幼児の表現生活に関する基礎的研究(II) : ごっこ遊びにおける「振り」行為を中心に
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(2) 118. また, 「表現活動」の種類としては,積極的な行動の他,それらをっなげる活動も見出せた。 それも一つの表現活動とよべるものであるが,その活動は,幼児の気持ちの安定をもたら し,次の積極的な表現活動の回復行動として機能していることが推測される,ことを指摘 した。(41. 本稿では, (I)に引き続き,表現媒体の検討,すなわち表現活動のあらわれ方について 考察し,身体を中心にした表現活動である「振り」行為について,検討する。いづれも幼 児の表現活動の基礎資料を得ることを目的とする。 Ⅱ.研究方法 自然観察法による,対象児の行動記録を行なった。兵庫県内M保育園の女児1名(A子, 1986年9月17日生まれ)について,行動記録し, 「表現活動」をその中から抽出した。観 察期間は, 1989年10月30日から1991年9月18日であり, A子の年齢は, 3歳1カ月13日か ら5歳0カ月1日の問である。原則的に1週間に1回保育園を訪問した。観察時間は,自 発的な行動場面の多い平日の午前中,主に9時半から11時の間に行なった。総観察回数は 51回,総時間数は47時間8分であり,一回当りの観察時間は平均55分である。 Ⅲ.表現媒体のあらわれ方 A子の表現活動について,まず表現媒体との関わりについてみると,次のようになる。 すなわち,全表現活動事例104事例のうち, (1)複合した表現媒体(53事例, 51%), (2)単一 の表現媒体(51事例, 49%)である。その具体的内容は下記の通りである( ( )内は, 事例数である。) (1)複合した表現媒体一一一歌と動き(23),リズミカルな言葉と動き(23),歌と絵本(3), 歌と描画(1),言葉と描画(1),動きと絵本(1),音と動き(1) (2)単一の表現媒体一一一物をっくる,描く(25),リズミカルな言葉(13),動き(12),育(1) 以上のようにA子の表現活動の形態は,例えば, 「歌いながら絵を措く」のような複 合した表現媒体によるものと,ただ, 「歌う」だけ, 「絵を措く」だけといった単一の表現 媒体による活動の両面を見出すことができた。 では,複合した表現媒体の間には,何が共通なものとして見られるのだろうか。各事例 について検討したものが[表1 ]である。 この表1の中の事例についてみると,まずリズムに関するものとして, [事例1 ]が挙 げられる。. [事例1] 砂場で,砂を掘りながら板をはめこみ,川づくりをやる。うまく川づくりが進み, 「ジー ゴー,ジーゴー,ブイブイブイ」と節をっけながら,そのリズムに沿って進めていくo (1990年10月24日観察) これは,砂場で見られた「川づくり」の場面であるが,リズミカルな言葉と節にのって, A子は,川をつくる作業を進め,その活動に夢中になっている。 次に,複合した表現媒体として))ズムとイメージが関連しているものは,表1にも見ら れるように,多くの事例がみられた。その中の一例を挙げる。.
(3) [複合された表現媒体] リ. ズ. ム. イ. メ. ー. ジ. /. リ. ズ. ム. 場. 面. 転. 換. (4.4.7) 三輪車に のりながら , 手をリ ズムに合わせて動かす0. (4 . 2.28) 人形をフワリととばしながら「 フワーフワI フワ- 」と節をつけながら歌う。. もちやを手にもつて 「ウダウグウグ」(3 . 1.20) 烏の声が鳴いているのを聞いて 「 シー」といって, 両足でピョンピョン跳びは という0 ねる0 」 (3 . 7 .24) 大きな傘が回る様子を見て 「 まわった, (3 . 1.20) どんぐりをみつけ, 「 シムシムケシヨケシヨ 」という0 (3 . 9.ll) 雲梯をやろうとして手がすべり 「 ワ- おててがつるんつるんだから」と言い, と まわったフーン」というQ 両手を上げ太陽にかざす0 ば. (4 . 0 .17) お化けになった子どもを, ままごと遊びの中に取り入れる。. と. (4 . 0.25) ネコになって 「 ニ十一二ヤー」と言いながら, ブロックを口にくわえて運ぶ。 (4 、1 .29) 洗剤容器から水を出しながら 「 ワ- ワI ワ- ワ一, チッコツコI 」という0. 動. (4 . 1 .29) プリンの型に砂を入れて 「 これでプリンちゃん, プリンちゃん」とリズミカル にいう0. き. 淋1AT<Z>鮒渦軸tb. (3 . 4 .9 ) 隣の部屋に移りなが らスポンジ状のお (3 . 1.13) ままごとで, 三輪車で買物に行く略 「 ウーウー」「 プ- プI 」という0. で」と 歌う 0. waoi加盟粁ffli-Mヰ7J肘聴It-M'K<U). (3.1.13) サラ 砂づくりをしな がら 1坂をうまく 動かし「 ワーワ (3 . 1.13) ピンク. ターボになりながら, T V の主題歌を歌う0 (4. 1. 7) 片付けを始めた時に 「 ポ 】 I スットット 」 と鼻 歌を 歌う 0 (3 . 1.15) 三輪車に乗りながら「 パブ- パッププ- 」と節をつけて歌う0 ツポッポ, ポッポ」と歌う0 ゴ こ (3.1.13) どこ-ル. ト ンネルの 中を「 オーロロロロ 」と歌いな 日 (3 . 