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政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

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Academic year: 2021

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農地の権利取得に係る下限面積要件の緩和が耕作放棄地の減少に与える影響

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU14604 貝澤 紗希

1 はじめに

日本の農業における中心的課題の一つとして、耕作放棄に より荒廃した農地の増加があげられる。耕作放棄地面積は 1990 年から 20 年間増加を続けており、2010 年には 396,000ha にまで達している1。経済学的にみると、耕作放棄地はまず一 点目にそこから雑草の種や病害虫が周囲の農地に飛ぶほか、

不法投棄を招いて環境や景観を悪化させるといった負の外部 性を持つこと、そして二点目に農業的利用に限らず本来有効 利用できるはずの土地が使われていないこと、という問題を 発生させている。一点目への対策としては現在耕作放棄地へ の課税強化が検討されているが、二点目への対策としては農 地の権利を取得する際の許可要件の一つである下限面積要件

(以下「下限面積要件」とする。)について緩和が進められて きた。これは下限面積要件を緩和することで新規就農を促進 し、現在使われていない農地を活用できるのではないかとい う考えによる。本稿では、この下限面積要件の緩和によって 農地の流動性が高まり耕作放棄地が減少する、もしくは増加 が抑制されるのではないかという仮説について検証を行う。

2 耕作放棄地について

耕作放棄地とは、農林業センサスにおいて「以前耕作して いた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この 数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」と定義 されている統計上の用語である。

耕作放棄地の主な発生要因は、農業の担い手の減少及び農 業の衰退と言われている。2009 年に全国の 1,780 市町村を対 象に行われたアンケート調査でも、耕作放棄地の発生要因と して「高齢化、労働力不足」の割合が最も高く、次いで「農 産物価格の低迷」「地域内に引受手がいない」が高い割合を占 めている2

耕作放棄地はそこから雑草の種や病害虫が周囲の農地に飛 ぶだけでなく、境界を越え道路にまではみ出して繁茂した雑 草が交通を阻害したり、土砂やゴミの不法投棄、火災発生の 原因になったりするなど、防犯・防災上の問題も引き起こす。

耕作放棄地はこのような負の外部性を持つため、その解消が 大きな課題となっているといえる。この耕作放棄地を解消し 農地の有効利用を図るための施策の一つとして、近年政府は 下限面積要件の緩和を進めている。

1世界農林業センサス(2010年)参照。

2農林水産省「耕作放棄地に関する意向調査」2009年)参照。

3 農地の権利取得に係る下限面積要件について

現在の農地法では、その規定により農地等の売買・貸借等 をする場合に、取得後の面積の合計が北海道では二ヘクター ル、都府県では五十アール(農業委員会が、農林水産省令で 定める基準に従い、市町村の区域の全部又は一部についてこ れらの面積の範囲内で別段の面積を定め、農林水産省令で定 めるところにより、これを公示したときは、その面積)に達 しない場合には許可することができないとされている 。この 規定は一般的に、農地の権利取得に係る下限面積要件といわ れている。

近年、耕作放棄地の増加や農業の担い手の減少を背景に、

下限面積要件に関して緩和が進められている。2003 年に創設 された構造改革特別区域制度(以下「特区」とする。)による 農地の権利取得後の下限面積要件の特例設定基準の弾力化に よる農地の利用増進事業(以下「下限面積要件緩和特区」と する。)では、設定区域内について特区法に基づき内閣総理大 臣に申請しその認定を受けることを要件として、都道府県知 事が 10a 以上で定める任意の面積を別段面積として公示する ことが可能になった。これより、2005年 7月までに52 地区に おいて下限面積要件の緩和が行われた。2005年 9月には下限 面積要件緩和特区が全国展開され、農地法施行規則の改正に よって国による認定が不要となった。2009 年に行われた農地 法改正においてさらに緩和が進み、農業委員会の判断により 10a 以下の下限面積の設定も可能となった。

4 下限面積要件緩和特区の効果に関する実証分析 4.1 下限面積要件緩和の効果に関する事前ヒアリング 下限面積要件緩和の効果について調べるため、下限面積要 件を緩和している市町村及び緩和していない市町村の農業委 員会事務局各5か所を対象として、事前ヒアリングを行った。

