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子どもの命と人権を守る教育システムについての研究
∼スクールロイヤー等と連携した「チーム学校」の在り方∼
Study of Education System that Protects the Life and Human Rights of a Child
∼Building a School Team in Cooperation with a Lawyer∼
古 川 知 子
*・津 田 仁
** 要 旨 学校教育の場において、子どもの命に関わるような、人権が侵害される重大な事案が跡を絶た ない。それは、毎日のように新聞紙上等で取り上げられ、社会問題となっている。重大な事案に は、いじめの被害加害、犯罪の被害加害、体罰やセクシュアルハラスメントによる被害、児童虐 待、自殺等が挙げられる。 このような状況の中、各学校においては、未然防止のための教育システムを確立し、「チーム 学校」として、子どもの命と人権を守ることが喫緊の課題となっている。校長の的確なリーダー シップのもと、子どもをきめ細かく支援するための教職員体制を充実させることが大切である。 その一方策として、従前より配置されているスクールカウンセラー(以下、SCと記す)、スクー ルソーシャルワーカー(以下、SSWと記す)等の専門スタッフに加え、スクールロイヤー(以下、 SLと記す)と連携・協力することが有意義であると考えられる。 また、学校が、幅広く、各分野の専門スタッフや関係諸機関と有効・円滑に連携・協力するに は、どのような教育システムが必要であろうか、その在り方について考察する。 キーワード:チーム学校 校長のリーダーシップ スクールロイヤー スクールカウンセラー スクールソーシャルワーカー 緊急支援 危機介入 拡張学校 コミュニティスクール1
はじめに
2015(平成27)年12月21日に出された中央教育審議会答申「チームとしての学校の在り方と 今後の改善方策について」においては、学校に関わる専門スタッフの専門領域について、心理・ 福祉・部活動・特別支援教育・地域連携等が挙げられ、教職員が力を十分に発揮できるよう、 専門スタッフとの連携・分担の仕組みを整えることの重要性が示されている。また、今後、学 校や児童生徒等の状況の変化に伴い、専門スタッフの役割が見直された場合には、新たな専門 *神戸親和女子大学 発達教育学部 児童教育学科 教授 **関西外国語大学 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG−214− スタッフが求められることも示唆されている。 いじめ被害加害、犯罪被害加害、体罰やセクシュアルハラスメントによる被害、児童虐待、 自殺等は、子どもの命や人権に関わる重大な事案であり、学校として、迅速かつ的確な対応が 求められる。学校が、被害を受けた子どもの最善の利益を優先せず、適切な対応ができなかっ た場合には、当該の子どもや保護者は学校に対する不信感を募らせ、ついには、訴訟に至るこ とも珍しくない。 それでは、学校はどのように対応すればよいか、二点課題を述べる。 一点目は、SC・SSW等の専門スタッフに加え、SLとも連携・協力し、重大な事案を解決し ていく教育システムを研究することである。 二点目は、学校が、チーム学校として機能するための、教職員以外の専門スタッフや関係諸 機関と連携する組織の在り方を構築することである。 新たな専門スタッフを加え、教職員と専門スタッフが、相互の専門性を尊重し、どのように 有効かつ円滑に連携・協力を進めていけばよいか、具体的には、学校で生起する事案に対して、 なぜSLが必要か。SLは学校でどのように専門性を発揮し、役割を担うことが可能か。従前よ り配置されているSC・SSWとの連携をどう考えるか。そして、さらには、これらの専門スタッ フと教職員が円滑に実効性のある協働をしていくために、‘チーム学校’の組織の在り方をど のように考えていくべきかについて考察していきたい。
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重大な事案に対する対応と日常の組織体制
現在、自治体により差異はあるが、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校に対して、 SC・SSW等専門スタッフが配置され、教職員と専門スタッフの連携・協力が進められている。 一方で、一例として、我々が、平成27年度まで勤務した自治体においても、直轄の学校で子 どもの命や人権に関わる重大な事案が生起した際には、当該の学校等に緊急支援に入る等、危 機介入が行われてきている。事案は、自殺、自殺未遂、児童虐待、犯罪の被害加害、暴力行為 の被害加害、いじめの被害加害、体罰の被害、セクシュアルハラスメントの被害、海外から新 たな感染症が持ち込まれた場合など、多岐にわたっている。 