な評価指標作成の試み
著者
荻布 優子, 川? 聡大, 松? 泰, 奥村 智人
雑誌名
東北大学大学院教育学研究科研究年報
巻
68
号
1
ページ
205-217
発行年
2019-12-26
URL
http://hdl.handle.net/10097/00126996
本研究の目的は,児童の読み書き正確性に関する課題を新規作成すること,及び新規課題と学力 との関係を検討することの2点である。学年配当を統制した30単語で構成された課題を読み書きそ れぞれで作成し1 〜 6年生1869名を対象に実施した。2 〜 6年生137名については新規課題と学力 (NRT 国語 ・ 算数)の関係を検討した。1869名に対する課題成績の主成分分析の結果,読み課題は 学年により1 〜 3成分に収束し,学年ごとに読み正確性の評価の観点は異なる可能性が示された。 書き課題は1成分に収束し,今回作成した課題を書き正確性の指標として用いることは妥当と考え られた。学力との関係について NRT 各課題を従属変数とした場合,低学年では読み課題・書き課 題の双方が独立変数として有効であり,高学年では書き課題が独立変数として有効であった。学力 に対する読み書き能力の影響は,学年進行に伴って変化する可能性が示唆された。 キーワード:漢字 読み書き正確性 評価指標 学習到達度 発達性読み書き障害
1.はじめに
1-1.読みや書きの苦手さの障害 文部科学省は「学習障害児に対する指導について(報告)」において「学習障害(LD)とは,基本的 には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち 特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は,その原因 として,中枢神経に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒 障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない。」と定義した(1999)。LD の実 態把握の基準は,国語や算数の基礎的能力の低下に起因して小学2・3年生においては標準的な学力 検査の1年以上の遅れ,小学4年以上および中学生については2学年以上の遅れを有すること,と具 体的に示されている。2012年に実施された学級担任に対する質問紙調査によると,通常学級に在籍児童を対象とした漢字読み書き正確性に関する
新たな評価指標作成の試み
荻 布 優 子
*川 﨑 聡 大
**松 﨑 泰
***奥 村 智 人
**** *教育学研究科 博士課程後期 **教育学研究科 准教授 ***加齢医学研究所 助教 ****大阪医科大学 LD センターする児童のうち4.5%に学習の困難が認められ,そのうち2.4%が読む・書くの困難さを有していた(文 部科学省,2012)。 LD の中核をなす読む・書くの苦手さは,DSM-5における限局性学習症のなかでも読みに特化し た状態象を示す「ディスレクシア」に該当する。発達期において読みに障害を有する場合には,発達 の順序性を鑑みれば必然的に書きにも障害を有するといえる。限局性学習症の診断は乖離診断の考 え方に基づいて進められる。限局性学習症の読みや書きの困難さは,正確性と流暢性の両側面から 評価される。出現率は流暢性の観点からみればひらがな音読で1.8%(稲垣ら,2010)や2.1%(関ら, 2015)とする報告が存在する。正確性の観点から見れば,ひらがな読み0.2%・カタカナ読み1.2%・ 漢字読み6.7%・ひらがな書き1.2%・カタカナ書き2.1.%・漢字書き8.0%(Uno et al,2009)する報 告が存在する。出現率や評価の側面や用いられる指標によっても差異が生じているといえるが,漢 字についての困難さを有する児童の出現率が高い。文字種が複数存在するのは日本語の特徴といえ, 蔦森ら(2012)や上岡ら(2018)も報告しているように漢字単独で障害される事例も存在する。読む・ 書くの苦手さを論じる際には,漢字の読み書きは中心的なテーマとなる。 1-2.読み書き正確性の評価の現状と課題 本邦の教育臨床および研究場面において実施されている漢字読み書き正確性の評価方法を概観す る。 まず学校教育場面で実施される,いわゆる漢字テストが挙げられる。現行の小学校学習指導要領 (2008年版)が示す「学年別漢字配当表」には,小学校6年間で習得すべき漢字1006字を学年ごとに 配当している(以下,学年別漢字配当表に配当される漢字を学年配当漢字と記す)。漢字学習は専用 の教科書が作成されておらず,国語科の教科書の文中に配置され,その都度単元ごとに新出漢字と して読み書きを教授していく。そして単元ごとにその漢字の読み書きの習熟を測るための漢字テス トが実施されることは一般的である。漢字学習の教材やテストは,各教員の自作であったり,各種 の市販ドリルが用いられている。 