オーストラリアにおける不法行為の準拠法 : 厳格
な不法行為地法主義の下での反致の導入
著者
岡野 祐子
雑誌名
法と政治
巻
60
号
2
ページ
1(504)-114(391)
発行年
2009-07-20
URL
http://hdl.handle.net/10236/3382
論 説
オーストラリアにおける
不法行為の準拠法
厳格な不法行為地法主義の下での反致の導入
岡
野
祐
子
1.は じ め に 2.2000年以前 Phillips v. Eyre ルールの導入とその見直し 2.1 Phillips v. Eyre 判決 2.2 柔軟な例外規定 2.3 オーストラリアにおける Phillips v. Eyre ルールの解釈の問題2.4 Breavington v. Godleman 判決 Phillips v. Eyre ルールの一時的
な拒否
2.5 McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決と Stevens v. Head
判決 Phillips v. Eyre ルールへの復帰
(1) McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決 (2) Stevens v. Head 判決
2.6 小活
3.2000年以降 Phillips v. Eyre ルールの否定と厳格な不法行為地法主
義の採用
3.1 オーストラリア国内における不法行為の準拠法ルール
(1) John Pfeiffer Pty Limited v. Rogerson 判決 (2) Pfeiffer 判決の位置づけ
3.2 国際的な不法行為の準拠法ルール
(1) Regie Nationale des Usines Renault SA v. Zhang 判決 (2) Zhang 判決の位置づけ
3.3 不法行為地法主義採用の背景
1.は じ め に 近年, 交通・通信の発展とともに「不法行為事件」の態様も広がる中, 複数の国のかかわる渉外的な不法行為事件における準拠法ルールは, その 適切なルール設定が難しく, 法的安定性と具体的結果の妥当性という古く からの2つの命題の中で揺れ動いている。そのような状況の中で, 先般, オーストラリアの最高裁判所において, 外国で生じた不法行為事件の準拠 法の決定に反致を用いるという注目すべき判決が示された。この判決に至 るまでの10数年の間に, オーストラリア最高裁は, 不法行為の準拠法ル ールについて幾たびかの見直しをしてきている。とりわけ, 従来用いてき たイングランド法のコモン・ロー・ルールに準じたルールを2000年に廃 し, 厳格な不法行為地法主義を採用したことは, オーストラリアにおける オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 4.不法行為の準拠法における反致の導入 4.1 厳格な不法行為地法主義における問題点の指摘
4.2 Neilson v. Overseas Projects Corporation of Victoria Ltd 判決
4.3 Neilson 判決の位置づけ 4.4 Neilson 判決への評価 (1) 反致導入への反応 (2) 外国法の証明 (3) 「柔軟な例外」ルールとの比較 (4) 管轄規則との対応 (5) 出訴期限についての当事者の予測 判決によるコモン・ロー上の法改正の遡及効 4.5 考察 (1) 結果の妥当性 (2) 日本の「法の適用に関する通則法」との関係 5.Neilson 判決以降 他の分野への拡大の可能性 (1) 契約の準拠法への反致の導入
(2) O’Driscoll v. J Ray Mcdermott, SA 判決
不法行為の準拠法ルールの大きな変換点となっているが, このたびの反致 の導入は, それに続くものである。不法行為の準拠法への反致の導入は, 世界的にも新しい問題を提起するばかりでなく, ここに至るまでのオース トラリアにおける判例の一連の動きは, 不法行為の準拠法のあり方として も示唆に富むと思われる。また, オーストラリア法のイングランド法から の離脱と独自の発展という視点からも興味深い。本稿においてはこれらの 観点から, この問題を考察したい。 2.2000年以前 Phillips v. Eyre ルールの導入とその見直し オーストラリアは, 6つの州 (State) と2つのテリトリー (Territory) からなる連邦制を有する, (1) 地域的不統一法国である。したがってオースト ラリアにおいては, 準拠法選択ルールは, オーストラリア国内の複数の州 やテリトリーが係わる国内の事案と, オーストラリア以外の国も係わる国 際的な事案との双方に適用される。不法行為の準拠法ルールについても同 様で, オーストラリアの複数の州やテリトリーが係わる, 国内で生じた不 法行為の事案において, どの州あるいはテリトリーの法を適用するかとい う問題と, 外国で生じた不法行為についてオーストラリアの裁判所に訴え が提起された場合に, いずれの国の法を適用するかという問題とが対象と なる。 (2) 先にも述べたように, オーストラリアでは, 不法行為の準拠法ルールに 論 説 (1) ニュー・サウス・ウェルズ州 (NSW), クイーンズランド州 (QLD), 西オーストラリア州 (WA), 南オーストラリア州 (SA), ヴィクトリア州 (VIC), タスマニア州 (TAS) の各州と, ノーザン・テリトリー(北部準 州:NT), 首都特別地域 (Australian Capital Territory : ACT) の各テリト リーである。
(2) もっとも, このいずれの事案に当たるかについての区別は, 若干注意
ついては, 長年にわたりイングランドの先例に基づくルールが採用されて きたが, 2000年以降, オーストラリア最高裁は, 一連の判例によってこ のルールから離脱し, 厳格な不法行為地法主義を採用している。 (3) このたび の不法行為の準拠法への反致の導入については, 同じ最高裁によってその わずか数年前に採用された, この「厳格な不法行為地法主義」への対応, という側面が看過できない。そこで本稿ではまず, 反致の導入に至る以前 のオーストラリアにおける不法行為の準拠法ルールについて, 2000年以 前(本章)と, 2000年以降(第3章)とに分けてその変遷を追う。 イングランドとオーストラリアにおいて, 不法行為の準拠法についての コモン・ロー上の先例とされてきたのが, Phillips v. Eyre 判決で (4) ある。 これは, 1870年の古い判決ではあるが, その後長く, イングランドおよ びオーストラリアにおける不法行為の準拠法の基本となるルールを提示し てきた判決である。 (5) この Phillips v. Eyre 判決によるルールは, オースト ラリアにおいては, 2000年以降の最高裁判決によって否定されることと なるが, 実はその以前にも一度, このルールの見直しが最高裁によってな されている。すなわち1988年に, オーストラリア最高裁は, Breavington v. Godleman 判決に (6) おいて一旦このルールを否定し, 不法行為の準拠法に オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(3) この動きについては, K. Anderson, ‘Current Developments in Australian Private International Law : Divergences from England and Notes regarding New Zealand’ 国際私法年報第5号(2003) 2, 10にも紹介されている。 (4) Phillips v. Eyre (1870) LR 6 QB 1.
(5) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, CONFLICT OF LAWS IN AUSTRALIA (2002), 804, R. Mortensen, PRIVATE INTERNATIONAL LAW IN
AUSTRALIA (2006), 416417, P. Nygh, M. Davies, CONFLICT OF LAWS
IN AUSTRALIA 7 th ed. (2002), 417.
は不法行為地法のみを適用するとの判断を下している。もっともそのわず か3年後の1991年, 最高裁は, McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決に (7) おいて Breavington v. Godleman 判決を再び覆し, 不法行為の準拠 法ルールはやはり Phillips v. Eyre ルールによることを確認している。さ らにそれに続く1993年の Stevens v. Head 最高裁判決も (8) , McKain 判決の 立場を踏襲している。しかしこの一連の経緯には, その後2000年以降の, 最高裁による Phillips v. Eyre ルールの否定, および厳格な不法行為地法 主義への移行, の前兆を見ることができるのかもしれない。 2.1 Phillips v. Eyre 判決 (9) Phillips v. Eyre 判決によるルールは, すでに我が国においても紹介さ れているルールであるが, 上述したようにオーストラリアの不法行為準拠 法の基本となるルールであるため, ここに概括しておく。 <事実の概要> 事案は, 当時イギリスの植民地であったジャマイカで原住民の反乱がお こり, それを抑えるにあたって Edward John Eyre 総督による残酷な行為 があったとして, ジャマイカの原住民が, イングランドにおいて Eyre 総 督を不法行為により訴えたものである。この反乱ののち, ジャマイカにお いては, 反乱の抑圧のためになされた行為をすべて保護し, 合法的なもの とする制定法 (The Act of Indemnity) が成立していたことから, いずれ の地の法が準拠法となるかが問題となった。この判決において, Wills 裁
論
説
(7) McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd (1992) 174 CLR 1. 判例集の
表示は(1992)となっているが,判決が下されたのは1991年12月である。
(8) Stevens v. Head (1993) 176 CLR 433.