これらのケースから、重大事案に対する学校の対応には、教職員に加えて、専門スタッフを 含めた日常の組織体制の在りようが大きく影響することが指摘できる。重大な事案に対応した 経験を踏まえると、日常からの望ましい組織体制を整理することができる。そして、重大な事 案を想定して日常の組織体制が整備されていると、重大な事案の生起を防止することにつなが る。生起した場合でも、子どもや保護者が受ける心身のダメージを最小限にとどめることを組 織が最優先し、結果として長期化せずに収束することにつながる。 本稿では、重大な事案が生起した場合を想定し、その対応から、日常からの望ましい組織体 制づくりを考えたい。事例は特定の事案のものとならないよう、また、汎用性を考慮して、複 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG−215− 数の重大事案に現れた状況や要因から共通項といえるものを抽出して再構成した形で示してい る。以下に記す‘教育委員会’は県教育委員会事務局、‘校長’は県立高校長を想定する。 校長から教育委員会に第一報が入ると、即日のうちに担当指導主事が学校に入ることが原則 となっている。その際、事案の必要に応じて、スクールカウンセラーのスーパーバイザーの立 場にあるスタッフ(以下、SCSVと記す)と共に入る。 重大な事案が生起した場合、当該校の校長は、事態の把握と校内体制の確認を瞬時に行い、 判断し、対応しなければならない。そして、教職員に対して指示を与える必要がある。次に起 こる事態を想定して、対応策を考えることも必要である。校長はいくつもの対応を並行して進 めなければならない。 一人の校長がその管理職在任中に、前述したような重大な事案の数々に対応することは通常 ない。学校は、校長を含め、教職員も子どもも、当事者として非日常の状態に置かれることに なる。校長として、普段であれば判断できることが判断できなくなったり、優先すべきことの 順位がつけられなくなる等の事態が起こりうる。また、これらの事案の場合、学校が把握する 段階では、報道機関も把握し、すでに学校に対する取材が始まっていることも多い。さらに、 社会的関心が強い事案となり、登下校する子どもや保護者・地域住民への配慮が必要になるな ど、学校の日常の機能は停止し、学校だけでは対応しきれない事態に直面する。 これらの状況の中で、教育委員会が、学校に直接的に入り、指導・支援にあたることは重要 な意味をもつ。何故なら、校長が前述のような事態に対応しながら、教育委員会に報告し、そ の指示を受け、教職員に指示を出すということでは、時間がかかり過ぎ、事態の展開に対応で きなくなるからである。 このとき、教育委員会からは、学校で校長に対して指示ができる職階の者を含め、複数で指 導主事が学校に入る。校長とともに、教育委員会が事実関係の把握、当該の子ども・保護者の 状況、関係する子ども・保護者の状況の把握等を行い、全体状況を見立て、対応方策を考える。 その対応方策については、教職員と協議し、より円滑に進めることができる方法を検討する。 このような事態において、当該の子ども・保護者、関係する子ども・保護者が受ける心身の ダメージを最小限にとどめることを最優先する必要がある。教育委員会は学校に対して指導と 支援を行うため、心のケアと緊急支援の専門家であるSCSVとともに、同時に入ることが望ま しい。そして、校長や教職員がその日のうちに行うべきこと、2日目・3日目に対応すべきこ と、当面1週間で何をすべきか等を指示する。教育委員会は、校長からの第一報から即日のう ちに、ここまでの対応を行う。 これらの緊急時、非日常の事態に置かれた時、日常の教職員体制がいかに組織として機能し ているかが大きく影響する。校長を含め教職員や子ども・保護者が当事者となっているという ことを認識している必要がある。教職員自身も精神的にダメージを受けている中で、対応方策 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG
−216− を進めるために、緊急の体制を組み、対応しなくてはいけない。さらに、直接的にダメージを 受けている子どもに向き合っていかなければならない。 教育委員会からの指示を受け、校長が示す対応方針を、実際に進めるのは教職員になる。基 本的に、当該の子ども・保護者や関係の子ども・保護者が受ける心身のダメージを最小限にと どめることを優先するための方針をたてるが、事案によっては、事実関係を正確に把握するた めに、子どもに対して心のケアだけを優先できない場合もある。同僚の教職員に対峙しないと いけない場合もある。 対応方針の趣旨を、組織の核となる教職員が的確に理解し、それを具体的に進めるために、 主体的に体制を整えることができる学校がある一方で、方針そのものに対して教職員のベクト ルが揃わない学校もある。重大な事案が生起した場合、多くの場合、教職員間のベクトルは揃 いやすい。