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カントの家族法理論 : プロイセンの家族変容と『人倫の形而上学』

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Academic year: 2021

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カ ン トの家 族 法 理 論

一 プ ロ イ セ ン の 家 族 変 容 と 『人 倫 の 形 而 上 学 』 一

行*

Kant's Family Law Theory:

The Family Transformation of Prussia and "Metaphysics of Morals"

Nobuyuki OTAKE 1.は じ め に 本 稿 の 目 的 ほ 、 カ ン ト(Kant,lmmanuel1724-1804)の 『人 倫 の 形 而 上 学 』(1797)第22節 か ら 30節 で 展 開 さ れ た家 族 法 を 近 年 の 家 族 史 研 究 の成 果 と接 続 し、 近 代 家 族 論 の萌 芽 的 思 想 と して 読 み 解 く こ とで あ る。 近 代 家 族 の 思 想 基 盤 を用 意 した 先 駆 者 と して は、 哲 学 者 ヘ ー ゲ ルが 名 高 く 社 会 学 へ 及 ぼ した影 響 も大 きい 。 例 え ば 、 山 田 昌弘 が 『家 族 本40』(2001)の 「プ ロ ロー グ」 で 指 摘 して い る よ う に、 初 期 の社 会 学 者 の 家 族 研 究 は 「ヘ ーゲ ル の ロ ジ ック をそ の ま ま踏 襲 して い る」(山 田2001:18)の で あ る 。 ヘ ー ゲ ル の 家 族 論 は 『法 哲 学 』(1821)で 展 開 さ れ 、近 代 家 族 の 重 要 な 特 徴 の 一 つ で あ る 「家 族 間 の愛 情 に よ る結 合 」 を思 想 的 に支 え た業 績 と して位 置 付 け ら れ てい る が 、 そ の 構 成 を一 瞥 す れ ば わ か る よ う に、 カ ン トの 『人 倫 の形 而 上 学 』 を継 承 した も の で あ る 。 そ こ で 、 近 代 家 族 論 の原 初 を探 る た め の ヘ ーゲ ル家 族 論 研 究 に先 立 って 、 まず は カ ン ト の 家 族 法 理 論 を検 討 して お くこ と に した')。 カ ン トは主 に18世 紀 とい う近 代 へ の 移 行 期 に 活 躍 した が 、 この 時 期 に ドイ ツ ・プ ロ イ セ ン で は家 族 形 態 が 変 化 す る。 三成 美保 は 、 労 働 者 家 族 が 近 代 家 族 モ デ ル を受 容 しシス テ ム と して 普 及 す る の は1880年 代 以 降 で あ る と し て 、 伝 統 家 族 か ら近 代 家 族 が 成 立 す る ま で の 過 程 を三 期 に 区 分 して い る 。 第 一 期 は1680年 代 ∼1780年 代 の 啓 蒙 期 で 、 「18世紀 型 家 族 」 で あ り、 「『近代 家 族 』 の 萌 芽 的 生 成 」 の時 期 で あ る。 そ の家 族 形 態 は 、 「近 世 に 大 家 族 が 支 配 的 で あ っ た とい う の は い ま や 『神 話 』 にす ぎな い と さ れ て お り、 『単 婚 小 家 族 』 が 量 的 に も多 か った と推 測 され る」 とい う。 第 二 期 は1780年 代 ∼1880年 代 の 古 典 的 自由 主 義 の 時 代 で あ り、 「19世紀 型 近 代 家 族 」 た る 「市 民 家 族=女 中雇 用 型 」 の 近 代 家 族 が 、 有 産/教 養 市 民 層 に お い て 成 立 し た。 第 三 期 は1880年 ∼1960年 代 の 大 衆 社 会 ・福 祉 国 家 ・高 度 資 本 主 義 で 、 「20世紀 型近代 家族」 「大衆 家族=主 婦 労 働 型」 現 代 家 族 が登 場 す る(三 成2005:184-188)。 *お お た け のぶ ゆ き 文 教大 学生 活研 究所 客 員研 究員