2.17) ままごとをしながら「 ごはんがあれば- 」と歌う0 (4 .1.29) 滑り台づくりが終わりかけ がら 転がる 0 (3 .8 .ll) おたまじゃくしを手づかみにしてl 周囲の仲間を驚かすように見せながら歌う0 た頃ー 「 みんなで手をつなぎ と (3.3.4) 畑の中を「 7 ンフンフン 」と 歌いな がら 走る D (3.ll.25) 積木の上を 歩きながら「 ジヤl /ケン ホイ」と 節をつけ (3 .9 . 3 ) お家づくりをしながら替え歌を歌うO次いで「 お化けになろう」と歌うO ましよう」と3 回繰り返し 動 て歩く 0 (4 . 1.14) ままごとの中で, 木工をかごに入れながら歌う0 て歌う 0 (4.1.7) 砂掛こ 川をつく りながり「 ジ - コ- シ ′ゴ l ブイブイ (4 . 2. 5 ) 砂場でアイスクリームをつくりながら 「 アイスクリーム, アイスクリーム, ピ (4 .2.17) ダンボ- ルを介して喧嘩に き ブイ」と 歌う 0 ツピッピP 」と歌う0 なる0 「 お金がいっぱいある (4、 2.5) プランコ の上で「 ワワワワ , ワワワワ」 と 歌う 0. (4 . 2 .17) ネコになって積木で作ったプールに入り 「 ニヤオーンニヤオーン」という0 ( 4. 4 . 7 ) カエルになって 「 ケロン一, ケロン- 」という。4 人女児で 「 ケロケロケロ」と いう0 (3 .1 .15) 「 おもちゃのチャチャチャ」の本を読んで歌ってもらうようにたのみ, その歌をきいた. 歌 と 絵 本. 後, じぶんで歌う0 (3 一 4 . 9) 絵本をみなから, その中の 「 にんじ ん大臣」の歌を絵本の上を指でたどりながら歌う0 (3 .8 .27) 絵本を読んでもらいながら,寝ころがり, 鼻をクンクンしたり 膝をリズミカルに叩く0 身体を揺らす0 (4 .0 .16) 紙に渦巻をかきながら 「 シューシュー」( 3. 2 .28) 「 ケロケロビ, ケ, ロ, ケ, ロ, ピ】」「 ちよーちよ, ちよ, そうそうお化けやで」 という。. 註) ( )内の数字はA子の年齢,月,日齢である。. と歌いながら絵を描く0. 119. 描 画 他.
(4) 120. [事例2] 人形と積木で想像的なスト-リ-に沿って移動している時,人形が空を飛ぶ場面で「フ ワーフワーフワー」と,声のトーンを高く,抑揚をつけて,人形を上方へあげている。 (1990年12月14日観察) これは,人形遊びの一場面であるが,フワリととぶ様子と,とぶリズムが一致した歌唱 表現である。 以上のようなリズムやイメージの関わりによる表現活動の場面をみると,主に,活動が ひとまとまりのながれの中で行われていたものであった。次に,場面としての状況が変化 する際にも複合した表現媒体による活動が見出された。 [事例3] 積木でつくった滑り台の活動の終わりかけた頃,A子は「みんなで手をっなざましょう。」 と3回繰り返し歌いながら,手をつなぐ動作をした。(1990年11月16日観察) 歌が出るまでは,大型積木で作った滑り台を実際に滑ろうと試みたり,人形を滑らせて いたが,次に絵本や粘土を持ち出し,ちょうど滑り台も終わろうとしていた頃であったO その活動におけるこの歌の脈絡はなかったが,歌と動きによるこの表現活動は,次の場面 へ活動が転換するきっかけとなっている。 以上,代表的3事例に見られるように,複合された表現媒体の事例を検討すると,活動 と表現媒体の間には,(1)リズム,(2)イメージ,或いはリズムもイメ-ジも同時に介在する 他,(3)場面転換の際にも,表現媒体の複合性がみられる。 これらの表現媒体を結ぶものとしての「リズム」は報告(I)でも同様の指摘を行なっ た。しかし,「リズムとイメージ」及び「場面転換」の際の複合された表現媒体について は今回見られたように,幼児の表現活動のひとつの要素であることがわかる。 また,A子個人の表現活動も前回の観察同様,全活動の大半が,「音と動き」「ことばと 動き」というように,身体の動きを伴うものと,他の表現媒体との複合であることが明ら かにされた。すなわち,身体の動きを介在して,律動性や想像性が関与して表現活動を為 していることがわかる(5) 。 では,その身体の動きを中心とした表現活動とはどのような内容であるのか。その点を 明らかにするため,A子の表環活動の中でも役割を得ている出来事に注目し,その際表現 されている「振り」について考察する。この視点に立って分析することにより,A子の表 現をとおした内面の世界に一歩近づけると考える理由に依るものである。 Ⅳ.「振り」行為における役割 1.「振り」行為の内容と役割取得の方法(6' A子の自発的活動の中で「役割取得」に関するものとして,51回の観察中「ままごと」を中 心に振り行為を見たものが,表2である。この表中の26回が,A子がなんらかの振りをして, ごっこ遊びを展開した例である。これらの結果,振り行為の種類は,お母さん,或いはお姉さ ん,ネコ,カェル,ピンク・ターボ,ファイアーマン,オオカミ,看護婦さん,であったo これらの事例から「役になる」場面について,その役になる方法を整理した結果,次の.
