氏 名 李 彦(Yan Li) 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第304号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年9月25日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 環境社会創生工学専攻
学 位 論 文 題 目 Sustainable treatment of environmental water polluted with phenolic compounds by functionally-enhanced rhizosphere of duckweed (ウキクサ類の根圏機能を強化することによる フェノール汚染環境水の持続的処理) 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 金 子 栄 廣 教 授 風間 ふたば 教 授 黒 澤 尋 准教授 森 一 博 准教授 西 田 継 准教授 遠 山 忠
学位論文内容の要旨
フェノール並びにその関連物質は水環境中で広く検出される有害汚染物質であり,多く は人の健康にも深刻な作用をもたらすものである。これらに属する化合物の内11 種類はア メリカ環境保護局による主要汚染物質にも挙げられており,効率的な汚染修復方法の開発 は喫緊の課題と言える。一方,ウキクサ科植物(ウキクサ,コウキクサ,アオウキクサ, ミジンコウキクサなど)を用いた水質浄化・修復技術は,低コスト,簡便な維持管理,低 環境負荷な技術として主としてBOD と栄養塩除去を目的に利用されてきた。最近になり, ウキクサの根圏部にはフェノール類の高い分解作用があることが明らかとなってきた。し かし,他のウキクサ科の植物での検討はなされておらず,根圏部でなぜ高いフェノール類 の分解作用が生じるのか,そのメカニズムについても明らかになっていない。そこで本研 究では,各種ウキクサ科植物の根圏におけるフェノール類除去効果を明らかにし,その浄 化メカニズムを検討した。最初に,上述の4 種のウキクサ科植物による 3 種類の河川水中でのフェノール分解除去 能力を検討した。その結果,全ての供試植物植栽河川水で非植栽系に比べて効率的なフェ ノール除去が確認された。特にウキクサとミジンコウキクサで優れた浄化効果が観察され た。一方,無菌の植物体を用いた系ではフェノールの除去効果は観察されなかった。さら に,植物根圏部の生菌数を栄養寒天培地及びフェノール無機寒天塩培地を用いて計測した 結果,非常に多くのフェノール分解菌を含む生菌数が確認されたことから,植物根圏にお ける微生物分解が主要な浄化要因であることが示された。この結果より,ウキクサ類には 広くフェノール分解除去作用が存在することが明らかとなった。 次に,環境水で栽培した各種ウキクサ類に付着する微生物群集構造の解析をメタゲノム 解析手法により行った。その結果,ウキクサ類に観察された微生物群集構造は,栽培に用 いた環境水とは大きく異なっている一方,ウキクサ類に共通に見られる分類群も観察され, 同じ環境水で栽培した場合にはウキクサ類の微生物群集構造は互いに似ている結果が得ら れた。さらに,フェノール分解菌を供試植物より分離した結果,Delftia, Pseudomonas, Azospirillum, Acinetobacter, Arthrobacter, Zoogloea, Comamonas属の47 種類の株が得 られ,何れもフェノールを単一炭素源として増殖した。これらのことから,ウキクサ類に は多様な微生物からなる微生物群集が形成されており,その中には同じく多様なフェノー ル分解菌がある程度優占的に存在していることが示された。 一方,ウキクサ科植物が微生物に与える影響を検討するため,植物によるフェノール生 産作用について検討した。その結果,何れの供試植物もフェノール性の化合物を生産して おり,特にウキクサでその作用が高いことが明らかとなった。また,植物からの抽出物質 が,分離されたフェノール分解菌の増殖あるいはフェノール分解作用を向上させることが 示された。これらの結果から,植物から供給される物質が,ウキクサ植物体表面にフェノ ール分解菌が存在し高い浄化作用を示す一因となっていることが示された。 