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生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連 : 「持続可能な消費」との関わりで

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(1)生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連. 97. 生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連 -「持続可能な消費」との関わりで- The Relationship between Life Environmental Study/Periods for Integrated Study and Environmental Education/ESD − Connected with Sustainable Consumption − 松葉口 玲子* 1.はじめに  2005 年から開始された「国連 ESD の 10 年」も終盤に入り、2014 年の最終年会合は提唱国であった日 本の名古屋市と岡山市で開催されることが決定している。新学習指導要領でも、「持続可能な社会」にむ けて環境教育や ESD の視点が盛り込まれ、各教科における ESD の実践もここ数年で飛躍的に増加した。 一方、従来から環境教育や ESD に携わってきた関係者からは、総合的な学習の時間の減少を嘆く声が聞 かれる。言い換えれば、固有の教科を持たない環境教育や ESD を実践するうえで、総合的な学習の時間 への期待はそれだけ大きいといえる。  日本における環境教育や ESD の実践においては、もともと生活科や総合的な学習の時間と親和性があ るとされてきた。このことは、ESD の国際的動向として「持続可能な消費」に関する議論の深まりが進 展しつつある一方で、日本ではこの必要性が明示されているにもかかわらず実際の展開は希薄であったと いう点でも共通している。しかし、現代日本社会における子どもたちは、消費社会におけるマーケティン グの最たる対象者であり、子どもの「生活」に目を向ければ、消費の問題は避けて通るわけにはいかない はずである。一時期「エンジェル係数」という言葉が流行ったほど、子どもへの出費を厭わない傾向にあ るなか、 「子どもの生活」という場合に、「消費者としての子ども」の視点を欠落させたままであれば、い くら環境教育や ESD を展開したところで、これらに関わる知識はあるものの自らの生活に活用する能力 にまでおよばないことが懸念される。     そこで本稿では、生活科および総合的な学習の時間と環境教育および ESD の関連について、特に国連 や OECD、北欧等で議論が活発な「持続可能な消費」に関わらせてみていきながら、その意義と課題につ いて考察したい。 2.生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD の関係 (1)新学習指導要領における環境教育・ESD  2006(平成 18)年に公布・施行された改正後の教育基本法においては、教育の目標の一つとして、 「生 命を尊び、 自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」 (第2条第4号)が新たに盛り込まれた。 この改正を受けて、 2007(平成 19)年に改正された学校教育法第 21 条 2 号には、義務教育の目標として、 「学 校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を 養うこと」が新たに規定された。また、現行新学習指導要領は、同年 11 月に中央教育審議会教育課程部 会から学習指導要領改訂に向けて示された「これまでの審議のまとめ」1)で環境教育および ESD に関わ る記述が数多く見受けられた ことを反映したものとなっている。各教科学習における「活用」を重視し、 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 生活科教育講座.

(2) 98. 松葉口 玲子. 教科横断型の問題解決学習や探究活動へ発展させることが強調されている一方で、総合的な学習の時間は 削減された。しかし、時間は削減されたものの、 「例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・ 総合的な課題」と、一つの例示でしかなかった「環境」が、その重要性を増してきていることも見てとれ る。同時に、ESD 的視点でみてみれば、もともと国際理解や情報、福祉・健康なども、すべてはつながっ ているということもできる。いずれにせよ、こうしたことを総合的に扱うことのできる時間が確保されて いることの意義は依然として変わりはない。  周知のとおり「総合的な学習の時間」は、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむため に既存の教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習をめざして創設された。