1 人当たりの生産量 f(y)を図っ. から,yの経路を辿るにはkの動学経路を追えばよ. た 2 次元グラフに,収穫逓減法則に従うf曲線とs. いことになる.. f曲線 (現実の総投資曲線) ,および各kの水準を維. 2 (AL) 〔 AL・dK/dt − K・d (AL) /dt〕 dk/dt = 1/. = dK/dt / (AL) −. 持するのになされなければならない必要投資額を示 す勾配 ( a + n + δ) kの直線が描いてある.. 2〔A K/ (AL) (dL/dt). +L (dA/dt) 〕. さて,⑤が示すように,効率労働者 1 人当たり資. = dK/dt / (AL) − K/AL) 〔 (dA/dt) /A. 本量は,時間の経過とともに k に収斂する.何故 *. ②. なら,いま効率労働者 1 人当たりの現実の資本量k. ここで,Solow モデルにしたがって粗投資は貯蓄. ,⑤式が示 が k より大きければ(つまり,k <k). に等しいと仮定すれば,資本の純増分である純投資. すように dk/dt <0となり,kは k に向かって減. は減価償却を引いた残りとして,次のように書かれ. 少して行く.他方,もし効率労働者 1 人当たりの現. る.. ,dk/dt 実の資本量が k より少なければ(k >k). + (dL/dt) / L〕. dK/dt =sY − δK. *. *. *. *. ③. *. * >0となり,kは k に向かって増加して行く.した. この③式を②式に代入して整理すれば,②式は次. がって,どのようなkから出発しても,k に向かっ. のようになる.. て収斂するのである.つまり,新古典派成長モデル では,伸縮的な価格機構の下で,資本量に対する需. dk/dt =(s Y−δK) / (AL) −k 〔 (dA/dt) /A +(dL/dt) / L〕. *. ④. 給を通じて資本収益率rが変化することで,効率労. ここで,労働,技術知識の水準(ストック)が時. 働者 1 人当たり資本量 (k) が伸縮的に変化し,k に. 間の経過とともに, どのように変化するかについては,. (y) は 収斂するのである.k では,現実の投資額 sf. *. *. それぞれ外生的に与えられる n,a の率で指数函数的. 技術進歩と人口増加と資本減耗のすべてを過不足な. に増加すると考えよう.つまり,L(t)= L(0)ent;. く賄うに必要な投資額と等しくなる均衡点 E に対応. (L (0) ,A (0) は 0 時点に与えられるパ A (t) =A (0) eat;. する (効率労働者1人当たりの) 資本量である.しか. ラメーター)であると仮定しよう.. も E が安定的な均衡点であることは以上の説明の通. この仮定を利用して④式を整理すれば,最終的に. りである.つまり,dk/dt = 0である k は安定的. 次の式が導かれる. ∴ dk/dt = sf (k) − (a + n + δ) k. *. な均衡資本量であることが確かめられる.均衡点 E ⑤. は,効率労働者 1 人当たりの資本量も,効率産出量. Fig.1 は Solow モデルの動学経路を示す⑤式を説. y で一定になる定常均衡が成立す もそれぞれ,k , *. *.
(3) . る状態である.定常均衡では,産出量,資本量,効. 人当たりの産出量は,一定(つまり,成長率はゼロ). 率労働は,すべて a + n の率 (%)で成長する均衡成. である.. 長の状態である.. (ⅲ)効率労働は(a + n)で成長する.. さて,ここで若干の脱線をして,Solow の成長モ. (ⅳ)均衡成長の状態では,産出量 (Y) と資本 (K) は. デルとの,すぐ後に説明する Harrod・Domar の成. ともに(a + n)の率で成長し,貯蓄率 (s)からは独. 長モデルと関係を明らかにするため,⑤式から定常. 立である.. 均衡の状態を別の視点から説明しておく.⑤式にお. (ⅴ)労働者 1 人当たりの資本量は技術進歩率 a で. いて,効率労働者1人当たりの資本量の変動が止ま. 成長する.. る定常均衡では,dk/dt = 0であるから,sf (k)― (n. 〔∵ K および Y は(AL)と同じ a + n の率で成長. + a + δ) k= 0,つまり sf (k)/k= n + a + δ が成. するが,k= K/L の成長率は K の成長率−L の成長. 立している.この式の左辺を書き換えれば,sy L. 率として計算されるからである(すなわち,a + n. /kL = s/ (K/Y)= s/ β.ここで β は piketty の (純) 資本産出量比率,つまり資本の生産性の逆数. − n = a) 〕 . (ⅵ)労働者 1 人当たりの産出量は技術進歩率 a で. であり,Harrod の定義する (減価償却分を控除した). 成長する.. 必要資本係数c r である.したがって,左辺はs/ c r. 〔∵ Y は(a + n)で成長するから,y= Y/L の成. であり,Harrod の定義する適正成長率Gw に他な. 長率は a + n n = a である) 〕 .. らない.他方,右辺は (減価償却部分を控除した左. さて,以上の分析から,Solow モデルから Piketty. 辺に対応させれば) ,労働人口の成長率 n と技術進. の所得分配に関する長期命題を説明するとすれば,. 歩率 a の和である自然成長率 n + a である.つまり,. 経済が到達する長期均衡の定常均衡の状態における. Solow モデルの定常均衡の状態では,Harrod の保. 賃金率と資産所得を比較することになる.いま,す. 