椙山女学園大学
Considerations on Measurement Errors in Robot
Programming for Elementary School Students
journal or
publication title
Journal of SUGIYAMA JYOGAKUEN UNIVERSITY
Natural Sciences
number
52
page range
87-95
year
2021-03-01
小学生向けロボットプログラミングにおける
動きの誤差に関する考察
深 谷 和 義 * ・前 田 怜 那 **
Considerations on Measurement Errors in Robot Programming for
Elementary School Students
Kazuyoshi F
UKAYAand Rena M
AEDAあらまし 本研究では,ロボットを用いた小学校でのプログラミング教育において,画面 上でのプログラミングでは生じないロボットにおける動きの誤差の現象を検討す る。ロボットプログラミング教材の一つである Sphero SPRK +を用いて,実際に ロボットを動かす場合に生じる誤差が場所や設定によってどの程度異なるかを実 験により検証した。被験者は大学の教育学部生とし,ロボットプログラミングの 実験の他,アンケート調査も実施した。その結果,ロボットを動かす場所や設定 によっては誤差を生じにくくできる動きがありうることや誤差を踏まえて児童に 教える必要がある可能性が示唆された。 1.はじめに 2020 年から実施される小学校学習指導要領では,小学生においてプログラミング教育 が必修化された。「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」において,プログラミン グ教育のねらいが,子どもたちに時代を超えて普遍的に求められる力としてのプログラミ ング的思考を育むことや各教科等での学びをより深いものとすることなどとされている (文部科学省 2018)。 ほとんどの小学校教員にとってプログラミング教育を初めて行うことから,授業で行う ために研修等での準備が必要である。黒田・森山(2017)は,プログラミング教育の実施 に対して小学校教員は知識・理解の不足等を感じており,指導力を高めるため,モデル授 業に関する情報の必要性を感じていると述べている。 子どもにとっても教員にとっても比較的扱いやすいプログラミング言語にビジュアルプ
深 谷 和 義 ・前 田 怜 那 ログラミング言語がある。ビジュアルプログラミング言語では,パソコンの画面上でブロッ ク状の命令をつなぎ合わせる等により視覚的にわかりやすいプログラミングが可能で, Scratch(MIT メディアラボ 2006),VISCUIT(デジタルポケット 2003)等がある。吉原ら (2017)は Scratch を用いて小学 5 年生に正多角形を描くプログラミング教育により算数科 の図形理解を深める授業が可能であることを述べている。また,佐々木(2018)はドリル 型の学習教材でのビジュアルプログラミングによりプログラミング教育を実践できるプロ グル(みんなのコード 2015)を用いた小学生 4 ∼ 6 年生に対する算数科の正多角形を扱う 授業を行って,プログラミング的思考の育成に有効なことを示している。 児童が興味をもち体感しながらプログラミングを学ぶために,ロボットを教材として用 いたプログラミング教育が考えられる。萩原(2017)はロボットプログラミング教育が非 常に優れたプログラミング教育になることを児童に対するアンケート調査等から示してい る。また,中村(2017)はロボットプログラミング教育で,数学的な見方・考え方を活用 しながら学習内容の理解につながる可能性が示唆されたとしている。 しかし,ロボットを動かす場合は摩擦等による誤差のため,画面上での理論通りの動き とは異なることがある。小学校での授業における誤差に関しては,5 年生の理科の学習内 容である振り子の単元において,誤差の影響で児童の理解が妨げられている問題点や誤差 の指導における留意点の先行研究がいくつかある(例えば,安部・松本 2019,塩野・松 村 2011)。今後,各学校でのロボットプログラミング教育が普及した場合,誤差が原因で ロボットがプログラムと異なる動きをしたときに,児童が戸惑う可能性がある。そのため, ロボット教材を利用したプログラミング教育においては,あらかじめ教員が誤差による動 きの違いを知ったうえで,児童に混乱させずにプログラミング的思考を学ばせるような授 業を行う必要がある。 本研究では,ロボットプログラミング教育を行うにあたって,実際のロボットを使って 誤差を調べる実験を通じて,教員がロボットによるプログラミング教育授業を行う際の留 意点を明らかにする。 2.プログラミング学習用ロボット教材 小学校で使用可能と考えられるプログラミング学習用ロボット教材にはさまざまな種類 がある。例えば,レゴ WeDo 2.0(LEGO education 2016),教育版レゴマインドストーム EV3(LEGO education 2013),Sphero SPRK +(sphero edu 2018),PETS(for Our Kids 2016),KOOV(Sony Global Education 2017),Ozobot(CASTALIA 2018)などである。 これらの中で,Sphero SPRK +には次のような特徴があり比較的小学校での導入がしや すいと考えられる。 ・専用の充電台に置くだけなので充電しやすい ・完全防水性であり,また,衝撃に強く丈夫 ・子どもの発達段階に応じた複数言語でのプログラミングが可能 ・ロボットプログラミング教材の中で比較的安価
