日本 人 に お け るRB1遺
伝 子 第17お よび20番 イ ン トロ ン
内VNTRの
多 型 性 の検 討 お よび 遺 伝 性 網 膜 芽 細 胞 腫 に
お け る遺 伝 相 談 へ の 応 用
岡 山 大 学 医 学 部 小 児 科 学 教 室(指 導:清 野 佳 紀 教 授) 二 宮 伸 介 (平成5年10月7日 受 稿) Key words:網 膜 芽 細 胞 腫, VNTR,多 型, PCR,遺 伝 相 談緒
言
網 膜 芽 細 胞腫(Rb)は,出
生20,000人 に1人
の 頻 度 で 網 膜 に 発 生 す る 小 児 の 悪 性 腫 瘍 で あ
る1).本腫 瘍 は常 染 色優 性 遺 伝様 式 を示す 遺伝 性
(30%)と
非 遺 伝 性(70%)の
もの とに分 類 さ
れ る.両 側 発 生 の腫 瘍 がす べ て 遺伝 性 なの に対
し,片 側 発 生 の腫 瘍 は 多 く(84%)は
非 遺伝 性
で 一 部(16%)は
遺 伝 性 で あ る2). Rbの 発 生機
序 は, Two-hit theoryで 説 明 され る3).す な わ
ち,遺 伝 性 の もの で は,生 殖 細 胞 に お いて 癌抑
制 遺伝 子 で あ る網 膜芽 細 胞 腫 遺伝 子(RB1)の
一 方 の対 立遺 伝 子 に 突 然変 異 が起 こ り
,つ い で
体 細 胞(網 膜 芽 細 胞)に 染 色体 異常 や 遺伝 子再
編 成 に よ り他 方 の 対立 遺 伝 子 に 欠失 や 突 然 変 異
が起 こ る と,両 側 多焦 点 性 に腫 瘍が 発 生 す る.
一 方
,非 遺伝 性 のRbで
は,体 細 胞 の2つ の 対立
遺伝 子 に2回 の 突 然変 異 が起 こ るため に,片 側
単 焦 点 性 に腫 瘍 が発 生 す る.
Rb罹 患 した体 質 性
染 色 体 異 常 症 の研 究 よ り, RB1の
遺 伝 子座 位 は
13q14バ ン ドに決 定 されてい たが4),1980年代 後半
に な りRB1遺
伝 子 が クロー ニ ン グ され た5).本
遺 伝 子 は全 長 が200kbに お よぶ 巨大 な遺 伝 子 で,
27個 の エ ク ソ ンを含 む こ とが 明 らか に され た6).
Rbで は早 期 診 断 と早期 治療 によ り視 力 を温存
で き るの で,と
くに,遺 伝 性 のRbの
保 因 者 に
お け る発症 前 診 断 は 重 要 な課 題 とな って い る.
しか し,遺 伝 性Rbで
は点 突然 変 異 あ るい は微
細 な 欠 失 が 主 た る 原 因 で あ り7),全エ ク ソ ン の 配 列 解 析 に よ る 遺 伝 子 診 断 に は 莫 大 な 労 力 を要 し, 実 用 的 とは い え な い.こ の よ う な 理 由 か ら,遺 伝 性Rbで はRFLP(制 限 酵 素 切 断DNA断 片 の 多型 性)を 用 い た 遺 伝 子 診 断 が 一 般 的 に 用 い ら れ て い る8).こ の 際,目 的 とす る 遣 伝 子 そ の も の の 多 型 性 を 応 用 す れ ば,減 数 分 裂 に お け る 組 み 替 え を 無 視 で き,診 断 の 精 度 は100%で あ る. VNTR(variable number of tandem repeat)は ゲ ノ ムDNA中 で 一 定 数 の 塩 基 配 列 が 繰 り返 し構 造 を と る も の で,し か も,そ の 繰 り返 し の 数 は 個 人 に よ っ て 異 な る た め,個 人 を 識 別 す る 非 常 に 有 効 な遺 伝 標 識 と し て 注 目 さ れ て い る9). 本 研 究 は 遺 伝 性Rbに お い て 実 用 的 な 発 症 前 遺 伝 子 診 断 法 を 開 発 す る こ と を 目的 と し て,日 本 人 に お い てRB1遺 伝 子 第17お よ び20番 イ ン ト ロ ン 内 に 存 在 す るVNTRをPCR(Polymer
ase chain reaction)法 に よ り増 幅 し そ の 多 型 性 の 種 類 と頻 度 と を検 討 し た .ま た,こ の 多 型 性 を遺 伝 性Rb3家 系 に お け る 発 症 前 診 断 や 染 色 体 欠 失 の 親 の 起 源 の 決 定 に 応 用 し た. 対 象 と 方 法 1.対 象 日本 人 に お け るRB1第17お よ び20番 イ ン ト ロ ン 内VNTRの 多 型 性 の 頻 度 を 検 討 す る た め, 遺 伝 的 に 無 関 係 の 正 常 日本 人50例(男 性26人, 女 性24人,年 齢24∼48歳)を 対 象 と し てDNAを 1
