集団保育場面における子ども間のトラブルと保母の
働きかけ―1∼2歳児クラスにおける物をめぐるトラ
ブルについて―
著者
玉井 真理子, 本郷 一夫, 杉山 弘子
雑誌名
東北教育心理学研究
巻
5
ページ
45-59
発行年
1992-12
URL
http://hdl.handle.net/10097/00121876
集団保育場面における子ども聞のトラブルと保母の働きかけ
一 一
1
'
"
'
-
'
2
歳児クラスにおける物をめぐるトラフソレにっし、て一一
玉 井 真 理 子 ・ 本 郷 一 夫 ・ 杉 山 弘 子
(東京大学) (鳴門教育大学) (尚網女学院短期大学)1
.
問 題
1 ~ 2歳児における子ども同士の相互作用は,物が介 在することによって活性化されることが報告されている (青井, 1984;Eckerman e
t
a
,l. 1975;江口, 1979;遠藤, 1983;
Jacobson
,1981 ;Mueller
&Brenner
,1977;佐藤・高橋, 1984)。また,物が介在する状況で の子ども同士の相互作用のうち,特に1~ 2歳児期では 物をめぐるトラブル(主として物の取り合し、)が特徴的 である(青井他, 1981;朝生他, 1988;江口, 1976;
E
i
s
e
n
b
e
r
g
-
b
e
r
g
e
t
a
,.l 1979;本郷他, 1987)が,こう した物をめぐるトラブ、ルは対人関係における様々なルー ルを学習する契機にもなり得ることから,幼児の社会性 の発達にとって重要な役割を果たしていると考えられる (青井, 1983;本郷他, 1990;杉山他, 1991)。 以上のような観点に立ち,筆者らは,集団保育場面に おける l歳児期の子ども同士の物をめぐるトラフeルと, それに対する保母の働きかけを観察してきた。独自に設 定したカテゴリーにしたがって子どもおよび保母の行動 を分類するなどして分析・検討を試みてきたこれまでの 研究(本郷他, 1991;杉山他, 1990)に引き続き,本研 究では同様の方法で2歳児期における子ども同士の物を めぐるトラブルの特徴を明らかにしてみたい。 l歳児期おける物をめぐるトラブ、ルに関してこれまで に明らかになった点をふまえ,縦断的に2歳児期の物を めぐるトラブ、ルに関して以下の予測を確かめることが本 研究の目的である。 予測1 トラブ、ルの頻度: 1歳半以降,一方の子どもが起こし た「取る」などの行動に対して,もう一方の子どもが明 確な抗議・抵抗・拒否を示すようになっていた(杉山他, 1990) 0 2歳以降は,所有認識の高まりによって, トラ ブルの頻度そのものは減少するであろうが,相手が起こ した「取る」などの行動に対して明確な抗議・抵抗・拒 否を示す傾向はさらに強まるであろう。 予測2 要請行動: 1歳児期には,単に物を引き合うだけでは なく,攻撃や要請といったトラブノレの相手に直接向けた 行動が増加し物をめぐるトラフツレは次第に対人的な様 相を帯びていった(杉山他, 1990)。こうした相手に直 接向けた行動のうち, 2歳以降では,言語産出面での発 達に伴って, トラブ、ルの際の要請行動が増加するであろ う。 予測3 共有:トラブルの対象になったものを最終的に共有す るとし、う所有形態が, 2歳前後に見られるようになって いたが,物の性質(同時使用が可能な物であるかどうか) や保母の指示の有無などの条件によっても違いが見られ た(杉山他, 1990)0 2歳以降は,共同遊びが成立しや すくなることから,やりとりをしながら共有するなど, 共有の形態が多様化するであろう。 予測4
使い方をめぐるトラブ、ル:相手の物の使い方に対する 抗議・要請など必ずしも所持することを求めないトラブ ルは, 1歳半以降で観察されはじめた(杉山他, 1990)。 2歳以降は,共同遊びの展開に伴って子ども同士のやり とりの機会が増し,相手の物の使い方に対する注目度も 高まることから,こうした使い方をめぐってのトラブ、ル の頻度はさらに増加するであろう。 予測5 保母の働きかけ:1
歳半以降,保母がトラブルに介入 する割合が増加すると共に,次第に苛烈になるトラブル に介入する際,制止や禁止などの物理的な介入だけでな く,他者の存在や意図に注目きせることで子ども同士を 媒介するような言語的働きかけをするようになっていた (本郷他, 1991)。このような保母の媒介的役割は2歳 以降さらに明確になり,言語的働きかけの内容も多様化 するであろう。 予測6
子どもによるトラブルへの介入:2
歳以降は,子どもの言語産出およびそデリング能力の発達により,子ども 同 士 を 積 極 的 に 媒 介 し よ う と す る 意 図 を 持 っ た 保 母 の 介 入様式(本郷他, 1991)をモデ、ルとして,子どもが子ど も同士のトラブルに介入しようとする行動が観察される ようになり,次第に頻度も増加するであろう。
l
l
.
方 法
1
.
被 験 児 : 保 育 所 の1歳 児 ク ラ ス の 幼 児10名 と 保 母2 名 ( う ちl名 は0・1歳児混合グラスからの継続担任)。 2歳 児 グ ラ ス に 進 級 し て か ら は 幼 児13名 と 保 母2名(う ち1名 は1歳児クラスからの継続担任)。観察開始時に お け る 被 験 児 の 平 均 月 齢 は23.1か 月 ( レ ン ジ :1
8
か 月2
6
か月)であった。2
.
観 察 場 面 : 観 察 は , 午 後 の お や つ 終 了 後 の4
時から4
時3
0
分 の 聞 に 行 な わ れ た 。 場 所 は , 子 ど も が 日 常 の 保 育 を 受 け て い る 保 育 室 か 小 園 庭 で あ り , 保 育 場 面 は 自 由 遊びであった。 3. 観 察 期 間 : 観 察 は1989年5月から1990年5月まで, 2か月毎に行なわれた。単位時間当たりのトラブ、ルの生 起 頻 度 を 知 る と い う 目 的 か ら , 本 郷 他 ( 1991)・杉山他 (1990)にならい, 1回にひとりの子どもに焦点を当て る(焦点を当てた子どもを「焦点児」と呼ぶ)方法が採 用された。焦点児は無作為に抽出され,4
人の焦点児の 行 動 は , 原 則 と し てl回15分,各月2回, VTRによっ て記録された。4
.