(5) 幼児の表現生活に関する基礎的研究(Ⅱ). il革il. 表2 A子のごっこ遊びに関する一覧表 事 例 Na. 観. 察. 時. 時 間. ( 9. : 3 4  ̄ 10 : 48 ). 2. 11月. 1 日. ( 9. : 3 8  ̄ 1 0 : 28 ]. 3. 11月 10 日. ( 9. こ40-. 12 : 10). 4. 1 2 月 1 4 ∈∃ ( 9. こ35-. 1 0 こ4 3 ). 4 月 17 日. こ 14  ̄ 9. 1. 198 9 年 10 月 30 日. 日. 3 歳. 1 カ 月. ( ネ コ ). ピ ン ク . タ ,. お 姉 さ ん. 50. 求. (怪 獣 ). (ま ま ご と ). 本 物 の ネ コ に あ い さ つ. 30 1. …08. 3 歳. 2 カ 月. 動 物. ( ネ コ ). 病 院 ,. お 母 さ ん ,. 36. 3 歳. 7 カ 月. ピ ン ク . 夕 I. ( 9. : 一2 0  ̄ 1 0 : 4 0 ). 1. …20. 3 歳. 8 カ 月. お 姉 さ ん. (ま ま ご と ). 7. 6 月 20 日. ( 9. こ25 -. 10 こ25). 1. …00. 3 歳. 9 カ 月. お 母 さ ん. ( ま ま ご と .). 8. 9 f1. ( 9. : 45-. 10 : 45 ). 1. …00. 3 歳 11 カ 月. ネ コ 役 の 女 児 と . お 母 さ ん. 9. 10 月 3. : 55-. 1 1 こ 10 ). l. … 15. 4 歳 0. カ 月. ネ コ 役 の 指 示 . お 母 さ ん. 10 月 日 日. ( 9. こ58-. ll : 0 1). l. …03. 4 歳 0. カ 月. ネ コ 役 に な る. ll. 10 月 24 日. ( 9. : 55-. ll : 04 ). 1. …09. 4 歳. 12. 10 月 3 1 日. ( 9. : 5 5  ̄ 10 こ 4 6). 5 1. (ま ま ご と ). ′′. お 母 さ ん. (ま ま ご と ) , 姉 妹 の 逆 転. 2 カ 月. お 店 ご っ こ. ( 9. : 3 0  ̄ 10 : 4 8 ). 1. … 18. l l .H 2 2 B. ( 9. j 46-. l l : 0 7). 1. …21. ネ コ 役 に な る , お 姉 さ ん. 15. 1 1月 2 8 日. ( 9. : 32-. 10 : 5 4 ). 1. …22. お 母 さ ん. 16. 12月. ( 9. : 42-. 10 ‥ 4 5 ). : 03. ネ コ 役. 17 18. 1991年. 3. 日. 12月 14 日. (10 : 00-. l l : 00). l 月 17 日. (10 : 15-. 11 ニ 0 0 ). 1. (ま ま ご と ). ( 2 匹 ), ネ コ → お 姉 さ ん へ 変 更. 4 歳 4. カ 月. 4 歳 5. カ 月. ロ ボ ッ ト. ( ? ). 19. 2 月 14 日. ( 9. こ36-. 1 0 こ3 6 ). 60. 20. 2 月 28 日. ( 9. : 45-. 10 : 25). 35. 21. 3 月. 6 日. ( 9. : 30-. 10 : 20). 50. ネ コ 役 へ の 指 示 , お 姉 さ ん. 22. 3 月 15日. ( 9. こ 2 0  ̄ 1 0 こ 14 ). 54. す べ り 台 づ. 23. 4 月 16 日. ( 9. こ15-. 1 0 こ0 0 ). 24. 4 月 23 日. ( 9. : 00-. l l : 15 ). 2. …15. 45. ( ま ま ご と ). 人 形 と ゆ う れ い. …00 45. ( ま ま ご と ). お 母 さ ん. 1 1月 16 日. 4 歳. ( ま ま ご と ). 1 カ 月. 14. 13. (看 護 婦 ). ポ. 10. !′. [∃ ( 9. こ50). 「振 り 」 行 為. 6 月 13 日. 12 H. ( 9. 1 三 14. . 月 齢. 6. 5. 1990年. 午. ネ コ 役 を 邪 魔 に す る , お 姉 さ ん. 4 歳 7. カ 月. ネ コ 役 . 子 ど も 役. (ま ま ご と). ( ま ま ご と) (ま ま ご と ). く り. ネ コ 役 の 指 示 ま ま ご と. 25. 6 月 1 1 [∃. ( 9. : 30-. 1 0 こ4 0 ). 1. …10. 4 歳 8. カ 月. ネ コ 役 に 名 前 を つ け る. 2 6. 6 月 18 0. ( 9. : 30-. 10 : 30). 1. …00. 4 歳 9. カ 月. ( ネ コ ), 家 づ く り , お 母 さ ん. 2 7. 7 月 16 日. ( 10 こ10-. 1 1 ニ1 5 ). 1. …05. 4 歳 10 カ 月. ( ネ コ ), 子 ど も役. (註) 1989年10月30日-1991年9月18E】の問の計51回の観察中, 27回分(ごっこ遊びに関連する活動の含まれてい る事例)を抽出した。. 6つの点が見出せた。 (1)自分から宣言してその役になる (2)自分以外の者に対して役を与える (3)自分以外の者から提案されて,役を受け入れる (4)その役になる者について,他の者に提案する (5)実在しない想像上の役を作り出す (6)活動に関連しない役柄をも取り入れる まず, (1)の自分が役になる,という例は,何か活動を開始しようと思う時「A子,お姉 さん」 (表2-No.19)や, 「A子,看護婦さん」 (No.4) 「A子,ネコになる,やっぱりネコ.
