• 検索結果がありません。

理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理科授業における推論過程の分析と その背景となる教師の価値観の考察. 益田裕充. 群馬大学教育実践研究 第 26 号. 群馬大学教育学部. 47∼55 頁. 別刷 2009. 附属教育臨床総合センター.

(2)

(3) 47. 群馬大学教育実践研究 第 26 号 47 ~ 55 頁 2009. 理科授業における推論過程の分析とその背景となる 教師の価値観の考察 益 田 裕 充 群馬大学教育学部理科教育講座. Analysis of the reasoning process in a science education and Consideration of a teacher's sense of values based on that Hiromitsu MASUDA キーワード:推論,帰納的推論,演繹的推論,教授論,知的技能 (2008 年 10 月 31 日受理). るということを是としながら、「科学を教えること」. 1 近年の理科教育学研究の動向 近年の我が国における理科教育学研究は、 1990 年代 1). について研究発表がなされ、子どもの変容が事例的に. 以降構成主義学習論によって急速に深化した 。特に、. 示された7)。しかし、教えるという教授行為そのもの. 能動的な学習者としての子どもの存在と授業を受けて. についての提案はなされず、日常教師が行っている教. 2). も転換しない素朴概念の実態が明らかにされてきた 。 授行為の分析や新しいストラテジーの提案につながる こうした研究を背景にして、例えば、平成 10 年度改. ものではなかった。. 訂小学校学習指導要領解説理科編では、理科授業で既. つまり、今日の理科教育学研究において、多くの研. 有の考えをつかませることの必要性が指摘されるよう. 究者は、 教えるということに共通の関心を持っている。. 3). 。こうして、子どもの既有の考えを対話を. しかし、その具体的な教授方略を示せていない。この. 通してとらえ、いかに学びあいを深化させるのかと. 点が、我が国の抱える理科教育学研究の今日的な課題. になった. 4). いった学習論研究に視点が注がれてきたのである. 。. 平成 20 年3月に学習指導要領が改訂され、理科で は、平成 21 年度から先行実施が可能となる. 5). 。平成. 23 年度の本格実施までに、現在の教育の課題に正対. の一つであると考える。 そこで、本研究では、「教える」という教授論の立 場に着目し、これを理科授業における推論過程の視点 から検討する。. し、新たな方略を示していかなければならない時代が 到来している。平成 20 年度日本理科教育学会全国大. 2 先行の諸研究. 会(福井大学、2008)では、「教えて考えさせる」を. A.F.Chalmers は、推論の中で帰納と演繹をとりあ. テーマにしてシンポジウムが開催された。シンポジス. げ、帰納の原理として「観察や実験によって確立され. トからは実践的な報告がなされ、研究者が「教える」. た事実の数が増えるにつれて(中略)一般性と広がり. ということの是非を問い、議論は平成 21 年度に持ち. をもった法則や理論が注意深い帰納的推論によってつ. 6). 。しかし、このシンポジウムでは、「教え. くられる」8)とし、一方で演繹を帰納とは対照的なも. る」という課題に対して、教授論の視点から具体的な. のと位置づけ「ひとたび、自由に使える普遍的法則や. 提案はなく、教えるということが是か非かといった点. 理論を手に入れたならば、説明や予言として役に立つ. から議論が展開された。. 様々な帰結をそこから導き出すことが可能となる」こ. こされた. 一方で「知識伝達-事例化モデル」によって、教え. の種の推論を演繹的推論と指摘している9)。そこで、.