分析測度:子ども同士のトラブルは,本郷他(1991) ・杉山他(1990)の研究と同様に,r
系列」と「エピソー ド」に分けられた。「系列」とは, トラブ、ルの開始者が 起 こ し た 行 動 と そ れ に 対 す る 相 手 ( 所 有 者 ) の 行 動 の セ ットであり,r
エ ピ ソ ー ド 」 と は , 同 ー の 物 を め ぐ る 同 ーの相手との時間的に接近したトラブル系列のまとまり である(ただ、し10秒以上時間的間隔がある場合は別のエ ピソードとみなした)。所有者の側に明確な行動変化が 起きない場合も含めてトラブ、ルとして扱う点もこれまで の 研 究 と 同 様 で あ る が , こ れ は 「 ト ラ ブ ル そ れ 自 体 の 成 立 過 程 を 分 析 す る と い う 目 的 に 加 え , 保 育 場 面 で は 所 有 者 が 開 始 者 に 対 し て 異 議 を 唱 え る な ど の 行 動 を 起 こ す 前 に 保 母 が 介 入 す る 事 例 が し ば し ば 見 ら れ る ( 本 郷 他 ; 1991)J
という理由によるものである。 さらに, トラブルの成立・展開・終始の各相の子ども の 行 動 と 保 母 の 働 き か け を 分 析 す る た め に , 表1・2に 示すようなカテゴリーを設定した。このカテゴリ←は, 子 ど も の 行 動 に つ い て は 杉 山 他 ( 1990)で,保母の働き か け に つ い て は 本 郷 他 ( 1991)でそれぞれ用いたものと 同じである。 なお,データの分析に際しては,筆者等3名 が 同 ー の VTRを視聴し合議の上カテゴリーへの分類を決定した。 表l 子どもの行動カテゴリー(杉山他, 1990より) A.物の性質 1. 手に持って操作できる物 2. 単体の大きな物:乗ったり,入ったりできる箱など 3. その他:水道などの設置物 B.開始者の状況:トラブルの対象となる物の開始時の使用 状況 1. 前使用:前に使っていたが置いて離れて10秒以上経過 したもの 2. 非使用:遊びが始まってから使用していないもの 3. その他:前に取ろうとして取れなかったものなど C.所有者の状況:トラフツレの対象となる物の開始時の使用 状況 1. 所持:手にしているだけで操作はしていない 2. 使用:手に持って操作する・乗るなど 3. 置く:脇に置いて同ーの遊びを続けている場合や置い て10秒以内のもの 4. その他:保母に差し出すなどのやりとりD
.
開始者の行動 1-a. 取る:物を相手から引き離せない場合も含む 1-b. 取ろうとする:物に手を伸ばす(物に手が触れな 2. 攻桜:相手を叩く・かみつく 3-a. 所有の要請:Iカシテ」などの言語的表現や慣習 的身振り 3-b. 使用の要請:きゅうすから注いでほしくて茶碗を 差し出すなど,必ずしも開始者が所持することを 求めない 4. 保母への訴え:欲しい物を指さしながら,発声して保 母を見るなど 5. その他:相手に別の物を差し出す・所有の主張など E.所有者の行動 1-a. 回避:相手が物に手をかける前に物を遠ざける 1-b. 抵抗:取られまいと引く・取り返そうとする 2. 攻撃:相手を叩く・かみつく3
.
拒否:I
イ ヤJ,I
夕、、メ」などの言語的表現や慣習的身 振り 4. 要請:Iカエシテ」などの言語的表現や慣習的身振り など 5. 保母への訴え:取られた物を指さしながら,発声して 保母を見るなど 6. その他:相手の物を取ろうとする・回避するために箱 から降りるなど 7. NR:人に対して何らの行動も起こさない F.最終的所有者 1. 開始者 2. 所有者 3. 両者:一緒に使う 4. その他:両者とも放棄したり,第三者が所有、した場合 G.終結後の最終的所有者の行動 1. 所持・使用:5秒以上,手にもっている・使用する 2. 捨てる:5秒以内に捨てる 3. その他:与える-
46-表2 保母の働きかけカテゴリー(本郷他, 1991より) A.働きかけ対象:保母の働きかけが向けられた子ども 1. 開始者:トラブ、ルを開始した子ども 2. 所有者:物を所持し, トラブルを起こされた子ども
B.
働きかけ内容 1. 制止・禁止・注意:言葉かけによるものと体を押さえるものが含まれる 2. 取る:トラブ、ルの対象となった物を子どもから取り戻すこと 3. 与える:トラブルの対象となった物を子どもに与えること 4. 所有の確認:最初の所有者を子どもに知らせること 5. 行動・状態の説明:相手の子どもの行動や状態を叙述・説明すること 6. 要求・気持ちの確認:子どもの要求や気持ちを尋ねること 7. 要請の指示:r
かしてくれる」ょう相手の子どもにお願いさせること 8. 解決策の提示:その内容に従って,以下の5カテゴリーに分類された a.代替物:トラブ、ルの対象となった物と同様の物を与えること b.順番:トラブ、ルの対象となった物を順番に使うように提案すること C.共有:トラブノレの対象となった物をいっしょに使うよう提案すること d.別の遊び:トラブルの対象となったものとは違う種類の物を与えたり,別の遊びを提案するこ と e.その他:上記以外の解決策の提示 9. その他:要請の代行,他の行動の指示などが含まれるC.
反応対象:保母の働きかけに応じて子どもが行動を起こした相手。その際,子どもからの反応が 返る前に,保母が異なる種類の働きかけを連続して行った場合,その最後の働きかけに対して子 どもが行動をおこした相手を分類した 1. 保母:保母に対して行動を起こしたもの 2. 他児:トラブルの相手の子どもに対して行動を起こしたもの 3. その他:r
保母Jr
他児」以外の人に対して行動を起こしたもの 4. NR:人に対して何らの行動も起こさないもの 5. 連続:保母の連続する働きかけの内,最後の働きかけ以外の働きかけに対する子どもの行動の反 応対象を分類するためのダミー・カテゴリー D.反応内容:働きかけに対する子どもの反応の内容(反応対象1'"'--' 3について) 1. 従う:保母の指示・提案に従った行動を取ること。働きかけにうなずくなども含まれる2
.
主張・要求:保母の指示・提案などに対し,新たな主張や要求をすること 3. 拒否:r
イ ヤJ
r
ダメ」といった言葉による拒否や首を横に振るなどの非言語的拒否が含まれる 4. その他:上記以外の反応内容I
I
I
.
結果と考察
データを収集できなかった(表4)。したがって,数値 化されたデータとして各期の頻度を比較することは不可 前述のとおり,本研究は杉山他(1990)および本郷他 能であった。特に, 1I期以降でI期と比較可能なデータ (1991)の縦断研究である。したがって,収集されたデー は1I-前期分のみであった。このような事情を考慮した タはそれらにならい,集団が構成されてからの時期によ 上で, 1I-中期以降のデータについてはエピソードの記 り , 5月・ 7月を「前期J
, 9月・ 11月を「中期J
,翌年 述を中心に考察を進めたい。なお,考察にあたっては, l月・ 3月を「後期」としてまとめられた。さらに,混 I期のデータに関する情報(杉山他, 1990;本郷他, 乱を避ける目的で,それらの研究で取り扱った1988年5 1991)を適宜取り入れた。 月'"'--'1989年3月 (0・1歳児混合クラス)をI期とし,本 研究で取り扱う1989年5月'"'--'1990年3月(1歳児クラス)1
.
