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「のだ」の意味・用法

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(1)Title. 「のだ」の意味・用法. Author(s). 吉見, 孝夫; 劉, 笑明. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 55(2): 17-25. Issue Date. 2005-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/799. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育人学紀要(人文科学・社会科学編)第55巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.55,No.2. 平成17年2月 February,2005. 「のだ」の意味・用法. 吉見 孝夫・劉 笑明* 北海道教育人学札幌校国語学研究室 串天津外国語人学. 目 次 1 はじめに 2 説明の方法. 2−1 意味の規定 2−2 因果関係の文 2−3 非因果関係の文 3 告白・意志・命令・心内発話の用法 4 「のだ」による複合型 5 スコープの用法. 5−1 疑問 5−2 否定 6 感情に関わる表現 7 まとめ. 1 はじめに 「のだ」は準体助詞「の」+判断辞「だ」か,それともモダリティの助動詞として見るかについて,次の ように判断してよいだろう. (1)これが僕のだ.(作例) (2)そうか.時間がないんだ.(赤p.102) 上例(1)の「のだ」は省略できない.もし省略すれば,正しい文にならない. *(1)’これが僕. (2)’そうか.時間がない. のように,(1)の「のだ」は「の+だ」であり,「の」は具体的な「もの」を指す.このような文は本稿の考 察範囲にならない.しかし,(2)の「のだ」は省略しても,(2)’のように文成立に直接影響を及ぼさず,「のだ」 は命題の要素として働かないことを示すため,一つのモダリティと見なすべきである.普通,「のだ」,「んだ」, 「のです」,「んです」,「のである」の形で現れるが,これらは文体の差であり,機能は同じである.動詞, 形容詞または名詞+ダという述語用言に接続する.「のだ」にはモダリティを表す用法とスコープ(柱1)を表 すという用法があると指摘されている.本稿は,先行研究に触れながら,「のだ」の意味・用法を把握したう えで特に感情に関わる表現を考察する.. 17.

(3) 吉見 孝夫・劉 笑明. 2 説明の用法 2−1 意味の規定 先行研究では,「のだ」は一般的にモダリティの助動詞として,説明のモダリテイ. (柱2)の枠に帰属させて. 論述されることが多かった.一般に,ある事柄や状況について十分に理解できない聞き手に,理解させるよ うに努力する,という話し手の言語行為は説明と呼ばれる.「のだ」はそのような機能を持つため,説明の モダリティと呼ばれていると考える.また野田(2002)では,「く説明〉 のモダリティとは,典型的には,先 行する文で示された内容が聞き手にわかりやすくなるように,く事情〉 く帰結〉 などを後の文で示すものであ る.」(p.230)と述べている.例えば, (3)翌日は,朝,早く目が覚めた.電話が鳴ったのである.(スp.283) (4)私は,怪我をして,医者に通ってるんだ.(雪p.6) のように,用例(3)について,「朝,早く目が覚めた」く事情〉が,「電話が鳴った」の部分で説明されている. 用例(4)について,換言すれば,「(私が)医者に適ってる」ことの説明は「(私が)怪我をした」ことだ,と. いう解釈をすることができる.このような「のだ」の く説明〉 としての用法については,田野村(1990)で は,「「のだ」が基本的に背後の事情を表すものであることの結果として実現する効果の一つと見るのが適当 だ」(p.25)と述べられている. (3)’翌日は,朝,早く目が覚めた.電話が鳴った. (4)’私は,怪我をして,医者に通ってる. 実際,(3)と(4)の「のだ」を省略してみると,(3)’と(4)’のような「朝,早く目が覚めた.電話が鳴った」,. 「私が怪我をして医者に通ってる」という事柄的内容はもちろん,話し手の説明する気持ちにもそれほど変 わりはないようである.