その結果、下限面積要件の緩和により耕作放棄地が減少した かに関しては、「少しは改善に役に立っているのではないか」

(熊本県内のある市町村)、「少しは減っている」(千葉県内の ある市町村)とする市町村はあるものの、「耕作放棄地には関 係しない」(秋田県内のある市町村)とする市町村もあり、現 場での政策効果の感触は地域によって異なっていた。この結 果を踏まえ、特区による下限面積要件の緩和が耕作放棄地を 有意に減少させるのかについて実証分析を行う。

4.2 使用するデータ

分析対象は北海道、東京、沖縄を除く全国の市町村、分析

(2)

2 年度は 2000、2005、2010 年とした。従属変数は農林水産省「農 林業センサス」より、コントロール変数は総務省統計局「社 会・人口統計体系」より使用した。特区設定の有無は、農林 水産省「構造改革特別区域計画の設定一覧(農林水産省関連)」 に基づいている3

4.3 推計式と分析方法

耕作放棄地面積を耕作放棄地面積と経営面積の和で除した ものを耕作放棄地面積割合とし、その対数値を従属変数とし た。政策変数は、構造改革特区における「農地の権利取得後 の下限面積要件の特例設定基準の弾力化による農地の利用増 進事業」の効果を測定するため、下限面積要件緩和特区ダミ ーを作成した。これは2000 年ではすべての市町村が0 をとり、

2005年及び 2010 年では各時点において下限面積要件緩和特 区を設置していた市町村は 1、それ以外の市町村は 0 をとるダ ミー変数である。同様に、「地方公共団体又は農地保有合理化 法人による農地又は採草放牧地の特定法人への貸付事業」に ついてはリース特区ダミー、「地方公共団体及び農業協同組合 以外の者による特定農地貸付事業」については市民農園開設 特区ダミーを作成した。コントロール変数には、15 歳未満人 口割合の対数値、65 歳以上人口割合の対数値、第1 次産業就 業者割合の対数値、人口の対数値を用いた。また、市町村固 定効果により分析期間を通じて変化しない地域固有の地形的 特徴等の影響を、年次固定効果により分析期間内の景気変動 等の影響を取り除いている。以下の推計式により、パネルデ ータを用いた固定効果モデルで推計した。

耕作放棄地面積割合

௜௧

= +下限面積要件緩和特区ダミー௜௧ +リース特区ダミー

௜௧

+市民農園開設特区ダミー௜௧ + 15歳未満人口割合

௜௧

+ 65歳以上人口割合௜௧ +1次産業就業者割合

௜௧

+ 人口௜௧ +++௜௧

4.4 結果と考察

下限面積要件緩和特区の効果は統計的に有意ではなく、構 造改革特区により下限面積要件を緩和した市町村では緩和し なかった市町村に比べて耕作放棄地が減少したとはいえない。

リース特区の効果は5%水準で統計的に有意に推計され、リー ス特区を設けた市町村ではそうでない市町村に比べて耕作放 棄地の増加が約7%抑制されることが示された(表1)。 耕作放棄地を減らすという目的のためには、下限面積要件 の緩和よりもリース特区の設定、すなわち特定法人への貸付 事業を行う方が効果的であると考えられる。下限面積要件の 緩和を行った市町村を全体としてみると、緩和が耕作放棄地 を減少させる効果は有意ではなかったが、これは下限面積要

3農林水産省HP

(http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo02/tokku/t_keikaku/pdf/nintei _plan4.pdf)参照。

件の緩和が耕作放棄地を減らすと同時に耕作放棄地の増加が 著しい地域で下限面積要件の緩和が選択的に進んだという同 時性のメカニズムにより政策効果の発現が妨げられたことが 理由であろう。一方で、事前ヒアリングでは下限面積要件緩 和の効果を感じている市町村もあったことから、地域によっ て緩和の効果が異なる可能性も考えられる。そこで、次節で はどのような地域においては下限面積要件緩和の効果がある のかを検討する。

5 面積当たりの農業所得が下限面積要件緩和の効果に与え る影響に関する実証分析

どのような地域においては下限面積要件の緩和により耕作 放棄地が減少するのかを検討するにあたり、面積当たりの農 業所得に着目した。面積当たりの農業所得が低い地域では大 規模な経営を行うことで収入を確保していることから、まと まった面積での権利移転が大部分であると考えられる。その ため、たとえ下限面積要件を緩和したとしても小規模な農地 が取得される可能性は低いと予想される。これに対して面積 当たりの農業所得が高い地域では小規模な農地でも十分な収 入が得られ経営が可能であるため、下限面積要件の緩和によ り小さい農地面積で新たに農業を始めたい人が農地を取得す ることで、耕作放棄地が減少する可能性が高いと考えられる。