判官によって有名な以下のルールが示される。 <Wills 裁判官の示したルール> 「一般的なルールとして, 外国でなされたと主張されている行為に ついて, イングランドにおいて不法行為として訴えが成立 (found) するためには, 2つの条件が満たされなければならない。第1に, そ の行為がイングランドでなされたとしても訴えうるような (action-able) 性質を有さなければならない。第2に, その行為は, それがな された地の法によれば正当でない (not justifiable) ものでなければな らない。 (10) 」 この Wills 裁判官の示したルール, つまり, 被告の行った行為が, (1) 法廷地法によれば,「訴えうるもの (actionable)」であり, (2)その行為の なされた地の法によれば,「正当化されない (not justifiable)」ものでなけ ればならない, とするルールは, その後イングランドの貴族院においても (1902年の Carr v. Francis Times & Co 判決),
(11)
そしてオーストラリアの 最高裁においても(1951年の Koop v. Bebb 判決お
(12)
よび1965年の Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd. 判決) 認
(13) められる。かくして, オ ーストラリアとイングランドにおいて, 不法行為についてのコモン・ロー 上の抵触法ルールは, その後長きにわたり, Wills 裁判官の示したこのル ール, すなわち Phillips v. Eyre ルールを基本とすることとなる。 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (10) (1870) LR 6 QB 1, 2829.
(11) Carr v. Francis Times & Co. [1902] AC 176, 182. (12) Koop v. Bebb (1951) 84 CLR 629, 642643.
2.2 柔軟な例外規定
その後, イングランドにおいては, このルールにさらに「柔軟な例外規 定 (flexible exception)」が追加される。すなわち, Phillips v. Eyre 判決 の示した(1)「法廷地法」と(2)「不法行為地法」という2つの基準の双 方に, 柔軟な例外が付加されることとなる。この例外規定により, イング ランドの裁判所は, 不法行為地法をどうあっても適用しなければならない 理由を見いだせない時には, 法廷地法のみを適用することが許され (1971 年の貴族院判決である Boys v. Chaplin 判決), (14) 逆に, 法廷地法をどうし ても適用しなければならない理由が見いだせない時には, 不法行為地法の みを適用することが許される(1995年の Privy Council 判決である Red Sea Insurance Co. Ltd. v. Bouygues SA 判決),
(15) とされた。 (16) 論 説 (14) Boys v. Chaplin [1971] AC 356. 事案は, マルタ島に配属された2人 のイギリス人軍人の自動車事故に関するものである。訴えはイングランド において提起され, 問題となった争点は, 原告がイングランド法に基づき 一般の損害賠償金2250ポンドと特別の損害賠償金53ポンドの両方を受け取 れるか, それともマルタ法で認められている53ポンドのみしか受け取れな いかという点であった。判決は, 両当事者と状況からして, この事件はイ ングランドに「より密接な関連」を有する事案であり, Phillips v. Eyre ル ールに対する例外としてイングランド法のみが適用されると判断し, 原告 は両方の損害賠償金を受け取ると結論した。詳しくは本浪章市「不法行為 の準拠法としてのプロパー・ローと最も重大な関連基準 ボーイズ事件 の貴族院判決と伝統的2重規則との関係」関大法学論集41巻3号 (1991年) 797905頁等参照。
(15) Red Sea Insurance Co. Ltd. v. Bouygues SA [1995] 1 AC 190 (PC). 事 案は, サウジアラビアにおける建築工事に関するものである。被上訴人の ジョイントベンチャーは, サウジアラビアに大学の建物を建築する旨の契 約を, サウジアラビア法を準拠法として, サウジアラビア政府との間で締 結した。被上訴人は, 香港で設立されサウジアラビアに主たる営業所をお く保険会社(上訴人)との間で保険契約を締結しており, 同契約の準拠法 もサウジアラビア法であった。当該建物に構造上の欠陥があったとして,
イングランドにおけるこの動きは, 後述するオーストラリアの場合とは 異なり, Phillips v. Eyre ルールを純然たる準拠法ルールと解する前提で のものであると理解されており, 貴族院の Boys v. Chaplin 判決に従い, イングランドの各裁判所は Phillips v. Eyre ルールをそのような準拠法ル オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 サウジアラビア政府が被上訴人に対してクレームを申し立てたため, 被上 訴人が, 上訴人に保険金支払いを請求したところ, 上訴人が支払いを拒否 したため, 被上訴人は上訴人に対し, 保険契約の不履行に基づく訴えを香 港の裁判所に提起した。上訴人は, 本件欠陥は, 被上訴人の下位グループ である PCG 共同事業体の過失によるものであると主張した。そして, 被 上訴人のうちの PCG 以外のメンバーは PCG に対し不法行為に基づき請求 権を有すること, 上訴人は PCG 以外のメンバーの保険者として PCG に対 する権利を代位することを主張して, 被上訴人のうちの PCG に対し, 反 訴請求をした。保険者が被保険者に保険金を支払うことなく, 直接に代位 請求することは, 不法行為地法であるサウジアラビア法上は認められてい たが, 法廷地法たる香港法上は認められていなかったため, 準拠法が問題 となった。 香港の第一審裁判所および控訴審裁判所は, ダブル・アクショナビリテ ィ・ルールの下では, 上訴人は不法行為地法たるサウジアラビア法のみに 依拠することはできないとして, 訴えを退けた。上訴を受けた Privy Council は, 本事案においては, 保険契約の準拠法がサウジアラビア法で あり, 建築工事はサウジアラビアでなされたこと, 当該建物はサウジアラ ビア政府が所有するものであること, 基本契約, すなわち建築工事に関す るすべての契約の準拠法はサウジアラビア法であり, 履行地もサウジアラ ビアであること, 当該基本契約の不履行および損害はサウジアラビアで生 じていること, 損害の補修費用もサウジアラビアで生じていること, 上訴 人は香港会社ではあるが本店をサウジアラビアにおいていることを指摘し, 本事案には不法行為地法を適用すべき圧倒的な要素があり, ダブル・アク ショナビリティ・ルールの柔軟な例外則により, 不法行為地法のみが適用 されるケースに当たると結論した。M. Davies, S. Ricketson, G. Lindell,
CONFLICT OF LAWS COMMENTARY AND MATERIALS (1997), 436441
にもこの判例が紹介されている。
ールとして受け入れた。
(17)
そして Boys v. Chaplin 判決以降, Phillips v. Eyre ルール は,「ダブル・アクショナビリティ・ルール」として知られ, (18) いわ ゆる不法行為地法と法廷地法の累積的適用として, (19) その後長くイングラン ドにおける不法行為のコモン・ロー上のルールとなる。 2.3 オーストラリアにおける Phillips v. Eyre ルールの解釈の問題 これに対し, オーストラリアにおいては, Phillips v. Eyre ルールの解 釈につき, イングランドとは異なった視点から問題が指摘されてきた。す なわち, Phillips v. Eyre 判決で示されたこのルールは, そもそも①純然 たる準拠法ルールなのか, それとも②司法判断適合性 ( justiciability) のル ールなのか, という問題である。 (20) 後者は, このルールを, 単なる「前置き のルール」, ないしは「玄関口 (threshold) のルール」と解するもので, このルールは法廷地が管轄を成立させ得る条件を定義しており, 実質法の 問題は後に決定されるものとして残しているとする立場である。 (21) もっとも Phillips v. Eyre ルールがこのように管轄のルールであると解されるとし ても, それは, 被告に対する管轄を示すわけではなく, 一種の事物管轄権 についての規定であるとされる。 (22) 論 説
(17) R. Mortensen, supra note 5, 416. 他のコモンウェルス諸国においても
同様とされる。 (18) Ibid.