今回の改定では、体験的な学 習に配慮しつつ、探究的な活動となるよう一層の充実を図ることから、目標に、 「探究的な学習」「協同的」 という総合的な学習の時間の要素を象徴する言葉が加えられた。同時に、教科との関連においては、基礎 的・基本的な知識・技能の定着や、これらを活用する学習活動は教科で行うことを前提とした。すなわち、 教科の目標や内容、指導方法等をふまえ、関連を図ることが一層重視されるようになったといえる。  総合的な学習の時間数は減少したものの、環境教育・ESD の比重が高まったといえるなかで各教科と の関係が明確化されたことの意義は大きい。 (2)生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD の関連− in, about, for の視点から−  生活科や総合的な学習の時間が新設された当初、環境教育関係者からは大きな期待が寄せられた。たと えば、 「具体的な活動や体験を通して身近な社会や自然とのかかわりに関心をもち、生活について考えさ せるとともに、生活上必要な習慣や技能を身に付けさせる」という生活科の目標と環境教育の目標は通底 するからである。また、 「総合的学習の時間」のねらいである「問題解決学習」と「主体的・創造的な探 究活動」は、環境教育がこれまで重視してきた学習活動と共通するからである。  生活科の目標は、先述のとおり「具体的な活動や体験を通して、自分の身近な人々、社会及び自然との かかわりに関心をもち、自分自身や自分の生活について考えさせるとともに、その過程において生活上必 要な習慣や技能を身に付けさせ、自立への基礎を養う」である。その英語名が、life environmental study であることが端的に示すとり、児童の生活・生命や取り巻く環境(社会・自然)、すなわち児童の生活圏 としての学校、家庭、地域を学習の対象や場とし、児童の生活から学習を出発させ、学習したことはまた 児童の生活に生きていくようにすることを大切にしている。活動や体験を通して、自分の思いや願いを生 かすことによって、楽しさや満足感・成就感を実感させる。そして、直接的体験を通して生ずるさまざま な気づきを通して、自ら自立の方向に変容していくことが期待されている。  生活科の学習内容を構成する際の3つの基本的な視点すなわち「自分と人や社会とのかかわり」「自分 と自然とのかかわり」「自分自身」は、常に「自分」を中心としている点が特徴であり、この点は、 「環境」 という言葉が常に主体をとりまくものを意味することと共通する点で重要である。また、内容構成の具体 的な視点には、「生産と消費」が位置づけられ、この視点については「持続可能な社会が求められる中、 自らが必要な物を作るとともに、それを繰り返し使ったり、活用したりすることができるようにする必要 がある」 (文部科学省 2008、p.20)と明記されているように、持続可能な社会における消費者としての 在り方について扱う必要性が盛り込まれている。しかし、生活科の実践においてこの視点についてはあま り意識されてこなかったといっても過言ではあるまい。  学校における環境教育の在り方については、1996(平成8)年の中央教育審議会第1次答申で示され た「環境から学ぶ(豊かな自然や身近な地域社会の中での様々な体験活動を通して、自然に対する豊かな 感受性や環境に対する関心等を培う)」、「環境について学ぶ(環境や自然と人間とのかかわり、さらには、 環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式とのかかわりについて理解を深める)」、「環境のために 学ぶ(環境保全や環境の創造を具体的に実践する態度を身に付ける)」という方針等に沿って取組がなさ れている。つまり、環境教育の理論でよく知られる in(∼の中で)、about(∼について)、for(∼のために).

(3) 生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連. 99. という3つの視点が盛り込まれているのである。そして、この3つの視点は、実は発達段階によってその 比重も変化するのであるが、そのことと生活科・総合的な学習の時間の配置は理にかなっているのである。 周知のとおり、生活科は小学校 1・2 年生のみに存在する教科であり、総合的な学習の時間は小学校 3 年 から始まる。まさに生活科(小学1・2年生)では“in”すなわち自己をとりまく自然・社会「環境の中で」 の体験活動を重視し、たとえば、身近な自然とのかかわりを深めることによって、自然の美しさや不思議 さ、面白さ、それと関わり合う楽しさ等を体感するなど(レイチェル・カーソンのいうセンス・オブ・ワ ンダー)を通して、自然を大切にする心を育てることを願っている。そして次第に、各教科での学びを基 礎として、問題解決学習や探究活動を重視する「総合的な学習の時間」を使って、“about”すなわち「環 境について」調べ・学習し、さらには“for”「環境のために」どう行動するかについて、各教科や総合的 な学習の時間で展開することができる。