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海洋細菌に関する研究I : 無機塩要求について陸棲細菌との比較

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(1)

海洋細菌に関する研究I : 無機塩要求について陸棲

細菌との比較

著者

日高 富男

雑誌名

鹿児島大学水産学部紀要=Memoirs of Faculty of

Fisheries Kagoshima University

12

2

ページ

135-152

別言語のタイトル

Studies on the Marine Bacteria I : Comparative

Observations on the Inorganic Salt

Requirements of Marine and Terrestrial

Bacteria

(2)

|画国

海 洋 細 菌 に 関 す る 研 究 一 一 I

無 機 塩 要 求 に つ い て 陸 棲 細 菌 と の 比 較 * -童一 「i号、 一画画 男 135 StudiesontheMarineBacteria-I・

ComparativeObservationsonthelnorganicSaltRequirements

ofMarineandTerrestrialBacteria TomioHIDAKA Abstract 1.Inorganicsaltrequirementsofll3strainsofbacteriairomthesea(lOOstrainsfi・om seawaterandl3strainsfromthesur血ceofireshfishes)wereinvestigated・Inaddition 37strainsofterrestrialbacteriaandl4strainsof両jγio』クα'.αAa2加0〃"αJswereemployedin theexperiments, 2.Thesemicro-organismsshoweddi錠rentmineralrequirements・Thiswasdemon-stratedinexperlmentswithabasalmedium(pH7.6)whichcontainedonlyO、O5percent ofpeptoneandO、01percentofyeastcxtractasorganicmatter(seeFig.2andTables3 and4). 3.Manystrainsfromseawaterwereabletogrowinartificialseawatermediawitha saltconcentratlonrangingfromO、5tol2percent、Inthemajorityof,thestrains,thesalt concentrationoptimumforgrowthwaslbundtobe5to7percent・Terrestrialbacteria, ontheotherhand,showedamoderategrowthwithoutanysupplementofinorganicsalts tothebasalmedium,andthegrowthwasalmostentirelysuppressedatasaltconcentra-tionof7percent,theoptimumbeingO、5percent(see唖9.3): 4.Na一,K−,Mg−,andCa-saltsascontainedinseawaterwerenecessaryforthegrowth ofmarinebacteriainthebasalmediumbutnotforthatofterrestrialibrms,whereas 庇jγjopαγαhae加0り"“sseemedtorequireNaCIfortheirnormalgrowth(seeFig・land Table5). 5.Allthestrainsweretestedontheirgrowthcapacityinthefollowingfivetypesof mediaduringsixdays'incubationat25oC、Themedia(pH7.6)containd,commontoall, 0.05percentofpeptoneandO,O1percentofyeastextract,whichweredissolvedin:(a) purewater,(b)0.5percentNaClsolution,(c)3percentNaClsolution,(d)Herbst,sar‐ tificialseawaterdilutedIsix-fold,and(e)Herbst,Sartificialseawater, 6.Testedmicro-organismscanbegroupedintothreefromtheirgrowthcapacitymani-festedinthesemedia,Oneofthem,whichincludesterrestrialbacteria,ischaracterized bythecapacitytogrowlneverytypeofthemedia・Anothergrouplacksinthecapacity togrowinthe(a)medium、Thelastone,towhichthemajorityofmarinebacteriabelong, ischaracterizedbyincapabilitytogrowinthemedia(a),(b),and(c)(seeTables5and6). 7.Althoughorganismsbelongingtothesethreegroupshavebeenibundinthesea,the writerbelievesthatonlythelast-mentionedshouldbedesignated、αγ加e6acj”Zainthe strlctsense. *本報告は昭和37年11月,日本水産学会秋季大会(長崎)において発表した.

(3)

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鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963)

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海洋細菌の研究は大きく分けて次の二つの方向が考えられる.その一つはこの種細菌が海 洋という特殊環境に棲息することによって備える特異性状についての研究1),2),22),23)であり,

他の一つは海洋の生態及び生産力の素因,または海洋学水理現象の指標としての研究3),4)で

ある. 海 水 は 物 理 ; 化 学 的 或 は 生 態 学 的 に 特 殊 環 境 で あ る の で , そ こ を 棲 息 場 所 と す る 海 水 固 有 の 海 洋 細 菌 が 特 異 な 性 状 を 具 有 す る こ と は 当 然 の こ と で あ ろ う . し か し そ の 特 性 に つ い て の

研究は海水から分離された特殊な細菌,例えば硫酸塩還元菌5),寒天分解菌6),繊維素分解

菌7),キチン分解菌8)など一部の菌群について詳細に行なわれているのみで,広範囲に亙る

一般海洋細菌についてそれを系統だてて特異性をU]らかにした研究は少い、著者は海洋細菌 と陸棲細菌とをなるべく多数供試して両者の生理学的性状を比較検討・し,海洋細菌の特異性 を 明 ら か に す る こ と に よ っ て , い わ ゆ る 海 洋 細 菌 と 称 せ ら れ る 一 群 を 定 義 づ け よ う と 試 み 標 題の研究を実施した.本報においては各種無機塩巾,Na,K,Mg,Ca塩等海水中の主要成分 である塩類の要求性に顕杵な差異を認めることが出来たのでその知見を報杵する. 実 験 方 法 1 . 供 試 菌 本実験の供試菌は海楼細菌を主体とし,その対照菌として新鮮な魚体表から分離した細菌 や,病原性好塩菌(腸炎ビブリオ)並びに陸棲細菌(標準菌株)をも合せて供試した. 海 棲 細 菌 は さ き に 北 海 道 大 学 水 産 学 部 微 生 物 学 研 究 室 ( 主 任 坂 井 稔 教 授 ) の 諸 氏 が 練 習 船おしよろ丸の第44次航海(1959年6月−7月)において海水から分離した菌株を譲りうけ た も の で あ る . 即 ち ベ ー リ ン グ 海 及 び ア リ ュ ー シ ャ ン 海 域 の 水 深 0 - 1 0 0 0 m の 各 水 曜 か ら J−Z式細菌検盗用採水器を使用して無菌的に採取した海水を,ZoBELL2216E寒天嬬地9) による混釈培養法で25°C,6日間培養後純粋分離した好気性有機栄養細菌である.この時分 離された約600株のうち一般形態及び生理的性状を異にする各群より無差別に抽出した100株 Table1.Habitatandmaincharactersofsomeselectedstrainsof bacteriaisolatedfromseawater. Station Dcpth (、) 十十 Polar Polar + | P o l a r Localityofisolation Mainmorphology Dateof isolation (inl959) Strain No.

