発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか? ~ 講義受講前後の「教師ビリーフ」得点の変化と講義振り返りの分析 ~
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は 教職大学院の講義でどう変わるか? ~ 講義受講前後の「教師ビリーフ」得点の変化と講義振り返りの分析 ~ 川 俣 智 路*. 1.問 題 教職大学院における講義において、大学院生は何を学ぶのだろう か。学習環境のデザインは大島(2007)によると学習者中心の考え 方、知識中心の考え方、評価中心の考え方、共同体中心の考え方の 4つの基本的な考え方により構成されているとされている (図1) 。 大学院の講義を1つの学習環境であると考えたとき、これらは院生 が学ぶ内容を把握しており、後の学習の転移に繋がるような正しい 必要な知識を獲得することができ、そこに適切なフィードバックが 行われ、そしてこうした3つの環境の必要性を教職大学院全体が把 握していること、大島が提言した図1はこのように教職大学院のあ るべき学習環境として理解することができるだろう。. 図1 学習環境デザインの考え方 (大島、2007) . しかし先の述べた「正しい必要な知識」とはどのようなものであ ろうか。教職大学院は、すでに勤務している教員、また学部の教員養成課程を修了している学生の学 びの場である。牛渡(2010)は教職大学院の果たすべき意義として教員養成の「高度化」であるとし て、単なる知識の獲得ではなく「自らの暗黙知(価値観や前提)を絶えず吟味する姿勢や本質思考の 姿勢を身につけること」が重要であると論じている。高木(2012)は、学習の際にこれまでの知識や 経験を整理し新たな学びが成り立つようにするための 「まなびほぐし」 の重要性について述べている。 佐伯(2011)によると、 「まなびほぐし」とは「身体技法(学び方) 」あるいは「型」を「問い直し」 「解体して」「組み替える」ことである。高木(前掲、2012)は「まなびほぐし」のプロセスを次の ように説明している。 ① 新しい課題・対象の発見または提示 ② 新しい課題・対象と従来の「型」の不一致の発見 ③ 多様な可能性の探索を通した従来の「型」の組み替え ④ 新しい「型」を通した「ソリューション」の発見と共有 つまり高度な専門性を身につけるためには、これまでに学んできた知識や経験と向き合いリセット し、そこから新たな知識を構築していくような、そういった学習が求められるのである。教職大学院 の講義は、単純に形式的知識を増やすだけではなく、このような今までの経験や自分が頼りにしてい る暗黙知を整理して再構成できるような、そういった内容が求められているのである。 ───────────────────── *. 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)札幌. 23.
(3) 川 俣 智 路. 筆者が担当している生徒指導・教育相談の分野では、 とくにこうした「まなびほぐし」が重要となっ てくる。教職大学院の院生は教育実習、あるいは教職経験の中で対応の難しい生徒や保護者と出会っ た、あるいは指導方法がわからない、相談を十分に受けることができないといった経験を経て、より 高い専門性を身につけることを希望していると考えられる。しかし、生徒指導・教育相談の分野にて より高い専門性を身につけるためには、これまでの知識や経験にとらわれず事例を柔軟に捉える視点 が必要となってくる。そのためには、 「まなびほぐし」によるこれまでの経験や知識の解体と、その 再構築が必要不可欠であると考えられる。 河村・国分(1996)は教員の「ねばならない」型の強迫的な指導の傾向を測る尺度として「イラショ ナル・ビリーフ尺度」を開発し、特に教員は「ねばならない」という強迫的傾向が他の社会人や教員 以外の教育関係者と比較して高いことを示している。また石隈(1999)は、教員は不合理なビリーフ を持ちやすく、こうした不合理なビリーフが思い通りにならない子どもへの体罰に繋がることや教員 の抑うつ状態と関連していると述べている。こうした不合理なビリーフがあることにより、効果的で 児童・生徒にとって安心できる生徒指導や教育相談が阻まれている可能性が考えられる。 このように「まなびほぐし」は高い専門性を身につけるために必要な学びであり、特に生徒指導・ 教育相談分野においては教員が抱きやすい生徒指導・教育相談に対する不合理なビリーフに対処する ためにも重要である。. 2.研究目的 本研究の目的は、 「まなびほぐし」を意図した教職大学院の講義が実際に院生の「まなびほぐし」 をどれだけ促しているかについて検討し、院生の「まなびほぐし」を促す講義とはどのようなものか について検討することである。 実際の教職大学院の講義において、教員の不合理なビリーフを低下させることを目的として教員の 「まなびほぐし」を意図した講義を実施した。この講義の前後により教員の不合理なビリーフの得点 が下がること、教員の講義後の感想などから院生の「まなびほぐし」が進んでいるかどうかについて 検討する。. 3.研究方法 本研究の対象とした講義は、 「生徒指導・教育相談の基礎としての生涯発達心理学」である。実施 期間は2017年6月8日から7月29日までで、全8回15コマ実施した。講義は双方向遠隔講義システム を利用して3キャンパス(札幌、旭川、釧路)で実施され、延べ14名(現職教員の院生:10名、学部 から進学してきたストレートマスター:4名)が受講した。 講義は以下の内容で実施した。なお講義内容は新しい課題・対象の発見や提示に繋がることを意図 して計画しており、 「まなびほぐし」の観点とは自らの持つ「型」との不一致を発見し「型」を組み 替えられることを意図して計画した点である。 第1回 講義内容 イントロダクション、発達の多様性について理解するために、ピアジェの発達論の概観、日本 24.