(6) 122. になる」(Nal4,19)のような自分の名前を明示し,その役をするという宣言を行なうも のである。この役のなり方は,観察期間中継続してみられた。 次に(2)の他の園児に役を与えるものとして,「お父さん,やる?」(No.4),「男やんな, お父さんになるね」(No.4)のような,近くにいる男児に役を与えたり,「Y子ちゃん,お 姉ちゃんにな」(No.7)のように,A子が自分の行動に引き込むような形で役決めが行な われる。これは,男女の役割を示唆した発言内容であり,「男でしょうが,男はお姉さんじゃ ないでしょうが」(Na4)という発言もみられた。 次に(3)の例は,(2)とは逆に,周囲の幼児からA子に対し役を提案されるものである。例 えば,「A子ちゃん,お母さんか?」(No.1)や「A子ちゃん,お母さんになってくれる?」 (No.15)というものである.言葉によって,役割を確認され,A子もその役をやってみた いと思う際には,ただちにその役柄になる。ここでは,言葉の上での明確な受諾はないが, その後のA子の活動の展開として,提案された役をA子が受け入れ,行なっている様子が みられた。 (4)の例は,(2)のように役を与えるのではなく,他の幼児に「お医者さん,誰?」(NaO 「ネコ,どうする?」(Na9)「赤ちゃん,どうする?」(No.21)のように,その活動の中で 必要に応じて役をする者を決めようと,他の幼児に尋ねる行為である。4歳4カ月時 の事例では,「あ,妹になってくれる?」と相手の意志を尊重する発言もみられるように なる。 このような(1M4)の役割取得は,自分と他者との間におけるキャッチ・ボールのような ものを示しているといえよう。A子は,活動の中でその役をしたいと強く望むこともあれ ば,提案を受け入れることもある。また,他の幼児に役を与え,自分の思い描くイメージ で活動を展開しようと,相手にその役をやや強要するときもある。 さて,このような自分と他者との関わりにおける役割決めの他に,それらの関係を越え た,(5)実在のない役をつくりだす例がみられた。この例では,「お父さん,きょうね,怪獣 来る」(No.8)や,「ピッピー,この中に入って」(Na6,20,21)や「ハープ-ちゃん,使っ てらっしゃいね」(Na8)というように,怪獣やその他名前を架空につけて,活動の中に 取り入れているのである。 次に,(6)の例では,A子とB子のままごとの活動中,C男が突然乱入し,ままごとのセッ トを壊していく場面で,B子は泣き出すが,A子は,平然としたまま「お父さん,暴れちゃっ た-」(No.7)と声に出して言った.ここではC男は,お父さんの役ではなかったのだが, A子が急速乱入してきたC男をその役に仕立て,ままごとの活動の中に吸収しようとした 例である。同じく,家ごっこをしてA子達のところへ年長女児がマントを翻してやってき た。A子は,その女児をお化けに見立て,「お化けは,もういっちゃったわよ。早く寝なさ い。もう一度来るわよ。」と子ども役の幼児に言いきかせた(Na9)。この例のように,自 一分たちの活動に突然入り込んできた幼児に対し,活動の中での役割を与え,活動の脈絡の 中に取り込もうとする働きを見ることができよう。 2.役割における虚構と現実の往来 「役になる」ということは,現実に対する虚の想像による活動であると言えよう(7) 。役に つくA子を観察した結果,次の4点について,虚構性における特質が見出せた。すなわち, (1)A子の現実の行為と役割上の行為の往来 (2)現実の姉妹関係の逆転.