したがって本節では、面積当たりの農業所得が高い地域では 下限面積要件緩和の効果が大きく、耕作放棄地がより減少し ているのではないかという仮説を設定して実証分析を行う。

5.1 使用するデータ

分析対象は北海道、東京、沖縄を除く全国の市町村、分析 年度は 2000、2005年とした。生産農業所得4は農林水産省「生 産農業所得統計」より使用した。その他は下限面積要件緩和 特区の効果に関する実証分析と同様である。

5.2 推計式と分析方法

従属変数及びコントロール変数は下限面積要件緩和特区の 効果に関する実証分析と同様であるが、政策変数として生産

4生産農業所得とは、農業総産出額から物的経費(減価償却費及び間 接税を含む。を控除し、経常補助金等を加算した額であり、物的経 費は、農業経営費から雇用労賃等を控除したものである。

表 1 下限面積要件緩和特区の効果に関する推計結果 従属変数:ln耕作放棄地面積割合

変数名

下限面積要件特区ダミー 0.011 (0.051) リース特区ダミー -0.067 (0.032) **

市民農園開設特区ダミー 0.067 (0.031) **

ln15歳未満人口割合 -0.057 (0.058) ln65歳以上人口割合 -0.123 (0.078) ln第1次産業就業者割合 0.012 (0.024) ln人口 0.006 (0.018) 市町村固定効果

年次固定効果

定数項 -3.03 (0.207) ***

観測数 7281

決定係数 0.1607

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。

()内はクラスター化不均一分散頑健標準誤差を示す。

推定値

省略 省略

(3)

3 農業所得を経営耕地面積で除したものの対数値であるln面積 当たり農業所得、下限面積要件緩和特区ダミーとln面積当た り農業所得の交差項の 2変数を分析に加えた。以下の推計式 により、パネルデータを用いた固定効果モデルで推計した。

耕作放棄地面積割合௜௧

= +下限面積要件緩和特区ダミー

௜௧

+ 一戸当たり経営面積௜௧ +下限面積要件緩和特区ダミー

௜௧

×面積当たり農業所得௜௧ +リース特区ダミー

௜௧

+市民農園開設特区ダミー௜௧ + 15歳未満人口割合

௜௧

+ 65歳以上人口割合௜௧ +1次産業就業者割合

௜௧

+ 人口௜௧ +++௜௧

5.3 結果と考察

下限面積要件緩和特区ダミーの主効果は統計的に有意では なく、下限面積要件緩和特区ダミーとln面積当たり農業所得 の交差項も統計的に有意な値とはならなかった(表2)。

面積当たりの農業所得が高い地域では緩和により耕作放棄 地がより減少しているのではないかという仮説は支持されな かった。しかし、下限面積要件を緩和してからある程度の時 間が経って初めて緩和の効果が表れるという可能性がある。

本分析では2010年の農業所得データが使用できなかったため に、下限面積要件を緩和してから長くても 2 年後の時点にお ける効果しか計測することができなかった。そこで次節では、

一戸当たりの経営耕地面積が小さい地域では下限面積要件緩 和の効果が大きく、耕作放棄地がより減少しているのではな いかという仮説を設定して実証分析を行う。一戸当たりの経 営耕地面積については 2010 年のデータが使用できるため、緩 和から 6~7 年後の時点での効果を計測することで、時間経過 により一戸当たりの経営耕地面積が小さい地域において下限

面積要件緩和の効果が表れる可能性を検討する。また、一戸 当たりの経営耕地面積が小さい地域においては小規模な経営 を行う農家が多いこと、また小規模な農地も多く取得しやす いと考えられることから、新たに農地を取得して農業を始め る人が集まりやすく、下限面積要件の緩和によって耕作放棄 地がより減少すると予想される。

