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幼児の音楽的表現に対する保育者の捉え方の実態ー保育者の経験年数と音楽理解度を手がかりにしてー

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Academic year: 2021

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──保育者の経験年数と音楽理解度を手がかりにして──

五十嵐 睦美  髙 瀨 慎 二

The Actual Situation of Regarding How to Perceive of the Childcare Teachers

to Children’s Musical Expression

—Based on the Years of Experience and Music Comprehension of Childcare Teachers—

Mutsumi I

GARASHI

and Shinji T

AKASE

ƋǽץᭉȻᄻᄑ  保育者が子どもの音楽的表現を捉える際、「子どもが表現を楽しんでいるか否か」といった 視点に軸足を置いているのが現状である。これは近年の横井(2016)(1)の調査において明らか になっているが、このような捉え方に関する危惧は、既に30年前から指摘されている(藤田, 1989)(2)。「音楽を楽しんでいる」という包括的で曖昧な言葉に依拠して子どもの音楽的表現を 捉えることは、保育者が子どもの表現を「見守る」「受け止める」という援助方法に重きを置 いていることと同義でもあるが、そのような方法が定着した背景には、保育者が子どもと音楽 的にかかわる具体的な方法について長く明らかにされなかったことが原因であろう。これにつ いては、保育者の悩みとしても顕在化しており、音楽的表現に関する活動の導入や指導方法及 び具体的な発展方法、更には子どもの個人差に応じた指導方法に難しさを感じる保育者が多い という実態が明らかになっている(横井,2011)(3)。つまり、子どもの自由な表現を認めた上で、 それを多角的な視点から捉え、子どもが更に音楽的表現の楽しさを感じられるための具体的か つ発展的な実践方法について長く示されなかったことが、上記のような保育者の悩みに繋がっ たといえる。  このような実態から、研究分野では子どもの音楽的表現を捉える視点について具体化しよう とする動きが加速し、現在は大城ら(2012)(4)や古本ら(2014)(5)をはじめとしたチェックリス トを用いた評価方法の考案や、園内研修を通した振り返りから子どもの音楽的表現を捉え直す 研究(芦田ら,2012)(6)などが注目されている。更に音楽的表現に関する保育の方法以外にも、 保育者自身の音楽性や音楽観が子どもの表現に影響を及ぼすことも明らかとなり(田崎, 2013)(7)、保育者自身の価値観を自覚化する必要があることも指摘されるようになった(石川, 2013)(8)  このように、近年は子どもの音楽的表現を具体的な指標から捉える重要性や、保育者自身の 見方や考え方を見直す必要性について論じられるようになったが、根本的に保育者の音楽経験

