歯科恐怖症患者への対応
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(2) 46. M. Kobayashi and others. Dental Med Res. 34. 図 1 当講座に紹介された特記すべき専門的な症例数(%)平成 24 年度. 図 2 静脈内鎮静法下での治療風景. 図 3 重度の歯科恐怖症患者症例.認知行動療法し, 笑気のマスクに慣れてもらった後,笑気下で点 滴確保し IVS を行った..
(3) Dental Med Res. 34. Treatments for Dental Phobia Patients. 47. はじめに. ⅰ)軽度の歯科恐怖症. 歯科恐怖症患者は歯科に対する恐怖心により歯科医院. 口腔清掃などから開始し治療に慣れてもらう.段階的. では十分な治療を受けることができず,歯科治療が困. に治療ステップを踏み,患者が通常下で可能な治療範囲. 難なため歯科医院で拒否されその後の治療を諦める例が. を把握する.痛みなどの恐怖を与えぬよう最新の注意を. 多い.その結果として口腔内の健康が損なわれ,患者の. 払う.患者は治療内容が把握できないため恐怖心を覚え. QOL 低下への影響は明らかであり大きな問題である.. ることが多い.理解しやすく丁寧な説明が重要である.. 当講座では多くの歯科恐怖症患者の治療を行っている. ⅱ)中等度の歯科恐怖症. が,歯科恐怖症の程度や要因が個々によって大きな違い. 意識下での歯科治療が困難,音やタービンの振動が怖. があるため,系統立てた治療計画を立てることが困難で. いなどの中等度の歯科恐怖症の場合は,笑気や静脈内鎮. 多大な時間とマンパワーを要し,まだ多くの問題点があ. 静法(intravenous sedation:以下 IVS)下で歯科治療を行う.. るのが現状である.この問題点の解決に向けて,個々の. 浸潤麻酔や根管治療の振動が恐怖な患者にはその時のみ. 歯科恐怖症患者の歯科治療を統合的・包括的に行うため. 鎮静したり,補綴物装着時などは通常下で行うというよ. に,歯科恐怖症患者を多方面から定量的に診断する方策. うに段階的に治療を行うなかで,患者の状態にあわせて. を確立することを目的として研究が現在進行中である.. 鎮静度を調整し通常下で行えるように導いていく(図 2) .. 1.歯科恐怖症の背景. ⅲ)重度の歯科恐怖症. 歯科治療に対して強い恐怖心を抱いている人の割合は. 体動が激しい,麻酔科の判断で IVS によるコントロー. 全世界で 5∼20%と報告されているが,歯科恐怖症の臨. ルが不可能な症例,外来にも入って来ることが困難な重. 1). 2). 床的な定義実態は明らかでない .牛山ら は 500 万人. 度の歯科恐怖症,治療回数が非常に多くかかると予想さ. 前後の国民が歯科受診を回避していると推測されると述. れる症例の場合は全身麻酔下で数回に分けての治療を考. べている.その結果,来院した時には口腔内崩壊が著し. 慮する.また精神科に対診し専門的なアプローチを受け. く,歯科治療回数が多くかかることになり,歯科治療途. ることも,有用であると考えられる.実際に我々は,極. 中で通院が途絶えてしまうことも少なくない.. 度の歯科・医科恐怖症,さらに強い先端恐怖症のために. 歯科恐怖症の形成要因に関して,Domoto ら3)は,歯. 病院の玄関すら入って来ることができなかった患者が,. 科恐怖症の多くが医原性であり,歯科治療時の苦痛体験. 精神科にて認知行動療法を受け,IVS 下で歯科治療を受. が現在の歯科恐怖の形成に影響を与えていると報告して. けられるようになった症例を経験している(図 3).. いる.一方で,歯科恐怖の発症が過去の治療体験だけに. 3.重度の歯科恐怖症患者の症例. よるものではなく,患者の性格を含め複雑な要因の組み. 21 歳,女性.右下臼歯の腫れを主訴に来院.既往歴に. 合わせによって惹起されるという報告もある.アンケー. 神経症性障害があり,ラメルテオン(ロゼレムⓇ) ,アル. トからは,幼少時に受けた歯科治療で強い痛みを感じた,. プロゾナム(ソラナックスⓇ)の薬物療法を受けている.. 