ト ラ ブ ル の 頻 度 お よ び 成 立 ・ 不 成 立 と1990年5月 (2歳児クラス)をそれぞれE期・ ill期と した。よって,各期のデータはr
1-
前期……1I-後期, ill-前期」と呼ばれそれぞれ区別された。各期の観察開 始時における被験児の月齢は表3に示した。 また,主に被験児側の諸事情により,焦点児のうちE -中期ではH児が, 1I-後期以降ではH児とC児の (1) トラブルの頻度 開始者の「取る」などの行動に対して,所有者の側に 明確な行動変化が観察されない場合も含めて, 1I-前期 には25例のエピソードが観察された。系列は46例であっ た(表4)01
期に較べると,エピソード数・系列数共表3 各期の観察開始時における被験児の月齢 焦 点
v
目じ 観 察 時 期 H児(男)K児(男)M
児(女)C児(女) 非 焦 点 児 平 均 レ ン ジ :rr-前期 26* 25 23 23 18~25 (6人) 23. 1 18~26 歳児 :rr-中期 * * 29 27 27 22~29 (7人) 26.6 22~29 グ フ ス :rr-後期 33 31 31 26~33 (7人) 30.6 26~33 2グ 歳児スラ ill-前期 37 35 35 29~37 (10人) 33.3 29~37 *単位は「カ月」 * * H児は中期以降他クラスに移動。かわりに新入園児 l名(非焦点児)が入る。 表4 収集したデ、ータの時間数とエピソード数・系列数 時焦期点児 H児 K児M
児 C児 言十 エピソ 系 列 数 lたエりピのソ系ー列ド数あ ード数 前期45 88 1.96 * 1 -各期 (1650分分×ず4つ回) 60分ずつ 怖0分ずつ60分ずつ (合24計分09ずつ60分) 中期37 68 1.84 後期44 89 2.02 :rr-前期 (15分60×分4回) 60分 60分 60分 240分 25 46 1.84 :rr-中期~
(15分60×分4回) 60分 60分 180分 14 26 1.86 II-後期三豆
(15分60×分4回) 60分ヒ
二
120分 4 6 1.5 ill-前期u5
分30×分2回) 30分 60分 26 38 1.46 * 1 -各期についてのデータは杉山他(1990) からの引用である に顕著な減少がみられた。:rr-中期以降は,データの収 集時間が短いために頻度を単純に比較することはできな かったが,m-
前期ではデータの収集時間が短いにもか かわらず26例のエピソードが観察され,単位時間あたり の生起頻度は増加していた。なお1エピソード当たりの 系列数についてはI
期からE
一中期にかけては変化がみ られなかったが, :rr-後期とm-
前期で若干低い値を示 していた。 2歳時期のトラブルの生起頻度については,減少する とし、う報告(今野他, 1988) がある一方で,必ずしも減 少しないとし寸結果(無藤・内田, 1982) もある。後者 の結果は実験室での子ども同士の一対一場面で得られた ものであり,前者は集団保育場面を観察した結果として 報告されている。また, 1930年代以降の子ども間のトラ ブルに関する研究を概観したS
h
a
n
t
z
によって, トラブ ルの生起頻度は年齢要因だけで、なく物の使用状況になど よっても大きく変化することが指摘されている。本研究 の結果は,同じ集団保育とし、う場面であっても物の性質 やトラブ、ルの当事者で、ある子どもが当該の物に対してど の程度占有の欲求をもっているかなどの条件によって生 起頻度が左右されることを示唆している。 トラフ、、ル開始時の状況としては「開始者」・「所有者」 共に「やりとり」が増加していた(※1)が,これは子ど も同士あるいは子ども対保母の相互作用そのものが増加 していたことによるものであろう。月齢の増加に伴い共 同的な遊びが展開されやすくなる中で,一般に,相互作*
1 ) トラブルの開始時おける所有者の状況(トラブ、ル の対象となる物の使用状況)としては, 1期に比 べ「その他」が増加(I期全体8.7%, :rr・E
期 全体24.6%) していた。その内容はすべて「やり とり」であり,所有者が保母あるいは子ども(そ れぞれ17例中対保母が 9例,対子ども所 8例)と, 「やりとり(物の受け渡しゃ,ごっこ遊びでのや りとりなど)Jしている物に対して開始者が「取 る」などの行動を起こす場合が増えていることを 示していた。また,開始者の状況としても同様に 「やりとり」が増加する傾向(1期全体5.6%, :rr.
m
期全体8.7%) が認められた。用そのものが活性化されるとしづ事情が背景にあるもの 始者の「要請」が明らかに聞こえていると思われるにも と思われる。しかし,
I
やりとり」の増加は必ずしもト かかわらず自分の遊びを続けているとし、う事例であっ ラブルの増加をもたらすものではない。十分とは言いが た。これについては「拒否的なNR(
本郷他,1
9
8
9
)
J
と たいが,I
先行所有のルール(※2)Jなど一定のルールが し、ぅ解釈が可能で、あり,このこと自体が開始者に対する 子ども同士の所有関係を規定するものとして実効性をも ある種の「抵抗」になっているものと考えられる。また, つようになってくると考えられるからである(鈴木他,I
I
-
前期と同様の所有権の所在が明確ではない事例も1
1988) 。本研究においても I~ ちゃん(自分)が使って 例含まれていた。 たの」という,言語的な「所有の主張(
I
I
-前期1
例,I
I
-
後期のI
N
R
J
(
エピソード4
例中1
例)は,他者 中期2例,I
I
I
の前期4例の計7例)Jが観察され,I
先行 の介入はなかったものの,所有者が明らかに別の遊びに 所有のルール」が定着しつつあることをうかがし、知るこ 興味が移っていると考えられる状況で脇に置いた物(置 とができょう。ただしこの7例中 6例はいずれも所有の いてから1
0
秒以内)を取られるとし寸事例であった。 主張をしながら「取る」・「取り返そうとする」あるい 続いて,I
I
I
-
前期を見てみよう。I
I
I
一前期では,2
6
例 は「攻撃する」とし、う事例であり,ルールの適用に関し のエピソードのうち,開始時の系列で所有者のINRJ
てはまだ未熟な段階にあるものと推測される。 は4例観察されている(15.4%)。他者の介入はなかっ たが,開始者が所有者の所持している物に向かつて出し (2) トラブルの成立・不成立 た手を自らすぐに引し、てしまったために,所有者の側はI
N
R
J
であったと考えられる事例がl例含まれていた。 本研究では「取る」などのトラブル開始行動に対して また,残り3例のうち2例では,結果的にではあるが「分 相手に明確な行動変化が起きない場合もトラブ、ルとして 有(後述する )J としづ形態の「共有」が成立していた。 扱うことはすで、に述べた。このような「不成立」のトラI
I
.
