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「工業系用途地域における住工混在が地価に与える影響に関する研究 ~横浜市内の工業系用途地域を事例として~」

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工業系用途地域

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~横浜市内の工業系用途地域を事例として~

《要 旨》 本稿では、住宅等への土地利用転換が進む工業系用途地域に焦点を当て、ヘド ニックアプローチを用いて、住宅と工業系用途との混在が地価に与える影響につ いて考察した。 結果、商業施設と住宅との混在は地価を上昇させる効果がある一方で、工業系 用途と住宅との混在については、住宅との混在が地価を下落させる効果があるこ とに加え、工業系用途の集積の利益は存在するが、住宅が一定程度集積している 場合にはその集積の利益は混在による外部不経済で相殺され、地価を下落させる 可能性があることが明らかとなった。 このことは、現状の工業系用途地域における用途に関する立地規制内容が効率 的な土地利用を実現していない可能性を示唆している。 今後、より効率的な土地利用規制を実現するためには、現状をより詳細に分析 し、住宅地化が進んだ工業系用途地域では用途純化を進めるなど、社会情勢に応 じた規制変更を実施していく必要があると考えられる。 2013年(平成25年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12614 田島 剛

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目次

目次

目次

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第1章 研究の背景と目的 ... 3 第2章 用途地域制度と工業系用途地域の現状 ... 4 2-1 用途地域制度の概要 ... 4 2-2 工業系用途地域の特徴 ... 7 2-3 工業系用途地域の現状 ... 7 第3章 用途の混在が地価に与える影響の分析について ... 9 3-1 分析概要 ... 9 3-2 使用データ ... 9 3-3 被説明変数 ... 9 3-4 説明変数 ... 10 3-5 推計結果 ... 13 第4章 結果の考察 ... 14 4-1 分類タイプ① β>0、α>0 ... 14 4-2 分類タイプ② β>0、α<0 ... 15 4-3 分類タイプ③ β<0、α>0 ... 16 4-4 分類タイプ④ β<0、α<0 ... 17 4-5 まとめ ... 17 第5章 提言 ... 18 第6章 今後の課題について ... 19 参考文献 ... 19 謝辞 ... 20

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3 第1章 研究の背景と目的 現在の都市は、商業、業務、工場、住宅、公共施設、公園、道路など様々な機能の適切 な配置と集積を前提として、総合的に効率的な土地利用の状態を実現している。 これは都市計画法、建築基準法による用途地域制度の運用と自由な経済活動によっても たらされたものであり、高度経済成長期の住宅の大量供給による住宅地の形成、駅周辺等 の商業集積、工業地域の形成など、各用途にとっての良好な環境の形成に対し、一定の役 割を果たしてきた。 しかし、工業に目を向けると、用途地域制度制定時と比較してそのあり様に変化がみら れる。その変化は 1985 年のプラザ合意後にはじまる。工業は用途地域制度に規定される 準工業地域、工業地域、工業専用地域において一定の集積を形成してきたが、1985年以降 は工場移転や景気の低迷による廃業等により、大規模な工場跡地が多く発生した。 その跡地には住宅や大規模商業施設の立地が多くみられるようになり、現在では住宅と 工業との混在が進み、操業環境や住環境をめぐる工業と住民との紛争も報告されている。 工場は地方自治体に対し、法人市町村民税、固定資産税等を納税し、また、経営活動は 域内の GDP 向上に寄与する。一方で、住民も同様に、個人市町村民税、固定資産税、都 市計画税等を納税し、居住する地方自治体の行政サービスを享受する。 行政サービスのための歳出を別途考慮する必要はあるが、工場の増加、住民の増加は共 に、地方自治体に税収増をもたらし、地方自治体の域内において余剰を増加させる方向に 作用する。地方自治体にとっては、様々な用途が共存することが域内の総余剰を最大化さ せる状態にあるといえる。 前述の工業と住民間の紛争が示すように、工業と住宅とが共存できているとはいい難い 状況において、工業と住宅との混在が認められている工業系用途地域における立地規制は 効率的な土地利用を導いているといえるのであろうか。 これまでに行われた住工混在地における研究には、中出(1982年、1983年)、清水(2005 年、2007年)、岡崎(2000年)、神吉(1999年、2010年)、安田(1983年)などが挙げ られる。中出の研究では、東京都区部を対象に工場跡地に住宅建設が進み住工の混在を招 いていることが示され、清水、中山の研究では、住工混在地において用途地域変更が行わ れた地域の土地利用の変化から余地利用用途の純化を測ることが望ましいこと、混在地に おける用途地域変更による土地利用コントロールの有効性について示されている。岡崎の 横浜市を対象としたヘドニックアプローチを用いた研究では、社会資本投資を主眼に置い たものではあるが、住工混在は住空間として好まれない傾向にあることが示されている。 神吉は大阪市西淀川区の工業地を対象に中高層共同住宅の供給動向を明らかにするととも に住工混在地域の住環境について居住者に対する調査を実施している。安田は工場跡地の 土地利用変化と住宅立地動向について示されている。このように、これまで様々な地域を 対象に、土地利用や規制の変化、住民意識等を工学的視点から分析し、提言や課題提起が なされてきた。一方で、住宅との混在の程度が地価与える影響について経済学的な視点か ら論述した研究は現時点では見当たらない。 本稿では、一定程度住宅が集積した住工混在地域においては、用途純化を進めることが