浸潤麻酔で気分不快となった,無理やり抑制されたなど. 近歯科医院受診するも,浸潤麻酔をする時に泣き出し治. の経験から歯科恐怖症となった例が多くみられた.また,. 療困難のため,当科紹介となった.先端恐怖症のため笑. 歯科恐怖症患者は抑うつ,パニック障害,神経症性障害. 気下で点滴をとり,外来にて IVS を行うも体動が激し. 等の精神疾患を既往している患者が多く,歯科恐怖症の. く治療不可能となったため全身麻酔下で歯科治療を行っ. 形成要因に影響していると示唆される.. た.全顎的に及ぶ治療のため患者と相談し,抜歯 8 歯,. 2.当講座での対応. 根管治療 2 歯,齲蝕処置 9 歯,ブリッジ 4 個の治療を 4. 当講座は平成 21 年 4 月に発足し,主に大田区,目黒. 回に分け施行し,補綴物装着は外来にて通常下で行った.. 区,品川区,世田谷区,港区,神奈川県からの紹介患者. 4.問題点. に対応している.平成 24 年度の実績では,105 例の歯. IVS は歯科恐怖症患者から恐怖心を開放し,歯科治療. 科恐怖症患者に対して個々に適した方法を適用して歯科. 中の記憶もないことが多いため大変有用である. しかし,. 治療を行った(図 1).問診(歯科治療歴,恐怖症となっ. 多くの治療時間と治療回数を要し,ユニット, マンパワー. た要因・原因,特定な苦手の歯科治療,可能通院頻度,. 不足も問題である.歯科恐怖症患者が通常下でも歯科治. 基礎疾患の有無,常用薬,笑気・静脈内鎮静法下の歯科. 療を受けることができるよう,IVS 下での歯科治療の中. , 治療の有無など), 口腔内診査(歯式, ポケット測定など). で痛みの伴う処置のみ鎮静し,徐々に鎮静を浅くしてい. エックス線所見を統合して歯科恐怖症を定性的に軽度,. き覚醒に近い状態で根管貼薬や補綴物装着,齲蝕処置等. 中等度,高度に分類し,分類に準じて以下の治療を行っ. を施行する方法が有効であると思われる.各々の歯科恐. ている.. 怖症患者の歯科治療に IVS が本当に必要か否かを判断.
(4) 48. M. Kobayashi and others. Dental Med Res. 34. 表 1 歯科恐怖症アンケート内容 調査項目 内容 Dental Fear Survey(DFS) 歯科恐怖・不安の程度 Hospital Anxiety and Depression 抑うつ・不安 Scale(HADS) NEO Five Factor Inventory 人格特性 (NEO-FFI) 患者背景 年齢,性別,既往歴,家族構成, 鎮静法下での歯科治療の有無など 表 2 人格特性 NEO-FFI 人格特性 測定内容 神経症傾向:Neuroticism 不安,敵意,抑うつ,衝動性など 外向性 :Extraversion 活動性,刺激希求性,群居性など 開放性 :Openness 審美性,空想,アイディアなど 調和性 :Agreeableness 利他性,優しさ,他者への信頼など 誠実性 :Conscientiousness 達成追及,自己鍛錬,秩序など するスクリーニングができれば,問題の改善に貢献でき ると考えられる.歯科恐怖症患者の多くが過去のトラウ マやパニック障害, うつなどの精神疾患既往があり,個々 の性格や実態を把握することは難しい.また,全身麻酔 症例では短期間のうちに数回の全身麻酔をかけるという 体への負担や費用面での負担がある. そこで当講座では, これらの問題点を改善し,歯科恐怖症患者の実態を把握 して個々に適した歯科治療の手段を確立することを目標 に以下のアンケートによる研究を行っている. 5.当講座での歯科恐怖症研究 調査内容:以下の各分野に分配された質問内容のア ンケート用紙を配布し,第一回目の歯科治療が始まる前 に回答してもらった.ⅰ)歯科恐怖・不安の程度-DFS 2, 3, 6) ⅱ) 抑うつ・不安-HADS (Hospital (Dental Fear Survey). Anxiety and Depression Scale)4,5) ⅲ)人格特性-NEO-FFI 7∼13) ⅳ)患者背景:年齢, (NEO Five Factor Inventory). 