学習・記憶における海馬歯状回苔状線維について :
脳と教育
著者
柏原 恵龍
雑誌名
研究論集
巻
81
ページ
173-192
発行年
2005-02
URL
http://doi.org/10.18956/00006290
学 習 ・記 憶 に お け る海 馬 歯 状 回苔 状 線 維 につ い て
脳 と教 育柏
原
恵
龍
は じめ に 脳 の奥 ま った と こ ろに あ る海 馬 は 、 まだ そ の機 能 が 十 分 に は わ か って い ない け れ ど も、 近 年 い くつ か の働 きが わ か る よ うに な って きた 。 神 経 生 理 学 の発 祥 以 来 、 生 後 脳 の ニ ュー ロンは 減 るば か りで 増 え る こ とは ない と言 わ れ 、 動 物 や ヒ トに お い て ス トレスが 原 因 と な る海 馬 ニ ュー ロン の萎 縮 や 細 胞 死 も 明 らか に な って きた 。 しか し20世 紀 末 、動物だけで な く老年期 の ヒ トに お い て もニ ュ ー ロ ン の新 生 が見 い 出 され る よ うに な って きた(Erikssonら 、1998)。 この 海 馬 は 新 しい 情 報 を 学 習 ・記 憶 す るた め に きわ め て 重 要 な器 官 で あ り、 既 存 の ニ ュー ロン と の結 合 に よ って 、 新 しい 情 報 を 処 理 ・貯 蔵 す る能 力 が高 ま る こ とに な る。 本 稿 で は 海 馬 の位 置 と進 化 に ふ れ 、 海 馬 の記 憶 神 経 回 路 を 通 覧 し、 海 馬 が 新 しい 情 報 を 記 憶 す るた め の重 要 な器 官 で あ る こ とを 述 べ る。 嗅 内野 よ り貫 通 線 維 に よ って 様 々 な知 覚 情 報 が 歯 状 回 穎 粒 細 胞 の樹 状 突 起 に送 られ 、 この穎 粒 細 胞 を ア ンモ ン角 のCA 3と 繋 い で い る のが 苔 状 線 維 で あ る。 こ の苔 状 線 維 は 他 の中 枢 神 経 系 の組 織 とは 大 き く異 な る特 徴 を も って お り、 こ の 穎 粒 細 胞 や 苔 状 線 維 が 新 生 ニ ュー ロン の成 長 した も の な ので あ る。 ニ ュー ロンが 他 の ニ ュー ロ ン と新 しい 結 合 を 生 み 出す プ ロセ スを 学 習 とい うが 、 リ ドレー(2004)は 、「人 間 が 何 か を 無 理 に で も学 習 す る こ とに よ って 、 将 来 同 じ問 題 に 出会 った と きに 本 能 的 に 解 決 で き る よ うな環 境 作 りを して い る」、 とい う。つ ま り 「この 学 習 が 次 第 に 本 能 へ と置 き換 わ って い くの だ 」とい う。 1.海 馬 の 部 位 と進 化 大 脳 皮 質 は 左 右 の半 球 に 分 か れ て い るが 、 こ の左 右 の半 球 を 前 後 に 垂 直 に 二 分 し、 断 面 を 見 る と、 大 き く発 達 した 大 脳 皮 質 の 内側 に 原 皮 質 に 属 す る辺 縁 系 が あ り、 そ の奥 ま った と こ ろに本 稿 の 中 心 課 題 とな る海 馬 が 左 右 対 称 な 位 置 に あ る(Fig.1)。 海 馬 は 、 大 脳 皮 質 連 合 野 か ら さ ま ざ ま な感 覚 や 思 考 に 関 わ る情 報 を 受 け 取 り、 そ れ を 記 憶 に 貯 蔵 す るた め の重 要 な働 きを も って い る。
大 脳 皮 質 は、 古 皮 質(paleocortex)、 原 皮 質(archicortex)、 大 脳 新 皮 質(cerebral neocor-tex)に 分 け られ る。 古 皮 質 と よば れ る部 分 はす べ て の 脊 椎 動 物 に あ り、 原 皮 質 は両 生 類 以 上 に 存 在 し、 大 脳 新 皮 質 へ の進 化 は 哺 乳 類 か らで あ る。 感 覚 を 受 け る終 脳 の部 分 が 急 速 に 発 達 し て 新 皮 質 とい う形 に 進 化 した 哺 乳 類 は 、6層 構 造 を 持 ち 、表 面 の灰 白質 は な め らか で あ る。 Stephan,H.の 進 化 指 数 に よる とイ タ チや キ ツネザ ル の新 皮 質 は8.3で あ る のに 対 して 、 ヒ トで は156と い う著 しい増 加 を示 して い る。 海 馬 とそ の周 辺 は 、 最 も古 い 皮 質 で あ る古 皮 質 に 続 く原 皮 質 と よば れ る部 位 に 位 置 す る。 し か しこ の古 い ヒ トの原 皮 質 や 古 皮 質 が 、 変 化 しない で 古 い 機 能 を 担 い 続 け て きた わ け で は ない 。 左 右 半 球 の連 合 野 に 機 能 的 な左 右 差 が あ る よ うに 、 左 の海 馬 を 損 傷 す る と言 語 的 な記 憶 の貯 蔵 が 、 そ して右 の 損 傷 で は 図形 的 ・空 間 的 な記 憶 の 貯 蔵 が 障 害 を受 け る。 こ の よ うに 、進 化 の過 程 に お い て 新 し く大 き く構 造 を 発 達 させ た だ け で な く、 古 くか ら存 在 す る構 造 に 新 た な役 割 を 割 り当 て る こ と も、 ヒ トの脳 を 生 み 出 した 進 化 の一 側 面 で あ る。 人 類 に い た る霊 長 類 の歴 史 の 中 で 、 新 皮 質 の中 で も連 合 野 が 大 き く発 達 し、 高 度 な知 能 の基 盤 と な って きた ので あ る。 神 経 系 各 部 位 の機 能 の特 徴 は 進 化 を 含 め た 広 い 視 野 で 捉 え る必 要 が あ ろ う。 ヒ トの海 馬 は 、 新 皮 質 の発 達 とそ れ に 伴 う脳 梁 の増 大 に よ り、 脳 梁 膨 大 部 の側 脳 室 下 角 の中 に ロール 状 に 巻 き込 まれ て い て 、 指 て い ど の大 き さで あ る。 大 脳 の外 套 が 大 き く成 長 して そ の 辺 縁 部 が 折 りた た まれ 、 内側 に 折 れ 込 ん で い る部 分 に 海 馬 が あ る。 こ のた め ヒ トの海 馬 は 、 脳 幹 を 取 り去 った 後 の大 脳 半 球 内側 面 に お い て 、 海 馬 溝 を 挟 ん だ 海 馬 傍 回 の奥 に そ の一 部 が 見 え るに 過 ぎ ない 。 .
、
'\ Fig.1 ヒ ト海 馬 の 位 置(遠 山 、2004) 白い 矢 印 は 左 右 半 球 に あ る海 馬 の位 置 を示 して い る。CGの 黒 い 線 は 歯 状 回(dentate gyrus)を 、 PGの 白い 線 は 海 馬 傍 回(parahippocampal)を 示 して い る。(1)歯 状 回 ヒ トで は 側 頭 葉 を 開 い て 下 か らみ る と、 表 面 に 歯 形 の よ うな ぎ ざ ぎ ざに 刻 まれ た 部 分 が あ り、 これ が 歯 状 回 で あ る。 そ の外 側 に は ア ン モ ン角 が 広 が って い る。 歯 状 回 は きわ め て 密 な小 型 の穎 粒 細 胞 層 に よ って 明瞭 に 分 け られ て い る分 子 層 で あ り、 多 形 細 胞 層 の三 層 構 造 を 形 成 して い て 、 分 子 層 に は 穎 粒 細 胞 の樹 状 突 起 が 広 が って い る。 歯 状 回 は ア ン モ ン角 と 向 き合 って お り、 歯 状 回 が ア ン モ ン角 やCA 3の 錐 体 細 胞 を 取 り囲 む 部 位 を 歯 状 回 門(dentate hilus)と い う。 こ の部 位 を 穎 粒 細 胞 か ら出 た 苔 状 線 維 が 通 過 して 、 CA 3の 錐 体 細 胞 へ と突 起 を 伸 ば して い る。 こ の苔 状 線 維 は 海 馬 体 内 の主 要 な一 方 向性 連 絡 路 で あ る。 苔 状 線 維 の終 末 は CA 3の 多形 細 胞 層 で あ るが 、 CA領 域 は い ず れ も5層 構 造 しか 区別 で きな い 不 等 皮 質 で あ る。 (2)ア ン モ ン角 海 馬 は 雄 ヒツ ジ の角 の形 を して お り、 そ の形 態 か ら ア ン モ ン角 と呼 ば れ て い る。 ア ン モ ン角(Ammon's horn)は 、 Cornu Ammonisの 頭文 字 を と ってCA 1、CA 2、 CA 3、CA 4の 部 位 に 分 け られ る(現 在 で はCA 3とCA 4の 線 維 連 絡 の特 徴 や機 能差 が ない のでCA 4を 分 類 しない のが 一 般 的 で あ る)。小 型 錐 体 細 胞 か ら な るCA 1は 海 馬 台(海 馬 支 脚) に 始 ま り、 ア ン モ ン角 の広 い 領 域 を 占め 、 そ の中 で 数 多 くの錐 体 細 胞 が ベ ル ト状 に 連 な って い る。 マ ウ スや ラ ッ トな ど のげ っ歯 類 や ミ ミズ クイ の よ うな食 虫 類 の こ の領 域 の錐 体 細 胞 は 、 幾
海 馬 は 広 義 で は 海 馬 体 を 意 味 す る こ と が 多 い が 、 個 々 に 見 る と、 歯 状 回(dentate gyrus)、
ア ン モ ン角(Ammon's horn)、 海 馬 台(subiculum)、 そ し て 海 馬 傍 回(parahippocampal