(4) 発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか?. の乳幼児の発達と日本以外の地域の乳幼児発達の比較 「まなびほぐし」の観点 乳幼児発達が固定された物ではなく、文化や環境の影響によって大きく異なっており、発達が リニアなものとは限らないことに気づく 第2回 講義内容 エリクソンの発達論の概観、心の理論課題の再考、発達の最近接領域、創造的模倣と即興性 「まなびほぐし」の観点 発達・学習は個人で達成される能力ではなく、 「仲間と一緒だからできる」という集団の変化 であり、発達・学習とはコミュニティへの参加、コミュニティの変容として捉えることができる 第3回 講義内容 統計的手法を用いた児童・生徒理解の意味、質問紙の基本的構造とその意義について 「まなびほぐし」の観点 これまでの心理学研究を紹介しながら統計的手法、質問紙を利用して児童・生徒理解を行うこ との誤解しやすい点、リスク、メリットについて受講生で検討し、意見交流する 第4回 講義内容 ナラティヴの基本概念の理解と無知の姿勢の説明、実り多い面談のためのロールプレイ 「まなびほぐし」の観点 生徒指導・教育相談では指導の際に「事実の確認」を重視する傾向があるが、ナラティヴの視 点を通して「ストーリー」から関係性を理解することにより、新たな指導スタイルを考える 第5回 講義内容 ブロンフェンブレンナーのEcological Systems Theoryの概観、学習者主体のユニバーサルデ ザインの理論的枠組みである「学びのユニバーサルデザイン(UDL) 」について 「まなびほぐし」の観点 生徒指導・教育相談では指導の際に「事実の確認」を重視する傾向があるが、ナラティヴの視 点を通して「ストーリー」から関係性を理解することにより、新たな指導スタイルを考える 第6回 講義内容 心理検査・発達検査の概要とその解釈について、心理検査を活かした発達支援の再考 「まなびほぐし」の観点 心理検査、発達検査の概要とその解釈について受講生でそのメリット、デメリットについて話 し合うとともに、心理検査を利用した事例を通じて発達を支援することと検査結果の関連につい 25.