(19) ただしこのルールを不法行為地法と法廷地法との「折衷案」だとする
説明もある。溜池良夫『国際私法講義(第3版)』(2005年) 389頁。 (20) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 418, R. Mortensen, supra note 5, 416,
M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806.. (21) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 418.
(22) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806. これは ‘jurisdiction over the subject matter of the action’ であり, ちょうど外国の土地の権利 に関する紛争を扱う裁判所の権限への制限に似たものである, と説明され
先 に 挙 げ た 最 高 裁 の 1951 年 の Koop v. Bebb 判 決お
(23)
よ び 1965 年 の Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd. 判決を
(24) はじめ, 多くの 判例は②の見解をとった。 (25) ②の立場をとる場合, 事案が不法行為地法と法 廷地法の両方のルールの条件を満たして, 法廷地が管轄を有すると判断さ れれば, さらにその事案に適用する準拠法を決定する必要がある。それに ついては, 法廷地法を準拠法とするもの, 不法行為地法を準拠法とするも のとに判例は分かれたが, (26)
最高裁の Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd. 判決において, Windeyer 裁判官が, 法廷地法を準拠法とす るとの立場を以下のように明示したこともあり, こちらの立場が多数であ ったと解されている。
(27)
Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd 判決
事案は, 首都特別地域 (ACT) で自動車事故に遭い怪我をした原告 が, ニュー・サウス・ウェルズ州において訴えを提起したものである。 原告には寄与過失 (contributory negligence) があり, ニュー・サウス ・ウェルズ州では寄与過失は訴えに対する完全な抗弁となったが, 首 都特別地域においては, それは損害賠償金の分配額を左右するにすぎ なかった。 最高裁は, Phillips v. Eyre の第1の基準について, この事件は, ニュー・サウス・ウェルズにおいて, 完全な抗弁に対抗されるとして も, 充分な訴訟原因があるため, 法廷地であるニュー・サウス・ウェ オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 ている。 (23) Koop v. Bebb (1951) 84 CLR 629, 642643.
(24) Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd. (1965) 114 CLR 20. (25) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 418.
(26) Ibid, 419.
ルズにおいて訴えうるもの (actionable) であると判断した。また第2 の基準については, この事件は不法行為地である首都特別地域におい ては違法であるため, 正当ではない (not justifiable) ものであるとし た。したがって, この事件は, Phillips v. Eyre ルールの2つの基準 は充たしたが, それはニュー・サウス・ウェルズ州の裁判所がこの事 件を審理できることのみを意味したものであり, 適用されるべき法は, まだ確定されねばならないとされた。そして Windeyer 裁判官は, 適 用されるべき法は法廷地法であると判示し, その結果, この事件には ニュー・サウス・ウェルズ州法が適用され, 同法によれば原告の寄与 過失は完全な抗弁となるため, 訴えは棄却されている。 (28) このようにオーストラリアでは, ②の立場に立つ判決が多数ではあった が, ①の立場, すなわち Phillips v. Eyre 判決のルールを準拠法ルールと 解する見解も, その後の最高裁判決において少数意見の立場ながら強力に 主張され, (29) それに続く最高裁判決では多数意見もこの立場を取ったと解さ れている。 (30) しかし, 後述するように(2.6), その後もなお②の立場を主 張するものも見られ, この点に関してオーストラリアにおける判例の立場 は明確でないとされる。 (31) 論 説
(28) ちなみに, Anderson v. Eric Anderson Radio and TV Pty Ltd. におけ
る Windeyer 裁判官のこの考え方は, イングランドにおいては Red Sea Insurance Co. Ltd., v. Bouygues SA [1995] 1 AC 190, 198 において否定さ れているとされる。M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806.
(29) 後述 (2.4) の Breavington v. Godleman (1988) 169 CLR 41, Brennan,
[7] に示される Brennan 裁判官の見解など。
(30) 後述 (2.5 (1)) の McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd (1992) 174 CLR 1.
以上のように, オーストラリアにおいては, Phillips v. Eyre ルールの 位置づけに関して解釈上の問題を抱えながらも, 不法行為の準拠法が問題 となる事案については, 不法行為地法と法廷地法の両方の規定を見るとい う形で判例が積み重ねられた。 (32) Phillips v. Eyre ルールの位置づけについ ての議論は, 後述する (33) Pfeifer 判決および Zhang 判決において厳格な不法 行為地法主義が採用され, Phillips v. Eyre ルールが廃止されるまで続く こととなる。 2.4 Breavington v. Godleman 判決 (34) Phillips v. Eyre ルールの一時的 な拒否 そ の よ う な 状 況 の 中 , 1988 年 に オ ー ス ト ラ リ ア 最 高 裁 が 下 し た Breavington v. Godleman 判決は, オーストラリア最高裁が, 従来の Phillips v. Eyre 判決ルールを, 短期間ではあるがいったん否定し, 不法 行為地法のみを適用した判決として注目された。 <事実の概要> 事案は, ノーザン・テリトリーで起こった自動車の衝突事故につき, 車 の乗客であった原告(上訴人)が, 自分の負った怪我に対する損害賠償金 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (32) なお, オーストラリアにおいてもイングランド流の「柔軟な例外」が 一部には用いられ, オーストラリア最高裁による2000年の Pfeiffer 判決ま では, オーストラリア内の複数の州やテリトリーが係わる不法行為事件に おいて適用されて, Phillips v. Eyre ルールの厳しさを緩和してきたとの指 摘もある。P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 429, M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 782. これは, Phillips v. Eyre ルールを純然たる準 拠法ルールと解する立場においての「柔軟な例外」の適用であると思われ る。
(33) 3.1 および 3.2 参照。
を求めて, 衝突した車のそれぞれの運転手およびその雇用主などに対し訴 えを提起したものである。原告, 被告(被上訴人)はともに事故当時はノ ーザン・テリトリーの住人であったが, 被告である運転手の一人が, その 後ヴィクトリア州に移り住んだため, 原告はヴィクトリア州最高裁判所 (the Supreme Court of Victoria)
(35)
に訴訟を提起した。争点は逸失利益に関 するものであった。ヴィクトリア州においては, 逸失利益の請求がコモン ・ロー上認められていたが, ノーザン・テリトリーにおいては, 自動車事 故の損害賠償請求については制定法 Motor Accidents (Compensation) Act 1979 が定められており, 同法により, この種の損害賠償金は認められな かった。被告がノーザン・テリトリーの Motor Accidents (Compensation) Act 1979 の適用を主張したのに対し, 第一審は, 法廷地法が適用される として, 被告の主張を認めなかった。被告は控訴し, ヴィクトリア州最高 裁判所全員法廷 (the Full Court of the Supreme Court of Victoria) は, 不 法行為地法であるノーザン・テリトリー法が適用されるとして被告の主張 を認めた。これに対し原告が上訴した。 <判決の内容> 最高裁は, ノーザン・テリトリー法が適用されるという点については意 見が一致したが, 準拠法ルールの法源, および準拠法ルールの内容, の2 点において見解が分かれた。 ① 準拠法ルールの法源 まず準拠法ルールの法源について, Mason 首席裁判官をはじめ, Brennan, Dawson, Toohey の各裁判官が, コモン・ローを法源であると
論
説
(35) 表示としては Supreme Court とされるが, 実際は事実審裁判所(第
解する多数意見を示したのに対し,
(36)
Wilson, Gaudron, Deane の各裁判官 達は, コモンウェルス憲法 s118 の full faith and credit 条項に
(37) 従って判断 されるべきだとの立場に立った。 (38) 多数意見には支持されなかったものの, これら少数意見の疑問提示を契機として, 準拠法ルールの法源を憲法に求 めるべきか否かについての議論は, この判決の後もしばらく続くこととな る。この問題は, 後述するように(3.1.(2)), その後 Pfeiffer 判決に (39) おい て, 最高裁判所が憲法的アプローチを否定し, コモン・ロー上の準拠法ル ールによると示したことによって一応の決着を見る。 ② 不法行為の準拠法 多数意見:不法行為地法主義 第2は, 準拠法ルールの内容についてである。これについては Mason 首席裁判官, および Wilson, Gaudron, Deane の各裁判官が, 多数意見の 立場に立ち, 国内の不法行為の準拠法については, 不法行為地法, すなわ ちこの事案においてはノーザン・テリトリー法が適用されるべきであると する意見を述べた。
(40)
Wilson, Gaudron, Deane の各裁判官が, 準拠用ルー ルの法源をコモンウェルス憲法 s118 の full faith and credit 条項に求める ことにより, 準拠法としては, 法廷地法ではなく, 不法行為地法を適用す オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(36) (1988) 169 CLR 41, Mason, [36][38], Brennan, [13][16], Dawson, [18][22], Toohey, [34][46].