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Flagella 十十 Rods Rods Cocci Rods Rods Rods Rods Rods Rods Rods Rods Pcritrichous Peritrichous Polar Polar −F

(4)

日高:海洋細菌に関する研究一I 137 について本実験を行なったが,本報には代表菌11株について記載した.その代表菌の分離場 所及び形態の概要はTablelの如くである.対照菌として魚体表細菌,病原性好塩菌とそ の類似菌及び陸棲細菌(標準菌株)を夫々13株,14株,37株を供試したが,本報告にはこの うちの下記代表菌9株について記載した. 腕67jometsch7zljkoUiiijlAM-1039

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HioZo6ac”加77zsP.(魚体表面から分離した発光細菌)

〃あrjoparahaemoIγ茄c"s(0-5)*,(EV、-5と略記)

2 . 培 養 方 法

ZoBELL2216E培地9)(ポリペプトン59,酵母エキス19,リン酸第2鉄**0.19/海水1J,

pH7.6)の組成を基準にし,実験目的に従って種々有機物濃度や無機塩組成及び濃度を変え た培地を用いた.培地は殆んど液体培地として用い,比濁用規格試験管(径16.5mm)に8mZ

分注して121°C,10分間殺菌後,試験菌を常法により培養初菌数103 4cell/mJ程度に接種し

て25°Cで所定時間静置培養した. 3 . 発 育 度 の 測 定 と 表 示 法

所定条件下で培養した後,コタキAKA型光電比色計により630mノルフィルターを用いて

濁度(吸光値)を測定した.なお培養期間中所定時間毎に濁度を測定して,そのうちの最高 濁度をもってその培養期間中における発育度とした. 実 験 結 果 , 1.供試菌の発育に対する海水無機塩の効果 まず供試菌の発育に海水が如何に影響するかを知るため,海水肉汁培地(pH7.8)と普 通肉汁培地(pH7.2)で25°Cと37.C培養における発育度を比較したところ,その結果は Fig.1の如くであった.Fig.1に示されるように海棲細菌の1040-1は25°Cで海水肉汁に 培養した時にのみ発育し,他の条件では発育し得なかった.1064-2は25℃,37°C共に海 水肉汁に発育するが,普通肉汁には25℃でかすかに発育するのみで37.Cでは発育出来な

かった.PS.αe7.z』gmosa,ECO〃は海水肉汁,普通肉汁の両培地において発育度の差は少なく,

25°Cと37°Cの培養温度による発育度にも大差なかった.一方jP〉ひte〃sり邸Igarjsは25.Cで

培養した場合37°Cよりも発育良好であった.またEV、−5もこれら培養条件でよく発育す * い わ ゆ る 病 原 性 好 塩 菌 で あ り , こ れ は 国 立 予 防 衛 生 研 究 所 福 見 研 究 室 で ○ 抗 原 に つ き 型 別 さ れ たSerotypel∼12型中の5型. **本実験の培地作成条件ではリン酸第2鉄添加の効果は少なかったのでほとんどの実験において こ れ を 添 加 し な か っ た .

(5)

鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) 発育度の差は37.C塘養の時に著明にみられ,25°C培養ではその差は縮まった.このよう に病原性好塩菌の海水に対・する噌好性は培養温度によってかなり異なって現われることが知 ら れ た . こ れ ら の 結 果 か ら 海 楼 細 菌 と 陸 楼 細 菌 と で は そ の 性 状 に か な り 大 き な 差 異 が あ る こ とを認めた.即ち海棲細菌には海水を要求する菌が多く見出され,また発育温度は37°Cよ りも25°Cが適し37°Cでの発育度は25°Cのそれに比べて著しく劣り,全供試海棲菌のうち 約60%は37°Cに発育し得ない菌株であった. Fig.1の結果において,海棲細菌が普通肉汁より海水肉汁の方に発育良好な理由として, 前者は塩挫度が0.5%NaClであるに比べ後者は海水を使用した培地であり,その疹透圧が 高いことに起因していると考えられるか,または海水に含まれるK,Mg,Ca塩等NaCl以 外 の 塩 類 が 海 棲 細 菌 の 発 育 を 促 進 し て い る と 考 え る べ き か に つ い て は こ の 実 験 か ら 結 論 を 得 る こ と が 出 来 な か っ た . そ こ で 次 に 海 棲 細 菌 の 海 水 要 求 性 が 彦 透 圧 調 節 の た め に 必 要 な も の か 或 は 栄 養 源 と し て 必 要 で あ る か を 知 る た め 次 の 実 験 を 行 な っ た . 即 ち 培 地 を 作 成 す る に 当 たり,無機塩添加条件として海水及びそれと略々等張の3%NaC1溶液,並びに0.5%NaCl 溶 液 及 び そ れ と 等 張 の 発 濃 度 海 水 , 更 に 塩 類 を 全 く 添 加 し な い も の と し て 純 水 等 5 種 の 塩 類 溶液を選び,夫々ポリペプトン0.5%,酵母エキス0.1%を溶解しpHを7.6に調節した培地 を作成した.この際天然海水に代えてHerbst人工海水を使用したが,予備実験において天 然海水とHerbst人工海水とでは本実験の条件で使用する場合殆んど同じ効果を示したから である.前記5種の培地を用い25°Cで6日間培養した結果の発育状態はTable2の如くで ることを知り得たが,その発育の程度は普通肉汁より海水肉汁の方が優れ,且つ両培地での 138 5

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5 0 0 ︵偶mORl︶ご湯口の己︷g胃拭○ 0 5 0 1 0 0 0 5 0 1 0 0 0 5 0 1 0 0 1ncubationtimc(hrs) Fig.1.EfI1ectofculturemediaandincubationtemperatureonthegrowth of、bacteria. :Seawaterbroth,pH7.8 ……・……..:Ordinarybroth,pH7.2 ○:25°C,n:37°C l()40−1

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(6)