(5) 川 俣 智 路. て検討する 第7回、第8回 講義内容 期末ワークとして、講義で取り扱ったキートピックをグループで取り上げて話し合い、再定義 し他の受講生に向けて報告し、これをそのまま期末課題として評価した 「まなびほぐし」の観点 感想のようなレポートを書くのではなく、 「まなびほぐし」たことについて認識を深めるとと もに、それを他者に共有することによって「ソリューション」の発見と共有を意図している 受講生の教育実践に対するビリーフがどう変化したかを測定するために、初回6月8日(有効回答 数13)と第7回7月27日の講義(有効回答数10)に質問紙調査を実施した。質問紙は河村ら(2004) の教師特有のビリーフ尺度簡易版を使用した(1〜20までの20項目、4件法で回答し、全ての回答の 合計の平均点が高いほど「ねばならない」という強迫性が高い) 。また、それ以外に毎回の講義で意 図した「まなびほぐし」が生じているかを尋ねる項目を作成した(21〜31までの11項目、4件法で回 答、得点が低いほど「まなびほぐし」ができている、設問末尾の括弧内の数字は何回目の講義につい て尋ねているかを示している、*は逆転項目を示す) 。以下に質問項目を示す。 選択肢 1:全くそう思わない、全く当てはまらない 2:あまりそう思わない、あまりあてはまらない 3:少しそう思う、少し当てはまる 4:とてもそう思う、とても当てはまる 項 目 1 教師はその指示によって、生徒に規律ある行動をさせる必要がある 2 知識が不確かなことを生徒に知られると教育上好ましくない 3 他の教師から非難されないような学級経営をすべきである 4 学級の問題は担任教師の力でなるだけ解決するべきである 5 教師は学校で認められた模範的な講義は日々にいかすべきである 6 年間の講義の進め方の大枠は指導書を参考にするべきである 7 教育理論などを引用する教師は実践力の伴わない教師が多い 8 学習成績の不振な生徒には、努力不足の生徒が多い 9 生徒が学校の規則を守ることは社会性の育成につながる 10 学校教育に携わるものとして同僚と同一歩調を取ることが必要である 11 生徒は考えていることを発言し行動で示すことが望ましい 12 学級経営は学級集団全体の向上が基本である 13 生徒の活動意欲刺激のため、競争意識を持たせることは必要である 14 生徒は学校のきまりを守り他の生徒と協調してゆくべきである 15 教師は担当するすべての生徒から、慕われることが望ましい 16 教師と生徒は親しい中にも毅然とした一線を持つべきである 17 生徒に休み時間でも馴れ馴れしい態度・言葉をさせるべきではない 26.
(6) 発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか?. 18 教職は、社会に価値ある職業である 19 生徒は学校で進んで講義や活動に参加する態度が望ましい 20 学級崩壊や講義崩壊は、かなり教師の力量に関係する 21 子どもの成長・発達とは能力が向上することである(1、2) 22 子どもの成長・発達のためにスキルを教えることが必要である(1、2) 23 子どもが学ぶときには、あらかじめ失敗しないよう準備が重要である(2) 24 子どもの希望より、能力に合った課題を教員は用意すべきである(2、5、6) 25 子どもに障害など能力の偏りがあった場合、 十分に学習することが難しいことが多い(5、 6) 26 子どもの知能、発達の段階を測ることは、教育実践において意味のあることだ(3、6*) 27 子どもの活動には計画やシナリオが必要である(2) 28 学習や活動を子どもに任せると、その教育的な意図を達成できないことが多い(5) 29 子どもや保護者のいっていることが正しいかどうかを確認することは、学校における面談や 相談場面において最も大切なことである(4) 30 子どもや保護者の話に耳を傾けているだけでは、解決しない問題が学校には存在する(4) 31 子どもや保護者の言っていること、知っていることをいかした面談、相談が重要だ(4*) 講義の最後には向後(2006) 、向後(2007)を参考に、教員と受講生で大福帳を利用して講義の感 想などを共有した。大福帳とは、受講生に講義の最後の10分程度を使用して150字程度の文章を書い てもらう物で、向後(既出、2006)によると受講生が講義を振り返ること、講義の内容について考え ることを促進する効果がある。本研究では、この受講生の大福帳の感想についても抽出し分析した。. 4.結 果 図2は、ビリーフ尺度得点並びにその他の質問項目の事前と事後の得点の比較である。ビリーフ尺 度得点について事前と事後の結果を比較するために対応のあるt検定を実施したところ、t(9)=2.99, p<.05となり有意に事後の得点が低いことが明らかとなった。設問21について事前と事後の結果を比 較するために対応のあるt検定を実施したところ、t(9)=2.33, p<.05となり有意に事後の得点が低い ことが明らかとなった。設問25について事前と事後の結果を比較するために対応のあるt検定を実施 したところ、t(9)=2.50, p<.05となり有意に事後の得点が低いことが明らかとなった。設問26につい て事前と事後の結果を比較するために対応のあるt検定を実施したところ、t (9)=2.33, p<.05となり 有意に事後の得点が低いことが明らかとなった。設問29について事前と事後の結果を比較するために 対応のあるt検定を実施したところ、t (9)=2.25 p<.10となり有意に事後の得点が低い傾向があるこ とが明らかとなった。. 27.
