20世紀の名著名論:高橋秀俊 石橋善弘: 電子計算機によるexactな計算の新方法(modulo p 演算の応用)情報処理Vol.1 No.2 (1960) pp.78-86
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(2) Prominent Books and Articles in the 20th 20 Century. 情報処理,Vol.1, No.2(1960-9), pp.78-86. Information Processing in Japan, Vol.1(1961), pp.28-42 現在では modular arithmeticとか Chinese remainder theo-. の理解,紹介で済ますのにはもったいない多くの内容,. rem とかいう言葉は計算機科学,数値計算の世界ではよ. あるいは示唆が含まれているように見える.さすがに. く知られているが,そんなものが単なる数学(整数論). 高橋先生は高橋先生である.当時だって,modular arith-. の世界の浮世離れした観念的な遊戯であるかと多くの. metic およびその応用について似たような着想を持った. 人が思っていた頃公表された上記の論文は,非常に新. 人がなかったとは言えまい.しかし,この論文には. 鮮な感じを当時我々に与えたのではなかろうか.日本. “参考文献”がない.つまり,ごく当たり前の数論の基. 語版,英語版とも表題に示すところにそれぞれ掲載さ. 礎だけ知っていれば分かるように書かれている.故高. れている.2 つの論文は本質的には同内容であるが,説. 橋先生はよく言っておられた:「あなたは自分の考え. 明の仕方や誤植は微妙に両者で異なるところもある. が新しいと思っているかもしれないが,そんなことは. (実はそれより前“プログラミングシンポジウム報告集”. 文献に書いてあろうがなかろうが誰でもちょっと考え. にもその原型が発表されているそうである) .. れば分かることですよ.既発表の論文がないというこ. ここに展開されている手法は,基本的には,大きな. とは,その考えが新しいからではなく,あまりにも当. 整数の和,差,積をとる演算がそれらを整数 p で割った. たり前のことだからでしょう.」などと.しかし,この. ときの剰余についても同じ形をしているということに. 論文は違う.ここには Chinese remainder theorem などと. 注目すれば,剰余を扱うことによってすべて p 以下の数. 言わずに,より具体的に最も効率よくいくつかの剰余. だけの計算に帰着できること,そして p が素数ならばも. からもとの数を復活する方法が,計算の複雑さの評価. との数が割り切れるものならその商の剰余が剰余の方. とともに,挙げられている.応用として取り上げられ. の商に一致するという,数論ではよく知られた事実を. ている主題は,(1)逆行列の正確な計算法,(2)多項. 高精度計算に利用しようという着想から出発している.. 式の積や多項式要素の行列式の高精度計算,(3)整数. p が 1 つでは仕方ないが,いくつもの素数(それも 1 語. 論的調和解析(これは後に FFT と組み合わせて. 長に収まる範囲でなるべく大きいもの)を使って同時. “Numerical FFT”などと呼ばれるようになる),(4)複. 並行に計算するとその結果からもとの数が復活できる. 素数を用いない複素数計算,であるが,そのいずれに. という事実があるので嬉しいことになる.この復活法. ついても,慣用的な“多倍長計算”と比べてこの方法. が,Chinese remainder theorem と呼ばれるもので,近頃. がどのように優れているかが具体的に論じられている.. では“孫氏の定理”という人もいる.ちなみに,和算. つまり,通り一遍の理解を超えて,実際の計算をする. の“百五算盤”の原理と同じだそうである.斯界では. ときに遭遇する問題点が具体的に簡潔に論じられて. 知らない人のない有名な D. E. Knuth: The Art of Comput-. いる.. er Programmingの Vol.2にも「modular arithmetic のいくつ. 今でも,いや今だからこそ,このような論文を一読. かの応用が高橋・石橋の論文にある」というような通. する余裕を我々は持ちたいものである.. り一遍の紹介がある.. (平成14年4月4日受付). しかし,私には,この論文にはそのような通り一遍. 伊理正夫/中央大学理工学部 [email protected]. IPSJ Magazine Vol.43 No.5 May 2002. −2−.
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