次に発達障害の臨床場面において広く用いられている評価方法に,小学生の読み書きスクリーニング 検査(Screening Test of Reading and Writing For Japanese Primary School Children:STARW)が ある。宇野ら(2006)によって,発達性読み書き障害を検出するためのスクリーニング検査として活 用することを目的として開発された,標準化された読み書きの直接検査である。学年ごとにひらが な,カタカナ,漢字それぞれ20単語が課題として採用されており,それぞれの音読および書取課題 で構成される。STRAW では,通常学級に在籍する児童のうち,簡易的な知能検査であるレーヴン 色彩マトリックス検査(宇野ら,2005)において -1.5SD を下回った児童を除外した一般小学生に実 施した基準データをもとに,-2SD をカットオフ値と設定している。流暢性の評価が含まれない点や, 相対的な評価ができない点などの批判を鑑みて,2017年に改訂版(STRAW-R)が出版されている。 STRAW-R では主に読みに関して改定がなされており,文章の音読を用いた流暢性の評価や,漢字 音読正確性の相対的評価として1年生から高校生まで共通して126単語の音読を実施し,漢字音読
年齢の算出を可能としている。実施の際は見慣れない漢字の音読を大量に求められる状況となるた め,読み書きに苦手意識を持つ児に実施する場合には心的負荷への配慮が必要である。 吉田ら(2013), 中ら(2014), 中村ら(2017), 大関ら(2017)の通常学級に在籍する児童を対象と した調査研究では,学年ごとに1学年下の配当漢字を用いて独自の漢字読み及び書きの正確性課題 を作成している。課題とする漢字単語は単語属性を統制し,親密度および心像性の高い16単語を採 用している。詳細は不明であるが各学年の正答率の中央値は87.5 〜 96.9であり非常に高い値を示 している。 上記の評価指標はいずれも基準データが天井効果を示しており,「明らかな苦手さ」を検出する目 的での利用が妥当であるといえる。ただしスクリーニングを目的として作成された STRAW の基 準値データの対象は知的発達水準が境界域以下にある児童を除外しており,特異的発達障害診断・ 治療のための実践ガイドラインの基準値は大学付属小学校の児童を対象に作成されており,一般的 な小学生の評価の際には基準データの母集団の特性を考慮したうえで適用されることが望ましい。 相対的な読み書きの評価を目的とする課題は,筆者の知りうる限りではあまり多いとは言い難い。 認知処理能力と基礎的学力を測定することができる日本版 KABC- Ⅱ(Kaufman Assessment
Battery for Children Second Edition)の習得度尺度の下位検査に,「ことばの読み」「ことばの書き」
がある。いずれもひらがな・カタカナ・漢字を正しく読めるか,書けるかを測定する課題である。 ひらがな,カタカナ,漢字の順に課題が配置されており,被験者の学年や能力によって開始問題と 終了問題が規定される。採用されている漢字課題は教研式全国標準学力検査(NRT)や教研式目標 基準準拠検査(CRT)の標準化に際して,正答率が明らかになっている漢字を採用している。また問 題の配列は,学習指導要領の学年配当漢字をもとに年齢が上がるにしたがって問題も難しくなるよ うに構成されている。標準化された検査ではあるものの,あくまで何らかの主訴を抱えた児童に対 するアセスメントを目的とした認知処理能力及び基礎的学力の個別検査の一部であり,部分実施は 認められていない。 高橋ら(2009)は児童期を対象とした適応型言語能力検査である ATLAN を開発し,その下位項 目に漢字検査を設けた。ATLAN はインターネットを利用することでリアルタイムに個々の能力に 応じた最適な難易度の課題を提供することを可能としている。漢字検査は学年配当漢字を参考に設 定されている漢字単語の読みと,ひらがなで提示された漢字表記を問うものの2種類から構成され ており,解答は5つの選択肢が設定された多肢選択形式である。そのため,直接読みや書きの能力 を評価する方式よりも,やや難易度は低いものと推測される。またその後,高橋ら(2015)はタブレッ ト PC を用いた書き取り検査も作成している。集団で一斉実施も可能な形態ではあるものの,イン ターネット環境およびタブレット PC が必要となる ATLAN は,現在の公立小学校では物理的に実 施することが難しく,一般的に普及するには至っていない現状にある。 児童の漢字読み書きの到達度を評価する臨床上の工夫として,学年配当漢字を順にすべて読み書 きさせるという手法がとられる場合もある。奥谷ら(2011)は小学4年生の漢字書字に困難を有する 児童2名を対象に,小学1・2年生の配当漢字全てを書字させてその正答率を算出し,実態把握の手