gy-rus)か ら成 り立 っ て い る 。(Fig.2) ア ンモ ン角 海馬采 ' 脳 弓 を介 して 中隔 野 と乳 頭体 に至 る (海馬台 →乳頭 体:海 馬→中隔 野) Fig.2 海 馬 の 構造 と 線 維連 絡(渡 辺 他 、2003) ①網 ②放射状層 ③錐体細胞層 ④上昇層 ⑤白板
つ か の細 胞 が 密 に 並 ん で 層 を な して い るが 、 サ ル や ヒ トで は 高 等 化 す るに した が って そ の列 は や や 疎 に な り、 幅 広 くな って そ の領 域 も広 くな って い る。 こ の部 分 は 脳 内で 虚 血 や カイ ニ ン酸 な ど の興 奮 性 神 経 毒 の影 響 を 最 も受 けや す い部 分 で あ り、CA 2、CA 3は これ に 比 べ る と抵 抗 性 が は るか に 大 きい 。 ア ン モ ン角 は 「つ 」 又 は 「く」 の字 形(海 馬 は 左 と右 の半 球 に 対 称 的 に あ る)を して お り、 ア ン モ ン角 の外 表 面(凸 面)は 側 脳 室 と接 して い る側 脳 面 で あ り、 ア ン モ ン角 の 内表 面(凹 面)は 歯 状 回 の外 表 面 と共 に 本 来 の軟 膜 面 で あ る。 記 憶 に 大 き く関 わ る海 馬 は 、 食 虫 類(ミ ミズ クイ)の 大 き さを1と した 場 合 、新 皮 質 が196と 驚 異 的 に大 き くな って い る の に対 して 、4.9と ほ とん ど変 わ って い な い。 海 馬 の 中 で 形 態 的 に大 き くな っ た部 分 はCA 1だ け で あ る が 、 そ れ で も この比 率 は6.5程 度 で あ り、 大 脳 皮 質 の 発 達 に 比 べ れ ば大 き さは1 /30で あ る 。 そ の 他 の部 位 を み る とCA 3で1.7、 歯 状 回 で2.8、 海 馬 脚 で3.3と いず れ も発 達 程 度 は 小 さ く、 そ して い ず れ の領 域 も3層 で 構 成 され て い る。 厳 密 な議 論 を す る場 合 に 、 海 馬 とい え ば 錐 体 細 胞 に よ って 構 成 され て い る ア ン モ ン角 を 指 す が 、 海 馬 体 を ア ン モ ン角 、 歯 状 回 、 そ して 海 馬 台 とす る場 合 、 海 馬 とい う用 語 は 海 馬 体 とい う意 味 で 使 用 され る こ とが 多 い 。 こ の 領 域 はNMDA(N一 メ チ ル ーD一 ア ス パ ラギ ン酸)受 容 体 が 最 も多 く発 現 して お り、 LTP (long-term potentiation:後 述)発 生 に重 要 な働 きを して い る。
(3)海 馬 台 海 馬 台 は 、 ア ン モ ン角 のCA 1領 域 と海 馬 傍 回(parahippocampal gyrus)の 間 に あ り、 海 馬 か らの 出 力 は 海 馬 錐 体 細 胞 か ら直接 出 され る の で は な く、 海 馬 台(subiculum) を 通 って 出力 され る。 大 脳 皮 質 は6層 構 造 を して い るけ れ ど も、 海 馬 台 の皮 質 は6層 構 造 を と ら ない 不 等 皮 質 で あ る。 (4)海 馬 傍 回 海 馬 台 は 入 り口が 不 完 全 な6層 構 造 で あ るが 、 海 馬 傍 回 は6層 構 造 の等 皮 質 へ と移 行 して い る。 海 馬 傍 回 の うち 嗅 内 皮 質(entorhinal cortex)は そ の 背外 側 に 広 が る等 皮 質 と接 す る。 こ の領 域 の組 織 構 造 は オ ナ ガザ ル 以 上 の高 等 な動 物 で は 不 完 全 なが ら6層 構 造 を 示 す 皮 質 で あ る 中 間皮 質(mesocortex)、 す なわ ち 不 等 皮 質 と等 皮 質 の 中 間的 な層 構 造 で あ る。 霊 長 類 で は 大 型 の神 経 細 胞 が 密 に 詰 ま った 細 い 層 が 第4層 を 形 成 し、 そ の樹 状 突 起 が 第3層 の 直 下 に や や 細 胞 の少 ない 層 を つ くる。 これ は 高 度 な動 物 に な るほ ど 明瞭 に な る。 人 で は 上 側 頭 回(temporal superior gyrus)と 接 し、 げ っ歯 類 で は 側 頭 領2及 び 側 頭 領3と 接 す る。 嗅 内皮 質 は 、 記 憶 の一 時 的 な貯 蔵 庫 と考 え られ て お り、 こ の情 報 は 嗅 内皮 質 か ら主 と して 海 馬 体 へ 投 射 され る。 しか し嗅 内 皮 質 と他 の主 要 な嗅 周 皮 質(perirhinal cortex)及 び 海 馬 傍 回 か ら もた ら され 、 これ ら と嗅 内皮 質 の間 に は 特 に 密 な双 方 向 の連 絡 が あ る。 さ らに 嗅 周 一海 馬 傍 回 皮 質
3.海 馬 に お け る記 憶 回 路 外 界 情 報 に 関 す る海 馬 記 憶 回 路 の概 要 が わ か る よ うに な って きた 。 視 覚 や 聴 覚 な ど の多 様 な 感 覚 情 報 は 、 大 脳 皮 質 を 通 ってCA 1へ 、 そ して海 馬 台 へ と続 く海 馬 体 内部 の 興 奮 性 回 路 上 で 信 号 処 理 され る。 記 憶 信 号 の主 体 は 直 接 ・間 接 に 再 び 嗅 内野 へ と戻 る。 さ らに こ こか ら側 頭 葉 連 合 野 や 頭 頂 連 合 野 な どに 送 られ 、 記 憶 と して 貯 蔵 され る と考 え られ て い る。 石 塚(2002)は 、 海 馬 に お け る入 出力 情 報 の記 憶 回 路 を 以 下 の よ うに 整 理 して い る。 1)海 馬 体 へ の 情 報 入 力 海 馬 体 へ の入 力 は 皮 質 性 入 力 と皮 質 下 入 力 に 分 か れ るが 、 本 稿 で は 皮 質 性 入 力 に つ い て 述 べ る こ とに す る。 嗅 内野 一海 馬 体 ほ とん どす べ て の皮 質 性 入 力 は 嗅 内野 を 経 由 して 海 馬 体 に 入 る。 そ の嗅 内 野 に は あ らゆ る感 覚 が 多 種 感 覚 連 合 野 を 経 由 して 集 ま って く る(Fig.3・Fig.4)。 ほ か の 皮 質 連 合 野 か らは 嗅 周 皮 質 や 嗅 後 皮 質 を 経 由 して 嗅 内野 へ 至 る。 嗅 周 皮 質 か ら の投 射 線 維 は 主 に 外 側 嗅 内野 へ 、 嗅 後 皮 質 か らは 内側 嗅 内野 へ 終 止 す る。 嗅 周 皮 質 と嗅 後 皮 質 の合 計 面 積 は ラ ッ トで は 嗅 内野 面 積 とほ ぼ 等 しい が 、 サ ル で4倍 、 ヒ トで は6倍 に 増 加 して お り、 入 力 イ ン タ ー フ ェイ ス と して の嗅 周 皮 質 と嗅 後 皮 質 の重 要 度 が 増 して い る。 海 馬 体 へ の直 接 入 力 は 、 ラ ッ ト の場 合 嗅 周 皮 質 か らい くらか 海 馬 台 へ の投 射 が 見 られ るが 、 サ ル で は 嗅 周 皮 質 の他 に 、 前 頭 前 野 か らCA 1領 域 へ の直 接 入 力 がか な り見 られ る。 霊 長 類 で は エ ピ ソ ー ド記憶(後 述)が 発 達 して くる こ とか ら、 前 頭 葉 と の結 合 を 増 す こ とが 考 え られ る。 大脳皮質連合野 脳 梁膨大後皮 質 傍 海馬台 前 海馬台 嗅内 野 嗅 周皮質 帯状束 貫通線維束 □ こ! 海馬体 '外 側 中 隔核1 内 包 「0噛 脳 弓 一嘔一『、 '内 側 中隔 核1 】 一 一}、 「,騨 一 一 ・視 床 前 核 群:1視 床 正 中 核 蹴 」}_9 曽 _幽__L_畔 噌曽 _ 一_一. 沖 隔側 坐 核 }(線 条 体) 1視 床下 部 1腹 内側 部 乳頭体視床束 I l ,乳 頭体 内側核1 監乳 頭体 上核l
i麟i
:皮 質構造 :皮 質下構造 Fig.3 海 馬体 を 中 心 と す る 記憶 回 路 石塚(2002)嗅 内野II 聾嚢 V Vl 前海馬台 傍海馬禽 顯粒性脳梁 膨大後皮質 前頭蔚野 ・翻頭葉 Fig.4 海 馬体 の 内 部 回 路 と嗅 内野 との 結 合(石 塚2002) 2)海 馬 体 の 皮 質 構 造 (1)大 脳 皮 質 に お け る6層 の細 胞 構 築 Table.1 大 脳 新 皮 質 の細 胞構 築 1層(分 子 層) 主 に 神 経 線 維 が 投 射 して くる部 位 で あ り、 成 体 脳 で は 神 経 細 胞 は ほ とん ど見 られ ない 。 ]1層(外 穎 粒 層) 小 さ な錐 体 細 胞 が 存 在 す る層 で 、 同側 性 に 近 距 離 の皮 質 問 結 合 が あ る。 皿層(外 錐 体 細 胞 層)中 型 ・大 型 の数 種 類 の錐 体 細 胞 か ら な り、 同一 領 野 内 の層 間 結 合 や 反 対 側 皮 質 と の交 連 結 合 が あ る。 ]V'層(内 穎 粒 層) 小 さ な穎 粒 性 の神 経 細 胞 か ら な り、 特 に 視 ・聴 ・体 性 感 覚 の一 次 感 覚 野 で 発 達 して い る。 穎 粒 細 胞 は 視 床 の感 覚 中 継核 か ら の情 報 入 力 を 受 け 、 ]1一 皿層 に 信 号 を 伝 達 して い る。 だ が こ の 内穎 粒 層 は 側 頭 葉 で は 発 達 し て い ない 。 V層(内 錐 体 細 胞 層)視 床 下 部 、 脳 幹 、 視 蓋 、 脊 髄 な どへ の下 行 性 投 射 細 胞 か ら な る。 V[層(多 形 細 胞 層) 双 方 向性 に 視 床 と の結 合 に 関 与 して い る。