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4 より効率的な土地利用につながるとの仮説のもと、工業と住宅等の混在が認められている 準工業地域と工業地域(以下、工業系用途地域という)における用途混在に着目し、横浜 市の工業系用途地域とその周辺地域を対象に、工業と住宅の用途混在の程度が地価に与え る影響について、ヘドニックアプローチを用いてOLS分析を行った。分析では対象地域に 立地する建物用途毎の延床面積の合計値のほか、住工の混在の程度が地価に与える影響を みるため、住宅用途の延床面積の割合等を説明変数に採用している。 結論から先に述べると、住宅の延床面積が地域の面積の概ね60%を超える場合、工業と 住宅の混在は地価を下落させていることが実証された。これらの結果を踏まえ、現状の用 途規制が効率的な土地利用状況をもたらしているかを経済学的視点から考察するとともに、 地価を下落させている場合は詳細な現状評価を実施したうえで用途純化等の規制変更を検 討すべきであることなど、より効率的な土地利用のため用途規制の在り方について論述す る。 本稿の構成は次のとおりである。まず第2章で用途地域制度と工業系用途地域の概要に ついて説明する。第3章では、分析手法と推計に利用するデータ、推計結果を示し、第 4 章でその考察を述べる。第5章では前章までの考察を踏まえた政策提言を行う。 第2章 用途地域制度と工業系用途地域の現状 この章では、用途地域制度の概要、効果について概観するとともに、工業系用途地域の特 徴に触れ、現状の課題について論述する。 2-1 用途地域制度の概要 異なる用途の混在はその周辺環境に様々な影響を及ぼす。 用途地域制度は都市計画法、建築基準法によりに規定された地域地区の一つである。都 市計画法第8条第1項第一号において12の地域が規定され、第9条にてその地域の定義 がなされ、建築基準法別表第2において立地可能な用途の建物、立地不可能な用途の建物 が規定されている。(表1、表2参照)都道府県は、都市計画法第8条、第9条等を踏まえ、 その地域の実情に応じて所管地域内に各用途地域を指定し、都市計画決定を行う。この段 階で、実質的な土地利用用途に関する立地規制が発生し、建築基準法第6条等に基づく「建 築確認」制度においてその実効性が担保される。 この用途地域制度の効果については、ある地域において異なる用途が「隣接」する場合 を考えてみればわかりやすい。 例えば、戸建て住宅の隣地が日々大量の音、振動、煙を発する工場だとする。工場は利 益を最大化するために24時間音、振動、煙を発生させながら生産活動を行うが、その煙は 住宅の洗濯物を汚し、音と振動は住民の眠り等を妨げる。また、工場ではなく物流施設の

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5 場合は、24時間運輸のための大型トラックが出入りし、その音により住民は眠りを妨げら れ、大型トラックが頻繁に周辺を走り回ることで交通上の安全性も低下する。結果、住民 にとっての住環境は悪化する。 一方で住民側は住環境の維持向上のため、工場に対し立ち退きや操業時間の短縮、騒音、 振動対策を求める。結果工場はその対策を実施するためのコスト(設備投資や時間費用等) を支払い、生産性を少なからず減少させることになる。 これらの状況は工場と住宅とが隣接することにより発生している外部不経済である。 用途地域制度とは、このような用途の混在による環境への影響、つまり外部性を立地規 制によってあらかじめコントロールする性格を持つものである。 具体的には、表2に示すとおり、第1種低層住居専用地域、第2種住居専用地域等の住 居系用途地域においては、表下段にあるように工場等の立地は制限され、あらかじめ前述 の外部不経済を抑制している。 【表1】用途地域の種類 (都市計画法第9条より作成) 名称 定義 第一種低層 住居専用地域 低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域 第二種低層 住居専用地域 主として低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域 第一種中高層 住居専用地域 中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域 第二種中高層 住居専用地域 主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域 第一種 住居地域 住居の環境を保護するため定める地域 第二種 住居地域 主として住居の環境を保護するため定める地域 準住居地域 道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつ つ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域 近隣商業地域 近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とす る商業その他の業務の利便を増進するため定める地域 商業地域 主として商業その他の業務の利便を増進するため定める地域 準工業地域 主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため 定める地域 工業地域 主として工業の利便を増進するため定める地域 工業専用地域 工業の利便を増進するため定める地域