証された適正成長率 G w と自然成長率が等しい G w. の賃金所 べての所得を労働から得ている人 (労働者). = Gn が成立しているのである.. 得と,蓄積してきた富から所得のすべてを得ている. 本題に戻ろう.定常均衡といっても,一定になる. 不労所得者の資産所得を比較すれば,資本収益率が. のは効率労働者 1 人当たりの産出量 Y / (AL)で. 経済成長率より大きい (r > g) 限り,後者 (不労所得. あって,産出量 (Y)そのものではない.すなわち,. 者)の所得と富は前者 (典型的な労働者)の所得より. 定常状態では,産出量 Y は (AL)と同じ率で成長す. 急速に成長することは,次のように説明されるであ. るから,Y / (AL) は一定になる.つまり,効率労働. ろう.賃金率は労働者の生産性にほぼ等しく決まる. が a + n の率で成長し,産出量 Y も a + n の成長率. から,労働の生産性が技術進歩率 a%で成長してい. で成長することで一定になるのである.このことは,. る以上, 賃金率も a%で成長すると考えられる.他方,. 資本についても同じで,効率労働者 1 人当たりの資. 経済全体の GDP (Y)の成長率gは (a + n)%であり,. (AL)が一定になるのは,AL の成長率 a + 本量 K/. 労働生産性 (= 賃金率)の成長率 a%より大きい.し. n と同スピードで資本量 K も a + n の率で成長する. たがって,GDP に含まれる労働所得以外の資産か. からである.. らの所得の成長率の方が大きいことを意味する.つ. 以上の結果から,効率労働者 1 人当たりに対応す. まり,r > g の条件から,r>g= a + n > a が成立. る数値だけではなく,労働者 1 人当たりについての. するからである.. 諸変数の数値も容易に導くことができる.そこで,. ただし,誤解を避けるために,ここで次の 2 点. 均衡成長経路の特徴を要約すれば,次のようになろ. を指摘しておかなければならない.まず第1に,. う(成長率の%記号は省略してある) . (ⅰ)労働力は人口成長率 n で成長し,技術は進歩 率 a で成長する. (ⅱ)効率労働者 1 人当たりの資本量と効率労働者 1. Solow モデルが到達する均衡成長経路の特徴が示 すように,均衡成長経路上では資本量も産出量も共 に a + n の率で成長するから,資本・所得比率(β) が増加することはなく, 一定のままである.したがっ.
(4) . て,β の増加を通して資本所得が労働所得より急速. れば,必ず収穫逓減の法則が成立しrは逓減して行. に上昇することを理由に,不労所得者と労働所得者. くから,最終的にはr>gの条件が満たされ続ける. 間の所得格差が拡大して行くという Piketty の結論. か疑問である.もちろん,rの減少に対応してgも. を Solow モデルから導出することはできない.. 変化すると考えられるが,長期にわたって,r>g. もう一点は,新古典派成長モデルから,労働と資. が成立する必然性は理論的には納得し難い.このこ. 本の分配率について,Piketty の命題(労働分配率. とは,Piketty が資本 (K) をどのように定義している. が低下するという命題)が成立するわけではないこ. かの問題と密接にかかわっている.生産活動の基本. とである.その理由を簡単に述べれば,次のように. 的な投入物ではない資本(例えば,絵画,骨董品,. なろう.. 貴金属製品などの文化的資産や遊休の土地などの. まず,労働人口は n で成長するから,労働分配分. 資産)の収益率が存在するとすれば,Piketty 命題. (πL = wL)の成長率は賃金の成長率と労働人口の. 自体を通常の経済理論の枠組みで説明しようという. 成長率との合計 a + n ( 以下,%を省略)であり,そ. 試みは,そもそも意味のない問題になろう.なお,. れは GDP(Y)の成長率 a + n に等しい.したがっ. Piketty の実証分析では,長期的に成長率gの低下. て,定常均衡の状態では労働の分配率(w L / Y). によって, s / gから決まる資本所得比率 (β = K/Y). は一定となり,成長率はゼロとなる.言い換えれ. が増大することを通して,不労所得者と労働所得者. ば,均衡成長の状態では,労働の分配率は上昇する. の格差が拡大するとしているが,低い成長率の経済. ことも,低下することもない.他方,資本の分配分. で,果たして貯蓄率が低下しないと仮定できるのか. (πk= rK)から計算される資本分配率(α =r K /. という問題も生じる筈である . 2). Y)の成長率は,資本収益率 (r) の成長率+資本の成 長率 a + n の合計から GDP (Y) の成長率g= a + n を 差し引いた値として求められるから,資本収益の成 長率分だけの差が生じる.したがって,一般的には,. (2) 労働の分配率が減少傾向を持つとすれば, どのような条件が必要か. 生産要素としての労働の分配率は,分配分w L の. 資本の収益率の成長率の数値如何によって,資本分. GDP(Y)に対する比率である.ところで,GDP は. 配率は上昇することも,変化しないことも,減少す. 産出量を時価で評価したものであるから,物価の. ることもありうる.しかし,通常の経済理論に立つ. 動きを明示して,GDP を物量単位で測った産出量. 限り,労働分配率+資本分配率= 1であるから,労. Y と物価水準(p)の積でとして,Y = p Y と書け. 働分配率に変化がない限り,資本分配率も変化しな. ば,労働の分配率はw L /p Y =(w / p)/(Y/. いと考えざるを得ない.したがって,Piketty の命題. L)である.