(37) オーストラリアの憲法 s118 は, 以下のように, アメリカ合衆国の full
faith and credit 条項とほぼ同じ文言の規定となっている。‘Full faith and credit shall be given, throughout the Commonwealth, to the laws, the public Acts and records, and the judicial proceedings of every State.’
(38) (1988) 169 CLR 41, Wilson and Gaudron, [36][48], Deane, [25][27]. (39) John Pfeiffer Pty Limited v. Rogerson (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR
625 ; 74 ALJR 1109.
(40) (1988) 169 CLR 41, Mason, [28], Wilson and Gaudron, [49][50],
べきであると結論しているのに対し, Mason 首席裁判官の理由付けはこ れらとは異なる。 Mason 首席裁判官は, 国際的な不法行為事件であれば, アメリカで採 られている柔軟なアプローチや, イングランドおよびスコットランド法律 委員会による不法行為抵触法についてのワーキング・ペーパーで示された 「不法行為地法に例外を付したアプローチの提案」 (41) も考慮に値すること, また, オーストラリア国外で生じた不法行為事件であれば, 両当事者が不 法行為地と実質的な関連を持たない場合もあり得るであろうと述べる。そ して, それらのアプローチを採用した場合には, Phillips v. Eyre ルール は, 提供するところはほとんどなく, むしろ不必要な複雑さを与えている だけであると指摘する。 (42) それに対し, オーストラリア国内の不法行為事件 の場合, 各州やテリトリーの法の内容に大きな差はなく, また加害者・被 害者の両当事者は, 不法行為地法が適用されることを予測するであろうと 述べる。 (43) そしてオーストラリア国内の不法行為の準拠法ルールとしては, 何よりもまず適用されるべき法として, 不法行為地法から離れることに理 由は見いだせないと結論する。 (44) ③ 不法行為の準拠法 少数意見:Phillips v. Eyre ルール
これに対し, Brennan, Dawson, Toohey の各裁判官は反対意見を述べ, Phillips v. Eyre ルールを適用するべきだとの立場に立った。特に Brennan 裁判官は, この Phillips v. Eyre ルールを Boys v. Chaplin 判決で解された
論
説
(41) Law Commission Working Paper No.87 and The Scottish Law
Commission Consultative Memorandum No.62 (1984), 16465. (42) (1988) 169 CLR 41, Mason, [22], [24].
(43) Ibid, Mason, [24][25]. (44) Ibid, Mason, [27].
ように解すること, すなわち準拠法ルールと解するとの立場を示したうえ で, (45) このルールに例外は認めないとした。 (46) また, Dawson 裁判官は, 国内 の不法行為事件については, Phillips v. Eyre ルールにプロパー・ローの 例外は認めないと考え, (47) さらに Toohey 裁判官は, 法廷地法のみが Phillips v. Eyre ルールに対する例外として適用されるべきであるが, 本 事案はその例外の対象とはならないとの意見を述べている。 (48) なお, 多数意見の結論は, 上記のように, 不法行為地法のノーザン・テ リトリー法のみを適用し, 原告に逸失利益は認められないとするものであ ったが, 少数意見の立場に立つ3人の裁判官も, 本事案には法廷地法であ るヴィクトリア州法と不法行為地法であるノーザン・テリトリー法の両方 が適用されると解していることから, これら3人の裁判官も, 多数意見の 結論, すなわち, 原告に逸失利益は認められないとする結論には賛成して いる。
④ Brennan 裁判官による Phillips v. Eyre ルールの再構築
ちなみにこの判決において, 不法行為地法主義の採用に反対し, Phillips v. Eyre 判決のルールに基づくべきだとする少数意見の立場をと った Brennan 裁判官は, このルールを再構築する形で以下のように示し ている。 (49) 「原告が, 法廷地の領域外で生じた行為に関して, 法廷地で訴えを提 起し, その責任を執行してもらうためには, 以下の条件が必要である。 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(45) Ibid, Brennan, [7], M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806 もこの点を指摘。
(46) (1988) 169 CLR 41, Brennan, [12]. (47) Ibid, Dowson, [17].
(48) Ibid, Toohey, [32].
1. 請求が次のような性質を有する状況に基づいてなされていること。 すなわち, もしもそれが法廷地の領域内で生じたものであれば, 訴訟 原因が生じ, 原告が執行を求めているような種類の民事上の責任を, 原告が被告に対して執行する権利を与えるであろう状況であること。 2. 行為が生じた地の法によれば, 行為が生じた状況は, 原告が執行 を求めているような種類の民事上の責任を生じさせるであろうこと。」 Brennan 裁判官は, このルールについて, 元の Phillips v. Eyre ルール よりも, 法廷地法, 不法行為地法をそれぞれ参照するときの争点をより明 確に定義したものであると説明している。 (50) <判例の位置づけ> Breavington v. Godleman 判決は, 上述したように, オーストラリア最 高裁が不法行為の準拠法ルールについて, 長年続いてきた Phillips v. Eyre ルールをいったん拒否し, 不法行為地法主義を採用した判決である。イン グランドにおける Phillips v. Eyre ルールが, その後「柔軟な例外」を採 用し, そのルールの範囲内で「不法行為地法のみの適用」も認めていたの に対し, 本判決はその方法をとらず, 不法行為地を単一の連結点とするル ールを採用した点が注目される。 他方で, この判決において少数意見の立場となり, Phillips v. Eyre ル ールの適用を主張した Brennan 裁判官の見解が, 後述する3年後の最高 裁 McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決において, 多数意見とし て採用されたことも重要なポイントとなる。 (51) Brennan 裁判官が再構築した 論 説 (50) (1988) 169 CLR 41, Brennan, [9].