抽 出 し た.こ れ ら の イ ン トロ ン 内 のVNTR多 型 性 の 解 析 を,以 下 に 述 べ る 遺 伝 性 のRbの3 家 系 で, Rbの 発 症 前 診 断 あ る い は 染 色 体 欠 失 の 親 の 起 源 の 決 定 に 応 用 し た. 1)家 系1(図1a) 相 談 者(II-3)は 第3子 の 新 生 児 女 児.父 親 (I-1)は 片 側 性Rbで 眼 球 摘 出 を受 け た.第 1子(II-1)は 男 児,両 側 性Rbの た め 生 後6 か 月 で 左 側 の 眼 球 摘 出 と右 側 の 網 膜 凝 固 術 を 受 け た.体 細 胞 お よ び 腫 瘍 細 胞 の 染 色 体 分 析 は 正 常 で あ っ た.視 神 経 末 端 の 腫 瘍 細 胞 浸 潤 は な か っ た が, CyclophosphamideとVincristineの 化 学 療 法 を1年 間 受 け,完 全 寛 解 を 続 行 し て い る.第2子(II-2)は 現 在5歳 で, Rbの 発 生 は 認 め ら れ な か っ た. 2)家 系2(図1b) 相 談 者(II-2)は 第2子 の 生 後3歳 の 男 児. 父 親(I-1)が 両 側Rbで,両 眼 球 摘 出 を 受 け た.第1子(II-1)の 女 児 は 生 後3か 月 で 両 側 Rbを 指 摘 さ れ,右 眼 球 の 摘 出 と左 眼 球 の 網 膜 凝 固 術 を受 け た.第2子 は 男 児 で,現 在 ま でRbの 発 生 が 認 め ら れ な い が,両 親 が 発 症 前 診 断 を希 望 し た.第1子 の 体 細 胞 お よ び 腫 瘍 細 胞 の 染 色 体 分 析 は い ず れ も正 常 で あ っ た. 3)家 系3 発 端 者 は 正 常 な 両 親(父 親34歳,母 親29歳) か ら生 ま れ た 第2子 の 男 児.生 後4か 月 の 時, 両 側Rbを 指 摘 さ れ,右 側 眼 球 摘 出 お よ び 左 側 網 膜 凝 固 術 を受 け た.表 現 型 に は と く に 異 常 を 認 め な か っ た が,染 色 体 分 析 で13番 染 色 体 長 腕 部 分 欠 失 が 認 め ら れ た.高 精 度 分 染 法 に よ り核 型 は, 46, XY, del(13)(q14.3q21.4)と 同 定 さ れ た(図2).腫 瘍 細 胞 の 染 色 体 分 析 は 正 常 で あ 図1 遺 伝 性Rbの 家 系. aは 家 系1. bは 家 系2 矢 印 は相 談 者 を,黒 ぬ り記 号 はRb患 者 を示 す. っ た.な お,両 親 の 染 色 体 は 正 常 で あ っ た.生 後6歳 で,境 界 領 域 の 精 神 遅 滞 と著 明 な ア ト ピ ー 性 皮 膚 炎 が 認 め ら れ た .染 色体 異常 の親 の起 源 を決 定 す る た め に,家 族 の 承 諾 を得 て,遺 伝 子 診 断 を 施 行 し た. 2.方 法 1) DNAの 抽 出 末 梢 血 白 血 球 よ りフ ェ ノー ル.ク ロ ロ ホ ル ム 法 あ る い はJeanpiereの 迅 速DNA抽 出 法10)を 用 い, DNAを 抽 出 分 離 し た.後 者 の 方 法 で は, 混 入 し た 蛋 白 を 除 去 す る た め,さ ら に フ ェ ノ ー ル ・ク ロ ロ ホ ル ム でDNAを 精 製 し た.DNA濃 度 を260nmに お け る 吸 光 度 よ り測 定 し た. 2)分 子 遺 伝 学 的 方 法 (1) RB1第17番 イ ン ト ロ ン 内VNTRのPCR 法 に よ る 増 幅 Scharfら の 方 法11)に 従 い, RBD12(5'-CCTAACGTATGGCCAAGTTTCC-3')お よ びRBD13(5'-GCTAAACCATTCATGAGG-GAT-3')の2つ のoligonucleotidesをApplied Biosystems社 製 のDNA合 成 器 で 作 製 し,プ ラ イ マ ー と し て 用 い た. PCR法 の 反 応 系 は 総 量 100μlで,ゲ ノ ムDNA 1μg, dNTP 100μM, 各 プ ラ イ マ ー0.5μM, MgCl2 1.5mM, Taq polymerase 2.5U, Tris-HCl 10mM,