特に(4)の「のだ」を除いて,無標のモダリティとしての述語文の場合でも,話し手 の説明する気持ちを伴い,結局,そのく説明〉 というのは「(私が)怪我をした」ことと「(私が)医者に通っ. てる」ことの問の因果関係が醸し出すものであると見なされる.したがって,話し手の説明の気持ちを「の だ」の本質的意味特徴と考えるよりは,ある条件のもとで「のだ」が文に付随するものと考える.すると,「の だ」のより本質的意味特徴はどこにあるのだろうか.三上(1953)では,「何々スル,シタ」を単純時,「何々 スル,シタ+ノデアル,アツタ」を反省時と対立させ,「「何々スル」を既成命題とし,それに話し手の主観. 的責任の準詞「ノデアル」を漆えて提出するというのが反省時の根本的意味であろう」とし,また「反省時 による解説は文脈の解決をめざすものだから,何らかの場面を前提として使われるものである.つまり前文 と関係的に出てくるものであって‥・」(p.238−242)という指摘が見られ,「のだ」の本質的意味特徴の一 面を的確についている.. このような「のだ」の達文的性質または関係性を認める立場にある論考としては他に,国広(1984),田 野村(1990),奥田(1990)などが挙げられる.本稿もこの立場に即して,「のだ」の基本的意味特徴を次の ように規定する.. 話し手が自分の内省に基づいて,ある事柄PとQの問に何らかの関係があることを認め,その関係成立 が真相であることを主張する.さらに言えば,二つの事柄の関係成立を認めるに際して典型的に因果関係を 構成することが多いため,話し手の説明の気持ちが醸し出される場合も多い.「PはQのだ」という文型は, 基本的には,典型的な題述文「ⅩはYだ」という文型と同じである.Pは名詞的概念だけでなく,コトを 内容としている場合が多く,表面上Pを欠くことも多い.Pは,その発話の場面の,発話者の関心の対象 となる状況を指しているのである.. 説明のモダリティを表す「のだ」の定義は,先行文を情報として話し手自身が捉えて認識したうえで,そ. 18.

(4) 「のだ」の意味・用法. れを聞き手にどう伝えるかを示している表現であると言えよう.つまり「のだ」は先行文そのものを指示す る言語形式ではなく,その先行文を話し手が捉えている視点を示すものとして使われていると言える.しか も先行文だけではなく,話し手が文脈上聞き手を意識して使用するモダリティであると考える.. したがって,次に「のだ」文には二つの事柄との前後関係について,一体,どうなるかを究明しなければ ならない.説明のモダリティを表す「のだ」について,日本語記述文法研究会(2003)は, ・私,明日は来ません.用事があるんです.(提示・関係づけ) ・あいつ,来ないなあ.きっと用事があるんだ.(把握・関係づけ) ・スイッチを押すんだ!(提示・非関係づけ) ・そうか,このスイッチを押すんだ.(把握・非関係づけ)(p.195). のように,四種類に分けている.本稿では,事柄の前後関係によって,説明のモダリティを表す「のだ」を 大きく二種に分けることにする.一つは因果関係を構成するものであり,もう一つは非因果関係を構成する ものである.. 2−2 因果関係の文 因果関係を構成する文における「のだ」の関係認定について,事柄の問の関係認定のために,原則的には 関係づけられる事柄PとQの存在が要求される.Pを点線,Qを波線で示す. (5)昨日は学校を休みました.頭が痛かったんです.(中p.282). (6)昨夜2時間ぐらい停電した.発電所に吾が落ちたのだ.(初p.270) (7)(デパートで泣いている子どもを見て)きっと迷子になったんだ.(中p.282) (8)彼は私を殺すために来ているんだ.(赤p.49) (9)ママが忙しそうだから帰るんだ.(失p.18) け0)あいつはだいたい,つきあいを知らないよ.だから人気がないんだ.(裁p.51). 且1)かず子がいるから,かず子がいてくれるから,私は伊豆へ行くのですよ.(斜p.22) 例のように,前後文の問に原因・理由を表す接続助詞や接続詞があってもなくても,(5)∼(7)のように,後 文はすべて先行する文の理由を述べ,(8)∼(11)のように,先行する文は後文の理由を述べるものである.. つまり文によって前文と後文の原因・理由は固定していない.しかし現れた事柄に対して,話し手の認定に よって表現のニュアンスが異なる.(5)と(6)は,その事態を聞き手にすぐ認識させようとする,話し手の気持 ちを表すが,(7ト項0)は,その事態が確実かどうかはさておき,話し手自身がまずそのように事態を認定・把 握したうえで聞き手に認識させようとする話し手の態度を表す.