(51) Breavington v. Godleman 判決の多数意見は, McKain v. RW Miller &
Co (SA) Pty Ltd 判決においては追従されはしなかったが, カナダの最高 裁による Tolofson v. Jensen [1994] 3 SCR 1022 ; (1994) 120 DLR (4 th)
Phillips v. Eyre ルールについては, 学説の立場からは, 特に第2の基準 について, 元の Phillips v. Eyre ルールでは, 不法行為地法上「正当化さ れないもの (not justifiable) でなければならない」とされていたものを, 不法行為地法上「民事責任を生じさせるもの (give rise to a civil liability) でなければならない」と改めたことによって, 不法行為地法の重みを増し たものであると解されている。
(52)
2.5 McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決と Stevens v. Head 判 決 Phillips v. Eyre ルールへの復帰
Breavington v. Godleman 判決の3年後の1991年, オーストラリア最高 裁は, McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決において, Breavington v. Godleman 判決を覆し, 従来の伝統的なコモン・ロー上のルールである Phillips v. Eyre ルールに立ち戻った。この立場はその2年後の1993年の, 最高裁の Stevens v. Head 判決においても踏襲される。
(1) McKain v. RW Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決
(53) <事実の概要> 事案は以下のとおりである。原告は商船の船員で, ニュー・サウス・ウ ェルズ州に居住していたが, 南オーストラリア州の港の間を定期的に往復 する船の乗員名簿に名前を載せていた。1984年, 船が南オーストラリア 州の港に停泊中, 原告は船上で負傷した。そこで原告は, この怪我は被告 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 289 が, 複数の州の関わる国内における不法行為事件の準拠法について 不法行為地法主義を採用した際の理由の一つとなったとされている。R. Mortensen, supra note 5, 422.
(52) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 419.
(53) McKain v. RW Miller & Co (South Australia) Pty Ltd (1992) 174 CLR 1.
である彼の雇用主が注意義務を怠ったためであるとして, 1990年, ニュ ー・サウス・ウェルズ州最高裁判所 (New South Wales Supreme Court)
(54)
に, 自らの人身被害に対する損害賠償金を求めて提訴した。ニュー・サウ ス・ウェルズ州の出訴期間は6年で, 原告の提訴時, かろうじて期限内で あったが, 南オーストラリア州では制定法 Limitation of Action Act 1936 (SA) により, 出訴期間は3年と定められていた。被告の雇用主が, 同 Act の適用を主張したため, ニュー・サウス・ウェルズ州最高裁判所の Sharp 裁判官がこの点についての法的判断を分離し, 最高裁の判断を求め た。
<判決の内容>
Brennan, Dawson, Toohey, McHugh の裁判官からなる多数意見は, Breavington v. Godleman 判決において Mason 首席裁判官が不法行為地法 を準拠法としたことについて, これは, 国際的な不法行為事件のみならず, 国内で生じた不法行為事件においても, 当事者が不法行為地とは実質的な 関連を有していない場合にはある程度の柔軟性を認めていたのではないか との見解を示す。 (55) その上で, 彼らが本判決で示す形の Phillips v. Eyre ル ールが, オーストラリア国外で生じた不法行為事件にとって適切なルール であるかについて, 将来的に見直されることを排除はしないとしながらも, 国内の不法行為事件においては, 確実性こそが第一に望まれることである と述べている。 (56)
そして, Breavington v. Godleman 判決で Dawson および Toohey 両裁判官の示した見解は, Phillips v. Eyre ルールに例外を認める
論
説
(54) これも注(35)と同様に, 表示としては Supreme Court とされるが,
実際は事実審裁判所(第一審裁判所)である。
(55) (1992) 174 CLR 1, Brennan, Dawson, Toohey, and McHugh, [12]. (56) Ibid.
ものであったためこれは取らず, Brennan 裁判官の示した見解を採用する とした。
(57)
その上で, Brennan 裁判官の再構築した Phillips v. Eyre ルール を一層明確にするために, 第三番目のルールを追加している。 (58) この判決によって示された不法行為の準拠法ルールは, したがって以下 のようになる。 「原告が, 法廷地の領域外で生じた行為に関して, 法廷地で訴えを提 起し, その責任を執行してもらうためには, 以下の条件が必要である。 1. 請求が次のような性質を有する状況に基づいてなされていること。 すなわち, もしもそれが法廷地の領域内で生じたものであれば, 訴訟 原因が生じ, 原告が執行を求めているような種類の民事上の責任を, 原告が被告に対して執行する権利を与えるであろう状況であること。 2. 行為が生じた地の法によれば, 行為が生じた状況は, 原告が執行 を求めているような種類の民事上の責任を生じさせるであろうこと。 3. 行為が生じた地の法が生じさせる民事責任は, 持続する責任であ ること。」 また, 上述したように, このルールには, プロパー・ローや他の例外は 認められないものとされた。 (59) もっともこの事件の結論としては, 多数意見は, 南オーストラリア州の Limitation of Action Act 1936 (SA) は, 南オーストラリア州において原告 が事故から3年以上経た後に訴訟を開始するのを認めていないものであり, これは実体法というよりはむしろ手続法であると法性決定し, 同法はニュ ー・サウス・ウェルズ州での訴訟においては適用されないと判示している。 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(57) Ibid, Brennan, Dawson, Toohey, and McHugh, [13]. (58) Ibid, Brennan, Dawson, Toohey, and McHugh, [15]. (59) R. Mortensen, supra note 5, 421.
<判決の位置づけ> 本判決は, Breavington v. Godleman 判決において少数意見であった Brennan 裁判官の見解を採用し, 不法行為の準拠法ルールとして Phillips v. Eyre ルールに立ち戻った判決として, 注目された。本判決において, Phillips v. Eyre ルールに追加された第三の要件は,「不法行為地法上生じ た責任は審理の時まで継続するものでなければならない」というものであ る。これが追加された理由は, 審理がなされるまでに, その責任は, 和解 や弁済や新たな制定法などによって消滅している可能性があるからである とされる。 (60) この要件は, ダブル・アクショナビリティ・ルールの性質から して, 論理的にこの逆のこと, すなわち法廷地法の下で生じた訴訟原因に ついても同じことが求められ, したがってこの第三の要件は「不法行為地 と法廷地との両方の地で責任は継続していなければならない」と解されて いる。 (61)
なお, Nigh は, 不法行為地法主義を採用した Breavington v. Godleman 判決の立場に賛成しており, 本判決に対しては, これを「Phillips v. Eyre ルールのよみがえり」と名付けて, きわめて批判的に評している。
(62)
(2) Stevens v. Head 判決
(63)
1993年, 最高裁は Stevens v. Head 判決においても, 上記 McKain v. RW
論
説
(60) (1992) 174 CLR 1, Brennan, Dawson, Toohey, and McHugh, [15], P.
Nygh, M. Davies, supra note 5, 420. (61) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 420.
(62) P. Nigh, ‘The Miraculous Raising of Lazarus : McKain v. RW Miller Co (South Australia) Pty Ltd.’, (1922) 22 University of Western Australia Law
Review 386, 393395. Nigh は, コモン・ロー制度を取る国の最高裁判所
が, わずか3年で先例を覆すことに対して, もっと慎重な態度をとるべき であると批判している at 393.