(7) 幼児の表現生活に関する基礎的研究(Ⅱ). 123. (3)役割中の役割転換 (4)役割のまま現実の行為に対応する まず, (1)の例としては, A子がお母さん役を行ない,スカートをはこうとした。それを 見ていたB子は「お母さん,スカート,はいてる」というのだが,お母さん役であったA 子は, 「私はお母さんじゃないでしょう。 A子がスカートはいてんの」とB子に言い返し fcc. これは,それまでお母さん役であったと恩われていた本人が「自分」がスカートをはく という行為をしているのだという主張である。すなわち,虚構の役割から現実の自分に戻っ たのである。その後,この活動は, A子がお母さん役として継続された。 A子にとっての お母さんの「振り」は,時としてA子自身に戻ることもある,という性質を持っているも のであることがわかる。 次に, (2)の例は,現実では姉妹である二人が,その活動の中では,妹のA子が役割上姉 役になり,姉のB子が妹役を演じる,というものである(No.12)。ここでは,現実では姉で あるが,妹役を演じているB子が, A子に向い「お姉ちゃん一一一」と呼びかける。この 関係のまま,この活動は展開されていった。ここでも,役割上における現実と虚構の対応 を見出すことができる。 (3)の例は,役割中の役割の転換である。つまり, A子が, 「魔法のお姉ちゃん,ネコになっ て変身してんの」 (Nal4)のように,自分が活動の遂行上,都合の悪くなった,或いは,もっ と違った役をやりたいと思う時,この言葉が出, A子はお姉さん役からネコ役に変わった のである。この例は,役割における窮実と虚構ではなく,虚構の中の虚構であると言えよ う。. 次の(4)は,役は虚の世界でありながら,現実の他者からの働きかけに対して,その役の まま対応するという例である。例えば,ネコ役のA子に向かって, B男が「アホラ,バカ」 とどなる。 A子は, 「ニャオーン」と言い返す。 B男が,どなり返してもA子はネコになっ たまま「ニャオーン,ニヤオーン」と大声でやり返す(No.14)。また, A子とB子でネコ 役をやっていたが,ちょっとしたことから,真剣なケンカになってしまう。しかし, A, B共ネコになったままで ̄「ニヤーこヤー」 「ファーニヤ-」と言い合う(No.16)c 以上, (1M4)の事例にも見られるように, A子の役割は,虚と現実の入り組んだもので あったり,虚の虚という形をとるものもあらわれる。一方で,その役柄を演じる世界は, 虚であるが,役割そのものは現実のものをもちだすこともある。 このような, 「役になる」 A子は,どのような行為による振り,すなわち身体の動きによ る「振り」という表現活動を行なっているのだろうか。次に, A子の身体の動きを中心に した「振り」の世界について,検討する。 Ⅴ.身体の動きを伴う「振り」 1.お母さんの「振り」 これは, A子が3歳から4歳半前半にかけて,よく活動していた。 A子は,よりお母さ んらしく演じるのであるが,中でも頻繁にみられたのが「お母さんがお弁当をつくる」動 作であった。表2の活動事例中4事例みられた。その内容は,プラスチックのおもちゃで, 箱にお弁当のようにつめたり(No.7),粘土でおにぎりをっくり,箱にいれる(Na8)よ うなものである。その他,お母さんの振りとしては, 「料理をする」 (No.4), 「台所の食器 を洗う」 (Na4), 「買物へ行く」 (三輪車を使用) (Na7)等がみられた。その振りの際,.
(8) 124. 出てきた言葉として,命令口調が挙げられる。例えば,お弁当づくりでは,手を洗いなが ら, 「残してきた,あかんぞ」 (No.4)や「最後まで食べるのよ」 (Nail, 12)という言葉が 語られた。その他, 「お家へ帰りなさい,帰らないとあなた一一一」とか, 「皆さん,寝な さい,寝なければ一一一が出てくるo」という命令と少し脅かしめいた言葉もあらわれた (NalO)e. 4歳になると, 「ちゃんと勉強するんですよ。」や「随分おそいのね-しゃべっているの ね」 「『ただいま』でしょう,帰ってきたら」 (No.15)のような日常のしつけに関する内容, すなわち普段の母親の会話のような言葉使いが頻繁にみられる。 4歳4カ月になると, 「おもちゃなんか買ってはいけません」や, 「お兄さんがこんなこ とするんですか,降りなさ-い」 (Nal8)といった禁止を含んだ命令口調もあらわれた。 以上のように, A子にとって重要なお母さん役は, A子の日常のイメージと重なり,よ り精巧な役割を演じようとしていることが窺われる。 2.いたわる「振り」 -感情を込めた表現 A子は,母親の役や,その他の場面でもいたわりのあるやさしい態度を活動の中で演じ ている。具体的には, A子とB男が一緒にぬいぐるみを見ながら, 「かわいいね」と言い, お互いに顔を見あわせたり(No.7),ぬいぐるみを赤ちゃんに見立て, 「赤ちゃん,寝かし とこうかしら,こうやって」と言いながら, A子が子守歌を歌って抱いたりする例があっ た(Nail)。或いは,ぬいぐるみの赤ちゃんを見て「この子,泣きよんねん」 (No.7)と言っ て,ふとんの上からトントン叩いてあげたりするのである。これらの事例は,赤ちゃんに 対する行動を通してA子の赤ちゃんへの気持ちを示しているものと言えよう。また,ぬい ぐるみを子供たちに想定することにより, 「あらま,仲良く遊んでいたの,この子たち」 (No.5)という言葉が出てくるように,母親的愛情のような,やさしさが表現されている。 すなわち, A子は,母親の姿,形だけの表層的模倣だけではなく,内面的な感情,普段目 にし,或いは与えられている気持をも,この役に含めて表現しようとしていることが垣間 見られよう。 Ⅵ.身体的「振り」行為の年齢発達の経緯 A子の身体の動きを主にした表現活動の中で,最も多く見られたものが,前述した「お 母さん」 「お姉さん」の振りの,それぞれ7事例計14事例であり,続いて「ネコ」の振り の5事例である。しかし,ネコに関しては, A子がその役にならなくても,ネコを中心に 活動したごっこ遊びの事例は, 15事例であった。今回採集した全体のごっこ遊び中,約58 %にあたる。これらの15事例を対象に, A子の3歳からの2年間の年齢経過と共に, 「ネ コ」の振りがどのような役割取得を経て,どのように身体的表現活動が変容してきたのか, 考察する。 まず,役割取得に関する視点から5つの段階をみることができた。すなわち, (i)宿 動の中にでてくるが,役割として実在しない(3歳1カ月), (ii)活動の中に役割として あらわれるが,自分以外に「ネコ」役を割り当てる(3歳2カ月から4歳), (Si)自分自 身が自発的に「ネコ」になる(4歳から同4カ月), (iv)活動の中で「ネコ」役から他の 役へ変更する(4歳2カ月から同8カ月), Cv)活動の会話の中に登場するが,役が与え られない(4歳9カ月から同10カ月)である。この中でも, (iii)と(iv)は一部時期が 重複している。以下,この段階に従って,その特質を明らかにする。.