(7) 川 俣 智 路. 図2 講義前後のビリーフ尺度得点、その他の質問項目の比較. 大福帳からは講義から「まなびほぐし」を体験したと思われる感想が複数見られたので、ここに抽 出する。なお感想の末尾の括弧内の数字は第何回目の講義であったかを示している。 ① これまでは、 「できるようになる」ことが発達だと捉えていたのですが、今日の講義の中で、 文化的な背景によっても変わってくることがあるということを改めて認識しました。 (1) ② 発達の捉え方が今まで考えたこともないことでした。 「全体」 「多様性」という見方が私はこ れまで苦手で、どうしても順序とか確かな答えのようなものとかを求めがちだったので、大 学院に入って、そこを正されているような気がします。 (1) ③ 発達の基準は国や地域、文化や生活習慣によって大きく異なることはとてもよくわかりまし た。しかし、 「国が違えばそれは発達が遅れているとは言えない」 →発達に問題がない、 となっ てしまうのでしょうか。頭の中が混乱してしまいました。最後にピアジェの話も出てきまし たが、発達の基準とは何だろうかと思いました。 (1) ④ 日本は恵まれていると思うと同時に、その画一的な指導が生きづらさを感じる子ども生むと いうジレンマに考えさせられるものがありました。 (2) ⑤ 学校が作るアンケートは、担当者が作ったものを時々改変しているが、内容に妥当性がある のかを検証することはほとんどない。そういった視点で考えると、やっていることに疑問が 残る。(3) ⑥ そして、相手に伝えるときに、その基準がどういうもので、それをもとにして考えるとこう 28.
(8) 発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか?. いう風になるということをきちんと伝えなくてはいけないということも、言われてみれば当 然のことかもしれないが、そもそも何かの基準があって調べているということ自体あまり意 識していなかった。学校現場は不思議で、そういった検査について消極的な姿勢をもってい ることが多く、先生の見立てを大事にする傾向が強い。 (3) ⑦ 色々考えてわけが分からなくなってきた。川俣先生の最後での話を聞くと、事実は変わらな いが、気持ちは変えられる。ストーリーを語ることでポジティブにもネガティブにも気持ち が変わると感じた。 (4) ⑧ その子にとってのストーリーには、連続性があるのに現場にいたり、場面が変わったりする と忘れられてしまうこともあります。自分の実践でもこのようなことが往々にしてありえた のではないかと思うと少しぞっとします。しかし、今回での学びが、自分の今までの実践を 振り返りから省察へのレベルアップのステップだと前向きに捉えたいと思いました。 (4) ⑨ 本講義の意図とはずれているかもしれないが、受講生との交流を含めて感じたことは、そも そも、発達が遅れているとか、他の子と違うとか、特別支援がどうとか、という視点に疑問 を感じました。その子に原因を帰属させるのではなく、その子と環境の関係性に視点を向け ることが大切ではないかと感じた。どうしたら保護者を説得できるか(どうしたら診断をつ けられるか)という考え方があまり自分はなじめないと感じた。本筋とは違っていたら申し 訳ありません。 (4) ⑩ 講義で深める活動の際、対話をしてほしいと思いグループで話し合ってくださいと指示する ことも、違うのではと思えてきた。グループで話し合って考えてもいいし個人で考えてもい いと選択肢を与えて選ばせることが大切なのかと感じた。自分で決断することも必要と思え た。しかし、今の自分ができるかというと不安である。準備ができるだろうか。がんばりス ペースを作ったとしても自分が上手に活用できるか。子どもの多様な選択肢を自分が用意で きるか。不安な部分がよぎる。 (5) ⑪ この子は理解できていないからCだ、よりも、この子が理解できていないこの講義がCだと いう視点が必要だと感じました。 (5) ⑫ 今回の動画の先生は「学びの成立と定着」を第一の目標として考えられたのだと思います。 話の聞き方・話し方、姿勢などは二の次にしたのかなという感じを受けました。学びが成立 して、「できた」という達成感を感じることで、どうしてできたのかを考えていくと話が聞 けたからだ。ということは、話は今回みたいな感じで聞いていけばいいんだという動機を基 に規律の定着を狙っていく。ぐだぐだまとまらず、すみません。 (5) ⑬ 最後のまとめの「よく見て、よく聞いて、よく考えて正しい判断を」という部分で「正しい 判断」をするためには、 想像以上にたくさんの見方や語りが必要だと思いました。さらには、 その判断が正しいか正しくないのかもその時点でのベストと考えるものなので、変化してい くものだという認識も必要なのかなと感じました。 (6) ⑭ 講義の中で出てきた言葉を、 自分たちでもう一度定義しなおす今回の講義は、 とても面白かっ たし、学びなおすということではとても有意義でした。 (7、8) ⑮ 今日の講義で、初任のときの校長先生に「人に教えるためには、自分がきちんと理解してい なくてはいけない。あなたは子どもに嘘を教えていませんか?」と言われたことを思い出し ました。教師の心構えとして語ってくれた言葉で、そのときは生意気にも「えー、嘘なんて 教えてないよー」と思ったのですが…。経験を重ねるごとに言葉が深い意味をもってきまし 29.