Miller & Co (SA) Pty Ltd 判決における多数意見の立場を確認する。 <事実の概要> 事案は以下のとおりである。原告(上訴人)はニュージーランドに住む ニュージーランド人で, 彼女はクイーンズランド州ブリスベーンで開催さ れた博覧会を見物するために, 夫とともにオーストラリアを訪れていた。 クイーンズランド州の不動産業者が同州内に宿泊所を確保できなかったた め, 原告と夫は, オーストラリア滞在中は, クイーンズランド州の境界を 南へ少し越えた所にあるニュー・サウス・ウェルズ州北部のトゥウィード ・ヘッド市内にアコモデーションを借りていた。同市に滞在中, 原告は, 同市内でクイーンズランド州の住人が運転する車にはねられ負傷した。車 はクイーンズランド州で登録され, 同州において保険をかけられていた。 原告は, 車の運転手(被告・被上訴人)に対し不法行為に基づく損害賠償 金を求めて, クイーンズランド州地方裁判所 (the District Court of Queensland)
(64)
において訴えを提起した。ニュー・サウス・ウェルズ州には 制定法 Motor Accidents Act 1988 (NSW) が定められており, 同法 Part 6 が適用されれば, 原告の負傷に対する損害賠償金に上限が課された。他方, クイーンズランド州法が適用されれば, コモン・ローにより損害賠償金が 算定され, 上限が課されることはなかった。
クイーンズランド州地方裁判所は, 不法行為地法であるニュー・サウス ・ウェルズ州法が準拠法となるとしたが, Motor Accidents Act 1988 (NSW) Part 6 は手続法であって, クイーンズランド州裁判所においては 適用されないと判示し, 損害賠償金を法廷地法であるクイーンズランド州 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (63) Stevens v. Head (1993) 176 CLR 433. (64) 本件においては, 訴額が低いために, 第一審裁判所が, 最高裁判所 (Supreme Court) ではなく, 地方裁判所になったと思われる。
のコモン・ローにより算定した。被告は控訴し, 控訴審であるクイーンズ ランド州最高裁判所の全員法廷 (Full Court of the Supreme Court of Queensland) は, 被告の控訴を認め, 第一審裁判所は Motor Accidents Act 1988 (NSW) を適用すべきであったとして, 同法に基づき損害賠償金を減 額した。そこで原告は最高裁に上告した。
<判決の内容>
最高裁において, McKain 判決の多数意見と同じメンバーからなる, Brennan, Dowson, Toohey, McHugh 各裁判官が, 本件においても多数意 見を述べ, 不法行為の準拠法ルールについて, McKain 判決の立場を踏襲 し, 不法行為地法と法廷地法の両方を適用するとした。
(65)
もっとも本判決の 結論としては, ニュー・サウス・ウェルズ州の Motor Accidents Act 1988 (NSW) Part 6 を一種の手続法と解し, クイーンズランド州での裁判にお ける損害賠償額の算定には適用されないとして, 原告の上告を認めている。
<判決の位置づけ>
McKain判決の2年後に下されたこの Stevens v. Head 判決は, Phillips v. Eyre ルールを適用すると判示して, McKain 判決を踏襲した。これによ り, 不法行為の準拠法は, Breavington v. Godleman 判決において採られ た不法行為地法主義ではなく, Phillips v. Eyre ルールによるとする最高 裁の姿勢を, いっそう明確に示すこととなった。 2.6 小活 以上のように, 若干の修正および揺らぎはあったものの, 2000年まで 論 説
のオーストラリアにおける不法行為に関する準拠法ルールは, Phillips v. Eyre ルールを基本としたものであったと理解されている。
(66)
なお Phillips v. Eyre ルールの位置づけについてであるが, Breavington v. Godleman 判決において Brennan 裁判官は, 上述したようにこのルー ルを準拠法ルールと解した前提で意見を述べており, (67) McKain 判決の多数 意見は, この点も含めて, Brennan 裁判官の見解に賛成しているとの理解 もあった。 (68) しかし McKain 判決の後も, 判例の立場は必ずしも一致せず, 準拠法ルールと解するもの, 司法判断適合性のルールと解した上で, 準拠 法として不法行為地法を適用するもの, 法廷地法を適用するものとに分か れた。 (69) また, 最高裁においても, Brennan 裁判官の立場に McKain 判決 において賛成し, ともに多数意見を述べた Dowson 裁判官が, その後1995 年の Gardner v. Wallace 最高裁判決において, Phillips v. Eyre ルールを, 管轄を成立させるための玄関口のルールでしかないとする意見を述べてい ることもあり, (70) オーストラリア裁判所の見解はなおも明確でないままであ ったと解されている。 (71) 2000年以降, オーストラリアにおける不法行為の準拠法ルールは大き オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 3.2000年以降 Phillips v. Eyre ルールの否定と厳格な不法行為 地法主義の採用
(66) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 417420, R. Mortensen, supra note 5, 415, M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806807.
(67) Breavington v. Godleman (1988) 169 CLR 41, Brennan, [7], M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806.
(68) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806. (69) R. Mortensen, supra note 5, 422.
(70) Gardner v. Wallace (1995) 184 CLR 95, [7]. (71) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 806.
く変更される。オーストラリア最高裁は, 国内における不法行為事件につ いては2000年の Pfeiffer 判決において, オーストラリア国外の不法行為事 件については2002年の Zhang 判決において, 従来の Phillips v. Eyre ルー ルを相次いで否定し, そのいずれの場合においても, 例外を認めない厳格 な不法行為地法主義を採用するにいたる。
3.1 オーストラリア国内における不法行為の準拠法ルール (1) John Pfeiffer Pty Limited v. Rogerson 判決
(72) <事実の概要> 事案は, 首都特別地域 (ACT) の住人である大 (73) 工職人の原告(被上訴人) が, 首都特別地域に本店を有する会社に雇用され, 首都特別地域の境界を 少し越えてニュー・サウス・ウェルズ州に入ったところにあるクエンベヤ ン市で作業中に負傷したというものである。原告は, 首都特別地域におい て雇用主の会社(上訴人)に対して不法行為に基づく訴えを提起した。首 都特別地域の法が適用されれば, コモン・ローによることとなり, 原告の 負った怪我に対する補償に制限が課されることはなかったが, ニュー・サ ウス・ウェルズ州は, 制定法 Workers Compensation Act 1987 (NSW) を 有しており, 同法 s.151 により, その種の損害賠償金には上限が設けられ ていた。
論
説
(72) John Pfeiffer Pty Limited v. Rogerson (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109.
(73) Supreme Court of the ACT の Master の判決であるDavid Rogerson v.
John Pfeiffer Pty Ltd. [1997] ATSC 26 には, 原告はニュー・サウス・ウ ェルズ州の住人であると記されているが, 首都特別地域最高裁判所全員法 廷 (Full Court of the Supreme Court of the ACT) の判決である John Pfeiffer Pty Ltd v. David Rogerson [1997] ACTSC 99 には, 原告はずっと首都特 別地域の住人であったと記載されている。
第一審の, 首都特別地域最高裁判所 (Supreme Court of the ACT) (74) のマ スター (Master) (75) は, 上記 Stevens v. Head 判決の先例により, 準拠法に ついては法廷地法と不法行為地法とを適用するとの立場に立った。しかし, ニュー・サウス・ウェルズ州の Workers Compensation Act 1987 (NSW) の s.151 については手続法的性格を有すると解し, そのため同規定は首都 特別地域における裁判には適用されず, 損害賠償金額の算定に当たっては, 首都特別地域の法, すなわちコモン・ローが適用されると結論した。この 判断は, 首都特別地域最高裁判所全員法廷 (Full Court of the Supreme Court of the ACT) においても, さらに, 連邦裁判所全員法廷 (Full Court of the Federal Court) においても確認された。
(76)
これに対し雇用主は, ニュ ー・サウス・ウェルズ州の Workers Compensation Act 1987 (NSW) の適 用を求めて最高裁に上告した。
<判決の内容>
① 準拠法ルールにおける憲法的アプローチ
最高裁の, Gleeson 首席裁判官, Gaudron, McHugh, Gummow, Hayne 各裁判官からなる多数意見は, まず, 準拠法ルールにおける憲法的アプロ ーチについて言及し, 憲法 s.118 の full faith and credit 条項が準拠法ルー ルを述べているわけではないとして, これを否定する。 (77) ただし, ある州 オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (74) これも, 注(35)と同様に, 表示としては Supreme Court とされるが, 実際は事実審裁判所(第一審裁判所)である。 (75) 裁判官ではないが, 一定の場合に裁判官に代わって裁判官の職を行な う。
(76) John Pfeiffer Pty Ltd v. David Rogerson [1998] FCA 815. 首都特別区
(ACT) は, 州ではなくテリトリーであるため, 首都特別地域最高裁判所 の判決に対する上訴は, 連邦裁判所での審理となり, その後さらに上告さ れれば最高裁での審理という手順になる。
(およびテリトリー)の裁判所が他の州(およびテリトリー)の法を公序 違反を理由に否定することは, s.118 により認められないであろうと述べ る。 (78) ② 不法行為に関するコモン・ロー上の準拠法ルール そのうえで多数意見は, 不法行為に関するコモン・ロー上の準拠法ルー ルについて, 採るべきルールの検討に入り, オーストラリアおよび他の諸 国において判例・学説によって示されているもののうち, 可能な選択肢と しては, 法廷地法, 不法行為地法, 不法行為のプロパー・ロー, のそれぞ れに柔軟な例外を付加するかしないかのルールがあげられると述べたうえ で, それぞれをチェックしている。 プロパー・ロー まず, プロパー・ローについて判旨は, これは実務上の困難を生じさせ ると述べ, Karn-Freund はすでに30年以上も前にこのことを指摘している (79) としてその論文を以下のように引用する。 (80) 「関連する要素が『重要なもの』であるか『偶発的なもの』である かについては究極的な区別はない。これは印象や感情の問題であって, 人はほとんど審美的なことで理性的な議論に賛成したり反対したりし ているのである。」 そして判旨は, 柔軟なルールは, 裁判所, 当事者, 保険者といった, 将 来適用されるルールの予想に基づいて自らの仕事を調整する必要のある者 論 説 (77) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [62], [63]. (78) Ibid, [63].