このように、各教科での学習を発展させ、環境に焦点をあてた学 習活動へと活用していく時間として、期待されるのである 2)。  近年、 各教科において環境教育や ESD に関する実践が増加していることはもちろん重要である。しかし、 たとえば各教科における環境教育や ESD に関連する単元を拾い上げ、それらを教科横断的につなげれば 体系的な実践になるかといえば、答えは否であろう。なぜなら、各教科にはそれぞれの教科がよって立 つディシプリンに基づく編成によって内容と目標・系統性があるからであり、その一部の環境教育・ESD 単元を教科横断的につなげたとしても、必ずしも環境教育・ESD 全体としての系統性が確保されるわけ ではないからである3)。翻って、総合的な学習の時間はもともと学校独自のテーマ設定が可能であり、そ れはすなわち環境教育・ESD のように地域の実情に基づき足元からグローバルに展開することの可能性 を意味している。同時に、子どもが自立するための基礎の育成を目標として子どもの生活環境から出発す る生活科も、その基盤として重要な位置を占める。したがって、生活科・総合的な学習の時間を基軸とし た体系的なカリキュラムが必要となるのである。それによってはじめて、地域を基盤として探究的な学び を保障する小・中・高等学校を通した発達段階による体系的なカリキュラムが可能となるのである。  ところで環境教育指導資料(国立教育政策研究所教育課程センター 2007、p.18)によれば、環境教育 とは、 「持続可能な社会の構築を目指してよりよい環境の創造活動に主体的に参加し、環境への責任ある 行動をとることができる態度を育成すること」(p.108)であり、環境教育を行う際の主な視点として、① 持続可能な社会の構築を目指す②学校、家庭、地域社会等と連携する③発達等に応じて内容や方法を工夫 する④地域の実態から取り組む⑤消費生活の側面に留意する(p.7)ことをあげている。にもかかわらず、 ⑤消費生活の側面に留意するについては、上述した生活科における実態と同様、実際には自然体験学習的 なものほど重視されることはなかったといえるだろう。   3. 「持続可能な消費」に向けた「教育」に関する国際的動向 (1) 「持続可能な消費」に関する機運の高まり  上記のような状況のなかで、 「持続可能な消費」の必要性については、国際社会ではすでに 20 年も前か ら認識されていた(厳密にいえば、1980 年代に「持続可能な開発」という用語が登場した時から、持続 可能な生活様式の重要性は指摘されていたともいえる)。1992 年の国連環境開発会議(通称:地球サミット) で採択された行動綱領「アジェンダ 21」の第4章が「消費形態の変更」だったのである。そこで最も強 調された点は、第一に、先進国における持続不可能な形の消費と生産が、貧困と環境破壊を悪化させてい ること、第二に、この現状の変革には、消費の役割を認識するとともに、持続可能な消費形態を創出する 必要があること、であった。その 10 年後のヨハネスブルグ・サミットで日本政府が NGO と共同提言を して 2005 年から開始せれた「国連 ESD(持続可能な開発のための教育:持続発展教育)の 10 年」でも、 「持 続可能な消費」は重要なテーマの一つである。UNESCO の web サイト4)でも確認できるが、ESD の項目 として、生物多様性、気候変動、先住民の智慧、ジェンダー平等等 12 項目あるうちの一つが「持続可能.

(4) 100. 松葉口 玲子. なライフスタイル」であり、その中で消費者教育の重要性も明記されている。  こうした「持続可能な消費」に関する国際的動向をざっとみてみたものが表である。 表.「持続可能な消費」に関する主要会議・出版物等の流れ 1992 年 国連環境開発会議(地球サミット)で「アジェンダ 21」採択(第4章「消費形態の変更」) 1993 年 国際消費者機構(IOCU:現在は CI)が政策文書「持続可能な消費への転換」を発表 1994 年 ANPED が「持続可能な消費と生産形態」を発表(日本の生活クラブ生協の事例紹介あり) 1995 年 持続可能な生産と消費に関するオスロ円卓会議開催 1997 年 OECD が「持続可能な消費と生産」出版      CI 第 15 回世界会議「21 世紀にむけての消費者のエンパワーリング:市民社会における消費者」 で持続可能な消費や消費者教育についてのセッション 1998 年 OECD「持続可能な消費のための教育と学習に関するワークショップ」開催      UNDP(国連開発計画)『人間開発報告書−消費パターンと人間開発−』出版      TOES 会議のテーマが「持続可能な消費」 1999 年 国連消費者保護ガイドラインに新項目「持続可能な消費生活の促進」を追加     UNESCO と UNEP(国連環境計画)が「青年と持続可能な消費」プロジェクトを開始     オックスフォード大学マンスフィールド校に「持続可能な消費」委員会設置 2000 年 UNESCO と UNEP がエキスパート・ワークショップ開催後、“youthXchange”を作成 2001 年 UNESCO“Teaching and Learning for a Sustainable Future”(阿部治・野田研一・鳥越玖美子監訳 (2005)『持続可能な未来のための学習』立教大学出版会)発表(25 あるモジュールのうちの 1 つが消費者教育 )      OECD「持続可能な消費のための情報と消費者意思決定」エキスパート・ワークショップ開催 2002 年 持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD:ヨハネスブルグ・サミット)で日本政府が ESD を NGO と共同提言し、国連総会で可決 2003 年 マラケシュプロセス「持続可能な消費と生産に関する 10 年枠組み」 2005 年 国連 ESD の 10 年スタート ⅴ 2006 年 持続可能な消費のための教育に関するマラケシュ・タスクフォース が第 14 回国連持続可能な 開発委員会(CSD14)から発足 2008 年 OECD 消費者政策委員会合同消費者教育会議 持続可能な消費とデジタル能力がテーマ      OECD「持続可能な消費の促進―OECD 諸国における優良実践−」発表       UNEP のマラケシュ・タスクフォースが持続可能な消費のための教育ガイドライン“Here and Now!”作成 2009 年 OECD“Promoting Consumer Education TRENDS, POLICES AND GOOD PRACTICES”出版     ESD 中間年世界会合(於:ボン)  ワークショップの1つが CCN のトーレセン氏と UNEP 主 催の「持続可能なライフスタイルと責任ある消費の促進」     IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)が、中国、日本、韓国における持続可能な消費の ための教育政策に関するワークショップを北京師範大学で開 2012 年 リオ +20 「持続可能な消費と生産の 10 年枠組み」を確認.  筆者は、2000 年に開催された UNESCO エキスパート・ワークショップ参加者間のメーリング・リスト にメンバーとして加えていただいたが、 “youthXchange”が出来上がるまでに非常に熱いやりとりがあっ たことを記憶している。また、2009 年 3 月末∼4月初旬にボンで開催された ESD 中間年世界会議への参 加が許されたため、「持続可能なライフスタイルと責任ある消費の促進」ワークショップにも参加したが、 そこでの議論がマラケシュ・タスクフォース5)や“Here and Now”などの成果を踏まえた内容であるこ とを実感した。   「持続可能な消費」に関する機運の高まりをみていくと、注目すべき点が2点ある。第一に、環境問題 や環境教育に関わる議論のなかでその必要性が認識された点である。国連環境開発会議をはじめとする国.

(5) 生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連. 101. 連や、北欧を中心とする NGO などによってその必要性が認識されるとともに用語も定着していくなかで、 OECD も環境教育について議論する中でその必要性を認識していった。つまり、当初は環境教育に関する 議論のなかで取り上げられながら、その必要性が認識されはじめ、国連、OECD、CCN 6)(現在は PERL) 等が協力しあって、着実に形にしてきてきたのである。  1972 年にストックホルムで開催された「国連人間環境会議」でその基礎が築かれ、UNEP(国連環境計 画)が設立されたのち、 「国際環境教育計画(IEEP)」が立ち上がった。IEEP の重要な成果であるベオグラー ド憲章では、個人が自らの優先事項を変えられるようになることを支援する教育政策を提起し、個人が持 つ環境倫理を日常の行動に反映させることを求めた。この後、「環境と開発に関する世界委員会」(ブルン トラント委員会)が設置され、1992 年の国連環境開発会議で採択されたアジェンダ 21 では、第4章で「持 続可能な消費」、第 36 章で持続可能な開発にむけた教育の必要性が盛り込まれ、10 年後にヨハネスブル グで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」では、ESD の提唱が日本政府と NGO の共同提 言でなされ、今日の「国連 ESD の 10 年」に至っていることは周知のとおりである。  第二に、国際社会の中での議論をリードしてきたのが北欧であった点である。今日重要な位置を占める オスロ円卓会議、それが開催される以前にすでに積極的に関わっていた ANPED のような NGO、さらに 今日では国連や OECD へも大きな影響力を与えている PERL(前史である CCN)は、いずれも北欧が中 心となっている点で興味深い。もともと“Our Common Future”(邦題『地球の未来を守るために』通称: ブルントラント報告書)で「持続可能な開発」の理念を広めたブルントラント委員会のブルントラント氏 や PERL 代表トーレセン氏がノルウェーの女性である点でも共通している。これらの関連性については 今後解明する余地があるだろう。 (2) 「持続可能な消費」に向けた「教育」へ  2001 年 に 開 発 さ れ た UNESCO に よ る 環 境 教 育 プ ロ グ ラ ム“Teaching and Learning for a Sustainable Future”は豪州のジョン・フィエンが中心となって開発したものであるが、その特徴は、批判的教育学に 基づき、自然科学的な側面よりもむしろ社会科学的側面に力点を置き、単なる教材開発ではなく「反省的 実践家」として、教師の専門性を高めることを目的に作成されている点にある。このプログラムによって、 教師自らがリサーチャーとなって、多くの教師が環境主義者から環境教育者へと変化することが目指され ている。そして、全 25 種類あるモジュールのうちの 1 つが消費者教育であり、 「持続可能な消費」をテー マにしている。つまり、10 年以上も前から体系的なプログラムが作成されているのである。  その後 2008 年に UNEP が作成した持続可能な消費のための教育ガイドライン“Here and Now”には、 「持 続可能な消費のための教育は、環境教育と消費者教育にその起源をもつ」7)と書かれている。“Here and Now”では、 「持続可能な消費のための教育」を実現するために、以下のような具体的な提言をしている。  ① 教育機関の日常の組織運営に、持続可能な開発の優先事項を反映させる  ② 既定のカリキュラムに、持続可能な消費のための教育に関するテーマ、トピック、学習時間、授業、 単位を加える  ③ 持続可能な消費のための教育に関連する研究を推奨する  ④ 研究者、講師、教師育成の指導者、その他のステークホルダーの相互的なつながりを強化する  ⑤ 持続可能な消費のための教育に向けた総合的アプローチを構築するため、多様な学問分野の専門家 間の協力を促進する  ⑥ 将来を見据えたグローバルで建設的な視点を強化するような授業や教師の養成を促す  ⑦ 持続可能な消費のための教育に関する創造的・批判的・革新的な考え方を表彰する  ⑧ 持続可能な消費のための教育を行う際、それぞれの土地固有の知識を尊重し、オルタナティブなラ イフスタイルも認めることができるようにする  ⑨ 持続可能な消費のための教育の一環として、世代間学習を促進する.

(6) 松葉口 玲子. 102.  ⑩ 社会活動やコミュニティーサービスを通して、理論的な学習を実際社会に応用する機会を提供する  そして、上記のことを「国連 ESD の 10 年」が終わる 2014 年より前に実行できれば、ESD に大きく貢 献することになると明言している。  2009 年に開催された ESD 中間年世界会議でのボン宣言では、「持続可能な消費に向けた教育こそが持 続可能な開発のための教育のテーマであり、責任ある行動をとれる市民と消費者を育成するために欠かせ ないものである。経済的社会的正義にもとづいたライフスタイル、食品の安全性、生態系統合、持続可能 な生活、全ての命への敬意、社会統合と民主主義そして集団行動を育成する価値観、がその教育内容であ る。 」と明言された。こうしてみると、日本でもここ数年で急速に広まりつつある消費者市民教育と通底 することがわかる。  特筆すべきことは、 ESD 中間年世界会合の際に UNEP とともに「持続可能な消費」に関するワークショッ プを開催したトーレセン氏が代表の CCN は PERL へと名称変更した後、LOLA などさまざまな教材を開 発するなど教員支援を積極的に展開していることである。. 2009 年にボンで開催された ESD 中間年世界会合. 2011 年にイスタンブールで開催された PERL 国際会議での LOLA ワークショップ. 4.日本的受容に向けた意義と課題−おわりにかえて−  環境教育も ESD も、最終的には自らのライフスタイルを見つめ直して行動することをめざしている。 それゆえ、 「持続可能な消費」の視点が重要なのであるが、一方、上記のような国際的動向をみてみれば、 行動主義的な印象が強く、同時に、根底には民主的市民意識の成熟さが伺われ、そのまま現在の日本の風 土に持ち込むには違和感もある。そこで、日本においてこうした国際的動向を受容する意義と、その際の 課題についても考察しておきたい。  まず意義についてであるが、何といっても、消費者として生活している子どもたちの日常のリアリティ に即した題材になる点にある。そして、現在は消費者として存在する子どもも、将来は生産者になるとい うことである。「持続可能な消費」を意識して成長していけば、 「持続可能な生産」を担うことが期待される。 そもそも先進国の多くは誰もが消費者である。日本の子どもたちも幼少期から「消費者」として存在して いる。換言すれば、日本においては生産者よりも消費者として存在する者の数の方が圧倒的に多い。一方、 途上国で消費者として存在する子どもはどれだけいるだろうか。つまり、今日のグローバル社会において 「消費者」という存在は、いわば特権階級的な様相をも有しているということがいえる。日本の子どもた ちがその事実を認識することは、自分自身の生き方を消費に投影するうえで、非常に重要な意味を持つ。 同時に、OECD の PISA 調査など各種の調査からは、日本の児童生徒について、思考力・判断力・表現力 等を問う読解力や記述式問題、知識・技能を活用する問題に課題のあることが指摘されているが、自分自.