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や経験年数が子どもの音楽的表現の捉えにどのように影響しているのか、または保育者が子ど もの音楽的表現の何をどのように見ているかについての詳細なデータは未だ発表されていな い。  そこで本研究では、保育者の経験年数や音楽への理解度を切り口としながら、それらが子ど もの音楽的表現の捉えとどのような繋がりをもっているかについて明らかにしたい。 ƌǽ஁ศ ᴮǽᝩ౼ߦ៎ᐐȻਖ਼ፖȠ  2018年㧢月から12月にかけて愛知県内の保育者を対象に無記名式質問紙調査を実施した。 保育者には園内研修や保育士研修内で質問紙を配布し、保育者の経験年数に偏りが出ないよう 配慮しながら不特定多数の市町村にて行った。倫理的配慮に関する事前の手続きは、園内研修 で調査を実施する場合、対象園の責任者に対して本研究の趣旨説明および質問内容の確認を行 い、承諾を得た場合のみ全調査者へ同意書を配布することとした。保育士研修で調査を実施す る場合は、当該研修会を主催する理事会に対して本研究の趣旨および質問紙の内容を報告し、 倫理審査を経て許可を得た上で実施することとした。  その結果、本調査に同意した438名の保育者から回答を得ることができた。結果の分析にあ たっては、当該質問項目に対して無回答であった回答を除外して分析を行った。 ᴯǽᝩ౼ю߁  質問紙では調査対象者の基本情報に加え、三つの大項目を設定した。まず一つ目は、生活内 での保育者と音楽との繋がりに関する質問を設定し、保育者自身の音楽観や生活の傾向を調査 した。二つ目は保育の中で子どもが音楽的表現をする場面に関して質問を設定し、保育者がど のような場面を子どもの表現だと捉え、更にそれをどのような視点から捉えているかについて 調査した。三つ目は音楽的表現活動に対する保育者自身の準備や振り返りに関して質問を設定 し、音楽的表現場面(活動)への配慮事項や振り返りの方法から保育者の考え方を調査した。  その中でも本稿では特に二つ目の項目を細分析し、子どもの音楽的表現に対する保育者の捉 え方の特性を明らかにすることとした。 ƍǽፀ౓ ᴮǽᝩ౼ߦ៎ᐐɁࠖॴ  調査対象者の性別は女性417名、男性11名であった。現在の所属は保育所238名、幼稚園61名、 こども園88名、その他が11名であった。対象者の平均年齢は34.2(Ă11.8)歳であり、その内 訳は20代187名、30代77名、40代111名、50代44名、60代㧠名であった。保育職に就いた年 数(経験年数)の平均値は12.1(Ă10.6)年であり、㧟年以下167名、㧠年以上10年以下が65名、

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11年以上が193名であった。音楽への理解度は『「音楽する」「音楽している」という言葉を聞き、 その意味についてどのように感じますか』との質問の回答に際して「よくわかる」、「ややわか る」と回答した群を「高理解」、「どちらでもない」を「中理解」、「あまりわからない」、「まっ たくわからない」を「低理解」として再分類して分析を行った。各回答者数の内訳は「高理解」 97名、「中理解」120名、「低理解」168名であった。 ᴯǽىފґ౏  質問項目は、『「子どもたちの表現が音楽的である。」という文章を読み、「音楽的」とはどの ような子どもの状態を指していると感じるか』という質問に対して「創造的」、「立体的」、「旋 律的」などの22の語句から、あてはまるものすべてに選択を求めた。分析にあたっては、選 択の有無をダミー変数とし、それぞれの回答項目を用いて因子分析(主因子法、固有値㧝以上、 バリマックス回転)を行った。ただし、各項目のうち、因子負荷が0.35に満たなかった項目お よび複数因子で因子負荷が0.35より大きくなった質問項目を削除し、再度、因子分析を行った。 主因子法を用い、因子を抽出した。因子数は固有値㧝以上を基準に判断し、バリマックス回転 を行った。因子分析の結果、㧡因子が抽出され、第㧝因子は「没頭している」、「内発的」、「主 体的」、「安定的」から「自主性」とし、第㧞因子は「独創的」、「個性的」、「創造的」から「創 造性」、第㧟因子は「一体感がある」、「集中している」から「協同性」とし、第㧠因子は「能 動的」、「立体的」から「躍動性」とし、第㧡因子は「旋律的」、「律動的」から「規則性」に関 する因子とした(表㧝)。 表㧝 子どもの音楽的表現に対する理解の因子負荷構造 項目内容 F F F F F 共通性 F:自主性 没頭している . 0.148 0.111 ­0.032 ­0.002 0.241 内発的 . 0.051 0.018 0.158 0.048 0.227 主体的 . 0.219 0.125 0.133 0.008 0.208 安定的 . ­0.001 0.152 0.088 0.164 0.356 F:創造性 独創的 0.062 . 0.019 0.040 0.047 0.227 個性的 0.285 . 0.041 ­0.004 ­0.166 0.281 創造的 0.084 . 0.069 0.263 ­0.070 0.407 F:協同性 一体感がある 0.136 0.024 . 0.048 0.111 0.606 集中している 0.340 0.134 . ­0.008 ­0.054 0.291 F:躍動性 能動的 0.036 0.125 0.048 . ­0.003 0.199 立体的 0.252 0.009 ­0.025 . 0.097 0.443 F:規則性