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この 分 類 を基 準 と して カ ン トの 人 生 を重 ね る と、 大 半 は 第 一 期 で あ り、 晩 年 は 第 二 期 の 初 期 に 該 当 して い る 。 つ ま り、 伝 統 社 会 か ら近 代 社 会 へ 、 伝 統 家族 か ら近 代 家 族 へ とい う移 行 が 始 ま っ た段 階 に生 き、 理 論 を作 り上 げ た と い え る。 こ の 時期 、 プ ロ イ セ ン で は 家 族 に つ い て1794年 に 成 立 した プ ロ イ セ ンー 般 ラ ン ト法 に よ る法 的規 制 を行 っ て お り、 そ れ は ドイ ツ民 法 が 施 行 され る 1900年 まで 効 力 を持 っ て い た 。 カ ン トの 家 族 法 は この 法 と関 連 が あ り、 こ の こ とは こ れ ま で の 先 行 研 究 で も繰 り返 し指 摘 され て き た2)。そ こで 、 一 般 ラ ン ト法 につ い て の 言 及 は最 小 限 に と ど め 、 以 下 の 論 考 で は カ ン トの 家 族 法 の構 成 に従 って 、 婚 姻 権(法)・ 親 権(両 親 の 権 利)・ 家 長 権 (家 社 会 の 権 利)の 三 点 に つ い て 、 プ ロ イ セ ン の 家 族 変 容 と重 ね な が ら家 族 法 理 論 を考 察 して い きた い 。 2.家 族 法 の 基 礎 概 念 と構 成 『人 倫 の 形 而 上 学 』 の構 成 と哲 学 体 系 上 の 位 相 につ い て は す で に概 括 して お い た の で 、 こ こで は繰 り返 さ な い(大 竹 ・堀 口2003:114-115)。 カ ン トの 家 族 法 あ る い は 厂家 社 会 の 権 利 」 は 、 第 一 部 で あ る法 論 の 中 の 「私 法 」第 二 編 第 三 章 「物 件 に対 す る仕 方 で 人 格 に対 す る権 利 に つ い て」 で 、 三 項 に 渡 っ て 取 り上 げ られ て い る。 そ の 前 提 と して 、 第22節 で は 「物 件 に対 す る仕 方 で 人 格 に対 す る 権 利 」(aufdinglicheArtpers6nlichesRecht)つ ま り 「物 権 的 債 権 」(dinglich-pers6nlichesRecht)が 定 義 さ れ て い る。 こ こ で 「物 件 」(Sache)と は 、 「責 任 を帰 す る こ との で き ない 事 物 」 で あ り、 「人 格 」(Person)と は 「行 為 の 責 任 を帰 す る こ との 可 能 な 主 体 」 を 意 味 す る (Kant1797=2002:39)。 す な わ ち 、 人 格 の対 立 概 念 が 物 件 とい う こ と に な る(中 島2006:188)。 カ ン トに よ れ ば 、 こ の権 利 は 「外 的対 象 を物 件 と して 占有 し、 人 格 と して使 用 す る権 利 」 で あ る。 要 す る に、 他 者 とい う人 格 を物 と同様 に所 有 し扱 う場 合 が想 定 さ れ て い る わ け で あ る。 この 点 に 関 して は 親 権 の 項 目に 関 連 して後 述 す る。 そ して 、 こ の権 利 に基 づ き 厂私 の もの ・あ な た の もの 」 は 、 家 族 権 に よ る共 同体 関 係 に所 属 す る。 カ ン トの家 族 法 は 「家 社 会 の 権 利 」 と同 意 で あ り、 カ ン トは こ の 「家 」 とい う概 念 規 定 も行 っ て い る。 そ れ は 「自 由 な存 在 者 は外 的 自由(原 因 性)の 原 理 に従 い 、 相 互 に(一 方 の 人 格 が他 方 の 人格)に 影 響 を与 え合 い 、成 員 が 一 つ の 全 体 を なす(緒 人格 が 共 同 体 を な す)社 会 を 、 つ ま り家 と呼 ばれ る もの を構 成 して い る」 とい う もの で あ る(Kant1797=2002:108)。 さ て 、 こ う した 厂物 件 に対 す る仕 方 で 人 格 に対 す る権 利 」 は 「人 格 の 占有 」 で あ り、 「人 格 に お け る 人 間 性 の 権 利 」 で あ る 。 カ ン トが 「自然 的 許 容 法 則 」 と言 っ て い る法 則 に よ っ て 、 「夫 は 妻 を取 得 し、 夫 婦 は 子 を取 得 し、 家 族 は奉 公 人 を取 得 す る」 とい う よ うに 三種 の 取 得 が 成 立 す る とい う(Kant1797=2002:109)。 そ して 冒 頭 で も触 れ た よ う に、 『人 倫 の 形 而 上 学 』 で は 第24節 ∼ 27節 で 婚 姻 権 ・婚 姻 法 とい う夫 婦 関係 を、 第28・29節 で親 権 とい う親 子 関 係 を 、 第30節 で は家 長権 とい う家 長 と奉 公 人 との 関係 を設 置 す る と い う構 成 を と っ て い る。 じつ は、 この 発 想 はす で に プ ロ イセ ンー般 ラ ン ト法 に見 ら れ る もの で あ る 。 そ の 「第 二 編 社 会 の法 」 の 冒頭 に は 「婚 姻 法 」 が 置 か れ 、 そ の 後 に 「親 子 法 」、 「主 人 ・奉 公 人 の 法 」 が 続 い て い る 。 これ と カ ン ト家 族 法 の 構 成 とを 照 ら し合 わ せ て み る と、 プ ロ イ セ ンー 般 ラ ン ト法 の 「婚 姻 法 」 は カ ン ト家 族 法 の 「夫 は 妻 を取 得 」 に、 以 下 同様 に 「親 子 法 」 は 「夫 婦 は子 を取 得 」、 「主 人 ・奉 公 人 の 法 」 は 「家 族 は奉 公 人 を取 得 」 に、 とい う対 応 関係 の 存 在 が 明 白で あ ろ う。