(7) 生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連. 103. 身の生活に引き付けたリアルな学習によって、活用能力を高めていく可能性が期待される。  では、実際にはどのように展開すればいいだろうか。新学習指導要領では各教科の中に環境教育・ESD の視点が盛り込まれ、 「持続可能な消費」については、特に家庭科の学習内容に「消費生活と環境」が盛 り込まれていることは大きな意義を持つ。環境教育や開発教育に関する様々な教材も、たとえば開発教育 協議会等の非営利団体によって開発されてきており、ここ数年、学校教育の現場でもフェアトレードにつ いて扱う等、多くの実践がみられるようになってきた。しかし、たとえばフェアトレードを例にしてみる と、ともすればフェアトレードであればすべていいような錯覚をおこしかねない危険性があることに自覚 的になる必要もある。なぜならば、フェアトレードの認証を受けるにはそれなりの組織力が必要であるし、 あるいはフェアトレードの生産の現場でも、意思決定者は男性であり、実際に手足を動かすのは女性であ るといったジェンダー課題を秘めている危険性があるからである(シュレスタ、松葉口 2011)。つまり、 何が正解なのかについては見えない場合が多く、それだけに常に問い続ける絶え間なき批判的思考が必要 なのである。また、先述したように、各教科の単元をつなぎ合わせるだけでは全体のストーリーが完成し ない。それゆえ、課題を発見し、探究する、総合的な学習の時間が必要となる8)。生活科で心の土壌を広 く深く醸成していきながら、鋭い感性で、物事の課題を発見し、各教科で培った知識を駆使してじっくり 探究する総合的な学習の時間の重要性が増してくるのである。すなわち、子どもの発達段階に即して、生 活科と総合的な学習の時間を有していることは、大きな意義を持つ。   具体的な展開について考えてみれば、例えば学校の年間指導計画に日本の伝統的な年間行事を組み入れ て体系的に実践することは比較的たやすいものと考えられる。日本の江戸時代が、リサイクル・省エネル ギー都市であったことはよく知られているところであるが、もともと日本文化は季節感にもとづく文化を 形成してきた。俳句や月見など、自然環境をめでる文化、稲や着物などを最後まで使い尽くす文化、 「もっ たいない」の精神等、枚挙にいとまがない。近年、風呂敷の魅力が再発見されたりする動きがあるが、こ れらを、たとえば伝統文化としての年間行事を上手く学校の年間指導計画に取り入れる等、さらに発展 的・系統的に扱うことは、新学習指導要領で伝統文化を重視していることとも整合性をもち、展開しやす いのではないだろうか。筆者が 2011 年の PERL 国際会議に参加した際、ワールドウォッチ研究所からの 報告でパワーポイントに葛飾北斎の冨嶽三十六景神奈川沖浪裏が使用されていたのは非常にインパクトが 強かった。日本が有してきた文化を再発見することの意義は大きい。  しかしこうしたことを可能とする前提として、生活科と総合的な学習の時間を有効活用できるだけの教 師の力量形成の必要性について触れておきたい。先述の中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 における「これまでの審議のまとめ」においても、保護者の 65.3%が「総合的な学習の時間は、教師の力 量や熱意に差があり指導にばらつきが出る」と答えていることが課題の一つとして紹介されている。教師 の力量形成のためには、これまで日本が有してきた教員同士による授業研究や研修も重要な位置を占める といえるだろう。  環境教育・ESD をダイナミックに展開している実践事例としては、仙台市の面瀬小学校や東京都江東 区の東雲小学校・八名川小学校などが非常に有名であるが、その他、ESD を看板に掲げずとも、総合的 な学習の時間を中心にまさに ESD といってよい実践を行ってきた盛岡市の下橋中学校の事例9)などもあ る。下橋中学校の総合的な学習の時間を中心とした学習は、子供たちが自発的にエコクラブを立ち上げ「持 続可能な消費」を実践する主体へと変容した優れた実践である。こうした学校に共通しているのが、校長 であれ一教員であれ、学内にリーダーシップをとる教員がいるということである。同時に、特に総合的な 学習の時間では、教師の協働性が重要となる。鈴木(2003)は、「生活科・総合的な学習の時間の研究発 表会」に向けて展開した教師集団の協働性を育む意識改革の事例を検討した結果、協働性を育む際に最も 大きな要因となるのが校長・教頭・研究主任にリーダーシップであることを明らかにしている。江東区立 東雲小学校で早期から ESD 実践に取り組んだ手島校長は、転任先の八名川小学校において、生活科・総.