I
I
I
期については,他者(保母・子ども)の介入が ブルは,一般的な意味での「成立」したトラブ、ルとは区 あ っ た エ ピ ソ ー ド を 除 い て 考 え た 場 合 で も , 単 純 な 別され得る。杉山他(19
9
0
)
では,これら「不成立」のI
N
R
J
の比率だけからは,必ずしもトラブルが成立しゃ トラブル,つまりエピソードの開始時における所有者の すくなるとは言い難い。しかし上述のように,各期につI
N
R
(
人に対して何らの行動も起こさない)
J
の比率を, いて,何らの理由もなく所有者が無抵抗のまま(一方的 トラブ、ルの「成立」のしやすさをみるための指標とした。 に取られっぱなしで)所有権が開始者の側に移りトラブ 同様のやり方で,まずE一前期のINRj
から見てみる ルが「不成立」で終わる場合のINRj
のみを考えてみ ことにする。 ると,I
I
一前期なし,中期1
2
例中l例(
8
.
3
%
)
,後期なI
I
-
前期では,2
5
例のエピソードのうち,開始時の系 し,I
I
I
一前期2
6
例中l例(
3
.
8
%
)
とし、う結果であった。 列で所有者のINRj
は3
例観察された。ただし,この I期のデータを同様の視点で再分析してみると,1
期 中にはI期と同様に直後に保母の介入があったために に見られた所有者のINR(
保母の介入があったエピソーI
N
R
J
になったと考えられる事例が含まれていた。この ドを除いてI一前期3
3
.
3
%
,中期0%
,後期1
0
.
0
%
)
J
ようなエピソードをのぞいた場合,INRj
は2
3
例のエピ は,すべて所有者が無抵抗のまま所有権が開始者の側に ソードのうち1例のみ(
4
.
3
%
)
であった。さらに,こ 移ったことを意味していた。したがって,I
I
• I
I
I
期では, のl例についても,ある子どもが他の子どもにいったん 1-中・後期と同程度かそれ以上の高い確立でトラブ、ル 渡した物を直後に「所有の主張」をしながら「取る」と が「成立」していたことがわかる。 いうもので,所有権の所在が明確ではない状況で観察さ れた事例で、あった。 では,I
I
-
中期以降についてはどうだろうか。I
I
-
中期には,保母の介入のほかに,第三者である子 どもの介入があったためにINRj
になったと思われる 事例がはじめて出現していた(14例中l例)。このよう に,保母であれ子どもであれ他者の介入があったためにI
N
R
j
になったと考えられるエピソード2
例を除いた場 合,INRj
は1
2
例中3
例のエピソードでで観察されてい た(
2
5
.
0
%
)
。しかし,これら3
例のうちの1
例は,開 以上により,予測 1はトラフ、、ルの頻度に関しては確か められなかったが,トラブ、ルが「成立」しやすくなる(相 手に対する明確な抗議・抵抗・拒否をするようになる) という点に関しては確認されたと言ってよいであろう。*
2)集団保育場面などで共同使用される,つまり所有 (使用)者が個別化していない物の使用に関して, きわめて一般的に適用されるルールで,先に使っ ていたものに所有(使用)権があるというもので ある(遠藤,1
9
8
6
)
。-
49-2
.
トラブル時の子どもの行動
「不成立」のエピソードも含めてトラブ、ル時の行動を まず開始時におけるそれから見てみることにする。 (1) トラブル開始時の行動 トラブルの開始時おける所有者の状、況として開始者・ 所有者共に「やりとり」が増加していたことはすでに述 べた。では,そのような状況のもとで,開始者はいかな る行動によってトラブ、ルエピソードを開始していたので、 あろうか。また所有者の側は開始者が起こした行動に対 してどのように反応していたのだろうか。開始時の系列 における開始者および所有者の行動についてそれぞれ述 ベる。 ①開始時の系列における開始者の行動(以下「開始行動」 とする) 各期のエピソードの開始行動を表5に示した。総数は,E
一前期2
6
例,中期1
5
例,後期4
例,皿-前期2
7
例であ った(※3)。これら開始行動のうち,各期を通して l例 も観察されなかったものとして,1
攻撃」と「保母への 訴え」がある。特に開始行動としての「攻撃」は, 1-中期で出現し1-
後期で増加した(開始行動全体に占め る割合が1
2
.
0
%
)
が, l[-前期以降は l例も観察されな かった。 一方,同様に1-後期で増加した「要請」は, l[-前 期で3例(
1
所有のー要請」が1倒,1
使用の要請」が2例) 観察された(11
.
5
%
)
。この比率は1-
後期とほぼ同様 の値(12
.
0
%
)
であった。また, l[-中期でも「所有の 要請」が2
例(13
.
3
%
)
観察された。さらに, l[-中期 では「まぜて」とし、う言語的な「参加の要請」がはじめ て観察された。 「その他」の項目に含まれる「主張」については, l[ 一前期と中期でそれぞれl例ずつ見られた。前期のl例 は「前使用(前に使っていたが置いて離れて1
0
秒以上た つ)Jの物に対してであり,中期の 1例は開始者が所有 者にいったん渡したものに対してであった。いずれも「取 る」行動を起こしながら1
'
"
'
-
'
ちゃんが使ってたの」ある いは「これは ちゃんの」と,言語的な「所有の主張」 をするというものであった。 さらに,1
その他」の項目に含まれるものとして,実 際に取るのではなく「ふりをする行動J
(エピソード 1) や,1
交換の提案」がトラブ、ルのきっかけになっている 例,物を取られたので、はなく渡されたことに抗議するト ラブ、ルの例(エピソード2)が, l[-前期でそれぞれ1 例ずつ観察されている。また,相手の手にしているもの を「取る」あるいは「取ろうとする」のではなく「所有 者が落としたり置いたりした物を拾って所有者に渡す」 意図がうかがえるエピソードもあった。これについては 意図の誤解(無藤・内田,1
9
8
2
)
がトラブルのきっかけ になっているとし、う解釈も可能であろう。 共同的な遊びの展開に伴い, トラブルのきっかけもよ りいっそう多様化してきていると言える。 ②開始時の系列における所有者の行動 開始時における所有者の行動(開始行動に対する所有 者の反応)総数は, l[-前期2
5
例,中期1
4
例,後期4
例, ill-前期3
2
例であった(表6
。) 「攻撃」がl[-前期とE
前期で5
例ずつ観察されて おり,いずれもI期に較べて比較的大きな割合(それぞ れ20.0%
,1
5
.
6
%
)
を占めている。開始行動としての「攻 撃」が減少していたこととは対照的である。「主張」に*
3)エピソード数よりも開始行動数の方が多いのは, 「何か言いながら取る」などとしづ場合,カテゴ リーにしたがって複数の行動として数値化したた めである。 表5 開始時の系列における開始者の行動(開始行動)主註之里
取る・ 攻撃 要請 保母への その他 計/分 取ろうとする 訴え l[-前期(
7
2
7
0
.
0
)
。
(
1
1
3
.
5
)
。
(
1
1
3
.
5
)
2
6
/
2
4
0
l[-中期(
7
3
1
1
.
4
)
。
(
1
3
2
.
3
)
。
2
1
5
/
1
8
0
(13
.
3
)
E一後期4
。
。
。
。
4/120
(10
0
.