且1)は,実現されていない未定の事柄である. が,そう決まっていて,話し手に既定の事柄として認識・把握されている.発話の流れの中で,聞き手と話 し手と共通の理解を得ていて特に言わなくても分る場合とか,コンテクストから繰り返す必要がない場合と かに,Pに該当する部分を省略することができる.「のだ」は基本的にある事柄と事柄の関係性を認める形 式であり,関係性存否だけを問題にするため,時間的に前後して成り立つ く前提帰結〉の論理的矛盾など は中和されるのではないか.「のだ」によって関係づけられる事柄PとQは典型的には,原因(理由・前提) 結果(結論・帰結)または結果原因といった因果関係を構成する.また,過去の事態にも用いられる. 且勿 鈴木は身支度を始めた.6時からパーティーに出かけるのだった.(現p.202) のように,書き言葉では,物語の進行している過去の時点に作者が視点を移しているときに,因果関係の「の. だ」が「のだった」の形をとることがある.過去の事態について,その事情などが提示される.. 19.

(5) 吉見 孝夫・劉 笑明. 2−3 非因果関係の文 非因果関係を構成する文については,比較的複雑であり,多種の用法がある.例えば, 個 明日は入社式だ.明日からは社会人なのだ.(中p.284). ㈹ それで歳は三十七歳.なんとぼくとまったく同じ年なのである.(いp.107) のように,先行文脈の内容を,聞き手にとって分りやすい形式で言い換えることができる.. 個 は,「明日は入社式だ」を「明日からは社会人だ」と言い換えている.㈹の事柄Qは,事柄Pの言い 換え,付言と言えるもので,二つの事柄の問に特に因果関係は認められない.この場合,「のだ」の文の前 の内容を「のだ」の文が要約する形式になることが多く,前の部分で分らなかったことが「のだ」の文を見 て明確になる. また,「のだ」による非因果関係の文にはいわゆる発見と再認識(想起)という用法もある.例えば, ㈹(それまで分らなかった機械の使い方が分ったとき)なんだ,このボタンを押せばいいんだ.(初p.273). ㈹ (なくしたと思っていた傘を見つけたとき)なんだ,こんなところにあったんだ.(初p.273) 且7)(掲示板を見て)明日会議があるんだ.(中p.285) のように,それまで分らなかったことがそのときにはじめて分ったということを示す発見の用法である.「の だ」が表す発見は,いわば,先行文脈内で未解決だった問題に対する解答を見つけたということと言える. ㈹ (会社を出ようとしたら雨だった)今日は夕方雨が降るんだった.(中p.286) ㈹ この道はよく渋滞するんだった.(中p.286). のように,「のだ」自体が夕形になる場合がある.この「のだった」という形式は再認識(想起)を表すも のである.且鋸ま,出かける前に「夕方雨が降る」という天気予報を聞いていたが,それを忘れていて,会社 を出るときに雨が降っているのを見てそれを思い出したという場合に使われる.この場合,「夕方雨が降る」 という情報は発話時に初めて認識したものではないので,「のだ」は使われず「のだった」が使われる.且鋸ま, 以前この道に来たことがあり,渋滞するということを知っていたのに,それを忘れてこの道に入ってしまい, 渋滞に巻き込まれたときにその事実を思い出したという場合に使われる. 錮 彼女は去年大学を卒業したんだった.(中p.287) のように,「のだった」の前の述語が夕形になる場合もある.この場合の夕形は通常の過去であると考える.. もちろん「明日研究会があった」のように,夕形でも再認識(想起)を表せる場合があるが,夕形で再認識 が表せるのは一部の状態性の述語に限られるのに対して,「のだった」はどのような述語についても再認識 を表すことができる.. 3 告白・意志・命令‥心内発話の用法 「のだ」には説明のモダリティを表す用法以外,場合によっては,話し手の告白や意志や命令や心内発話 などを表すことができる. ¢1)本当に私は知らないんです.(作例). のように,告白する調子や聞き手に訴えかける調子を感じさせやすい.「のだ」は,話し手自身の心情や個 人的な事情を表現する.先行する文や状況と関係づけていない. 鋤 それに少しでも時間を稼がなくては.最後まで希望を捨てずに頑張るのだ.(赤p.160) 幽 さっさと帰るんだ.(中p.290). 餌 この男は肘来の悪いドラマの見すぎなのだ.私はただ黙っていた.(どp.145) のように,¢飢ま,話し手がその実現・成立を望ましいと認める,その決心・意志を表明する.¢飢ま,話し手が. 20.

