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20世紀の名著名論:高橋秀俊 石橋善弘: 電子計算機によるexactな計算の新方法(modulo p 演算の応用)情報処理Vol.1 No.2 (1960) pp.78-86

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Academic year: 2021

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(1)MIT Press, 1985 この本は MIT(マサチューセッツ工科大学)の電子工. 使ったりしているが,教科書としては 2 回ほどこの第 1. 学科と計算機科学科に入学してきた学生が必修で学ぶ. 版の日本語訳(上下 2 巻)の上巻を使ったことがある.. プログラミングの教科書である.UCB(カリフォルニ. ところが,本書の例題のほとんどが数学的な例で,文. ア大学バークレイ校)など全米の主要大学で,この教. 系の学生が多い SFC では,その内容理解に余分な負担が. 科書を採用しているところも少なくない,と聞く.講. かかることから,残念ながら,その後は教科書として. 義が始まったのが 1978 年で,第 1 版の本が 1985 年に出. 使うことは諦めた.現在では,その精神を活かした独. 版されている.. 自のオンライン教材に,一般的な Lisp の参考書を併用し. 前書きによるとこの科目の狙いは 2 つある.第 1 に計. ている.. 算機言語は単にコンピュータを動かすもの,というよ. 本書は 5 章構成で,手続き抽象化,データ抽象化,部. りも方法論に基づくある種の考えを表現するものだ,. 品化とオブジェクト,メタ言語抽象,レジスタ計算機. という点.第 2 に,プログラミングの構文,アルゴリズ. による計算,となっている.手続き抽象化の中では,. ムとその分析,計算の基礎を教えるのではなく,大規. 繰り返しをループではなく再帰で表現するところがユ. 模なソフトウェアの複雑さをどのようにまとめるか,. ニークであり,また,高階手続き(引数や結果が手続. が大切,としている点.その意味では,世の中で一般. きである手続き)も Lisp らしい特徴だ.データ抽象も,. に行われている,いわゆる「プログラミング」の教育. 構造体を導入することなく,リスト構造により構造が. の多くとは趣旨が違う.. 自然に導入される.また新しい構造に対する演算もそ. この考え方は Sussman の弟子でもあるGuy Steele , Jr.に. のデータ構造に対する手続きをジェネリックに定義で. よるところが大きい.また,本書で用いられている言. きる.部品化とオブジェクトの章では,制約指向や遅. 語 Scheme は,彼と Sussman が共同開発したものである.. 延評価の考えも紹介される.制約指向を用いると可逆. Scheme は Lisp の方言の 1 つであるが,非常にエレガント. 的な計算が,また遅延評価を用いると無限のストリー. で教育や研究によく使われる言語である.彼の初. ムに対する有限な計算がそれぞれ可能になる.さらに,. 期 の 考 え は , MIT AI メ モ に そ の 片 鱗 が 残 っ て い る. Lisp の処理系の内部構造を Lisp 自身のメタな記述により. (http://library.readscheme.org/page1.html).彼の名前を聞. 理解することができる.このようにプログラミングの. くとCommon Lispを思い浮かべる人も多いであろう.. 抽象化を通して,さまざまなプログラミングパラダイ. 私自身は 1985 年頃民間会社の研究所にいて,ちょう. ムも学ぶことができる.. ど高速 Lisp の研究開発を行っており,Lisp や関数型言語. 第 1 版に対する日本語訳はしばらく絶版になってい. のプログラミングにも興味を持ち,Guy Steele の AI メモ. て,ぜひ再版して欲しいと願っているうちに,原著の. などを読みあさっていた.その集大成として出たのが,. 第 2 版が 1996 年に出版された.第 2 版では,並列性や非. 本書である.その頃は,Lisp マシンの開発,Lisp 処理系. 決定性などの節が追加された.この第 2 版に対する和田. の開発もさかんに行われていた.この第 1 版の日本語訳. 英一氏の訳が,2000 年に出版された.こちらは 1 冊にま. を 1989 年に刊行したのが,当時の電総研(現在の産総. とまっており利用しやすい.. 研)の元吉文男氏であった.. Minsky の「コンピュータはバイオリンだ」という言. 私は 1990 年から現在の所属である慶應 SFC で教鞭を. 葉が前書きにある.楽器に詳しくなるよりも,きれい. 執ることになり,そこでは 1 年生全員にプログラミング. な音楽が奏でられるようになりたいものだ.. 教育を行い,2 年生以上に対しては選択式で Lisp や Prolog なども教えることとなった.この Lisp のプログラミ. (平成14年3月9日受付). ング科目では,言語として,Common Lisp,Scheme を. 安村通晃/慶應義塾大学 環境情報学部 [email protected]. 43巻5号 情報処理 2002年5月. −1−.