(2)海 馬 に お け る細 胞 構 築 海 馬 体 は 、 記 憶 信 号 の コ ー ド化 に は 無 くて は な ら ない 構 造 で あ る。 海 馬 体 を 構 成 す る海 馬 台 、 ア ン モ ン角 、 歯 状 回 は 不 完 全 な層 構 造 で あ るが 、 そ れ ぞ れ が 独 立 した 皮 質 領 野 とみ な され て きた 。 しか し石 塚(2002)は 、 海 馬 体 全 体 を1つ の皮 質 領 野 とみ なす 仮 説 を 提 唱 して い る。 大 脳 新 皮 質 の細 胞 構i築は 、一 般 に6層 構i造(Table.1)か ら な り、 各 層 は 皮 質 領 野 が 異 な って も共 通 した 神 経 結 合 を 持 って い る。 そ して 、 歯 状 回 とCA領 域 は 大 脳 皮 質 の]1一 皿層(穎 粒 上 層)に 相 当 し、 海 馬 台 はV-V[層(穎 粒 下 層)に 相 当 す る と考 え て い る。 ア ン モ ン角 と歯 状 回 の主 細 胞 か らは 下 行 性 投 射 は 無 く、 も っぱ ら皮 質 性 の結 合 を 行 って い る。 なか で もCA 3と 歯 状 回 門 の 細 胞 は交 連 結 合 を 行 っ て い る。 大 脳 皮 質 の形 成 過 程 で は 深 い 層 の神 経 細 胞 ほ ど早 く、 浅 い 層 の細 胞 ほ ど遅 く発 生 した こ とが 知 られ て い る。 海 馬 体 に お け る神 経 細 胞 の発 生 時 期 を 見 る と、 海 馬 台 の細 胞 が最 も早 く出現 し、CA 3、CA 1が これ に 続 き、 歯 状 回 穎 粒 細 胞 の 出現 が も っ と も遅 い 。 また 大 脳 皮 質 の各 領 野 で は 、 穎 粒 上 層(]1一 皿層)は 入 力 の受 容 と分 析 、 穎 粒 下 層(V-V[層)は 結 果 の 出力 とい う大 き な機 能 区 分 が 見 られ る。 海 馬 体 で は 、 歯 状 回 とア ンモ ン角(CA領 域)が 入 力受 容 と分 析 を 、 海 馬 台 は 皮 質 領 域 へ の 出力 を 受 け 持 って い る。 こ の こ とか ら、 海 馬 体 は 、 構 造 的 、 機 能 的 に も全 体 が ひ とつ の皮 質 領 野 と な って い る可 能 性 が 高 い。 した が って、 歯 状 回 一CA 3-CA 1一 海 馬 台 一、 と連 続 す る神 経 回 路 は 、 皮 質 領 野 間 の結 合 で は な く、 同一 皮 質 領 域 内 の層 間 結 合 と して 解 析 して い か なけ れ ば な ら ない 。 3)海 馬 体 内 部 の 結 合 歯 状 回 、 ア ン モ ン角 、 海 馬 台 を 含 む 皮 質 領 野 で 全 体 と して の記 憶 の コ ー ド化 が な され て い る と考 え られ るが 、 そ れ ら の機 能 を 可 能 に す る基 盤 は ど の よ うな も ので あ ろ うか 。 (1)貫 通 線 維 束 嗅 内野 の]1層 細 胞 か らは歯 状 回へ 、 皿層 細 胞 か らはCA 1と 海 馬 台 へ 投 射 す る。 嗅 内野 の 内側 部 か らは歯 状 回 とCA 3分 子 層 の深 部 へ 、外 側 部 か らは表 層 部 へ 、 とい う 脳 表 に対 して縦 方 向 に 軸 索 終 止 の 分 離 が あ る。 これ に 対 してCA 1/海 馬 台 の分 子 層 で は 、 嗅 内野 の外 側 部 か らは 両 者 の接 す る部 分 に 、 内側 部 か らは そ れ ぞ れ か ら遠 い 部 分 に 投 射 線 維 を 終 止 す る、 とい う横 方 向 の分 離 が見 られ る。 この こ とは 、歯 状 回 とCA 3の 細 胞 とが ど の位 置 の 細 胞 も嗅 内 野 の 内 外 部 か ら情 報 を 受 容 して い る の に 対 して 、CA 1と 海 馬 台 の細 胞 は位 置 に よ って 、 嗅 内野 の一 部 分 か ら の情 報 しか 受 け て い ない こ とに な る。
(2)CA 2/CA 3の 入 力 分 析 連 合 結 合CA 3領 域 で は分 子 層 、 放 線 層 、透 明層 、錐 体 細 胞 層 、 上 昇 層 の 亜 層 が 区別 され る(Fig.5)。 そ して 、 分 子 層 へ は 嗅 内野]1層 か ら の貫 通 線 維 が 、 透 明層 に は 歯 状 回 穎 粒 細 胞 か ら の苔 状 線 維 が 、 上 昇 層 に は 内側 中 隔核 か ら の線 維 が 、 放 線 層 と 上 昇 層 に はCA 3の 連 合線 維 と交 連 線 維 が終 止 す る。 個 々 の 錐 体 細 胞 は、 CA 1一 歯 状 回 方 向 の位 置(CA 2-CA 3 c)に よ って 、 各 層 へ 分 布 す る樹 状 突 起 の長 さが 異 な り、 細 胞 ご とに 各
嘆 内野 ll層細 胞 ㍉ 、 7∼ コ 分子口 避明層 錐体細胞層
上
『懸 塾'..
CA2 CA3a CA3b
歯状回 穎粒細胞 CA3c 内側 中隔核 Fig.5 CA3錐 体細 胞 へ の 各種 入 力 勾配(石 塚2002) 種 入 力 の受 容 割 合 が 異 な る。CA 1に 近 い 側 に 位 置 す るCA 2細 胞 で は 、 嗅 内 野 入 力 を最 も多 く受 容 し、 穎 粒 細 胞 か ら の情 報 は受 容 して い な い。 反 対 に、 歯 状 回 に近 い側 の細 胞(CA 3 c) で は 、 嗅 内野 入 力 は ほ とん ど受 け ず 、 歯 状 回 穎 粒 細 胞 か ら の入 力 を 最 も大 き く受 け て い る。 内 側 中 隔 核 か らの 入 力 は 、 中央 部 の細 胞(CA 3 b)が 最 大 に 受 容 し、 CA 1と 歯 状 回方 向 へ 向け 漸 減 す る。CA 3の 連 合 線 維 が 終 止 す る放 線 層 で は 、 各 亜 区分 間 の 顕 著 な 差 は見 られ な い 。 こ の よ うに 、CA 3錐 体 細 胞 群 に は4種 類 の 入 力 受 容 の勾 配 が あ る こ とか ら、 CA 2/CA 3領 域 に は これ ら入 力 を 解 析 す る マ トリ ッ クス の存 在 が 示 唆 され る。 また 錐 体 細 胞 の軸 索 投 射 域 も、 細 胞 の位 置 に よ って 投 射 範 囲 が 異 な って い る。
(3)CA 3か らCA 1へ の 投 射 CA 3錐 体 細 胞 は、 いわ ゆ るSchaffer側 枝(Fig.6参 照)に よ ってCA 1の 放 射層 と上 昇層 へ軸 索 を 投 射 す る。 Schaffer側 枝 は 海 馬 長 軸(中 隔 一側 頭 葉 方 向)方 向 に5mm以 上(全 長 は約8mm)に 渡 って 投 射 して い る。 この軸 索 投 射 は 、 CA3錐 体 細 胞 の細 胞 体 に おけ るCA 1一 歯 状 回方 向 の位 置 や 中 隔 一側 頭 葉 方 向 の 投 射 水 準 に よ って 、 終 止 部 位 が連 続 的 ・段 階 的 に変 化 す る。 第 一 に、CA 3か ら は 中 隔 方 向 へ の投 射 が多 く、軸 索 は 主 に放 線 層 に 分 布 して頂 上 樹 状 突 起 に終 止 す る。 これ に対 して 、CA 3 aか ら は側 頭 葉 方 向 へ 投 射 が 多 く、 軸 索 は主 に上 昇 層 に分 布 し、 基 底 樹 状 突起 に終 止 す る割 合 が 多 い 。 またCA 3 bか らの 投 射 は 両 方 の 間 に 分 布 す る。 第 二 に 、 個 々の 細 胞 の軸 索 投 射 は 投 射 レベ ル が 中 隔 側 に 行 くほ ど終 止 部 位 がCA 1近 位 部(CA 3側)か つ 海 馬 白板 側 に 移 行 して 、 基 底 樹 状 突 起 あ る い は 頂 上 樹 状 突 起 の基 部 に終 止 す る よ うに な る の に対 し、投 射 レベ ル が側 頭 葉 ほ どCA 1遠 位 部(海 馬 台側)か つ 頂 上 突 起 の 先 端 方 向へ 終 止 す る。 こ の こ とは 、CA 3か らCA 1へ の 投 射 が や は り一 種 の マ トリ ッ クスを 形 成 して い る こ とを 示 して い る と考 え られ る。
