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授業実践報告―英語多読学習の導入

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Academic year: 2021

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授業実践報告

―英語多読学習の導入

村尾 純子

工学部 総合人間学系教室

(2013年 9 月30日受理)

A Teaching Report: Introduction of Extensive Reading into OIT classrooms

by

Junko MURAO

Division of Human Sciences,

Faculty of Engineering (Manuscript received Sep 30, 2013)

Abstract

In recent years, a growing number of Japanese junior and senior high schools and universities have been introducing extensive reading programs into their English language classrooms. Particularly in universities with humanities departments, some extensive reading programs have been implemented and have already proven effective in improving English reading and listening skills1). Extensive reading at the students’ proficiency level can contribute significantly to

their acquisition of grammar and basic vocabulary2). The aim of this report is to outline and demonstrate the extensive

reading practices at Osaka Institute of Technology (OIT) classrooms during one academic year. The total number of words read was tallied, and students responded to questionnaires. The results suggest that OIT students acquired new English learning experiences through their extensive reading activities. By continuing these practices, students are likely to become more motivated and more independent English language learners.

キーワード; 英語教育,多読

K e y w o r d; English education, Extensive reading

Memoirs of the Osaka Institute of Technology, Series B Vol. 58, No. 2(2013)pp. 43〜49

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1. はじめに  近年,全国的に,中学校,高校,大学において多 読を英語の授業に取り入れる動きが高まっている. 筆者も他大学で多読授業を 5 年間担当した経験があ るが,それも今から10年ほど前のことであり,以後 徐々に多読の効果が実証され,それに伴い導入する 教育機関が増えてきたのだと思われる.  スマートフォン,携帯,PCが日常生活の必須ツー ルになり,移り変わりの早い多量の情報に取り巻か れた学生たちは,ある意味で腰を据えてじっくりと ものを考える機会が奪われているとも言える.本学 で多読授業を行おうと思ったきっかけは,学生たち の授業中の集中力の低下,コミュニケーション力や やる気の低下,学生間の英語の学力差の開きを痛感 していたことがひとつある.授業時間内に読書を行 うことで,落ち着いて何かに取り組む力を養うのに 役立つだろうと考えたからである.また学生たちは, 同世代のみならず年上世代との関わりも少ないが, そのような中でどのように自分を取り巻く社会を生 き抜いていく術を身に付けるのか,どうやって人と の関わり方を学んでいくのだろうかという疑問が個 人的に筆者の中にあった.一人の人間が体験できる ことは非常に限られているが,読書によってその体 験を何倍にもすることができる.社会的な関わりの 不足を,読書で補うことはある程度可能であろう. また図書館に豊富な知的資源を備えてもらいながら も,学生たちがその価値を知らず,有効活用せずに 卒業していくのはもったいないことであり,教育を 行う者としては学生をその知的資源に触れさせる責 任があるのではないかと思ったためでもある.  英語教育実践者たちが,いかにして英語嫌いをな くすことができるか,流暢に英語を読むレベルに到 達させるのに何が効果的なのか模索してきた結果, 多読はひとつの有効な手立てであることが立証され てきた.語学学習を通じて本に触れさせることは, 先ほど述べたようにさまざまな副次的な効果を生む ことも予測できる.本を通じて知的体験を増やすこ とができるばかりか,異なる言語による読書体験は, 異文化に接して,視野を広げ,文化的背景の異なる 人々の意見に触れて,自分のものの見方や考え方を 修正し,柔軟な発想につながる力を養うこともでき る.また,活字離れ,図書館離れと言われて久しい が,多読を通じて,本を読まない学生を本と図書館 に引き戻す契機ともなるだろう.  文系学部を持ついくつかの大学では早くから多読 を実践し成果を挙げているが,2012年の 3 月の時点 で大阪工業大学大宮図書館には,多読用図書はごく わずかで,多読を授業に取り入れて,展開していく には不可能の状態であった.本学の多読プロジェク トは,本を揃えるところからのスタートであったが, どのような図書を揃えたのかを含め,英語をかなり 苦手とする理系の学生たちは多読授業にどのような 反応を示したのか,またその効果はどうだったのか, 一つの実践例としてここに報告したい. 2.授業への多読導入の目的  一般的に理系大学生の多くは,英語に苦手意識を 持っているとされるが,そのような学生は中学,高 校における文法学習で躓き,暗記ばかりの学習に嫌 気が差し,大学にまで至った場合がほとんどであろ う.英語学習に躓いて,英語嫌いになるのが最初は 中学 2 年,次に高校1年だと言われており(高瀬, 2010),本学でも,中学で躓いていると思われる学 生は多い.また,中学から高校,高校から大学へと 進学する過程で,学習内容,指導法の変化に対応し きれない学生は,そこで英語が苦手になると,学力 改善の機会のないまま大学卒業を迎えてしまうこと になる.そのため,中学英語レベルから積み上げる 必要のある学生,あるいは,中学学習内容を定着さ せる必要のある学生への対応は必須となりつつある が,大学授業内での対応は極めて難しい.工業高等 専門学校における多読授業の実践例では,理系学生 の間にも有益な結果をもたらしていることが報告さ れており(西澤,2012; 2013),理系大学において も実施する価値は十分にあると思われる.  多読用図書は,一番易しいレベルの本から読み始 めれば,リメディアル教材として利用でき,本の持 つ娯楽の側面が学習への動機付けの契機となる.多 読がリメディアル教育の有効な方法であるという ことも立証されている(Takase & Otsuki,2011). また多読教材の上位レベルは,語彙をコントロール せずに書かれた原書への橋渡しとなる.さらに,一 斉授業ではできない個々の学習者のレベルに合わせ た学習ができるため,通常一斉授業において問題と なる学習者の熟達度の差は全く問題にならなくな る.また,簡単な英語で書かれた本であれ,読了で きたという体験は,今後の学習への自信につながり, また音声を用いた聞き読みや,シャドーイング(音