段としている。また荻布ら(2018)は小学5年生の読み書き困難児に対して小学2・3年生の配当漢 字全ての音読を求め,実態把握と指導目標の設定にも活用している。学年配当漢字をその学年で 100%読み書き可能にすることは学習指導要領上でも求められてはいない。この手法を用いる場合 には,学年ごとに学年配当漢字の読み書き正答率を調査した,日本教科書文化研究財団(2000),国 立教育政策研究所教育課程研究センター(2006),総合初等教育研究所(2014)等の報告が実態把握 の一つの参考となりうる。この手法は正確な実態把握につながり,支援の必要性の有無や課題設定 に非常に有益な情報をもたらすものの,対象児および支援者双方に心理的・時間的負荷が重くのし かかるため,読み書きに困難を抱える児童すべてに実施することは現実的とは言いがたい。 1-3.目的 学習障害の早期発見や早期介入の根拠のひとつには,読み書きの苦手さに起因する学力低下や二 次的な心理的問題の予防があげられている(宇野ら2017,小高2018)。そのため,発達障害臨床にお いて,読み書き能力の評価は苦手さの有無や介入の必要性を判断する側面と,指導目標の設定の側 面の,双方向から行われる必要があると考えられる。 苦手さの判断には,前述のとおり STRAW が支援者が手に取ることが容易くかつ簡便に実施可 能であることから活用が広まっている。しかしながら判断基準となるデータの値が厳しく設定され ているため,明らかな苦手さの有無の判断は可能であっても,読み書き能力の低下への予防的介入 に応用することは難しいと考えられる。また指導目標の設定は,読み書き障害に関するレビュー論 文によると(後藤ら2008・岡本2014,福田ら2017,小高2018),本邦における読み書き障害の知見は 読み書きの苦手さの背景要因の解明や認知特性に合わせた指導方法についてが中心であり,指導目 標自体は吟味されているとは言いがたい。指導目標は「読み書きできない漢字を読み書きできるよ うにする」ことに終始し,読み書きの苦手さが影響するとされる語彙や学習との関係についてはあ まり注目されていない現状にある。筆者らは,スクリーニング目的の指標を用いて読み書き能力と 学力との関係を探索的に検討しているが(荻布ら2017),その関係を十分明らかにするには至って いない。 そこで本研究では,読み書きの相対的能力を短時間で簡便に評価することを目標とした漢字読み 書き正確性課題を新規作成し一般小学生に実施し,同時に新規課題と学力の関係についても検討し た。読み書き正確性を相対的に評価することができれば,児童の読み書きの苦手さの「程度」を把握 することが可能となる。同時に新指標と学力との関係を明らかにすることで,読み書きに対する介 入時期の検討とための一指標としての活用や,読み書きそれ自体にのみ効果を求める指導ではなく 読み書きの活用の視点にたった指導の方針の決定にも寄与すると考えられる。
2.方法
2-1.対象 新規作成課題の対象は,A県および B 県の公立小学校の通常学級に在籍する小学1〜6年生1865名にであった。その内訳は,1年生339名,2年生321名,3年生299名,4年生306名,5年生291名,6 年生296名である。 新規課題および学力との関係についての調査対象は,C 県の公立小学校の通常学級に在籍する小 学2 〜 6年生137名であった。その内訳は2年生20名,3年生28名,4年生30名,5年生25名,6年生 34名であった。 対象に明らかな感覚器障害を伴う児童は含まれていない。事前に同意書を全家庭に配布し,書面 により対象児童の保護者から同意を得た。同意書には調査内容,調査協力への任意性および撤回の 自由,結果の匿名化,結果の運用方法等を明記した。 2-2.実施した課題 2-2-1.新規漢字課題 課題には学年ごとに学年配当を統制した30単語を採用した。単語の採用に際しては,東京書籍よ り出版されている国語科の教科書「新しい国語」を参考に,本文中に採用されている漢字単語を中心 に構成した。 読み課題は30単語を B4用紙に記載し,漢字単語の右横にひらがなで読み方を記入させた。学習 指導要領において,漢字の読みは「当該学年までに配当されている漢字を読むこと」と記載されてい ることを鑑み,当該学年の配当漢字を中心に一学年上および一学年下の学年配当漢字を用いた。よっ て1年生では1学年上の2年生の学年配当漢字で構成される単語10語,当該学年である1年生の学年 配当漢字で構成される20語を採用した。2 〜 5年生は1学年上の学年配当漢字で構成される単語8語, 当該学年の学年配当漢字で構成される単語14語,1学年下の学年配当漢字で構成される単語8語を 採用した。6年生は当該学年の学年配当漢字で構成される単語20語,一学年下の学年配当漢字で構 成される単語10語を採用した。採点は,漢字単語すべての読みが正しく記載されているものを正答 とした。 書き課題は30単語の読み方をひらがなで B4用紙に記載し,その左横に漢字で記入させた。学習 指導要領において「当該学年の前の学年までに配当されている漢字を書き,文や文章の中で使うと ともに,当該学年に配当されている漢字を漸次書き,文や文章の中で使うこと」と記載されているこ とを鑑み,当該学年の1学年および当該学年の配当漢字を中心に漢字単語を選択した。よって課題 は1年生では1年生の学年配当漢字で構成される単語30語を採用した。2 〜 6年生は,当該学年の 学年配当漢字で構成される20語および当該学年の学年配当漢字で構成される10語を採用した。採 点は,漢字の構成要素が過不足なくそろっており採点者がその文字と判断できるものを正答とし, 構成要素間の間隔の広さや,とめ・はね・はらいといった細部の正確さは問わなかった。