0
)
ill-前期(
9
2
2
.
5
6
)
。
(
3
.
7
)
。
(
3
.
7
)
27/60
( ) 内 は %-
50-ついては, 1期には開始行動として2例観察されたのみ であったが, 1I. III期では開始時における所有者の行動 としても「主張」が見られた(1I-前期とIII-前期で1 例ずつ)。 次に,
r
拒否」についてはどうだろう。「拒否」はEの 各期と直一前期でそれぞれ2例, 2例, 3例, 1例の計 8例観察された。その中には,エピソード4(1I-前期) に示すようにな「開始者の使い方に抗議している」とも 解釈できる「拒否」の事例もあった。 さて,r
その他」の項目に含まれる行動はI期が全体 として6.1%(* 4)なのに対して, 1I期以降(1I・ III期 全体)は21.1%と増加していた。この中には,r
取られ そうになった物を脇に投げる(1I 前期)J・ r(単に遠 ざけるのではなく)自分の背後に隠す(1I-前期)J・ 「物陰に隠して自分は逃げる (III-前 期)Jなどの手段 によって,開始者の「取る」・「取ろうとする」行動を 「回避」しようとする例や,r
八つ当り」とでも言うべ き「トラブ、ルの対象になった物以外の物に対する攻撃的 行動の例(1I-中期)Jがあった。また,開始者の「セ ロテープを取ろうとする行動」を「回避」しながら「セ ロテープを切って渡す」という「分配」が直一前期で6
例観察されていたことも,注目に値するであろう。 (2) トラブル展開時の行動 エピソードが1回のやりとりだけで終結せず, 2つ以 上の系列からなるエピソードは, 1I 前期13例,中期5 例,後期2例, III-前期4例であった。これらのエピソー ドの中で2つ目以降の系列(トラブルの展開時)で観察 された開始者・所有者それぞれの行動について述べる。 ①展開時の系列における開始者の行動 トラブ、ルの展開時における開始者の行動(トラフ。ルエ ピソードの中の,開始行動を除いた行動)は,1I-前期23 例,中期12例,後期2例, III-前期11例観察された(表 7 。) その中で, 1I-前期では「攻撃」と「要請」が比較的 大きな割合を占めていた。特に,1
期に比べこの時期の 「攻撃」の増加が著しl、。「要請」のうち「使用の要請」 は観察されなかったが,r
所有の要請」については1I-前期・中期共に1-後期と同程度 (25.6%)の比率であ った。これら「要請」を,開始者に対する保母の直前の 働きかけとの関係で見てみると, 1-後期で初めて観察 された保母の働きかけのない場面での要請行動が, 1I-前期・中期でそれぞれ1例ずっと盟一前期で2例観察さ れた。 また,r
主張」は1I-前期でl例観察されているが, これはエピソード5に示すように単なる「所有の主張」 ではなく「使い方をめぐる主張」とも解釈できょう。 1-各期における開始時の「その他J(所有者)の和*
4) ~ ':.":'~:-~:'>', :v~-:;~,~~':J ;__'::::'~'::' ,"_/O_:::;:,''J;::x 100 Iー各期における開始時の行動総数(所有者)の和 表6
開始時の系列における所有者の行動区設之空
回 避 攻 撃 拒 否 要 請 保母への その他NR
計/分 抵 抗 訴 ズー E 前期 (4411.0) (20り.0) ( 82 .0)。
(4.0) (123 .0) (123 .0) 25/240 1I-中期 (21.3 4)。
(142 .3)。 。
(284 .6) (35.5 7) 14/180 E一後期。 。
(753 .0)。 。 。
(25.0) 4/120 III-前期 (4103.7) (155 .6) ( 3.1)。 。
(289 .1) (124 .5) 32/60 ( ) 内 は % 表7 展開時の系列における開始者の行動瓦訟乏空
取る・ 攻 撃 要 請 保母への訴え 取ろうとする その他 計/分 1I-別期 (174 .3) (26.6 1) (266 .1) ( 4.4) ( 266 . 1) 23/240 1I-中期。
(253 .0) (253 .0) (162 .7) (334 .3) 12/180 1I-後期。
。
。
。
(1002 .0) 2/120E
目Ij期 (45b .5)。
(182 .1)。
(364 .4) 11/60 ( ) 内 は %次に,開始時における所有者の行動と同様に全体とし て増加の見られる「その他
J
(I期:全体で;
1
2
.
4
%
,II•i
l
l
期:全体で2
9
.
8
%
)
についてはどうだろうか。「その他」 の項目に含まれるものとして,開始者が「一度取ったも のを所有者に返す」という事例がII-前 期 で2例, 後期で 1例,i
l
l
-
前期で l例の計 4例見られた。このう ちE一前期の 2例は保母の働きかけがあった場面で、観察 されているが, II- 後期と ill~ 前期の 1 例ずつについて は働きかけのない場面で観察されたものである。一方は 所有者の「拒否」に応じたもの (II 後期)であり,も う一方は所有者の側からなされた「ジャンケンの提案」 に応じたもの(理一前期,エピソード8)であった。さ らに,開始時と同様の「ふりをする行動J
(II-前期で 2例),所有者(開始時)と同様の「脇に投げる」行動 で所有者の「抵抗(取り返そうとする)Jをさらに「回 避」しようとする事例 (II一中期)なども観察された。 ②展開時の系列における所有者の行動 所有者の行動は,展開時においてE
前期2
3
例,中期 比例,後期2例,i
l
l
-
前期1
3
例観察された(表8。) この中でI
期に比べて増加しているのは,I
攻撃」と 「その他」であった。「攻撃」は1-
後期からE
一前期 あるが,この時期の「回避・抵抗J
(開始時と展開時を あわせて1
7
例)には「主張」・「拒否」などの言語的反 応を伴うものが 4例含まれており, 1期に比べて若干の 増加の傾向がみられた。 さてここで, II-前期で3例,中期で2例観察されて いる「拒否」についてはどうだろうか。開始時における 「拒否」と合わせて(計1
3
例)その後のトラブルの展開 を見てみると,直後に保母の介入があった事例を除いた1
0
例のうち,I
共有」が1
例,I
再度要請」がl例,さら に,開始者が取り込みを断念して「し、ったん取ったもの を返す」あるいは「物にかけた手を離す」などの事例が 6例であった。このように所有者の「拒否」に応じてあ る程度ノレールに則った行動を起こしていると考えられる 事例が計8例観察されていた。しかし一方では,最初は /レールに則って「要請」していながら「拒否」されると 「攻撃」するとし寸事例も2例見られた。 以上により,予測された要請行動の増加(予測2)は 確認されなかったが,言語産出面での発達と共同遊びの 展開に伴って, 1歳児期に比べトラブ、ル時の行動がより 一層多様化していることが明らかになった。 で増加していた。「その他」に含まれる「主張」はII-3
.