すなわち,実質賃金を労働の生産性で. を分配率の観点から導くことは不可能である.すな. 割算したものである.したがって,Piketty の所得. わち,上の推論で言えば,rの成長率はゼロでなけ. 格差が拡大するという命題が労働の分配率に関して. ればならないからである .. も成立するためには,労働生産性の上昇率が実質賃. さらに付言しておけば,例えr>gという条件を. 金の成長率より大きくなければならない.つまり,. 1). 仮定しても,資本収益 rK の一部が投資し続けられ. 1)rが一定になることは,より直接的には,次 のように説明されよう.生産要素としての資本の収 益率は資本の限界生産物であるから,kが定常均衡 での効率労働者 1 人当たりの資本量k*に安定的に とどまる限り,資本の限界生産性は変化することは ない.つまり r は一定であり,成長率はゼロである. 2)投資は貯蓄に等しいとする Solow モデルにお いて,資産からの所得が増加して不労所得者の貯蓄. 率が上昇し,結果的に経済全体の貯蓄率sも上昇す るとすれば,sf関数が上方シフトするから,新し * い均衡点はk より上昇して,効率労働者 1 人当た りの資本量は増加することは明らかであろう.しか し,新しい均衡点が新しい安定均衡点,つまり長期 の定常均衡点になるだけで,これまでの説明が変更 されることはない..
(5) . d(w / p) /dt / (w / p)<d (Y/L) /dt / (Y/L). Harrod の適正成長率 Gw に他ならない.いま,資本. が成立することである.例え実質賃金が上昇しても,. の完全利用の状態で,しかも労働力などの他の生産. 労働生産性の上昇率がそれよりも急速に上昇してい. 要素も完全利用されているとすれば,生産能力の最. れば,労働の分配率は低下して行くのである.他方,. 大が実現される.いま,生産要素として資本と労働. 労働生産性の上昇率と同じスピードで実質賃金が上. に集約されているモデルであれば,資本も労働も完. 昇するのであれば (たとえその上昇率が若干低くて. 全利用されている状態で,最大生産量が実現される.. も) ,労働の分配率は低下することはない.. したがって,資本も労働も完全利用の均衡成長の状. Ⅱ Harrod・Domar モデルと Piketty 命題 (1)Piketty の「資本主義の第 2 基本法則」β = s/g. 態では,Harrod の G w = G n が成立している状態に 他ならない . 4). したがって Domar のモデルは,3つの成長率(G, G w, Gn)の相互関係を通して景気循環を説明する. この式は,Harrod の成長 方 程 式 G = s/cに. Harrod の分析方法と同じではないが,長期の経済. 他ならない (何故なら,ここで,G は経済成長率で. 成長を分析する問題では,基本的に両者は同じモデ. Piketty のg,sは貯蓄率,cは資本係数 (資本産出. ルに立っているので,以下では一括して Harrod・. 量比率:つまり,Piketty の β) .そこで,ここでは. Domar モデル (以下簡略化して H・D モデル記す). Harrod の成長モデルの観点から,Piketty の命題を. として検討する.. 理論的に導出できるのかを検討することにしよう.. さて,技術進歩を考慮した H・D モデルが明らか. まず,Harrod モデル と Domar モデルの関係を簡. にした均衡成長の条件は,sσ = a + n(Harrod の資. 単に説明しておく.Domar は Harrod と同じく,投. 本係数cで書けば,s / c= a + n)である.つまり,. 資の生産能力増大と投資の乗数効果との二重性に着. 社会的かつ心理的な貯蓄性向 (s) と生産技術から決. 目して,投資の生産能力増大が需要の増大とバラン. まる資本の集中度を示す σ =1/ cとの積が,人口. スするためには,所得と投資が同一の成長率で成長. 学的な要因から決まる労働人口の成長率 (n) と技術. していかなければならこと,そして,その成長率 G. 進歩率 (a)との合計に等しいという条件である.し. はsと σ の積(ここで,σ は資本の生産性;つま. かも,Harrod も Domar も,これらの全く異質な要. り,資本係数cの逆数)に等しいという均衡成長の. 因からなる 4 個のパラメーターs,σ,a,n は相互. 基本方程式 G = sσ を導く .もしも,出発時点で. に独立な外生変数として扱っているから,これら4. 資本の完全利用による生産能力いっぱいの最大生産. つのパラメーターが均衡条件を満たすのは偶然の場. 量を実現している状態であれば,資本の完全利用状. 合しかあり得ない.この点が,伸縮的な価格メカニ. 態を持続して行く成長が続く.したがって,それは. ズムを仮定 (内生変数化) している Solow の成長モデ. 3)Domar による均衡成長の条件は次のように導 かれる.投資(I)の生産能力の増大が需要の増大 に吸収されるためには,d Y/ d t = σI(t)の関係 を満たすように所得(Y)が増加しなければならな い.その所得の増加と投資の増加の間には,乗数効 果の関係 dY/dt = (1/s) dI / dt から, (dI/dt)= s σI, すなわち, dI/dt / I = sσ が成立.他方, I=S= s Y の関係から, dY/dt = σ s Y, すなわち G = (dY/ dt) / Y = sσ が成立する.つまり,所得 Y と投資 I は同一の成長率 σs で成長しなくてはならないので ある. 4)もしも完全利用されていない生産要素があれば. (例えば,労働力に失業が存在すれば) ,その要素価格 (賃金率)はゼロになる.固定係数型の生産関数であ れば,L 字型の等量曲線の横軸 (ないし縦軸) に平行な 直線上の点で生産が行われることになり,生産要素間 の代替の弾力性がゼロの状態になっている. なお,Solow モデルの可変的な生産関数であれ ば,資本係数c (Piketty の β) はkの増加関数であ ることに注意.何故なら,β =k / f;∴ dβ/dk =(1/f 2( )f − kf ’ )> 0. 〔f−kf は産出量から 資本利得 (利子所得) 分を差し引いた賃金所得分であ るからプラスである.詳細は第Ⅲ節⑦式の説明を参 照〕 .. 3).