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声を聞きながら,読まれた文を少し遅れて追いかけ るように発話する練習法)へとつなげていけば,読 む能力以外も養成できる.さらに感想を英語で書い たり,覚えたフレーズをノートに蓄積するなどして いけば,書く能力も伸びるだろう. 3.多読用図書の選定  今では多読用図書は実にさまざまなシリーズが 出版されており,多様なニーズに対応できるよう コンテンツが充実している.多読用図書のGraded Readersは,第二言語習得用に作られた本であり, レベルによって使用語彙数の制限があり,一番易し いレベルから,熟達者レベルまで段階が設けられ, 少しずつ語彙を増やしながら,物語の力や情報の魅 力を借りて読む力をつけていく教材である.一冊の ページ数も,初級者用は少ないが,レベルが高くな るにつれ分量が増えるように作られている.いわゆ る一般的な英語のテキストは「教授者の指定するレ ベル」に設定されているため,教師の助けが必要な レベルのものである一方,多読用教材は,他の参照 物や人の助けなしに読んでいるものを理解できる 「自律した読み手のレベル」を育成する目的で作ら れており(Jacobs & Farrell,2012),教材作成の意 図が異なっている.このため多読用教材は,自律し た学習者を育てることにも貢献すると思われる.  多読を始めるにあたって,2012年度前期開始以前 の 3 月に,大阪工業大学大宮図書館に,英語多読用 図書を購入していただき,多読が実施できる最低 限の冊数を揃えた.選書にあたっては,日本多読 学会の主催する多読指導新人セミナーの報告や多 読実践者の著書が大いに参考になった.すでに大 宮図書館にはPenguin Readers数十冊があったが, さらにPenguin Readersの全レベルを購入した.そ れ 以 外 に も,Foundation Reading Library(FRL), Oxford Classic Tales(OCT),Oxford Reading Tree(ORT),Macmillan Readers全 レ ベ ル を 購 入.後期になり,Oxford Project X,Oxford Book Worm Fact Files,Page Turnersのシリーズを購入. いずれのシリーズも他大学でも人気のシリーズとさ れるものである.ほとんどがフィクションであるが, Oxford Book Worm Fact Filesはノンフィクション であり,Oxford Project Xにもノンフィクションも のは含まれている.ノンフィクションのシリーズが 圧倒的に足りないが,これは今後の動向を探りなが ら購入を検討したい. 4.多読授業の実践 4.1 導入クラスの概要と実施方法  多読を導入したクラスは,工学部( 2 年次生配当 科目)のテクニカル・イングリッシュⅠa/bの 2 ク ラスである.このクラスは科学技術に特化した英語 を学習し,共通テキストを使用,共通テストを実施 する.受講者数は,前期計86名,後期は計70名で あった.全授業回数30回(前期15回,後期15回)中 18回は中間,期末テストを含めた指定の科学技術英 語のテキストを用いた通常授業を行う.各学期 6 回,  1 年で計12回,隔週で授業内で多読を行う.多読 の効果を測るため,学期の始めと終わりにPenguin Readers付属の無料配布されているプレースメント テストLevel 1 〜 4 を実施した.このテストは主に 文法問題で構成されており,各学生のおおよそのレ ベルチェックができる.多読の効果は,学期の開始 時と終了時に行うこのプレースメントテストの点数 の伸びを比較して測った.  次に多読授業の実施方法であるが,教員が図書館 から本を借りて,教室に持ち込み,空いている机に 本を並べて選ばせる縁日スタイルで行う.読み終え たら何度でも本を借りにいくことができる.学生は  1 冊読み終えるごとに,必ずコメント用紙に,日付, タイトル,出版社,読むのにかかった時間,読んだ 本に関するコメントを記入する.目標は半期で20冊 以上読むことである.ただし,1 冊の語数が非常に 少 な いOxford Reading TreeとOxford Project Xシ リーズは,1 番易しいレベルStage 1 の本は,最少 語数が32語というものもあるため,Stage 6 までは  3 冊で  1冊や 2 冊で 1 冊の扱いとした.  多読の導入にあたって配慮したのは,まず学生に 本のシリーズの紹介とレベルの見方など本に関する 基本的知識を丁寧に導入することと,基本的にSSS (Start with Simple Stories)方式で読むこと,つま り自分の実力よりも易しい本を読む,あるいはシ リーズの中でも一番簡単なものから読み,日本語に 訳しながら読まないように指導した.面白くなかっ たら本を変えてもよいことも周知した.