トラブルの終結
中期で 1例,i
l
l
一前期で 4例観察されており,特にi
l
l
-前期では全体に占める割合も比較的大きい。また,I
そ 開始者が「最終的所有者」になる割合は,エピソード の他」に含まれる「主張」以外のものとしては,i
l
l
-
前 数そのもが少ないII-後期を除いて各期とも20%
前後で 期で「ジャンケンの提案」がl例観察されていた(その あり, 1-後期とほぼ同程度であった(表9)。しかし, あとの展開は,前述のエピソード8に示すように,所有 この中には「イイヨ」としづ言語的反応を伴って所有者 者の「ジャンケンの提案」は不調に終わっている)。ま が開始者に与える(譲る)事例 (II-前期)や,いった た,場所の占有をめぐるトラブ、ルで、は「代替物(隣にあ んは開始者が「最終的所有者」になるが使ったあとで元 る別の場所)を提示する」行動も観察された。 の所有者に返すとし、う事例(
i
l
l
-
前期)などもあった。 次に,I
回避・抵抗」について見てみよう。「回避・抵 また,エピソード4のように役割を分化させた上で、共同 抗」はI期に比べ(全体で3
1
.
9
%
)
II期で減少している の遊びが成立している事例や,エピソード5
に示すよう が(全体で1
5
.
4
%
)
,i
l
l
-
前期では再び30%
近くを占め に「役割(水の注ぎ手と受け手)を交替する」ことでト ていた。この傾向は開始時についても当てはまることで ラブ、ルが終結している事例など,物理的にはどちらかー 表8 展開時の系列における所有者の行動ふぐ里
回 避 攻撃 拒否 要請 保母への その他NR
計/分 抵 抗 訴 え3・ II-前期 b b3
。 。
7
3
2
3
/
2
4
0
(
2
1.7
)
(
2
1.7
)
(13
.
0
)
(
3
0
.
6
)
(13
.
0
)
II-中期(
7
.
1
)
2
2
。 。
6
3
1
4
/
1
8
0
(14
.
3
)
(14
.
3
)
(
4
2
.
9
)
(
2
1.4
)
II-後期。 。 。 。 。
2
。
2/120
(10
0
.
0
)
i
l
l
-
前期(
3
0
4
.
8
)
(
7
.
7
)
。 。 。
(
4
6
6
.
1
)
2
1
3
/
6
0
(15
.
4
)
( )内は%-
52-表9 最終的所有者と保母の働きかけの有無 I~最終的所有者|開始者|所有者|両 者 │ 計/分 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 川 寺 期 ~、|働きかけ有・無| 有・無 │ 有・無 │ 有・無
I
11'~6
^ ¥I
1 ",3 f)¥ 25/240分 (24.0) (64.0) (12.0) E一前期 卜一一一一一一一一一一一一一卜一一一一一一一一一一十一一一一一一一一一一卜一一一一一一一一一一 1 9 │ 2 1 1 4 / 1 8 0分 ~_____(?1 ・ 4)I
(64・3) (14・3)I
II-中期 2 1 2 1 0 1 4 / 1 2 0分~---(?_Q・ 0)
(50・0)I
II-後 期 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一ー一一一一一一一一一一一一一一一ー一一一一一一一一一一一一一一 1 3 1 8 1 2 6 / 6 0分 ~---ç19.2)I
(50.0) (30.8)↓
ill-前 期 方が「最終的所有者」になっているものの,共同の遊び が継続されるという点では心理的な共有とみなすことも できるエピソードが含まれていた。特に後者は, 1期に は見られなかった特徴的エピソードである。物理的にも 共同使用可能な単体の大きな物の共有だけでなく,役割 を分化させた上で、の共同使用が可能になりつつあるもの と思われる。 「最終的所有者」が「両者」である場合,つまり共有 は直一前期で多い (26例中8例)が,これらはすべてト ラフ守ルの対象になったものを開始者と所有者が分け合っ て所有するとし、う形態の共有であった。山本(1986)は, このような所有形態を「分有」と呼んでいる。「セロテー プを取ろうとする」開始者の行動に対して,所有者が「セ ロテープを切って渡す」ことで「分有」が成立する場合 (6例)と,開始者が「セロテーフ。を取って行く」こと に所有者の側がiNRJ
であったために結果的に「分有」 が成立する場合(
2
例)とがあった。 以上のように,共有の形態が多様化するとしみ予測3 は,役割を分化させた上での共同使用や「分有」などの 出現によってほぼ確認されたと言える。 次に保母の働きかけとの関係で見てみよう。保母の働 きかけがない場合,元の所有者が「最終的所有者」にな る割合は共有の多いE一後期を除いてほぼ50%であり, これはI一前期・中期と同様の値であった。一方,保母 の働きかけがある状況で「最終的所有者」がトラブ、ルの 開始者であったのは, II-前 期3例,中期1例, ill-前 期l例の計5例であった。この中には所有者が開始者に 与える(譲る)とし、う事例が2例(し、ずれもE一前期) ( )内は% と,保母が誤解して所有者の「抵抗(取り返そうとする)J を「制止」してしまった事例 (II-中期)が含まれてお り,保母の介入にもかかわらずトラブルの開始者が「最 終的な所有者」であったエピソードは2例のみであった。4
.
使い方をめぐるトラブル
一般に,遊びの中に意図的計画的に特定の物を導入し ようとする傾向は,月齢の増加に伴って強まるといえる。 このことは,r
何を使うか」だけでなく「どう使うか」 についても,関心および注目度が高まるということであ ろう。それは,眼前の物に単に手を伸ばすとし、う傾向に 対しては抑制の効果を持つものであろうが,一方では, 「これでなければならなし、」という占有の欲求に加え「こ うでなければならなし、」としづ特定の使い方に対する欲 求(使い手が自分であっても他者であっても)を強める ものであろう。また,特定の使い方をめぐっての要求対 立が顕在化すればトラブルも発生し得る。 l歳半以降で出現した(杉山他, 1990)こうした使い 方をめぐるトラブ、ノレの増加が当初予想されたが,i
使用 の要請」の頻度が増加したか否かという点だけからは, 必ずしも使い方をめぐるトラブ、ルが増加したとは言えな かった (II-前期で2例)。 し か し 使 い 方 を め ぐ る 言 語 的 な 「 拒 否 (II-前期で l例,エピソード4)J
や「主張 (II-前期で2例,い ずれもエピソード5)J
などI
期にはみられなかった行 動 がE期で、は観察された。このように使い方をめぐる要 求対立が含まれているエピソードは, II期全体で計4例あり,
1
期全体と比較してみると,比率として若干の増 加がみられた(I期全体5.6%,J
I
期全体9.3%)。また, 内容はし、ずれも言語的な「要請」・「拒否」・「主張」 であり,言語産出面でのこの時期(1歳半'"'-'3歳)の飛 躍的な発達に支えられて,使い方をめぐる要求が顕在化 および多様化していることをうかがうことができょう。 したがって,予測4はほぼ確認されたと言ってよいで あろう。ただし,こうした使い方をめぐるトラブ、ノレはE
一前期では1例も観察されなかった。 された。また, 1系列当たりの働きかけ数は, JI一前期 2.68 (59/22),中期3.58(43/12),後期1.00(2/2), ill-前期1. 00 (2/2)であり, JI-前・中期につい ては1-中期・後期(それぞれ3.00,2.82)ほぼ同程度 のイ直であった。 では,働きかけ内容についてはどうだろうか。表11に 保母の働きかけ内容別の頻度と割合を示した。1-
後期と比較すると, JI-前期には「要請の指示」 と「その他」が増加していた。「要請の指示」は, 1-後期では働きかけ総数に占める割合が9.7%だったのに5
.