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3.婚 姻 理 論 の 特 質 まず 、 婚 姻 とは何 か とい う本 質 的 問題 に対 す る カ ン トの 解 答 を見 てみ よ う3)。カ ン トは 第24節 で 、 「性 共 同体(commerciumsexuale)と は 、 一 人 の 人 間 が 他 の 人 間 の性 器 と能 力 を相 互 に 使 用 し合 う こ と」 で あ り、 「自然 的使 用 」 と 「非 自然 的使 用 」 と に分 か れ る と して い る 。 前 者 は 「こ れ に よっ て 自分 と同 じ もの が つ くられ る」 とい うか ら、 出産 を可 能 とす る異 性 関 係 の み が 是 認 さ れ て い る 。 た だ し、 人 間 の 再 生 産 を 「自然 の 目 的」 と しつ つ も、 婚 姻 の 目的 と はみ な して い ない 。 なぜ な ら 、 「子 を産 め な くな る と同 時 に 、 婚 姻 はお の ず か ら解 消 され る こ と に な る」 か ら で あ る。 次 に後 者 の 「非 自然 使 用 」 は 、 「同 性 の 人 格 にお け る使 用 」 と 「人 類 と は異 な る動 物 にお け る使 用 」 とい う二 種 が あ り、 こ れ ら は 「反 自然 的 背徳(criminacarniscontranaturam)」 、 「自然 に反 す る 肉欲 の 罪 」 に あ た り、 「断 罪 を免 れ る ど の よ う な条 件 も例 外 もな い」 と厳 し く禁 じて い る 。 カ ン トに よ る と、 「自然 的 な性 共 同 体 」 は 、 動 物 的 自 然 本 性 に 従 っ て 淫 蕩 ・乱 交 ・売 春 を 行 うか 、 法 則 に従 う か で あ る とい う。 と りも なお さず 、 婚 姻 と は法 則 に従 った 性 共 同体 で あ る 、 とい うこ とが 婚 姻 の 本 質 とみ な され る。 カ ン トに とっ て 婚 姻 は契 約 で あ るが 、 任 意 の契 約 で は な く必 然 的 な契 約 で あ り、 そ れ は 「人 間 性 の 法 則 」 「純 粋 理 性 の法 的 諸 法 則 」 に従 っ た必 然 で あ る 。 そ の 理 由 は 弟25節 に記 さ れ て い て 、 簡 単 に は こ う い う こ とで あ る。 す な わ ち 、 男 性 な り女 性 な りが他 方 の 性 器 を使 用 す る こ とは 享 受 で あ り、 使 用 さ れ る 側 は 自分 を 「物 件 」 に して し ま う。 しか しな が ら、 そ の 人 は 同 時 に相 手 も物 件 と して 取 得 して い るか らで あ る 。 性 交 は相 互 の行 為 で あ る か ら当 然 の こ とで あ ろ う。 こ こ で 、 こ の 関 係 性 は何 も婚 姻 で な く と も、 例 え ば 恋 愛 関係4)に お い て も妥 当 し う る の で は な い か 、 と い う疑 問 が 生 じる か も しれ な い 。 しか し、 「婚 姻 関係 に あ る 一 方 が 逃 げ だす 、 あ る い は 他 の 人 の 占 有 に入 る」 と い う よ う な 事 態 が 生 じた 場 合 、 「他 方 は い つ で も否 応 な しに 、 そ れ を一 つ の物 件 と同 じ よ う に、 自分 の支 配 力 の も と に連 れ戻 す 権 限 を認 め られ て い る」 の が 婚 姻 で あ る た め 、恋 愛 関係 と違 って 物 件 に対 す る処 し方 と類 似 して い る性 質 を有 して い る 。 こ の論 理 か ら第26節 で は 、 「婚 姻 関係 は 占 有 に お い て 平 等 な 関 係 で あ る 」 とい う よ う に 、 両 性 の 平 等 が 説 か れ て い る5)。こ こ で平 等 と は 、 人 格 面 と財 産 面 の二 つ が 存 在 す る。 こ の う ち 、 人 格 面 に 関 し て は 、 一 夫 多 妻 制 や一 妻 多 夫 制 の複 婚 で は多 数 の配 偶 者 の 人 格 の一 部 を得 る だ け な の で 、 カ ン トは 一 夫 一婦 制 を肯 定 して い る。 と もあ れ、 一 夫 一 婦 制 の 容 認 とい う思 想 は提 出 さ れ た の だ が 、 こ れ を可 能 と した の は キ リス ト教 の 一 夫 一 婦 制 イ デ オ ロ ギ ー とい う宗 教 的 要 因 に よ る と思 わ れ る 。 カ ン トに と って 、 プ ロ イ セ ン は ル ター 派 国 家 で あ っ た とい う客 観 的 ・現 実 的 条 件 、 自身 も ま た ル タ ー 派 で あ る ピエ テ ィス ム ス(敬 虔 主 義)6)の 家 庭 に 生 まれ 育 ち 、 フ リー ドリ ヒ学 院7)に 入 学 す る とい う主 体 的 条 件 が あ り、 こ れ ら に起 因 して い る の で は ない だ ろ うか 。 続 く第27節 で は 、 「婚 姻 契 約 は 、 もっ ぱ ら婚 姻 同 居(copulacarnalis肉 体 関 係)に よ っ て 履 行 さ れ る」 と述 べ 、 続 け て 「肉体 関 係 を もた な い とい う密 約 と と も に、 あ る い は 一 方 ま た は 両 方 に そ の 能力 が な い こ とを知 りな が ら結 ば れ る な らば 、 そ れ は見 せ か け の契 約 で あ り、 婚 姻 を 成 立 さ せ る こ と は な く、 当 事 者 の 一 方 に よ っ て任 意 に解 消 され う る」 と ま で 言 って い る 。 た だ し、 「後 か ら不 能 に な る の で あ れ ば 、責 任 を 問 え ない この偶 然 に よ っ て 、 そ の権 利 が損 なわ れ る こ と は な い 」 とあ る よ う に、 婚 姻 関係 は 「性 共 同 体 」 で あ る とい う思 想 が 徹 底 され て い る。

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4.親 権 に み る 権 利 と義 務 ヨ ー ロ ッパ の伝 統 社 会 で は夫 婦 は 愛 情 で結 び つ く必 要 は ない が 、 そ れ は プ ロ イ セ ンで も同様 で あ る 。 「求 愛 関 係 」(Courtship)に 着 目 した研 究 で あ る シ ョー タ ー の 『近 代 家 族 の 形 成 』(1975) で は、 「数 字 自体 は 根 拠 の あ る もの で は ない 」 と しな が ら も、 プ ロ イ セ ンの ハ レ と い う都 市 で 発 行 され て い た 『ゲ ゼ リ ッ ゲ 紙 』 な る週 刊 誌 が 、1748年 に行 っ た 調 査 の 事 例 が 紹 介 さ れ て い る。 この 調 査 で は 、 じつ に 「1000組 の 結 婚 の う ち 、 幸 せ な の は10組 そ こ そ こ」 で あ る とい う推 定 が な され て い る。 また 、 ヘ ル ム ー ト ・ミュ ー ラー の 文 学 ・民 族 史 学 的 資料 に基 づ く調 査 研 究 を踏 ま え て シ ョー ター は、 「ミュ ー ラ ー は 、1820年 以 前 の こ の 階層 にお け る結 婚 に 、 ロ マ ンス を思 わ せ る よ う な も の は な に一 つ 見 つ け られ なか っ た 。 彼 が 出 会 っ た もの は す べ て、 妻 と も家 族 と も感 情 的 つ なが り を な ん ら も た な い 父 親 で あ っ た」 と総 括 して い る(Shorter1975=1987:63)。 ま た 、 母 子 関 係 に つ い て も、 「母 親 が 幼 児 の 養 育 に心 を砕 く よ う に な っ た の は、 近 代 に な っ て か らの こ と で あ る 。伝 統 社 会 で は 、 母 親 は 、 二 歳 以 下 の幼 児 の成 長 や 幸 福 に は無 関 心 で あ っ た」 と し、 フ ィ リ ップ ・ア リエ ス を援 用 し ヨー ロ ッパ 諸 国 の 事 例 を引 き合 い に して 、 母 親 が 子 ど も の 養 育 に無 関 心 で あ っ た こ とを論 じて い る 。 ドイ ッで も、 「1840年 代 後 半 に な っ て も まだ 子 ど も を ぐる ぐ る巻 き に して い た よ う で あ る 。 ア ウ グス ブ ル ク や ハ ンブ ル ク で も18世 紀 末 ま で 、 医 者 た ち の 反 対 は 何 の 効 果 もあ げ て い な か っ た 。1810年 ご ろ の ウ ィー ンで は、 相 変 わ らず 子 ど も を縛 り、 帯 で ぶ ら さ げ る慣 習 に 医 者 た ち は憤 慨 して い た し、1824年 ご ろ ゲ ッテ ィ ンゲ ン で も、 縛 っ た り巻 き産 衣 を使 う こ とは 当 時 普 通 の こ と」 で あ っ た とい う。 伝 統 社 会 に お け る母 性 欠 如 に 関す る先 駆 的 業 績 と い え る フ ィ リ ッ プ ・ア リエ ス の 『〈 子 供 〉の 誕 生 』(1960)は 、 近 年 で は批 判 さ れ て い る け れ ど も(大 竹2005:129)、 ドイ ッ に お い て も愛 情 の 有 無 は と もか く と して 、 子 ど も の 養 育 に対 して の 関 心 は 薄 か っ た よ うで あ る。 こ う した 時 代 にあ っ て 、 カ ン トは夫 婦 とい う性 共 同 体 にお け る 出 産 か ら 「生 まれ た子 を保 護 し 扶 養 す る義 務 が 生 じる」 とい う よ う に 、両 親 の 養 育 義 務 を説 い て い る。 こ れ は、 子 ど もか らす れ ば 「人 格 で あ る 子 は誕 生 と同 時 に、 自分 で 生 計 を立 て る能 力 を得 る ま で 、両 親 に扶 養 され る とい う根 源 的 で 生 得 の(相 続 して わ けで は な い)権 利 」 を持 つ こ とで も あ る 。夫 婦 とは異 な り、 親 子 は平 等 ・対 等 な 関係 で は な い 。 カ ン トは 「子 は両 親 の 私 の もの ・あ な た の もの に属 す る」 と、 親 は子 ど も を所 有 で き る か の よ う に述 べ て い る。 こ れ は一 見 、 人格 を 目 的 と して 扱 う こ と を要 求 し、 手 段 と して 扱 う こ と は戒 め る ヵ ン ト倫 理 学 の 人 格 論 と矛 盾 す る か の よ うに 思 え る。 だ が 、 親 の 子 に対 す る権 利 は物 権 ゐ 占有 と の 違 い が あ り、 「両 親 の 権 利 は た ん な る物 権 で は な く、 した が っ て 譲 渡 す る こ とは で き な い」 の で あ る。 そ こで カ ン トは、 前 節 で触 れ た よ う に、 物 権 と債 権 に加 え て 「物 権 的 債 権 」 と い う概 念 を提 示 し、論 理 的矛 盾 を克 服 して い る の で あ る。 5.家 長 権 と奉 公 人 一 つ の新 た な 家 族 の誕 生 は 結 婚 に よ って 始 ま る が こ れ を生 殖 家 族 とい い 、 そ こで出産 ・養 育 さ れ る子 ど も側 か ら見 た場 合 は 定 位 家 族 とい う。 定位 家 族 の 中 で 育 っ た子 ど も は や が て 結 婚 し、 新 た な 生 殖 家 族 を 形 成 す る 。 カ ン トは こ の よ う な 家 族 周 期 に触 れ 、 「家 の子 は 、 両 親 と と も に 一 つ の家 族 を構 成 す るが 、 自分 た ち の これ まで の依 存 関 係 を解 消 す る そ の よ う な契 約 も な しに 、 自分