(6) . ルとは決定的に異なる.. 少するから所得格差は拡大するのに対し,後者の場. この点は,先に Solow モデルの基本方程式である. 合は,資本からの所得が減少するから所得格差は縮. ⑤式から求められる定常均衡の状態は H・D モデル. 小する筈である.したがって,Piketty の格差命題. における G w = G n 条件と同じであることを説明した. が妥当するのは,明らかに前者の G w < G n のケー. ことに関連している.⑤式は G w > G n ならば,資. 5) スである .しかし,所得分配に関する Piketty の. 本産出量比率kが上昇して利子率 (r)が下落し,資. 命題は景気循環過程における所得格差の問題ではな. k の下落, 本が労働を代替する.逆に Gw < Gn ならば,. く,資本主義の長期的な成長経路に関する問題であ. rの上昇を通して,資本が労働に代替されることを. るから,以下では,G w = G n の場合につい検討して. 意味している.しかも,資本産出量比率 β(Harrod. 行こう.. (k)はkの増加関数で の必要資本係数c r )= k / f. さて,自然成長率 G n はこの経済が生産可能な最. あるから (④)参照) ,kの上昇はc r の上昇を通して. 大限の成長率であるから,それは労働人口の成長率. G w を減少させる.逆にkの下落はc r を減少させ,. と労働生産性に化体された技術進歩率の合計に等し. Gw を上昇させる.いずれの場合も,長期的に Gw は. い成長率,a + n である.他方,適正成長率 Gw は企. G n に収斂して,資本と労働の代替プロセスは終焉. 業家の投資がもたらす生産の増大が,その同じ投資. し,k に到達して適正成長率と自然成長率とが一. が生み出す需要の増大によって,過不足なく吸収さ. *. 致する定常均衡の安定な成長経路を成立させるので. れるという意味で,資本の完全利用が持続的に保証. ある.まさに Solow モデルでは,資本と労働の代替. される成長率である.したがって,適正成長率で進. 過程を通して資本産出量比率を伸縮的にしているの. 行する成長経路上では,企業家はそれ以外の投資行. である. (2)Gw = Gn:適正成長率と自然成長率が等し い場合の所得分配 本題に入る前に,Gw ≠ Gn の場合の所得分配につ いて簡単に説明しておこう. いま,適正成長率が自然成長率と乖離している ときには,剃刀の刃の両側から滑り落ちるように, 一方的な不 況 (長 期的 停 滞,慢 性的失 業の G w > ( 慢 性 的な G n)になるケースか,一 方 的なブ ーム インフレになる G w < G n)に突入するというのが, Harrod の資本主義経済の不安定性を内包する景気 循環論の骨子であり,彼の成長モデルの最も特徴的 な結論である.どちらの場合も,均衡成長経路から 一度乖離すれば,現実の資本係数 (c)は永久に必要 に収斂することはなく,政策的にc r へ 資本係数 (c r ) の調整が必要とされる.この景気循環の過程では, 理論的には,G w < G n の時には,労働が過剰となり 失業が発生するから,賃金率はゼロに向かって低下 する.他方,G w > Gn の時には,資本過剰の状態に あるから収益率(利潤率)はゼロに低下して行く. つまり,どちらの場合も,所得分配の問題は一方的 な結果になる.前者の場合は,労働からの所得が減. 5)しかし,G w と G n の関係が不安定であるとい う H・D モデルの結論は,理論的に必然なものでは ない.それは,生産要素間の代替が可能でない固定 係数タイプ(例えば,レオンチエフ・タイプの L 字 型)の生産関数の仮定や,生産要素価格が硬直的で あるという仮定に依存しているからである.G w < G n の場合には,資本は完全利用されるが,労働は 過剰となるから,横軸に労働量,縦軸に資本量を図 ったレオンチエフの L 字型生産関数で言えば,等量 曲線は水平となり,一部の労働者は失業する.逆に, G w > G n の場合は,労働は完全利用されるが資本 は過剰となるから,等量曲線は垂直となっている 状態となり,資本の稼働率は 100%以下に落ちる. G w = G n の均衡成長の時には,L 字型等量曲線の頂 点に位置する状態で,資本も労働も完全利用される 状態になる.Solow の均衡成長モデルのように,代 替可能な生産関数であれば G w > G n の時には,生 産要素価格が硬直的でない限り,資本の収益率rが 低下することを通して,より資本集約的な生産方法 が採用されることで,Gw = Gn が実現される.逆の G w < G n の場合も,同様に論じることができること は言うまでもあるまい. ただし,すでに言及したように,Harrod の成長モ デルにとって,G w と G n が両立するかどうかは重要 な問題とは思えない.その意味では,G w = Gn とい う条件に立つて所得分配を論ずることの意義につい ては,正直のところ,私自身は極めて懐疑的である..