2-2-2.標準学力検査教研式 NRT(Norm Referecned Test:NRT)
学力の指標として NRT の国語および算数の2教科を採用した。NRT は本邦で最も多く実施され ている標準化された学力検査であり,妥当性と信頼性が保障されている。内容は学習指導要領に準
拠しており,相対評価法を用いている。
2-2-3. 小 学 生 の 読 み 書 き ス ク リ ー ニ ン グ 検 査(Screening Test of Reading and Writing For Japanese Primary School Children:STARW)
既に臨床場面において広く用いられている漢字書字正確性の指標として STRAW の漢字単語の 書取課題を採用した。STRAW は宇野ら(2006)によって,発達性読み書き障害を検出するための スクリーニング検査として活用することを目的として開発された,標準化された読み書きの直接検 査である。STRAW の漢字書取課題の対象は2 〜 6年生に設定されており,各学年20単語を音声提 示して解答用紙に記入する。文部科学省は学習障害の判断・実態把握基準(1999)において,小学2・ 3年生は在籍学年よりも1年,4年生以上では在籍学年より2学年相応の学力の遅れを学習障害の教 育的判断の目安としている。これに基づいて,STRAW の漢字単語の書取課題では2年生では1学 年下の学年配当漢字,3年生から6年生では2学年下の学年配当漢字を用いている。 2-3.実施手続き いずれの課題も授業時間を利用し,集団で一斉実施した。新規漢字課題は問題の配布後,クラス 全員の解答が終了した時点,または読み課題は10分,書き課題は15分で解答を打ち切り,解答用紙 を回収した。 2-4.分析 学年ごとに,読み書きそれぞれの得点について主成分分析を行った。次に新規漢字課題の読み・ 書き,および STRAW 漢字単語書取課題と NRT について Pearson の積率相関係数を算出した。さ らに新規漢字課題の書き課題と STRAW については,相関係数の有意差を検討した。また NRT を 従属変数,新規漢字課題の読みおよび書きを独立変数とした重回帰分析を行った。
3.結果
3-1.新規作成課題の主成分分析 A 県及び B 県の小学生1 〜 6年生1865名の新規作成課題の学年別の平均および標準偏差を表1に 示す。この結果をもとに,学年ごとに主成分分析を行った。因子負荷量の低い単語を除外し複数回 主成分分析を繰り返し,いずれかの成分で負荷量が0.40を上回りそれ以外の成分では0.40を上回ら 表1 新規漢字課題の平均および標準偏差 1年 2年 3年 4年 5年 6年 読み 平均 13.88 18.21 22.61 23.96 23.44 24.78 標準偏差 4.95 6.34 5.65 6.44 5.50 4.88 書き 平均 16.12 20.64 19.67 18.19 18.17 17.27 標準偏差 6.77 5.90 6.47 6.82 7.83 7.99ないという基準で項目を分類した。その結果,1年生読みは3成分が抽出され,3成分までの累積寄 与率は48.30% であった。2年生読みも3成分が抽出され,累積寄与率は46.83%であった。3年生読 みは2成分が抽出され,その累積寄与率は37.63%であった。4年生は1成分に収束し寄与率は 37.53%であった。5年生読みは2成分が抽出され,累積寄与率は44.96%であった。6年生読みは2成 分が抽出され,累積寄与率は40.46%であった。書きはすべての学年で1成分が抽出され,その寄与 率は1年生29.60%,2年生25.45%,3年生27.52%,4年生32.81%,5年生37.06%,6年生32.15%であっ た。 3-2.新規漢字課題および STRAW と NRT の相間 C 県の小学生2 〜 6年生137名の実施課題全ての平均および標準偏差を表2に示す。次に,2 〜 3 年生を低学年群,4 〜 6年生を高学年群とし,新規漢字課題の読み・書きおよび STRAW と NRT 国 語・算数について Pearson の積率相関係数を算出した。その結果を表3に示す。低学年群では読み 課題と NRT 国語の間には r=0.51,NRT 算数との間には r=0.50と中程度の相間を認めた(いずれ も p<0.001)。書き課題と NRT 国語の間には r=0.76,NRT 算数との間には r=0.73と高い相関を認 めた(いずれも p<0.001)。