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た ち の 生 計 を 立 て る 能 力 を獲 得 」 す る だ け で 「成 人(maiorennes)す な わ ち 自分 自 身 の 主 人 (suiiuris自権 者)」 に な り、 家社 会 が 解 消 され る と述 べ て い る。 そ して 、 親 子 関 係 は新 た な 局 面 へ と変 性 し、 「両 親 と子 の 双 方 は 、 実 際 に は こ れ まで と 同 じ家 を維 持 で きる が 、 義 務 を負 う形 は異 な っ て い る 。 つ ま り家 長 と奉 公 人(家 の僕 碑)と い う結 合 」 と な る 。 カ ン トは、 か か る結 合 に よる 家 社 会8)を 家 長 社 会(societasherilis)」 と呼 び 、 こ れ は 契 約 に よ っ た 結 合 で あ る と して い る 。婚 姻 は両 性 の平 等 な共 同体 で あ っ た が 、 家 社 会 は 「契 約 に よ っ て家 長 は 成 人 に な っ た 子 と、 あ る い は家 族 に子 が な け れ ば他 の 自 由 な 人格(家 人)と 結 合 して 設 立 す る もの で あ り、命 令 者 た る 家 長 と服 従 者 た る奉 公 人 か らな る不 平 等 な社 会 で あ る と して い る(Kant1797ニ2002:116-117)。 カ ン トは奉 公 人 に つ い て 、 「奉 公 人 は 家 長 の 自分 の も の に 属 す る 。 そ れ も形 式(占 有 状 態)に つ い て言 えば 、 物 権 に 属 して い る の と 同様 で あ る 。 とい う の も、 奉 公 人 が 自分 の も とか ら逃 げ出 せ ば、家 長 は 一 方 的 選 択 意 志 に よ っ て 自分 の 支 配 力 の も と に連 れ も どす こ とが で き るか らで あ る 」 (Kant1797ニ2002:117)と しつ つ も、 実 質 的 に は奉 公 人 に対 して 家 長 は 奴 隷 所 有 者 と 同 じよ う に振 舞 う こ と はで きな い と言 う。 そ れ は、 家 長 の 支 配 力 が 契 約 に基 づ く もの で あ る こ とに起 因 す る9)。 カ ン トに よ れ ば 、 契 約 とは 「二 人 の 人 格 の 統 合 され た選 択 意 志 に よ っ て 、 一 般 に あ る 人 の 自分 の もの を他 の 人 へ 移 す 作 用 」 で あ る(Kant1797=2002:102)。 した が っ て 、 「契 約 で あ るか ら に は 、 そ れ に よ って 一 方 が他 方 の た め に一 切 の 自由 を放 棄 し、 つ ま りは 人 格 で あ る こ とを止 め 、 したが っ て契 約 を守 る義 務 も な くな り、 た だ 暴 力 だ け を認 め る 、 とい うの は 自己 矛 盾 」 す る こ と に な る。 こ の よ う に、 カ ン トは 奉 公 人 を家 族 の 中 に 組 み 込 ん で い る。 これ は奉 公 人 を含 め た大 家 族 こそ が 家 族 で あ る と い う、 当 時 の 現 実 的 な家 族 形 態 の反 映 で あ る と考 え られ る 。 こ う した 広 範 な 家 族 概 念 は 、小 規模 な近 代 家 族 と異 な る前 近代 的 な伝 統 家 族 の特 徴 で あ る。 こ こで 、 カ ン トの家 族 観 の ベ ー ス と な る家 族 の 実 態 を家 族 史 研 究 か ら整 理 して お こ う 。 ミ ッテ ラ ウ ア ー と ジ ー ダ ー は 、 ドイ ッ の 「家 」 の用 語 使 用 に つ い て 、 次 の よ う に述 べ て い る1°〉。 「ドイ ツ語 の 『家(フ ス)』 な い しハ ウ ス は 包 括 的 な古 い 意 味 を も ち 、 建 物 と同 時 に そ こ に住 む 社 会 集 団 を も意 味 し てい た 。 そ う した理 解 で 「家 」 は 一 八 世 紀 まで 一 般 的 に使 用 され 、 したが っ て前 工 業 時 代 の 全 体 に わ た っ て 、 こ の 意 味 で の 社 会 形 態 を 表 わ す 中 心 的 言 語 で あ っ た 」(Mitterauer& Sieder1977=1993:9)。 こ こで 、 「建 物 と して の 家 とい う意 味 を も たず 、 そ の な か に暮 らす 人 間 の 団体 」 と言 っ て い る の は 、奉 公 人 の存 在 が あ る か らで あ る 。 ま た 、 彼 らは 「家 」 の語 義 変 化 につ い て 「中 世後 期 や 近 世 で さ え、 ドイ ツ語 に は親 子 集 団 を示 す 固有 の 言 葉 が 欠 けて い た 。現 在 で は世 帯 共 同体 の 視 点 で家 族 と理 解 され 、 社 会 学 者 が い っ そ う 正 確 に核 家 族 や小 家 族 と特 徴 づ け て い る もの で あ る」、 「言 葉 が なか っ た か ら とい っ て 、 現 在 の小 家 族 に対 応 す る社 会 関 係 が 存 在 し て い な か っ た とみ る こ とは で きな い 。 も ち ろ ん 、 そ の よ う な社 会 関係 は 同 じ よ う に存 在 して い た が 、 そ れ は親 子 関 係 に は 限 定 され ず 、 も っ と広 い 関係 へ と及 び 、 こ の広 い 関係 こそ 重 要 な社 会 的小 集 団 とみ る こ とが で きる の で あ る」 と述 べ て い る よ う に、 「家 」 の概 念 は 下 男 ・下 女 ・職 人 ・徒 弟 と い っ た 奉 公 人 を含 む 、 広 範 囲 な も の で あ っ た(Mitterauer& Sieder1977=1993:7)o あ る い は ヴ ェ ー バ ー=ケ ラ ー マ ン に よ れ ば、18世 紀 ドイ ツ で は 「大 所 帯 家 族 は ま さ に 中 世 以 来 徐 々 に 、市 民 層 にお い て も農 民 層 に お い て も集 団 生 活 の 主 要 な基 本 形 式 」 とな り、 修 道 院 が な く な っ た た め 未 婚 女 性 も 、 そ し て 子 守 女 や 下 女 家 族 に 組 み 込 ま れ る よ う に な っ た と い う (Keilermann1974=1991:80)。 こ う した ドイ ツ に お け る奉 公 人 は 、 中世 ドイ ツ の 法 書 で あ る ザ

