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スウェーデンにおける最近の臓器移植法改正作業(二)

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八 論 説

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スウェーデンにむける最近の臓器移植法改正作業。

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日 次 2与一一『奈良法学会雑誌』第6巻1号 (1993年6月) はしがき 一各報告書の概要 二(付録)最終草案の翻訳(以上五巻四号) 三 問 題 点 の 検 討 -脳死に関する問題点(以上本号) 2 臓器移植に関する問題点(以下次号) あとがき 問題点の検討 脳死に閲する問題点 スウェーデンが(西欧では比較的遅い時期に)脳死を人の死と認め、それに基づいた立法を行ったことは周知のこ

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第6巻1号一一30 とである。その内容に関する研究も既に存在している。しかし今回の改正作業においてもこれと関連して、最終草案 の第二章﹁人の死後の医学的継続措置﹂の第一条において﹁すべての医学的措置は、人が死んだ場合には、中止しな ければならない。この例外となるのは、移植目的で臓器または他の組織を保存するための措置あるいは胎児の生命を 教うための懐胎女性への措置のみである。移植侵襲の目的でのこの措置は、特別の事情がなければ、二四時間以上継 続してはならない。﹂という規定が提案されるに至った。これは脳死を人の死とした場合には一貫した規定であろうが、 後述のように大きな問題を含んでいるように思われる。そこで今一度、 スウェーデンにおける脳死立法の内容とその 根拠を検討し、今回の提案との関連をみておきたいと思う。 ( 1 ) 脳死概念 ﹁ 人 聞 は 1 物理的並びに精神的な

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一つの機能的統合体として身体の機能を統合して統 報告書は、前述のように、 制するすべての能力を完全にかつ不可逆的に喪失したときに死ぬ﹂という結論をとり、そしてそのような統合機能は 実証的にみてすべての脳機能力が不可逆的に喪失したときに失われるとする。即ちそれによってすべての精神的能力 は失われ、呼吸機能などの身体的統合能力についても技術的補助手段によって短期間維持可能であるが、人間の本来 の(統合)能力は既に喪失しているとされる。この統合理論は、 アメリカの大統領委員会が採用した立場と同様の思 想に立脚するものであり、 日本の脳死臨調の多数意見もこれに従っているものである。スウェーデンにおいてもアメ 一部に大脳死説を主張する者も見られたが、報告書においてはモデストな全脳死説が採用されたので ( 叩 由 ) ︹ 四 ) ︹ 却 ﹀ ある。しかし、この統合機能説に対しては、既に唄教授や丸山教授によって問題点が指摘され、最近では脳死臨調の 少数意見もこれを批判している。スウェーデンにおいても精神的能力と身体的能力の両者が重要とされているが、精 リ カ と 同 様 に 、

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神的能力が失われた場合には、身体的統合能力が生命維持装置によって維持されても、それは本来的なものではなく 既に失われているとされる。しかしたとえ人工的に維持されているとしても、身体が統合された状態は継続されてお り、統合作用は消失したわけではなく、代替されただけであるといえる。そして身体的側面と精神的側面の両者が同 等に重要だとするならば、身体的統合性のみが(生命維持装置の助けを借りているとはいえ)維持されている場合で あっても、やはりまだ生きているとすべきではないだろうか。やはりここでも精神的要素が重視されているのである。 それならば端的に精神的能力の消失をもって死の定義とする方がすっきりしているのではないだろうか。しかしそう ( 匁 ) なると大脳死説との異同が問題となるであろう。 31十一スウェーデンにおける最近の臓器移植法改正作業仁) 次に今回の改正作業との関連において問題となるのは、この報告書がいわゆる統一的脳死説をとったということで ある。これにより臓器移植だけではなくすべての領域において脳死を人の死とすることが一貫されたことである。こ れは次に見る死の決定基準に関する法律に既に規定されているので、そこで検討することにする。