TritonX-100 0.1%を 含 有 す る. PCRの 条 件 と し て, de nature 94℃, annealing 55℃, extension 72℃
そ れ ぞ れ1分 間 を,ア ス テ ッ ク 社 の サ ー マ ル サ イ ク ラ ー で30サ イ ク ル 施 行 し た. PCR増 幅 産 物 を0.2μg/mlエ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド を含 む1.5%, ア ガ ロ ー ス ゲ ル11.5×12.5cmで20mA, 4時 間 電 気 泳 動 し た 後,柴 外 線 下 で ポ ラ ロ イ ドフ ィ ル ム で 撮 影 し, PCR産 物 の 塩 基 長 を決 定 した.分 子 量 マ ー カ ー と し て100bp-ladder(Pharmacia社) を使 用 し た. (2) RB1第20番 イ ン ト ロ ン 内VNTR領 域 の PCR法 に よ る 増 幅 第20番 イ ン ト ロ ン 内 のVNTRの 増 幅 に は YandellとDryjaの 方 法12)を 改 変 し たBrandt らの 方 法13)を用 い た.プ ラ イ マ ー と して はprimer 図3 第17番 イ ン トロ ン 内VNTRの 多 型 性 Mは マ ー カ ー,レ ー ン1は1400bpの ホ モ 接 合 体,レ ー ン2は1400/1450bpの ヘ テ ロ接 合 体, レ ー ン3は1400/1500bpの ヘ テ ロ 接 合 体,レ ー ン4は1500bpの ホ モ 接 合 体,レ ー ン5は 1500/1550bpの ヘ テ ロ 接 合 体 を 示 す. 表1 RB1第17番 イ ン トロ ンVNTR遺 伝 型 の 実 測 値 と期 待 値 との カ イ2乗 検 定 X2=8.25, df=9, p=0.5 310(5'-AAGTAAGAAAATCAAGCACTT-3')お よ びprimer103(5'-AATTAACAAG-GTGTGGTGGT-3')を 使 用 し,反 応 系 は50μl で,ゲ ノ ムDNA 0.5μg, dNTP 200μM,各 プ ラ イ マ ー1μM, 5%ホ ル ム ア ミ ド, MgCl2 1.5mM, Taq polymerase 1.25U, Tris-HCl 10mM, Triton X-100 0.1%を 含 有 す る. PCRの 条 件
は,最 初 のdenature 94℃ を5分 間 行 っ た 後, denature 94℃15秒, annealing 52℃15秒, exten sion 71℃30秒 を35サ イ ク ル 行 い,最 後 にannea ling 52℃1分 間, extension 71℃3分 間 を 施 行 し た. PCR産 物10μlを 制 限 酵 素BstNI 10単 位, 60℃ で3時 間 消 化 し, non-repeat部 分 を 切 断 し た.つ ぎ に,こ の 消 化 物3.5μlと 同 量 の 色 素 液 (0.05% Xylenecyanol, 2.5% Ficoll 400, 1.5 mM EDTA)と を 混 合 し, 12%ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル10×10cmを 用 い, 150V, 2時 間 電 気 泳 動 し た.ゲ ル を 銀 染 色 キ ッ ト(第 一 化 学 薬 品) で 染 色 し 塩 基 長 を 決 定 し た.分 子 量 マ ー カ ー と し て100 bp-ladderを 用 い た. 3)統 計 学 的 方 法 出 現 頻 度 の 統 計 学 的 分 析 に は カ イ2乗 検 定 を 用 い, p<0.05を 有 意 と み な し た. 図4 第20番 イ ン トロ ン 内VNTRの 多 型 性 Mは マ ー カ ー レ ー ン1は192/200bpの ヘ テ ロ 接 合 体,レ ー ン2は208/208bpの ホ モ 接 合 体,レ ー ン3は196/240bpの ヘ テ ロ 接 合 体,レ ー ン4は196/208dpの ヘ テ ロ 接 合 体 ,レ ー ン 5は216/224bpの ヘ テ ロ接 合 体,レ ー ン6は 増 幅 な し,レ ー ン7は236/240bpの ヘ テ ロ 接 合 体,レ ー ン8は204/240bpの ヘ テ ロ 接 合 体, レ ー ン9は208/240の ヘ テ ロ 接 合 体 を 示 す .