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7 2-2 工業系用途地域の特徴 工業系用途地域は表1の「準工業地域」、「工業地域」、「工業専用地域」部分に示される ように、都市計画法において「工業の利便性を増進」する地域と定義されている。 ここで工業系建築物の立地規制を見ると、表1下段の「工場・倉庫等」に示されるとお り、火薬や石油類、ガスなどの危険物の貯蔵量や環境悪化への影響の程度、工場で使用す る原動機の有無により異なるが、基本的には住居系用途地域への立地が規制されている。 一方で住宅等については、表2上段の「住宅、共同住宅、寄宿舎、下宿」に示されると おり「準工業地域」と「工業地域」においても立地可能である。 この意味について考えてみる。 工業地域において住宅が立地不可能とした場合、用途規制前から住宅兼工場を経営して いた個人事業主は新たに住宅を探さねばならない。これが1件のみであれば経済学上の損 失は社会全体でみれば無視できるレベルであろうが、これらの住宅兼工場は集積の経済原 理から自然と一定の集積を形成していた可能性が高く、その集積すべてについて住宅移転 を実施するとその損失は大きくなる。また、工場については24時間操業も珍しくなく、労 働はシフト制である可能性もあることを考慮すると、工場の効率的な操業のためには労働 者の通勤移動による時間費用の損失を最小にするために工場とその労働者用の住居を近接 させることが効率上望ましい。つまり、工業が集積する地域においては、就業地とその労 働者の職住近接という工場の便益を向上させる条件下において、住宅と工場という異なる 混在が混在したとしても、発生する外部不経済が工業用途の便益を上回ることはなく、工 業用途の余剰を増加させる状況にあるといえる。 2-3 工業系用途地域の現状 市域の約12%(52.45㎢)を占める横浜市の 工業系用途地域では、近年工業から住宅や大規 模商業施設への土地利用転換が進んでいる。 これには2つの要因があると推測する。 第1の要因は、工業系用途地域内に工場跡地 が発生し、共同住宅が建設されやすい背景にある と考えられる。 近年は工場集約や拠点集約、アジア進出など、 景気の悪化や企業経営の効率化を要因として、 大規模な工場跡地が発生しやすくなってきている。 その土地は、過密化した都市の中でマンション 開発の余地が少なくなってきた住宅デベロッパー にとって貴重なビジネスチャンスとなり、住宅 住居系用途地域 商業系用途地域 工業系用途地域 【図1】横浜市用途地域図 (横浜市 GIS データより作成)

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8 デベロッパーにとっての土地の価値は高くなる。 つまり住宅デベロッパーはその土地に対し比較的高い付け値を設定することになり、少 しでも高い販売価格を望む土地所有者は、より高い付け値を提示する住宅デベロッパーに 土地を売却する。 結果、工業系用途地域内の工場跡地は、競争的な土地市場の中では住宅デベロッパーが 獲得する可能性が高くなっていると考えられる。 第2の要因は、住宅地化が更なる住宅地化を促進している可能性が考えられる。 異なる用途の混在による外部不経済の発生は前述のとおりであるが、第1の要因により 立地した共同住宅に居住する住民は、騒音や振動を発生させる工場へ操業時間の短縮など 住環境への配慮を求める。その住民と工場との取引交渉が成立しない場合には、交渉は紛 争に発展し、場合によって工場はより良い操業環境を求め移転することもあり、新たな工 場跡地が発生する。結果、第1の要因が発生する環境が整い、さらに住宅地化が進むこと になる。 現在の工業系用途地域における住宅の立地は合法であるが、近年新たに立地した共同住 宅に居住する住民のうち工場で就業する者は限りなくゼロに近いと考えるのが妥当であり、 2-2で述べた職住近接がもたらす便益は減少してきていると考えらえる。 工業系用途地域において住宅の立地が可能であることが、2-2の状況を想定している と仮定するならば、工業との職住近接を目的としない住民と、工場との紛争が発生してい る現在の状況は、用途地域制度制定当初の想定とは異なり、外部不経済が職住近接による 便益を上回っている可能性がある。 つまり、用途の混在による外部不経済の発生をあらかじめ抑制する目的で導入されてい る用途地域制度が工業系用途地域では、現状十分に機能していないといえる。 このことは、制度自体の欠陥ではなく、時代の変化に応じて規制内容の改正が必要であ ることを示唆していると考える。

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9 第3章 用途の混在が地価に与える影響の分析について この章では、用途の混在が地価に与える影響を分析するための方法、分析に使用したデー タの説明のほか、データの基本統計量、分析結果を示す。 3-1 分析概要 地価は、その土地の需要が高まれば上昇し、需要が減少すれば下落する。 その需要は立地や周辺環境など様々な要因により決定される。用途の混在を例にとると、 工場と住宅との混在により工場の操業環境、住民の住環境が悪化するなどの外部不経済が 発生している場合、居住地を求める者は工場と近接する土地を好まない傾向にあり、また、 工場立地を目的とする者は紛争によるコスト支出の可能性がある住宅と近接する土地を好 まない傾向にあるといえる。つまり、外部不経済が発生している用途混在地域ではその土 地の需要は減少し、地価は下落する傾向にあると考えられる。 そこで、工業系用途と住宅との混在の度合いが地価に与える影響を明らかにするため、 ヘドニックアプローチを用いてOLSで分析を行った。なお、固定効果モデルについても分 析を実施したが、バリエーションが少なく有意な結果が得られなかったため、本論文では OLSの分析結果に基づき考察する。 3-2 使用データ 分析では地価を被説明変数とするため、地価公示法に基づき定期的に調査、公表され、 一般的な土地取引の指標である公示地価、国土利用計画法に基づき定期的に調査、公表さ れ、調査地点の正常価格を示す都道府県調査地価のほか、建物用途毎の延床面積、用途地 域、各施設までの距離等を説明変数とするため、それらデータが含まれている横浜市のGIS データ(都市計画決定データ、都市計画基礎調査データ)を利用した。また、これらから 1992年、1997年、2003年、2008年の4カ年分のパネルデータを作成し、分析に用いた。 なお、地価データは、国土交通省国土政策局国土情報課の国土数値情報ダウンロードサ ービスから JPGIS2.1(GML)準拠のGISデータを入手した。横浜市の GISデータにつ いては、横浜市建築局都市計画課より入手した。