  授 業 内 で 使 用 し た 多 読 図 書 は, 絵 の 情 報 を 借 りて読めるOxford Reading Tree,Project X,Oxford Classic Tales,Foundations Reading Library シリーズ や,代表的Graded ReadersであるPenguin Readers,

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Macmillan Readersのレベル 3 までを使用した.出 版社によって,各レベルの使用語彙数は異なって いるので,同じレベルであっても難しい場合があ る.難しいレベルを読める学生がいても,日本語に 訳す癖を抜くためには,簡単な本をたくさん読む必 要があり,さらに内容を楽しむためには負荷は少な い方がよい.難しい本ばかりを苦労して読む学生は 必ずといっていいほど挫折していると言われてお り,読了にかなり時間を要する本は授業では使用し ないことにした.目安としては,本の大半を,15〜 20分で読めるものにすることである.実際Penguin ReadersとMacmillan Readersのレベル 2 ,3 も教室 に持ち込んだが,このレベルを読める力まで到達さ せるのは,一年では無理であった.また,クラスの 中に平均すると 3 〜 5 人程度は中学レベルの学習内 容が定着していない学生が必ず含まれているが,こ のレベルの学生には,英国の多くの小学校で国語の 教科書として使用されているOxford Reading Tree を読み始めることを勧めた.他のシリーズの初級者 レベルを読みこなせない学生のために,このレベル の本は必ず必要であった.