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弔巨門の夢国計⑦房 あった.これによると陸棲細菌は0.5%NaClの培地及びそれと同程度の塩濃度である発 濃度人工海水の培地において発育度がやや高かったが,他の培地での発育度も若干の差が あるのみで,全ての培地に充分発育し得ることを知った.E,V、−5及び'.刀zetsch7zjルo〃jijは Table2.E錐ctofseveraltypesofsalinewateronthegrowthofbacteria・ Theamountsofgrowth(−LogTx100)wasmeasuredatthemaxlmum turbidityduring6daysincubationat25oC. 少.の.ヨミ Cひまz凹○ lOOl-7 1007-l lO28-4 1040-1 1055−1 1055−2 1064−2 1142−1 1179−2 1197−4 1242−3 P加ォ06αc彫?・血沈sp. E,V,−5 Ⅸ刀zgなch7zポリzノガ PS・zzgγz廻航0sα P3.〃0γ8s‘e'2s Pγ"g邸sひ"増αγJS E.”〃 B“..s〃姉脆 “〃so此jk"c"s 純 水 で 作 成 し た 培 地 に は 発 育 し な い が 他 の 培 地 で は 良 く 発 育 し た . 魚 体 表 面 か ら 分 離 し た 蹄oZo6ac”Zz&77zsp.及び海棲細菌の多くは3%NaCl溶液,人工海水,発濃度人工海水で作 成した培地に発育し得たが,純水,0.5%NaCl溶液で作成した崎地には発育し得なかった. もちろん魚体表細菌及び海棲細菌の11にも前記5種の全培地で発育するもの,または純水で 作 成 し た 塘 地 に は 発 育 し 得 な い が 他 の 4 種 の 培 地 で 発 育 し 得 る も の な ど も 含 ま れ て い た 。 以 少.、.ごく 、、、Addedorganicmatter 0.5%ofpeptoneandO.l鈴ofyeastextract 日高:海洋細菌に関する研究一I ;IgHerbst,sartificialseawateroffollowingfbrmula: NaCl,30.09;KC1,0.79;MgCl2o6H20,10.89;MgSO4o7H20,5.49;CaCl2o 2H2O,1.09;purewater,IOOOmj. (toapplyTables4∼7andFigs、2,3)

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(7)

DAIGoEIYoKAGAKu Co.,Ltd.,Jalpan GoT6FuuNDo Co.,Ltd.,Japan KYoKuToSEIYAKu IndustriesLtd.,Japan MIKUNIKAGAKU IndustriesLtd.,Japan DifmLaboratorles lnc.,U、S、A・ DifcoLaboratories lnc.,U、S、A・ DAIGoEIYoKAGAKu Co.,Ltd.,Japan KYoKuToSEIYAKu IndustriesLtd.,Japan DifcoLaboratorles lnc,,U、S、A・ NIssuISEIYAKu Co.,Ltd.,Japan 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) Polypeptone TERuucm−Peptone KYoKuTo−Peptone MIKuNI−Peptone Bacto−TI・yptose Bacto-Peptone Yeastext1・act KYoKuTo−Meat eXtract Bacto‐Beefextract 上の実験結果より考えて海棲細菌は海水中に含まれる無機塩を要求することが知られた.無 機塩として単にNaClのみの存在において発育を全うするものではなく,他の塩類例えば K,Mg,Ca塊によって発育が促進されていることが明らかにされた.塩類濃度としては 0.5%NaCl軽度より3%NaCl程度の濃度が適していた. 2.無機塩要求性比較のための培地条件の規制 前項Table2の結果において,陸棲細菌が純水で作成した培地に発育することと,海棲 細菌が3%NaCl溶液で作成した培地に貧弱な発育を示すことが観察されたが,これらのこ とから細菌の無機塩要求性を比較するためには端地中の無機塩量を把握し,培地条件を規制 すべきであると考えて次の実験を行なった. まず普通の細菌用培地の材料として用いられる有機栄養素材中の無機塩垂を定量した.定 量無機塩は前項の実験結果,海棲細菌の発育の良否が海水無機塩の存否にかかっているよう な知見が得られているので,人工海水成分との関連において,素材中のNa+,K+,Mg+÷,

Ca÷÷を対象とした.後報する如く人工海水中の各無機塩を夫々塩化物或は硫酸塩に変えて

作成した各種の培地に対する供試菌の発育度には大差がなかったので,この際アニオンは測 定の対象にしなかった.また培地作成用素材の各成分は,製造元やLotNo、によっても相当 に変動することが知られているが14),15,16)この実験には教室保有のものを供試した.各有機 栄養素材及び寒天の無機イオン含量はTable3の如くであった.この結果から培地素材中に はNa+が多いもの或はK÷が多いものと様々であるが一般にMg++,Ca++はNa+,K+含量 Table3.Contentofinorganicionsincommercialpeptone,beefand yeast‐extractandagarforculturmedia. PO602 96.112.53 0.4710.036 NIssAN-Agar Analyticalmethod:Mg++andCa++,EDTAchelatetitrationlo)11):ザ Na+,colorimetry12);K÷,colorimetry13) g/SamplelOOg

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(8)

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に比し少ない.Na÷をNaCl相当量として表わせば,多いもので10.4%,少いもので1.0%

を含む.各イオンの含量は夫々の素材においておよそ1∼10倍の変動がみられた.これら有

機物素材は大体において天然蛋白質或は酵母を人工的に処理,調製したものであるから,そ

の原料の純度及び製造方法等により無機塩含地も変動することは当然のことと考えられる.

従って使用製品の組成は一応定量し把握しておく必要がある.供試の寒天はNa+が少くK+

含量が多い.Mg+十Ca+十含賦も他の素材に比して多かったが,・これは寒天そのものがガラ

クタンのエステル結合したもので一部はCa,Mg塩になっているため,M9,++Ca++の含量 が多く現れるものと考えた.

この実験に使用した培地は主にポリペプトン(大五栄養製)59,酵母エキス(大五栄養製)

19を1′に溶解したものであるのでこれら有機物に爽雑している被検無機イオンはNa+

147mg,K+53mg,Mg++4.1mg,Ca++0.48mgとなり,かなりの無機塩量が培地の有機

物素材から培地中に混入していることが明らかとなった.