(8) 松葉口 玲子. 104. 合的な学習を中心とした ESD の研究課題を通して教員研修を行った結果、「つながりを意識した指導計画 (ESD カレンダー)の作成によって、他教科とのつながりや単元と単元のつながりを強く意識するように なった。 」 「教科の関連だけでなく、低学年から高学年へと縦のつながりが必要であることに気づいた」等、 教師の変容が一番の成果であったことを報告している(国立教育政策研究所 2012、p.322)。藤岡(2007) も総合的な学習の時間を展開するにあたり、教員研修の重要性を指摘しているが、特に学内研修が、教師 間の同僚性・協働性を高めるうえでも重要なポイントになると考えられる。  すなわち環境教育・ESD の実践には、総合的な学習の時間が創設された当初より以上に、教師の力量 形成が求められるといえるだろう。このことこそが今後の大きな課題なのである。 <注> 1)その主な内容や項目は、たとえば以下のようなものである。. 【教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ】より(一部抜粋) 7. 教育内容に関する主な改善事項   (7)社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項   (環境教育)   「 (略)有限な地球環境の中で,環境負荷を最小限にとどめ,資源の循環を図りながら地球生態系を維 持できるよう,一人一人が環境保全に主体的に取り組むようになること,そして,それを支える社会 経済の仕組みを整えることにより,持続可能な社会を構築することが強く求められている。(略)」   「 (略)これまでも,国際的1)にも,我が国2)においても,持続可能な社会の構築のために,教育 の果たす役割の重要性が認識され,様々な取組が進められてきている。(略)」  1)2004 年(平成 16 年)の国連総会では,持続可能な開発のためには,教育が極めて重要な役割を 担うとの認識のもと,2005 年(平成 17 年)より始まる 10 年間を「国連持続可能な開発のため の教育の 10 年」 (ESD:Education for Sustainable Development)とすることが全会一致で決議さ れた。なお, 「持続可能な開発」とは, 「環境と開発に関する世界委員会」が 1987 年(昭和 62 年) に公表した報告書で取り上げられた概念であり,「将来の世代の欲求を満たしつつ,現代の世代 の欲求も満足させられるような開発」を指し,環境の保全,経済の開発,社会の発展を調和の下 に進めていくことを目指している。  2)平成 15 年7月には、 「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が制定 された。(略)   (ものづくり)   「 (略)緻密さへのこだわりや忍耐強さ,ものの美しさを大切にする感性,持続可能な社会の構築へと つながる「もったいない」という我が国の伝統的な考え方のほか,ものづくりで大切なチームワーク や自発的に工夫や改善に取り組む態度も重要である。(略)」 2)筆者はこの3つの視点に、さらに“with”の視点も必要であると考えていたが(松葉口. 2003)、近年、. 鈴木 (2010) も同様の指摘をしている . 3) 「食」に焦点化しただけでも同様のことがいえた(鈴木・松葉口 2005)。 4)http://www.unesco.org/new/en/education/themes/leading-the-international-agenda/education-for-sustainable-. development/sustainable-lifestyles. アクセス日 2012.9.12. 5) 「. 持続可能な消費のための教育」に関するマラケシュ・タスクフォースは、持続可能な消費と生産の. 問題を学校教育カリキュラムに導入することを重視しており、取り組むテーマは、国・地域の政策上 の効果を着実にするための学校教育の手段や戦略を明らかにし、それらを支援する方策を見つけ出す ことにある。タスクフォースは、具体的なテーマに基づいて教育アクションプランを策定することで、.