3-3 被説明変数

地価の対数値を採用した。

なお、工業系用途地域における住工混在が地価に与える影響を分析するため、地価ポイ ントについては、公示地価、都道府県調査地価のうち、1992年、1997年、2003年、2008

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10 年に共通するもので、かつ横浜市内の工業 系用途地域から1km以内にある332地点 (4か年分計1328地点)をGISを用いて 抽出し、採用した。図2に工業系用途地域、 工業系用途地域から1kmの範囲、採用した 地価ポイントの分布を示す。 3-4 説明変数 分析にあたり、下記①~⑥に示す説明変数を採用した。 なお、表3にその基本統計量を示す。 ① 距離帯、用途毎の延床面積の合計値(単位:100 ㎡) (横浜市都市計画基礎調査データをもとに、GISで作成) 用途や 規模に よる外部 性やその 影響範 囲の違い を考慮し 、地価 ポイント から半 径 50m以内、50m~100m、100m~150mの3つの距離帯を設定(図3参照)するととも に、それぞれの距離帯に立地する下記6つの用途の延床面積の合計値を採用した。 なお面積の集計にあたり、距離帯の境界線をまたぐ建築物については、延床面積の 合計値の1/2を各距離帯の合計値に加算した。 ・300㎡未満の小工場(以下、小工場) ・300㎡以上の大工場(以下、大工場) ・研究施設 ・倉庫、物流施設 (以下、物流施設) ・危険物保管庫、処理施設 (以下、処理施設) ・1000㎡以上の商業施設 (以下、商業施設) 工業系用途地域 地価ポイント 工業系用途地域から1km以内 【図3】距離帯 【図2】地価ポイント分布図

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11 ② 住宅率(単位:%)(横浜市都市計画基礎調査データより作成) 各距離帯に立地する住宅の延床面積の合計値を算出し、各距離帯の面積で除した百 分率を入力した。なお、分母となる距離帯の面積については、建築物が立地可能な面 積とするため、横浜市の道路率11.8%(出典:横浜市道路局ホームページ)を考慮し、 下式により住宅率を算出した。 ※住宅率(%)=(住宅の延べ床面積の合計値)/(距離帯の面積*0.882)*100 ③ 交差項 住宅の立地割合と各用途との関係性を考察するため、用途、距離帯毎の延床面積合 計値①と距離帯毎の住宅率②の交差項を採用した。 ※交差項 =(①延床面積合計値)*(②住宅率) ④ 地積、容積率、建蔽率の対数値(公示地価、都道府県調査地価をもとに作成) ⑤ 距離(単位:km) (公示地価、都道府県調査地価、横浜市都市計画決定データをもとに、GIS で作成) 地価ポイントから最寄駅までの距離は公示地価、都道府県調査地価のGISデータを 利用し、東京駅までの距離、工業系用途地域までの距離は横浜市都市計画決定データ を基にGISにより算出し、採用した。 ⑥ ダミー変数 (公示地価、都道府県調査地価、横浜市都市計画決定データをもとにGISで作成) 地価ポイント毎の特性等を考慮するため、下記ダミー変数を採用した。 ・年次ダミー(1992年、1997年、2003年、2008年) ・行政区ダミー(横浜市内の18区) ・用途地域(住居系用途地域、工業系用途地域、商業系用途地域) ・防火指定ダミー(防火地域、準防火地域) ・水道の有無 ・ガスの有無 ・下水道の有無 ・距離帯毎の河川 ・距離帯毎の幹線道路の有無