(6) 「のだ」の意味・用法. 聞き手に直接命令を下すという言い方であり,目下の相手にしか使わない.(24)では,心内発話や独話で あり,聞き手に伝えようとしているのではない.「のだ」の先行文脈は末実現の事柄であるため,非過去形 に接続する.. 4 「のだ」による複合型 「のだ」自体とほかの認識・判断のモダリティ形式が複合している発話表現がある.話し手の推測や判断 を表す「だろう,かもしれない,にちがいない,そうだ」が「のだ」に接続することもできる. 組 佐藤さんは,さっきからずっと表をチェックしている.間違いがないかどうか気になるんだろう.(演 p.14) 錮 きっと病院に入院する前で金がいるのだろう.(渦p.23) ¢7)キリスト教徒であることをハツキリいうことも,ある意味では,私の弱さの表明なのかもしれない.(生 p.48). 紬 日曜で会社は休みのはずだが,吉田くんは電話に出ない.洋子さんとデートをしているのかもしれな い.(初p.274) 鋤 このクーダーの男はヴァイオリンをやったことがあるのに違いない.(赤p.160). 如)あとで聞いたことだが,社長は朝早く村雨さんの病院まで行き,いろいろ相談したのだそうだ.(こ p.97). これらは意味的に「のだ+認識のモダ. リティ形式」と考える.この場合の意味は,「のだ」の意味と,認. 識のモダリティの意味を合わせたものとして考えられる.「のだ」文の最後に「だろう,かもしれない,に ちがいない,そうだ」があるかないかが,この違いが両者の意味の違いに反映している.¢克と錮の「だろう」 では,話し手は見たり聞いたりしたことから他者の行為や状況に対して,主観的に推測・判断する.¢7)と¢鋸ま, 客観的に現れた状況による認識・判断の発言であるが,話し手はその妥当性を確信しているわけではなく, その可能性があると考えていることを表すために「かもしれない」を使っている.¢鋸ま,話し手が何かの状 況によって強い主観的な判断を表す.如)は,話し手が客観的に現れた状況によって根拠のある判断を表す. しかしこのような場合の「のだ」は話し手以外の他者の説明を表し,話し手の説明を表さない. また「のだ」は,話し手の判断を表す「らしい,かもしれない,にちがいない,はず,べき,. なければな. らない」に接続することができる. 純 子供のころはのんびりと育ったらしいんだ.(ブp.107) 鋤 なに,君がいなかったら,あの銘器たちは,全部失われていたかもしれないんだ.(赤p.209) 錮 ぼくのママもパパも,うんと心配しているにちがいないんだ.(ブp.92) 糾 それが事実なら,正当防衛が成立して,夕子は無罪になっていいはずなのだ.(花p.105) 師 よそから来たぼくが,それに従うべきなんだ.(ブp.48) 錮 客から金をもらう以上,おヤキ屋は本物のおヤキを売らなければならないのだ.(生p.111). 「のだ」が以上の諸認識系モダリティ形式を外郭から包み込む形で複合するのである.このことは,他の 諸認識系モダリティ形式が事柄自体に対する認識・判断を表すのとは異なり,「のだ」は基本的に事柄と事柄 の問の関係性認定形式であることと密接な関連を持つことを物語る.そのため,事柄自体に対する認識・判 断を示す諸形式が先行し,その判断を受けた事柄と他の事柄との関係性の認定がさらに「のだ」によって示 される.「のだ」は,受ける命題内容と他の事柄との間に何らかの関係性が認められ,その関係成立が真相 であると説明する形式である.「のだ」による情報は聞き手と共有するものではなく,話し手自体が認識・把. 21.