続いて,特にフェノール浄化作用の強かったウキクサとミジンコウキクサ植栽系による 種々のフェノール化合物に対する浄化効果を検討した結果,供試植物がフェノール以外の フェノール化合物においても分解促進効果を持つことが示される一方,ビスフェノールA, 4-ニトロフェノール, 4-クロロフェノール, 4-tert-ブチルフェノールなどでは浄化効果が劣 り,更なる浄化促進手法の必要性が示唆された。 以上の検討の後,ウキクサ植生による浄化作用をさらに促進することを目的に,根圏へ の有用微生物の導入(リゾオーグメンテーション)を検討した。ここでは難分解性で内分 泌攪乱作用も危惧されるビスフェノールA を対象に,ウキクサ根圏より分離したビスフェ
される有機物質により増殖し,根面に付着生息することが観察された。FID3 株で強化した ウキクサ植生系は効率的にビスフェノールA を連続バッチ条件で継続的に除去したことか ら,リゾオーグメンテーションは難分解性のフェノール化合物汚染水の浄化において有効 な手法であることが示された。 このように,本研究では,ウキクサ科植物の表面にはフェノール化合物の分解菌が多数 かつ多様に存在すること,これら微生物の活性には植物体からの物質供給が寄与している こと,これら植物の植栽系では高いフェノール化合物の除去効果が期待できること,難分 解性のフェノール化合物においては有用菌を植物体表面の微生物相に導入するリゾオーグ メンテーションが有効であることを示した。以上のことから,ウキクサ科植物を用いた手 法はフェノール化合物の汚染浄化に有効であることを明らかにすることができた。
論文審査結果の要旨
本論文は,各種ウキクサ類の根圏におけるフェノール除去効果を比較検討した上で,根 圏部で高い浄化作用が生じるメカニズムと,難分解性のフェノール類の処理にも適用する ための機能強化手法を示したものである。4 種類のウキクサ科植物のフェノール浄化効果を 比較検討している。続いて,植物の葉・根圏部に形成される微生物群集構造をメタゲノム 解析手法により解析した上で,フェノール分解微生物の多様性や増殖・分解特性を調べて いる。また,供試植物によるフェノール化合物生産能を調べることで,ウキクサ科植物に よる根圏微生物活性化のメカニズムを検討している。さらに,多数のフェノール類に対す るウキクサ科植物根圏による浄化効果を調べた後,浄化効果が低かったビスフェノールA を例として,分解微生物を根圏部に一度導入することで,安定的に処理が可能となること を示したことが本論文の骨子である。 各種ウキクサ科植物によるフェノール浄化効果の検討では,特にウキクサとミジンコウ キクサで高い効果を確認し,無菌植物を用いた系との比較から根圏微生物が浄化の主な要 因であることを示した。 微生物群集構造の検討では,ウキクサ科植物の葉・根圏には栽培水とは異なる特異な群 集構造が形成されることを確認した。また,多様なフェノール分解菌が優占的に存在して おり,その増殖やフェノール分解活性が植物体抽出液により高まることを示した。さらに, 植物抽出物を調べた結果,ウキクサ科植物がフェノール性化合物を生産していることが明 らかとなった。これらから,ウキクサ植物体表面にフェノール分解菌が多数存在し高い浄 化作用を示す一因として,植物から供給される物質の影響を明らかにした。続いて,フェノール浄化作用が強かったウキクサとミジンコウキクサ植栽系による種々 のフェノール化合物に対する浄化効果を検討した後,根圏への分解微生物の導入(リゾオ ーグメンテーション)の効果を検討した。難分解性のビスフェノールA を対象として,ビ スフェノールA 分解菌Novosphingobium sp. FID3 株を根圏に導入した結果,連続バッチ 条件で継続的に浄化することに成功している。 以上のように,本論文はウキクサ科植物の根圏浄化作用のメカニズムの一端を解明し, 難分解性で通常の植生では浄化が困難な場合にはリゾオーグメンテーションによる機能強 化が有効な手法であること明らかにしており,優れた独創性,学術的新規性,工学的実用 性が認められる。したがって,本審査委員会は本論文の工学的貢献度は高く,博士(工学) 論文に値するものであると認め,合格と判断した。