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12 平均値 標準偏差 最小値 最大値 平均値 標準偏差 最小値 最大値 l n地価 12.709 0.59 11.56 16.84 工業系用途地域まで 0.444 0.267 0.00 0.99 1 5 0 m ~1 0 0 m 1.131 2.66 0.00 38.73 最寄り 駅まで 1.069 0.891 0.00 6.00 1 0 0 m ~5 0 m 0.708 2.16 0.00 28.81 東京駅まで 30.574 6.332 17.36 42.04 5 0 m~0 m 0.249 1.32 0.00 25.75 ln地積 5.246 0.516 4.13 7.91 1 5 0 m ~1 0 0 m 72.751 188.19 0.00 1920.46 ln容積率 4.971 0.609 4.09 6.68 1 0 0 m ~5 0 m 40.479 122.32 0.00 1473.70 ln建蔽率 4.028 0.230 3.69 4.38 5 0 m~0 m 10.901 53.95 0.00 905.05 工業系用途地域 0.039 0.194 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 7.733 38.35 0.00 576.87 住居系用途地域 0.735 0.441 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 4.075 21.30 0.00 347.37 商業系用途地域 0.214 0.410 0.00 1 5 0 m~0 m 1.091 6.52 0.00 92.48 防火地域 0.114 0.318 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 1478.788 7489.32 0.00 124688.20 準防火地域 0.535 0.499 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 169.646 946.01 0.00 19741.56 水道 1.000 0.000 1.00 1 5 0 m~0 m 35.273 217.89 0.00 3933.50 ガス 0.873 0.333 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 0.327 4.53 0.00 116.69 下水道 0.992 0.091 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 0.102 1.77 0.00 57.10 1992年 0.250 0.433 0.00 1 5 0 m~0 m 0.008 0.12 0.00 2.24 1997年 0.250 0.433 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 17.233 228.33 0.00 5732.78 2003年 0.000 0.000 0.00 0 1 0 0 m ~5 0 m 5.576 81.63 0.00 2315.08 鶴見区 0.075 0.264 0.00 1 5 0 m~0 m 0.434 5.91 0.00 110.17 神奈川区 0.027 0.162 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 3.283 13.62 0.00 229.37 西区 0.048 0.214 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 1.564 8.34 0.00 139.40 中区 0.042 0.201 0.00 1 5 0 m~0 m 0.608 3.30 0.00 43.21 都築区 0.015 0.122 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 184.775 1148.92 0.00 32016.49 保土ケ 谷区 0.072 0.259 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 59.661 266.56 0.00 5260.28 磯子区 0.054 0.227 0.00 1 5 0 m~0 m 26.523 141.58 0.00 2056.35 金沢区 0.090 0.287 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 0.847 5.51 0.00 81.43 港北区 0.105 0.307 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 0.428 4.87 0.00 81.43 戸塚区 0.072 0.259 0.00 1 5 0 m~0 m 0.322 7.09 0.00 199.29 港南区 0.081 0.273 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 55.670 367.25 0.00 4816.22 旭区 0.081 0.273 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 29.849 455.39 0.00 12100.99 緑区 0.066 0.249 0.00 1 5 0 m~0 m 7.760 129.32 0.00 3674.44 瀬谷区 0.012 0.109 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 50.496 151.93 0.00 2282.95 栄区 0.045 0.208 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 32.576 154.05 0.00 3216.76 泉区 0.021 0.144 0.00 1 5 0 m~0 m 12.210 59.65 0.00 926.08 青葉区 0.024 0.153 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 5353.406 31909.47 0.00 764346.80 1 5 0 m ~1 0 0 m 0.160 0.366 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 6187.282 135496.30 0.004910034.00 1 0 0 m ~5 0 m 0.057 0.232 0.00 1 5 0 m~0 m 3109.241 48407.79 0.001231224.00 5 0 m ~0 m 0.003 0.055 0.00 1 1 5 0 m ~1 0 0 m 63.583 38.28 0.00 472.04 1 5 0 m ~1 0 0 m 0.169 0.375 0.00 1 1 0 0 m ~5 0 m 62.720 53.94 0.00 1526.39 1 0 0 m ~5 0 m 0.066 0.249 0.00 1 5 0 m~0 m 74.483 70.22 0.00 1329.50 5 0 m ~0 m 0.006 0.077 0.00 1 河川の 有無 幹線道路 の有無 変数 変数 交差項 交差項 交差項 交差項 交差項   ダ ミー 距 離 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 交差項 住 宅 率 観測数n = 13 2 8 小 工 場 大 工 場 研 究 施 設 物 流 施 設 処 理 施 設 商 業 施 設 【表3】基本統計量

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13 3-5 推計結果 表4にOLSによる推計結果を示すとともに、下記①、②において各係数が示す意味を説 明する。 【表4】推計結果 被説明変数 説明変数 係数 標準誤差 説明変数 係数 標準誤差 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00213 0.00692 工業系用途地域まで 0.04067 0.02788 1 0 0 m~5 0 m 0.01836 ** 0.00755 最寄り駅まで -0.08851 *** 0.00889 5 0 m~0 m 0.03039 ** 0.01427 東京駅まで -0.01892 *** 0.00443 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00015 * 0.00009 ln地積 0.11575 *** 0.01593 1 0 0 m~5 0 m -0.00025 ** 0.00010 ln容積率 0.29505 *** 0.03293 5 0 m~0 m -0.00051 ** 0.00022 ln建蔽率 -0.50166 *** 0.08798 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00002 0.00051 工業系用途地域 0.30434 *** 0.08603 1 0 0 m~5 0 m -0.00053 0.00077 住居系用途地域 0.39224 *** 0.06802 5 0 m~0 m -0.00347 0.00213 商業系用途地域 0.91929 *** 0.06702 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00000 0.00000 防火地域 0.09348 ** 0.04345 1 0 0 m~5 0 m 0.00002 0.00001 準防火地域 -0.04379 * 0.02479 5 0 m~0 m 0.00000 0.00005 水道 1 5 0 m~1 0 0 m -0.02003 0.02178 ガス 0.09942 *** 0.02115 1 0 0 m~5 0 m 0.00763 0.02293 下水道 0.11422 0.07296 5 0 m~0 m -0.28760 0.24481 1992年 0.67477 *** 0.01546 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00040 0.00043 1997年 0.35049 *** 0.01512 1 0 0 m~5 0 m -0.00023 0.00048 2003年 5 0 m~0 m 0.00465 0.00490 鶴見区 -0.02906 0.06007 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00060 0.00124 神奈川区 -0.04941 0.05315 1 0 0 m~5 0 m -0.00598 *** 0.00151 西区 0.24026 *** 0.04369 5 0 m~0 m -0.01696 *** 0.00324 中区 0.16260 *** 0.04108 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00001 0.00001 都築区 -0.32937 *** 0.06635 1 0 0 m~5 0 m 0.00007 ** 0.00003 保土ケ 谷区 -0.17286 *** 0.03563 5 0 m~0 m 0.00023 *** 0.00007 磯子区 -0.08732 ** 0.03741 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00121 0.00426 金沢区 -0.04985 0.04586 1 0 0 m~5 0 m 0.00486 * 0.00287 港北区 0.08684 0.05986 5 0 m~0 m 0.01010 *** 0.00294 戸塚区 -0.00412 0.04301 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00009 0.00006 港南区 -0.03088 0.03882 1 0 0 m~5 0 m -0.00007 ** 0.00003 旭区 -0.07294 ** 0.03405 5 0 m~0 m -0.00054 *** 0.00018 緑区 -0.14684 *** 0.04032 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00060 *** 0.00010 瀬谷区 -0.11975 * 0.07018 1 0 0 m~5 0 m 0.00025 *** 0.00008 栄区 0.04515 0.05263 5 0 m~0 m 0.00011 0.00020 泉区 -0.04913 0.05784 1 5 0 m~1 0 0 m 0.00000 ** 0.00000 青葉区 -0.04612 0.05439 1 0 0 m~5 0 m 0.00000 *** 0.00000 150m~100m 0.05776 *** 0.02186 5 0 m~0 m 0.00000 *** 0.00000 100m~50m 0.00064 0.03461 1 5 0 m~1 0 0 m -0.00076 ** 0.00031 50m~0m 0.04011 0.13167 1 0 0 m~5 0 m -0.00129 *** 0.00030 150m~100m 0.03332 0.02356 5 0 m~0 m -0.00058 *** 0.00018 100m~50m -0.02573 0.03496 50m~0m -0.09023 0.08799 定数項 12.54272 *** 0.37585 河川の 有無 幹線道路 の有無 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 延床面積 合計値 距 離     ダ ミー 交差項 交差項 交差項 交差項 交差項 住 宅 率 商 業 施 設 処 理 施 設 物 流 施 設 研 究 施 設 大 工 場 省略 省略 自由度調整済み決定係数 0.8677 観測数 1328 ※***、**、*は 、それぞ れ1%、5%、10%有意水準に対応する 。 交差項 ln地価 小 工 場 延床面積 合計値 延床面積 合計値