STRAW と NRT 国語との間には r=0.35,NRT 算数との間には r=0.33 表2 新規漢字課題・STRAW・NRT の平均および標準偏差 2年 3年 4年 5年 6年 新規漢字課題 読み 平均 15.50 19.04 19.23 21.87 22.91 標準偏差 5.90 8.17 10.46 3.86 5.03 書き 平均 22.40 18.11 16.59 16.52 15.06 標準偏差 6.04 8.55 7.63 4.08 8.69 STRAW 漢字単語 平均 17.75 17.71 14.62 13.78 10.12 標準偏差 2.59 3.25 5.74 3.15 5.96 NRT 国語 平均 40.25 27.18 25.04 36.74 37.56 標準偏差 14.46 13.45 11.02 6.65 11.94 算数 平均 45.63 33.41 23.75 28.46 31.31 標準偏差 14.43 12.94 10.08 7.77 11.17 表3 新規漢字課題・STRAW と NRT の相関 新規漢字課題 新規漢字課題 STRAW 読み 書き 漢字単語 低学年群 n=48 国語 0.51** 0.76** 0.35* 算数 0.50** 0.73** 0.33* 高学年群 n=83 国語 0.54** 0.63** 0.35** 算数 0.32** 0.63** 0.45** Pearson の積率相関関数 p<0.05* p<0.01**
とあまり高くはないものの相間が認められた(いずれも p<0.05)。高学年では,読み課題と NRT 国 語の間には r=0.54と中程度の相間を認め,NRT 算数との間には r=0.32と高くはないものの相間を 認めた。書き課題と NRT 国語の間には r=0.63,NRT 算数との間には r=0.63と高い相関を認めた。 STRAW と NRT 国語との間には r=0.35,NRT 算数との間には r=0.45とあまり高くはないものの 相間を認めた(いずれも p<0.001)。また群別に NRT と STRAW,NRT と書き課題について相間 の有意差の検定を行ったところ,いずれの群・教科においても有意差を認めた(低学年国語・低学年 算数・高学年国語:p<0.001,高学年算数:p<0.05)。 3-3.新規漢字課題による学力の予測 低学年群および高学年群それぞれについて,NRT 国語または算数を従属変数,新規漢字課題の 読みおよび書きを独立変数とし,増減法にて重回帰分析を行った。その結果を図1に示す。低学年 群において NRT 国語を従属変数とした場合,読みおよび書きの双方が独立変数として有効であっ た(修正 R2=0.34,読み:β =0.40,p<0.001,書き:β =0.24,p<0.05)。また NRT 算数を従属変数 とした場合においても,読みよび書きの双方が独立変数として有効であった(修正 R2=0.22,読み: β =0.25,p<0.05,書き:β =0.28,p<0.001)。高学年群において NRT 国語を従属変数とした場合, 書きが独立変数として有効であった(修正 R2=0.36,β =0.45, p<0.001)。NRT 算数を従属変数とし た場合,書きが独立変数として有効であった(修正 R2=0.31,β =0.57, p<0.001)。
4.考察
4-1.新規漢字課題の構成について 本研究では学年配当を統制した漢字読み書き正確性の新規課題を作成し,一般小学校の通常学級 に在籍する児童に実施した。結果は天井効果も床効果も示すことはなく,難易度は妥当であったと 考えられる。主成分分析の結果,読み課題は1・2年生は3成分,3・5・6年生は2成分,4年生は1成 図1 重回帰分析結果 独立変数として有効であった変数のみを模式的にパス図で表した分が抽出された。つまり漢字単語の読みは低学年では複数の成分が存在し,4年生で一度1成分に 収束し,再度高学年で複数の成分に分かれる推移を示した。このことから読み正確性の実態把握の 視点は複数存在し,年齢によってもその視点が異なる可能性が予測される。土方ら(2011)は小学4 年生を対象に標準抽象語理解力検査の漢字単語32語の音読について学年配当と単語属性が音読正 確性に与える影響を指摘,明石ら(2013)は2 〜 6年生を対象に STRAW の漢字単語音読課題を行 い単語属性が音読成績に影響を及ぼすことを指摘,三盃ら(2016)は小学6年生を対象に STRAW-R の漢字単語音読検査を用いて漢字音読正確性と学年配当の高低および単語属性の関係の様相の違い を指摘している。上記の報告において触れられてはいないが,学年配当や単語属性との関係は課題 となる漢字の学習時期と課題の実施時期との関係によっても異なる可能性があると考えられる。そ れぞれの成分については,学年配当や音訓読み,単語属性の観点から今後詳細な検討が必要である。 書き課題はすべての学年で第一主成分に収束した。