大学院学位論文の題目および概要
Graduation Thesis Title and Abstract
博 士 学 位 論 文
Doctor’s Thesis
修 士 学 位 論 文
− 43 − 博士学位論文(乙、論文博士)の題目・概要等 (工学研究科 都市デザイン工学専攻) ① 氏 名 久保 圭吾 ② 学 生 番 号 ③ 指 導 教 授 氏 名 松井 繁之 ④ 補助担当教員氏名 堀川 都志雄、栗田 章光 ⑤ 論 文 題 目 繊維強化プラスチック(FRP)を用いた道路橋の合成床版に関する研究 ⑥ 論 文 の 概 要 RC 床版が交通量や交通荷重の増大により疲労損傷を受けてきた経験と、最近の橋梁構造に対する合理 化、長支間化、高耐久性化の強い要求から、道路橋床版としてプレストレストコンクリート床版や鋼・コ ンクリート合成床版などが、近年多用されている。 一方、FRP 材は、軽量、高強度で耐食性に優れるという材料特性を有しているため、アメリカを中心に いくつかの FRP 床版が開発され、損傷を受けた RC 床版の取替えに試験的に適用されているが、たわみに より断面が決定されるため不経済となっている。 以上のような床版に関する環境から、本研究では、FRP を鉄筋コンクリートと合成させることにより、 軽量化を図りつつ剛性を高めた、下図に示す2種類の FRP 合成床版が開発され、実構造物への適用性を 図るための材料開発、疲労耐久性を中心とした構造安全性評価の研究、さらに設計法の確立に向けた検討 が行われている。本論文は、道路橋床版としての新技術・新工法を開拓したもので、実橋で要求される基 本的要求性能である、本床版の耐荷力、耐久性についての研究成果を取りまとめている。 FRP 引抜き成形材を用いた合成床版 鋼・FRP ハイブリッド型枠を用いた合成床版 第1章では、床版の材料的・構造的な変遷と FRP 材料の歴史について調査し、主に海外の FRP 床版の 研究事例を示し、床版への適用上の課題を整理している。また、近年国内での適用が増加している鋼・コ ンクリート合成床版について現状と問題点を検討した上で、FRP と鉄筋コンクリートを合成させた床版構 造の開発の目的を明確にしている。 第2章では、FRP を床版に適用するにあたり、FRP 材料の種類、成形法を整理し、床版に適用する材 料としては、引抜き成形法や RTM 法にて成形した、ビニルエステル樹脂を用いた GFRP または GF/CF ハイブリッド FRP が選定できることを示している。また、FRP の劣化を化学的劣化と物理的劣化に大別 して、それぞれの劣化因子別に、劣化特性についてまとめている。特に、FRP の耐候性に関しては、15 年間屋外曝露した FRP 引抜成形材の強度試験を行うことにより、塗装を施さない場合においても、表面 のガラス繊維の露出がみられるものの、強度低下はほとんどないことを検証している。さらに、燃焼性に 関し、樹脂に添加剤を加えて難燃化することで、30 分の燃焼においても初期材料強度の 40%程度の強度 を保持できることを検証している。 第3章では、FRP 引抜き成形材を支保工兼用の永久型枠をして使用し、コンクリート硬化後は鉄筋コン クリートと合成して荷重に抵抗する合成床版構造に関して、実用性を評価するために実施された一連の試 験研究成果がまとめられている。得られた主な結果は、まず、基本的な構造特性として、FRP とコンクリー トの付着力を確保するには、砂を接着することが有効であることを見出している。また、輪荷重走行試験
で得られた結果から、S-N 曲線および劣化度の評価により、破壊寿命および使用限界寿命の算定を行うこ とで、実用上十分な耐久性を有していることを明示している。さらに、一つの実橋床版について、建設時、 供用後 2.5 年と 10 年において現場載荷試験を行い、室内実験で得られている劣化特性と比較すると、実橋 床版の剛性の低下速度は非常に遅いと言える貴重なデータを得ている。最後に、本床版の軽量で高耐食性 を有するという特徴を生かした桟橋構造、および床版打替えに適用した事例について述べ、これらの構造 の妥当性を論証している。 第4章では、中空の角形鋼管の外周を FRP で覆い、底面の FRP と一体となるようにインフュージョン 成形(RTM 成形法の1種)した鋼・FRP ハイブリッド構造を型枠材にした合成床版に関して、一連の実 験結果を詳述している。これらの試験の結果、FRP のコンクリート接触面は、インフュージョン成形のま まのピールプライはく離面とすることで、砂接着と同程度の付着特性が得られることを検証し、型枠とコ ンクリートの一体化を図る方法として、鋼管上部に小さな突起を設ける方法を考案している。また、FRP 型枠パネルの橋軸方向継手構造は、偏心のない上下の両面から添接板を当てる構造を模式化した片側増厚 形とすることで、十分な耐荷力、耐久性能を与えることができることを静的試験と疲労試験で検証してい る。この FRP 継手の疲労限度は S-N 関係から約 37MPa となることを見出している。 