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14 ① 延床面積の合計値の係数 延床面積合計値の係数は住宅率が0%の地域において、ある用途の延べ床面積が100 ㎡増加した場合の、地価へ与える影響を示す。 小工場の150m~100mを例にとると、係数は-0.00213であり、住宅率0%の当該距離 帯において小工場の延床面積合計値が 100 ㎡増加すると地価が約0.213%下落すること を示す。また、同用途の100m~50mにおける係数は0.01836であり、地価が約1.83% 上昇することを示す。 ② 交差項の係数 交差項の係数は、住宅率が 1%の地域において、ある用途の延べ床面積が 100 ㎡増加 した場合の各用途の延床面積の合計値の係数に与える影響を示す。交差項の係数をα、 延床面積の合計値の係数をβ、住宅率をA%とすると、住宅率A%の地域において、ある 用途が100㎡立地した場合の地価への影響は下式で示される。 β(延床面積の合計値の係数)+α(交差項の係数)*A(%) 例えば、100m~50mの距離帯で住宅率A=20%の地域に小工場が立地する場合の、小 工場立地の地価への影響は、0.03039 - 0.00051 * 20(%) = 0.02019 となり、住宅との混在により地価を引き上げる効果が1%低減され、地価を約2%上昇さ せる結果となる。 第4章 結果の考察 分析結果から、延床面積の合計値の係数βと交差項の係数αの符号に注目し、以下の4タ イプに分類し考察した。なお、考察の対象は、住宅率が0%の地域は実際には存在しないと考 えられるため、交差項の係数αについて有意性が確かめられた用途、距離帯とした。 なお、表5~8中の***、**、*は、それぞれ1%、5%、10%有意水準に対応する。 4-1 分類タイプ① β>0、α>0 ある用途の建築物の延べ床面積が100㎡増加 する場合に地価に与える影響を便益と捉えて縦 軸にとり、住宅率を横軸にとる。 β>0、α>0となるこのタイプ①は図4に 示す通り、グラフはβを切片とする右肩上がり の線形で表され、住宅率に関わらず、常に便益 は正になる。 【図4】タイプ①の便益と住宅率の関係 便益 住宅率(%) 0 0 0 0 β β β β

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15 このタイプに該当する用途は、表5に示す商業施設の150m~100m、100m~50mの距離 帯である。 この結果が示すものは、商業施設の立地は地価を上昇させ、住宅率が高い地域ほどその 効果は大きいことを示している。住宅と商業が近接すると、住宅にとっては利便性が向上 し、商業施設にとっては集客や売り上げの増加が見込めるため、互いに地価を引き上げる 関係になっているものと推測される。 つまり、当該距離帯における商業施設については、効率性の観点から、住宅と混在して も良い用途であるといえる。 4-2 分類タイプ② β>0、α<0 このタイプに該当する用途は、図5に示す とおり、住宅率A%を超えた場合、便益は負に 転じる。 これは、住宅率がA%以上の地域に立地した 場合に便益が負になる用途であることを示して おり、住宅との混在で便益が低下する用途であ るといえる。 一般的に工業系の土地利用は騒音、振動、臭気 等の負の外部性をもたらすことが予想されるが、 表6に示す通りβの符号が正であった。 この要因については、工場が集積することで、材料や部品等の運搬にかかる時間的、金 銭的コストが低下し生産活動が効率的になること(集積の経済)や、住宅と隣接する確率 が減少するため、騒音や振動等が住宅に与える負の外部性への対策コストが低くなること、 工場が幹線道路沿いなどの利便性の高い場所に立地していることが多いこと、採用した地 価ポイントは工業系用途地域周辺であり、工場が多く立地していること等の可能性が挙げ られる。 また、便益の正負の転換点である住宅率A%の値については、処理施設の100m~50mの 距離帯において 18.8%と他の用途、距離帯と比して住宅との混在による負の影響が大きい が、小工場の 72.0%、59.8%、施設処理の 50m~0m の 71.4%などからは、概ね住宅率が 60%~70%を超えると、前述の集積の利益が用途の混在による負の外部性を下回り、地価 を引き下げることが明らかとなった。 商業施設についての住宅率Aは506.01%との数値が求められたが、工業系用途地域での 【表5】タイプ①に該当する用途と係数 用途 距離帯 β α 住宅率A 商業施設 100m~50m 0.00025*** 0.0000004*** - 商業施設 50m~0m 0.00011 0.0000008*** - 【図5】タイプ②の便益と住宅率の関係 便益 住宅率(%) 0 0 0 0 β β β β A AA A