(4) 48. 益田裕充. 本研究では、推論において帰納的推論と演繹的推論を. 査する。. とりあげる。本研究において帰納的推論による授業と. 4.2 理科学習指導案の調査. は「個々の観察・実験の事実から一般法則を発見して. 平成 17 年度から平成 19 年度に行われた公立小・中. いくという手法」を用いた授業、演繹的推論による授. 学校 131 授業の理科学習指導案を収集し、これを帰納. 業とは、「一般法則を示しこれを個々の観察実験の事. 的推論による授業構成となっているか演繹的推論によ. 実にあてはめて考えようとする手法」を用いた授業と. る授業構成となっているか分析する。. 定義する。特に、前者の授業を帰納法、後者の授業を. 4.3 演繹的推論による理科授業が子どもの科学的な 概念形成に及ぼす影響についての調査. 演繹法と呼び研究を進める。 帰納法を用いた理科授業研究に関して、益田は、中. 小学校3年生で実際に行われている野外の昆虫観察. 学生を対象に、水流モデルから電流回路を類推させる. の理科授業に同行し、観察中に子どもが語ったプロト. 理科授業を展開した。その結果、水流モデルから電流. コル等から、子どもが科学的な概念を形成する上で演. と抵抗の関係を類推させる(関係レベルの類推を行わ. 繹的推論による授業方略上の課題について考察する。. せる)方略によって、科学的な概念形成の有効性を明. 4.4 教員養成系大学生の推論に対する考えの実態調. らかにした. 10). 査. 。. 一方で、演繹法を用いた理科授業研究に関して、清. 教員養成系大学に通う大学生を対象に、小学校3年. 水・山浦は、花のつくりの学習を事例に、子どもは演. 生の学習内容を想定して自然観察実習を行った。対象. 繹的な学習方法で学習すると花のつくりについての概. とする学習内容の理科授業が単元全体の構成の中でど. 念を長期にわたり獲得できることを指摘している. 11). 。. こに位置づけられるのか、推論に対する学生の価値観. それぞれの教授方略における科学的概念形成の有効性. を、指導計画作成という方法から明らかにする。. が明らかにされている。しかし、これらは事例的な研. 4.5 教師の推論に対する価値観の考察. 究の成果である。 今後は、このような事例を多く示すことで、学習内. 調査結果を踏まえて、教師の理科授業の推論に対す る価値観を考察する。. 容に応じた有効性とその課題を明らかにしていく必要 がある。さらには、我が国の一般的な理科授業におけ. 5 理科授業の「推論」に対するとらえ方の実態. る推論の価値づけの実態を明らかにし推論過程を再検. 5.1 現行中学校学習指導要領解説理科編と現行理科. 討することが重要である。. 教科書の実態 現行中学校学習指導要領解説理科編では、中学校第. 3 研究の目的. 2単元で「野外観察を行い、観察記録を基に、地層の. 1 現行学習指導要領・現行理科教科書・理科学習. でき方を考察し、重なり方の規則性を見いだす」と、. 指導案をもとに一般的に展開されている理科授業. 記述されている。さらに、「ここでは、まず、地層と. の推論に対するとらえ方を分析する。. それを構成する堆積岩などの野外観察を計画して行. 2 演繹的推論による理科授業が、子どもに与える 影響を考察する。 3 推論に対する教師等の価値観を考察する。. う」と、記述されている 12)。 次に、中学校第4単元気象領域では「校庭などで気 象観測を行い、観測方法や記録の仕方などを身につけ るとともに、その観察記録などに基づいて、気温、湿. 4 研究の方法 本研究を次の具体的な方法で推進した。 4.1 現行学習指導要領および現行理科教科書の調査. 度、気圧、風向などの変化と天気との関係を見いだす こと」と、記述されている 13)。両者はいずれも帰納的 推論に基づく単元構成を求めている。これに対して、. 現行小・中学校学習指導要領解説理科編および現行. 現行中学校学習指導要領解説理科編の大項目には、演. 理科教科書を対象に、観察・実験が帰納的な推論をた. 繹的推論による単元構成を前提とした記述がない。こ. どることを前提として記述されているのか、演繹的な. のことから、中学校学習指導要領解説理科編における. 推論をたどることを前提として記述されているのか調. 記述は、帰納的推論による理科授業づくりを前提とし.