結 果 1.正 常 日 本 人 に お け る 第17番 イ ン ト ロ ン 内 VNTRの 多 型 性 Scharfら の 原 法11)で は26∼28サ イ クル で も っ と も増 幅 の 効 率 が 良 好 で 特 異 性 が 高 い と 報 告 さ れ て い る が,本 研 究 で は30サ イ ク ル が 増 幅 と特 異 性 の2点 で 優 れ て い た.本VNTRの 基 本 骨 格 は54bpの 繰 り返 し構 造 で あ る の で, PCR産 物 の 塩 基 長 を,ア ガ ロ ー ス 電 気 泳 動 に お け る増 幅 産 物 の100bp-ladderマ ー カー との 位 置 関 係 か ら約50bp間 隔 で 恣 意 的 に 定 義 し た.正 常 日本 人 50症 例 の 第17番 イ ン トロ ン のVNTRに は1400 bp, 1450bp, 1500bpお よ び1550bpの4種 類 の 対 立 遺 伝 子 が 存 在 して お り(図3),そ の 出 現 頻 度 は そ れ ぞ れ0.73, 0.01, 0.24お よ び0.02で あ っ た.異 な っ た 対 立 遺 伝 子 の ヘ テ ロ 接 合 体 の 場 合 に も,増 幅 産 物 の 染 色 強 度 は 均 等 で あ っ た. ま た,本 論 文 に は デ ー タ ー を 示 さ な い が,こ れ ら の 対 立 遺 伝 子 はcodominantに 遺 伝 し て い る こ と を確 認 し た.こ のVNTR遺 伝 子 が ヘ テ ロ 接 合 体 で あ る頻 度 は46%(23/50)で あ り, PIC
(Polymorphism information content)は0.35 で あ っ た.そ れ ぞ れ の 遺 伝 型 で 出 現 頻 度 の 実 測 値 と期 待 値 か ら計 算 した カ イ2乗 値 は8.25 (df= 9, p=0.5)で(表1).本VNTR遺 伝 子 に は Hardy-Weinbergの 平 衡 式 が 成 立 す る と考 え ら れ た. 2.正 常 日 本 人 に お け る 第20番 イ ン ト ロ ン 内 VNTRの 多 型 性 こ のVNTRの 骨 格 と な る塩 基 配 列 はCTTT (T)の 繰 り返 し構 造 で あ り,理 論 的 に は1塩 基 対 の 差 を検 出 す る こ と が 可 能 で あ る と い わ れ て い る12).し か し,本 研 究 で 用 い た 泳 動 条 件 で は, 4 bpの 差 が か ろ う じ て 検 出 可 能 で あ っ た.従 っ て, PCR産 物 の 塩 基 長 は4bpの 間 隔 で 恣 意 的 に 定 表2 RB1第20番 イ ン トロ ン 内VNTR遺 伝 型 の実 測 値 と期 待 値 との カ イ2乗 検 定 x2=44.5, df=44, p=0.5
義 し た.ま た,本VNTRの 増 幅 は 第17番 イ ン トロ ン 内VNTRと 比 較 して 効 率 が 悪 く, Brandt ら の 原 法12)に 記 載 さ れ て い るdenatureを10秒 よ り15秒 に, anealingを10秒 よ り15秒 に, exten sionを20秒 よ り30秒 に 改 変 し て 初 め て 良 好 な 増 幅 を得 た.し か し,非 特 異 的 な バ ン ドの 増 幅 が い か な るPCR条 件 で も 認 め られ た.正 常 日本 人50症 例 に お け る 第20番 イ ン トロ ン 内VNTRに は192bp, 196bp, 200bp, 204bp, 208bp, 216bp, 224bp, 236bpお よ び240bpの 少 な く と も9種 類 の 対 立 遺 伝 子 が 存 在 し て い た(図4).そ の 出 現 頻 度 は そ れ ぞ れ0.11, 0.05, 0.41, 0.07, 0.23, 0.01, 0.04, 0.01お よ び0.07で あ っ た.