(7) . 動をとる誘因を全く持たない資本の完全利用の成長. り小さくなり,資本の分配率 (α = rβ) は増加すると. 率が実現し,その成長率は H・D モデルが示すよう. いう結論を導いている.厳密な証明がなされている. に,Gw =s / c r である.. わけではないが,代替の弾力性の性質から自明であ. 初期時点で,資本の完全利用と労働の完全利用が. るという意味であろう.. 同時に満たされる均衡成長経路では,Gw = G n が実. しかし,よく知られているように,CES 生産関数. 現しているから,この経済の成長率 G はs / c r =. の代替の弾力性は,産出量の水準や生産要素価格に. a + n である.この時,労働賃金は労働の生産性 (限. 依存することなく,常にある一定値であるという特. 界生産物) に等しいから,賃金率は労働生産性の増. 殊な (便利な) 関数である.そこで,以下では,上に. 加率 a で増加している.このとき,経済はそれより. 説明してきた Solow モデルに従って,規模に関して. も大きい成長率 a + n で成長しているから,資本利. 収穫一定の 1 次同次生産関数に即して,Piketty の. 得者への配分は賃金所得者への配分より大きいと考. 推論を辿ることにしよう.. えられる.したがって,資本利得者と労働者の所得. 資本の分配率 α は資本利潤率rと資本・産出量. 分配の格差は拡大して行くことになろう.その意味. 比率 β との積として,α = rβ =(K/Y) r と書かれ. では,Solow モデルでの一般的な所得格差について. る.したがって,資本の蓄積が進み,K が増加して. の結論と同じである.. β が増加するとき,資本分配率 α が増加すること. ただし,資本も所得も a + n の成長率で成長する. を証明するためには,rβ が増加することを証明す. から,資本・所得比率 β が上昇することはない.. ればよい.経済学的には,資本・産出量比率の増加. したがって,β の上昇を通じて所得格差が拡大す. によって,資本分配率の限界収入が増加するかどう. るという Piketty の結論は成立しない.また,労働. かという問題である.それを決定するのが,資本と. の分配率 (w L / Y) ,資本の分配率 (r K / Y)は,. 労働の間の代替の弾力性である.. ともに G w = G n の均衡成長の状態が続く限り変化す. まず,資本投入の増加によって,資本の限界生産. ることはない.したがって,分配率の観点から所得. 物= 資本の収益率rは逓減して行く (収穫逓減の法. 分配が変化することはない.つまり,所得格差が拡. 則) から,生産費を最小にする資本 K と労働 L の組. 大するという Piketty の格差命題は成立しない.. 合せ (K/L =k) はより資本集約的 (ないし,労働節約 的)な方向に変化し,kを増加させる.つまり,資. Ⅲ 若干の追加的補足: (1)代替の弾力性と資本分配率. 本の増加は,資本の収益率 (= 資本の限界生産物) r の低下を通して, 労働と資本の限界生産物の比率(賃 金・レンタル比率;w /r)を上昇させるが,その最. Piketty は G. Zucman との共同論文“Capital is. 適な労働と資本の組合せを決めるのが,資本と労働. Back: Wealth-Income Ratios in Rich Countries 1700-. の間の代替の弾力性(σ)に他ならない.その結果. 2010 , QJE , 2014(参照文献)において,最近急速に. として,資本分配率の限界収入が増加するかどうか. 整備されてきた先進諸国の海外投資を含めた国富関. が決まる.記号を簡略化するため,賃金・レンタル. 連のストック・データを UN の SNA 統計と整合さ. 比率 w/r ≡ ω と記号化すれば,σ は次のように定. せつつ,1870 ∼ 2010 の国富・資産・所得を結ぶ長. 義される.. 期分析,とくに国富所得比率,資本産出量比率の動. σ =−〔△(K/L)/(K/L) /△(w/r)/(w/r) 〕. 向を分析し,1950 年代以降,先進諸国は共通して国. =−〔 (△k / k)/ (△ ω/ω) 〕. 富産出量比率を急速に上昇させてきたことを明らか. ここで,簡単化のため,Solow のオリジナル・モ. にしている.理論的にも,CES 生産関数を利用して,. デルにしたがって,規模に関して収穫一定のマクロ. 代替の弾力性 σ >1であれば,資本・産出量比率. の生産関数を Y =F (K,L) と書いておこう (言うまで. (β = K/Y) の増加につれて収穫逓減の法則から資本. もなく,簡単化のため省略した技 術進歩の効果を. 収益率は下落するが,その下落率は β の増加率よ. 除けば,これまでの生産関数と全く同じである) .F. ①.