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2

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死の決定基準に関する立法 スウェーデンの議会は、この報告書の提案を受けて、 一九八七年に、脳死を人の死と認める法律を制定し場その 特色は、臓器移植法から、独立の法律として制定されたことである。以下、条文を訳出して、問題点を指摘する。 人間の死の決定基準に関する法律(一九八七二一六九﹀ 第一条 人間の死に法的意義を与える法律または他の法規の適用に際しては、人間の脳のすべての機能が完全かっ 不可逆的に消失したときに死ぬとされる。

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第6巻1号一一32 医師は、科学と信頼できる経験に対応して、死が発生したことを認定しなければならない。 第二条 つ一)死は、呼吸と血液循環が停止し、確実に脳の全機能が完全かつ不可逆的に消失したことを認定しうるに十分 な時間、その停止が継続した場合に生じることになる。 (三)呼吸と血液循環が人工的な方法で維持されている場合、死の発生は、その代わりに脳の検査が、確実に脳の すべての機能が完全かつ不可逆的に消失したことを示した場合に確認されることになる。 第三条 一定の場合の死の宣告に関しては、相続法第二五章に規定される。 本法の特色は、まず第一に、人の死を﹁人間は脳のすべての機能が完全かつ不可逆的に消失したときに死ぬ﹂と定 義したうえで、その具体的判定基準については規定せず、実務上は次節で紹介する社会庁の基準に従って判定されて いることである。ここで注意しなければならないことはスウェーデンでもいわゆる﹁機能死説﹂がとられているとい うことである。それとも関連する判定基準の問題点については次節で検討する。 第二の特色は、第二条第二項で﹁死は、呼吸と血液循環が停止し、確実に脳の全機能が完全かっ不可逆的に消失し たことを認定しうるのに十分な時間、その停止が継続した場合に生じる﹂とされることである。 ﹁これによれば﹃脳 基準﹄が二克的に採用されることになり、大部分を占める心臓死の場合にも、心臓停止後の脳の機能喪失を見込んだ ハ お ﹀ 上で死の宣告がなれることになる﹂。これは論理的一貫性を重視したものである。山口教授も、アメリカでとられてい る従来の﹁心肺基準﹂と脳基準を択一的に採用する立場は、 ﹁従来の基準との連続性を重視するもので実際上受入れ られ易い反面、三徴候説との妥協的性格を否定し難﹂く、 スウェーデンで採られている立場の方が﹁徹底している﹂ と評価される。脳死説を採用した場合は、このスウェーデンの立場をとる方が妥当であるように思える。しかし、問

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題はこの一貫した立場を、実務上徹底することができるかということである。このことは、特に後述の人の脳死後の 医学的継続措置の中止義務との関連で大きな問題点となってくるのである。 ( 3 ) 脳死の判定基準 この法律を受けて社会庁は、その適用に関する基準を一九八七年一一月二

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日に制定した。そこでは、脳死の具体 的な判定基準および脳死の後の措置が規定されている。脳死後の措置に関しては次項で検討するので、ここでは、脳 ( お ﹀ 死の判定基準に関する部分を訳出しておく。 33一一スウェーデンにおける最近の臓器移植法改正作業口 脳死の判定基準(抄訳﹀ ( a ) 臨床神経学的検査において、すべての脳機能の消失が確認される。その検査は二回、少なくとも二時間の間 隔をもって実施されるべきである。 電気脳波計によって、機能消失が記録されうる。脳細胞は酸素不足に非常に敏感で約二

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秒の血液供給の停止後に 機能を停止する。機能停止はとりわけ脳波計カ l ブを﹁平坦﹂にする脳の電気的活動の停止によって示される。 ( a ) で記述された方法をもって全脳梗塞を確認するために、次の二つの前提が必要となる。

1

酪町(中毒﹀および低血圧は除外されなければならない。 2 すべてのかつ不可逆的な脳機能の消失の原因は解明されなければならない。 以上の条件のもとで、脳の機能の完全な消失は、次の基準によって確認される。

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話し掛け、接触または疹痛刺激に対して反応のない意識喪失(脊髄反射は存在することがある﹀