本 遺 伝 子 はcodominantに 遺 伝 し て お り,ヘ テ ロ 接 合 体 の 頻 度 は64% (32/50)で, PICは0.74で あ っ た.な お,そ れ ぞ れ の 遺 伝 型 で 出 現 頻 度 の 実 測 値 と期 待 値 よ り計 算 した カ イ2乗 値 は44.1(df= 44, p=0.5)(表2)でHardy-Weinbergの 平 衡 式 が 成 立 し て い た. 3.遺 伝 性Rb家 系 の 発 症 前 診 断 お よ び 染 色 体 異 常 の 親 の 起 源 へ のVNTR多 型 性 の 応 用 1)家 系1 第17番 イ ン ト ロ ン 内VNTR多 型 を応 用 した と こ ろ(図5),父 親 は1400bpと1500bpの ヘ テ ロ 接 合 体,母 親 は1400bpの ホ モ 接 合 体 で あ っ た. 患 者 で あ る 第1子 は1400dpと1500bpの ヘ テ ロ 接 合 体,一 方,正 常 で あ る 第2子 は1400bpの ホ モ 接 合体 で あ り,父 親 の1500bpを 含 む 染 色 体 に RB1遺 伝 子 の 異 常 が 存 在 す る と考 え ら れ た.第 図5 第17番 イ ン トロ ン 内VNTRの 多型 性 の 家 系 1へ の 応 用 3子 は1400bpと1500bpの ヘ テ ロ接 合 体 で あ り, 患 者 と 診 断 さ れ た.つ ぎ に,第20番 イ ン ト ロ ン 内VNTRの 多 型 性 を 応 用 し た と こ ろ(図6), 父 親 は204bpと240bpと の ヘ テ ロ接 合 体,母 親 は200bpと208bpと の ヘ テ ロ接 合 体,第1子 は 200bpと204bpと の ヘ テ ロ接 合 体,第2子 は200 bpと240bpと の ヘ テ ロ 接 合 体 で あ り, RB1遺 伝 子 の 異 常 は 父 親 の204bpを 含 む 染 色 体 に 存 在 す る こ とが 判 明 し た.第3子 は200bpと204bpと の ヘ テ ロ接 合 体 で あ り,患 者 で あ る と診 断 し た. な お,第3子 は,生 後4カ 月 に 両 眼 球 にRbが 発 生 し,両 側 網 膜 凝 固療 法 を受 け た. 2)家 系2 第17番 イ ン トロ ン 内VNTR多 型 性 の 応 用 で は,父 親,母 親,第1子 お よ び 発 端 者 で あ る 第 2子 い ず れ も1400bpの ホ モ 接 合 体 で あ り,情 報 は 得 ら れ な か っ た.し か し,第20番 イ ン トロ ン 内VNTR多 型 性 の 応 用 で は(図7),父 親 は192 bpと196bpと の ヘ テ ロ 接 合 体,母 親 は200bpと 204bpと の ヘ テ ロ接 合 体,患 者 で あ る 第1子 は 192bpと200bpと の ヘ テ ロ 接 合 体 で あ り,父 親 のRB1遺 伝 子 異 常 は192bpを 含 む 染 色 体 に 存 在 す る こ と が 判 明 し た.第2子 は196bpと204bp と の ヘ テ ロ接 合 体 で あ り,正 常 で あ る と 診 断 し た. 3)家 系3 第17番 イ ン ト ロ ン 内VNTR多 型 性 の 応 用 で は,両 親 お よ び 子 供 い ず れ も1400bpの ホ モ あ る い は ヘ ミ接 合 体 で あ り,染 色 体 異 常 の 親 の 起 源 に 関 し有 用 な 情 報 は 得 ら れ な か っ た.し か し, 図6 第20番 イ ン トロン 内VNTRの 多 型 性 の 家 系 1へ の 応 用
第20番 イ ン トロ ン内VNTRの
多型 性 の 応用 で
は(図8),父
親 は188bpと196bpと
のヘ テ ロ接
合 体,母 親 は200bpと240bpと
の ヘ テ ロ接 合 体
で あ っ た.患 者 であ る子供 は240bpの
み のヘ ミ
接 合体 で あ っ たの で,父 親 の対 立 遺伝 子 が存 在
す る染 色体 が 欠 失 した と診断 した.