(9) 幼児の表現生活に関する基礎的研究(Ⅱ). 125. (i)役割以前の「ネコ」 [事例4] (3歳1カ月) A子がビニール・トンネルの中で「プル,プル,プルーン」と言?て,転がったり,寝 そべったりしている。 A子は,「ネコだよ」というが, B子が「ニヤオン,ニヤオン」とな くと「ネコちゃんだめ,あんたのおうちはあそこでしょう」といい,続けて「ワー怪獣だ-」 と言って, B子のネコを拒否する。その結果, B子はそこから去る。 A子は, 「うちのネコ ちゃ-ん」と2回繰り返して呼び,返答がないので, 「死んじゃったの-」というo (表2No.1). この事例のように,活動の中で「ネコ」は登場するが,それは明確な役割として捉えら れているものではない。従って,「ネコ」の振りをするのでもなく, B子との「ネコ」の イメージを共有することもできない。しかし,役割以前の段階で「ネコ」のイメージがあ らわれていることがわかる。また,そのイメージは, A子が身体を動かしながら得たもの ということも推測できよう。 「ネコ」のイメージ化に関する事例として,園外保育の散歩 の途中に出会った本物のネコに対し, A子は, 「ニヤー,ニヤー」とネコの鳴き声を真似し, 手を振って挨拶をしていた(表2-No.2)0 A子の中には,ネコのイメージが鮮明にあっ たと考えられる。 (止) 「ネコ」役の割り当て [事例5] (3歳2カ月) A子は「A子,看護婦さん」と言い「お医者さん,だれ?」とたずね,役を決める。 B 男が, 「俺,ネコ」と言った言葉を受け, 「ニヤー子さん,どうぞ」と言って,ネコ役の男 児に注射をする。 (中略) A子は, 「ニャーさんと呼んで下さい。」と言い, 「ここはニヤン 子ちゃんの家」と言って,ブロックでコーナーをつくる. (表2-No.3) これは,看護婦になったA子が,次々にネコの呼び名で患者役を呼び,注射をしていく 活動に発展していった例である。このように,ここで, A子自身は「ネコ」役にならない が,他の幼児に割り当て,'活動が展開するのである。次も, A子が, 「ネコ」役を割り当て る例である。 [事例6] (4歳0カ月) 「お母さんごっこする」という事で始められた活動である。 A子は, 「ネコ,どうする, ネコは」とB子に尋ねる。 「B子,ネコになる」という言葉を受け, A子は「じゃあね,ネ コのお姉さん,どうしよう」と言う。ネコになったB子に対し, A子は「ネコそんなかっ こうしたらだめでしょう」「ちゃんとしぼんで寝なさい」と言って, A子もその格好をす る。そして, 「こうやって,寝なさい」と言う。 B子のやり方に「ちがう」と言い,何回も 修正する。次に, B子の座り方を見て, 「ネコってそういう形しないで-,ふつうのネコで もそういう形するか?」と言う。 (表2-Na9) このように, 「ネコ」役については,周囲の幼児に尋ねるようになるが,まだこの段階で はA子自身はネコにならないoしかし,役を割り当てた後, A子のイメージするネコをB 子にやらせようとしている。ネコの振りも,くしぼんで寝る)く膝をつかないで座る(しゃ がむ) )といった形が要求され,よりネコらしく精巧な振りとなっていく。.