(7) 吉見 孝夫・劉 笑明. 挺したものである.認識・判断のモダ. リティについては,宮崎他(2002),日本語記述文法研究会(2003)な. どに詳しい.. 5 スコープの用法 説明の用法ではない疑問と否定の用法について,野田(1997)はスコープで説明している.本稿は野田(1997). の立場に立って疑問と否定の用法をスコープの枠に帰属して考察する.. 5−1 疑問 抑 田中さんは大学生なんですか.(初p.276) 細 田申さんは頭が痛いのですか.(初p.282) 鍋 田申さんは何を見たのですか.(初p.283). のように,抑は,本来「のだ」が必要でない疑問文で「のだ」を使うと,その文が正しいことを疑うとい うニュアンスが生じやすくなる.つまり「田中さんは大学生ではない」という含みが感じられやすくなる. こうした場合に生じる含意は聞き手に不快感を持たせる可能性がある.郎)は,田中さんが額に手をあててい. る様子を見て,その理由が「頭が痛い」ことなのかどうかを尋ねるということが考えられる.「のだ」の疑 問文では,何かの関係づけが文に現れなくても,話し手が認定している部分(前提)を考慮しなければなら ない.β鋸ま,話し手が田中さんに尋ねる前に,「田中さんが何かを見た」ということを知っている前提で発 話する.なお,「のだか」の形式は使用されず,「のか」になる.. 5−2 否定 佃 私はこのカメラを新宿で買ったのではない.(中p.303) 姐)父も,すでに何年か前から,勝沼に女がいることに気づいています.私が言ったのではありません.(錦 p.322) のように,「のだ」の否定の形が「のではない」である.「のではない」は,文全体が正しくないということ. ではなく,文の一部が正しくないということを示す.佃では,否定の対象となる部分は「新宿」である.姐) では,否定の部分は「言った」である.しかも否定の部分が音声的に強調されるという特徴がある.話し手 がその前に言ったことから,聞き手が推論しそうなことを予想し,それを否定している.「のではない」自 体には,推論の否定という機能はない.上のような文脈に支えられて,用いられうるというだけである.「の ではない」の場合は,「の」自体は実質的な意味を持たず,その前の部分を名詞句化するという機能を果たす. これは名詞述語文の否定と同様の性質を持つ.. 6 感情に関わる表現 ここまで「のだ」の多様な用法を考察したが,次に感情表現との関わりについて検討してみる. 国立国語研究所(1951)には「根拠のある説明,理由の提出,回想,二重判断,強調などの意を表す」(p.172). と記述されている.他に,非難,後悔,感嘆などの感情を表す用法がある.しかしこのような多様な意味・ 用法も,「のだ」の基本的意味・機能から産出されたもので,いわゆる「のだ」の用法の拡張であり,その基 本的意味特徴の「関係認定性」が諸文脈で作り糾す用法のバリエーションと見なされる.「のだ」による感 情表現は「のだ」,「のだった」の形式で表す.. 22.