さらに、本床版は、輪荷重の走行により、トラス鉄筋を省略しても 90 年程度の使用耐久性を有してい ると評価できるが、トラス鉄筋を配置することで輪荷重直下部の上側配力鉄筋位置で2層化する水平ひび 割れが抑制されて大幅な耐久性の向上が図れることを明示している。 第5章では、第2章、第3章における成果、および過去の施工事例を基に、FRP 引抜き成形材を用いた 合成床版の設計・施工法を提案している。本床版に関する設計・施工法が RC 床版と同様の手法で表現でき、 実用性の高いものになっている。また、鋼・FRP ハイブリッド構造の型枠材を用いた合成床版に対しては、 床版の異方性度など、実用化にあたり、さらなる検討が必要と考えられることから、第4章における成果 を基に、設計・施工に関する留意点をまとめている。 第6章は、本論文の結論であり、各章で得られた成果を要約し、今後の展望と課題を述べている。
− 45 − (工学研究科 都市デザイン工学専攻) ① 氏 名 古市 亨 ② 学 生 番 号 ③ 指 導 教 授 氏 名 松井 繁之 ④ 補助担当教員氏名 堀川 都志雄、栗田 章光、 井上 晋 ⑤ 論 文 題 目 既設橋梁の維持管理に関する各種レベル別評価方法の実践的研究 ⑥ 論 文 の 概 要 我国では現在、橋長 15 m以上の道路橋は約 150,000 橋あり、2020 年頃から慣用の設計寿命を超過する 橋梁累積数が大幅に増加していくことが予想される。これまでも、多数の橋梁に材料劣化や疲労問題が 発生しており、橋梁の劣化・損傷はますます増加する状況にある。一方で、近年の経済不況とわが国の 公共事業への財政投資の削減状況を勘案すれば、将来、寿命を越えた橋梁を全て更新していくことは不 可能であり、その多くを必要最小限の要求性能を持続するように適切に維持管理していくことが要求さ れている。しかし、既存橋梁数は膨大であるため、これまで適切な維持管理がされてきた橋梁は高速道 路や重要幹線国道内のものに限定されており、地方公共団体が管理する橋梁のほとんどは維持管理がな されていない。また今後、大量の橋梁に劣化・損傷が顕在化した場合には、従来の事後的・対処療法的 な手法では対応できなくなることは自明であり、予防保全を主体とした計画的な維持管理を実施する必 要がある。2007 年4月に政府は長寿命化修繕計画策定事業補助制度を立ち上げ、市町村が管理する橋梁 も適切な維持管理を行えるような仕組みを構築した。この計画では、橋梁の各部材の構造特性、交通特 性などを勘案した部材の劣化メカニズムを整理し、論理的に優先順位が決定され、対策が計画的に進め られることを期待されている。このような維持管理の現状の中で、筆者は多数の橋梁の維持管理業務と 平行して、より合理的で迅速、かつ経済的に維持管理する方法等について広範な研究を行ってきた。こ れらの研究は大きく3つのグループに分けられる。すなわち、道路橋で最も疲労損傷の発生比率が大き い床版の疲労損傷関係、上載荷重を下部工に伝える主桁の耐荷力評価関係、ならびに、これまで維持管 理がほとんど行われていない市町村が管理する橋梁の維持管理手法の構築関係である。本論文は以上に 述べた広範な維持管理に関する研究をとりまとめたものであるが、3つのグループ内の各々の研究は、 既往の研究成果に比較して、合理化、高度化、深度化、あるいは簡易化された成果を収めている。 本論文は全 5 編で構成されており、以下に各編の概要を示す。 第1編は「序論」であり、本研究の背景と目的を述べている。 第2編は橋梁において最も損傷し易い部材である「既設床版の維持管理研究」をとりまとめた。RC 床 版の損傷は昭和 45 年ごろから発生している疲労現象であり、その損傷メカニズムの解明と損傷対策、さ らに高耐久性床版の開発に関して既往の研究は多数されている。本編では RC 床版の疲労メカニズムに関 する既存の研究成果に立脚した実橋床版の維持管理対策順位決定の方法論を展開した。また、最近顕在 化してきた鋼床版の疲労問題を解決する手法として、その上面にコンクリートを打設して合成鋼床版化 することによる長寿命化について研究を行った。また、複雑な土木構造物の応力状態を精度良く解析す るための影響面の作成に関して、ミューラーブレスロウの原理を立体 FEM 解析に適用する手法を提案し た。 第3編は国道・都道府県道等の主要道路における「主桁の耐荷力評価に関する研究」である。すなわち、 国道、または都道府県道の主要道路においては、平成 5 年の道示において大型車の設計重量の改訂に伴 う主桁の耐荷力評価が義務づけられていたが、耐荷力が不足と判定される橋梁には補強が必要となるた め、その実施を行う上での評価方法の提案を行い、合理化を行った。この評価に関連して、実橋で実施 する応力頻度測定方法の提案、ならに簡易な応力聴診器を用いた簡易測定手法の開発、交通特性把握手 法の確立の研究を行った。 第4編では、「地方公共団体の橋梁の維持管理の研究」であり、市町村レベルにおける既設橋梁の損傷 対策優先順位決定手法について検討したものをまとめた。前述の2編は、比較的交通量が多い国道、県 道レベルの橋梁に適用する維持管理に関連する研究であるが、これらの橋梁数に比べ、市町村が保有す る橋梁ははるかに多い。しかし、維持管理レベルが低く、国が指導する長寿命化に向けた維持管理手法