(79) Kahn-Freund, ‘Delictual Liability and the Conflict of Laws’ (1968) II Recueil des Cours 5, 36.
たちに十分な指針を与えないこと, アメリカ合衆国では不法行為のプロパ ー・ローの理論を適用してきたために非常な不確実さを導き, 当事者や保 険者や社会の費用負担を拡大させたこと, を指摘する。 (81) 以上のことから判旨は,「国際的な不法行為の事案に, 柔軟なルールや 柔軟な例外を用いることの利点が何であれ, これらのアプローチは実務的 な不利益が非常に大きいため, 州際的な要素を含むオーストラリアの(国 内の:筆者注)不法行為には, これらのいずれのアプローチも採用するべ きではない。 (82) 」と述べて, プロパー・ローの理論は取りえないとひとまず 結論付ける。 不法行為地法と法廷地法 次に判旨は, 準拠法としての不法行為地法と法廷地法を比較する。まず 不法行為地法を準拠法とする場合について, 不法行為地の決定が困難な場 合があること, 不法行為がどの地で生じるかが偶然性に左右されること, という問題点は認めるものの, これらの問題点については, どのようなル ールを採用しても, 難しい事例は生じうるものであるとして片付ける。 (83) その上で判旨は, 国内の事案の準拠法としての法廷地法と不法行為地法 の比較に入り, 不法行為地法が準拠法とされれば, 不法行為地の決定の難 しさはあるものの, 責任が固定化されて確実性があるのに対し, 法廷地法 が適用されれば, 原告の法廷地の選択により不法行為責任の存在やその程 度が異なりうるため, 被告たる加害者(および保険会社)は, 課せられる 責任の大きさについて予測可能性が損なわれ, 原告たる被害者については フォーラム・ショッピングを誘発しうることを指摘する。 (84) オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (81) Ibid, [79]. (82) Ibid, [80]. (83) Ibid, [81], [82]. (84) Ibid, [83][85].
さらに判旨は, 州やテリトリーの立法府は自らの領域内での事象に関心 を有しており, その領域性を認識し実行するには法廷地法主義よりも不法 行為地法主義の方が適しているとする。 (85) そして, カナダの例をあげ, 同様 に連邦制を有するカナダにおいても, 最高裁の Tolofson v. Jensen 判決に (86) おいて, 連邦内の不法行為の準拠法については不法行為地法が採用された ことを指摘したうえで, このルールは不法行為が生じた地の法により規律 されるという当事者の合理的な期待を実現させるものであると述べる。 (87) ダブル・アクショナビリティ・ルール 次いで判旨は, Phillips v. Eyre ルールの示す, ダブル・アクショナビ リティ・ルールについて言及する。判旨は, Loucks v. Standard Oil Co of New York 判決における Cardozo 裁判官の見解, すなわち, ダブル・アク ショナビリティ・ルールの適用により法廷地法を参照することは, 法廷地 以外の法に基づく権利を法廷地において執行することが, 正義の基本的な 原理を侵害したり, 広く認められているモラルの概念や伝統的な福祉を害 することにならないかどうかをチェックする機能, つまり公序としての機 論 説 (85) Ibid, [86]. (86) Tolofson v. Jensen [1994] 3 SCR 1022 ; (1994) 120 DLR (4 th) 289. 自 動車事故の損害賠償請求事件が2件統合されて判断されたものである。表 記の Tolofson ケースは,ブリティッシュ・コロンビア州の住人である原 告が, 父親の運転する車に同乗中, サスカチュワン州において, 同州の住 人の運転する車と衝突し, 負傷した事案である。原告は, 事故から8年余 経過後に, 損害賠償金を求めて, 父親と, 衝突した車の運転手の両者を相 手取って, ブリティッシュ・コロンビア州において提訴した。サスカチュ ワン州法によれば, 提訴時には出訴期限が過ぎており, また, 同州では一 種の好意同乗者法が適用されることから, 原告は法廷地法たるブリティッ シュ・コロンビア州法の適用を主張した。これに対し最高裁は, 不法行為 の準拠法は不法行為地法を原則とするとして, サスカチュワン州法を適用 した。 (87) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [87].
能をもつと捉える見解を (88) 引用し, これを検討する。そのうえで判旨は, 連 邦制度のもとにおいては, 他の州やテリトリーにおける法が, 法廷地法の 公序に反するようなものになることはないとして, 国内の不法行為の事案 においては,この Cardozo 裁判官の見解は採らないとの立場を示す。 (89) また, ダブル・アクショナビリティ・ルールの示す,「他の法域におい てなされた行為が, 法廷地法上訴えうることができる行為である場合にそ れを不法とする」考え方をとれば, 参照されるその法廷地法上のルールに, それを制定した州の法として与えられている機能よりも多くの機能を与え ることになると指摘する。 (90) これらの理由により多数意見は, ダブル・アクショナビリティ・ルール は取るべきではないと述べる。 ③ 手続法と実体法 次に多数意見は, 手続法と実体法の区別について判示し, 当事者の権利 や義務の存否, 範囲, 執行可能性に影響を与える事柄は, 手続的な問題で はなく, 実体的な問題であると述べる。したがって, 出訴期限は実体法 上の問題であるとし, また, 損害の種類や補償されるべき損害賠償金の 額に関するすべての問題も実体法上の問題であると述べ, これらはすべて 不法行為地法により規律されるとする。 (91) ④ 結論 以上のことに基づき, 最高裁は, オーストラリア国内の不法行為事件の オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(88) Loucks v. Standard Oil Co of New York (1918) 120NE 198, 202. (89) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [91]. (90) Ibid, [92].
準拠法ルールについて, 厳格な不法行為地法主義を採用した。その上で, ニュー・サウス・ウェルズ州の Workers Compensation Act 1987 (NSW) の規定は, 実体法上の規定であると判断し, 原告の負傷に対する損害賠償 金は同法により算定されるべきであったとして雇用主の上告を認めた。 (2) Pfeiffer 判決の位置づけ ① 厳格な不法行為地法主義の採用 Pfeiffer 判決は, いくつかの注目すべき点をもつ。まず第一は, コモン ・ロー上の不法行為の準拠法ルールについて, 不法行為地法のみを適用し, 例外は認めないとする厳格な不法行為地法主義を採用したことである。こ れは, 長年とられてきた従来の不法行為の準拠法ルール, つまりイングラ ンドのコモン・ロー・ルール上の先例に基づいた Phillips v. Eyre ルール から離れ, 大きな変更を示したもので, 重要な意味を持つ。判決が不法行 為地法主義を採用する理由は,要約すれば, ①確実性と適用結果の予測可 能性を提供すること, ②州およびテリトリーの立法府が自らの領域内で生 じた事象に関心を有している, という領域性への考慮, ③加害行為がなさ れたり被害の危険にさらされた地において施行されている法により規律さ れるという, 当事者の保護されるべき期待に沿うルールであること, ④フ ォーラム・ショッピングを抑制すること, であるとされる。 (92) ② 手続法的問題と実体法的問題の区別 第二は, 不法行為事件において問題となるいくつかの点について, 手続 論 説 (92) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [83][87], M.
Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 813, R. Mortensen, ‘“Troublesome and Obscure” : The Renewal of Renvoi in Australia’ (2006) 2 Journal of Private International Law, 1, 16.
法的問題か実体法的問題かの法性決定をしたことである。最高裁は, 出 訴期限, および損害の種類や補償されるべき損害賠償金の額に関するす べての問題については, 実体法上の問題であると法性決定した。 (93) したがっ て, これらの問題はすべて厳格な不法行為地法主義の対象となり, 不法行 為地法が適用され, 例外は認められないこととなる。この点は, 後の Neilson 判決に影響を与えることとなる。 ③ 憲法的アプローチの否定 第三は, Breavington v. Godleman 判決以来議論されてきた, 準拠法の 憲法的アプローチ, すなわち, 少なくともオーストラリア国内における準 拠法ルールについては, オーストラリア憲法の full faith and credit 条項に より規律されるのではないかという立場への言及である。Pfeiffer 判決に おいて最高裁は, この憲法的アプローチを明確に否定し, full faith and credit 条項そのものが準拠法規定を備えているのではなく, 準拠法ルール は, コモン・ロー・ルールによるとの立場を示して, 従来の議論にひとま ず決着をつけた。
もっとも本判決は, 上述したように, オーストラリア国内の他の州やテ リトリーの法を公序により排除することは, full faith and credit 条項によ り認められないとの認識を示している。また本判決が, 不法行為が生じた 地の州やテリトリーの立法者が有する, 自らの領域内における事象に対し ての関心を認識し実行するには, 不法行為地法主義の方が適していると述 べた点に (94) ついて, 学説からは, これは憲法上の配慮をしたものであるとの オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法
(93) 後述の O’Driscoll v. J Ray Mcdermott, SA 判決において, これは,
McKein 判決において少数意見を述べた Mason 首席裁判官と, Deane 裁 判官の見解を採用したものであると指摘されている [2006] WASCA 25,
指摘がある。 (95) さらには, 本判決における不法行為地法主義の採用自体が, 憲法上の連邦制の概念に基づいたものであるとの指摘もなされている。 (96) 本 判決において多数意見は, コモン・ロー・ルールもまた, 憲法のルールを 基として発展しなければならないとする1997年の Lange 最高裁判決を (97) 引 用したうえで, McKain 判決, および Stevens 判決は, この Lange 判決 以前に下されたものであり, この点についての議論はなされていないと述 べていることからしても, (98) 最高裁が, 自らが以前に下した McKain 判決, および Stevens 判決の立場を放棄した理由の一つに, 憲法的視点がある と言いうるのではないかと解される。 ④ Phillips v. Eyre ルールの位置づけについての議論の終結 第四に, Phillips v. Eyre ルールが本判決において否定されたことによ り, Phillips v. Eyre ルールの位置づけについての議論も, 国内の不法行 為の事案については終止符が打たれたことである。もっとも Pfeiffer 判決 の多数意見は, Phillips v. Eyre ルールの解釈について, これが管轄のル ールであるとか, 司法判断適合性のルールであると解されることは, 全く の間違いであるばかりでなく, 重要な考慮, すなわちどの準拠法が適用さ れるかという問題から注意をそらすこととなってよくないと指摘してお り, (99) Phillips v. Eyre ルールは準拠法ルールであると認識していたと思わ れる。 論 説 (94) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [86]. (95) R. Mortensen, supra note 5, 270.
(96) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 520,
(97) Lange v. Australian Broadcasting Corporation (1997) 189 CLR 520. (98) (2000) 203 CLR 503 ; 172 ALR 625 ; 74 ALJR 1109, [71].
⑤ Pfeiffer 判決の射程 以上のように, Pfeiffer 判決は, 多くの重要な意義を有する判決である が, この事案はオーストラリア国内における複数の州, テリトリーがかか わる事案であり, 判旨も, 国際的な事案は本判決の射程からはずれること を明言しているため, (100) 本判決は, オーストラリア国外で生じた不法行為の 事案については, 射程外となった。 (101) 3.2 国際的な不法行為の準拠法ルール
(1) Regie Nationale des Usines Renault SA v. Zhang 判決
(102)
Pfeiffer判決の2年後の2002年, 最高裁は, Regie Nationale des Usines Renault SA v. Zhang 判決において, オーストラリアにおける国際的な不 法行為の準拠法ルールに関しても厳格な不法行為地法主義をとるとの判断 を示した。この事案は, オーストラリア国外で生じた不法行為の事件につ いて, オーストラリアの裁判所が国際裁判管轄を有するか否かの判断が求 められ, その判断の中で, 不法行為の準拠法が問題となったものである。 オーストラリアにおいて, 管轄は一般的には「管轄内に所在する被告に対 し送達がなされたとき」および「被告が自発的に出廷するとき」に認めら れる。この場合は, 訴えの内容は考慮の対象とならない。 (103) 不法行為につい ても同様である。 (104) 他方で, 被告が管轄内に所在しないときは, オーストラ リア国外にいる被告に対しては, 裁判所規則により一定の要件を満たした オ ー ス ト ラ リ ア に お け る 不 法 行 為 の 準 拠 法 (100) Ibid, [2].
(101) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 781, P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 416.
(102) Regie Nationale des Usines Renault SA v. Zhang (2002) 210 CLR 491 ; 187 ALR 1 ; 76 ALJR 551,
(103) P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 4547.
場合に訴状が送達されることとなる。 (105) この裁判所規則は, 各州およびテリ トリーの裁判所, 連邦裁判所, 最高裁判所がそれぞれ有するが, これらの 規則はともに, 国外への送達のためには, 訴えの内容と法廷地との特別な 関係を求めており, この点が重要となる。 (106) 不法行為事件の場合, 国外にい る被告への送達について, 各裁判所規則は「不法行為が管轄内で生じた場 合」あるいは「不法行為による被害が管轄内で生じている場合」などを要 件としており, (107) これは Zhang 判決で問題となったニュー・サウス・ウェ ルズ州裁判所規則も同様である。 Zhang 事件においては, 被告(上訴人)の外国会社はオーストラリアに 支店等を有していなかったため, 原告(被上訴人)は,「不法行為による 被害が管轄内で生じていること」を理由に, オーストラリア国外にいる被 告への送達を申し立て, この申し立ては認められた。しかしこれに対して 被告が, ニュー・サウス・ウェルズ州裁判所は適切な法廷地ではないとし て管轄を争ったため, 裁判所は, 管轄権行使を否定し訴えを stay するか 否かの判断を求められた。その判断に際して, ①準拠法がどの地の法にな 論 説 (105) オーストラリア国内の他の州やテリトリーにいる被告に対して送達す る場合についても, 従来は各裁判所規則によりその要件が定められていた が, 1993年4月1日以降は, この場合については制定法 Service and Execution of Process Act 1992 (Cth) により規律されている。同法は, か つて各裁判所規則では要件とされていた, ①訴状送達以前あるいは以後に おける裁判所の許可や, ②事案や当事者と各州との一定の関連性, を求め ていないことが大きな変更点とされる。P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 48, M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 68. そのため, 例えば トランジットのためにクイーンズランド州(ブリスベーンなど)に降り立 った日本人旅行者に対し, 同地で, ニュー・サウス・ウェルズ州裁判所か らの送達が有効になされることになる, との例が挙げられている。P. Nygh, M. Davies, supra note 5, 48.
(106) M. Tilbury, G. Davis, B. Opeskin, supra note 5, 796. (107) Ibid, 796797.