 科学技術英語テキストはいわゆるESP(English for Specific Purposes)学習用教材であり,多読図書 はEGP(English for General Purposes)学 習 用 の 教 材である.科学技術英語は,特定分野の知識があれ ば比較的楽に読める場合もあるが,基本的にはEGP の基礎がないと読むのが難しい.このクラスにおけ る多読の目的は,科学技術英語を読むための基礎英 語力を多読で積み上げることであった.実際,多読 図書で出てきた語彙が,科学技術英語テキストに違 う意味で出てきたことで意味の関連付けができたと いう学生もいた.ただ,多読を開始するにあたって, 本学の学生の英語多読に対する反応も,その効果も 未知数であり,学生たちはただでさえ本を読まない のに英語の本を読もうとするだろうかという懸念は おおいにあった.  多読授業を始めて 2 回目くらいまでは,学生も英 語で読むことに慣れない様子で,本の選択から苦戦 する学生や,読みたい本が見つかっても自分のレベ ルに合わなかったり,本が簡単すぎることに抵抗を 感じ自分のレベルより難しい本を読もうとする学生 もいた.今までは教師の指定する教材を読み,受動 的に授業に参加することに慣れていた学習者にとっ ては,自分で選ぶということもひとつの勉強になり, 自分の学力を知るいい機会になったと思われる.ま た 1 回の授業でだいたい 3 冊読むことを目標とし, 半期で20冊という目標は必ずしも多い目標冊数では ないが,果たして 1 冊を読みきれるのかどうか分か らない時点では,この目標も多いように感じられた はずである. 4.2 評価の仕方  評価のうち多読の占める割合は基本的には20%と した.20冊以上読んだ学生には,冊数に応じて加点 し,前期は最高30%まで多読で得点できるシステム である.ただし後期は,読書に慣れた学生は前期以 上にたくさん読む可能性があったことと,他のクラ スとの兼ね合いも考えて,多読による得点数を25% までと制限した.残りの60%はテキスト内容の理解 を問うテスト点,10%の小テスト点,10%の授業内 での発表点で評価する.  以下は学生に配布するシラバスに記載した多読の 評価方法である. (1)多読評価方法 (2)冊数の換算点

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4.3 結果  以下の図 1 と 2 は,後期の最後に行ったプレース メントテストの結果と学生が 1 年で読んだ総語数の 散布図である.有効データはクラスA29名,クラス B21名である.当該年度は学生には冊数の達成を目 標とさせていたが,総語数はデータを出すために筆 者が各学生の読んだ冊数からカウントし直したもの である.  データを見ると,クラスAの最低総語数は24,235 語, 最 高 が80,027語, ク ラ スBの 最 低 総 語 数 は 18,761語,最高は174,384語である.クラスAは120 点満点のプレースメントテストのうちだいたいが40 点から100点以内に収まっているが,クラスBは30 点から90点以内に収まっている.  同じ科目のクラスでも,クラスAとBでは英語の 学力は10点ほどの差がある.データを見ると,英語 の学力と多読量はクラスAではあまり相関性はない ようである.しかしクラスBのデータでは,テスト の点数の高い学生の読書量は少ない傾向にあり,点 数の低い学生の読書量は多い傾向が見られる.おそ らく,指定テキストの科学技術英語のテストが難し かったことから,そのテストでの得点が難しいと 思った学生は,多読で得点しようという意図が働い たと思われる.  あるいは,文法や単語の意味を気にしたり,どう しても訳しながら読んでしまう癖の抜けない場合, 読むスピードが落ちてしまう.一方,英文構造にあ まり気をとられず絵を楽しみながら読んだ場合,読 むスピードが速くなり,総語数を稼げる.むしろ文 法が得意な学生の場合前者の傾向を持つことが多い ので,データはそのことを物語っていると言えるだ ろう.  以下の図 3 はクラスA,Bを合わせた,学生が 1  年間で読んだ総語数と人数の集計である.総語数  2 万語から 8 万語までが多い.冊数で言えば,前期 は 2 人を除き全員が目標冊数の20冊達成し,そのう ちの 3 分の 1 以上がプラスアルファ点をもらえる目 標冊数30冊を達成.後期も 2 人を除き全員が目標冊 数20冊達成し,うち半数以上がプラスアルファ点を もらえる25冊を達成した.この結果からも,今回の 多読授業で準備したレベルの本であれば,1 回の多 読授業で 3 冊程度を読む,半期の目標冊数20冊は, 工大生にとっては十分到達できる冊数であったと言 える.さらにクラスAとBを合わせた 1 年間で読ん だ総語数の平均は57,647語であった.もし,全授業 時間で多読を行えば,単純に計算すれば115,294語 以上は読めることになる.さらに,もっと英文に慣 れ,読む速度が上がればさらなる語数を読む可能性 もある.  以下の図 4 と 5 は後期の始めと終わりに行ったプ レースメントテストの結果を比較したものである. 図 1 プレースメントテストの点数と総語数の関係 クラスA 図 2 プレースメントテストの点数と総語数の関係 クラスB 図 3 総語数と学生数