次に有機物に爽雑して培地に混入する無機塩をなるべく少くするために,消極的な方法で

あるが培地中の有機物添加量を減らすことによって爽雑塩の混入の削減を計ることを考えて

みた.その予備実験として培地中の有機物濃度(ポリペプトン59,酵母エキス19〃の濃度

を100としてこれを雑,:リ,10,秘0,発0と段階的に希釈したものを夫々50,10,5,2とする Ratioで濃度を表現した.なおこの渡度100の全窒素型は700mg〃に相当した)が菌の発育 に及ぼす影響を検討した結果Fig.2の成績を得た.このFig.2に示す濃度範囲内におい て,各供試菌の発育は培地中の有機物濃度に比例して発育度を増す傾向がみられた.海棲細 FC ABC Ⅱ 1 . 1 1.2 c 8 6 4 2 1 0 0 ︵得、○日l︶﹄質mpU己[g垣Q○ 日高:海洋細菌に関する研究−1 100器 I’

50 Organ'crnatterconc.(Ratio) Fig.2.EHbctoforganlcmatterconcentrat1ononthegrowthofbacteria(at 25.C・after6days), Testedstrains:A,1197−4;B,1055−1;0,E、V,−5;D,PS.”・増z"0sα; E,1040-1;F,PS.βz”"""s;G,Pγoオ82‘szノ"jga7fs;H,1007−1;’'五. CO雌J’1064−2 *100:5gofpeptoneandlgofyeastextractperliter(Totalnitrogen, 700mg/j),dissolvedinarti5cialseawater

(9)

l O l O O l I O l O O 142 l O l O O

菌が有機物濃度10-50(Ratio)の間より50−100の間での発育度の増加が低くなるのに対し,

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よりも50-100の間での発育度の増加が高い.これに対しEV、−5は有機物濃度10の培地

から発育旺盛で,50までに大体最高の発育を示し,有機物濃度50と100とではその差を認め

なかった.培地の栄養量と菌収量との関係については,培地の栄養が豊富な時にはこれが消

費しつくされないうちに蓄積した有害産物の影響によって発育は停止し,また栄養が貧弱な

場合には有害産物の影響が問題にならないうちに栄養の欠乏がおこり,細菌の収量は栄養の

量によって決定されることが知られている17).このことよりFig.2に示した供試菌の発育

傾向より考えて,陸棲細菌の最大収量を得るためにはこの有機物濃度100は未だ栄養不足の

傾向がみられるが,海棲細菌に対しては適度の栄養量であり,E、V,−5の如き菌株にあっ

ては栄養過多の現象がうかがわれた.しかしながら実験の目的によっては必ずしも細菌の最

大発育度を示す程の栄養豊富な培地を必要とせず,細菌が正常な発育を示すに必要なだけの

栄養があれば充分な場合が多い.さてZoBELLら(1942)18)は細菌を液体培養する場合,有

機物濃度がペプトン10mg/′以上あれば充分発育することを報告し,またグルコース0.1∼

10mg〃濃度の液体培地においてそのグルコース代謝量及び同化量を定量している.別に海

水の有機物漉度は種々の状態で大きく変動するが,通常5∼6mg〃であると述べられてい る19).更に本実験のFig.2の結果によれば,全供試菌は有機物濃度2においても発育に伴 う培地の濁りを肉眼的に充分観察し得る程であった.そこで有機物濃度100に対雲する、10での 発育度を比較すると大略,海洋細菌及びE、V、−5では艶,陸棲細菌では殆であった.次い で有機物濃度100と10との塘養において供試菌が表わす各種性状を比較したところTable4 の如き結果が得られた.即ち通常,細菌の生理学的性状検査の項目としてあげられるものの うち硫化水素産生能,インドール産生能,オキシダーゼ試験を比較検査したところ,両端地 Table4,Ef6ectoforganicmatterconcentrationinmediaonsomecharacteristicsof bacteria(cultivatedat25oqfor6days). y r

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Maximumsaltconcentration(%)toleratedwithanygrowth Colonysizeonandinagarplate 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) lOO7−l lO40−l lO55−1 1064−2 1197−4 E.V、−5 ゑ$.α8,.z4gj7zOsa Ps../7"・'・esce"J Pγoje型sU"19”iJ E.”〃 Oharacteristics Oxidasetest (Kovacs) Salt

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(10)

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の有機物濃度に大きな差があるにもかかわらず同じ成績が得られ,また食塩耐性においても

同様であった.また寒天平板中での集落形成能は有機物濃度100−50までは正常の大きさの

集落を形成するが,有機物挫度が更に減少するに伴い,集落数の変動は少いが集落の大きさ は段々小さくなり,有機物機度5では肉眼的に集落形態を観察するには困難な程微細な集落

となった.Fig.2の結果において,液体培地では有機物濃度5−2の低濃度までも,発育

による濁度を測定出来たが,寒天培地上で集落形態を観察し,容易に釣菌し得る程度の大き さの集落を形成させるためには有機物濃度10以上が必要であることを知った. これらの結果を綜合して培地の有機物濃度は通常ZoBELL2216E培地の:↓,10濃度,即ち ポリペプトン0.59,酵母エキス0.19〃で充分に細菌の正常発育及び固有の性状を示すこと が明らかにされた.さきの有機物素材中の爽雑無機塩の影響を少くするため培地の有機物量 を通常のツ10程度に減少しても何らの不都合なく菌の発育は観察し得ることがわかったので, この有機物希薄培地を基礎培地として今後の無機塩要求性試験を行うことに規制した.この 培地を使うことにより有機物中に爽雑して培地に混入する無機塩量は常法の牡0に減ずるか ら,その影稗は無視出来る程に軽減するものと考える. 3 . 供 試 菌 の 好 塩 性 , 耐 塩 性 及 び 海 水 無 機 塩 要 求 性 前項で規制した有機物希薄基礎培地を用い,Table2と同様に純水,0.5%NaC1溶液, 3%NaCl溶液,%濃度人工海水,人工海水の5つの各種塩類溶液で作成した培地(これら の培地を夫々(a),(b),(c),(d),(e)陪地と符号する)に対する供試菌の発育程度を測定した結 果はTable5である.これとTable2との実験条件の相述は培地中の有機物濃度を雑0にし た点である.Table2とTable5の結果を比較してその明白な相違点は3%NaCl溶液で 作成した培地における海棲細菌の発育態度であった.即ちTable2では殆んどすべての菌 が3%NaCl培地で発育し,あたかも海水無機塩111のK,Mg,Ca塩は必須塩ではないかの Table5.Amountsofgrowthofbacteriainseveraltypesofmedia during6daysincubationat25oC.(Growth:一LogTxlOO) A、S,W、 (e) 0.05%orpeptoneandO、01%ofyeastextract lOOl-7 1007-l lO28-4 1040-l lO55-l lO55-2 1064-2 1142−1 1179−2 1197−4 1242−3 PAOォp6ac彫γzz”sP. E,V,−5 Ⅸ沈鉱・Fc伽Zノヒ”虎 PS.α87.増加“α 獄.〃0γgscc"s ProJe邸$ひ"jgαγiis E.”〃 B“・szJ姉〃s “〃so“ん"c“ 62000030703339520270 1