て 分 布 す るだ け で 、 終 末 も極 め て 少 ない 。 また 長 軸 方 向へ の投 射 も極 め て 少 な く、 した が って CA 1錐 体 細 胞 間 の連 合 性 結 合 は ほ と ん ど無 い と言 って よ い。 こ の こ とはCA 1錐 体 細 胞 が 、 CA 3か らの 情 報 と嗅 内 野 か ら の情 報 を総 合 した 上 で 、 周 囲 のCA 1細 胞 とは ほ とん ど情 報 交 換 を せ ず に 次 の 段 階 へ 結 果 を 出 力 して い る こ とに な る。CA 1は 、 海 馬 体 内 で は も っぱ ら海 馬 台 へ 投 射 す る。CA 1の 近 部 位(CA 3に 近 い 側)は 海 馬 台 の 遠 位 部 へ 、 CA 1の 遠 位 部 は 海 馬 台 の近 位 部 へ と投 射 す る。 海 馬 台 錐 体 細 胞 層 で は 、 浅 層3/4と 分 子 層 の深 部 に 終 止 し、 錐 体 細 胞 層 の最 深 部 と分 子 層 とは 浅 部 に 終 止 しない 。 ち なみ に 、 分 子 層 浅 部 に は 貫 通 線 維 束 が 、 錐 体 細 胞 最 深 部 に は 視 床 か ら の線 維 が 終 止 す る。 海 馬 台 錐 体 細 胞 層 に は 皮 質 下 の中 隔 坐核 、 乳 頭 体 内側核 、 視 床 腹 側 前核 へ 投 射 す る細 胞 が 、 浅 部 か ら深 部 へ と層 状 に 分 布 して い る。 した が っ て 、CA 1の 出 力 は 視 床 複 側 前核 に 投 射 す る細 胞 群 の 細 胞 体 周 辺 に は ほ とん ど終 止 しな い こ と に な る。 海 馬 台 内 の連 合 性 結 合 は お もに 乳 頭 体 投 射 細 胞 か ら起 こ り、 側 頭 葉 側 に 投 射 す る。 ま た 、 錐 体 細 胞 の 深 部 か らはCA 1へ 戻 る投 射 が あ る とい う。 以 上 の よ うに 、 CA 1と 海 馬 台 は 、 海 馬 体 外 へ の投 射 を 主 に 受 け 持 って お り、 海 馬 体 内部 の連 合 性 結 合 に は あ ま り関 与 して い ない 。 4)海 馬 体 の 出 力
海 馬 体 で 処i理され た 信 号 は、CA 1、CA 3、 海 馬 台 か ら海 馬 体 の外 へ 出 力 され る。 主 な投 射 先 は 嗅 内野 で あ り、 こ の嗅 内野 へ の投 射 に は 、 皮 質 性 投 射 路 及 び 皮 質 下 投 射 路 が あ る。 そ して そ れ ぞ れ の投 射 路 に は さ らに 複 数 の経 路 が 存 在 して い る。 これ ら の異 な る経 路 に よ って もた ら され た 異 種 の信 号 が さ らに 嗅 内野 で 処 理 され 、 大 脳 皮 質 へ 出力 され て い く。 海 馬 体 か ら嗅 内 野 へ の皮 質 性 投 射 路 海 馬 体 か ら嗅 内 野 へ の投 射 は 、CA 1と 、 海 馬 台 か ら の直 接 投 射 路 、 海 馬 台 か ら前 海 馬 台 、 傍 海 馬 台 を 経 由す る間 接 投 射 路 が あ る。 直 接 投 射 路 は 嗅 内野 の穎 粒 下 層 に 投 射 し、CA 1か らは 主 にV[層 に 、 海 馬 台 か らはV層 に 終 止 す る。 他 方 、 間 接 投 射 路 は 嗅 内野 の穎 粒 上 層 に 投 射 し、 前 海 馬 台 経 由 の投 射 路 は 皿層 に 、 傍 海 馬 台 経 由 の投 射 路 は]1層 に 終 止 す る。 各 投 射 路 の嗅 覚 内野 終 止 域 は 、 嗅 脳 溝 に 並 行 す る帯 状 を な し、 海 馬 体 の 中 隔 側 頭 葉 軸 の高 さに 応 じて 終 止 帯 が 異 な る。 す なわ ち中 隔 側 の部 分 は 嗅 脳 溝 に 近 い 帯 状 領 域 へ 、 側 頭 葉 側 の部 分 は 嗅 脳 溝 か ら遠 い 帯 状 領 域 に 終 止 す る。 さ らに そ の帯 状 領 域 内に は 、 各 起 始 領 域 の横 断 軸 上 の近 位 一遠 位 方 向に 応 じた 部 位 対 応 が 認 め られ る。 各 帯 状 領 域 中 で 、CA 1の 近 位 部 か らは 内側 嗅 内 野 の 尾 側 部(外 側 嗅 内 野 か ら遠 い部 位 に) に 、CA 1遠 位部 か ら は吻 側 部(外 側 嗅 内野 に近 い部 位)に 投 射 す る。 また これ と反 対 に 、 海 馬 台 錐 体 細 胞 群 の近 位 部 か らは 内側 嗅 内野 の吻 側 部 へ 、 遠 位 部 か らは 尾 側 部 へ 投 射 す る。 前 海 馬 台 の局 在 投 射 は 、CAIの 投 射 と同様 に 、 近 位部 か ら内 側 嗅 内 野 の 尾部 に 、遠 位部 か ら内 側 嗅 内野 の吻 側 部 に 投 射 す る。 傍 海 馬 台 か ら嗅 内野 へ の投 射 に つ い て は 、 傍 海 馬 台 の遠 位 部 が 外 側 嗅 内野 に 、 近 位 部 が 内側 嗅 内野 へ 投 射 す る。 こ の外 海 馬 台 か らは 脳 梁 膨 大 後 皮 質 や 前 頭 葉 へ も
投 射 が 見 られ る。 これ ら の皮 質 投 射 の起 始 細 胞 は 、 海 馬 台 錐 体 細 胞 の うち、 主 に 乳 頭 体 へ 投 射 す る細 胞 で あ る こ と、 外 側 嗅 内野 へ 投 射 す る細 胞 群 は 、 中 隔 側 座核 や 視 床 下 部 へ 投 射 す る細 胞 群 で あ る事 が 、 海 馬 台 内 の分 布 位 置 か ら示 唆 され る。 こ の よ うに 、 嗅 内野 、 前 海 馬 台、 傍 海 馬 台、 海 馬 及 びCA 1の 結 合 に は部 位 対 応 が 見 られ る 一 方 で 、CA 3領 域 や 前 海 馬 台 で は 、 領 域 内部 を 連 絡 す る連 合 性 結 合 が 発 達 して い る。 これ ら 局 所 部 位 対 応 結 合 と連 合 性 結 合 に つ い て の意 味 は 、 なお 解 析 を 進 め て い か なけ れ ば な ら ない 。 4.海 馬 に お け る 学 習 ・記 憶 1)シ ナ プ スの 可 塑 性 リ ドレー(2004)に よ る と、 「遺 伝 子 は性 格 や 知 能 や 人 間 の 本 質 に 関 す る パ ラ メ ー タ ー の幾 つ か を 驚 くほ ど正 確 に 規 定 す る一 方 で 、 どん な時 に 仕 事 を 代 行 させ るべ きか キ チ ン と心 得 て い る ので あ る。 そ う した 代 行 を させ る遺 伝 子 の一 部 が 第16染 色 体 に 存 在 す る。 これ が 学 習 と記 憶 の遺 伝 子 で あ る。 わ れ わ れ は 驚 くほ ど遺 伝 子 の影 響 を 受 け て い る。 だ が さ らに 強 い 影 響 を 及 ぼ して い る のが 人 生 に お け る学 習 経 験 で あ る。 本 能 は 遺 伝 的 に 決 定 され た 行 動 を 指 し、 学 習 は 経 験 に よ って 修 正 を 加 え られ た 行 動 を 示 す 。 こ の学 習 は 次 第 に 本 能 へ と置 き換 わ って い くので あ る」 とい う。 ラ シ ュ レイ の弟 子 で あ るHebb, D.は 記 憶 過 程 に つ い て の理 論 を 構 築 し、 短 期 記 憶 と長 期 記 憶 を 区 別 した 。 短 期 記 憶 は 限 られ た 時 間 に 働 く過 程 で あ り記 憶 痕 跡 は 残 さ ない で 、 書 き終 え る と忘 れ て しま うよ うな記 憶 で あ る。 長 期 記 憶 は 神 経 系 に 構 造 的 な変 化 が 起 こ り、 こ の構 造 変 化 は 幾 つ も の ニ ュー ロンが つ くる閉 回 路 を 繰 り返 し活 動 す る こ とに よ って 生 じる。 こ の閉 回 路 は 大 脳 皮 質 か ら視 床 や 海 馬 へ 、 そ して 大 脳 皮 質 へ と繋 が って い る と考 え られ て い る。 一 つ の記 憶 に 一 つ の閉 回 路 が 対 応 す る ニ ュー ロンが 繰 り返 し活 動 す る こ とに よ って ニ ュー ロン間 の シ ナ プ スが 機 能 的 に 強 固 に 結 び つ く。 一 度 機 能 的 に 結 合 す る と これ ら の ニ ュー ロンは 細 胞 集 成 体(セ ル ・ア ッセ ン ブ リ)を 構 成 し、 そ して 細 胞 集 成 体 の ど の ニ ュー ロンが 興 奮 して も全 体 が 活 性 化 す る。 細 胞 集 成 体 の ニ ュー ロンを 興 奮 させ る も の な ら、 どん な感 覚 、 試 行 、 情 動 で も記 憶 を 想 起 で き る。 こ の考 え 方 は 通 常 ヒ トの行 う情 報 処 理 に 関 して 心 理 学 者 が 発 見 した こ とを 神 経 学 的 に 説 明 して い る も の とい え る。 (1)可 塑 性 学 習 ・記 憶 の過 程 に お い て 重 要 な こ とが 、 海 馬 の神 経 回 路 網 を 一 周 す る間 に 起 こ って い る と考 え られ て い る。 あ る情 報 が 入 って くる と、 ニ ュー ロン と ニ ュー ロンが 連 結 さ れ 、 海 馬 神 経 回 路 網 の ニ ュー ロンか ら次 の ニ ュー ロンへ と興 奮 が 伝 達 され て い く。 伝 達 の過 程 で 何 が 起 こ って い る のか 正 確 に は わ か って い ない が 、 シ ナ プ ス部 位 に 機 能 的 ・構 造 的 な変 化 が 生 じ、 情 報 が な くな った 後 も神 経 回 路 網 に そ の変 化 が 残 る と考 え られ て い る。 従 って こ の間 に