(8) . fig. 2. は 一 次 同 次 関 数 で あ る と 仮 定 し て い る か ら,Y. その後で,資本分配率が増加するという命題を検討. = LF(K/L, 1)である.ここで,Y/L ≡y;K/L ≡. することにしたい.. kと定義して,マクロ生産関数を次のように書いて (2)資本の増加と資本収益率の関係. おこう. Y = Lf (k). ②. まず,σ を介して資本の増加によって,β,k,. F 関数の性質から,f(k) > 0; f (k) < 0 が仮定. rの関係がどのように変化するかを,2 つの生産要. されている.そこで,簡単な代数的な操作によって,. 素 K―L 平面上に描いた等産出量曲線のグラフを. 資本 K と労働 L との間の代替弾力性①に関係する. 使って直感的に説明することから始めよう.. kと ω の関係を導いておく.. Fig. 2には,資本と労働の 2 変数からなる生産関. まず,賃金率 w が労働の限界生産物であり,利子. 数を想定し,一定の産出量 Y を生産するのに必要な. 率rが資本の限界生産物であることから,w と r を. 異なる 2 本の等産出量曲線を描いてある.一方は等. 求めると次のようになる.. 産出量曲線の曲がり方の小さい(代替の弾力性の大. ). w =∂ Y/ ∂ L =(k)−kf f (k) r=f(k) ∴ ω = w /r =〔f (k)/f(k) 〕 −k. きい)F と,もう一方は曲がり方の大きな(代替の b. ③ ④. (それぞれの生産関数は 弾力性の小さい)F である s. 一般的な生産関数であれば十分であり,代替の弾力. KとLとの間の代替の弾力性を求めるため,④を. 性が一定な CES 生産関数である必要はない) .ここ. 利用して,ω とkとの関係を求めれば,次のように. で簡単化のため,資本が増加する前の生産量 Y の生. なる 〔以下では,記号の煩雑さを避け,f (k) を単純. 産には,どちらの生産技術の場合も,資本・労働の. にfと表記する〕 .. 投入の組合せは同じ A 点(L 1, K 1)であるとしよう.. dω/dk =−ff / (f ) >0 2. ⑤. つまり,生産量 Y を生産するのに,どちらの生産技. ⑤式は ω がkの増加関数であること,したがっ. 術を利用する場合でも,資本・労働の組合せを A 点. て,資本蓄積が増大しkが増加するにつれて ω が. に選ぶことによって,賃金・レンタル比率 ω1 の下で,. 増加することを示している.つまり,利子率 (資本. 最小の生産コストを達成していると仮定する.. の限界生産物) rは低下する.このrの減少がどの. さて,この状態から資本への投資が△ K だけ増加. 程度かは,資本と労働の間の代替の弾力性 (σ)の. し,K 1から K 2へ資本量が増加したとしよう.資. 値によっていろいろに異なる.この問題に対して,. 本投入量の増加によって,生産関数を通して生産量. Piketty 達は CES 生産関数を使って,σ >1であれ. は増加するから,新しい生産点はより高い等産出量. ば,rの減少は資本産出量比率 β の増加より小さ. 曲線に移動する.しかし,それは生産のスケールだ. いと結論している.まず,この部分を簡単に説明し,. けの問題なので,ここでは煩雑さを避けるため,変.