考
察
Rbの 原 因遺 伝 子 が ク ロー ニ ン グ され た現在,
Rbの 遺 伝 相 談 に は 遺伝 子 診 断 は不 可 欠 で あ る.
遺伝 子 診断 に よ り,高 リス クの 保 因 者 で早 期 の
診 断 と治療 に よ り,視 力 が温 存 され る機 会 が 増
加 し,非 保 因者 で 危 険 を伴 う全 身 麻 酔下 の頻 回
の 眼底 検 査 を 回避 す るこ とが 可 能 とな る.し か
し,遺 伝 性Rbの
遺伝 解 析 で,染 色体 レベ ル で
検 出可 能 な異常 が8%14),サ ザ ンプ ロ ッ ト分 析 で
検 出可 能 な異常 が10∼20%と
報告 され てお り15),
多 くの症 例 は点 突 然変 異 あ る いは微 細 な 欠失 で
あ るこ とが 推 測 され て い る. RB1遺
伝 子 の全塩
基 配列 の決 定 に 費や され る労 力 と時 間の 観 点 か
ら,よ り迅 速 で 実用 的 な方 法 の 開発 が要 求 され
て い る.本 研 究 で は,個 人 識 別 に もっ とも有 効
なVNTRの
多型性 を用 いてRB1遺
伝 子 異 常
が 存在 す る染 色体 を判 別 した.日 本 人 にお け る
RB1第17番
お よび20番 イ ン トロ ン内VNTRの
多 型性 を検 討 した結 果, 4お よび9種 類 の 対 立
遺 伝 子 が 存 在 して お り,ヘ テ ロ接 合 体 の 頻 度 は
そ れ ぞれ46%お
よび64%で あ った.こ れ らの2
つ のVNTRの
多型 性 の 応用 に よ り,遺 伝 性Rb
3家 系 で出 生前 診断 あ るい は親 の起 源 の 決 定 が
図7 第20番 イ ン トロ ン 内VNTRの 多 型 性 の 家 系 2へ の 応 用 可 能 で あ っ た. RB1の 遺 伝 子 解 析 よ り,第17番 イ ン ト ロ ン に はRsaIな ど の 制 限 酵 素 で 多 型 を示 すVNTRの 存 在 が 知 られ て い た8). Scharfら11)は こ の イ ン ト ロ ン の 塩 基 配 列 よ りVNTRを 特 異 的 に 増 幅 す るPCR法 を 開 発 し, 250人 の 試 料 か ら 650∼1800bpに わ た る11種 類 の 対 立 遺 伝 子 を 同 定 し た.ヘ テ ロ 接 合 体 の 頻 度 は コー カ サ ス 人, ア フ リ カ 系 ア メ リ カ 人,ス ペ イ ン 系 ア メ リ カ 人 お よ び ス ペ イ ン 系 メ キ シ コ 人 で そ れ ぞ れ62%, 75%, 61%お よ び50%で あ っ た.最 も共 通 し た 対 立 遺 伝 子 は コー カ サ ス 人,ス ペ イ ン 系 ア メ リ カ 人 お よ び ス ペ イ ン 系 メ キ シ コ 人 で1450bpで あ り,全 対 立 遺 伝 子 の59∼69%を 占 め て い た.一 方,ア フ リカ 系 ア メ リ カ 人 で は1500bpと1450bp の 対 立 遺 伝 子 が 最 も 多 く認 め ら れ,コ ー カ サ ス 人 と ア フ リ カ 人 と の 中 立 的 な 民 族 の 混 合 が 示 唆 さ れ た.日 本 人 で は4種 類 の 対 立 遺 伝 子 の み が 存 在 して い た が,最 も共 通 し た 対 立 遺 伝 子 は, 白 色 お よ び 黒 色 人 種 とは 異 な り1400bpで あ っ た. 日本 人 で は こ の 共 通 し た 対 立 遺 伝 子 の 頻 度 は73 %と 高 率 の た め,ヘ テ ロ 接 合 体 の 比 率 が 低 く, 遺 伝 性Rb家 系 の 連 鎖 解 析 で 有 用 な 情 報 を 得 る 機 会 が 少 な い と考 え ら れ た,し か し な が ら,第 17番 イ ン ト ロ ン 内VNTRのPCR法 に よ る 増 幅 は,エ チ ジ ウ ム プ ロ マ イ ド染 色 で 繰 り返 し の 最 小 単 位 の54塩 基 対 の 差 を 容 易 に 検 出 で き る も の で あ り,個 人 識 別 に 非 常 に 有 効 で あ る と 考 え 図8 第20番 イ ン トロ ン 内VNTRの 多型 性 の 家 系 3へ の 応用ら れ る. こ れ とは 対 照 的 に,第20番 イ ン トロ ン 内VNTR に は 日本 人 に お い て も少 な く と も9種 類 の 対 立 遺 伝 子 が 検 出 さ れ,ヘ テ ロ 接 合 体 の 頻 度 は64% で あ っ た.