しかし、日常から、校長のリーダーシップのもと、教職員間の意思疎通が円滑に行 われ、校長の意思決定を具現化できる組織体制が整い機能していない場合、緊急時の迅速かつ 的確な対応が滞りかねない。とりわけ、初期対応で当該の子ども・保護者との間に齟齬が生じ た場合、学校に対する不信感がぬぐわれず、訴訟によって法廷に裁定をゆだねることにつなが ることもある。この場合でも事案は一応の終結は見るが、「解決」したとはいえない状況であ ることが少なくない。 学校は、子どもの命や人権にかかわる重大な事案の緊急事態に対する一連の対応の次には、 中長期的な対応方針を考える必要がある。事案を教訓化し、子どもが命を失う事態や人権侵害 を受けることから、子どもを守る教育システムを再構築していくことが緊急の課題となる。日 常的に子どもの表情や行動の小さな変化に教職員が気づき、定期的にあるいは必要に応じて学 年団や学校全体で情報を共有し、課題解決に向けて対応方策を考え、実践していくシステムが 求められる。その際、定期的にケース会議を開き、SCやSSW等専門家のアドバイスを得ながら、 ‘子どもの最善の利益’にさらに近づく解決方策を模索していく教育システムが必要になる。 事案が訴訟につながった場合は、学校を管轄する自治体が被告となるため、自治体の顧問弁 護士と教育委員会のやりとりが中心になっていく。しかし、訴訟に至るまでに、学校としての 対応方針を考える際、SLの専門的なアドバイスが大変有効であると考える。緊急時に教職員 間のベクトルが揃わない学校では、日常における子どもに対する指導・支援体制に課題がある 場合が多い。緊急時に、日常の生徒指導体制を改善するには、従前の体制を否定する相当な働 きかけが必要になる。訴訟に至った場合に改善する必要が出てくるような生徒指導体制は、日 常から改善すべきである。そのような観点においても、SLのアドバイスには説得力がある。 本稿では、日常的な組織体制における、学校とSLとの連携・協力の可能性についてさらに 考えていきたい。 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG
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チーム学校と専門スタッフ
文部科学省(2015)は、前述の答申において「社会や経済の変化に伴い、子供や家庭、地域 社会も変容し、生徒指導や特別支援教育等に関わる課題が複雑化・多様化しており、学校や教 員だけでは、十分に解決することができない課題も増えている。」また、欧米諸国の学校と比 較すると、日本の学校では教員が多くの役割を担っており、幅広い業務を担い労働時間が長い、 と学校と教員が置かれている状況を指摘している。そして、「生徒指導や特別支援教育等を充 実していくために、学校や教員が心理や福祉等の専門家(専門スタッフ)や専門機関と連携・ 分担する体制を整備し、学校の機能を強化していくことが重要である」とも記している。 子どもに関わる専門スタッフとして、SCやSSW・児童委員・民生委員、さらに本稿ではSL が挙げられる。関係諸機関としては、福祉機関・警察・病院等が考えられる。 従前より配置されているSC・SSW等専門スタッフと円滑に実効性のある協働をしていくた めには、教員と専門スタッフが互いの専門性に対する理解を深め、その専門性を尊重すること が重要である。これは、関係諸機関との連携においても同様のことが言える。その上で、どの ような連携・協力をしていくべきか、どのような役割分担が可能かを考える必要がある。 具体例を挙げると、児童虐待で子どもの安否確認が必要な場合を想定する。児童相談所の職 員が家庭に出向くことと、教員が家庭訪問を行うことは意味が異なる。教員は、普段の教育活 動の一環として家庭訪問ができる。結果として子どもの安否確認ができるとしたら、学校と児 童相談所が協議をし、教員が家庭訪問をし、子どもの安否確認をするといった役割分担があっ て良いと考える。互いの職域を理解した上で、子どもの利益を優先する方法を共に摸索し試行 錯誤することが、他領域・他職種と連携・協力するためには大切である。 教職員が、専門スタッフや関係諸機関と円滑に連携するためには、校内で緊密な意思疎通が なされていることが前提となる。そのためには、日常的に子どもの表情や行動の小さな変化に 教職員が気づき、定期的にあるいは必要に応じて学年団や学校全体で情報を共有し、課題解決 に向けて対応方策を考え、実践していくシステムが必要になる。このことは、教職員の業務を 増やすことになる。しかし、この教育システムが、学校において日常的に機能的に運用され、 課題解決に有益であることが実感されることは、教職員や専門スタッフのモチベーションの向 上と多忙感・徒労感の低減につながる。4
スクールロイヤーの可能性