(9) 川 俣 智 路. た。いい年になった今でも、理解したつもりになっていることのなんと多いことか。日々反 省です。 (7、8) ⑯ 私は書かせることが、全員参加のための手立てであると考えているわけです。また、あえて 極端に言えば「子どもは本来学ぶ存在」ではなく、 「ほうっておくと、サボるもの」という ことが、このことからわかる、私の学習者観です。これは、現場で私に染み付いたものだろ うなあと思ったしだいです。川俣先生の講義で、このあたりを毎回ゆすぶられるわけなので すが、やはり、一方で子どもを学習しなければならないように、ゆるやかに「追い込んでい く」ことも必要でしょう?というのが、頑固な私の内面なわけです(笑) 。 (7、8) ⑰ 今までの講義を含めて学んだことを振り返ってみると、現場ではなかなか気付けない、わか らない発想だったと改めて感じています。 (7、8) ⑱ 講義を通して、新しい学びがたくさんありました。毎回なるほど(でも難しい・・・)と非 常に勉強になりましたが、それと同じくらい、 「今までの物の見方で本当に良いのか、違う 見方はないのか」という視点が持てるようになったことも大きな収穫です。 (7、8) ⑲ 何気なく使っている「発達」という言葉の裏にあるたくさんの意味に一歩近づけたことは、 私にとって大きな学びだったと思います。 (7、8). 5.考 察 質問紙の結果から、ビリーフ得点については有意な差が見られ、事前と比較して事後の得点が低く なった。これは、 「〜せねばならない」という強迫的な思考が和らいだことを示しており、講義を受 講した結果であると推測できる。受講生の感想の⑭、⑰、⑱の感想などでは大きく視点が変わったと の記述も見られ、何名かの院生にとってはまさに自分の「型」が揺らぐ経験をしたことがわかる。本 稿の目的である、 「まなびほぐし」を通して生徒指導・教育相談に対する認識を柔軟なものとすると いうことは、一定程度は達成されたと考えられるだろう。 毎回の講義で「まなびほぐし」の狙いが達成されたかについては、設問21、25、26、29に有意差も しくは有意な差がある傾向が見られた。設問21はこの講義のテーマであり、最も強く意識をして講義 した点である。受講生の感想の①、②、③などからも、発達という概念について認識を新たにする機 会があったことが伺える。設問25は学習支援に関わる質問項目であるが、講義前後で大きく得点が下 がっている。受講生の感想の⑨、⑩、⑪、⑫では、学ぶということについての認識を新たにした、あ るいは今まで受講生自身が考えていた学びの概念が揺らいでいることが読み取れる。 「まなびほぐし」 が受講生の中で十分に起こったと推測されるだろう。 設問26は講義実施後に得点が高くなることを期待していたが、反対に大きく得点が下がった。受講 生の感想の⑤、⑬から推測すると、受講生には質問紙調査をすることや知能や発達についてのアセス メントを実施することによりデメリット、リスクが強く講義から伝わっているようである。第3回、 第6回の講義に関してはその内容や進め方に再検討が必要だと言えるだろう。 設問29はナラティヴや面談についての話についての問いとなっており、事後の得点が低い傾向が見 られた。受講生の感想の⑦、⑧、⑨から、講義内容を通じてこれまでの相談や指導の「型」が揺らぐ 体験をしたことが読み取れる。 設問30、31は得点が低くなることが期待されていたが、そういった結果は見られなかった。実際に 講義中の発言、グループワークでの意見においても、子どもや保護者が事実ではないことを述べたた 30.