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第6巻1号一一3岳 ー i 脳神経媒介的筋肉の自発運動の消失(眼球運動なし、顎、願面、舌および咽頭の運動なし) ( 訂 ﹀ ││自発呼吸の停止 ││対光反射なし、多くの場合散瞳が見られる ││角膜反射、瞬目反射、咽頭反射および頭部回転時の反射的眼球運動(特に人形の目運動)の消失 ││脳神経心臓反射の欠如(心臓の調律は、眼球圧迫、頚動脈洞マッサージにより影響され得ない)

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アンギオグラフィl 脳機能の消失の原因が不明な場合または原因がアンギオグラフィーによってのみ確認される場合にのみ使用されう る 。 ( 明 記 ) スウェーデンにおいても基本的には脳の﹁器質死説﹂ではなく、機能死説がとられていることは既に指摘したが、 それと関連して脳の循環検査についてもすべての場合に必要とされているのではないことに注意しなければならない。

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4

)

人の脳死後の医学的継続措置の中止義定とその近親者の希望に基づく例外 最終草案において規定された脳死との関連条文は、人の脳死後の医学的継続措置に関するものであるが、この条文 には大きな問題があるように思える。この条文の内容については、最終報告書の第二ニ章において詳細に検討されて ( 初 ) いる。そこでは、まずこの立法提案までの経過が説明されている。まず一九八四年の脳死に関する報告書においては、 上述のように脳死をもって統一的に人の死とする立場が採られているので、脳死後医学的継続措置をとることには、 脳死者の利益は存在せず、それがなされうるのは一般的な強い利益が存在する場合に限るとされた。そしてその場合

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として次の三つの場合があげられたのである。 ① 全脳梗塞に陥った女性が妊娠していた胎児の生命の救助 ② 近親者が医学的措置を継続を希望し、それを考慮する特別の理由がある場⋮句 移植目的で臓器の維持措置が必要な場合 ③ これらの三つの場合の内、特に問題となるのは、第二の近親者が医学的措置の継続を希望した場合である。報告書 は、この場合にも近親者の希望を考慮して脳死後の措置継続を認めるのであるが、その理由は、次のように述べられ 35一一スウェーデンにおける最近の臓器移植法改正作業凸 ている。即ち﹁近親者の希望を尊重する特別の理由がある場合には、死が確認された後の一定の期間、死者に対して 医学的措置を継続することは倫理的に正しいとみなされうる。いくつかの事情が、一定の柔軟性を支持する。例えば、 家族が心理的な理由から、措置の即時の中止に反対するような場合である。そのような状況に対しては、何等かの法

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的規制がなされるのではなく、その決定は原則として医師の裁量に委ねることができるのである。﹂ここでは、スウェ ーデンにおいても、脳死後直ちに医療措置を終了することには、家族からの強い抵抗がありうることを窺わせ興味深 いものであり、実務上の医師と患者側の摩擦を回避するためのプラグテイカルな解決であるといえよ浦町しかし、こ れは脳死を統一的に死とする立場と抵触せざるをえないので、ここに非常に解決困難なジレンマが生じたといえよう。 一九八六年の提議および一九八七年の社会庁規則によって否定される しかし、この家族の意思を考慮した例外は、 ことになり、脳死確認後の継続措置が認められる例外は①臓器が移植目的に使用される場合、②妊娠中の胎児の生存 確保なための場合に限られることになった。ここでもやはり論理的一貫性が重視されたといえよう。そして家族への 配慮については、社会庁規則において﹁原則として、患者が集中治療の下で全脳梗塞が確認される状態になった時点 で、医師ができる限り完全な情報を家族に提供することは重要である。呼吸・循環維持措置は、家族の観点からまた