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16 容積率の上限は200%~400%であり、距離帯の面積に対する住宅の延床面積の割合である 住宅率の上限も理論上同様の数値となる。よってβとαの符号上は住宅との混在により便 益は減少するタイプ②に分類されるが、便益は常に正であり、実質的にはタイプ①の性格 を持つ、住宅と混在しても良い用途であるといえる。 4-3 分類タイプ③ β<0、α>0 このタイプは、グラフの住宅率A%を境に 便益が正になる用途である。 これには表7に示す物流施設の100m~50m、 50m~0mの距離帯が該当する。 物流施設のβが負の値である要因については、 運搬行為によって騒音・振動の発生や、周辺の 交通環境に対する負荷を生じさせる等の外部 不経済の発生による可能性が考えられる。 住宅率の上昇に従い、地価に与える便益が増加し、 概ね住宅率が74%を超えると便益が正に転換することについては、物流施設と住宅とが互 いに地価を引き上げる関係にあるのではなく、物流施設は立地に際し広大な敷地を必要と する場合が多く、住宅と比して土地の単価が下がりやすく、結果土地の付け値は住宅の方 が物流施設よりも高い傾向にあるため、住宅が一定程度集積すると、住宅として土地利用 することが地価に与える便益が、倉庫、物流施設として土地利用することによる負の便益 を上回ることによるものと推測される。 このタイプに該当する用途については、住宅との混在により便益が下がる用途であると いえる。 【表6】タイプ②に該当する用途と係数 用途 距離帯 β α 住宅率A 小工場 100m~50m 0.01836** -0.00025** 72.0% 小工場 50m~0m 0.03039** -0.00051** 59.8% 処理施設 100m~50m 0.00486* -0.00007** 18.8% 処理施設 50m~0m 0.01010*** -0.00054*** 71.4% 商業施設 50m~0m 0.00060*** -0.000001** 506.01% 【表7】タイプ④に該当する用途と係数 用途 距離帯 β α 住宅率A 物流施設 100m~50m -0.00598*** 0.00007** 81.9% 物流施設 50m~0m -0.01696*** 0.00023*** 74.5% 【図6】タイプ③の便益と住宅率の関係 0 00 0 β β β β A AA A 便益 住宅率(%)

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17 4-4 分類タイプ④ β<0、α<0 このタイプは図7に示すとおり、便益は常に 負であり、住宅率の上昇に伴いさらに便益が減 少していく。 これに該当する用途は、住宅との混在が好ま しくない用途であるといえる。 このタイプには表8に示す、150m~100mに 立地する小工場が該当するが、小工場における 他の距離帯についてはタイプ②であった。 同じ用途でありながら、距離帯によって結果が異なった要因については、当該βの有意性 を判断するP値が0.758と非常に大きく信頼性に欠ける数値であることが考えられる。 よって、小工場の150m~100mの距離帯における小工場の立地については、β、αの符号 上はタイプ④に分類されるが、その信頼性は低く、実態的には他のタイプに分類される可能 性が高い。 4-5 まとめ 本稿では、住宅等への土地利用転換が進む工業系用途地域に焦点を当て、住宅と工業系用 途との混在が地価に与える影響についてヘドニックアプローチを用いて分析することで、土 地利用規制の効率性に関する考察を行った。 結果、商業施設と住宅との混在は地価を上昇させる効果がある一方で、工業系用途と住宅 との混在については、住宅との混在が地価を下落させる効果があることが明らかとなった。 加えて、工業系用途の集積の利益は存在するが、住宅率が60%を超えた場合にはその集積の 利益は混在による外部不経済で相殺され、地価を下落させる可能性があることが明らかとな った。 また、推計式に各データの平均値を入力したところ、工業系用途地域から1km以内の地域 における現在の用途混在の状況は、平均的に地価を2~5%引き下げるという結果が得られた。 有意でない推計値も含まれているためこの結果は信頼性に欠けるが、現状の工業系用途地域 における用途に関する立地規制内容が必ずしも効率的な土地利用を実現していない可能性が あることを示唆しているといえる。 【表8】タイプ④に該当する用途と係数 用途 距離帯 β α 住宅率A 小工場 150m~100m -0.00213 -0.00015* - 【図7】タイプ④の便益と住宅率の関係 β ββ β 便益 住宅率(%) 0 0 0 0