(10) 126. (玩) 「ネコ」役になる [事例7] (4歳2カ月) A子は,ブランコから降りると突然,地面に伏せ「A子,ネコになる,やっぱりネコに なる」と宣言し,「ニヤオン,ニヤオン」とないて,ジャングル・ジムに昇り始める。 (中 略)次に腹這いになって,プランコにのる。大声で「ニャオーン,ニヤオーン」と言う。 A子は四つん這いになって移動しながら, 「ネコは物をさがLとんのや」と言う。次に, 「ニヤオン」と言って,手で穴を掘り始める。途中, 「アホラ,バカ」と言ってくる男児に 向かって, 「ニヤニヤニヤーン」とネコになったまま言い返す。その後,滑り台を後向き になってすべり降りる。 B子がA子にエサをやる。 A子は「ニャオン」と言う。 A子は 「このネコの名前はタマというの」と名前を言う。 (表2-No.14) この事例では, A子自身がネコになり,様々なネコの様子で活動するのだが, 「ネコにな りたい」というかなり強い意志がA子の様子から窺われる。ネコ役の動きの特徴としては, く腹這い)でプランコにのる,く四つん這い) (穴を掘る)く後方で滑り降りる)という ように,ネコの振りの種類も活動範囲に従って多くなる。ここでは,以前ネコ役をする女 児に対して行なっていた動きの指摘と異なる。すなわち,以前はネコの姿勢についての指 摘であったのに対して,今回自ら行なうネコ役は,活動を伴う内容である点である。 A子 自身が活動を通してネコになっている様子がみられる。このネコ役はA子一人で行なって いる時から他の女児と行なう活動へと発展する。次の事例では,二匹のネコが登場する。 [事例81 (4歳2カ月) A, B子が隣同志のネコになる。 A子は台上に昇り「ニヤーニヤー」といい,箱の後方 に隠れる。そのうちネコ同志のケンカが始まる。 C男に制止される。その後, A子は, 「ここがネコのお風呂,お姉ちゃんネコ,病気なんよ」と言う。 (中略) A子は,ダンボル箱の中に入り,ロでブロックをくわえ,四つん這いであちらこちらへ移動する。積み木 でつくったプールへ行き, 「ネコが泳ぎに行く」と言う。 「この中でお姉ちゃんネコ,死ん でしまう人,手を挙げて-」と言うと, B, C子は「ニヤー」と言って挙手する。 (中略) A子は, C子が邪魔で「ニャ-」と言ってひっかくが,直後に「A子,やっぱりお姉さん の方がいい」と言って,ネコ役は終了する。そして, B子に, 「子どもネコになってな」と 言い, A子は姉の役になる。 (表2 -Nal6) ここでは, A子は,ネコになる前にケンカして,気分的に落ちこんでいた様子であった が,ダンボールの中に入り,ネコになって箱から出てくることにより,遊びのきっかけを つかむようになる。二匹のネコの活動としてはくケンカ) , (お風呂に入る)くブロック をロでくわえる)く四つん這い)く泳ぐ)く「ニヤー」と言って挙手)といった表環活動 が見られた。ネコの活動が,事例7と重なるものもあるが,新たにつけ加えられたものも ある。このようなネコの表現の発展は見られたのだが,活動の途中でA子は,ネコ役から 姉役に変更する。その後の活動を見ると,大変活発に会話をしていることからも,ネコ役 は,言葉も言えず,動きも四つん這い中心で,表現することの限界をA子自身が感じてい たのではないかと推測される。このような役の入れ替わりは, 4歳4カ月にもみられる。 (fr)役の変更,拒否.
(11) 幼児の表環生活に関する基礎的研究(刀). 127. [事例9] (4歳4カ月) A子は,お姉さんの役になっている。 B子に向かって「ネコ,ネコは2階でしょう。 (ここ-)上がっちゃダメ」「こっちからは,あかんねん」と言い, C子と「ネコがいなかっ たらいいのにね」と言い合う。再び, 「上がったらダメー」と言い, 「ネコの場所ここじゃ ないんで,ここは,日向ぼっこする,お姉ちゃんは日向ぼっこする」と言って, A子は滑 り台を滑る。 (中略) A子は「な-やっぱりA子,ネコになる」と繰り返して言う。その 後,ジャングル・ジムに戻り「ニヤーン」と言い,四つん這いになる。 (表2-No.19) ここでは, B子は初め,お姉さん役をやりたいと言ったのだが, A, C子にネコ役でな ければ,このままごとの仲間に入れてやらないと言われ,止むなくネコ役になったのであ る。その後, A子は, B子のネコ役を活動の中でやや邪魔もの扱いするようになる。従来 まで,ままごとの中でのネコの役は大変重要なものであったが,その役を拒否するような 態度がみられた。しかしながら, A子自身もその後,ネコ役に変更する。この時期は,活 動の中での役が,途中で変わる様子が見られた。 [事例10] (4歳5カ月) ネコは,ままごとの中にでてくるのだが, A子はお母さん役で他の女児がネコ役になる。 B子がやるネコの振りを見て, A子は, 「すわっているネコなんか,おるか-」 「そんな, お母さんすわりなんてできへんのやで」 「ふつうの人間ならこうやってすわれるけど」と, B子のネコ役にどんどん注文をつけていく。 B子は途中「ネコ,こうやったりする」と言 い返したりもしているが,ついに, 「ワ-」と大声を出して反論する. A子は, 「ワーやっ て,おもしろいな」とさらに,強気に出る。 (中断)観察者の方へきて, 「ネコって,立て ないよ」と確認してくる。 (表2-Na21) この段階において, A子の他児のネコ役に対する動き方の指示が厳しくなる。この様な 事例はその後も見られ,活動の中で動きの指示と,ネコ役への支配が見られるようになる。 (Ⅴ)ネコ役の消失 [事例11] (4歳9カ月) A子は,お家ごっこで,お母さん役になっている。 B子はA子に向い「ネコになってい い?」と尋ねるが, A子は答えない。 (中略) 「お母さんな,ネコつれてきますから」と言っ てダンボールの家から外に出る。 (表2 -No.26) このように, A子の活動の中に,会話としてはネコのことが出てくるが,実際の役柄と してはあらわれなくなる。この1カ月後の活動の中でも同様である。 (表2-Na27)ネコ 役の事実上の消失としてみることができよう。 以上のように, A子の3歳1カ月から4歳10カ月にみられたネコ役の表現は, 4歳2カ 月の自分自身がネコになる時をピークに,次第に役割としてはみられなくなる。 A子のネ コの振りは活動範囲を拡げることで,遊具に乗る方法や,ネコ役のまま他の男児と争うこ とや,二匹のネコ同志の争い,気分回復のダンボールからの出現等,ネコの機能は様々な ものを含んでいることがわかる。特に,その時々の状況によるA子の内面的なもののあら.