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ク セ ン シ ュ ピ ー ゲ ル に 規 定 が 見 ら れ る こ と か ら 、12世 紀 な い し13世 紀 に は 農 村 に 存 在 し て い た と 推 測 さ れ る 。 当 時 の 社 会 シ ス テ ム は 封 建 的 な 農 奴 制 で あ り 、 世 襲 隷 民 制(Erubuntertanigkeit) に よ る 強 制 奉 公(Gesindezwangsdienst)が 行 わ れ て い た(若 尾1986:45-50)。 こ の 強 制 奉 公 が 自 由 奉 公 へ と 移 行 し た の は 、 カ ン トが 生 き た18世 紀 に な っ て か ら で あ る 。 カ ン トは こ う し た 現 実 的 条 件 か ら 家 族 の 範 囲 に 奉 公 人 を 入 れ た と 考 え ら れ る が 、 そ う し た 家 社 会 は 「不 平 等 な社 会 」 な の で あ る 。 6.お わ り に か つ て 法 社 会 学 者 の 川 島 武 宜 は 、 カ ン トの婚 姻 法 を論 じた論 文 「近 代 的婚 姻 の イ デ オ ロ ギ ー 」 の 中 で 、 「カ ン トの法 哲 学 の 理 論 は 、 法 哲 学 の 基 礎 づ け の部 分 に お い て そ の 偉 大 さ を示 し大 きな 功 績 を残 した が 、 そ の基 礎 上 に立 っ て の体 系 の展 開 にお い て は 比 較 的貧 弱 で あ り、 む し ろ人 を し て 失 望 させ る」、 「彼 の法 哲 学 理 論 の 内容 、 特 に私 法 の 部 分 は 、 た しか に独 創 性 に お い て劣 っ て い る と言 え る で あ ろ う」 と述 べ た(川 島1951=1957:236)。 確 か に、 これ ま で の 論 考 か ら解 る 通 り、 カ ン トの家 族 法 理 論 は他 の 領 域 に比 して貧 弱 な もの で あ り、 独 創 性 も乏 しい と言 わ ざ る を得 ない 。 だ が 、 現 在 の 近 代 家 族 論 の 知 見 か ら照 射 して 見 る な らば 、 時 代 背 景 ・社 会 状 況 を反 映 した い くつ か の 先 駆 的 内 容 と、 中 世 以 来 の伝 統 社 会 の 名 残 りを垣 間 見 る こ とが で きる 。 こ こで 、 そ の 理 論 的 な 特 質 に つ い て指 摘 して お きた い 。 まず 、 カ ン トの 婚 姻 論 で あ るが 、 そ の 特 質 は法 的 保 護 に基 づ く男 女 の 性 交 関 係 で あ り、 一 夫 一 婦 制 を容 認 し て い る こ と にあ る 。 川 島が 、 「カ ン トの 婚 姻 理 論 は 露 骨 で且 つ 突 飛 な表 現 にみ ち て お り、 且 つ 婚 姻 にお け る ロ マ ン テ ィ ッ ク な要 素 を む ざ ん に も切 りす て て い る」 と言 う よ う に 、 カ ン トの婚 姻 法 で は、 近 代 家 族 の 重 要 な 要 素 の一 つ で あ る夫 婦 間 の 「愛 隋」 に よ る結 合 とい う思 想 の 基 盤 は 見 られ ない 。 こ の 点 はヘ ー ゲ ル に待 た な け れ ば な ら ない の で あ る。 ま た 、 親 権 と して 親 子 の権 利 ・義 務 関 係 が 説 か れ て い るが 、 これ は婚 姻 か ら規 定 され る もの で あ り、 や は り親 子 間 の 「愛 情 」 イ デ オ ロ ギ ー を看 取 す る こ と は で きな い 。 次 に 、 家 族 と家 社 会 との分 離 とい う視 点 の存 在 で あ る。 成 人 した子 ど もや 奉 公 人 との 関係 は 契 約 に基 づ く もの と さ れ 、 家社 会 の 法 ・権 利 と して 家 族 と して は不 平 等 な 関 係 と して位 置 付 け られ て い る 。 こ の 点 に つ い て は、 ドイ ツ法 学 者 の石 部 雅 亮 が 、 「す で に 自然 法 論 は 、 夫 婦 、 親 子 と主 人 ・奉 公 人 関係 の 異 質 性 を意 識 し始 め て い たが 、 そ の 傾 向 が この 本 来 的 ・非 本 来 的 家 の 区別 に現 わ れ て い る とい え よ う 。 そ して こ れ は カ ン トに お け る家 社 会 と家 族 の 分 離 の先 駆 で も あ る」 と評 して い る(石 部1992:222)。 最 後 に 、 カ ン トの 理 論 構 築 の 方 法 に 関 して触 れ て お きた い 。 カ ン トの 家 族 法 理 論 は現 実 社 会 の 状 況 か ら帰 納 した の で は な く、 人 格 や物 権 的債 権 とい っ た基 礎 概 念 か ら論 理 的 に導 き 出 して い る 。 川 島 も、 「彼 が そ れ を な し とげ た方 法 は 、 言 う ま で も な く社 会 的 経 済 的 或 い は 政 治 的 な 現 実 の 諸 条 件 との 関 連 に お い て 一夫 一 婦 制 の必 然 性 や 合 理 性 を説 明 す る とい う しか た で は な く して 、 一 定 の 前 提 か ら 出発 して純 粋 に先 験 的 に論 理 的 に展 開 す る とい う しか た で あ る」 と述 べ て い る 。 た だ 、 基 本 的 に カ ン トは純 論 理 的 に理 論 を組 み 立 て る 方 法 を とる の だが 、 ヘ ー ゲ ルが 言 う よ う に哲 学 は 「時 代 の 哲 学 」 と い う性 質 を持 た ざ る を得 ず 、 部 分 的 に現 実 的状 況 を 取 り込 む とい う 「ゆ ら ぎ」 が み られ 、 こ れ は家 族 法 理論 に も妥 当 す る と思 わ れ る。 とこ ろ で 、 ミ ッ テ ラ ウ ア ー は京 都 大 学 で の講 演 原 稿 で 、 産 業 革 命 以 後 の ヨー ロ ッパ の家 族 関 係