こ れ ら の 対 立 遺 伝 子 は 均 等 に 分 布 し て お り,最 も高 頻 度 の200bpの 対 立 遺 伝 子 で も 41%を 占め る に す ぎ な か っ た.こ のVNTR多 型 性 の 連 鎖 解 析 に お け る 情 報 性 は 高 く(PIC= 0.74),遺 伝 性Rb3家 系 す べ て に お い て 発 症 前 診 断 あ る い は 染 色 体 異 常 の 親 の 起 源 の 決 定 に 応 用 可 能 で あ っ た. 第20番 イ ン トロ ン 内VNTRの 存 在 はYandell とDryjaら12)に よ り初 め て 報 告 さ れ た.彼 ら は CTTT(T)の 繰 り返 し構 造 を含 む550∼600bp領 域 をPCR法 で 増 殖 し た 後, 32Pで 末 端 標 識 し た プ ラ イ マ ー で シ ー ク エ ン ス 反 応 を行 い,オ ー トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー でPCR産 物 の 塩 基 長 を決 定 した.本 研 究 で は 彼 らの 方 法 を改 変 したBrandt ら14)の方 法 を使 用 し た.そ の 方 法 は さ ら に 短 い 部 分 をPCR法 で 増 幅 し,制 限 酵 素BstN Iで non-repeat部 分 を 切 断 し た 後,分 離 す る も の で あ る.検 出 に は,オ ー トラ ジ オ グ ラ フ ィ ー で は な く,銀 染 色 を応 用 して お り,簡 便 性 ば か りで な く安 全 性 か ら も優 れ た 方 法 と い え る.本 研 究 で 明 らか に した 日本 人 の ヘ テ ロ 接 合 体 の 頻 度(64 %)がYandellとDryjaの 報 告(94%)と 比 し て 低 率 で あ っ た こ と は,民 族 特 異 性 と い う よ り,電 気 泳 動 法 の 分 離 能 に 依 存 し て い る と考 え られ る.本 研 究 で 使 用 し た10×10cmの ゲ ル で は 1塩 基 の 差 を分 別 す る こ とが 不 可 能 で あ り,比 較 的 低 鎖 長 で の1塩 基 差 の ヘ テ ロ接 合 体 や 比 較 的 高 鎖 長 で の4塩 基 差 の ヘ テ ロ接 合 体 を ホ モ 接 合 体 と し て 認 識 し た 可 能 性 が 否 定 で き な い.シ ー ク エ ン シ ン グ ゲ ル 泳 動 法 や 高 精 度 ポ リ ア ク リ ル ア ミ ドゲ ル 泳 動 法16)を 応 用 す れ ば,検 出 可 能 な 対 立 遺 伝 子 の 種 類 は さ ら に 増 加 す る と思 わ れ る. 13番 染 色 体 欠 失 を合 併 し た 両 側 性Rbの 家 系 3で は,第20番 イ ン トロ ン 内VNTR多 型 の 応 用 か ら,欠 失 の 染 色 体 起 源 は 父 親 で あ る こ とが 確 認 さ れ た.体 細 胞 の13番 染 色 体 に 欠 失 あ る い は 転 座 が 認 め ら れ たRb13例 の 研 究 で,有 用 な 情 報 が 得 ら れ た9例 の う ち8例 で は 染 色 体 異 常 が 父 親 に 由 来 し て い た14).一 方, Rb腫 瘍 細 胞 に お
け るRFLPマ
ー カー を用 い たヘ テ ロ接 合 性 の 消
失Loss of heterozygosity(LOH)の
研 究 では17),
片側 性 腫 瘍10例 の うち4例 で父 親 の 対 立 遺伝 子
の みが 残 存 した の に対 し,両 側 性 腫 瘍14例 の う
ち13例 では 父親 の対 立遺 伝 子 の み が 残 存 して い
た. Rbの 体 細 胞 では ど ち らの親 の対 立 遺 伝 子 が
残 存す るか 選 択 され な いが,生 殖 細 胞 で は 父親
の対 立 遺 伝 子(染 色 体)に 変 異 が 起 こ りや す い
こ とが 考 え られ る.こ の親 の 選 択 性 の理 由 と し
て,精 子 の対 立 遺 伝 子 が 突 然 変 異 を受 けや す い,
あ るい は易 変 異性 が 父親 由来 の 染 色体 に刷 り込
まれ て い る とす るgenomic
imprinting説
の い
ず れか が 推 測 され て い る18).