3112

00000000000000925823 11 1 10000000000020251195 212111 65983435089544060542 21224ワー114341311111 日高:海洋細菌に関する研究一I

(11)

2 144 1 1

如き挙動を示したが,Table5では海棲細菌の多くは3%NaCl培地で発育せず,その発育

にはNaCl以外にK,Mg,Ca塩が不可欠成分であることを示した.Table2では培地の有

機物濃度が高いので,それに爽雑して培地に混入する無機塩量も多くなり,これが供試菌の

無機塩要求性を見掛上弱めていることが推察され,さきに規制した有機物希薄培地の使用に より無機塩要求性がかなり鋭敏に表現されることがわかった.この条件で海棲細菌と陸棲細 菌との見掛上の比較は充分可能である.即ち陸棲細菌は5種の所定培地全部に発育可能であ り,無機塩要求性は弱い.これに対し海棲細菌の多くは海水無機塩の主成分であるNa, K,Mg,Ca塩を含む(d),(e)培地にのみ発育し,海水無機塩要求性の厳しさを示す結果で ロ 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) 11−21 .'』紅【・↑ H 0.4 鞭 、 I j 0.3 I ‘ . 0.2 心 『 1

0.I

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︵侶切ORl︶﹄曽口のご[両Q垣q○ I NaCIconc.W/V%NaC1conc.W/V% (withKCI,MgCl2,MgSO4andCaCI2)** Fig.3.RateofgrowthinthebrothcontainingdiHerentNaClconcentra-tions(at25oC、forlOdays).Allmedia(pH7.6)containdO、05%ofpep‐ toneandO、01%ofyeastextract・ TestedStrains:A,1197−4;B,1040-1;C,1055−1;D,1028−4;E,1055−2; F,1142−1;G,Ph0"6”91・向”Sp.;H,E、V、-5;1,1179−2;J,lOOl-7;K, lOO7-1;L,1064−2;M,W7zejsc伽jk0"〃;N,R,.“γ増z"0sα;○,必../72‘01W“"s; P,Pγ・"邸sひ"jgaが.,;Q,“〃.so*liル"c2” *Thisequalsartificial県eawater **Seetextfordetails Par 3 米 L ↑ ロ M .1 「 I V 1 ノ 』 U、2卜 〔 1 0 ) ( 5 ) ( ) OL 0.1卜 1 0 1 5 2 ( 〕

(12)

日高:海洋細菌に関する研究−1 145 あった.E、V,−5などは前2者の中間的無機塩要求性を有し,NaClを要求するような傾向 が見られた. 次に,規制した有機物希薄培地を川いこれに各種濃度の塩類を加えて供試菌の耐塩性を調 べた結果をFig.3に図示した.Fig.3の横IillIは0(純水)を境にし,左側の目盛は各種濃 度のNaCl溶液で作成した培地のNaCl濃度を示すものであり,右側の日廉は,海棲細菌の 中には無機塩としてNaClのみの添加では発育し得ない菌が多いことがわかったので,人

工海水組成を基礎に更にNaClを附加して調挫した高張液で作った培地の含有NaCl濃度

で表現したものである.なおこの3%濃度が丁度人工海水そのままの組成に相当し,3%以 下は人工海水をそのまま希釈して,その希釈液のNaCl濃度で表わした.これら各種塩類濃 度の崎地に菌を接種し,25℃で10日間培養後,各菌の夫々の培地における発育度から耐塩 曲線を両きFig.3のPartl−3に分けて図示した.Fig.3,Partlに示すごとく,多くの海 棲細菌は無機塩としてNaClのみの存在ではNaCl高濃度においても発育出来ず,NaCl以 外にK,Mg,Ca塩の存在において発育し,この条件でおよそNaCl12%までは発育を明ら かに観察出来たが,15%では発育しないか或は極く貧弱な発育を示す程度の耐塩性であった. 最適NaCl濃度は少くとも3%以上で多くは5−7%にあった.また0.5%では発育度は減

少し,0%では全く発育出来なかった.即ちPartlに挙げられている菌は好塩的で同時に

海水無機塩要求性が厳しい菌群である.海棲細菌のうちでも1179-2,1001-7,1007-1, 1064-2等またE、V、−5,〃・刀zetsch7泌ル0噸はFig.3,Part2の如き耐塩IIl線を示し,いず れもNaCl0%では発育し得ないが,この菌群はNaCl以外にK,Mg,Ca塩を含む培地に

は勿論,NaClのみを加えた培地でも発育することが出来た.しかしNaClのみの場合より

もK,Mg,Ca塩を含む培地での方が各塩濃度における発育度及び耐塩性がかなり高かった. この菌群では菌株によって耐塩性の変動が大きく,また1179-2,1007-1菌にみられるよう

にK,Mg,Ca塩を含む場合NaCl0.5%から発育を示すが,同一菌株でもNaClのみ加え

た培地で培養された場合1%,或いは3%以上から発育するという異った好塩態度を示すも のもあった.このことはNaClとK,Mg,Ca塩の相剰作用或いは補使作用を考究するうえ の示唆となり得るものと考えられる.この菌群は最適塩泌度3−5%であり,好塩的である

が海水無機塩要求性は弱かった.Fig.3,Part3にみられるように陸棲細菌すべてはNaCl

O%でも発育し,大体NaCl0.5%附近で最高の発育を示すものが多く,各塩濃度での発育 度及び耐塩性は,K,Mg,Ca塩存在でやや高くなるがPart2の菌群のように顕著ではなか った.耐塩度は,NaCl5%まで発育を示し7%で発育を停止する程度であった. これら耐塩性を液体培地中での発育度(渦度)からばかりでなく更に細胞形態の変化を比 較観察した.ここに海水無機塩を含む各NaCl濃度の培地に発育した菌について観察した結 果の一部をPlatelに示した.これによると海棲細菌1055−1菌はNaCl7%までは正常形 態を示すが10%以上では菌形が伸張した.E、V、−5はNaCl5%位から菌形は変り,7%で は細胞は伸張,膨大し,1055−1菌に比しかなり変形がみられた.EcoZjではNaCl3%で すでに正常形態が失われ,5%で伸張,膨大,7%で極端に延長して糸状となり明らかに崎 形を呈していた. 以上種々行なった実験結果から,さきに規制した有機物希薄培地に各種の塩類を添加した (a),(b),(c),(d),(e)の5つの所定培地に供試菌を接種,25。C6日間培養し,その発育態度を

(13)