性別,既往歴,常用薬,IVS 下における歯科治療経験の 有無,家族構成(表 1,2) . 6.まとめ 本調査は実際の臨床において患者固有の人間性や抱い ている恐怖を理解し,患者の実態を把握する手がかりに 有用であると考えられる. 今後さらなる検討を行い,各々 の歯科恐怖症患者の歯科治療に IVS が本当に必要か否 かを判断する基準を設け,IVS 下で治療を受けてきた患 者が通常下で歯科治療を受けることができるような有効 的な方法を考案していきたい.. 文 献 1)Zigmond AS, Snaith RP: Hospital Anxiety and Depression Scale(HAD 尺度) .北村俊則 訳.精神科 診断学,4: 371 372, 1993 2)牛山 崇:歯科治療恐怖症に関する臨床的研究(1). ―行動理論の立場から―.日口腔外会誌,27: 43 61, 1981 3)Domoto PK, Weinstein P, Shimono T: The prevention of dental fear. 岡山歯会誌,6: 13 19, 1987 4)Kleinknecht RA, Klepac RK, Alexander LD: Origins and characteristics of fear of dentistry. J Am Dent Assoc, 86: 842 848, 1973 5)佐野富子,田邊義浩,柳田響子,野田 忠:定期的 な歯科受診は歯科恐怖を和らげる.新潟歯学会誌, 33: 267 268, 2004 6)佐野富子,田邊義浩,野田 忠:歯科恐怖に関する 研究―第 1 報 Dental Fear Survey を用いた調査―. 小児歯誌,39: 865 871, 2001 7)瀬古和秀,各務秀明,千賀勝広,兼子隆次,林 常 敏,重冨俊雄,水谷英樹,上田 実:口腔外科受診 患者の心身医学的評価に関する臨床的研究.日口腔 外会誌,44: 195 201, 1998 8)野口義之,岡部弘道,野口博敏,近藤 衛,和田 寿,山崎 剛:運動選手の性格特性についての研究. 体育学研究,2: 227 233, 1957 9)Costa PT Jr, McCrae RR, 下仲順子,中里克治,権藤恭 之,高山 緑:日本版 NEO-PI-R, NEO-FFI 使用マニュ アル(NEO-PI-R, NEO-FFI manual for the Japanease version) .改訂増補版.東京,2011, 東京心理株式会社 10)Kiyak HA, McNeill RW, West RA, Hohl T, Heaton PJ: Personality characteristics as predictors and sequelae of surgical and conventional orthodontics. Am J Orthod, 89: 383 392, 1986 11)AI-Omiri MK, Abu Alhaija ES: Factors affecting patient satisfaction after orthodontic treatment. Angle Orthod, 76: 422 431, 2006 12)Abu Hantash RO, AI-Omiri MK, AI-Wahadni AM: Psychological impact on implant patients oral healthrelated quality of life. Clin Oral Implants Res, 17: 116 123, 2006 13)AI-Omiri MK, Karasneh J: Relationship between oral health-related quality of life, satisfaction, and personality in patients with prosthetic rehabilitations. J Prosthodont, 19: 2 9, 2010.
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