(12) 128. われとしての「表現」が変化してみられると言えよう。 このことは,例えば従来の保育内容における「身体表現」分野にひとつの示唆を与えて くれよう。すなわち,あるテーマ(例えば「動物」等)で,幼児に表現させる方法は,班 児の表現欲求の尊重という点から考えると,表現生活の一部に過ぎないのではないだろう か。幼児の表現は,主体的自発的に可能なところにおいて十分表現されるのである。 Ⅶ.おわりに 本稿では,幼児の表現媒体の表れ方,そして,それらの媒体の関連性であるリズム,イ メージ及び場面転換の状況について概観し,その中におけるメディアのひとっである身体 における振り行為について,若干の考察を試みた。多くの「振り」行為が見られたが,そ れらが,ごっこ遊びの中での役割を担っていることから,役割取得の方法,役割に伴う虚, 実の問題について考察し, 「振り」行為に見られた,振りとその内面を重ね合わせた感情 表現,並びにネコ役の表現の経緯について考察を行なった。その結果, 1) A子の表現活動,単一の表現媒体と,複合した表現媒体によるものが約半々の割合で みられ,それらの関連は,リズム,及びイメ-ジが関わっている。その殆どが一連の活動 の中で活動の脈絡に沿って行なわれているが,中には,場面転換の際,複合した表現媒体 を使った表現活動が見られることもあった。 2) A子のごっこ遊びにおける役割取得は,自ら役になる場合の他,役を与えたり,与え られたり,複数の人数で決定する場面が見られた。その他,実在しない役を作りだしたり 急速,役を取り入れ,活動そのものを続けようとする行動が見られた。また,役割上の特 質として,虚と実の往来や,感情を込めた振り行為も見られた。 3)振り行為は,ネコの振りにみられるように,年齢発達に従って,その動き,表現も異 なってくる。特に, 4歳2カ月境を頂点として,ネコ役の振りの工夫が見られた。 以上,今回の観察事実に基づき幼児の表現の段階の一部を垣間見ることができた。これ らの「振り」遊びが, A子自身の「その役をやりたい」という欲求と,その役を遂行する 強い意志力の所産であることに注目したい。表現することは,すなわち,自発的な内面を 外在化しようとする行為とするならば,周囲の大人は,その内面の外在化された「表現の 世界」を受容し,認めると共に,その幼児の自発性を何よりも尊重しなくてはならないで あろう。ここで大切なことは,幼児の行動を「表現活動」として見る周囲の大人の目の深 さであろう。すぐ目の前で,幼児は自らの見つけたテーマで自発的に表現を行ない,それ は,一端深まり,又,他のものととって替わったり,消滅していくものであったりする。 しかし,それが幼児の内面的な表現であるという,その事実の認識が,幼児の表現の力を 育成する土台となるのである。 換言すれば,個人としての幼児が,周囲の生活から多くの取材をし,それを基に,幼児 の自分たち自身の表現世界を育み成長させている。それ故,周囲の大人が,その事実に照 らし,取材すべき情報を多く準備することが子どもの表現生活にとって重要ではないだろ うか。すなわち,幼児の表現活動とは,現実の生活から採取した種子が,遊びという時空 間の保証された肥沃な土壌の中で発芽し,育まれることであろう。その良き種子を準備す ること,そして,豊土を保証すること,さらに,発芽や育ちに共感する気持ちを持っことこのように考えることにより,幼児個人の表現する力を伸ばすべく援助できるのではない.
(13) 幼児の表弔生活に関する基礎的研究(n). 129. かと思う。 今後の課題として,そのような表現活動を生み出し,深める手立てとして,どのような保 育内容を構築していったらよいか-このことこそが,保育内容の領域にとっての本来の目 的といえよう。稿を改めて論じたい。 註 (1)津守真: 「保育現象の文化論的展開」 1979光生館p. 169 (2)津守は, 「その場で,観察者が魅きつけられる幼児の行動」を記録し,観察後「心に残った幼児 の動きや活動」を中心に記録を整理する手法を提案している。 (津守真: 「人間現象としての保 育研究1-3」 1974-1977光生館) (3) 「場にいること」 「主観の中の客観性」については, H.ダンナ一等の指摘があるが,本論におい ては,割愛した。 (4)拙著: 「幼児の表現生活に関する基礎的研究」 1991, 『兵庫教育大学研究紀要』第11巻pp. 93113. (5)表現媒体の複合性については,第44回日本保育学会にて一部発表済である1991,大会研究論文 集p.310 (6) 「振り」行為の名称については,高橋たまき「想像と現実一子どものふり遊びの世界」 1989, p.19 プレーン出版を参考にした。 (7)エリコニン,天野幸子訳: 「遊びの心理学」 1989,新読書社, p. 241.
(14) 130. Abstracts A BASIC STUDY OF THE EXPRESSIVE LIFE OF A CHILD (n) TOMOKO NASUKAWA This paper is an attemmpt to clarify the meaning of expressive activity of a child. The method of this research is an observing a child. (-from three-year to five-year old girl) once a week for 2 years. I recognized the following three points about the expressive activity of the child.. (l)The child's expressive activity has various media. Her expressions have different from expressive media which are used at the same time. Her activity that by mixed media are 50% of the all. Each medium has the rhythm image. And the change of situation which her activity has mixed media. (2)The roll plays have some methods. (3)A pretend play has changed an expressive activity by ages. She pretended to be a cat through various body movements..
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