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18 第5章 提言 第4章において、現状の工業系用途地域における用途の混在は、地価を下落させる可能性 があること、効率的な土地利用規制となっていない可能性があることを示したが、今後の工 業系用途地域のより効率的な土地利用の方策として、用途純化を主眼とした規制変更の検討 を提言する。 職住近接がもたらす便益を考慮して工業と住宅との混在が認められている工業系用途地域 の立地規制内容については、2-2で示す職住近接の便益を実現させる可能性は乏しく、ま た、限りなくオートメーション化された現在の工場ではその需要、便益共に少ないと考えら れる。そして、紛争発生の現状を考えると、その状態を放置することは長期的に外部不経済 を発生させるとともに、地方自治体にとっては工業系企業からの税収等を失うことになり、 経済的に効率的な状態とは言い難い。 よって、住宅率が60%に達しているなど、ある程度住宅地化した工業系用途地域において は、現状の効率性について前述の分析手法等を用いて評価し、非効率的な状況であった場合 には、既に住宅地化した地域については住居系用途地域への規制変更を検討することが望ま しい。また、住宅率が低い地域においては、効率的な工業系土地利用が実現できる環境整備 として、住宅の立地を制限する等の規制変更を検討する必要があると考える。その際、工業 と住宅の混在が公益上必要である場合には、混在による外部不経済を十分に検証したうえで、 建築基準法第48条に規定される許可制度を活用することで対応することが好ましい。 これまでは、主に工業系用途地域について経済学的な観点から用途地域制度について述べ たが、少子高齢化、人口減少、ニーズやライフスタイルの多様化などから、今後他の用途地 域においても外部不経済の発生など、非効率的な状況が生まれる可能性がある。例を挙げれ ば、一時期に大量の住宅が分譲された低層住宅地では高齢化も急激に進む。低層住宅地では 原則として商業施設は立地できない(表1参照)ため、低層住宅地にも商業施設の立地を認 めたほうが経済学的に効率的な状態が実現できる可能性もある。 このように、用途地域制度についてはこれまでは有効に機能してきたが、その規制の効果 を改めて評価し、見直す時期に来ていると考えられる。今後は社会情勢の変化を的確にとら え、規制内容を適宜に変更することで効率性を保っていく必要があるといえる。

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19 第6章 今後の課題について 今回の研究では、工業系用途と住宅との混在について、一定の見解を導出できたが、有意 な推計値が求められなかった部分もあり、正確な現状評価や政策立案等に利用できる精度に は達していない。今後本稿における手法を政策立案等に活用していくには、研究の精度をよ り高めていく必要がある。そのためには、外部性の効果を考慮する際に建物規模や用途だけ でなく、大気汚染物質量や騒音量などの実測値を説明変数として採用するなどの対応が必要 であると考える。加えて、首都圏の複数都市について同様の分析を実施し、比較することで、 より一般化された考察と提言が導出できると考えられる。 参考文献 ・清水陽子、中山徹(2005)「尼崎市における混在地への用途地域変更の効果について」『日本 建築学会大会学術講演梗概集』 ・清水陽子、中山徹(2005)「混在地における用途地域変更の効果についてー兵庫県尼崎市を 事例としてー」『平成 17 年度日本建築学会近畿支部研究報告集』 ・清水陽子、中山徹(2007)「住工混在地における用途地域変更と土地利用用途の変化につ いて」『日本家政学会誌 vol.58 No.413~423』 ・清水陽子、中山徹(2007)「住工混在地の事業者と工場跡地に建てられた住宅に住む住 民の意識と、住工共存のまちづくりに関する研究」『日本建築学会計画系論文集第612 号、 71-78』 ・安田孝(1983)「大阪市都心周辺部の工場転出跡地におけるマンション立地についてー大阪 都市圏における民間分譲マンションに関する研究(Ⅱ)ー」『日本建築学会論文報告集第 323 号』 ・神吉紀世子、小原宏勝、三宅雅美、東樋口護(1999)「都市型公害地域における住工混在空 間の変化と環境改善課題に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』 ・神吉紀世子、山崎晋一、安枝英俊、高田光雄(2010)「工業用途減少地域における中高層共 同住宅供給に関する研究―大阪市西淀川区を対象とした統計分析と民間事業者へのヒアリ ングを通じて―」『日本建築学会大会学術講演梗概集』 ・岡崎ゆう子、松浦克己(2000)「社会資本投資、環境要因と地価関数のヘドニックアプロー チ:横浜市におけるパネル分析」『会計検査研究 No.22』 ・中出文平(1982)「大田区住工混在地域における生産環境の変容と新たなる混在の進行に 関する考察」『都市計画別冊 17』 ・中出文平(1983)「東京都区部の住工混在地域における居住・生産環境の変容の考察」『日 本都市計画学会学術研究論文集 No.18』 ・横浜市ホームページ

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20 謝辞 本論文の執筆にあたり、主査の西脇雅人助教授、副査の植松丘客員教授、安藤至大客員准 教授には丁寧なご指導をいただいたほか、プログラムディレクターである福井秀夫教授をは じめ、諸先生方には一年を通して多くの有益なご意見をいただきました。このことに、この 場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。 そして、本大学院にて一年間を共に過ごし、支えてくださったまちづくりプログラム及び 知財プログラムの同期の皆様、貴重な学習と研究の機会を与えていただいた派遣元に感謝申 し上げます。 なお、本稿における見解及び内容に関する誤りは全て筆者に帰します。また、本稿は筆者 の個人的な見解を示したものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことを申し 添えます。

参照

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