05655 1111 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) 29764 1 1

考察することにより,供試菌が好塩性でしかも海水無機塩要求性の厳しい菌であるか,また

は好塩性のみで海水無機塩K,Mg,Ca塩を殊更要求しない菌であるか,或は陸棲細菌のよ

うに塩類要求性が極く弱い菌であるかを判別することが出来,更に供試菌夫々の耐塩性を加

味することにより海水中の固有細菌である海洋細菌と他の細菌とを識別し得る可能性を裏付

けする結果が得られた. 4.所定培地での発育態度に対する培養温度の影響 供試海棲細菌及び陸棲細菌は各々発育最適温度を異にするところから,5種の所定培地に おける発育挙動も培養温度によって変ることが予測されるので,各種培養温度での発育挙動 Table6.Amountsofgrowthofbacteriainseveraltypesofmediaduring6days incubationatvarioustemperatures(Growth:一LogT×100). 25 10510 22133 15 58524 11121 00008 33 a0DC了dG 00705 34 A B C D E F G H I

JO胆7肥0|旧旧Ⅳ別塑

Kl000n0lu狸0浬8 Llmm7u8l咽四mm魁 M N ○ Temp.。O、 00075’00011 00000’00004 2 00000−00324 11 00000’00014 3 0000咽−00002 21 00000−00008 3 ③⑪⑥⑥⑥|側⑥。⑥㈲ 0000,−00942 124 00002’00017 11 00凹型型−0妬釦卯妬 加肥”旧四一距旧型Ⅱ卵 00446’0賜皿型⑲ 11 5 0 11 8 17 16 8 14 20 6理7弱喧−1町2獅弱 37 30 哩巧4m旧−00000 4622300022 1 0477500000

111

20796 1111 96288

21

jjjlj abCde くIIII *Testedstrains:A,1055−2;B,1007−1;C,1055−1;D,1064−2;E,1197−4;F,1179−2;G9 lO28−4;H,E、V、−5;I,PS.αgγ噌z""α;J,必.〃。γes‘”;K,Pγ0tg"s”jgα'・な;L,五.”雌M’1Z 刀zβな‘〃刀jk・ひ雄N,Bac,subtilis;○,皿りso“ん雄“. **AIItypesmedia(pH7.6)containO、5gofpeptoneandO、1gofyeastextractinlZsolvent. (a),purewater;(b),0.5%NaClsolution;(c),3%NaClsolution;(d),artificialseawaterdi‐ luted6fbld;(e),artificialseawater. 00094 2 00357 11 00056 11 00256 31 00092 4 00032 00372 112 02376 2224 01090 1111 ( a ( b ( c ( 。 ( e 00089 11 00038 128 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 1 1 3 3 4 3 8 9 4 8 44225 11221 146 00112 122 35022 11 00078 12 一”叩叩皿皿 5 23838 31323 0 0 1 0 0 3 0 0 0

:|;:

111jj abCde 00023 22 06253 1212 00026 43 00035 22 00037 42 06811 44 00058 2 01025 3334 112158033 95917 12151 1112153000 21 17 13 22 15 97092 1 22 00036 20 00003 00057 2 00.001

(14)

日 高 : 海 洋 細 菌 に 関 す る 研 究 − 1 147 を比較検討した.この種実験の実施にあたっては既報20)の知見に基ずき培養温度の厳正を期 した.その実験結果はTable6に示す如くであった.ここにおいても5種の所定培地に対 す る 発 育 態 度 は 前 項 ま で の 実 験 結 果 と 同 様 に 陸 棲 細 菌 は 全 培 地 に 発 育 し , 海 棲 細 菌 は 人 工 海 水を含む(。)培地と(e)培地にのみ発育する菌が多い.(d)培地と(e)培地における各種培養温度で の発育度を考えるとき,培地中塩濃度が単に惨透圧調節ばかりに関与しているものであれば, van'tHoffの式P=nRT〔ただし,Pは彦透圧,nはモル濃度,Rは0.082(気圧/絶対温 度),Tは絶対温度とする〕より一定濃度の溶液の惨透圧効果は温度に比例して強くなるは ずであるから,少なくともこの実験条件の塩濃度及び温度変化の範囲においては(d)培地と(e) 培 地 と で の 培 養 温 度 変 化 に 伴 う 発 育 度 の 変 化 は 両 者 平 行 す る 筈 で あ る . し か し 実 際 に お い て は(e)培地での培養が広範囲の培養温度でよく発育するに対し,(d)培地には培養温度が最適温 度より上下に若干移動することにより著しく発育度は減少し,(e)培地で37°Cで発育する菌 も(d)培地には発育し得ないものが多かった.この傾向は特にE、V、−5の(b)培地と(c)蛸地と の発育態度において著明に現われている.このことは培地に添加された塩類が3%というか なり高い濃度であっても単に惨透圧調節ばかりでなく他に栄養的意義,外境の変化に対する 細胞構造の保護等複雑な機能に関与していることを推察し得る結果であった.次に各供試菌 の 最 適 温 度 は , 本 実 験 の 如 く 一 週 間 培 養 後 の 菌 の 成 育 量 か ら み れ ば や や 低 い 温 度 の 方 に 最 適 温度があり,海棲細菌では20∼25.Cにおいて収量多い結果が得られた.陸棲細菌も20℃ から30。Cの間では成育堂に大差なく,海棲細菌と一律に25℃培養でも不都合なく両者を 比 較 検 査 出 来 る こ と が 明 ら か に さ れ た . 5 . 海 洋 細 菌 と 陸 棲 細 菌 と の 鑑 別 法 海 水 中 に 存 在 す る 細 菌 の 数 及 び 種 類 は 沿 岸 か ら の 距 離 , 海 域 の 状 態 等 に よ り 相 当 異 り , ま た海水中にも陸上からの流入や空中から落下した一過性の菌をもかなり含んでいることが推 察 さ れ る . 従 っ て 海 水 か ら 分 離 し た 菌 が 直 ち に 海 水 固 有 の 海 洋 細 菌 で あ る と 考 え る こ と は 早 計 で あ ろ う . そ こ で 前 項 ま で の 耐 塩 性 及 び 海 水 無 機 塩 要 求 性 に 基 ず き 海 水 中 の 混 入 陸 棲 細 菌 と 海 洋 細 菌 と の 菌 数 を 算 別 す る 方 法 を 検 索 し た . そ の 予 備 実 験 と し て 純 水 , 人 工 海 水 , 7 % NaCl含有人工海水に夫々ポリペプトン0.5%,酵母エキス0.1%,寒天1.5%を溶解して作 成した寒天培地(pH7.6)の平板に供試菌を画線陪養し,25.C,7日間培養後その発育程度 を観察したところ,Table7の如き結果が得られた.この結果では,純水培地に陸棲細菌 は 充 分 発 育 す る が , 海 核 細 菌 は 殆 ん ど の 菌 株 が 発 育 し な い . 一 方 人 工 海 水 培 地 で は 陸 棲 細 菌 も海棲細菌も共によい発育を示した.7%NaCl含有人工海水培地では海棲細菌が良好に発 育し,陸棲細菌は発育し得ない.好塩菌のE,V、−5は海棲細菌に近い発育態度を示し, ア.me1ケScノZ7zjルoUjijは人工海水培地にのみ発育し他の2つの培地には発育し得なかった.この 結 果 か ら 推 し て , 海 水 か ら 細 菌 を 分 離 培 養 す る 場 合 , 前 記 3 種 の 寒 天 培 地 で 平 行 し て 行 な う ことにより,純水培地に発育する集落数は陸棲細菌数を,7%NaCl加人工海水培地に発育 す る 集 落 数 は 海 洋 細 菌 と 好 塩 菌 数 を , 人 工 海 水 培 地 で は 陸 棲 , 海 洋 両 細 菌 と そ の 中 間 型 を も 含 む 総 菌 数 を 夫 々 表 わ す も の と 考 え る . 従 っ て こ の 操 作 に よ り , 少 な く と も 海 水 中 に 混 在 す る陸棲細菌の割合を推測し得る. /