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第6巻1号一一36 円相剖︾ は家族がその継続の希望を表明したいということのみに基づいて継続してはならない。﹂とされ、単に情報の提供のみ になっ一明これによってスウェーデンにおいては、この家族の希望を考慮した例外が認められないということが、定 着し、今回の立法提案に至ったのである。 以上のような経過でなされた今回の立法提案は、前述のジレンマに関し、論理的一貫性を重視する立場をとったが、 これは果たして妥当な考えであろうか。日本においてこれを貫徹すれば、家族からのかなり強い抵抗が予想されよう。 し か し 、 スウェーデンのように、統一的脳死をとるならば、脳死後は死体に対する治療ということになり、そのよう なものは不必要であるから中止すべきであるとせざるを得ないのではないか。それに例外を認めるならば、その理論 的な構成は非常に困難であるといわざるを得ない。 ( 叩 四 ﹀ 最 近 山 口 教 授 は 、 統 合 機 能 説 を ① ﹁ 統 合 機 能 は 、 脳 ・ 心 臓 ・ 肺 か ら な る ﹁ 生 命 の 環 ﹂ 、 ( 脳 を 頂 点 と す る ﹀ ﹁ 生 命 の ト ラ イ アングル﹂により維持されて﹂おり、﹁相互依存関係にあるこれらの器官からなる﹂﹁トライアングル﹂が崩壊したときを 死とする﹂立場と、②﹁脳の﹁最高器官性﹂を強調して、それにより統合機能が維持されているとする立場﹂の二つに分類 さ れ て い る 。 山 口 厚 ﹁ 生 命 に 対 す る 罪 ( 下 ) ﹂ 法 学 セ ミ ナ ー 四 五

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号 ( 一 九 九 三 年 ) 八 四 頁 。 ( 問 ) 唄 孝 一 ・ 脳 死 を 学 ぶ 三 八 八 頁 以 下 。 ( m 山)丸山英二﹁脳死説に対する若干の疑問﹂ジュリスト八四四号(一九八五年)五一頁以下。 ( 幻 ) 海 時 脳 死 及 び 臓 器 移 植 調 査 会 、 脳 死 及 び 臓 器 移 植 に 関 す る 重 要 事 項 に つ い て ハ 答 申 ) 二 九 九 二 年 、 一 一 一 一 頁 。 ︿幻)最近、脳幹にも意識と関連する機能があることを強調され、そこから全脳死説を基礎付けようとする見解がされている ( 斉 藤 ・ 前 掲 書 ( 注 1 ﹀八七頁以下参照﹀。確かに脳幹にそのような機能があるというのが最近の医学的にも有力であるよう だが、大脳部分がすべて機能しなくなった場合においても、脳幹のみでも意識があるとしえるのか、たとえあるとしてもそ れは動物的な低いレベルのものであって人間としての意識は既に消失しているというような大脳死説からの反論が予想され る 。

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・ (お)同様の解決方法を一不すものとして脳死臨調の多数意見がある。これについて平野博士は、﹁遺族が﹃脳死したけれども人 工呼吸器を動かしてくれ﹄といったときは、動かすという配慮をすべきであるというのが多数です﹂とされる。それは﹁治 療としてではなくて、遺族の気持ちをなだめるために動かし続けるということ﹂であり、﹁生きているのと同じ処置はとり ましょう、というわけです。生きているとは考えまぜん﹂とされるのである。座談会・脳死臨調最終答申をめぐって、ジュ リ ス ト 一

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由 ・ 印 ・ (お)これについて迫田・前掲(注お)五三頁は、スウェーデンのサ I ルグレンスカ病院での取材を通じて、﹁ H 脳死を人の死 として判定後は人工呼吸器をはずす“ときいていたスウェーデンのやり方は、たしかにその言葉どおりであったが、微妙に ニュアンスがちがっていた。クールで合理的ではあるが、それだけではなく、家族が納得するまで何度も繰り返し医師が説 明するし、最後のお別かれをとても大事にしている。国民に脳死を理解し納得してもらう素地が医療側にできあがっている と 感 じ ら れ た 。 ﹂ と す る 。 (お)脳外科医である福間医師は﹁脳外科医の中には﹃脳死を判定したら人工呼吸器は止める﹄というようなことを言っている 人があるのですが、現実にはできないと思います。いまのような場合(引用者注、

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家族が二・コ一日待ってくれといった場 39一一スウェーデンにおける最近の臓器移植法改正作業同

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第6巻 1号一一4() 合 ) 、 お そ ら く 、 現 場 で は 、 ( 注 目 ω ﹀ 一 一 ニ 頁 。 あえて、きっちりした脳死を判定しない可能性があるだろうと思うのです。﹂とさ れる。前掲

参照

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