大学初年度の自然科学実験における授業設計に関す
る事例研究
著者
陳 輝
号
1
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
教情博第6号
URL
http://hdl.handle.net/10097/59758
陣輝
学位の種類 博士(教育情報学) 学位記番号 教情博第 6 号 学位授与年月日 平成 20 年 3 月 25 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科・専攻 東北大学大学院教育情報学教育部(博士課程後期 3 年の課程) 教育情報学専攻 学位論文題目 大学初年度の自然科学実験における授業設計に関する事例研究 論文審査委員 (主査) 教授 岩崎 准教授 北村勝朗 教授 須藤彰三 (理学研究科) 助教 藤原充啓 (工学研究科)〈論文内容の要旨〉
本論文は、第 1 章序論、第 2 章実験課題の教科特徴と授業の条件、第 3 章授業設計 13
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分インストラクション、第 4 章授業設計 II Web 支援講義、第 5 章結論の構成となっている。 第 1 章では、最近の日本の大学のユニバーサル化等の影響が、特に大学の理科系初年度科目の 履修上の諸問題の根底にあることを背景として指摘した。全体としては、各大学で従来の授業レ ベルと入学者の知識レベル聞に差が存在することを種々の調査結果を引用して示した。東北大学 においても、その差が学生独自の努力だけでは埋められないことを、著者が参加した調査の結果 を他の調査結果と総合して示した。 東北大学が平成 16 年度に開始した初年次学生向けの「自然科学総合実験」は、文部科学省から 平成 17 年度の特色 GP の指定を受けた優れた改革の取り組みである。しかし、学生アンケート調 査等をみると、個別の問題がないわけではなく、特にその課題 7 r光のスペクトルと太陽電池」を、 困難を感じたテーマとした回答が平均 4 割と他課題の平均 1 割程度に比べて突出していた。本研究ではこの点に着目し、当課題を、背景で述べた問題を抱えた授業の事例と捉え、基礎知識レベ ルが不均等、つまり実験と密接に関連する高校物理内容の既習者と未習者が混在するクラスでも、 合理的な授業設計手法で授業改善の実践を行えば改善効果が得られるとの仮説のもとに、授業改 善を目的に掲げ取り組んだ。 第 2 章では、一般的実験授業の特徴と上記実験課題の特徴を示し、改善の手法を示した。 第 3 章で授業改善を提案し、具体的に実験直前 30 分インストラクション(以下、講義と略記) の設計開発に取り組んだ。講義内容の精選と教授順序の策定においては、ガニェが提唱した「学 習の階層モデル」を応用して、課題 7 のための独自の知識点階層を構築した。この知識点階層の 最下位点を決めるために履修者(理科系学部一年生)の高校理科科目の履修状況、本実験の履修 実態、授業アンケート、担当教員、教科書等から情報を収集分析し抽出した。得られた階層を基 に、クラス全員の学習効果を最大限引き出すために、実験に必須の内容を精選した全学生向けの 実験直前 30 分講義を設計開発し、実践した。授業改善の具体的な成果として、同じ学生アンケー ト調査で、困難点は導入後平均 2 割に減少し、後続セメスターで、本研究の独自調査の 12 項目の 大部分が前セメスターより半分程度に低下した。それぞれ、 30 分講義の導入の効果とその修正の 効果と判断した。 30 分講義は学生の特性が異なると思われる学部でも、役に立つ度合いには偏り がなく、ほぼ同じ支援を与える良好な授業であった。本講義の開発修正過程は教員の支援にもなっ た。 さらに、第 4 章では、より詳しい解説を求める学生に対して、いつでも自由にアクセスできる Web 学習支援講義 (90 分相当)を同様の方法で設計開発し提供した。講義を閲覧した学生にとっ ては、役に立つ度合いが 12 調査項目の大部分で 30 分講義だけの時の平均より 5%
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15% 増加し た。特に Web 支援講義がレポートのデータ処理・解釈・まとめに役に立っており、レポートを受 け取る教員の聞き取りからも確認された。 なお、総合して、学習の階層モデル理論は本研究課題の改善への応用において、相応しい設計 手法であることを確認できた。 5 章では全体の考察を行った。本授業改善を実施して、本自然科学総合実験の中でも最も難し い部類に入る「光のスペクトノレと太陽電池J の授業目標を履修者の大部分に達成させることがで きた。 さらに、この研究事例から得られた知見は適用範囲や条件を考慮しつつ一般化できると考え、 その知見を以下の通りまとめた。1