(15)

148 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) 細菌の無機塩要求性の検査にあたり実際上最も困惑する点は培地材料の有機栄養素材中に 未知量の無機塩が爽雑することである.Table2において陸棲細菌がポリペプトン,酵母エ キスを純水に溶かして作成した培地に充分発育したことは,ポリペプトン,酵母エキス中に その細菌の発育に必要な丑のミネラルを含有していることを示唆している.そこでポリペプ トン,酵母エキス巾にどの礎度の無機塩を含むかが問題になって来るわけで,Table3にそ の定量結果を示した.その含量の多寡はさておき細菌の無機塩要求性を検討する場合,まず 培地に添加する有機物素材を予め無機塩を含まない状態にし,これに所定組成の各称無機塩 を添加することにより,培地巾の微堆塩類を含めたすべての無機塩量を,目的に応じ向由に

しかも完全に規制し得ることが望ましい.実際SHANKARoBARD(1952)21),MAcLEoDo

ONoFREY(1956,1957)22),23)及び畑(1960)5)らは細菌の無機塩要求の研究において,培地に加 える有機物素材に脱塩処理を施して無機塩不含にしたものを使用している.例えば畑(1960) はカチオン交換樹脂“PermutitH-70”及びアニオン交換樹脂“PermutitA”をⅢいて脱塩 したペプトンを供試している.しかし氏の報告にも言及しているようにFe++やPO4一一一の 完全除去は不能であった.また市販の無機塩試薬中にも微量ながら各種の他の無塩が爽雑す Table7.Growthofmarineandterrestrialbacteriaonseveraltypesof agarmedia,at25・C・fbr7days. -ト - L 察 ++ 考

冊冊州冊冊州

5gofpeptone,Igofyeastextractandl5gofagarperliter =1− A、S、W・ (plusNaCIto7%) Purewater A,S,W,

什什什冊州什十什什冊十

± lOOl−7 1007−1 1028−4 1040−l lO55-l lO55-2 1064-2 1142-l ll79-2 1197-4 1242-3 PA0ifo6ac彰γ如加sP. E、V、−5 砿me#“伽iルOU流 PS.α”昭z〃“α PIF・弧拠。'・gs‘g"s Pγ0#‘"ぶり"どarZs E・cOJj Bac..F"6〃脆 加:〃"虚』た"c"$ Signs(−,±,+,++,+│+)representdegreeofgrowth

什什什冊州什什什什州什十什十十十十十十十

(16)