(9) . 化前の生産量 Y の等産出量曲線上で,資本投入の増. 替の弾力性が大きい生産技術の場合の方が,資本. 加が投入ベクトルをどのように変化させるかを説明. と労働の代替の弾力性の小さい生産技術の場合よ. することにしよう.. りも,資本収益率rの減少は小さい.いま,代替弾. まず,資本投入量の増加に対応して資本の収益率. 力性の大きい F を σ >1である CES 生産関数の. (= 資本の限界生産物) rは逓減するから,産出量 Y. 等産出量曲線,代替弾力性の小さい F sを σ <1の. の等量曲線上での最適な投入の組合せは,どちらの. CES 生産関数の等産出量曲線と置き換えれば,資. b. 生産技術の場合も A 点から,より資本集約的 (労働. 本の限界生産性 (収益率)の減少は,代替の弾力性. 節約的) な投入ベクトルに移動する (資本・労働比率. が σ >1の生産関数の方が代替の弾力性が σ <. kの上昇) .代替の弾力性の大きなF の場合には B. 1の生産関数の場合よりも小さい,という Piketty・. へ,代替の弾力性の小さな F の場合 点 (L 2b , K 2). Zucman の主張も明らかになったであろう.. b. s. には C 点 (L 2s , K 2)へ移動する.もちろん,B 点 も C 点もそれぞれの生産技術の下で,最小の生産コ. (3)資本分配率と代替の弾力性の関係. ストをもたらす (最適な) 労働・資本の組合せである. しかし彼らの主要な結論「σ >1であれば,資本. から,資本投入量の増加に対応して低下する資本収. 蓄積が増加するかぎり,資本分配率は増加して行く」. 益率の下で,上昇する賃金・レンタル比率と首尾一. を導くためには,これまでのグラフによる説明だけ. 貫していなければならない.F の場合には,ω1 で. では完全ではない.資本の分配率を代替の弾力性と. あった A 点での賃金・レンタル比率 (= 労働の限界. 関係づけた代数的な説明を必要とする.. b. 生産物と資本の限界生産物の比率)は,B 点での接. そこで,資本の蓄積によって上昇する資本労働比. 戦の勾配 ω2b に上昇する.言い換えれば,B 点は新. 率kが資本分配率をどう変化させるかの関係を見よ. しい ω2b の下での生産費を最小にする労働と資本の. う.資本分配率 α = rβ であるから,Solow モデル. (労働節約 組合せとして,k2b というより資本集約的. にしたがってこれを標示すれば,次のように書かれ. 的) な生産方法を選択する.. る.. 他方,代替の弾力性の小さい F の場合について. α =(k) r K / Y =f k L / (f L). も同じ推論が適用される.△ K だけの資本の増加. =kf /f. s. ⑥. に対応して,F の場合と同じように,資本・労働. そこで,資本の増加による資本分配率の限界生産. 比率は k1 から k2s に上昇し,賃金・レンタル比率. 物を求めると,次のようになる.. は ω1 から ω2s に上昇する.しかし,kと ω の変. 2 ) (f + kf )f−k(f ) 〕 ∂α/∂k =(1/ f2〔. b. 化の程度はF と F とでは全く異なる.すなわち, b. s. 2 ) (ff +kff −k (f ) 〕 =(1/ f2〔. 代替の弾力性の小さな F の場合には,A 点から C. ) (f(f−kf ) +kff 〕 =(1/ f2〔. 点に移動することで最適な資本と労働の組合せを. ここで,⑦式の分子内の第 1 項の小括弧の (f−. 達成している.つまり,C 点における等産出量曲線. kf )は,均衡点における労働者一人当たりの産出. ( 賃 金・レンタル 比 率 )の 下 F の 接 戦 の 勾 配 ω2s. 量から資本利得分を差し引いた残差,つまり賃金支. で,生産費を最小にする最適な資本労働の組合せは. 払い額に等しいから,プラスの数値であることに注. s. s. ⑦. k2s であるのに対し,代替の弾力性の大きな B 点に. 意しよう.. おける接戦の勾配 ω2b は ω2s より大きく,最適な. 次に①に示した代替の弾力性 σ を展開すると次. 資本労働の組合せk2b はk2s より大きい.. のようになる.. 以上の結果は,次のように要約される.資本蓄積. σ =(dk /k)/ (dω/ω)=(dk/dω) (ω/ k). の増加による資本収益率の逓減を通して賃金・レン. 2 / ff 〕 〔(f / f ) −k /k〕 =− 〔 (f ). タル比率は低下するが,その低下に関しては |ω2b|. 2 =−〔ff −k (f ) 〕/(kff ). < |ω2s| が成立し,投入ベクトルについては k2b >. =−f(f−kf )/kff >0. k2s が成立する.したがって,資本と労働の間の代. さて,⑧式の分母のf <0であるから,代替の弾. ⑧.