今回第一主成分に収束した漢字単語を用いる ことで,書き正確性は単一の指標で評価することが可能であると考えられる。井村ら(2011)は STRAW を用いた検討で定型発達児において漢字単語の書取は音声提示の単語親密度との相関が 高く,発達性読み書き障害児では心像性および画数と相関が高いと報告している。そしてこの知見 をもとに,発達性読み書き障害児に対する指導の際の漢字選択の順序を統制することで,効果的な 指導効果が得られる可能性を示唆している。また,実漢字読み書きを評価する調査研究においては, 学年配当を一つの因子として統制することが前提とされているように見受けられる。実施年齢と漢 字の配当された学年が大きく乖離する場合には学年配当が書字成績に影響を及ぼすことは当然であ ることのように感じられる。しかしながら,今回の学年配当が2学年にわたる程度の新規課題の結 果からは,同学年集団における漢字書き能力を評価することに限定すると学年配当や単語属性を厳 密に統制することはあまり重要ではない可能性が示された。 4-2.新規漢字課題と学力との関係について 低学年群の新規漢字課題の読み・書きおよび STRAW と NRT 国語・算数について Pearson の積 率相関係数を算出したところ,読み課題と NRT 国語の間には r=0.51,NRT 算数との間には r=0.50 と中程度の相間を認めた。また書き課題と NRT 国語の間には r=0.76,NRT 算数との間には r=0.73と高い相関を認めた。各学年に配当された漢字数は1〜 3年生にかけて増加し,5・6年生で はやや減少する。また低学年は漢字を読むこと書くことが学習活動の中で大きな割合を占め,読む こと書くこと自体が学習の目標となっており,今回の結果はその傾向を反映していると考えられる。 また NRT 国語を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,読み書き双方が独立変数として有効 であり,修正 R2も0.34と漢字読み書き正確性で学力を一定程度予測することができた。書き課題 に比して読み課題の標準回帰係数が大きな値を示したことは,低学年においてはより高い音読正確 性が学習全般を支えていると考えられる。算数を従属変数とした場合においても,修正 R2は0.22 と国語に比すれば低い値となるものの,読み課題書き課題双方が独立変数として有効であった。算 数についても漢字読み書き正確性が学力を予測したということは,低学年において読み書き正確性
は教科を問わず学習のための基礎的な能力として機能している可能性が示唆された。 高学年では,読み課題と NRT 国語の間には r=0.54と中程度の相間を,NRT 算数との間には r=0.32と高くはないものの相間を認めた。書き課題と NRT 国語の間には r=0.63,NRT 算数との 間には r=0.63と高い相関を認めており,低学年と同様に高学年においても読むこと書くことは教科 の特徴にかかわらず学習全般に関与することが示された。またこのことは土方ら(2010)の定型発 達児は漢字単語の音読力が漢字単語の読解に影響を与えたとする報告とも合致している。高学年群 においても NRT を従属変数として重回帰分析を行ったところ,NRT 国語を従属変数とした場合も, NRT 算数を従属変数とした場合にも,書き課題が独立変数として有効であり(国語:修正 R2=0.36, β =0.45, p<0.001 算数:修正 R2=0.31,β =0.57, p<0.001),高学年の学力は漢字書き正確性によっ て一定程度予測することができた。低学年では読み書き双方が学力を予測しており,年齢層によっ て異なる結果が得られた。このことは学年進行によって,読み書きと学習の関係性が変化している 可能性を示す。高学年で書きは学力を予測する結果となった背景の一つの可能性として,高学年で 求められる読み書きの能力が,漢字を読むこと書くことそれ自体にあるのではなく,漢字を書いて 活用することであることが考えられる。小学校学習指導要領の内容「話し言葉と書き言葉」におい ても,1-2年生では漢字への言及はないが,5-6年生では「文や文章の中で漢字と仮名を適切に使い分 けるとともに,送り仮名や仮名遣いに注意して正しく書くこと」と明記されており,漢字を文中で活 用していく側面が問われている。今回新規作成した課題ではひらがなで表記された単語を漢字で記 すことを求められたに過ぎないものの,文字学習の場面だけではなく学習場面全般において漢字書 き正確性が常に求められる状況にある可能性が考えられる。また書き課題のみが学力を予測した背 景のもう一つの可能性として,本邦の書くこと中心の教授形態,ひいては必然的に書くこと中心の 学習方略が小学生に浸透していることが考えられる。いずれもあくまで可能性に過ぎず,学習と書 き能力の関係については詳細な検討が今後必要である。 4-3.