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の 変 化 につ い て 六 つ の テ ー ゼ を あ げ て い る 。 そ の 第 一 テ ー ゼ で、 「『産 業 革 命 』 は この 時 代 の他 の 革命 と同 様 、 そ の 直 接 の 影 響 に よ っ て 家 族 発 展 を大 き く左 右 す る とい う こ とは そ れ ほ ど あ りま せ ん で した 。1800年 こ ろ の 時 代 につ い て ラ イ ンハ ル ト ・コ ゼ レ ッ クが 、 全 般 的 な歴 史 的 発 展 を考 慮 して 『鞍 部 の 時代 』 〔近 代 へ の 転 換 点 〕 を提 唱 しま した が 、 この 時 期 の 家 族 の 社 会 史 に お い て は認 め ら れ ませ ん 。 世 紀 転 換 期 を通 じて 変 化 の 契 機 よ り も連 続 性 の 方 が は る か に多 い の で す 」 と 述 べ 、 近 代 初 期 にあ っ て も中 世 的 な家 族 が 継 承 され て い る こ と を指 摘 して い る。 カ ン トの 思 想 は 、 ま さ に こ う した プ ロ イ セ ン の 家 族 が 近 代 化 す る過 渡 的 段 階 な い しは 移 行 期 の初 期 段 階 に あ っ て 、 次 に登 場 す るヘ ー ゲ ル家 族 論 の プ レ リュ ー ドで あ っ た と言 え るの で は な い だ ろ うか 。 〔注 〕 1)本 稿 は も と も と 、 カ ン ト とヘ ー ゲ ル の 家 族 論 を 近 代 家 族 の 実 態 を 踏 ま え て 比 較 検 討 す る 予 定 で あ っ た が 、 予 想 以 上 に 分 量 が 多 く な り、 紙 幅 の 関 係 もあ っ て 前 半 部 分 を独 立 させ た 。 後 半 の ヘ ー ゲ ル 家 族 論 に 関 して は 、 他 日 、 別 稿 を提 出 した い 。 2)カ ン ト と一 般 ラ ン ト法 の 関 係 につ い て 、 石 部 雅 亮 は 次 の よ う に 述 べ て い る 。 「プ ロ イ セ ン ー 般 ラ ン ト 法 の 編 纂 者 と同 時 代 に 生 き た カ ン ト(Kant,Immanuel)は 、 そ の 婚 姻 概 念 の 人 間 学 的 前 提 に つ い て は 啓 蒙 期 自然 法 論 に よ り な が ら、 こ れ を 克 胆 した 画 期 的 な 婚 姻 理 論 を定 立 した 。 そ れ が 『近 代 的 一 夫 一 婦 制 』 を 基 礎 づ け る婚 姻 イ デ オ ロ ギ ー で あ っ た こ と は 、 多 くの 人 々 の指 摘 す る と こ ろ で あ る 。 カ ン トの 理 論 は 人 聞 性 と い う前 提 か ら論 理 的 演 繹 に よ り先 験 的 に 導 き出 され た もの で あ るが 、 そ の 理 論 の 革 新 性 は、 プ ロ イ セ ン 国 家 の 実 定 法 で あ っ た 一 般 ラ ン ト法 と対 照 さ せ る こ と に よ っ て 、 一 層 明 らか に な る 」 (石 部1974:289)。 3)法 制 上 は 、 一 般 ラ ン ト法 で 婚 姻 に 関 し て 「第 二 部 第 一 章 婚 姻 に つ い て 」 の1∼1131条 に よ って 規 定 さ れ て い る(若 尾1996:28-29)。 4)カ ン トは恋 愛 につ い て は触 れ て い な い が 、 内 縁 関 係 につ い て 、 「人 格 の貸 借 」 「賃 貸 契 約 」 で あ り法 的 に安 定 した 契 約 で は な い 、 と 言 及 して い る 。 5)一 般 ラ ン ト法 の 編 纂 者 で あ る ス ヴ ァ レ ツ は 、 妻 は 「夫 の す べ て の 運 命 へ の 参 加 者 、 身 分 や 職 業 の す べ て の 特 権 と負 担 の 共 同 者 、 台 所 や 家 計 ば か りで な く、 職 業 活 動 の 大 部 分 に つ い て も補 助 者 で あ る 」 と 述 べ て い る(石 部1992:223)。 実 際 の 家 族 で は 、 カ ン トの 理 念 と は 異 な り、 夫 権 が 強 か っ た 。 6)ピ エ テ ィ ス ム ス(敬 虔 主 義)は 、17世 紀 に ル タ ー 派 が 受 動 的 に な っ た こ と か ら登 場 した 。 集 会 や 教 会 の活 動 に積 極 的 ・主 体 的 に参 加 す る こ と を特 徴 とす る 。 カ ッ シ ー ラ ー は カ ン トが 「信 心 の 規 則 化 や 機 械 化 に 対 し て 嫌 悪 の 感 情 を抱 い て い た 。 彼 に と っ て ピエ テ ィ ス ム ス が そ の 典 型 とみ られ る 時 に は 、 そ の 嫌 悪 感 は 一 層 強 か っ た 」 と述 べ 、 「宗 教 の 外 的 現 象 形 態 の す べ て か ら分 離 」 して い た と指 摘 して い る 。 い わ ば 宗 教 と は 心 理 的 な 距 離 を と っ て い た の だ が 、 「彼 の 本 質 と将 来 の 発 展 と を根 本 か ら特 色 づ け る」 と い う重 要 な 陶 冶 で あ っ た こ と に は 変 わ りな い(Cassirer1922=1918:16-18)。 7)フ リ ー ド リ ヒ 学 院 は 、 ピ エ テ ィ ス ム ス で あ る テ オ ドア ・ゲ ー ル が1698年 に 設 立 した 。 フ リ ー ド リ ヒ1 世 が 即 位 して か ら王 立 と な り、 カ ン トは1732年 に入 学 して い る 。 8)石 部 雅 亮 は 、 家 概 念 の重 要 性 は失 わ れ た が 「家 社 会 」 は 規 定 用 語 と し て用 い ら れ て い る と して い る と 述 べ て い る 。 家 社 会 の 定 義 は 、 「夫 婦 、 親 子 の 結 合 が 本 来 家 社 会 を 形 成 す る 」 「た だ し奉 公 人 も ま た 家 社 会 の 成 員 とみ な さ れ る」 と い う もの で あ る(石 部1992:222)。 9)東 プ ロ イ セ ン で は す で に1773年 に 「不 定 量 の 奉 仕 を お こ な う こ と を 拒 否 す る 権 利 」 を有 す る と い う 令 が 出 さ れ て い る 。 周 知 の よ う に 、 当 時 の ドイ ツ は 多 数 の 国 か ら成 る 領 邦 国 家 で あ り、 地 域 格 差 が 著 し く、 奉 公 人 令 も一 律 で は な か っ た 。 奉 公 人 令 の 集 大 成 は 、 こ の 一 般 ラ ン ト法 に よ っ て な され た(若 尾1986:95-96)。 プ ロ イ セ ンー 般 ラ ン ト法 で は 、 第 二 部 第 五 章176ヶ 条 に お い て 「雇 主 と奉 公 人 の 権 利 義 務 」 と し て 、 「通 常 の 奉 公 人 」 「家 令(Hausoffiziant)と 教 育 者 」 「奴 隷 」 の 三 章 を規 定 し て い る 。