(5) 49. 理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察. からできていて、胸にはあしが6本あるこ. て記述されていると考えられる。. とを指摘できる。. では、これらの記述を受け、現行理科教科書はどの ように学習内容が構成されているのか。現行中学校理. (2)本時の展開. 科教科書を調査すると、第2単元「大地の変化」では、. 学習活動. 地層の観察をまず単元のいちばんはじめに位置づける. 指導上の留意点. 理科教科書が教科書会社5社中4社あった。中学校学 習指導要領解説理科編の「野外観察を行い、観察記録. 予想される子どもの反応. ・昆虫の仲間は つ. どのような特 ○蝶の成虫の体のつくりにつ. を基に」という記述にほとんどの理科教科書が従って. 徴をもってい. いることが分かる。. るのだろうか ・蝶の体のつくりと同じかど. 第4単元「天気とその変化」では、単元のはじめに、. か ・昆虫かどうか. いて考えさせる。 うか調べてみたらどうか. 気象観測を位置づけている理科教科書が、教科書会社. を判断するた ・からだの別れ方を調べよう. 5社中4社あった。多くの子どもが気象観測をまず体. めにはどこを ・あしの数を調べよう. 験することから学習をはじめていると考えられる。. む. これらは、まさに発見から一般法則を導き出すと 言った帰納法による単元構成の流れそのものである。. のか話し合う 調 ・昆虫を観察す ・アリは体が3つ、あしが6. つまり、現行理科教科書の構成においても帰納的推論 を前提とした単元構成が大半を占めているのである。. 調べればよい ○観察の観点を明確にする。. る。 べ. ・バッタも体が3つ、あしが. そこで、1時間の授業構成という観点から理科教科 書中に掲載されている観察・実験を分析した。現行中. 本あるよ。 6本あるよ。. る. 学校理科教科書A社の中学校第1分野上に掲載されて. ・昆虫の体に共 ・昆虫はからだが3つの部位. いる 26 の観察・実験を調査した。その結果、演繹的. ま. 通する点に気. からできていて、あしは胸. 推論過程の中に観察・実験を位置づけているものが2. と. づいたことを. から6本出ているんだ。. 実験であり、帰納的推論過程の中に観察・実験を位置. め. 発表しあう。 ○体の分かれ方がはっきりし. づけているものが 24 実験であった。教師が、教科書. る. なかったり昆虫でなかった. の指導過程の通りに観察・実験を行っていれば、子ど. りする生物を取り上げ昆虫. もは帰納的推論に基づく理科授業を多く受けているこ. と比較できるようにする。. とになる。. これは、小学校3年生に、昆虫の体が頭・胸・腹の 3つの部位からでき、胸からあしが3対6本出ている. 5.2 理科学習指導案の指導過程の実態. ことを観察によって気づかせようとする理科学習指導. 本研究では、実際に行われている理科授業の実態を. 案の事例である。この事例のように、観察・実験を新. 明らかにする必要が生じた。そこで、平成 17 年度か. たな概念に気づかせようと、帰納的に位置づけている. ら平成 19 年度に行われた公立小・中学校の 131 の理. 理科学習指導案が131 指導案中130 指導案あったので. 科学習指導案を集めた。この指導過程の中で観察・実. ある。このことから教師は、帰納的推論に基づく授業. 験が帰納的推論の指導過程の中に位置づけられている. を公開することに価値があると考えていることが分か. か、演繹的推論の指導過程の中に位置づけられている. る。. か分析した。. 現行学習指導要領・現行理科教科書・教師によって. 本研究では、例えば、帰納的推論に基づく理科授業. 作成された理科学習指導案は、その多くが帰納的推論. の指導案とは「本時の展開」において、観察・実験を. による単元構成や授業を前提とした構成となっている. 新たな概念に気づかせるために実施する指導過程を組. ことが分かった。つまり、子どもが受ける理科授業は、. む指導案であると考えた。. その多くが帰納法によるものであると考えられる。. (1)目標:昆虫のからだは、頭、胸、腹の3つの部位. 6 演繹的に取組む昆虫観察が子どもに与える影響.