脳 の変 化 が 起 こ って い るは ず で あ り、 こ の こ とを 可 塑 性 とい う。 シ ナ プ スに は 興 奮 性 シ ナ プ ス と抑 制 性 シ ナ プ スが あ る。 前 者 は シ ナ プ ス後 膜 の肥 厚(樹 状 突 起 に 多 く、 間 隙 が20∼30nmあ り、 電 子 密 度 の高 い 基 底 膜 が 観 察 され る)が 前 膜 と比 べ て 著 し く非 対 称 で あ り、 抑 制 性 の場 合 に は 前 後 の膜 が 同 程 度 で あ る が対 称 性 の 基 底 膜 は観 察 され ず 、 シ ナ プ ス領 域 も1Pt m 2以 下 で 狭 く、 細 胞 体 に 見 られ る こ とが 多 い 。 海 馬 歯 状 回 穎 粒 細 胞 か らCA 3領 域 錐 体 細 胞 へ の苔 状 線 維 シナ プス は 毎 秒1回 の繰 り返 し刺 激 に よ って シ ナ プ ス応 答 が 数 倍 以 上 に 増 強 す る こ とが 知 られ て い る。 こ の メ カ ニ ズ ム の少 な く と も1部 は 活動 電 位 に 伴 って流 入 したCA2+が 残 存 し,集 積 す る こ とに よ る と考 え られ て い る。 伝 達 物 質 の放 出量 はCA2+濃 度 の累 乗(3-4乗)に 比 例 す る の で 、 わ ず か な 残 存CA2+も シ ナ プ ス応 答 に 大 き く影 響 を 与 え る と考 え られ て い る。 (2)長 期 増 強(LTP:long-term potentiation)の メ カ ニ ズ ム 海 馬 の ニ ュ ー ロンは 、 電 極 や 特 定 の海 馬 内神 経 回 路 の神 経 伝 達 物 質 で 繰 り返 し刺 激 され る と、 刺 激 を や め た 後 も数 週 間 に わ た っ て発 火 し続 け る。 こ の発 火 、 つ ま り長 期 増 強(LTP)を つ く りだ す 手 法 は 、 日常 的 に 何 か を 学 習 す る とい う作 業 を して い る動 物 で 見 られ る神 経 発 火 と よ く似 た 状 態 の神 経 発 火 を 作 り だ す 。 長 期 増 強 とは 、 シ ナ プ スに お け る信 号 伝 達 が 長 期 間 増 強 され る こ とを 意 味 す る。 数 分 か ら数 日続 くこ の増 強 は 誘 発 す る時 の条 件 や 脳 の場 所 に 依 存 す るが 神 経 回 路 で の興 奮 性 シ ナ プ ス 後 細 胞 の反 応 の増 大 と して 現 れ る。 長 期 増 強 は 貫 通 線 維 を 通 じて 嗅 内皮 質 を 短 期 間 高 頻 度 で 刺 激 す る こ とで は じめ て 確 認 され た 。 こ の刺 激 は 歯 状 回 の穎 粒 細 胞 の活 動 を 増 大 す る。 ネ コや ラ ッ トの研 究 で 増 強 した シ ナ プ ス伝 達 は 、 数 日か ら数 週 間 続 くこ とが 確 認 され て い る。 記 憶 す る 時 に 脳 の何 が 変 化 す る ので あ ろ うか 。 こ の何 か を 知 る こ とが 記 憶 の メ カ ニ ズ ムを 解 明す る こ と へ の第1歩 で あ る。 記 憶 研 究 者 の多 くは 、 シ ナ プ ス の変 化 を 生 じさせ る メ カ ニ ズ ムで 最 も有 力 な も のはLTPで あ る と考 え て い るが 、 細 胞 水 準 に お け る記 憶 の形 成 が こ のLTPに よ る と考 え られ て い る のは 、 ①LTPが 脳 内 で も、特 に 海 馬 内 の シ ナ プ スに お い て 引 き起 こ され や す い こ と、 ②LTPと 学 習 記 憶 に 長 期 持 続 性 、 入 力 特 異 性 、 連 合 性 が あ る こ と、 ③LTPを 阻 害 す る薬 物 を 動 物 に 投 与 す る と学 習 ・記 憶 の障 害 が 起 こ る こ と、 な ど の理 由に よ る。 (3)長 期 抑 圧(LTD:long-term depression) 記 憶 の消 去 を 説 明す る現 象 と して 長 期 抑 圧 が あ げ られ る。LTPやLTDな ど の現 象 は 、 一 定 のパ タ ー ンや 特 定 の組 み 合 わ せ の入 力 後 に シ ナ プ ス伝 達 効 率 が 長 時 間(数 時 間 一数 ヶ月)持 続 的 に 増 大 、 あ るい は 減 弱 す る こ とを 言 う。 こ の 場 合 、 シ ナ プ ス の前 部 か 、 後 部 か 、 あ るい は 二 つ の うち ど ち らが 重 要 か 、 あ るい は 責 任 が あ る のか とい う問 題 が 論 じられ て きた が 、 責 任 部 位 は 脳 の個 々 の領 域 に よ って 異 な る とい う結 果 が 出て い る。 た だLTPを 誘 発 と維 持 の 二層 に 分 け て み る と、 そ の維 持 に シ ナ プ ス後 部 か ら前 部 へ 情 報 を 伝 達 す る逆 行 性 メ ッセ ン ジ ャ ーが 必 要 で あ る こ とが 示 唆 され 、 候 補 者 と して 数 種 類 の 分 子 が あ げ られ て い る。
2)記 憶 と学 習 Squire, LR.は 、 記 憶 を 陳述 記憶 と手 続 き記 憶 に 分 け た 。 そ して陳 述 記 憶 を エ ピ ソ ー ド記 憶 と意 味 記 憶 に 分 け 、 手 続 き記 憶 を 運 動 記 憶 、 プ ライ ミン グ、 単 純 な古 典 的 条 件 づ け に 分 け た 。 (1)陳 述 記 憶 陳 述 記 憶 は 、 宣 言 的 記 憶 あ るい は 外 在 記 憶 と もい わ れ 、 これ に よ って 日常 必 要 な事 柄 を 意 識 的 に 思 い 出 し、 認 識 す る こ とが で き る。 陳 述 記 憶 は 「エ ピ ソー ド記 憶 」 と 「意 味 記 憶 」 に分 か れ 、 意 識 的 に想 起 で き る記 憶 で あ る。 「エ ピ ソー ド記 憶 」 は そ の 内 容 を 言 葉 、 絵 、 身 振 りな ど何 らか の手 段 を 用 い て 他 人 に 伝 え る こ とが で き る記 憶 で あ る。 こ の記 憶 は 生 起 が 一 回性 で 、 内 容 に 脈 絡 が あ り、 時 間 ・空 間 情 報 を伴 う。 「意 味 記憶 」 は 概 念 の記 憶 と もい え 、 意 味 を 持 って い る。概 念 は 類 似 した 経 験 を 繰 り返 す こ とに よ って 個 別 性 が 捨 象 され 、 共 通 性 が 抽 象 され る ので 、1回 の経 験 で 成 立 す る こ とは ない 。 自身 の 「中 学 校 の卒 業 旅 行 」 は 陳 述 記 憶 で あ るが 、 一 般 的 な 「旅 行 」 と く くれ ば こ の概 念 も意 味 記 憶 に な る。 海 馬 は 陳 述 記 憶 に 関 わ る 脳 部 位 で あ る。 重 症 の テ ン カ ン患 者 で あ るHMは 、 治 療 の た め 海 馬 を 含 む 両 側 の 内 側 側 頭 葉 を 切 除 した 。 そ の後 、 短 期 記 憶 に 問 題 は ない のだ が 遅 延 期 間 が あ る と新 しい 記 憶 を 保 持 した り 想 起 した りす る こ とが 出来 な くな った(順 行 性 健 忘)。 だ がHM氏 だ け で な く他 の記 憶 障 害 の 患 者 も、 運 動 技 能 に つ い て は 新 し く獲 得 で きた 。 これ ら の患 者 は 術 前 の記 憶 は 保 た れ て い る も の の、 手 術 の 数年 前 まで の記 憶 が傷 害 され た(逆 行 性 健 忘)。 この こ とか ら記 憶 は海 馬 自体 で は な く、 大 脳 連 合 野 に 蓄 え られ る のだ と考 え られ る よ うに な った 。 そ して 、 海 馬 の機 能 と して 記 憶 の固 定 化 を 制 御 す る機 能 を 担 って い る とい う説 が 提 唱 され た 。 そ の後 サ ル の 内側 側 頭 葉 を 破 壊 す る と、 ヒ トと類 似 の記 憶 障 害 を 示 す こ とか ら、 内側 側 頭 葉 の ど の領 域 が 重 要 で あ るか が 調 べ られ た 。 サ ル の海 馬 や 隣 接 す る領 野 の研 究 で は 、 海 馬 破 壊 も学 習 を 傷 害 す るが 、 海 馬 の周 辺 領 域 を 含 め て 破 壊 す るほ うが よ り成 績 が 低 下 す る こ とが 明 らか に な った 。 また 嗅 皮 質 と海 馬 傍 回 だ け の破 壊 で も著 しい 障 害 が お こ るが 、 扁 桃 体 のみ の破 壊 で は 障 害 が 見 られ なか った 。 こ れ ら の記 憶 障 害 は 遅 延 期 間 が 短 い と きに は み られ ず 、 遅 延 期 間 が 長 くな る と顕 著 に な る。 これ ら の結 果 か ら、 短 期 記 憶 は 感 覚 情 報 ご とに 大 脳 皮 質 に 蓄 え られ 、 海 馬 に は 依 存 しない 。 しか し、 長 期 記 憶 と して 固 定 化 され るに は 海 馬 が 必 要 で あ り、 海 馬 で 処 理 を 受 け た 情 報 は 再 び 大 脳 皮 質 に 戻 され て 長 期 記 憶 と して 蓄 え られ る、 とい うモ デル が 有 力 で あ る。 (2)手 続 き記 憶 手 続 き記 憶 は も う一 つ の主 要 な記 憶 で あ り内在 記 憶 と も言 わ れ る。 手 続 き記 憶 に は い くつ か の タイ プが あ り、 主 に 運 動 や 知 覚 に 関 係 した 技 能 行 動 、 条 件 付 け 、 プ ライ ミン グ な どが 含 まれ る。 そ れ ぞ れ 少 しず つ 異 な った 神 経 回 路 を と るが 、 基 本 的 に は 側 頭 葉 内側 部 を 含 ま ない こ と、 意 識 的 な記 憶 に よ ら ない 記 憶 で あ る こ とか ら、 健 忘 症 状 を 示 す 患 者 で も短 期 記 憶 や 古 い 記 憶 は障 害 され な い。HMの 症 例 や コル サ コ フ症候 群 の患 者 は 、 知 覚 ・運 動 技 能 を 要 求 され る テ ス トで は 障 害 を 示 さ ない ので 、 手 続 き記 憶 に は 大 脳 基 底核 と小 脳 が 重 要 で あ