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旋律的 ­0.011 ­0.008 0.070 ­0.038 . 0.251 律動的 0.115 ­0.056 ­0.019 0.087 . 0.251 因子寄与 1.132 0.820 0.793 0.682 0.560 3.987 因子寄与率(%) 8.705 6.309 6.098 5.248 4.307 30.667 ᴰǽጽ᮷ࢳୣȾɛɞյىފɁࢲ٫ϏɁ෗ᢎ  保育職に就いた年数を㧟段階(㧟年以下、㧠年以上10年以下、11年以上)に分類し、因子 ごとに因子得点の平均値を求め比較を行った(図㧝)。本分類は、愛知県現任保育士研修運営 協議会による分類を参考に初任研修(㧜∼㧟年目程度)の対象となる㧟年以下、幼稚園教諭免 許状の有効期限である10年間を基準に行った。なお補足として、2019年度愛知県現任保育士 研修運営協議会の経験別研修は、初任(㧜∼㧟年目程度)、中堅前期(おおよそ㧡年目前後)、 中堅後期(およそ㧣年目以上)、主任、園長に分けて実施された。  各因子について㧝要因の分散分析を行ったところ、「自主性」因子(F2,422 = 4.27、p < .05) と「規則性」因子(F2,422 = 3.58、p < .05)において有意差が認められた。LSD 法を用いて多重 比較を行ったところ、「自主性」因子においては、経験年数11年以上の保育者がその他の経験 年数の保育者よりも因子得点が高く(p < .05)、また、「規則性」因子においても11年以上の保 育者が㧟年以下の保育者よりも得点が高くなっており(p < .05)、より「自主性」因子や「規 則性」因子を子どもの音楽的表現として捉えていることがわかった。

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0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 自主性 創造性 協同性 躍動性 規則性 因子得点 㧟年以下 㧠以上–10年以下 11年以上 図㧝 経験年数による各因子の因子得点(*:p < .05、誤差棒は標準偏差) ᴱǽᬩഒɋɁျᜓ࣊ȾɛɞյىފɁࢲ٫ϏɁ෗ᢎ  音楽への理解度を「㧝 調査対象者の属性」のように㧟段階(低理解、中理解、高理解)に 分類し、上述の因子ごとに因子得点の平均値を求め比較を行った(図㧞)。各因子について㧝

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要因の分散分析を行ったところ、「創造性」因子(F2,382 = 2.53、p < .10)に有意傾向が認められ、 「協同性」因子(F2,382 = 4.04、p < .05)において有意差が認められた。LSD 法を用いて多重比 較を行ったところ、「創造性」因子においては、高理解群が低理解群よりも因子得点が高く(p < .05)、また、「協同性」因子では高理解群が低理解群、中理解群よりも因子得点が高くなって いた(p < .05)。このことは音楽への理解度が高い「高理解」群は「創造性」因子や「協同性」 因子を子どもの音楽的表現として重要視していることがわかった。