(6) 50. 益田裕充. 6.1 昆虫観察を演繹的に位置づけたときの子どもの. と問い、それに対して正しく回答できた子どもに対し て、「なぜですか」と理由を尋ねた。表1には、その. 学び 次に、埼玉県内の小学校3年生(対象児童数 32 名). 際、学習した内容に基づいて、理由が回答できた子ど. の野外での昆虫観察の授業に同行し、授業中の聞き取. もの人数(表中の①の項目)と、その中で回答時に確. り調査を実施した。調査対象とした授業は、下記単元. 信をもって回答できた子どもの人数 (表中の②の項目). 構成の 2-2 の後に 2-3 として位置づけられていた。つ. を表記した。. まり、野外での昆虫観察は単元全体の構成の中で、演 繹的に位置づけられていたのである。 1 昆虫を育てよう. 表1 野外観察時の昆虫のとらえ 野外観察で子どもが 昆虫名を 理由を 確信が. 1-1 チョウのたまごをさがそう. あげた「昆虫」の名称. 1-2 幼虫のそだち方をしらべよう. 正しく. 言える. ある. 回答した. ①. ②. 1-3 さなぎの様子を観察しよう 1-4 成虫の体のつくりを調べよう。. 子ども エンマコオロギ. 14. 8. 8. オンブバッタ. 12. 9. 9. 2-1 昆虫の食べ物やすみかを調べよう. イナゴ. 12. 3. 0. 2-2 昆虫の体を調べよう. オニヤンマ. 8. 5. 4. 2-3 校舎裏の草むらでの昆虫観察(調査対象授業). カマキリ. 8. 5. 1. 昆虫について授業の終末にさしかかった子どもは、. トノサマバッタ. 8. 7. 5. 2-3 で野外の昆虫観察時に、どのような学びを展開す. チョウ. 7. 7. 6. るのか。調査対象とした学校では、校舎裏に草むらが. アキアカネ. 6. 2. 1. 存在し昆虫観察に適した環境となっている。 子どもは、. ショウリョウバッタ. 4. 3. 2. 2 昆虫を調べよう. 網を持って昆虫を捕まえて観察した。写真1は、この ときの様子である。. 子どもから昆虫の名称は出てくるが、それが昆虫な のかどうかに質問が及ぶと、その理由を学習した内容 に基づいて回答ができる子どもはいずれも半数を下ま わり、回答しても曖昧でその理由に確信が持てる子ど もは減少してしまうことが明らかとなった。 6.2 「観察して気づいたこと」についての記述 以下は、「観察して気づいたこと」について、子ど もが書いた記述である。 ・とびはねていた。 写真1. 調査には、授業が行われている最中に著者が入り、. ・高くとびはねていた。 ・草むらでとびはねていた。. 子どもが観察しているまさにその局面で聞き取り調査. ・黒くておもしろい顔がついている。. を実施した。併せて、記録用紙の記録を回収し調査す. ・羽根に赤色がついている。. る方法をとった。教師は、子どもに「昆虫の名前」「観. ・石の上にいた。. 察して気づいたこと」を記述させ、「観察した昆虫を. ・草むらでとびはねていた。. スケッチすること」を求めた。表1に、この野外観察. ・はねがうすい。. で子どもが記述した昆虫の名称を掲載した。同時に、. ・草むらにいた。. 著者はこの聞き取り調査で 「この生き物は昆虫ですか」. ・畑でとびかっていた。.