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若 尾 祐 司 は 、 か か る奉 公 人 の 概 念 の 範 疇 を 「第 一 に 、 労 働 内 容 が 原 則 的 に 特 化 さ れ な い 。 第 二 に 、 生 命 の 危 機 に つ な が る よ う な 虐 待 は 法 的 に 正 当 化 さ れ な い 。 第 三 に 、 前 借 金 や 購 入 と い っ た 形 で 人 身拘 束 され る も の で は な い 。 第 四 に 、 衣 服 と食 事 だ け を与 え られ る よ う な 無 償 労 働 で は な く、 貨 幣 換 算 さ れ う る 固 定 額 の ロ ー ンが あ らか じ め 決 ま っ て い る と い う意 味 で の 有 償 労 働 で あ る 」 とい う よ う に 、泗 点 に 整 理 して い る。(若 尾1986:) 10)ミ ッ テ ラ ウ ア ー と ジ ー ダ ー は 、 ラ テ ン語 の 「フ ァ ミ リ ア 」 が 一 つ 屋 根 の 下 に暮 ら す 人 々 の 意 か ら変 化 し 、 ドイ ツ 語 の 「フ ァ ミー リ エ 」 へ と生 成 し た 要 因 と し て 四 点 を挙 げ て い る。 そ れ は 、 第 一 に 「職 住 の 分 離 と、 これ に 条 件 づ け ら れ る 職 業 圏 と私 生 活 圏 の 分 離 」、 第 二 に宗 教 改 革 の 影 響 下 で の 親 子 関 係 の 深 ま り、 第 三 に 「家 メ ン バ ー の 狭 い 共 同 体 か ら、 奉 公 人 が 切 り離 さ れ る。 そ れ ま で の 個 人 的 な 奉 公 関係 が 契 約 関 係 と な り、 奉 公 人 の 家 族 へ の 統 合 が ゆ る め ら れ る。 個 人 的 な奉 仕 義 務 は 、 ま す ま す 自 由 な 労 働 契 約 に 席 を 譲 る 」、 第 四 に 「家 族 の み か ら な る 世 帯 が 数 多 く成 立 す る 」 と い う も の で あ る (Mitterauer&Sieder1977=19938-9)o 〔文 献 〕 Aries,Philippe,1960,L'Enfantetlaviefamilialesousl'AncienRegime,Plon.(=1980杉 山 光 信 ・杉 山 恵 美 子 訳 『〈 子 供 〉 の 誕 生 一 ア ン シ ャ ン ・レ ジ ー ム 期 の 子 供 と 家 族 生 活 』 み す ず 書 房) Cassirer,Ernst,1918,KantsLebenandLehre,verlegtBrunoCassirer,Berlin.(=1986門 脇 卓 爾 ・高 橋 昭 二 ・浜 田 義 文 翻 訳 監 修 『カ ン トの 生 涯 と 学 説 』 み す ず 書 房) Hegel,G.W.F.,1819/20,PhilosophydesRecht.DieVorlesungvon1819/20ineinerNachschrift.Herausgebenvon DieterHenrich,SuhrkampVerlage1983.(=2002中 村 浩 爾 ・牧 野 広 義 ・形 野 清 貴 ・田 中 幸 世 訳 『ヘ ー ゲ ル 法 哲 学 講 義 録1819/20』 法 律 文 化 社.) ,1824/25,PhilosophiedesRechtsnachderVorlesungsnachschriftKG.v.Griesheims,herausge,v.K.-H.Ilting.(=2000長 谷 川 宏 訳 『法 哲 学 講 義 』 作 品 社.) 堀 米 庸 三,1974,「 中 世 の 家 族 観 」(青 山 道 夫 ・竹 田 亘 ・有 地 亮 ・江 守 五 夫 ・松 原 治 郎 編 『講 座 家 族8.家 族 観 の 系 譜 』 弘 文 堂,所 収). 石 部 雅 亮,1969,『 啓 蒙 的 絶 対 主 義 の 法 構 造 一 プ ロ イ セ ン ー 般 ラ ン ト法 の 成 立 一 』 有 斐 閣. ,1974,「 プ ロ イ セ ン 国 家 の 家 族 観 」(青 山 道 夫 ・竹 田 亘 ・有 地 亮 ・江 守 五 夫 ・松 原 治 郎 編 『講 座 家 族8.家 族 観 の 系 譜 』 弘 文 堂,所 収). ,1992,「 一 八 世 紀 ド イ ツ に お け る 『家 長 権 』 の 観 念 に つ い て 」(比 較 家 族 史 学 会 監 修 『家 と 家 父 長 制 』 早 稲 田 大 学 出 版 会,所 収). Kant,Immanuel,1785,GrundlegungzurMetaphysikderSitten.(・2000平 田 俊 博 訳 『人 倫 の 形 而 上 学 の 基 礎 づ け 』 カ ン ト全 集7巻,岩 波 書 店.) ,1797,DieMetapysikderSitters.(=2002樽 井 正 義 ・池 尾 恭 一 訳 『人 倫 の 形 而 上 学 』 カ ン ト全 集11 巻,岩 波 書 店,所 収.) 川 島 武 宣,1951,「 近 代 的 婚 姻 の イ デ オ ロ ギ ー 」(=1957『 イ デ オ ロ ギ ー と し て の 家 族 制 度 』 岩 波 書 店,所 収). Kellermann,IngeborgWewer,1974,DieDeutscheFamilie.VersucheinerSozialgeschichte,Frankfurta.M・(=1991鳥 光 美 緒 子 訳 『ド イ ツ の 家 族 一 古 代 ゲ ル マ ン か ら 現 代 一 』 勁 草 書 房.) 三 成 美 保,2005,『 ジ ェ ン ダ ー の 法 史 学 一 近 代 ドイ ッ の 家 族 と セ ク シ ュ ア リ テ ィ ー 』 勁 草 書 房 Mitterauer,Michae1,1990,Historisch-anthropologischeFamilienforschung.FragestellungenandZugangsweisen, Wien1K61n.(=1994若 尾 祐 司 ・服 部 良 久 ・森 明 子 ・肥 前 栄 一 ・森 謙 二 訳 『歴 史 人 類 学 の 家 族 研 究 一 ヨ ー ロ ッ パ 比 較 家 族 史 の 課 題 と 方 法 一 』 新 曜 社.) ,1991,「 ヨ ー ロ ッパ 家 族 史 の 特 色 一 奉 公 人 制 度 に 重 点 を お い て 」(=1994『 歴 史 人 類 学 の 家 族 研 究 一 ヨ ー ロ ッ パ 比 較 家 族 史 の 課 題 と 方 法 一 』 所 収).