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 半年という短い期間で急に語学力が身についたと 言えるわけではないが,後期の半年間で多くの学生 において若干テストスコアの伸びが見られた.   最 高 で23点 伸 ば し た 学 生 の 多 読 総 語 数 は 前 期 13,901語,後期47,794語で,1 年でトータル61,695 語読み,後期に入り急速に語数を伸ばした.また前 期9,978語しか読めなかった学生も後期は24,540語 読み,トータル34,518語で,22点得点を伸ばしてい る.ただし,このプレースメントテストを行ったの が,期末テストの後だったことから,力尽きてこの テストへの意欲を失いつつ受験していた者も見受け られ,プレースメントテスト実施の時期が適切だっ たかどうかは問題ではあるが,点数がやや改善傾向 にあることは多読の影響とも思われる. 5.総括  後期の授業の終わりに,全員に対して多読に関す る簡単なアンケートを行った.英語を読むことに抵 抗があると思われた学生の大半が,「推測で内容が 理解できた」という感想を持った点は,ささやかで はあるが多読授業の大きな収穫であった.また「英 語は苦手だったけど,意外と読めて楽しかった」「レ ベルに合った本は読んでて楽しかった」という意見 もあり,英語が苦手な学生は先入観から,英語の文 章は辞書を引き苦労しながら読まねばならないもの と思っているが,辞書なしでも読むことができるこ とが分かり,英語への心理的ハードルはかなり下 がった印象がうかがえる.  「いつごろから英文がスラスラ読める実感を得た か」という問いに対しては,「レベルを落としたとき」 「10冊読んだあたりから」「後期に入ってから」「後 期に入ってProject Xシリーズを読み終えてから」 など人によっては時期はさまざまであったが,多く は明らかに英文に慣れている様子が見えてくる.「ま だまだです」「まったくない」などの意見もあった が,少数であった.このような印象を持った学生に とっては,慣れるに至るまでの読書量が足りなかっ た可能性がある.中には「一目見て意味が理解でき る単語のレベルだととても読み易く,分かり易かっ た」という,まさに慣れによる意味理解の自動化が 起こっていると思われる意見もあり,興味深かった.  ただ問題点も多い.前期は自分がどれくらい読め るのか,読めないのか判断がつきにくかったせいも あり,ほぼ全員が非常にまじめに多読に取り組んで いた.同じ本を読んでもよいとは言ってあったが, 後期に入ってしばらくすると,前期のコメントを丸 写しする学生や他人のコメントを借用するケースも 見受けられ,その発見と同時に同じ本を読んでよい 冊数を3冊までとし,他人のコメントの借用のケー スが見つかった場合は,どちらもノーカウントとす るといったルールを設けなければならなくなった. その照らし合わせに非常に手間がかかるが,今後こ のようなケースをどうするか検討が必要である.当 然こういったことは,起こりうるものと想定してい たが,ルールを厳しくすると読書の楽しみが半減し てしまう恐れもある.秩序維持をどこまで厳格化す るかは,クラスの雰囲気も見ながら調整するしかな いであろう.  また,冊数を評価するよりも,語数を評価した方 が,より公平で妥当な評価が出せると思われたが, 実施年度は,本の語数のラベル貼りなど準備が間に 合わなかったため,冊数でのカウントになった.そ のおかげでほぼ全員が目標冊数以上を読むことがで きたが,比較的難しい,ページ数の多い本を読む学 生は当然読むのに時間がかかるので,「簡単な本を 読む学生と同じ評価では不公平である」という意見 を述べた学生もおり,冊数を評価するやり方は,難 図 4 後期プレースメントテストの伸び率 クラスA 図 5 後期プレースメントテストの伸び率 クラスB