る と考 え られ て お り、 こ の手 続 き記 憶 は 、 陳 述 記 憶 よ りも進 化 的 に 早 く発 達 した も の と思 わ れ て い る。 3)記 憶/学 習 能 力 に 与 え る ス トレ スの 影 響 ス トレスに よ る海 馬 の記 憶 機 能 近 年 の遺 伝 子 工 学 の発 達 とそ の神 経 科 学 へ の応 用 に よ って 、 外 部 か ら の刺 激 や 環 境 の変 化 が 脳 の遺 伝 子 レベ ル に 変 化 を お こす こ とが 明 らか に な って きた 。 生 体 は 環 境 の変 化 や 刺 激 に 適 応 す べ く種 々 の反 応 を 行 うが 、 こ の よ うな生 体 の反 応 を 総 称 して ス トレス とい い 、 こ の原 因 に な る刺 激 を ス トレ ッサ ー と呼 ん で い る。 Gulticoido(GC)は 海 馬 ニ ュ ー ロ ン機 能 や 生 存 に 重 大 な 影 響 を 与 え て い る。 Sapolsky達 は 、 GCが 海 馬 ニ ュー ロ ンの機 能 や生 存 に 重 大 な影 響 を 与 え る こ と(GC仮 説)を 初 め て 唱 え た こ とか ら、 老 化 や ス トレス との関 連 で一 躍 注 目を浴 び た。Watanabe達 に よ り、 一 日6時 間 の拘 束 で ス ト レス を3週 間 続 け る と、 ラ ッ ト海 馬 のCA 3ニ ュ ー ロ ンの樹 状 突 起 が 萎 縮 す る こ とが 明 らか に な った 。 ス ト レス を 与 え られ た ラ ッ トで は 、 記 憶 や 学 習 の 基 盤 と考 え られ て い る LTPの 形 成 が 阻 害 され 、 学 習 に 際 して エ ラ ーが 多 くな る こ とが 示 され て い る。 GC投 与 に よ っ て も 同様 の現 象 が 認 め られ る事 か ら、 ス トレスに よ る血 中 の上 昇 が そ の原 因 で あ ろ うと考 え ら れ る。 社 会 的 ス トレス、 即 ち対 人 関 係 で の ス トレスで 、 血 中 のGCが 上 昇 す るが 、 動 物 で も 同 じよ うな状 態 を つ くる こ とが 出来 る。 例 え ば 、2匹 の ツバ イ の オ スを1つ の ケイ ジに 入 れ て お くと主 従 関 係 が 生 じ、 従 属 す る方 の オ スに 心 身 症 の よ うな症 状 、 す なわ ち食 欲 、 リズ ム、 睡 眠 障 害 、 うつ 状 態 が み られ 、 尿 中 のGCの 上 昇 が み られ る とい う。 サ ル の場 合 、 集 団 生 活 に お い て 従 属 す る立 場 の オ ス サ ル に 、 重 篤 な 消 化 性 潰 瘍 と海 馬 のCA 3とCA 4領 域 に お い て 細 胞 死 が 認 め られ て い る。 自分 自身 で コ ン トロール で き ない 社 会 的 ス トレスに 晒 され た 時 、 海 馬 を 中 心 と した 脳 の障 害 や 心 身 症 が お きや す い 。 ス トレスに よ る心 身 の健 康 破 壊 は 中 高 年 だ け の問 題 で は ない 。 米 国 で は ス トレスが 原 因 と考 え られ る子 供 の学 習 能 力 の低 下(learning disability) やPTSDに よる海 馬 の萎 縮 と機 能 障 害 が 問題 に な って い る。 海 馬 硬 化 は て ん か ん に 伴 う神 経 細 胞 の脱 落 に 由来 した グ リア細 胞 の増 殖 の結 果 で あ る。 こ の神 経 細 胞 の脱 落 は 過 剰 な神 経 活 動 に よ る興 奮 毒 素 が 原 因 で あ る と想 定 され て い るが 、 細 胞 脱 落 のパ タ ー ンに 特 徴 が あ る。 も っ と も顕 著 に脱 落 が観 察 され る部 位 は歯 状 回 門 、 続 い てCA 3、 ま た はCA 1野 で錐 体 細 胞 の脱 落 が み られ るが 、 歯 状 回穎 粒 細 胞 やCA 2野 錐 体 細 胞 で は一 般 に神 経 細 胞 死 は 観 察 され ない 。 こ の特 異 な細 胞 死 のパ タ ー ンは 、 興 奮 毒 性 に 対 す る耐 性 の差 に 由来 す る も の と考 え られ て い る。 (仙波 、2004)。
だ 貫通路 穎粒細胞 海馬采 。 Schatferf則 畠目ネ支 CA3 レ 1 o O で。㏄ コ q ρ W ㌢ A C ∂ ム ク 6 ぐ オ a DG CA3 CA2 錐体細胞 ぜ 、 〆
normal actMty Glu 一一一州) release\
neurotrophins /
Fig.6 海 馬 とス トレス に よ り海 馬CA 3錐 体 細 胞 が 障 害 され る メ力 ニ ズ ム
a:ヒ ト海 馬 の 構 造 。 歯 状 回(DG)の 穎 粒 細 胞 はCA 3,CA 4の 錐 体 細 胞 に 投 射 す る
b:非 ス トレス 時 とス ト レス 負 荷 時 に お け るDGの 穎 粒 細 胞 とCA 3錐 体 細 胞 との 関係 GC:glucocorticoid, Glu:glutamate (仙波 1995) 5.海 馬 苔 状 線 維 に つ いて 1)海 馬 に お け る連 合 線 維 海 馬 苔 状 線 維 研 究 の歴 史 は 古 く、 こ の名 称 は1893年 に スペ イ ン のCajalが 名 づ け た 。 これ は 当 時 す で に 知 られ て い た 小 脳 苔 状 線 維 に 染 色 像 が 類 似 して い た こ とに よ る。 中 枢 神 経 系 に お け る有 用 な研 究 対 象 と な って い る海 馬 体 の神 経 連 絡 路 の中 で 、 最 初 に 投 射 が 解 明 され た のが こ の 海 馬 苔 状 線 維 で あ った 。 「3.海 馬 に お け る記 憶 回 路 」 に お い て 多 様 な神 経 経 路 を み て きた が 、 そ の中 で 海 馬 内部 に 一 方 向性 の線 維 束 が あ った。 大 脳 新 皮 質 か ら くる様 々 な知 覚 情 報 は 、 海 馬 傍 回 に あ る嗅 内野 第 ]1層 で 中 継 され 、 貫 通 線 維 に よ って歯 状 回分 子 層(一 部 はCA 3網 状 分 子層)に 向け て 軸 索 を 伸 ば し、 内嗅 領 歯 状 回 投 射 繊 維 を 穎 粒 細 胞 の樹 状 突 起 に 向け て 運 ぶ 。 歯 状 回 に お け る穎 粒 細 胞 は 知 覚 情 報 を 受 け 取 る重 要 な細 胞 で あ るが 、 そ の細 胞 は 他 の中 枢 神 経 系 に は 見 られ ない 特 性 を 示 して い る。 海 馬CA 3錐 体 細 胞 の軸 索 は 同側 及 び対 側 海 馬 のCA 3と 密 な連 合 性 及 び 交 連 性 結 合 を し、 さ らにCA 1放 射 状 層 と上 昇 層 に投 射 す る。 これ はSchaffer側 枝 と名 づ け られ て い る。 苔 状 線 維 は ほ か の中 枢 神 経 系 に は 見 られ ない 特 異 な性 質 を 持 って お り、 特 に 疾 患 と の関 連 で 古 くか ら議 論 され て い る も ので あ る。 しか しど う して 苔 状 線 維 だ け に こ の よ うな現 象 が あ る ので あ ろ うか 。 て ん か ん 様 条 件 下 で 重 篤 な障 害 を 受 け る のは 形 成 中 の線 維 で あ り、 これ は 苔 状 線 維 に 限 らずCA 1の 放 射 層 と上 昇 層 へ 軸 索 を 投 射 す るSchaffer側 枝 で もみ られ る。
2)海 馬 苔 状 線 維 の 特 徴 池 谷(2000)は 、 他 の中 枢 神 経 系 の組 織 とは 大 き く異 な る苔 状 線 維 の特 徴 を 挙 げ て い る。 (1)無 髄 神 経 線 維 情 報 は ニ ュー ロン の軸 索 を 通 り、 シ ナ プ スを 介 して 他 の細 胞 へ 伝 え られ て い く。 様 相 に よ って 前 後 は あ るが 、 ニ ュー ロンは 出生 前 後 か ら軸 索 に 髄 鞘 が で き始 め 、 こ の 髄 鞘 が ニ ュー ロン発 達 の指 標 と考 え られ て きた 。 髄 鞘 は あ る幅 で くび れ て お りこれ を ラ ン ビエ 紋 輪 とい うが 、 髄 鞘 化(ミ エ リン化)さ れ る とパ ル スは 紋 輪 を 飛 び なが ら速 い 速 度 で 伝 わ って い く。 通 常 の ア ミノ酸 系 お よび ニ コチ ン作 動 性 の神 経 軸 索 は 髄 鞘 化 され た 有 髄 神 経 線 維 な ので あ るが 、 しか し苔 状 線 維 は 終 末 の伝 達 物 質 が 興 奮 性 ア ミノ酸 で あ るに もか か わ らず 髄 鞘 の ない 無 髄 神 経 線 維 な ので あ る。 (2)巨 大 な神 経 終 末 シ ナ プ ス形 成 苔 状 繊 維 は ア ン モ ン角CA 3錐 体 細 胞 の透 明層 に 投 射 し、 こ こでCA 3錐 体 細 胞 の頂 上 樹 状 突 起 基 部 の棘 状 瘤 と巨大 な シナ プス複 合 体 を形 成 す る。 そ の 直 径 は 大 きい も ので10 Pt mに も達 して お り、 これ は 苔 状 線 維 が 起 始 す る神 経 細 胞 で あ る穎 粒 細 胞 の大 き さそ の も のに 匹 敵 す る。 これ に 伴 い シ ナ プ ス後 側 スパ イ ン も 巨大 か つ 複 雑 な形 態 を な して い る。 (3)神 経 終 末 にZn 2+を 豊 富 に 含 有 す る。 (4)生 後 に 形 成 され る。 中 枢 神 経 系 の発 生 学 的 成 熟 の大 半 は 胎 生 期 に 行 わ れ るが 、 一 部 の脳 組 織 は 生 後 に 発 達 す る。 海 馬 で は 歯 状 回 穎 粒 細 胞 の発 生 が 胎 生 後 期 に 始 ま り、 生 後 早 期 に まで わ た るた め 、 そ れ に 伴 い 軸 索 で あ る苔 状 線 維 の発 達 も生 後 に 行 わ れ る。 ケ ツ歯 類 の苔 状 線 維 の 形 成 時 期 は お もに 生 後2-3週 目で あ る。 ヒ トの場 合 は 詳 し く研 究 され て い ない が 、 生 後2週 間 程 度 は 海 馬 の発 達 が 持 続 す る と言 う報 告 例 か ら も、 乳 児 期 か ら幼 児 期 に か け て の期 間 が 苔 状 線 維 の形 成 時 期 に 相 当 す る も の と考 え られ る。 苔 状 線 維 の形 成 は 、 そ の速 度 は 低 い なが ら も成 体 に 達 して か ら も行 わ れ 、 量 的 な増 減 を 介 した 可 塑 性 を 示 す 中 枢 神 経 系 で は きわ め て 例 外 的 な 神 経 組 織 で あ る。 (5)歯 状 回 一 ア ン モ ン角 路 記 憶 ・学 習 へ の関 与 が 示 唆 され て い る海 馬 神 経 回 路 を 形 成 して い る。 い ま まで 海 馬 が 記 憶 ・学 習 に 重 要 な脳 部 位 で あ る こ とが 示 され て きた 。 こ の神 経 回 路 の 一 部 を 形 成 して い る苔 状 線 維 は 、 歯 状 回 と ア ン モ ン角 が 連 合 す る唯 一 の神 経 投 射 と して 特 別 に 重 要 な位 置 を 占め て い る。 (6)LTPの 形 成 機 構 の特 殊 性 海 馬 苔 状 線 維 はLTP(長 期 増 強 現 象)の 形 成 機 構 が 他 の部 位 とは 異 な り特 殊 で あ る。 あ る特 定 の刺 激 に 対 して 長 期 的 に 神 経 伝 達 効 率 が 充 進 す る現 象 で あ るLTPは 、 記憶 、 学 習 の 基礎 を 成 す シナ プス 可 塑 性 の例 と して 盛 ん に 研 究 され て い る。 苔 状 線 維 に お け るLTPの 形 成機 構 に は 一 般 的 な も の と比 べ て 共 通 部 分 は な く、 そ の特 殊 性 か ら も 興 味 深 い 研 究 対 象 と な って い る。
(7)テ ン カ ン患 者 また は 実 験 モ デル 動 物 に お い て 異 常 発 芽 が 観 察 され る。 髄 鞘 ラ ン ピ エ 絞 輪 ロリ ゆヨもの り リ フィラメ ントの輪 竃 ff。o 団 ンナプス 後膜 神 経終末 .1=・}== Fig.7 ニ ュー ロ ン とシ ナ プ ス の形 態 ニ ュ ー ロン(神 経 細 胞)の 基 本形 。軸 索 の 末 端 が ふ くらみ 、 神 経 終 末 とな って他 の ニ ュ ー ロ ンに 接 合 す る。 この 接 合 部 を シナ プス とい い 、 そ の 拡 大 図 が 円内 に 示 して あ る (塚 田) 3)ニ ュ ー ロ ン新 生 と海 馬 苔 状 線 維 従 来 、 成 熟 した 脳 に お い て ニ ュー ロンが 新 生 す る こ とは ない と考 え られ て い た 。 しか し柏 原 (2004)で 述 べ た よ うに、21世 紀 直 前 、 ・ゲー ジ達 の グル ー プは 、 マ ウ ス成 体 脳 の歯 状 回 で ニ ュー ロン(穎 粒 細 胞)が 新 生 して い る こ とを 見 つ け た 。Kempermannら(1997)は 、生 活 改 善 を す る前 の マ ウ ス よ りも改 善 後 に は60%も 多 くの穎 粒 細 胞 が海 馬CA 3の 前 に 位 置 す る歯 状 回 に 生 じる こ とを 明 らか に した 。 ニ ュー ロン新 生 は 老 齢 マ ウ スで も促 進 され 、 学 習 能 力 が 向上 した 。 こ の現 在 知 られ て い る脳 部 分 は 、 嗅 覚 に 関 係 す る嗅 球 と、 学 習 ・記 憶 の成 立 に 関 連 して い る海 馬 で あ る。 増 殖 して い る の は穎 粒 細 胞 で、 海 馬 の錐 体 細 胞CA 3の 樹 状 突 起 とつ なが る部 分 で あ る。 穎 粒 細 胞 を 生 み 出す 幹 細 胞 は 歯 状 回 と終 板 の境 界 に 存 在 し、 絶 え ず 分 裂 して い る。 分 裂 した 子 や 孫 細 胞 の多 くは 親 細 胞 と瓜 二 つ で あ るが 、 か な りな数 が 生 まれ た 後 で す ぐ死 ぬ 。 新 生 穎 粒 細 胞 は 生 後20日 ほ ど未 熟 な状 態 に あ り、 い くつ か は 穎 粒 細 胞 層 に 移 動 して 周 囲 の穎 粒 細 胞 と 同 じ形 に な りシ グ ナル の受 け 渡 しを す る多 数 の突 起 を 出 し、 そ の後 成 熟 した 穎 粒 細 胞 に な る。 シ ナ ップ スが 結 合 す る棘(ス パ イ ン)が 多 い 成 熟 した 穎 粒 細 胞 の形 とは 大 き く異 な り、 発 達 中 の こ の樹 状 突 起 の穎 粒 細 胞 に は 棘 は あ ま り見 られ ず 、 細 長 い 、 あ るい は 扇 形 突 起 が 樹 状 突 起 か ら
数 多 く出て い る。 不 規 則 な形 の突 起 は 成 熟 した 穎 粒 細 胞 に は 見 られ ない 。 よ く動 く周 りの神 経 組 織 と接 触 しなが ら何 らか の コ ミ ュニ ケ ー シ ョンを して い る も の と思 わ れ る。 こ の場 合 、 豊 か な生 活 に お い て 幹 細 胞 の分 裂 が 促 進 され た か ら増 え た わ け で は ない 。 環 境 の刺 激 が 幹 細 胞 の分 裂 で 生 じた 子 や 孫 の寿 命 を 延 ば し、 ニ ュー ロンに な る細 胞 が 増 加 した ので あ る。 こ の ニ ュー ロン新 生 は 、 ヒ トの、 そ れ も成 人 の脳 に お い て も見 出 され て お り、 そ して こ の脳 の新 生 部 分 は 嗅 覚 に 関 係 す る嗅 球 と、 学 習 ・記 憶 の成 立 に 密 接 に 関 連 して い る海 馬 で あ る。 海 馬 で は大 人 に な って も ニ ュー ロ ンが 新 生 して お り、 「認 知 や 記 憶 に お い て 重 要 な役 割 を 果 して い る海 馬 の歯 状 回 と終 板 に お い て ニ ュ ー ロ ンが 日常 的 に 新 生 して い る」 とい う発 見 をErik-ssonら(1998)が 発 表 した 。 Erikssonら は 、 垂 体 細 胞 で は な く歯 状 回 の穎 粒 細 胞層 に お い て 新 生 ニ ュー ロ ンを 見 つ け た 。 ニ ューロ ン新 生 は マ ウ スだ け で な く成 人 の ヒ トで もみ られ 、 哺 乳 類 で は 一 般 的 現 象 と認 め られ る よ うに な った 。 Flechsig(1847-1929)1よ 苔 状 線 維 の 存 在 を 述 べ て い る。 も っ と も遅 く発 達 して くる のは こ の苔 状 線 維 で あ り、 最 も高 次 の脳 機 能 に 関 与 す る部 位 で あ ろ うと考 え て い た 。 しか しこ の歯 状 回 穎 粒 細 胞 層 に お い て 、 ヒ トで も ニ ュー ロンが 常 に 新 生 して い る こ とが 知 られ る よ うに な った のは20世 紀 末 で あ り、 そ して こ の新 生 ニ ュー ロン の軸 索 の束 が 苔 状 線 維 な ので あ った ので あ る。 6.ニ ュ ー ロ ン 新 生 の 意 味 す る も の 中 枢 神 経 系 の場 合 、 脳 組 織 の一 部 で 生 後 に 発 達 す る も の もあ るけ れ ど、 発 生 的 な成 熟 の多 く が 胎 児 期 に な され て い る。 しか し海 馬 で は 歯 状 回 穎 粒 細 胞 の発 生 が 胎 生 後 期 に 始 ま り生 後 に わ た る ので 、 軸 索 で あ る苔 状 線 維 の発 達 も生 後 に な る。 苔 状 線 維 の 終 末 はCA 3野 明瞭 層 及 び 歯 状 回 門 に分 布 して い る。 一 方 て ん か ん 発 作 を お こ した ヒ トあ る い は 実験 動 物 で は 、CA 3野 多 形 細 胞 層 また は 歯 状 回 内側 分 子 層 の苔 状 線 維 に 異 常 発 芽 す る こ とが 報 告 され て お り、 こ の現 象 は 特 に 側 頭 葉 テ ン カ ン患 者 に お い て しば しば 生 じて い る。 て ん か ん は 大 脳 皮 質 の異 常 神 経 発 生 に よ って 発 作 が 繰 り返 され る疾 患 の総 称 で あ る。 そ して 乳 児 期 か ら幼 児 期 に か け て 高 い 発 症 率 を 示 して お り、 患 者 の数 は 人 口 の1%を 占め て い る。 も う一 つ は 病 理 学 的 変 性 と して 海 馬 の硬 化 が あ げ られ るが 、 これ は 苔 状 線 維 に お け る異 常 発 芽 に よ る も ので あ る。 海 馬 硬 化 は 海 馬 のて ん か ん 発 作 に よ って 神 経 細 胞 の脱 落 が 生 じ、 そ のた め に グ リア細 胞 が 増 殖 す る ので あ るが 、 こ の脱 落 は 過 剰 な神 経 活 動 に よ る興 奮 性 の毒 性 が 原 因 で あ る と考 え られ て い る。 顕 著 に 観 察 され るの は 歯 状 回 門 で あ り、 続 い てCA 3、 また はCA 1の 錐 体 細 胞 に脱 落 が お こる。 細 胞 の脱 落 パ タ ー ンに は特 徴 が あ り、歯 状 回穎 粒 細 胞 及 びCA 2野 の錐 体 細 胞 で は 一 般 に 神 経 細 胞 死 は 見 られ ない 。 生 後 に 形 成 され る苔 状 線 維 は 、 生 後 早 期 に 頻 発 す るて ん か ん に よ る影 響 を 受 け や す い 。 こ の苔 状 繊 維 の異 常 発 芽 は 、 歯 状 回 門 に 存 在 す