日 高 : 海 洋 細 菌 に 関 す る 研 究 一 I 149 ることが普通とされている.一方細菌の発育に必要な無機塩の分量は10-6mol以下のこと が多い24).従って細菌の無機塩要求量以下にすべての塩類を除くことは至極困難な問題であ る.本実験のI」的は海洋細菌と陸棲細菌との無機塩要求度の差を見出すにあるので,供試菌 の絶対的な各種無機塩要求量を知るには及ばず,最大公約数的な無機塩要求度以上の特異な 無機塩要求性について検索し相対的見掛上の比較を行うこととし,その方向に実験を進めた. また要求度は各種無機塩培地での発育初速度の優劣によらず,一週間培養により菌が発育す るか否か,また発育した場合には菌収最の多寡によって比較した・ 本 実 験 に お い て は 陪 地 の 有 機 物 素 材 に 衣 靴 す る 無 機 塩 の 影 粋 を な る べ く 削 減 す る た め に 有 機物希薄培地,即ちポリペプトン0.05%,酵母エキス0.01%を純水に溶解した培地を基礎培 地 と し , こ れ に 極 々 塩 類 を 加 え て 細 菌 の 無 機 塩 要 求 性 を 比 較 検 討 し た . こ の 有 機 物 希 薄 培 地 は菌が発育するに充分な有機物を含有し,更にその有機物に爽雑する無機塩として培地’〃 当たりNa+14.7mg,K+5.3mg,Mg+十0.41mg,Ca++0.048mgと外に痕跡の各種無機塩 を含むことが察せられる.先づこの有機物希薄な基礎培地で供試菌を培養し,発育の可否に よ っ て 菌 を 大 別 し た . 即 ち こ の 基 礎 恥 地 に 発 育 し 得 る も の は 陸 棲 細 菌 ( 標 準 菌 株 ) の す べ て と,魚体表細菌>海棲細菌の一部であり,この基礎哨地に良好な発育を示す菌は必定無機塩 要 求 度 の 弱 い 菌 で あ る こ と か ら 陸 上 間 有 の 菌 で あ ろ う と 考 え , 陸 棲 型 菌 と 仮 称 し た . 魚 体 表 細菌,海棲細菌,,.,にもこの型の菌が見出されるのは陸楼型菌が海水に混入して一過性の棲息 を し て い る も の で あ ろ う こ と が 推 測 し 得 る . 基 礎 培 地 に 発 育 し 得 な か っ た 菌 は 更 に 基 礎 培 地 に0.5%NaCl,3%NaClになる如く火々所定量のNaClを添加したもの及び発濃度人工 海水や人工海水により作成した夫々の端地における発育態度を調べた.0.5%NaCl,3% NaClの培地に発育し得る菌は無機塩としてNaCIのみを要求するものであり,0.5%NaCl に発育せず33%NaClに発育するのはNaCl要求職の差である.これらを好境迦黄とし た.また発育にNaCl以外に海水無機成分の主要成分であるK,Mg,Ca塩を海水の組成と 同 じ 程 度 の 量 の 附 加 を 必 要 と し , 海 水 無 機 塩 要 求 度 の き び し い 菌 即 ち 海 水 固 有 の 菌 と 思 わ れ るものを海洋ツ叫菌とした.このように供試菌を好塩性及び海水無機塩要求性から3つに群別 し た . な お 全 供 試 海 峻 細 菌 の 群 別 と 各 群 の 分 布 と 割 合 に つ い て は 後 報 で 詳 述 す る . 従 来 海 洋 細 菌 と 陸 棲 細 菌 と を 判 別 す る に は 好 塩 性 , 耐 塩 性 を 目 安 す と す る 場 合 が 多 い . し かし好塩性,耐塩性が元来NaCI挫度に対しての意味であるならば,海棲細菌にはNaClの み の 添 加 で は 発 育 し 得 な い 菌 株 が 多 い こ と か ら 検 査 川 米 な い こ と に な る ・ も と も と 細 菌 の 好 塩性,耐塩性はかなり不安定な性状で,培養条件例えば他の塩類K,Mg,Ca塩の存否や培 養 温 度 蝶 で 変 動 し た り , 累 代 塘 養 で そ れ ら 性 状 を 贈 減 す る こ と も 知 ら れ て い る . 故 に 海 洋 細 菌と陸棲細菌との分別の指標とするには適当ではない.その点,ここに云う海水無機塩要求 性はかなり固定した性状であり,塩漉度逓減培地に10m以上の継代培養をしても海水無機塩 要求性は低下しなかった.以上の理111から海洋細菌と陸棲細菌とを区別するためには供試菌 の海水無機塩要求性を前記の術式に従って検査し,その成績から判定した方がより簡便にし て且つ有効な手段であると信ずる. 別 に , 海 水 は 通 常 有 機 栄 養 源 が 希 薄 で あ る の で , 海 洋 細 菌 が そ の こ と に よ っ て 特 徴 づ け ら れ陸棲細菌に比し栄養希薄な培地に優勢に発育可能ではないかと考えたが,Fig.2の結果 か ら も わ か る よ う に , そ の こ と に つ い て は 若 干 の 差 が 見 ら れ る だ け で , 海 洋 細 菌 と 陸 棲 細 菌

(17)

150 鹿児島大学水産学部紀要第12巻第2号(1963) との区別の指標とする程特徴的でなかった.むしろ発育温度において,海洋細菌の多くが 37°Cで発育し得ないことの方が陸棲細菌に比しての特徴となり得る. 好塩型菌は好塩性,耐塩性等については海洋型菌に類似するが,海洋型菌との相違はK, Mg,Ca塩を要求しない点である.この好:塩型菌を海洋固有の菌と考え得るか否かについて は論議の予地があると思うが,後報する如く,好塩型菌のNaCl要求は多分に惨透圧調節的 な要素が見出される.これらのことから好端ノ刷菌は陸棲型菌と海洋型菌との巾間的な無機端 要求性を示すが,どちらかと云えば陸棲ノ叫菌に近い傾向がしばしば見られた. 海水中には海洋型菌,好塊浬菌は勿論,陸棲Jli1菌も見出すことが出来るが,これはいわゆ る一過性の混入菌を含むためであろう.しかしてこれら3型菌のうち海洋卿菌が海水固有の 細菌,いわゆるほんとの意味の“海洋細菌”に相当するのではないかと考えている. 要 約 海棲細菌100株にその対照菌として魚体表細菌13株,病原性好塩菌とその類似菌14株, 陸棲細菌(標準菌株)37株を加えた計164株を供試菌として,それらの好蝋性,耐塩性,海 水 無 機 塩 要 求 性 を 比 較 検 討 し 次 の 知 見 を 得 た . 1.各種細菌の無機塩要求性はポリペプトン0.59,酵母エキス0.19を純水1‘に溶解し て作成した有機物希薄な基礎培地(pH7.6)を使って比較することにより充分その差異を観 察し得た(Fig.2及びTable3,4参照). 2.海洋細菌は海水無機塩を附加した雄礎陪地においてNaCl濃度0.5∼12%で発育する ことが出来,その発育至巡NaCl濃度は5∼7%であった.海水無機塩を加えぬ雅礎培地に

は発育し得なかった.一方陸棲細菌は無機塩を加えない基礎培地にも発育し得て,その発育

至適NaCl濃度は0.5%であり,NaCl濃度5%まで発育するが,7%では全く発育出来ぬ 程度の耐塩性であった(Fig.3参照). 3.海洋細菌の発育には雌礎培地に海水無機塩であるNa,K,Mg,Ca端の添加を必要

とするが,陸棲細菌の発育にはその必要がなかった.瓶原性好塊菌はNaClを必要とした

(Fig.1及びTable5参照). 4.供試菌を基礎培地(a)及びそれに0.5%NaCl(b),3%NaCl(c),発濃度人工海水(d), 人工海水(e)の夫々を附加した5種の所定蛸地で25.C’6日間端捜し,その発育態度より(a), (b),(c)培地に発育せず,(d),(e)陪地に発育する菌を海洋型,(a)哨地に発育せず,他の4つの 培地に発育する菌を好聴ノ'『!』,5種の所定哨地全部に発育出来る菌を陸棲叩(仮称)とに群別 し得る可能性を認めた(Table5,6参照). 5.海洋型菌,好塩型菌は勿論,陸棲型菌の多くも海水IITに見出すことがⅢ来るが,これ ら3型菌のうち海洋型菌が海水固有の細菌,いわゆる真の“海洋細菌”であろうと推測した. 本報告は昭和37年度内地研究員として,北海道大学水産学邪微生物学研究篭で行った研究 成果の一部である.本研究を行うに当って貴重な菌株の分与並びに終始御懇切な御指導を賜 わった北海道大学水産学部教授坂井稔博士をはじめ,研究の実施,結果に対し御便宜,御討 議頂きました木村喬久,信濃晴雄両氏に対し深甚の謝意を表する.また本椛をまとめるに当 り多大の御配慮,御後援を賜わった本学部柿本大壱教授に深謝する.

(18)

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