の教育と独自の手法の確立が要求されている。筆者はこの問題について社会貢献課題と位置づけ、一つ の市で密な点検指導を行い、建設コンサルタンツ協会の技術者らとの協議を踏まえて、市町村で、比較 的入手が容易な基本的なデータを用いて簡易に各橋梁が有する性能、損傷、使用性、重要度についての 分析を行い、これらの4指標を総合的に勘案した対策の優先順位決定手法を提案した。
− 47 − (情報科学研究科 情報科学専攻) ① 氏 名 西村 悟 ② 学 生 番 号 D06-A01 ③ 指 導 教 授 氏 名 佐野 睦夫 ④ 補助担当教員氏名 ⑤ 論 文 題 目 スタッカブルファイルシステムに基づく同期ネットワークバックアップに関する研究 ⑥ 論 文 の 概 要 本研究の目的は、既存システムを停止することなく空きスペースを利用し、データを高速に同期ミラー リングできるバックアップシステムの実現である。災害やハードウェア障害の対策としてデータをバッ クアップすることは重要であり、バックアップシステムの高度化への要求が高まっている。 データをバックアップする方式において、データの同期性に関しては同期的なバックアップ、非同期 的なバックアップに分類できる。またバックアップ先についてはローカルの別のディスクへのバックアッ プ、ネットワークで接続された別のコンピュータへのバックアップに大別できる。ネットワーク上の別 のコンピュータにデータをバックアップする場合、rsync によるファイル転送手法が頻繁に利用されてい る。rsync はディレクトリ単位でファイルをコピーするツールであり、圧縮転送や更新のあったファイル のみ転送する機能を有している。poll、inotify などファイルシステムイベントと rsync を使ってミラーリ ングするツールも開発されている。またファイルシステムのスナップショットをバックアップする手法 も利用されている。スナップショットとは任意の時点でのファイルシステムイメージを保持したもので あり、バックアップ中にデータが更新されることによってファイルごとのバージョンに不整合が発生す ることを防ぐために利用される。スナップショットは Logical Volume Manager (LVM) を利用する方法 や、スナップショット機能を持っているファイルシステムを利用する方法がある。スナップショットを 利用したバックアップは rsync と同様に定期的に実行する方式である。これらの手法は任意のタイミン グでバックアップを実行することができるが、データの書き込みに同期してバックアップすることはで きない。同期的なバックアップでは、データのミラーリングが利用されている。データをローカルディ スク上でミラーリングするためには RAID が頻繁に利用されている。ネットワーク上でのミラーリング はクラスタリングシステムの機能として実装されていることが多い。 これらの同期的なバックアップ手法はミラーリングをデバイスレイヤで行っている。この手法は最初 にディスクに対応するデバイスを割り当て、次にミラーリングデバイスの設定を行い、最後にデバイス 上にファイルシステムを割り当てることによって利用可能となる。ここで、データの重要性が上がるよ うな仕様変更があった場合、バックアップが不要であったシステムに後からバックアップが必要になる という要求が考えられる。しかし従来の固定的なバックアップシステムでは既存のディスク割り当ての まま後からバックアップ機能を追加することができない。システム稼働後に同期ミラーリングによるバッ クアップの機能を追加するためには、既存のデータを透過的に扱う仕組みが必要となる。 既存のデータを透過的に扱うファイルシステムの研究としてスタッカブルファイルシステムがある。 スタッカブルファイルシステムは、任意の機能を既存のファイルシステムに追加するための方法として 知られている。利用者はスタッカブルファイルシステムが既存ファイルシステムの上にマウントされて いることを認識する必要がなく、ファイルシステムのマウント前後でファイルを同じように扱える。そ こで、この機構を利用して既存システムに追加可能で高速な同期バックアップを実現するためのファイ ルシステム GMFS (General-purpose Mirroring File System)を開発した。
スタッカブルファイルシステムでミラーリング機能を実装することによって、稼働中のシステムを停止 することなく任意の時点でバックアップの開始や停止ができる。GMFS のネットワーク通信は Network File System (NFS) をベースとし、NFS サーバが稼働しているコンピュータのディスク領域を利用して バックアップする。このとき、NFS をカーネル外部から利用するのではなく、ファイルシステム関数を GMFS 内部から呼び出すことにより処理速度の向上を図っている。プロトタイプの性能を測定した結果、 他のミラーリングスタッカブルファイルシステムより優れており、CPU 負荷も低い結果となった。また、 複数箇所へのバックアップや障害復旧についても議論し、本提案手法の有用性が高いことを示した。 博士学位論文(甲、課程博士)の題目・概要等