(9) 生活科・総合的な学習の時間と環境教育・ESD との関連. 105. 意思決定や教育・研修プロセス、能力開発などの全てのレベルにおいて、持続可能な消費に関する専 門性や技能を生み出すことも重視している。 6)CCN(Consumer. Citizenship Network)は 2003 ∼ 2009 年まで、32 カ国、137 の大学、研究機関、国際. 機関をメンバーとして活動を展開し、消費者市民教育に関する様々な文献やガイドライン、教室で使 える教材を開発してきたが、その後、PERL(Partnership for Education and Research about Responsible Living)へと名称変更し、活動が引き継がれた。たとえば「有望なもう一つの方法を探す」(LOLA: Looking for Likely Alternative)というプロジェクトは、主として中学、高校における授業や、教員養 成課程で活用されることが想定されている。合計 20 枚ほどのカードにより、準備、フィールドワー クや外部講師の活用、討論、発表など、授業の一連の流れが具体的に示されている中から、教師は自 由に選択して授業を組み立てられるように工夫されている。生徒たちは、自分たちで情報収集するこ とによって、地域に展開している消費者活動のうち最も持続可能性に配慮したものを生徒同士で選び、 何が重視されるべきかについて議論し、フィールドワーク等でその活動の実際に触れ、最終的には、 学習した成果を学校や地域での発表や具体的な政策提言に結びつける。このような実践を通して、生 徒たちは、自分たちの選択次第で社会は変えられるのだということを、具体的に学ぶ仕組みになって いる。 7)松葉口(2001)は同様の問題意識による。 8)学校教育改革が進展している韓国で近年強化されている「創意人生教育」は、まさに問題意識が通底. するものと考えられる。 9)下橋中学校の実践については、松葉口・比屋根(2004)および松葉口(2007)で紹介したが. ESD とい. う言葉が登場する以前から、総合的な学習の時間(SHEL)を中心に学校行事全体を統合した「持続可 能な社会をめざした環境教育」を実践し、多様な体験学習をはじめ修学旅行先も各種 NGO にする等、 ユニークでダイナミックな展開を実現した背景には、自らの名刺に「環境教育担当」と記載するほど 熱心な女性教員(担当教科は理科)の存在があった。 <引用文献> 国立教育政策研究所教育課程研究センター(2007)『環境教育指導資料 [ 小学校編 ]』東洋館出版社 国立教育政策研究所教育課程研究センター(2012)学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に 関する研究 [ 最終報告書 ] シュレスタ・マニタ、松葉口玲子(2012) 「消費と生産の現状からみる教育の課題−フェアトレードにお ける女性のエンパワーメントに着目して−」『消費者教育』第 32 冊、pp.145-152 鈴木瓦(2003) 「協働性を育む小学校の校内研修経営事例−総合学習研究会の取組みから−」『環境教育』 第 45 号、pp.108-118. 鈴木善次、松葉口玲子(2005) 「日本における『食環境』をめぐる環境教育に関する研究の動向」日本環 境教育学会誌第 15 号1巻、pp.62-75. 鈴木敏正(2010)「イリッチ/フレイレの思想と環境教育」『環境教育』第 19 巻第3号、pp.29-40 藤岡達也(2007) 「総合的な学習の時間における環境教育展開の意義と課題」 『環境教育』第 17 巻第2号、 pp.26-37. 松葉口玲子(2001) 『消費者教育と環境教育の連接カリキュラム開発に関する研究』平成 11 ∼ 12 年度科 学研究費補助金(基盤研究(C) (2))研究成果報告書(研究代表者) 松葉口玲子(2003) 「 『国連・持続可能な開発のための教育の 10 年』に関する現状と課題−ジェンダーの 視点から -」岩手大学生涯学習教育研究センター年報第3号、pp.9-19 松葉口玲子、比屋根哲(2004)「『総合的な学習の時間』における『教師研究』に関する一考察」岩手大学.

(10) 106. 松葉口 玲子. 教育学部附属教育実践総合センター研究紀要第3号、pp.55-63. 松葉口玲子(2007)「『持続可能な開発』と『人間開発』に関する一考察−生命系・共生型コミュニティと 学びの場の形成−」岩手大学生涯学習論集第3号、pp.1-7. 文部科学省(2008)『小学校学習指導要領解説 生活編』日本文教出版株式会社.

(11)

参照

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