(10) . 力性 σ はもちろんプラスである.そこで,Piketty. (4)Piketty らの長期定常均衡の考え方について. らの代替の弾力性についての σ >1を仮定すれば,. Piketty は実証分析の出発点として,定常均衡の. f(f−kf )> −kff であるから,次式が成立. 国富所得比率 (β)を各期の貯蓄率と成長率が長期. する.. にわたって安定するs t = sの貯蓄率と,g t = gの成. f(f−kf )+kff >0. ⑨. ⑨の結果を⑦式に代入すれば,資本分配率の限. 長率の状 態を想定し,s / g=β を求めている. 〔Harrod・Domar モデルで言えば,G =s / c r から. 界生産物はプラスであること,言い換えれば,資本. Piketty の資本産出量比率 β) を求め 資本係数c(= r. と労働の間の代替の弾力性 σ が1より大きければ,. ている〕 .確かに,外生的に与えられる貯蓄率s t が. 資本蓄積の増加を通して,資本分配率は上昇して行. sに安定し,内生的に決まる成長率がg t= gに安定. くという Piketty らの主張は,より一般的な Slow の. する状況になれば,長期的に国富は産出量 (所得) と. 成長モデルでも証明されることが分かろう.. 同じスピードで上昇する長期の定常均衡の状態と考. さて,以上の説明から明らかなように,たとえ. えられよう.しかし,外生的に与えられる貯蓄率s. r > g の仮定が満たされているとしても,Piketty の. の下で,均衡経済成長率gが決定されるためには,. 格差拡大の命題が成立するためには,資本と労働を. 資本係数の伸縮的な変動 (資本・労働比率の変動) を. 生産要素とするマクロの生産関数における要素間の. 通している筈であり,安定的な均衡成長率gに収斂. 代替の弾力性 σ が1より大きくなければならない.. する時間的な経過が必要である.もちろん,長期の. しかし,いろいろの産業から構成されるマクロ経済. 定常均衡に達すれば,一定のsの下で,gと資本係. の生産関数について,代替の弾力性が 1 より大きい. 数 (資本産出量比率) β は反比例するから,成長率. ことは決して自明なことではない.もちろん,この. が低下する状況では β は上昇し,Piketty の資本分. 検証には先進諸国のマクロ生産関数についての詳細. 配率が上昇するという格差命題が導かれることは明. な計量分析の結果に待たなければならない.しかし,. 白であろう.もしも,長期の定常均衡に収斂するま. 代替の弾力性がゼロであるレオンチエフ型の固定. での時間がそれほど急速でないとすれば,その時間. 係数モデルに対する批判に対して,かってレオンチ. 的経過が先進諸国の国富所得比率の上昇期間に対応. エフはアロー・チェネリー・ミンハス・ソローによ. する 1950 年から 2010 年に含まれていると考えられ. る (ACMS 論文として著名) CES 生産関数の産業別. るのではないか.もちろん,どのくらいの時間で均. データを使用して,産業別の生産関数を推定し,要. 衡に到達するかの分析には,第 I 節の Solow モデル. 素間の代替が生じる範囲は極めて限られ,資本・労. の成長経路を描いた (Fig. 1 に示されている) ⑤式に. 働比率がある一定値まで上昇すると代替の弾力性は. ついて,Taylor 級数を展開して 1 次近似を用いれば. ゼロになることを計測し,固定係数モデル批判に反. 計算は可能だが,ここでは問題点を指摘するに止め. 論していたことが思い出される(参照文献を参照) .. たい.Solow モデルに即して言えば,定常均衡の一. σ<1であれば, もちろん Piketty 命題は成立しない.. * 人当たり資本量がk より小さいkから出発した経. マクロの生産関数についての最近の実証分析結果. * 済が定常均衡成長を実現する資本労働比率k に上. に不案内な筆者だが,Piketty 命題との関連で重要. 昇する期間が,まさに Piketty が主張する資本産出. な点は,生産要素間の代替の弾力性が短期的な弾力. 量比率の上昇期間に含まれているように思える.結. 性なのか,長期的な弾力性なのかという問題である.. 果的に Piketty の長期とは長い期間にわたる国富所. 技術革新の激しい世界で,最適な技術を選択しなけ. 得比率 (ないし,資本産出量比率) の実証分析という. ればならない企業行動を前提にすれば,技術を化体. 意味と同じに思える.. する設備投資に及ぼす政策の変化やグローバル経済. 既に説明したように,ハロッド・モデルでは,適. の長期的な変化の動向と無関係に,単純に σ> 1で. (資本の完全利用成長率) と自然成長率 正成長率 G w. あれば資本分配率が長期的に上昇するという推論に. n と技術進歩率 a の合計)が異なれ G(人口成長率 n. は,多くの疑念が生じて当然ではあるまいか.. ば,資本が過剰になって遊休資本が発生するか,労.
(11) . 参照文献. 働が過剰になって失業が発生することで,剃刀の刃 から滑り落ちるように,両者が一致することはない. それ故,長期の定常均衡の分析は,G w = G n からス タートすると考えなければならない.また,Solow の新古典派成長モデルでは,任意の資本量 k からス タートした経済は,時間の経過とともに,安定的に 均衡成長を実現する定常均衡の資本量k に収斂し, *. 長期の定常均衡の成長経路が実現する.したがって, このノートでは,長期の定常均衡の分析をk 点か *. らスタートさせているのである.. Domar, E.D.,“ Capital Expansion, Rate of Growth, and Employment” , Econometrica , April 1946. Harrod, R.F., Towards a Dynamic Economics , 1948(高橋長太郎・鈴木諒一訳『動態経済学序 説』,1953. Leontief, W.,“An Inter national Comparison of Factor Costs and Factor Use” , American. Economic Review , June 1964 Piketty, T., Capital in the Twenty-First Century , 2013 (translated from the French original; 山形・寺 岡・森本訳『21世紀の資本』,2014. ), Piketty, T., and G. Zucman,“Capital is back : WealthIncome Ratios in Rich Countries 1700-2100 ”,. Quarterly Journal of Economics , Aug., 2014 Solow, R.M.,“A Contribution to the Theor y of Economic Growth”, Quar terly Journal of. Economics , Feb., 1956. (脱稿:2015 年7月 20 日) (横浜国立大学名誉教授).
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