(8) 「のだ」の意味・用法. ㈹ 君は大学生なんだ.もっと勉強しなさい.(中p.290) のように,聞き手が知っていることを改めて認識させ,相手に対する非難を表すものである. ㈹ こんなことなら,早くから準備しておくんだった.(現p.191). のように,ある行動を実行しなかったことに対する後悔を表す.「のだった」は過去に,しなかったことを 反省し,話し手は命題内容に対する認識によって一種の残念な気持ちを込めて心的態度を表明する. ㈱ 女というものはわからないと,山本はしみじみ思うのだった.(現p.202). のように,物語の進行の中で重要な意味を持つ出来事の発生を詠嘆的に述べる場合は「のだった」も用いら れる.「のだった」の文では命題の主体は話し手でも他者でも可能である.. 典型的な感嘆を表す「のだ」の用法は通常,副詞「なんと(なんて)」と共起して呼応する.文末には述 語が名詞以外の場合は,「のだ」「のだろう」の形で表す. ㈲ 渡辺さんはなんと流暢に英語を話すのだ.(中p.243) ㈱ このステーキはなんてやわらかいのだろう.(中p.243) 挫7)この花はなんとかわいいんだろう!(現p.85). のように,感嘆は話し手の感情をそのまま表出するものなので,特に話し言葉では主体を明示する完全な文 型をとらず,「なんと,なんて」以下の部分だけで表現されることもある.「なんと,なんて」を用いた感嘆 文は発話時に話し手の驚きという気持ちが含まれている. そのほか,「のだ」は実質的な意味を持つ感情用言または願望を表す「たい」に接続することができる. ㈹ おれはだんだん年寄って行かれる父上をどういう事でも苦しめるのは非常にこわいのだ.(暗p.118) 働 このように彼女はかんかんに立腹しているのである.(集p.87) 餉 云いたいようなのが実は私には嬉しいのだ.(浮p.56) 61)浅井はそれがうれしいのだ.(人p.137) 鋤 あの自然があればこそ,私は生まれ故郷に住みたいのです.(接p.89) 幽 かれは早く仕事がしたいのです.(助p.46). のように,㈹∼仰の「のだ」は感情を表す用言につくものである.この場合,「のだ」の前の先行文脈は既 定の事柄であるため,話し手または他者の感情は客観的な事態で表されている.話し手は既定の感情を述べ るのである.感情の主体が話し手の場合,聞き手にその既定の気持ちを説明する.感情の主体が他者の場合, 話し手は何かの根拠によって他者の気持ちを判断する.「のだ」は説明と判断の両面性を持つ.6勿と幽の「の だ」は「たい」につくものである.文の主体は話し手でも他者でも話し手は既定の願望を述べる.要するに, 「のだ」は感情用言と「たい」に接続する場合は,話し手が発話時における感情,願望を表すわけでもなく, 直接的な心的態度の表出でもなく,文は一種の客観的な叙述である.. 7 まとめ 以上,「のだ」の意味・用法について考察した.「のだ」の用法は主として説明の用法とスコープの用法が. ある.また説明の用法には因果関係の文と非因果関係の文がある.因果関係の文において,話し手は二つの 事柄の関係認定によってその結論を聞き手に認識させようとする,という説明の態度を表明する.非因果関 係の文において,話し手は自ら認識した事柄を把握して状況を説明する.スコープの用法で典型的なものは 疑問文と否定文である.話し手の発話は何かの前提によって引き出される表現である.その前提は話し手の 認定・判断によって成立する事態であるため,説明の用法から判断への傾斜と見られる.説明の用法でも, スコープの用法でも「のだ」は話し手の心的態度を表すことができるが,「のだ」の先行文脈は外的または. 23.