文部科学省は、平成29年度概算要求において、いじめ防止等対策のためにスクールロイヤー 活用に関する調査研究を挙げている。 自治体の中には、いじめ対策事業としてSLの活用を始めている。その目的は、被害児童生 徒に対するケアはもとより、加害児童生徒に対する指導や保護者対応を進める際に、学校が果 たすべき説明責任に関わる法的助言を行うところにある。 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG−218− いじめ以外にも、SLが学校に関わる専門スタッフになった場合、どのような事案に対して、 教職員との連携・協力が可能になるか。SLの活動実績を踏まえ、想定される対応について以 下に示す。 1 困難な保護者対応ケースへの対応 2 学校事故など学校の責任の有無が問題となるケースへの対応 3 触法ケース、非行ケース、校内暴力ケース、性加害・被害ケースなど深刻な問題・課題 を抱えた子どもに対する生徒指導・生徒支援、校則その他の学校ルールの適用の在り方 が問題となるケースへの対応 4 少年事件など、司法との連携が必要となると思われるケースへの対応 5 深刻ないじめ問題への対応 6 子どもが鑑別所・児童自立支援施設・少年院等から学校に戻ってくるケースへの対応 7 リスクの高い児童虐待ケースへの対応 8 マスコミをにぎわす重大な少年事件やいじめ等による自殺事件などが発生した場合の危 機管理ケースへの対応 9 体罰やセクハラ問題等への対応と予防 10 出席停止や懲戒処分(高校における停学・退学処分等)が検討されるケースへの対応 11 進級認定等における法的問題と中退防止のための対応 12 個人情報の管理・保護が問題となるケース 13 SC・SSW等との連携が生むさらなる可能性 重大な事案はもとより、日常的にSLのアドバイスが、学校教育の円滑な運営に有効である ことがわかる。教職員やSC・SSW等従前から配置されている専門スタッフの専門性の限界を 補うことが可能になる。 校長のリーダーシップのもと、校内の教職員間できめ細かい情報共有が行われ、生起した事 案に対して迅速かつ的確に対応する体制が整い、教職員と専門スタッフが互いの専門性を尊重 し、‘子どもの最善の利益’のために、必要な役割分担ができれば、専門スタッフや関係諸機 関が多種多様になることはむしろ望ましいと考える。 子ども・保護者が、訴訟という手段をとるに至る背景には、学校の対応に対する不信感や、 学校を安心できる空間と思えないことから生じる不安感、そして、心身共に相当のダメージを 受けていること等が考えられる。生起した事案がもたらした事態は変わらなくても、学校が教 職員一丸となって真摯に誠実に対応することで、子どもにとって安全で安心できる学校である ことが実感できれば、子ども・保護者は訴訟という手段に至らずとも、話し合いによる解決方 策を選択することができる。 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG
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英国の拡張学校
教職員が、子どもが問題を抱える場合に、専門スタッフや関係諸機関と連携しようとしても、 円滑にいかない場合も少なくない。その原因として、問題に関する情報共有が十分でなかった り、互いのコミュニケーションの不足等が考えられる。英国の拡張学校の考え方を知り、学校 と福祉が一体化し、学校をコミュニティの拠点とすることが、子どもの成長にどのように有効 であるかを考察したい。 林嵜(2008)は、イングランドの拡張学校を紹介し、「拡張学校のコミュニティ教育学的な 意義は、それが学校の教員たちと他の諸機関・諸団体の人々との協働を促していることにある」 と述べている。拡張学校は「学校の運営日以外にも子どもやコミュニティにサービスを提供す る学校」と定義されている。朝、放課後、土日、長期休業の間も、学校の施設が開放されてい るという点では、日本の学校と似ているが、提供されているサービスは多岐にわたる。 拡張学校のサービスの分類の中において、医療・福祉・防犯や成人学習、保護者支援等は、 日本の学校が提供しているサービスとは大きく異なる。例えば、学校に警察官が常駐し、交番 の代わりになっている。これは、ドラッグへの関与や暴力行為等の子どもの非行防止や、地域 コミュニティの安全確保に役立っている。また、移民や難民で英語が話せない保護者に対して、 識字教室を開いている。多重債務に悩む保護者のためには、ファイナンスの相談を受け付ける 支援が行われている。 拡張学校では、教員は授業に専念し、付加的な仕事は、学校が資金を調達し新たなスタッフ を雇用している。このことは教員の多忙化の解消にもつながっている。様々なスタッフとの協 働のために、学校にはコーディネーターを専任で配置し、調整役を担い、チームとして一体化 した動きになるようにしている。サービスの提供は双方向になっており、学校から提供される だけではない。保護者やコミュニティの一員が、子どもの相談役になったり、学習の支援を行 う等、学校へのサービスを提供している。 拡張学校の重要な役割として、コミュニティ開発が挙げられる。