3.ロボットプログラミング実践 小学校においてロボット教材を扱う際の留意点を明らかにするための実践を行う。ここ では,ロボットが自分の意図した設定通りに動かない場合があることを確認するための実 験的な実践とする。被験者を S 大学教育学部 3 年生 8 名とし,4 組に分けて 2 名ずつのペア で行った。実践は第 2 筆者が各組の被験者に対して行った。各組での実践は 60 ∼ 90 分で あった。 実践の手順は次の通りである。 ① 筆者らが作成した「Sphero SPRK +の説明書」でロボット及び Sphero SPRK +の特徴 の概略を説明 ② ロボットプログラミング教育の例として筆者らが想定した小学校第 6 学年算数科「速 さ」と小学校第 5 学年算数科「正多角形」の指導案を説明 ③実際に Sphero SPRK +を扱う実験 ④ 実験を行った感想を中心としたアンケート調査 写真 1 ロボットと角度測定用分度器
深 谷 和 義 ・前 田 怜 那
実験の内容は次の 3 種類である。いずれも iPad mini を使って,公式無料アプリ「Sphero Edu」を用いたプログラミングにより動作させた。なお,Sphero SPRK +では速度の単位 が示されていないが,筆者らが行った測定結果により,以下において,スピード 50 なら 速度 50cm/ 秒とする。 ・速度と時間の設定による直進の実行と測定 50cm/ 秒 1 秒 設定は,100cm/ 秒 × の 6 通りの組み合わせ。 150cm/ 秒 2 秒 ・角度の設定による回転の実行と測定 設定は,90 度,180 度,225 度の 3 通り。写真 1 のように付属の分度器で角度を測定。 180 度以下の場合は右回り,180 度を超えると左回りに回転。例えば,225 度の場合は左 回りに 135 度回転。 ・指定された設定における図形の作図の実行と観察 筆者らが用意した図 1 に示すプログラムを使い正方形を作図。速度,時間はそれぞれ 50cm/ 秒,1 秒。 なお,動作場所による動きの違いを明確にするため,Sphero SPRK +を床,机,模造紙, 画用紙の 4 か所で実行した。その際,時間の都合で,床と模造紙で 2 組が実行し,残る 2 組は机と画用紙で実行した。ただし,図形の作図はすべての組が床で実行した。 4.結果と考察 4.1 実践の様子 授業に参加してもらった 4 組のどのペアも,一人がタブレットを使って Sphero SPRK + の方向調整やプログラミングを行い,もう一人が測定し記録するという方法で進めていた。 途中で役割を交代することで二人とも Sphero SPRK +を扱う機会を設けるように促した。 直進の実行と回転での測定を実践している様子を写真 2 に示す。 また,図形の作図で正方形を描く実践では,Sphero SPRK +の動きやプログラミングの 設定に注目する際に,ペアで話し合うなど言語活動が充実している様子も見られた。
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写真 2 実践している様子4.2 実践結果 まず,Sphero SPRK +を直進させて測定した結果を動作場所ごとに図 2 から図 5 に示す。 いずれのグラフにおいても,横軸の「予測値(cm)」,縦軸の「誤差率(%)」は,それぞ れ次の式で求めている。 予測値=設定速度×設定時間 誤差率=(測定値−予測値)÷予測値× 100 実行した 4 か所のいずれに対しても,便宜上 2 組中の片方を A 組,もう一方を B 組と記 載している。すべての実践において 3 回ずつ測定している。予測値ごとに誤差率の平均値 を平滑線で結んでいる。 床のみ誤差率がほぼ負の値になっている。これは,動作させた床がナイロン素材のカー ペットで摩擦が大きかったためだと考えられる。他は大半が正の値である。いずれも比較 的摩擦が小さい場所だったからだと考えられる。実行した 4 か所のいずれにおいても,予 測値が大きくなるにつれて誤差率が減少気味であることがわかる。また,1 秒での動作よ り 2 秒動作させた場合に誤差率が小さい傾向が読み取れる。誤差の生じる原因が動き始め か停止する際に多く生じていると推察できる。そのため,ある程度の距離を動かすことで 誤差率が減少する。今回の実践結果においては,全体的におおよそ 200cm 程度動かせばあ る程度小さな誤差率となるといえる。 図 2 直進の予測値に対する誤差率(床) 図 3 直進の予測値に対する誤差率(机) 図 4 直進の予測値に対する誤差率(模造紙) 図 5 直進の予測値に対する誤差率(画用紙)