(9) 吉見 孝夫・劉 笑明. 内的に既定の事柄である.そのほか,感情に関わる表現では会話文の中で文脈によって後悔や非難や感嘆な どの用法がある.このような場合は,話し手の気持ちを直接に表し,情意表出と言ったモダリティを有する. これらの表現は「のだ」の基本的な意味・用法からの転用と見なすべきである.. 注 1)野田(1997)は,「のだ」について,説明のモダリティを表す以外疑問や否定などの用法をスコープと呼んでいる. 2)説明のモダリティについては,寺村(1984),田野村(1990),益岡(1991),野田(1997),日本語記述文法研究会(2003) などの研究が見られる.. 用例出典 (赤)赤川次郎. 『赤いこうもり傘』角川文庫. (初)庵功雄他. 『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク. (中)庵功雄他. 『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク. (人)石川達三. 『人間の壁』新潮文庫. (集)井伏鱒二. 『集金旅行』新潮文庫. (渦)円地文子. 『渦』集英社文庫. (雪)川端康成. 『雪国』新潮文庫. (ス)北村 薫. 『スキップご 新潮文庫. (援)木村剋己他『すぐに使える実践日本語シリーズ13接続詞(初・中・上級)ご 専門教育出版 (演)三枝令子他『R本譜文法演習・話し手の気持ちを表す表現一モダリテイ・終助詞−ご スリーエーネットワーク (い)椎名 誠『いまこの人が好きだ』新潮文庫 (暗)志賀直裁『暗夜行路』新潮文庫 (浮)庄野潤三『浮き燈台』新潮文庫. (斜)太宰 治『斜陽』新潮文庫 (こ)つかこうへい『この愛の物語』角川文庫 (花)夏樹静子『花の証言』角川文庫 (現)日本語記述文法研究会『現代日本語文法4第8部モダリテイ』くろしお出版 (ブ)星 新一『ブランコのむこうで』新潮文庫 (生)三浦綾子『生きること思うこと』新潮文庫 (裁)三浦綾子『裁きの家』集英社文庫 (錦)宮本 輝『錦織』新潮文庫 (助)三古礼子他『すぐに使える実践日本語シリーズ15助動詞(上級)』専門教育山版 (ど)山本文緒『どこかではないここ』文蛮春秋 (失)渡辺淳一『失われた椅子』文春文庫. 参考文献 安達太郎(1999)『日本語疑問文における判断の諸相』くろしお出版. 奥田清雄(1990)「説明(その1)−のだ,のである,のです−」『ことばの科学4』pp.173216,むぎ書房 菊地康人(2000)「「のだ(んです)の本質」『東京大学留学生センター紀要』10,pp.2550,東京大学留学生センター 国広哲弥(1984)「「のだ」の意義素覚書」『東東大学言語学論集』84−12,pp.59,東東大学文学部言語研究室. 小金丸春美(1990)「ムードの「のだ」と「スコープの「のだ」」『日本語学』93,pp.7282,明治書院 国立国語研究所(1951)『国立国語研究所報告3現代日本語の助詞・助動詞一用法と実例一』秀英山版. 田野相思温(1990)『現代日本語の文法Ⅰ「のだ」の意味と用法己 和泉書院 (1993)「「のだ」の機能」『日本語学ご12−10,pp.3442,明治書院 寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱご くろしお山版 日本語記述文法研究会(2003)『現代日本語文法4第8部モダリティご くろしお山版 野田春美(1993)「「のだ」と終助詞「の」の境界をめぐって」『日本語学j12−10,pp.4350,明治書院. 24.

(10) 「のだ」の意味・用法 (1997)『の(だ)の機能ご くろしお山版. (2002)「説明のモダリテイ」宮崎和人・安達太郎・野田春美・高梨信乃『新日本語文法選書4モダリティご, pp▲230260,くろしお州版 野村真木夫(1995)「日常会話における「のだ」発話」『表現研究』62,pp.65一別,表現学会 益岡隆志(1991)『モダリティの文法』くろしお山版 三上 章(1953)『現代語法序説』刀江書院 宮島達夫・仁田義雄(1995)『日本語類義表現の文法(上)』くろしお山版 山口佳也(1975)「「のだ」の文について」『国文学研究』56,pp.1224,十稲田大学国文学会. この稿は,劉の書いた第1次原稿に吉見が若干の手直しを加え,劉が改めて書き直して成ったものである.. (吉見 孝夫 札幌校教授) (劉 笑明 天津外国語大学助教授). 25.

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