(7) 理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察. 51. きていないことが分かる。. ・にげない。. これらの描画は自分の観. ・ぴょんぴょんはねていた。 ・おこっている顔をしている。. た印象を強く記述したもの. ・はらっぱで飛んでいた。. となっていて、目が大きく描 図2 トンボ. ・顔がこわい。. かれていたり、人的な口が描. ・後ろ足が長い。. かれていたりする。このよう. ・目が飛び出ている。. な傾向は特定の子どもに現. ・羽根が透明。. れるものではない。多くの子. ・はっぱのいろと似ていた。. どもがこのような描画を描. ・口がピンクだった。. いているのである。. ・体がぺったんこだった。. 図3 トンボ. ・黒色だった。. 単元の学習の終末である野外観察において、体が3. ・おんぶしていた. つの部位からでき、胸からあしが6本でていることを. ・つのがはえていた. 描けた子どもは、32 人中2人しかいなかったのであ る。. このことから、小学校3年生の昆虫観察についての 記述は多様であることが分かる。しかし、これまでに. 6.4 観察時の子どもと筆者のやりとり. 学習した内容である「体が三つに分かれていること」. 子どもたちは4~5名の班で活動し、この野外観察. や「胸からあしが6本ついていること」等についての. に取り組んだ。そこで観察時に筆者(プロトコル:T). 記述がないのである。「観察して気づいたこと」のよ. と子ども(プロトコル:S)のやりとりを IC レコー. うに観察の観点を示さないままに、小学校3年生に自. ダーに記録し次の通り抽出できた。. 由記述させても、以前に学習した情報にアクセスし、 活用できる子どもはほとんどいないことが分かる。学. T1:昆虫はあしが何本?. 習した内容を活用する力を育成することの重要性はこ. S1:6 本. の結果からも容易に理解できる。. S2:体はいくつかな S3:3つ. 6.3 昆虫を観察したときの子どものスケッチ 教師は、透明の容器を子ども一人一人に手渡して、. S4:頭胸腹でしょ。 T2:どんなものを見つけましたか. その中に昆虫を入れスケッチするように指導をした。. S5:オニヤンマ死んでいる. 図1、2,3は、観察をしながら描いた子どもの昆虫. T3:他には. のスケッチである。. S6:えーとね。赤とんぼと、わかんないトンボ 図1は小学校3年生が描い たエンマコオロギの描画で ある。あしは6本描かれてい. T4:その中で昆虫ってどれ? S7:全部。だって先生が昆虫を見に行くと言ったから 昆虫しかいないんでしょ。蜂って昆虫でしょ. るが、昆虫の体が三つの部位. S8:蜂は昆虫じゃないよ. からできていることなどを. S9:すごい2匹に追いかけられたんだ. 描画できないことが分かる。. T5:トンボってさ昆虫かな?. 図2および図3は、小学校 図1 エンマコオロギ 3年生が、観察しながら描い. S10:え T6:昆虫?. たトンボである。図2のトン. S11:わかんない. ボは足がないこと。図2、3. T7:これ何. では体が3つの部位からで. S12:かめむし.

(8) 52. 益田裕充. T8:で何、かめむしは昆虫?. て機能する。つまり、知識とはストリング、命題、知. S13:昆虫. 的技能等々の要素であり、理解とはこれらを使う方針. T9:なんで?. を定める認知的方略ということになる。. S14:虫ってつくから. 特に、ホワイトは前述の提唱において、「命題が人. T10:トンボは何?. の記憶の大半を構成する。」と指摘している 15)。命題. S15:昆虫. とは、「概念(ことば)の性質あるいは概念間の関連. T11:むしってつかないぞ. 性についての記述」を指す。この学習においては、例. S16:頭胸腹ってあるから昆虫じゃないかな. えば、「昆虫は頭・胸・腹からできている」「胸から. T12:どんな昆虫をつかまえたの. 6本のあしが出ている」というのは命題にあたる。さ. S17:ショウリョウバッタとアキアカネとエンマコオロ. らに、ホワイトは知的技能を「命題というものは、あ. ギ. る一つの事実として、個々バラバラに学習されるのに. T13:昆虫どれ?. 対し、個々の知的技能は、学習しようとする課題全体. S18:あしが 6 本あるから. に関わるもの」と、その関連を示している 16)。. T14:本当に見た. さらに、ホワイトは、「苔植物を一度認識してしま. S19:うん. えば(命題)、他の植物を苔植物とそうでないものに. T15:エンマコオロギみたね。これ昆虫?. 分類することができる。(知的技能)」と、命題と知. S20:昆虫だよ. 的技能の相互関係を説明している。そこで、知的技能. T16:どうして. は8種類に分類されるとした R.M.Gagne の中で、特. S21:コオロギは昆虫だよ脚が 6 本. に、「弁別」「分類」「ルール化」を取り上げている. T17:昆虫なの?. 17)。本学習においては、「分類」とは、昆虫と他の生. S22:あ、昆虫じゃないよ. 物を分類することができる知的技能である.「ルール. S23:これ昆虫だよ. 化」とは、多くの問題のタイプに対して昆虫の使用を. S24:どうして. 可能とする知的技能をさす。. S25:あ、あしは6本もなかったよ。昆虫じゃないよ S26:昆虫だよ. この点から前述のプロトコルを検証すると、子ども には、命題が形成されている子どもとそうでない子ど もがいる。昆虫に対する命題を形成している子どもは. 昆虫について尋ねるとS1S3にあるように、あし. 多いのであるが、知的技能を形成している子どもは少. 「6つ」体は「3つ」と言える子どもが多い。しかし、. ないことが分かる。ルール化の知的技能を育成できた. 実際に野外で観察する昆虫を、この観点から観察しよ. 子どもはほとんどいない。. うとしない子どもが多いことも分かる。学習に基づく. そもそも、この野外観察自体が、ルール化の知的技. 昆虫の定義は言えても、実際にはあしが6本あること. 能を育成するために重要な学習なのであるが、この野. を実物で確かめることができない子どもが数多くいる. 外観察によってルール化が図られていない。この観察. のである。このことは図1~図3の描画においても明. 自体が、単元の終末に位置づけられた演繹的な観察で. らかである。. ある。教師は単元の確認と言った程度の意識であるた. R.T.White は、子どもの記憶する知識に関して、そ の構成要素を「ストリング、命題、知的技能、イメー. め、本来、この授業で獲得されなければならない知的 技能のルール化が図られていないと考えられる。. ジ、エピソード、運動技能そしてそれらをコントロー ルする際の概括的一般的技能としての認知的方略」で. 7 教育学部学生の自然観察の位置づけに関する考え方. あるとした 14)。これは、いわば子どもが記憶する知識. 7.1 ぐんま昆虫の森における野外昆虫観察を通して. は多様な視点から表現されることを意味する。 そして、. 教育学部の学生を対象にして、平成 20 年 10 月にぐ. それらは構造化され、問題解決場面において必要に応. んま昆虫の森で、自然観察実習・飼育昆虫観察を行っ. じて知識を構成する要素を使用できる認知的方略とし. た。ぐんま昆虫の森は、小学校3年生の理科学習内容.