深 谷 和 義 ・前 田 怜 那 次に,Sphero SPRK +を回転させて測定した結果を表 1 に示す。角度の測定は付属の分 度器を用いており,そのメモリに付けられた 5 度ずつの角度で読んだ結果を測定値とした。 表 1 における「測定誤差(度)」を次の式で求めている。 測定誤差=測定値−設定角度 直進同様に 3 回ずつ実践し,A 組と B 組の計 6 回の結果に対して誤差が± 0 の回数の割合 を「正確性(%)」として記載している。また,3 通りの角度に対するそれぞれの正確性 の平均を全体の正確性としている。 表 1 より,場所の違いによる明確な規則性が見られないことがわかる。ただし,今回扱っ たロボットでは,4 か所のいずれにおいても誤差が負になっている場合の方が正になって いる場合よりも多い。これは,特に角度が小さい場合に顕著である。回転の場合は直進と は違って必要な角度を回転させる以外の設定に工夫ができないため,ある程度の誤差が生 じることを踏まえて扱うしかないといえる。 最後に,正方形の作図では,回数を決めずに複数回実行させた。実行したロボットの動 きの例を写真 3 に示す。写真 3 では実際の動作を撮影し,通過した経路を筆者らが矢印を 加えて示している。 どの組の実行においても,常にスタート地点を少しずれた位置で停止した。使用した Sphero SPRK +の動きが最初の一辺の直進だけ少し長く動くことと回転角度が 90 度よりも わずかに小さい角度であることが多いためだと考えられる。 表 1 回転の測定誤差と正確性 設定角度 床 机 模造紙 画用紙 A 組 B 組 A 組 B 組 A 組 B 組 A 組 B 組 90 度 測定誤差 ±0 ±0 ±0 −20 ±0 −5 −10 −15 ±0 ±0 ±0 −15 ±0 −5 ±0 −5 ±0 ±0 ±0 −10 +5 −5 ±0 −5 正確性 100.0% 50.0% 33.3% 33.3% 180 度 測定誤差 +5 ±0 +5 −5 +5 −10 ±0 ±0 ±0 −5 −5 ±0 ±0 −5 ±0 ±0 ±0 ±0 ±0 −5 ±0 −5 ±0 ±0 正確性 66.7% 33.3% 33.3% 100.0% 225 度 測定誤差 ±0 −5 +15 ±0 ±0 ±0 ±0 +10 ±0 −5 +20 ±0 ±0 ±0 ±0 +10 +5 −5 +5 ±0 ±0 +5 ±0 +10 正確性 33.3% 50.0% 83.3% 50.0% 全体 正確性 66.7% 44.4% 50.0% 61.1%
4.3 アンケート結果 実践を行った被験者 8 名中で多少でもプログラミング経験がある学生は 5 名いた。この うち,大学での経験者が 3 名である。 Sphero SPRK +の操作については,7 名が「簡単」,1 名が「どちらかといえば簡単」と 答えた。子どもたちにとっての操作が簡単かは,4 名が「そう思う」,3 名が「どちらかと いえばそう思う」,1 名は「どちらかといえばそう思わない」と答えた。 自由記述では,「使いこなせる自信はないが,私自身がしっかりと学んでから挑戦して みたい」という回答や,「すべての教員がスムーズに扱えるわけではない」,「ロボットな ので,いろいろなところで少しの誤差が出てくる」,「高価なため,数をそろえられない」 といった問題を指摘した回答があった。ロボットによるプログラミング教育の有効性を感 じながらも誤差による動きの問題を指摘している。小学生がロボットプログラミングを行 う場合に,誤差のために想定していない動きになったことをプログラムのミスが原因だと 誤解することで混乱してしまうことが考えられる。ロボットの動きの誤差は,ロボットの 種類,個体差,動作場所による摩擦係数等の違いによって生じると考えられる。これらの 状況によって,より適切な設定値が異なってくる。教員は,扱うロボットの誤差がどのよ うに生じるかを事前に把握しておくことで,大きな誤差による児童の混乱を減少させるこ とが必要である。また,今回の実践は小学校第 5 学年及び第 6 学年の算数科の「正多角形」 等を扱っているが,誤差を意識させた学習を行う場合には,1 章で述べたように第 5 学年 理科の「振り子」の単元で誤差が関係することから,教科横断的に誤差の学習を取り入れ る授業が必要だと考えられる。 5.まとめ 小学校におけるプログラミング教育において,ロボット教材を扱うことで児童の興味を 高められるが,ロボットを動かす際には摩擦等による誤差が児童の理解を混乱させる可能 写真 3 正方形を描くロボットの動きの例
深 谷 和 義 ・前 田 怜 那 まな設定で動きを確認した。その結果,ロボットプログラミング教育は操作が簡単な反面, 児童が誤差の影響で混乱しないためには,動かす場所や設定を事前に教員がきちんと確認 する必要があることが示唆された。また,誤差が生じて混乱する可能性が高い場合には, 理科の振り子の単元のように誤差を扱うことが適した授業と関連付けて実施することが必 要だと考えられる。 付記 本論文の一部は教育システム情報学会 2019 年度学生研究発表会(2020 年 2 月 27 日,大阪市) において発表した(前田・深谷 2020)。 引用・参考文献 安部洋一郎,松本伸示(2019)測定誤差とその取扱いの理解を深める振り子単元の指導.日本科 学教育学会年会論文集,vol. 43,pp. 616 ― 617 CASTALIA(2018)Ozobot.https://www.ozobot.jp/(参照日 2020.9.1) デジタルポケット(2003)ビスケット viscuit| コンピュータは粘土だ!!.https://www.viscuit. com/(参照日 2020.9.1)
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