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実験授業で高い効果を収めるために、現象理解・説明のための土台となる基礎知識・原理を十 分に理解させることが重要であることが改めて示唆された。2
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その基礎知識・原理を効率よく学習させるためには、視覚化可能な学習の階層モデルを用い、教員間で共有しつつ内容を選定、教授手順を策定することは有効な手法として推奨できる。
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大学初年次実験教育における基礎知識の欠知・学力不足・学力格差問題の解消には、良く設計 された共通インストラクションと Web 講義(自学の予習・復習用)を組み合わせて学生に提供す ることは一つの有効な授業手法となる。 以上のとおり、学生の基礎知識不足や、実験と関連する高校内容の履修者と未履修者が一つの クラスに混在するといった状況の中で、高いレベルで授業改善を達成するために、授業設計の視 点から改善の具体的な方法を提案し、それを関係教員と協力して実践し検証するという本研究の 目的を、学生の評価、教員の評価、そしてレポートの質の面において十分に達成したものと考え る。さらに、成果を一般化して、他の理科実験授業等へも適用可能な一つの授業(改善)法が提 案できたと結論づけている。 最後に、本研究がやり残した課題として、学生に予習として Web 講義の閲覧を促すための動機 付けや適切な仕組み、そして、実験の目標を十分に達成できない学生への個別指導の仕組みの必 要性を指摘している。〈論文審査の結果の要旨〉
本論文は、まず背景として最近の日本の大学のユニバーサル化等の影響が、特に大学の理科系 科目の大学初年度科目の履修上の諸問題の根底にあることを指摘した。学生の授業に対する準備 ができてないことがその直接的な要因であり、東北大学でもその問題が存在し、かっ学生独自の 努力では解決できないことを調査結果を引用して指摘した。一方、各大学の理科実験授業改善で、 十分な定量的データを示した事例は見出せなかったことも指摘した。 東北大学初年次学生向け「自然科学総合実験」は優れた授業だが、本論文では、学生アンケー ト調査等を分析して、課題 7 等に負の評価が高いことを見出し、当課題を、上記問題を抱えた授 業の典型例と捉えた。合理的な手法でこの授業の改善を実践し、高い効果を得ることを目的に研 究に取り組んだものである。 具体的には、精選した内容の共通実験直前 30 分講義と、より基本的な知識を求める学生向けに、 自由に閲覧できる Web 授業を用意した。二つの内容の選択と教授順序の策定では、実績のあるガ ニェの「学習の階層モデ、ル」を応用し、学生の高校理科科目の履修状況、等を基礎に、課題 7 独 自の知識点階層を構築し、スライドを精選し、担当教員や調査データからのフィードパックで修 正を繰り返したことが本論文の最大の眼目である。 成果として、 30 分講義の導入で学生の困難点が大幅に解消され、その後もさらに改善された。加えて上記 Web 講義の提供が、閲覧学生への役に立つ度合いを顕著に増加させた。特にレポート のデータ処理・解釈・まとめへの効果が教員の聞き取りからも確認されており、「総合実験」が目 指す論理的思考や科学的文章能力の育成の点で価値がある。さらに、本論文では、上記成果を一 般化して、他の理科実験授業等へも適用可能な一つの授業(改善)手法を提案しているが、開発 実践の経過と調査結果から判断して特異な条件下の結果ではなく、現実的で一般性があることも 認められる。 一方、論文で示されている授業改善の指標は、学生のアンケート調査が主で、実験レポートの 質向上や、成績分布の変化等については、教員の証言だけに留まっており、成績等の数値データ を用いて検証できればなお望ましい。本論文も指摘しているが、最も効果のあると思われる予習 で Web 講義の閲覧率が低く、興味関心の育成に関係する動機付けの取り組みが弱い。課題の最終 段階で目的を十分に達成できない学生への個別指導の指摘は評価できるが、本論文の範囲外と考 える。 以上、幾つかの弱点、をもつものの、設定した問題解決のために、学習の階層モデルの考えを巧 みに当該実験課題の改善へ応用し高い効果を得たこと、その効果を詳しい調査で確認したこと、 などから相応しい設計手法であることが特に繰り返し実施された学生のアンケート調査から検証 できていると判断する。 12 テーマの内の一つだけとはいえ、毎年 1800 人が受講する影響の大きい 大規模実験授業の改善に顕著な成果を得た価値は高い。 総合すると、背景となった問題点の抽出過程、研究の着眼点、その問題解決法の策定の独自性、 粘り強く修正改善を繰り返した実践力に高い力が認められる。 よって、本論文は博士(教育情報学)の学位論文として合格と認める。