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易度の高い本を避けさせるという点では効果がある が,学生の意欲の向上や,評価の公平性を確保でき ないことがあらわになった.単に冊数だけを評価す るやり方は,継続的に多読を続けていくには動機付 けが不十分であり,後期になって25冊以上読んでも さらに点数がもらえるわけではないと思ったとた ん,少数ではあったが急に読む意欲をなくす学生も 現れた.またTOEICテストで550点程度のスコアを 出すためには,累積100万語以上,多読継続年数 5  年以上必要というデータもあり(西澤,2012),4 年 でその語数に到達しようとした場合,その 4 分の 1  にも到底満たない上に,1 年で40冊前後というのは 目標としても少なすぎるのは明らかである.  さらに,年間12回という限られた授業回数の中で の多読では,読む分量も限られており,1 年以上継 続しなければ到底英語が出来ると言えるレベルには 到達せず,英語の本を読むのが苦でなくなるところ にまでも至らない.授業外でも読んでもよいことに していたが,比較的目標が到達しやすかったことも あり,授業外で読む学生はほとんどいなかった.ま た,続けたいと思う学生のために図書館にポイント カードを別途設置し,利用を促していたが,利用者 は少ない.継続した学習者を増やすための何らかの 仕組みを考えるのも今後の大きな課題である.  しかしながら,授業で多読をするという機会は, 少なくとも英語を苦手なレベルから,嫌ではなくな るレベルにまで持っていく良い機会であり,授業で ある程度克服しておけば,授業外でも読んでみよう という学生は増えるであろう.その意味での授業内 多読の意義は大きいと思われるが,多読は持続こそ が学生の英語力アップの鍵であることは間違いな い.今後も改良を加えながら持続できる方法を考え ていきたい. 注  1 ) リーディング力とリスニング力の相関性は一見 ないように見られるが,高瀬(2010)は翻訳せ ずに読む癖がつくと音声を聴く流暢さにもつな がると分析しており(p.35),これは意味理解 の自動化によるものだと思われる.  2 ) 語彙や文法を身に付けるには,語彙や文法項目 に何度も遭遇することが必要である.何度も学 習してようやく身につくものであろう.Jacobs & Farrell(2012)は,「子供は一年で1,000語以 上もの単語を覚えると研究者は推定している. どのようにこれほどの学習量が可能になるの か.これは 2 マイルもの長い単語リストを暗記 することで可能になるのではなく,単語との有 意味な遭遇を数多く経験するからである」(翻 訳筆者,p.100)と述べる.多読用教材はまさ にこのことが起こるように作られており,読む 量が多くなればなるほど,同じ語彙,文法に遭 遇する可能性は高くなるため,学習者はこれら を自然に身に付けることができるのである. 謝辞 多読コーナーの設置,授業での運用や本の管 理にあたり多大な協力を頂いております,大阪工業 大学大宮図書館の館長および室長,ならびに司書の 皆様にこの場をお借りして感謝の意を表します. 参考文献

Jacobs, George & Thomas S. C. Farrell.(2012).

Teachers Sourcebook for Extensive Reading. North

Carolina: Information Age Publishing, Inc..2. Takase, Atsuko & Kyouko Otsuki.(2011).‘The

Impact of Extensive Reading on Remedial Students.’Kinki University Center for Liberal

Arts and Foreign Language Education Journal. Foreign Language Edition. Vol. 2, No.1. 331−345.

高瀬敦子.(2010).『英語多読・多聴指導マニュアル』 東京:大修館書店.4 − 6 . 西澤一.(2012).「多読授業の成否を分ける要因」. 日本多読学会・関西多読指導新人セミナー口頭 発表資料. (2013).「長期多読を通して分かったこと」. 日本多読学会・関西多読指導新人セミナー口頭 発表資料.

参照

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