保 母 の 働 き か け 対して, JI一前期では20.3%と,全体に占める割合とし ても比較的大きい。E 中期の含めて内訳を見てみると, 保母の働きかけは, JI 前期で59例,中期で43例,後 I期に見られたような「手を取って要請の身振りをさせ 期で2例, ill 前期で2例,それぞれ観察されていた。 る」や「要請の身振りを演じしてみせる」はなく,すべ 前にも述べたように,データの収集時間が各期で異なる て要請の言葉かけであった。また,その表現も「チョー ため頻度は比較で、きないが,介入率を見てみると(表10) ダイって言うんだよ」などの直接的表現から「お話して 系列総数が極端に少ないJ
I
-
後期を除いて,J
I
前期・ みたら」などのより間接的表現に変化していた(
J
I
一前 中期の介入率(それぞれ0.48,0.46)は1-後期 (0.57) 期, 12例中6例,中期, 5例中4例)。しかし,働きか とほぼ間程度であった。が,一方で, ill-前期の介入率 けの対象については,集団生活の経験がない新入園児に (0.05)はかなり低いものであった。これは,データを 対して特に「要請の指示」の働きかけを行なっているな 収集した際の状況(し、ずれも午後のおやつの後片付けが どの傾向は認められなかった。長
ヲ
I
¥,、ており2名の保育者が十分に通常の保育にあたっ 一方, JI一前期で10例観察されている「その他」の内 ているとは言いがたし、状況であった)による影響と推測 訳は,i
なだめる行動(
i
大丈夫?Jと声をかける,抱き 表10保母がトラブル系列に介入する頻度と割り合い7
1
5
f
f
働 き か け の 相 手 開始者のみ 所有者のみ 両 者 13 6 3 E 目'J期 (.59)*
( .27)*
(. 14)*
E 中期 (.56 0) (.23 5) (.23 5) E 後期。
2。
(1. 00) E 別期 (.50) (.50)。
*働きかけのあった系列数(表中の「小計J)が母数 **系列総数が母数 表11 保母の働きかけ内容コ
ミ
f
:
:
制止 取 る 所有 相手 要求 与えるJ
I
-
前期 7 3 5 9 8 (11.8) (5.1) (8.5) (15.3) (13.6)J
I
-
中期 ( 44 .3)。
(42 .7) (167 .3) (115 . 6)J
I
-
後期。 。 。 。
(501 .0) ill-前期。 。 。
(50.0)。
- 54-要請 12 (20.3) 5 (11。
.6)。
計 (介入率) 22 (.48 )*
*
12 (.46 ) 2 (.33 ) 2 (.05 ) 解決策 3 (5. 1) 11 (25.6) (50。
.0) 系列総数/分 46/240 26/180 6/120 38/60 その他 計/分 12 59/240 (20.3) 9 43/180 (20。
.9) 2/120 (50.0) 2/60上げるなど )Jが
6
例と最も多く,この傾向はT
I
-
中期 も同様であった(9
例中6
例)。また,I
W
-
-
-
-
"
ちゃんのよ』 って」としづ言語的働きかけで「所有の主張」を促す例(
T
I
一前期l
例) ・I
W
まぜて』って言ってごらん」と 「参加の要請」を促す例(
T
I
-
中期1例),さらには1
-
-
-
-
-ちゃんのお話きいてあげてjと子ども同士の対話を成立 させようとする意図の働きかけ(
T
I
一中期2例)なども 見られた。前者には子どもが獲得しつつある交渉能力を 発揮しやすいようにとしづ保母の意図を認めることがで き,一方後者は交渉が成立しやすいような状況を作るた めの働きかけと言えよう。交渉の代行者としてではなく, 子ども自らがが交渉の主体になるための援助者として, 保母が重要な役割を担うようになっていると考えられ る。これらは一層明確になってきた保母の媒介的役割を 示唆するものであり,ほぽ予測5
にしたがった結果で、あ ると言える。 また,減少しているものとしては,1
取る・与える」 と「解決策の提示」があげられる。特に物理的手段であ る「取る・与える」についてはT
I
-
中期以降でl例も観 察されなかった。「解決策の提示J
についてはT
I
-
前期3
例,中期1
1
例,後期1
例の計1
5
例であったが, うち5
例は「その他の解決策J
(し、ずれもT
I
-
中期)であり, I期には1例も観察されなかった「仲直りね」・「握手 (しょうね)Jなどの言語的な和解の提案であった。6
.
子ども同士の三者関係
トラブ、ルの成立・展開・終結の各相にかかわるものと して,T
I
期以降では3人の子どもが同時的にかかわるト ラブルが何例か観察された。このような子ども同士の三 者関係はI期には見られなかった特徴で、ある。 さらに, これらを3者の関係の在り方によってふたつの型に分け ることができる。ひとつは, トラブ、ルの当事者のどちら か一方に第三の子どもが加勢するタイプ(加勢型)であ り ,T
I
-
前期に3例,中期に2例観察された。加勢する 際の行動は「開始者から物を取り戻して所有者に与える(
T
I
一前期)J・I(所有者から物を取ろうとして取れな かった)開始者に代替物を持って来て与える(
T
I
-
中期, エピソード6
)
J
場合と,1
開始者に対する攻撃(
T
I
-
前 期)J・「所有者に対する慰め(
T
I
-
中期)J,あるいは 「要請の代行(
T
I
-中期)Jである場合があった。もう ひとつのタイプは,二人の子どものやりとりに第三の子 どもが割り込んだために起こる,3
人の子どものトラブ ル(割り込み型)であり,T
I
-
前期とTI-
後期で1例ず つ観察されている(エピソード3・エピソード7)。 子ども同士の三者関係については,朝生(
1
9
8
8
)
や松 寄(
1
9
9
0
)
によっても報告されている。前者は保育所に おける保育集団をを観察対象とし平均1
2
ヵ月(レンジ9 ヵ月----.,2
0
ヵ月)の時期でも一方を「慰める」あるいは「叱 る」とし、う行動はわずかに観察されるが,増加するのは 平均2
5
ヵ月(レンジ1
9
ヵ月-
-
-
-
"
2
9
ヵ月)の時期(本研究のT
I
-
中期にほぼ相当する)以降であるとしている。一方 後者は,家庭で養育されている同月齢の2歳児5名の集 団(日常的に頻繁な接触経験有引を観察対象としてい る。それによれば,2
5
ヵ月から2
8
ヵ月の時期(
T
I
--中期 に相当)でも三者関係はみられるものの「傍観」が多い のに対し,2
9
ヵ月から3
2
ヵ月の時期(
T
I
-
後期に相当) になると「慰めるJ
あるいは「トラブルの様子を叙述す る」等が増加し,一方に「味方」することも観察される ようになると報告している。 本研究では頻度そのものが少ないため増減の傾向まで は確認できなかったが,平均2
3
.