(2) Prominent Books and Articles in the 20th 20 Century. 情報処理,Vol.1, No.2(1960-9), pp.78-86. Information Processing in Japan, Vol.1(1961), pp.28-42 現在では modular arithmeticとか Chinese remainder theo-. の理解,紹介で済ますのにはもったいない多くの内容,. rem とかいう言葉は計算機科学,数値計算の世界ではよ. あるいは示唆が含まれているように見える.さすがに. く知られているが,そんなものが単なる数学(整数論). 高橋先生は高橋先生である.当時だって,modular arith-. の世界の浮世離れした観念的な遊戯であるかと多くの. metic およびその応用について似たような着想を持った. 人が思っていた頃公表された上記の論文は,非常に新. 人がなかったとは言えまい.しかし,この論文には. 鮮な感じを当時我々に与えたのではなかろうか.日本. “参考文献”がない.つまり,ごく当たり前の数論の基. 語版,英語版とも表題に示すところにそれぞれ掲載さ. 礎だけ知っていれば分かるように書かれている.故高. れている.2 つの論文は本質的には同内容であるが,説. 橋先生はよく言っておられた:「あなたは自分の考え. 明の仕方や誤植は微妙に両者で異なるところもある. が新しいと思っているかもしれないが,そんなことは. (実はそれより前“プログラミングシンポジウム報告集”. 文献に書いてあろうがなかろうが誰でもちょっと考え. にもその原型が発表されているそうである) .. れば分かることですよ.既発表の論文がないというこ. ここに展開されている手法は,基本的には,大きな. とは,その考えが新しいからではなく,あまりにも当. 整数の和,差,積をとる演算がそれらを整数 p で割った. たり前のことだからでしょう.」などと.しかし,この. ときの剰余についても同じ形をしているということに. 論文は違う.ここには Chinese remainder theorem などと. 注目すれば,剰余を扱うことによってすべて p 以下の数. 言わずに,より具体的に最も効率よくいくつかの剰余. だけの計算に帰着できること,そして p が素数ならばも. からもとの数を復活する方法が,計算の複雑さの評価. との数が割り切れるものならその商の剰余が剰余の方. とともに,挙げられている.応用として取り上げられ. の商に一致するという,数論ではよく知られた事実を. ている主題は,(1)逆行列の正確な計算法,(2)多項. 高精度計算に利用しようという着想から出発している.. 式の積や多項式要素の行列式の高精度計算,(3)整数. p が 1 つでは仕方ないが,いくつもの素数(それも 1 語. 論的調和解析(これは後に FFT と組み合わせて. 長に収まる範囲でなるべく大きいもの)を使って同時. “Numerical FFT”などと呼ばれるようになる),(4)複. 並行に計算するとその結果からもとの数が復活できる. 素数を用いない複素数計算,であるが,そのいずれに. という事実があるので嬉しいことになる.この復活法. ついても,慣用的な“多倍長計算”と比べてこの方法. が,Chinese remainder theorem と呼ばれるもので,近頃. がどのように優れているかが具体的に論じられている.. では“孫氏の定理”という人もいる.ちなみに,和算. つまり,通り一遍の理解を超えて,実際の計算をする. の“百五算盤”の原理と同じだそうである.斯界では. ときに遭遇する問題点が具体的に簡潔に論じられて. 知らない人のない有名な D. E. Knuth: The Art of Comput-. いる.. er Programmingの Vol.2にも「modular arithmetic のいくつ. 今でも,いや今だからこそ,このような論文を一読. かの応用が高橋・石橋の論文にある」というような通. する余裕を我々は持ちたいものである.. り一遍の紹介がある.. (平成14年4月4日受付). しかし,私には,この論文にはそのような通り一遍. 伊理正夫/中央大学理工学部 [email protected]. IPSJ Magazine Vol.43 No.5 May 2002. −2−.

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