散 発 性 のRb症
例 に お け る遺 伝 子 診 断 は, Rb
が 子孫 に遺伝 す るか ど うか の予 知 に 必要 であ る.
か か る症 例 にお け るRB1遺
伝 子 の 多型 性 の 応
用 に は 限界 が 存 在 す る.従来, Rb発 生 にはLOH
が 重要 で あ る と報 告 ざれ て い る19).しか し,腫 瘍
細 胞 に た とえLOHが
証 明 さ れ て も,多 型 性 だ
け の 応用 で はRb遺
伝 子 異常 が 生 殖 細 胞 あ るい
は体 細 胞 の いず れ に 発 生 した か を決 定 す る こ と
は 困 難 で あ る. RB1の
遺伝 子変 異 を検 出す る方
法 としてRT-PCRが
報 告 され て い る20),この 方
法 は,細 胞 のmRNAか
ら逆転 写 酵 素 に よ り合
成 したcDNAを
用 い遺 伝 子 変 異 を検 出す るもの
で あ るが,変 異遺 伝 子 か らのmRNAの
発 現 が
抑 制 され て い る正 常 体 細 胞 に は 応用 で きな い.
この 抑 制 は,と
くに,フ レー ム シフ トに よ り途
中 に停 止 コ ドン を生 じる よ う な変 異 で知 られ て
お り21),
RB1の
転 写 が正 常RB1か
ら作 られ る
Rb蛋
白に よ り制 御 され る説が提 唱 されてい る22),
Yandellら23)は 腫 瘍 細 胞 お よび体 細 胞 のDNA
か ら全 エ ク ソ ン をPCR法
に よ り増 幅 し,そ の
塩 基 配 列 を決 定 した結 果,散 発 性 で両 側 性 のRb4
例 の うち3例 で 生殖 細 胞 レベ ルの 突 然 変 異 を検
出 した.こ の 方 法 は 多大 の労 力 と時 間 を必 要 と
す る もの で あ るが,散 発 例 の遺 伝 性Rbの
予 知
に お い て唯 一 有 効 で あ る と考 え られ る.
結
論
遺伝 性Rbの
発 症 前 診 断 に 迅速 で実 用 的 な方
法 を開発 す るこ とを 目的 に, PCR法
に よ りRB1
遣伝 子 第17番 お よび20番 イ ン トロン内VNTRの
多 型 性 を 正 常 日 本 人50症 例 で 検 討 し,遺 伝 性Rb 3家 系 の 発 症 前 診 断 あ る い は 染 色 体 異 常 の 親 の 起 源 の 決 定 に 応 用 し た.日 本 人 の 第17お よ び20 番 イ ン トロ ン 内VNTRに は,そ れ ぞ れ4お よ び9種 類 の 対 立 遺 伝 子 が 認 め ら れ,ヘ テ ロ 接 合 体 の 頻 度 は そ れ ぞ れ46お よ び64%で あ っ た.こ れ らのVNTRの 遺 伝 型 の 頻 度 は,対 立 遺 伝 子 の 頻 度 か ら 算 定 し た 遺 伝 型 の 期 待 度 数 と相 反 し な か っ た.第17番 イ ン トTコンVNTR多 型 性 の 応 用 で は1家 系 に お い て,第20番 イ ン ト ロ ン VNTRの 応 用 で は, 3家 系 す べ て に お い て,診