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0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 自主性 創造性 協同性 躍動性 規則性 因子得点 低理解 中理解 高理解 図㧞 子どもの音楽的表現に対する理解度による各因子の因子得点(*:p < .05、誤差棒は標準偏差) ƎǽᐎߔȻᝥᭉ  以上のことから、子どもの音楽的表現の捉え方を保育者の経験年数と音楽理解度から検討し たところ、11年以上の経験がある保育者は、自主性や規則性に関する視点から子どもの音楽 的表現を捉える傾向にあり、更に音楽への理解度が高い保育者は、創造性や協同性に関する視 点から子どもの音楽的表現を捉える特性があることがわかった。具体的に、自主性は子どもが 表現に没頭したり、内なる思いを自発的に表出させたりすることを指し、規則性は旋律やリズ ムなどが生み出す音楽のまとまりや特徴を指していることから、保育の経験を積むほどそれら の視点に依拠しながら子どもの表現を捉えていることがわかる。更に、創造性は子ども自身が イメージを膨らませながら表現を追求したり、オリジナリティを大切にしながら新たな表現を 生み出したりすることを指し、協同性は他者との繋がりに喜びを感じたり、自分の音と周囲の 音とが合う、もしくは合わせることでまとまりを感じたりすることを指している。このことか ら、音楽への理解度が高い保育者ほど表現を生み出す過程や他者とのかかわりに重点を置いて 子どもを捉えていることがわかる。  これまで音楽的表現に関する保育者の見方や考え方を見直したり、表現の楽しさを多角的な

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視点から捉えながら、より豊かな表現を目指す手立てについて明らかにしたりする研究が積極 的になされなかった中で、まずは保育者の属性(経験年数や音楽の理解度)によって子どもの 音楽的表現の捉え方が異なる実態を明らかにし、更にはその捉え方の特性を見出した点におい て、同研究に一石を投じることができたといえるだろう。また、「音楽的」という曖昧な言葉 に内包されている複数の意味合いを表出させたことによって、子どもの音楽的表現に対する保 育者の考えを具体的に整理することができた。  しかし、本調査では経験年数が11年以上の保育者および音楽の理解度が高い保育者の特性 は明らかになったものの、その他の保育者の特性や関連性についてまでは明らかにならなかっ た。また、生活内での音楽経験などの側面から分析を行った場合、本調査と異なる結果が出る 可能性も残されている。今後は調査対象者の他の属性による比較や質問紙の再調査を行いなが ら、子どもの音楽的表現を的確に捉えるための具体的な指標の作成を目指していきたい。 า ⑴ 横井志保(2016)「保育者による子どもの音楽的表現の観方に関する研究─たたく表現活動に ついての保育者の自由記述から─」名古屋学院大学論集人文・自然科学篇,53(1),pp. 43‒48 ⑵ 藤田茉美子(1989)「幼児中心の音楽教育に向けて」季刊音楽教育研究,59,pp. 12‒22 ⑶ 横井志保(2011)「領域「表現」に関する調査研究─音楽的表現における保育者の意識と実態 について─」名古屋柳城短期大学研究紀要,33,pp. 125‒129 ⑷ 大城典子・比嘉絵美・緒方茂樹(2012)「子どもの音楽における発達と評価に関する研究─教 育実践場面における活用をめざして─」琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センター紀要, 3,pp. 45‒54 ⑸ 古本奈奈代・児嶋輝美(2014)「保育の改善につながるチェックリストの作成─音楽表現に関 する保育の評価を用いての検討─」教育情報研究,30(2),pp. 3‒9 ⑹ 芦田宏・門田理世・野口隆子・箕輪潤子・秋田喜代美・鈴木正敏・小田豊・淀川裕美(2012) 「日本版 SICS を用いた園内研修の現状と課題─幼稚園と保育所への質問紙調査を通して─」 兵庫県立大学環境人間学部研究報告,14,pp. 31‒40 ⑺ 田崎教子(2013)「「表現(音楽)」に対する保育者の保育観と音楽観─質的な質問紙調査をも とにして─」東京福祉大学・大学院紀要,4(1),pp. 43‒54 ⑻ 石川眞佐江(2013)「幼稚園教育要領における音楽活動の位置付けの歴史的変遷─領域〈音楽 リズム〉から領域〈表現〉への転換を中心に─」静岡大学教育学部研究報告,44,pp. 97‒110 ពᢷ  本研究の質問紙調査にご協力いただいた保育者の皆様に厚く御礼申し上げます。 ͇ᜤ  本研究は科研費(17K04819)の助成を受け実施したものである。 (受理日 2020年㧝月㧤日)

参照

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