(9) 53. 理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察. として掲載されている昆虫を観察するのに適した施設. 単元構成で授業が行われたことを前提として、ぐんま. である。. 昆虫の森における昆虫の観察をこの単元構成のどの局. 現行小学校学習指導要領解説理科編のもとで、小学. 面に位置づけるのか第5次に考えさせた。現行小学校. 校3年生は、次のことを学習する 18)。. 理科教科書の小学校第3学年昆虫の単元は次のように. ・「昆虫の育ち方には、卵→幼虫→蛹→成虫という一. 構成されている。. 定の順序があること」 ・「卵→幼虫→蛹→成虫という育ち方の一部を欠くも. 1 昆虫を育てよう 1-1 チョウのたまごをさがそう 1-2 幼虫のそだち方をしらべよう. のがあること」 ・「蛹の時期には食べ物を食べないこと」. 1-3 さなぎの様子を観察しよう. ・「昆虫の体は、頭・3対6本のあしのある胸・腹の. 1-4 成虫の体のつくりを調べよう. 3つの部位からできていること」 これらの学習内容をとらえさせるために、ぐんま昆. 2 昆虫を調べよう 2-1 昆虫の食べ物やすみかを調べよう. 虫の森における昆虫の観察は重要となる。群馬県内の. 2-2 昆虫の体を調べよう. 多くの小学校がこの施設を訪れ、授業を展開している. 表2は、第5次に、ぐんま昆虫の森における昆虫の. ことからも、本施設を活用した授業展開の構想を大学. 観察を単元構成のどこで実施するのか質問したときの. 生に練らせることは、より実践的な取組となる。そこ. 大学生の回答である。. で、一日をかけて次のように授業を展開した。 第1次 昆虫飼育室見学 飼育室で公開前の昆虫等を観察する 第2次 里山自然観察 里山自然観察を行い生息昆虫等を観察する. 表2 大学生による単元構成についての考え 昆虫の森での観察をどこに位置づけるのか. 人数. 単元1-4終了後に昆虫の森を活用する. 7. 単元2-1終了後に昆虫の森を活用する. 3. 単元2-2終了後に昆虫の森を活用する. 10. 第3次 温室での蝶観察 熱帯地方で生息する蝶の観察する 第4次 蝶飼育室見学. n=20. なぜ、表2の局面に昆虫の観察を位置づけたいと考 えるのか大学生に理由を記述させた。代表的な理由を. 羽化する様子を蝶飼育室で観察する 第5次 ぐんま昆虫の森を小学校3年生理科授業で 活用することを想定した指導計画の作成 写真2は第2次における里山自然観察の様子であ る。. 掲載する。 1-4 の後と回答した学生の回答 「昆虫を育てよう」の単元の中で主に出てくるのが 蝶である。ぐんま昆虫の森では、蝶飼育室を観察する ことにより蝶の卵から成虫になるまでの過程を実物を みてしっかり観察でき、それまで授業でやってきたこ との確かめに適していると言える。 2-1 の後と回答した学生の回答 ひととおり昆虫や蝶の勉強をしてからのほうが習っ たことを実際に観てみたいという気持ちになる。2-1 では、食べ物やすみかを調べようといった内容である から昆虫の森内のいろいろな場所を探検させて実際に 子ども自身に探させることができるから。 2-2 の後と回答した学生の回答 一通り昆虫の体のしくみや育ちを学んでおいてから. 写真2 一連の授業プログラムの実施中、各自に現行小学校 理科教科書(第3学年)を手渡し、配布した教科書の. でないと見学時に観察する視点を子どもたちがわから ないままになってしまう。昆虫について学ぶ導入とし て、子どもたちに昆虫への興味を沸かせることはでき.