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Mitterauer,Michael&Sieder,Reinhard,1977,VomPatriarchatzurPartnershaft.ZumStrukturwandelderFamilie . (=1993若 尾 祐 司 ・若 尾 典 子 訳 『ヨー ロ ッ パ 家 族 社 会 史 一 家 父 長 制 か らパ ー トナ ー 関 係 へ 一 』 名 古 屋 大 学 出 版 会.) 中 島義 道,2006,『 カ ン トの 法 論 』 筑 摩 書 房(ち く ま学 芸 文 庫). 大 竹 信 行,2004,「 カ ン ト法 論 に お け る 『福 祉 』」 『白 山社 会 学研 究 』12:31-40. ,2006,「 カ ン ト法 論 に お け る 『国 家 』 に つ い て 」 『高 崎 商 科 大 学 紀 要 』21:193-199. ・堀 口 久 五 郎,2005,「 カ ン ト倫 理 学 に お け る 『幸 福 』 一 批 判 期 以 後 の 徳 論 か ら一 」 『入 間 科 学 研 究 』(文 教 大 学 人 間 科 学 部)25:113-121. 落 合 恵 美 子,2004,『21世 紀 家 族 へ(第3版)』 有 斐 閣(宥 斐 閣 選 書). 坂 井 榮 八 郎,1996,「 一 六 四八 年 以 後 の 帝 国 と領 邦 」 「18世 紀 ドイ ツ の 文 化 と社 会 」(『世 界 歴 史 体 系 ドイ ッ 史2-1648年 ∼1890年 一 』 山川 出 版 社,所 収). Segalen,Martine,1981,SociologiedelaFamilie,ArmandColin.(ニ1987片 岡 陽 子 ・木 本 喜 美 子 ・国 領 苑 子 ・柴 山 瑞 代 ・鈴 木 峰 子 ・藤 本 佳 子 訳 『家 族 の 歴 史 人 類 学 』 新 評 論.) Shorter,Edward,1975,TheMakingoftheModernFamily.(=1987田 中 俊 宏 ・岩 橋 誠 一 ・見 崎 恵 子 ・作 道 潤 訳 『近 代 家 族 の 形 成 』 昭和 堂.) 常 岡 史 子,1992,「 ドイ ツ 民 法 典 へ の 強 制 的 『民 事 婚 』 と有 責 主 義 的 離 婚 制 度 の 導 入 一 国 家 と教 会 の 相 剋 と そ の 止 揚 一 」(石 部 雅 亮 編 『ドイ ツ民 法 典 の編 纂 と法 学 』 九 州 大 学 出 版 会,所 収). 若 尾 祐 司,1986,『 ドイ ツ 奉 公 人 の社 会 史 一 近 代 家 族 の 成 立 一 』 ミ ネ ル ヴ ァ書 房 ,1996,『 近 代 ドイ ツ の 結 婚 と家 族 』 名 古 屋 大 学 出 版 会. 山 田 昌 弘 編,2001,『 家 族 本40』 平 凡 社.

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