6 一戸当たりの経営耕地面積が下限面積要件緩和の効果に 与える影響に関する実証分析

6.1 使用するデータ

分析対象は北海道、東京、沖縄を除く全国の市町村、分析 年度は 2000、2005、2010 年とした。経営農家戸数は、農林水 産省「農林業センサス」より使用した。その他は下限面積要 件緩和特区の効果に関する実証分析と同様である。

6.2 推計式と分析方法

従属変数及びコントロール変数は下限面積要件緩和特区の 効果に関する実証分析と同様であるが、政策変数として経営 耕地面積を販売農家戸数で除したものの対数値をln一戸当た り経営面積とし、下限面積要件緩和特区ダミーとln一戸当た り経営面積の交差項とともに分析に加えた。以下の推計式に より、パネルデータを用いた固定効果モデルで推計した。

耕作放棄地面積割合

௜௧

= +下限面積要件緩和特区ダミー௜௧ + 一戸当たり経営面積

௜௧

+下限面積要件緩和特区ダミー௜௧ ×一戸当たり経営面積

௜௧

+リース特区ダミー

௜௧

+市民農園開設特区ダミー

௜௧

+ 15歳未満人口割合௜௧ + 65歳以上人口割合

௜௧

+1次産業就業者割合௜௧ + 人口

௜௧

+++௜௧

6.3 結果と考察

下限面積要件緩和特区ダミーとln一戸当たり経営面積の交 差項が5%水準で統計的に有意に推計され、主効果も含めた推 計では一戸当たりの経営耕地面積が 26a未満のときに下限面 積要件の緩和が統計的に有意に耕作放棄地を減らすことが示 された(表3)。例として、一戸当たりの経営耕地面積が 26a の場合には耕作放棄地が 19.4%減少する(図1)。一方で、一 戸当たりの経営耕地面積が201a以上と大きい場合には下限面 積要件の緩和により逆に耕作放棄地が増加しているようにみ えるが、これは前述したように同時性によって生じたものと 考えられる。

下限面積要件の緩和は、一戸当たりの経営耕地面積が小さ い地域において耕作放棄地を減少させる効果があることが示 された。また、この効果は緩和からある程度の時間を経るこ とにより表れると考えられる。一戸当たりの経営耕地面積が 小さい地域において下限面積要件の緩和により耕作放棄地が 減少した理由として、小規模な農地でも活用される可能性が 表 2 面積当たりの農業所得が下限面積要件緩和の

効果に及ぼす影響に関する推計結果 従属変数:ln耕作放棄地面積割合

変数名

下限面積要件緩和特区ダミー 0.033 (0.137) ln面積当たり農業所得 0.065 (0.045) 下限面積要件緩和特区ダミー

  ×ln面積当たり農業所得 0.008 (0.056) リース特区ダミー -0.086 (0.039) **

市民農園開設特区ダミー 0.050 (0.033) ln15歳未満人口割合 0.114 (0.121) ln65歳以上人口割合 -0.002 (0.109) ln第1次産業就業者割合 0.022 (0.033)

ln人口 0.032 (0.021)

市町村固定効果 年次固定効果

定数項 -2.613 (0.356) ***

観測数 4861

決定係数 0.200

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。

()内はクラスター化不均一分散頑健標準誤差を示す。

推定値

省略 省略

(4)

4

739 14

下限面積要件 緩和の効果(%

図 1 一戸当たり経営面積と下限面積要件緩和の効果 272

100 37

一戸当たり経営面積(a 高いためと考えられる。このような地域は面積当たりの農業

所得が高い作物の栽培に適していることから、小規模な農地 でも十分に経営が可能である。それに加えて、産業集積に伴 う波及効果による便益を受けられること、小規模

く取得しやすいこと、小規模な農地全体を売買又は貸借する 方が大規模な農地の一部を小さな区画に分けるよりも取引費 用が小さいことなど、農業を始めやすい条件が多くそろって いることも小規模農地の活用を促し耕作放棄地を減らしてい ると考えられる。