(10) 54. 益田裕充. るかもしれないが、その後に行う授業自体とは結びつ. つまり、観察・実験に取組ませている教師が多い反. けにくと思うため、ここの観察は単元の先のほうには. 面、子どもは観察・実験で何が理解できるのかあまり. ならない。. 考えていないのである。. これらの理由からも分かるように、位置づけは異な. 本研究では、学習指導要領や我が国の理科教科書そ. るものの、大学生は昆虫の森での観察を演繹的に位置. して教師が作成した理科学習指導案の多くが、帰納的. づけようとしていることが分かる。. な推論をたどらせる授業を前提とした構成となってい ることを明らかにした。つまり、現在の理科授業の大. 7.2 観察・実験の位置づけについての大学生の考え方. 半は、帰納的な推論による授業展開なのである。当然. 次に、大学生に小学校3年生に「昆虫の体は、頭・. のことながら帰納法による理科授業に価値を見いだす. 3対6本のあしのある胸・腹の3つの部分からできて. 教師の考えがその根底にある。. いる」ということをとらえさせるために、上記事項を. 学習指導要領が改訂され、観察・実験の結果を考察. はじめに教えてから昆虫を観察をさせるべきか、昆虫. することの重要性が指摘されている 21)。何のために観. を観察させてから気づかせるべきかを 57 名の大学3. 察や実験をしているのか、その意味をとらえず、ただ. 年生に質問した。その結果、前者が 28 名、後者が 29. 実験操作だけした子どもに、教師が最後に考察するこ. 名となった。. とを求めても、結果を考察することができるのは、ク. つまり、教壇に立つ前の学生(教育実習に行く前段. ラスでそれこそ数人と言うことになりかねない。. 階)は、教師に比べて帰納的推論による授業方略にと. 理科の楽しさが自由なことを語れる時間の楽しさへ. らわれることなく観察・実験を演繹的にも位置づけよ. と変貌し、「まとめ」だけを暗記すればよいと、子ど. うとすることが分かる。. もに強く意識させてしまうようであれば、子どもの授 業への関心は観察や実験そのものではなく、授業が終. 8 考察. 了するほんのわずかな時間に向くだけとなる。. 平成 13 年度に行われた教育課程実施状況調査の教師. 本研究は、大学生が自然観察を演繹的に位置づける. に対する調査結果によれば、 「実験を積極的に取り入れ. ことに躊躇しないことを明らかにした。教壇に立つ前. た授業を行っていますか」という質問に対し、「実験を. の学生は、教壇に立った教師ほど、帰納的推論にとら. 行っている方」「どちらかといえば実験を行っている. われることがない。教師は、帰納法による観察・実験. 方」と回答する教師は 90%にものぼることが明らかに. で子どもがあまり考えようとしていない問題に向き合. された。このことから、改めて全国の教師が真剣に観. うことが重要である。これからの理科授業では、帰納. 察・実験に取り組んでいる姿が浮き彫りにされた 19)。. 的な方略のみを唯一の授業方略として考えず、演繹的. 同調査では、中学生に対して「自分の考えで、予想. な方略をも取り入れ、指導過程を柔軟に構築すること. をして実験や観察をしていますか。」と質問している。. が重要である。当然のことながら、本研究で示した通. その結果「どちらかといえばしていない」「そうし. り演繹的推論を用いた授業に課題があることも明らか. ていない」が「そうしている」「どちらかといえばし. である。授業の目的に応じて、帰納的推論と演繹的推. ている」を上回っていた 20)。つまり、理科授業におい. 論を意図的に指導過程に組み込んで行くことで、「教. て、半数を超える子どもが積極的に何らかの考えを. える」という教育の今日的な課題に向き合うことが重. 持って実験や観察に臨むことがない。さらに「理科の. 要である。今後は、帰納的な推論を用いた理科授業お. 勉強で、実験や観察の進め方や考え方がまちがってい. よび演繹的な推論を用いた理科授業がもたらす効果を. ないかをふり返って考えようとしていますか」の質問. 具体的に分析し、教授論に軸足を置いた理科教育学研. に対しては、「どちらかといえばしていない」「そう. 究を深化させることが重要である。. していない」が「そうしている」「どちらかといえば そうしている」を上回っていた。ここでも観察や実験 の中で考えることに受動的である子どもの実態が浮き 彫りにされたのである。.