(10) 発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか?. めに思うように指導ができなかった経験や、こうしたことを防ぐために複数の子どもや保護者に「事 情聴取」をして事実確認することが重要であると、といった意見が多く出ていた。これは第4回の講 義でナラティヴという視点にはふれたものの、あくまでもそれは形式知として位置づけられたに過ぎ ず、従来の受講生の「型」を変化させるような「まなびほぐし」には繋がらなかった、と判断すべき であろう。 これらの点から、今回の講義における狙いはある程度は達成され、受講生の中で「まなびほぐし」 が起こり、強迫的なビリーフが和らいだということができるだろう。しかし、特に変化が生じなかっ た質問項目も複数あり、 講義内容・講義形態ともにさらに改善が必要なことも併せて明らかとなった。. 6.今後の課題 最後に本研究の今後の課題について言及したい。まず課題としてあげられることは、講義内容と狙 いに即した信頼性・妥当性の高い尺度が現在はないという点である。今回は既存のビリーフ得点を測 る尺度、さらに自作の質問項目により調査を実施したが、今後はより講義内容、並びに「まなびほぐ し」を測るという目的に特化した質問項目を使用する、必要に応じて作成することが求められるだろ う。 受講生の中にはすでに教員として勤務している院生と、教員養成課程卒業直後のまだ勤務していな い院生が混在していたが、受講生の数が少なかったためこの両者を分けて分析することができなかっ た。今後こうした調査を継続して実施することにより、両者の差や求められる「まなびほぐし」の違 いについて検討していくことが必要だろう。 「まなびほぐし」がうまく進まなかった受講生の感想やデータをどのように収集するか、という点 も今後の課題である。今回は大福帳の感想をデータとして用いたが、教員に提出するための感想であ るため、 「まなびほぐし」が進まなかった院生がそうした旨を感想として記入してくることはほとん ど見受けられなかった。インタビュー調査を実施するなど、 「まなびほぐし」が進まない受講生のデー タを積極的に集めることも今後の課題である。 今回の調査では講義実施の際に、 「まなびほぐし」を目的にしていること、高木によると「まなび ほぐし」は4段階を経て進むことなどについて、受講生へ説明する時間を設けなかった。より効果的 な講義を実施するためには、こうした点を講義開始時に共有しその意図を受講生にも理解してもらう ことを検討すべきだろう。 また、大学院修了後に受講生が実際に勤務先にて生徒指導や教育相談に関わったとき、本当の意味 で講義の際の「まなびほぐし」が有用であったかどうかが明らかになると考えられる。講義終了直後 の結果だけではなく、勤務に戻った院生がどのようにして講義の経験を活かすかについても、可能な 限り追跡していくことが求められるだろう。 文 献 石隈利紀(1999)学校心理学 誠心書房 河村夏代 鈴木啓嗣 岩井圭司(2004)教師に生ずる感情と指導の関係についての研究─中学校教師を対象として ─ 教育心理学研究,52,1-11 河村茂雄・國分康孝(1996)小学校における教師特有のビリーフについての調査研究 カウンセリング研究,29, 44-54. 31.
(11) 川 俣 智 路. 向後千春(2006)大福帳は講義の何を変えたか 日本教育工学会研究報告集,JSET06-5,23-30 向後千春(2007)eラーニング講義でコミュニケーションカード「e大福帳」を使う 日本教育工学会研究報告集, JSET07-5,297-300 大島純(2007)学習環境形成のデザイン 秋田喜代美・能智正博監修 事例から学ぶはじめての質的研究法 東京 図書,第10章,214-242 佐伯胖(2011)「まなびほぐし(アンラーン) 」のすすめ 苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎編 ワークショップと学 び1 まなびを学ぶ 27-68 東京大学出版会 高木光太郎(2012)ワークショップのF2LOモデル「まなびほぐし」デザイン原理 苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎 編 ワークショップと学び3 まなびほぐしのデザイン 東京大学出版会,イントロダクション,1-27 牛渡淳(2010)教員養成の「高度化」の意義と課題─アメリカとの比較から─ 三石初雄・川手圭一編 高度実践 型の教員養成へ─日本と欧米の教師教育と教職大学院─ 東京学芸大出版社,第1章,9-20. 謝 辞 大学院講義「生徒指導・教育相談の基礎としての生涯発達心理学」を受講していただいた院生の皆 さん、副担当として共同で講義を実施した稲葉浩一先生、安川禎亮先生に深くお礼申し上げます。. 32.
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