一方で、一戸当たりの経営耕地面積が大きい場合には、下 限面積要件の緩和により逆に耕作放棄地が増加しているよう にみえるが、これは一戸当たりの経営耕地面積が大きい地域 の中でもとりわけ耕作放棄地の増加が著しい地域で下限面積 要件の緩和が選択的に進んだという理由によるところが大き い5。ヒアリングから、一戸当たりの経営耕地面積が大きい地 域では、大規模な農地しか存在しない地域と小規模な農地が 併存している地域があることがわかっている。一戸当たりの 経営耕地面積が大きい地域内では、下限面積要件緩和を行っ た地域、すなわち小規模な農地が併存している地域において は耕作放棄地が減少したものの耕作放棄地増加のトレンドを 相殺するには至らない。一方、下限面積要件緩和を行わなか った地域、すなわち大規模な農地しか存在しない地域では耕 作放棄地はさほど変化していないため、見かけ上はあたかも 緩和により耕作放棄地が増加しているようにみえると考えら れる。

5 下限面積要件緩和の効果がみられた一戸当たりの経営耕地面積が小 さい地域内においても同様に、都市近郊の平地で生産性の高い農地が 中心で耕作放棄地がさほど増加していない地域もあれば、山間地等の 営農条件が良くない農地が大半を占め耕作放棄地の増加が著しい地域 もあると考えられる。よって前者では下限面積要件の緩和が行われず、

後者でのみ下限面積要件の緩和が行われた可能性は否定できない。し かしながら、たとえこのような同時性が生じていたとしても予期され る(負の)政策効果を弱める方向に働くため、本分析でみられた下限 面積要件緩和の効果の有意性が否定されるものではない。

7 政策提言

以上の結果を踏まえて政策提言をするならば、一戸当たり の経営耕地面積が小さい地域においては、経営耕地面積の大 きさに見合った下限面積を設定することが望ましいといえる。

また、特定法人への貸付事業を可能にするリース特区に耕作 放棄地を減少させる効果がみられたことから、今後耕作放棄 地を減少させていくためには、法人参入の促進といった手段 の検討も有効であろう。

8 おわりに

本研究では、構造改革特区により下限面積要件の緩和をし た地域と緩和していない地域を比較することで、下限面積要 件の緩和によって耕作放棄地が減少するのかを検討してきた。

実証分析の結果、緩和地域全体をみると下限面積要件緩和に よる効果は有意でなかったものの、一戸当たりの経営耕地面 積が小さい地域においては下限面積要件の緩和により耕作放 棄地が減少していることが示された。したがって、一戸当た りの経営耕地面積が小さい地域においては、経営耕地面積の 大きさに見合った下限面積を設定することが望ましいと提言 した。2009 年の農地法改正により現在では農業委員会の判断 で下限面積要件の設定が可能になっているが、下限面積要件 の緩和が進められる過程においてその効果は検証されてこな かったことから、下限面積要件緩和の効果を定量的に示した 本研究の知見には一定の意義があるといえる。

しかしながら本研究の限界として、地域内の農地一筆ごと の面積や地形的特徴を表すデータを使うことができなかった ため、第6章では一戸当たりの経営耕地面積を用いて政策効 果の地域差を検討しようとしたが、これらのデータを使うこ とができればより精度の高い分析が可能になることからデー タの整備が待たれる。

主な参考文献

加藤一郎 (1967) 日本農政の展開過程 東京大学出版会.

仙田徹志 (1998) 耕作放棄地の発生要因に関する計量分析 農業経営 研究, 36(1), 57-62.

本間正義 (2010) 現代日本農業の政策過程 慶応義塾大学出版会.

山本修 (1980) 戦後の農地制度の推移と農地制度改正の意義 農林業 問題研究, 16, 177-183.

表 3 一戸当たりの経営耕地面積が下限面積要件緩和の 効果に与える影響に関する推計結果

従属変数:ln耕作放棄地面積割合 変数名

下限面積要件緩和特区ダミー 0.015 (0.050) ln一戸当たり経営面積 -0.756 (0.105) ***

下限面積要件緩和特区ダミー

  ×ln一戸当たり経営面積 0.155 (0.078) **

リース特区ダミー -0.078 (0.031) **

市民農園開設特区ダミー 0.067 (0.029) **

ln15歳未満人口割合 -0.071 (0.057) ln65歳以上人口割合 -0.161 (0.078) **

ln第1次産業就業者割合 0.020 (0.079)

ln人口 0.007 (0.017)

市町村固定効果 年次固定効果

定数項 -3.090 (0.205) ***

観測数 7271

決定係数 0.196

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。

()内はクラスター化不均一分散頑健標準誤差を示す。

推定値

省略 省略

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