コミュニティ開発とは、「自 らのコミュニティを変革していくためにコミュニティにおける個人や集団に必要なスキルを提 供する」ものである。学校が備えるハード面での資源に、教室・校庭・パソコン等がある。こ れらに加え、人材等のソフト面での資源を投入することが、コミュニティ全体の生活の改善や 教育力の向上に影響を与え、そのことが関わる人々の自信の回復、つまりエンパワメントにつ ながる。 また、林嵜は、ソーシャルインクルージョンを「社会的弱者を生み出さない社会のあり方や 施策を追求すること、あるいは社会的弱者の社会参加を促そうという試み」と説明し、ソーシャ ルインクルージョンが進行することにより、「格差や不平等の縮小、社会参画する能力を持つ 人びとの増加、自治能力のあるコミュニティ、コミュニティの活性化」につながり、その結果、 治安コストや生活保障コストが減少すると述べている。 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG−220− 英国の拡張学校には様々な形態があるが、社会的弱者を生み出さない社会を構築するという 観点で、ソーシャルインクルージョンの考え方をベースに、学校をコミュニティの拠点とし、 学校が医療・福祉・防犯とその機能を拡張している。つまり、犯罪や貧困等の多岐にわたる問 題も視野に含め、子ども・保護者・地域を丸ごと支援していることになる。そして、そのこと が結果として、コミュニティに係るコストの軽減にもつながるという施策になっている。 学校が有する機能として、日本のコミュニティスクールと共通する点があるが、学校と専門 スタッフや関係諸機関と連携・協力するという観点で整理したい。
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日本のコミュニティスクール
2015(平成27)年12月21日に出された中央教育審議会答申「新しい時代の教育や地方創生の 実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」においては、これ からの公立学校は、『開かれた学校』から更に一歩踏み出し、地域でどのような子どもたちを 育てるのか、何を実現していくのかという目標やビジョンを地域住民等と共有し、地域と一体 となって子どもたちを育む『地域とともにある学校』へと転換していくことをめざして、取り 組みを推進していくことの必要性を示している。さらに、現在制度化されているコミュニティ スクールをすべての学校がめざすべきであるとも記している。 現状のコミュニティスクールは、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に地域住民や保護 者等の意向を的確かつ機動的に反映させることで、学校の管理運営の改善を図るというガバナ ンスの強化の観点が、制度導入の目的であった。このことから、コミュニティスクールについ ては、学校経営方針や予算の執行、教職員の任用に対して、地域・保護者からの「介入」が懸 念されること等が、導入する自治体が大きく増加しないことにつながっているのではないかと 考える。 しかし、地域住民が積極的に学校教育に参画し、円滑に連携できているコミュニティスクー ルもある。地域住民が、小学校に出向き、その特技を生かして絵本の読み聞かせをしたり、そ ろばん教室を開くなど、学校のニーズに合致した例である。 一方で2013年に成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を踏まえ、「子どもの貧 困対策に関する大綱」が閣議決定された(2014)。子どもが将来生まれ育った環境に左右され ないよう、子どもの貧困対策の推進を目的とし、大綱においては、10の基本方針と25の指標が 掲げられている。その指標の改善に向けた重点施策に、‘教育支援’‘生活支援’‘就労支援’‘経 済的支援’が位置付けられ、とりわけ、‘教育支援’においては、学校をプラットフォームと した対策がめざされている。 大綱では、SCやSSWの増員が盛り込まれている。問題を抱える子どもに対する支援のため に、心理や福祉の専門家が、子どもや子どもが置かれた環境に働きかけることや、学校が関係 諸機関と連携することが期待されている。 'BBྂᕝ▱Ꮚ࣭ὠ⏣ோLQGG−221− 学校が拠点となり、プラットフォームとして機能していくためには、英国の拡張学校の考え 方を参考にし、地域や保護者も含めて、コミュニティごと子どもを守る仕組みを構築する必要 があると考える。学校がその機能を拡張し、学校を中心としたコミュニティを形成し、子ども を守るために、地域・保護者をも視野に入れた支援を行い、コミュニティをエンパワメントす る視点が求められる。そのためには、学校が機能を拡張するための予算の確保や人の増員等が 課題となるが、学校が地域で子どもをどう育てるかという発想をもち、そのために専門スタッ フや関係諸機関との綿密な連携等、学校としてできることを模索することは、すぐにでも取り 組むことが可能である。