48 − − 神戸常盤大学紀要 第2号 2010 49 − − 【はじめに】 阪神・淡路大震災は、平7年1月17日午前5時56分に発生した兵庫県南部地震によって引き起こされた。こ の震災では6434名の命が失われた。内訳は直接死5512名、関連死922名である。関連死とは「震災がなければ 助かったかもしれない死」のことである。直接死の中にも「助けることができたかもしれない死」が少なから ず含まれているといわれているが、大規模災害においてはこの関連死を減らすことが大きな課題になる。関連 死の中で最も多かったのが肺炎(223名24%)である。この肺炎が誤嚥性肺炎であると仮定すると、その約半 数は徹底した口腔ケアで救命することができた可能性がある。震災時の肺炎が誤嚥性肺炎であった可能性を探 ることは、今後、大規模災害時における口腔保健(口腔ケア)の重要性を訴える根拠となる。 【方法】 ①阪神・淡路大震災において行われた歯科救護活動の記録(カルテ)から、誤嚥性肺炎発症に関与すると思わ れる口腔内環境因子(歯周疾患、歯性感染症、粘膜炎)についてその割合を検討し、平成5年の厚生省患者統 計にみられる同様因子の割合と比較した。②神戸市患者統計から、平成6年と平成7年の肺炎による死亡者数 を神戸市内9区別に比較し高齢化率、および脳血管障害による死亡者数との相関を比較した。 【結果】 ①歯科救護活動は延べ4269名(定点診療2344名、巡回診療1925名)に対して行われた。②口腔内環境因子を指 標とした平成5年の患者統計との比較では、歯周炎の割合は少なかったものの歯性感染症、口腔粘膜炎、外 傷、補綴関連疾患が有意に多いという結果を得た。③平成7年における神戸市9区別の肺炎による死亡者数と 脳血管障害による死亡者数は、各区別の高齢化率よりも高い相関を得た。 【考察】 阪神・淡路大震災において多発した避難所肺炎は、インフルエンザの蔓延、粉塵、脱水、精神的ストレスお よび避難所の劣悪な食住環境が発症要因であるという報告がなされている。しかし、極端な水不足から口腔清 掃や義歯の洗浄ができなかったことなどを考えると、いわゆる市中肺炎だけなく、口腔内細菌による誤嚥性肺 炎も少なくなかったのではないかと推察される。今回の研究では平成7年1月17日∼3月31日に行われた歯科 救援活動の記録を再調査した結果、誤嚥性肺炎に関係する口腔内細菌の増加を疑わせる疾患(歯性感染症、口 腔粘膜炎)の増加が認められた。さらに咽頭機能の低下によって誤嚥をきたしやすい疾患である脳血管障害に よる死亡者数と肺炎の死亡者数の高い相関が認められたことから、震災時に増加した肺炎には誤嚥性肺炎が含 まれることが示唆された。 【まとめ】 阪神・淡路大震災において発生した肺炎には誤嚥性肺炎が含まれることが示唆された。したがって大規模災 害時には被災者に対する徹底した口腔保健指導が重要であり、特に避難所において口腔清掃のための水場の設 置が必要であると考えられた。
大規模災害のおける口腔ケアの重要性 高齢者における肺炎発症因子としての口腔内環境
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