1
ヵ月(レンジ1
8
ヵ 月 26ヵ月)のE一前期以降に比較的月齢の高い子どもで三 者関係が観察されているとしづ結果は,上述の研究結果 ともほぼ一致している。よって, 2歳時期のトラブ、ノレに おいては,子ども同士の三者関係が特徴のひとつとして 重要であると考えられる。 さらに盟一前期には,ビデオには収録できなかった(筆 者が筆記により記録したエピソードであり,数値化はし なかった) トラブ、ルとしてエピソード9に示すような三 者関係が観察されている。これは単に一方から当該の物 を取って一方に与えるという形の加勢ではなく,保母の はたらきかけになぞらえてみると「所有の確認」に相当 する言語的な介入も含まれている。より中立的な介入と 言ってもよいであろう。 子どもの介入様式のこうした変化を,1
制止」や「取 る・与える」などの物理的手段から「要請させる」など 子ども同士の関係を媒介するような働きかけに変化して きた保母の介入様式に対置させてみると興味深い。子ど もは保母をモデ、ルとして多様な介入様式を学習している ことが示唆される。以上は,予測6にしたがった結果と 言える。 また,このように三者関係の有り様が3歳前後になる とあらたな展開を見せ始めることから,3
歳以降のトラ ブ、ルにおいては,子ども同士の三者(あるいはそれ以上) 関係によって展開するトラブルが増加するとともに,保 母をモデルとしてより中立的な立場で介入するようにな るものと予想される。そしてその事は同時に,自らがト ラブルの当事者で、ある場合も一定のルールを適用させて トラブ、ルに対処しようとしたり,あるいはルーノレを適用-
55-することでお互いの納得のもとに物をやりとりし,結果 ンですくうふりをし続けて,食べるふりもする
(
1
ふ としてトラブルを未然に防ぐことにもつながっていくで りをする」行動)0A
児,すぐに戻って来てK
児を見る あろう。 と,持っていたシャベルでK児を軽くたたく。 K児,再N.
今後の課題
(
1
)
トラブルの多様化 全体として「その他」の項目に分類される行動が増加 しているとしづ傾向は, トラブルの成立・展開・終始の いずれの相においても子ども・保母共に行動が多様化し ていることを示している。しかし筆者らがあらかじめ 設定した分析測度によってこの多様化の実態を正確に把 握することはできなかった。特に,二者関係を前提にし たカテゴリーだったために子ども同士の三者関係につい ては十分に記述しきれなかった。また,これまでは,物 をめぐるトラブ、ルを物の取り合いとほぼ同義と考えてい たが,エピソード2に示すような取り合いとは言えない 物をめぐるトラフ。ルも発生している。新たな分析測度作 成する必要性も含めて今後の課題と考えられる。(
2
)集団が構成されてからの時間的経過 本研究では, 0.1混合クラスからの進級に際して集団 が再構成された1歳児グラスおよび, 1歳児クラスから の進級にあたって再々構成された2歳児クラスをそれぞ れ「前・中・後期」に分けて縦断的に観察対象とした。 したがヲて,対象とされた被験児の平均月齢は順次高く なっていったが,集団が構成されてからの時間という点 では,r
r
-前期・直一前期はI一前期と同様に短かった。 このような状態の集団を観察対象とすることによって, 月齢的要因だけでなく非月齢的要因のひとつと考えられ る「集団が構成されてからの時間的経過」がトラブノレの 変化にどう影響するかについても検討したいと考えてい たが,十分なデータ収集ができなかったため,本研究の 結果からもこの要因を取り出すことは困難であった。引 き続き今後の課題としたい。エピソード
エピソード 1i
ふりをするJ
行動がトラブルのきっか けになった事例 A児 (2歳1ヵ月;非焦点児)が,食べ物(ミニチュア) が入ったボールをテーブルの上に置いてその場を離れ る。K
児 (2
歳2
ヵ月)がそのボールから食べ物をスプー びすくって食べるふりをする。 A児, K児をシャベルで たたき,ボールを持って後ろにヲi
く。 K児そのボールに 同時に手を伸ばす。保母がK
児に向かつてI
W
あずちゃ ん (A児)ちょうだし、』って」と言う。 K児すくって食 べるふりをし,その場を離れようとする。A
児,K
児を 追い掛け,手を伸ばして捕まえようとする占K児逃げる。 保母がA児の腕をつかんで引き戻す。A児抵抗して泣く。 その後保母が両方の言い分を聞くなどの介入を行い,終 結する。(19
8
9
.
6
.
5
)
エピソード 2 物をめぐるトラブルではあるが物の取り 合いではない事例H
児 (2
歳2
ヵ月)が床の上にお盆を置き,そのうえに 食べ物(ミニチュア)を並べてひとりで遊んでいる。 R 児 (2歳 1ヵ月;非焦点、児),食べ物を持って K児の方 に来る。 H児, R児の方をじっと見ていて,そばまで来 た時R
児の方に軽く手を伸ばす。R
児,H
児のお盆に食 べ物をのせる。 H児「し、らない。入らないの」と言いな がらR児がのせた食べ物をお盆の外に出す。 R児,それ を拾って近くにあった別のお皿にのせ, H児の方を見て うなずく。 H児はR児の方をちらりと見たのち遊びを続 ける。(19
8
9
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6
.
8
)
エピソード3
i
二人の子どものやりとりに第三の子ど もが割り込む」という子ども同士の三者 関係(割り込み型)が見られた事例 H児 (2歳4ヵ月)の持っているコップに, K児 (2歳 4ヵ月)がビンから水を注いでいる。 M児(2歳1ヵ月) やって来て,持っているコップをH児の方に差し出す(H 児とK児やりとりにM児が割り込んだ)0 H児がM児の コップに注ごうとすると, K児, M児を体で押す。 M児,K
児に押されて少し横に移動するが,コップはH
児の方 に差し出したままでいる。K
児,1
し、っぱい,いっぱし、」 と言ってコップをH児の方に差し出しながら,再びM児 を体で押す。 H児, K児に注ぐ。 K児がH児にビンから 水を注いでもらっているのを見ると, M児もI
¥
'
、っぱい, いっぱし、」と言いながらコップを H児の方に差し出す。 H児, M児のコップに注ごうとするがビンの中に水がな く,1
みっちゃん (M児)はないから」と言う。続いて K児「みっちゃんはやだよ」とH児に向かつて言う。 H 児,空のピンでM児のコップに注くやふりだけして水道の 方に向かう。 K児もあとをついて行く。 M児,二人の後-
56-ろ姿を見ている。(1989.8.7) ド(エピソード7)になって続く。(1989.10.5) エピソード