(11) 55. 理科授業における推論過程の分析とその背景となる教師の価値観の考察. <引用文献> 1) たとえば掘哲夫:「理科教育学とは何か-子どもの科学 的概念の形成と理解研究を中心にして-」, pp.115-134,1994,東洋館出版社 2) たとえば日本理科教育学会:「キーワードから探るこれ からの理科教育」,pp.176-181,1998,東洋館出版社 3) 文部科学省:「小学校学習指導要領解説理科編」, pp.14-15,1999 4) たとえば森本信也:「子どもの学びにそくした理科授業 のデザイン」,pp.18-124,1999,東洋館出版社 5) 文部科学省:「中学校学習指導要領」,p11,2008 6) 日本理科教育学会:「日本理科教育学会全国大会発表論 文集第6号」,pp.35-44,2008. Vol.47,No2,2006,日本理科教育学会 11) 清水誠・山浦麻紀:「考えを外化し話し合いをすること が概念的知識の一般化に及ぼす効果」,pp.35-44,理科教育 学研究,Vol.47,No1,2006,日本理科教育学会 12) 文部科学省:「中学校学習指導要領解説理科編」, p.65,1999 13) 前掲書 12),p.77,1999 14) R.T.White:Learning Science,1988 堀哲夫・森本信也訳「子ども達は理科をいかに学習し教 師はいかに教えるか」,p.41,1990,東洋館出版社 15) 前掲書 14),p.45 16) 前掲書 14),p.55. 7) 前掲書 6),pp.315-320. 17) 前掲書 14),p.61. 8) A.F.Chalmers:What is this Thing Called Science?,1982. 18) 前掲書 3),pp.20-21. 高田紀代志・佐野正博訳「新版科学論の展開」,p25, 1995 9) 前掲書 8),p26 10) 益田裕充:「水流モデルから電流回路を類推する理科授 業に関する研究-ベースドメインの関係とターゲットド. 19) 国立教育政策研究所:「平成 13 年度小中学校教育課程実 施状況調査報告書中学校理科」,p.33,2003,国立教育政策 研究所教育課程研究センター 20) 前掲書 19),p.32 21) 文部科学省:「中学校学習指導要領」,pp.11-12,2008. メインの関係を類推させるコミュニケーション活動を通 して-」,pp.41-49,理科教育学研究,. (ますだ ひろみつ).

(12)

参照

関連したドキュメント

手動のレバーを押して津波がどのようにして起きるかを観察 することができます。シミュレーターの前には、 「地図で見る日本

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

回答した事業者の所有する全事業所の、(平成 27 年度の排出実績が継続する と仮定した)クレジット保有推定量を合算 (万t -CO2

□ ゼミに関することですが、ゼ ミシンポの説明ではプレゼ ンの練習を主にするとのこ とで、教授もプレゼンの練習

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

その対策として、図 4.5.3‑1 に示すように、整流器出力と減流回路との間に Zener Diode として、Zener Voltage 100V

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場