課題による漢字書字正確性と学力の関係の違いについて 学力と書字正確性の関係を検討するために,NRT 国語及び算数と新規作成課題の書きおよび STRAW の間の相関係数を算出し,さらに相関の有意差の検定を行ったところ,いずれの教科,い ずれの学年群においても,新規作成課題と NRT の相関が有意に高い結果となった。STRAW はス クリーニングを目的としており,限局性学習症の特に書字にかかわる側面の乖離診断を行う際には 検査者に有益な情報をもたらす。一方で今回の新規作成課題は学力との高い相関が認められたこと から,教育臨床場面において読み書きの低下だけではなく学力との関係を鑑みたアセスメントに活 用できるのではないかと考えられた。 【引用文献】 明石法子,宇野彰,春原則子,ほか(2013):発達性読み書き障害児における漢字単語音読の特徴 : 小学生の読み書き スクリーニング検査(STRAW)を用いて.音声言語医学 54(1),1-7.
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The purpose of this study is to create a new test related to reading and writing accuracy for elementary school students and to examine the relationship between the new test and academic achievement. We prepared 30 Kanji words controlled by the grade of study for each reading and writing test. The children of 1-6 grade took the test of Kanji words. Principal component analysis showed that Kanji reading accuracy is composed of 1 to 3 components depending on the grade, and that Kanji writing accuracy is composed of 1 component. It was considered that perspective of Kanji word reading accuracy assessment may vary depending on grade. Also the results of Kanji writing task suggested that appropriate to use the Kanji word writing task created this time as an index of accuracy.
In addition, we analyzed the relationship between the test results and academic achievement of 137 students from 2nd to 6th grade. As a result of multiple regression analysis, when NRT was used as a dependent variable, both reading and writing tasks were significant as independent variables in the lower grades. However, only writing tasks were significant as independent variables in the upper grades. Those results suggested that the influence of kanji reading skill on academic achievement may change as the school year progresses.
Keywords:Kanji,Reading accuracy,Writing accuracy,Academic achievement
Developing a new scale for Reading and Writing Accuracy
of Kanji for Grade School Student
Yuko OGINO
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Akihiro KAWASAKI
(Associate Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)
Yutaka MATSUZAKI
(Assistant Professor, Institute of Development, Aging, and Cancer, Tohoku University)