る介 在 神 経 で あ る苔 状 細 胞 の脱 落 に 伴 い 生 じる現 象 で あ る と考 え られ て い る。 こ の現 象 が 注 目 され る理 由は 、 細 胞 の脱 落 に よ り海 馬 神 経 回 路 のパ タ ー ンが 変 化 す る こ とに あ る。 す なわ ち苔 状 線 維 の異 常 発 芽 に よ って 海 馬 が 新 た な性 質 を 獲 得 す る と考 え られ て い る。 特 に 歯 状 回 穎 粒 細 胞 に 直 接 反 回 性 回 路 を 形 成 す る こ とか ら、 歯 状 回 で 興 奮 の上 昇 す る こ とが 考 え られ て い るが 今 後 の問 題 で あ る。CA 1の 放 射 層 と上 昇 層(Fig.5)へ 軸 索 を 投 射 す るSchaffer側 枝 で も 同様 で あ るが 、 苔 状 線 維 以 外 の神 経 線 維 は 、 胎 生 期 に す で に そ の形 成 を 完 了 して い る。 て ん か ん の最 もお こ りや す い 感 受 性 を 示 す 時 期 が 発 達 途 上 で あ る の な ら、 生 後 に 形 成 され る 苔 状 線 維 が 生 後 早 期 に 頻 発 す るて ん か ん の影 響 を 最 も受 け や す い こ とは 明 らか で あ る。 した が って 、 て ん か ん で 苔 状 線 維 の可 塑 性 が しば しば 取 り上 げ られ る理 由は 、 苔 状 線 維 の研 究 しや す さ と い う こ と よ りも、 苔 状 線 維 の形 成 時 期 が 生 後 に あ る と考 え られ て い る の だ が 、 「な ぜ 苔 状 線 維 が 生 後 に 形 成 され る のか 」 が 問 題 に な る。 ヒ トで は 詳 し くは わ か って い なか った け れ ど も、 生 後2年 程 度 は 海 馬 の発 達 が 持 続 す る とい う報 告 が あ る こ とか ら、 乳 児 期 か ら幼 児 期 の初 期 が 苔 状 線 維 の形 成 に 重 要 な時 期 に 相 当 す る も の と考 え られ て き た。Erikssonら(1998)に よ る と、 前 述 の よ うに ヒ トで も歯 状 回 穎 粒 細 胞 と終 板 の間 に ニ ュー ロンが 新 生 して い る こ とが57歳 か ら72歳 で 亡 くな った5例 で 確 認 され て お り、 老 年 期 に も ニ ュー ロン新 生 のあ る こ とが 明 らか に な った 。20世 紀 末 まで 新 生 ニ ュー ロン の存 在 が 一 般 的 知 識 に な ら なか った のは 、 穎 粒 細 胞 が 成 長 し苔 状 線 維 に な る率 が 少 なか った た め で あ ろ う。 重 要 な こ とは 、 苔 状 線 維 の形 成 され る時 期 が 出生 後 で あ るけ れ ど も、 ニ ュー ロン新 生 は 晩 年 に も及 ぶ 事 が わ か って きた こ とで あ る。 そ のた め なぜ 苔 状 線 維 が 生 後 に 形 成 され る のか 、 そ し て 苔 状 線 維 が 生 後 に 形 成 され る こ と の利 点 が ど こに あ る のか 、 が 問 題 に な って くる。 こ の問 い へ の答 え は 、 逆 に 一 般 的 な神 経 組 織 が ど う して 胎 生 期 に 形 成 され る のか 、 とい う疑 問 に つ なが る。 池 谷(2000)は 、 神 経 系 が 生 命 の維 持 に お い て 根 源 的 な活 動 を 管 理 す る組 織 で あ り、 こ の 制 御 機 構 が 崩 壊 す れ ば 逆 に 個 体 は 死 へ の危 機 が 即 座 に 生 じて くる、 とい う。 こ の崩 壊 を 生 じさ せ ない た め に 、 中 枢 神 経 系 は 可 塑 性 や 再 生 を 認 め ない 確 固 た る構 造 を 維 持 す る必 要 が あ る。 そ して 、 こ の こ とが 胎 生 期 に 中 枢 神 経 系 を 形 成 させ る理 由で あ る と考 え る。 こ のた め 誕 生 時 に 構 築 され て い た 神 経 構 成 は 死 ぬ まで 保 持 され る。 これ は 生 体 が 生 命 維 持 のた め に 採 用 した 手 段 で あ る と考 え る こ とが 出来 る。 だ が これ だ け で は 生 命 を 維 持 す る こ とは 難 し く、 生 体 が 生 存 す る た め に は 常 に 変 化 す る外 界 に 適 応 す る能 力 を あ わ せ 持 つ 必 要 が あ る。 危 険 性 を 最 小 限 に す るた め に 生 体 が 採 用 した 手 段 と して 可 塑 性 を あ る神 経 組 織 に 限 局 す る、 とい う方 法 で あ る。 古 くか ら学 習 ・記 憶 で 重 要 な脳 部 位 と され て きた 海 馬 に 可 塑 性 とい う現 象 が 観 察 され た こ と、 海 馬 が 選 ば れ た 神 経 組 織 で あ る こ とを 示 して お り、 なか で も苔 状 線 維 に み られ る可 塑 性 は 顕 著 で あ る。 池 谷(2000)は こ の苔 状 線 維 だ け が 生 後 に 形 成 され る理 由を 、 よ り高 次 の可 塑 性 を 与 え るた め の も ので あ ろ うと考 え る。 一 般 に 、 形 成 され た 直 後 の線 維 は 高 度 な可 塑 性 を 示 す し、 何 よ りも
生 後 に 次 々 と形 成 させ る こ とで 神 経 回 路 の様 態 を 大 胆 に 変 化 させ る こ とが 可 能 に な る。 しか も 苔 状 線 維 は 興 奮 性 神 経 で あ るに も関 わ らず 例 外 的 に 無 髄 軸 索 で あ り、 髄 鞘(ミ エ リン)が 可 塑 性 や 再 生 の妨 げ に な る こ とか ら見 れ ば 、 無 髄 軸 索 で あ る こ とは 高 度 な可 塑 性 を 発 現 す るた め に は きわ め て 有 利 に な る。 こ の よ うに 生 体 は 、 苔 状 線 維 とい う神 経 組 織 に 対 して と りわ け 高 度 な 可 塑 性 を 示 し、 そ のた め に 苔 状 線 維 だ け に 用 意 周 到 な機 構 を 与 え て い る こ とに な るけ れ ど も、 逆 に 苔 状 線 維 が 弱 み を 持 つ 神 経 組 織 と な って い る。 苔 状 線 維 は 疾 患 とい う危 険 因 子 を 質 に 、 高 次 な可 塑 性 を 支 え るた め の機 構 を 与 え られ て い る ので あ ろ う。 これ は 一 般 的 な 出生 後 の発 達 に お い て も言 え る こ とで あ る。 ピア ジ ェに よ る と2歳 頃 か らイ メ ー ジが 知 的 発 達 の重 要 な役 目を 果 た す よ うに な り、 フ ロイ ドに よれ ば 、 生 後3年 頃 か ら 自我 の成 長 が 顕 著 に な る。 苔 状 線 維 が 生 後2年 頃 まで に 急 速 に 形 を 成 して きて 苔 状 線 維 の存 在 は 認 識 され て くる も の の、 成 長 が 進 む に つ れ て 年 齢 と共 に 新 生 の数 が 鈍 って ニ ュー ロン新 生 の存 在 が 気 づ か れ に く くな った も の と思 わ れ る。 7.お わ り に 今 まで 人 知 れ ず 新 生 ・存 在 ・死 滅 を 続 け て い た 海 馬 歯 状 回 苔 状 線 維 で あ るが 、 歯 状 回 ニ ュー ロン新 生 に つ い て の知 識 は 、今 まで の心理学や教育学的 な情報を整理 しなお し、整合性を検討 す る必 要 が で て きた 。 歯 状 回 で 新 生 した 穎 粒 細 胞 は 、 知 覚 に 関 連 す る ニ ュー ロンで あ る と考 え られ 、 大 脳 新 皮 質 の連 合 野 を 通 って 歯 状 回 に や って くる ので あ るか ら、 あ る程 度 処 理 の進 ん だ 状 態 で あ ろ う。 海 馬 は 新 しい 情 報 を 記 憶 ・学 習 す るた め に きわ め て 重 要 な器 官 で あ り新 しい ニ ュー ロンが 加 わ る と既 存 の ニ ュー ロン と結 合 し、 新 しい 情 報 を 処 理 し、 貯 蔵 す る能 力 も高 ま る こ とに な ろ う。 参考文献 ド ー キ ン ス 、D.(日 高 敏 隆 他 訳)1991利 己 的 な 遺 伝 子 紀 伊 国 屋 書
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